IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第136話【離したりするものか】

 

 言葉を交わし、涙は止まることなく。

 俺とセシリアはたまらずもう一度抱き合った。

 

 夢ではないことを何度も再確認しながら。声も出さずにそれを感じ続ける。

 

 身体に跡がつくぐらいギュッと力の限り抱き締め。互いの体温を感じられるように。互いを忘れられぬように。互いの心音が聞こえるように。

 

 ただ今はこの幸福を。有り余る幸福を全て受け止めたい。

 

 俺とイーグルの獅子奮迅の活躍により敵のワルキューレは全損。残った敵ISも武装のほとんどを食いつくされ、戦線復帰した一夏たちに撃墜されて全員海に浮かんでいるか撤退していった。

 

 抱き合ってから1分経過しても誰も茶々を入れず。菖蒲に至っては感激の涙をボロボロと流しっぱなしで簪からハンカチを受け取ってる始末だ。

 

 仲間たちが見守る仲、俺たちの再会を邪魔するものは何処にもいなかった。

 

 というかむしろこれを邪魔出来るわけがねえだろと。

 邪魔出来る奴がいるなら連れてこい。こんな映画のラストシーンに蛇足付け加えれる奴が居るなら出てこいと言ってやりたい。

 

 ………残念ながら今の景色に虫酸が走るという奴がいる。

 これを見続けるなら世界が終わった方がマシと思えるはっきり言ってそっちの方が終わってる感性の持ち主が。

 

《絶賛ストロベリってるところすまないマスター》

「うひゃあ! え、誰ですの!?」

「うおっ! いやストロベリってねえよ!」

《敵の増援が超高速で接近中だ。数は………おお、凄いなこれ、40機強はいる。中には日本代表やフランス代表のIS反応もあり》

「40機のISが来てる!?」

「「な、なんだって!!?」」

 

 空気を突き破って知らされた内容は破格というか破滅的な知らせに一同揃って驚愕する。

 

「恐らく拠点で待機していたIS部隊ですわ!」

「こっから40機は流石に相手出来ないって! まったくあのクソババアは!!」

《そのクソババアだけどな。さっきから通信でこの世の物とは思えない罵詈雑言吐きまくってて五月蝿いんだ。空気ぶち壊しかねないから通信シャットアウトしてたけど》

「ナイス過ぎるよ相棒!」

 

 空気が読める愛機が居て俺は幸せです。

 

「とにかくIS学園に逃げよう! こっちのレーダーでも捕らえた!」

「だが逃げ切れるのか!? 我々はもうエネルギーが死に体だ!」

「それでも逃げるしかないだろう! なんならもう一度絢爛舞踏を発動して………」

『はいはーい。箒ちゃん無理しちゃ駄目だよー。そういう時はお姉ちゃんに任せなさーい!!』

 

 場違いな篠ノ之博士の能天気な声に俺たちは怪訝な顔をする。

 

 変化は直ぐに現れた。

 

「え、なに? 海から何かが」

「ちょっと待って、きゃああーーー!!」

 

 なんということでしょう。

 

 浮上してきた潜水艦ワンダーランドの船頭部がガパリと開き。海に浮いていた敵のIS部隊をまるでクジラがプランクトンを捕食するかのように丸のみしたのだ。

 

 クジラに呑まれるピノキオの追体験をした彼女からしたら恐怖以外の何物でもないだろう。

 敵ISを一人残らず飲み込んだワンダーランドの上部ハッチを開き。皆が唖然とするなか篠ノ之博士は通常運転でのんきな声で呼び込む。

 

『おーい早く入っておいでー』

「ど、どうするの」

「行こう! 行くんだよ!」

 

 あの篠ノ之束の居城に飛び込むのかとみんなは少し不安を感じたが状況が状況だ。

 俺たちは四の五の言わずにワンダーランドの中へ。

 

 増援のIS部隊は既に目視圏内に入っていた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「早く奴らを追いなさい! エクスカリバーは!!」

「チャージは完了してるのですが! 発射口に不具合が!」

「さっさとエラーを解消なさい!」

「目標まであと3分!」

「早くセシリアを取り戻しなさい!! 早くぅっ!!!」

 

 拠点で指揮を取るフランチェスカはまさに怒り一色だった。何時いかなる時も女性に対しては穏和に接する彼女が部下に当たり散らしているのが何よりの証拠だ。

 

 あり得ない奇跡を起こした疾風・レーデルハイト。

 ついぞ破られる筈のない。自身のワンオフ・アビリティー、原初乃蒼(ジ・ブルー)の干渉を真っ向から打ち破り。

 自身の命より大切なセシリア・オルコットを奪われた。

 

 今まで男に対して憎悪嫌悪という悪感情を見せたフランチェスカだが。人生全てを振り返ったとしてもこれ程の激情は初めてだった。

 今にも血管が弾け飛びそうな怒りの中、エクスカリバーに変化が。

 

「クイーン! エクスカリバーが発射可能になりました!」

「潜水艦周辺に撃ちなさい! とにかく動きを止めれば、後は取りついて」

「待ってください! エクスカリバーの照準が………エクスカリバーが発射されました!」

「何を言って………」

 

 エクスカリバーの超長距離レーザーが照射された。

 フランチェスカが指定したワンダーランド付近ではなく。そこから離れた増援40機の進行を塞ぐように。

 

「何処に撃ってるの!! 私は潜水艦付近と!」

「エクスカリバーが勝手に。あっ!」

 

 エクスカリバーの制御データを写していた画面が一斉に愛らしいウサギの画面に置き換わる。

 ウサギの下には『TABANE SAIKOー』の文字が。

 

「エクスカリバー………制御を完全に乗っ取られました………」

『クイーン。こちらアイビス。エクスカリバーの砲撃による電磁場により索敵が不能………潜水艦の反応、ロストしました』

「………………………………何を言ってるの???」

 

 耳に入ってくる通信を、フランチェスカの脳が拒絶した。

 

 セシリアは自分の全てである。

 間違ってもあんな男に奪われる訳がない。

 

 だが現実としてセシリアは完全に自身の手の中から離れていった。

 

 ありえないという文字が頭の中を埋めつくし。

 様々な思考が増えては消え増えては消えを繰り返し。

 

 ようやく現実を認識したフランチェスカ・ルクナバルトは。

 

「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

 発狂した。

 

 顔芸全開で。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「アッハハハハハハ!!」

 

 ところ変わってワンダーランド管制室の束は超笑顔だった。

 いつものような仮面みたいな笑顔ではなくごく普通の笑顔で豪快に笑い声を発している。

 

「楽しそうですね束様」

「いやーまあね! むこうのフラ………なんだっけ?」

「フランチェスカ・ルクナバルトです」

「そうそれそれ。あいつが今どんな顔してるかって考えたらもう笑いが止まらなくてさぁ。対してこっちは大勝利も大勝利だし!」」

 

 そんな楽しそうな主人を見てクロエは若干嬉しそうに微笑んで訪ねる。

 何故ならここまで心の底から笑っている主人はそうそうないからだ。

 

 最大目的であるセシリア・オルコットの洗脳解除、及び奪還は勿論のこと。

 疾風・レーデルハイトの生存。

 敵ISの大量鹵獲。

 エクスカリバー掌握。

 更におまけでフランチェスカに痛手を負わせた。

 

 そして自分たちは悠々自適に帰還ときた。

 

 これを大勝利と呼ばずになんとする。

 

「疾風くんとスカイブルー・イーグルは凄いねぇ。第二次形態移行(セカンド・シフト)してあそこまで化けるとは。これだからシフトアップは面白い」

「疾風・レーデルハイトが復活することは予測済みだったのですか?」

「そうだねぇ。確率なんてものはないけど。ファクター・コードの覚醒具合。そして本人の意思はとても強かった。充分見込みはあったよ」

「しかし彼にはほぼ100%死亡すると」

「うん! でも生き返らないとは言ってないよね」

 

 詐欺師の手口だとクロエが思ったのも無理はない。

 とはいえ生き返る可能性を示唆すればこの結果は訪れなかったのは束の言だった。

 

「しっかし白式がこっちの座標を認識して、そのうえ白騎士の身体再生機能をダウンロードして他のISで発現機能するとは。流石の束さんも驚いたよ」

「束様でも予想外のことがあるのですか?」

「あるよ、ありまくるとも。束さんは世界一の天才なのは間違いないけど全知全能の神ではない。何処までいっても私は他人との価値観が違うだけの人間でしかない。だからこそ面白いし、だからこそ許せないのさ」

 

 ISの価値観を勝手に履き違い。あまつさえ世界征服の道具として使ったことを。

 

「束さんの顔も三度まで。ブルーなんたらかんたらなんてお粗末な組織には退場してもらおうじゃないか」

 

 インフィニット・ストラトスを産み出した責任を取る。なんて殊勝な考えなど持ち合わせていない。

 

 ただただ邪魔だ。

 彼女らの存在は束が夢見る世界において異物でしかない。

 

 そして暮桜を目覚めさせる。

 かねてよりそれを目的として動いていた束にとってこれは渡りに船。

 千冬もそれが必要だということが分かっているはず。

 

 たとえそれが敵の思惑だったとしても。束は自身の目的のために暮桜を目覚めさせるのだ。

 

 たた一つ問題があるとすれば。

 

「クーちゃん」

「はい」

「私ちーちゃんに殺されないかな………」

 

 親友である千冬が確実に激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームしていることである。

 

 利害の一致とはいえ千冬の言葉通り疾風を利用する形で死に至らしめた。

 生き返る可能性だって決して100%ではなく、このまま彼が死亡することだって十二分にあり得た訳だ。

 

 こんな束だが一応罪悪感というものがほーーんの少しはある。故に親友が恐ろしいのだ。

 ちなみに一夏という親族が絡んでたらワープ進化してユニバァーーーーーーース激激になる。

 つまり彼の親であるレーデルハイト夫妻は勿論のこと。息子の忘れ形見である麻美がその状況である可能性が、ある。

 

「疾風くんに仲介役頼もう。束さんまだ死にたくないし」

「無理だと思います」

「ぎゃー!!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!」

 

 右手にハンバーガー。左手に焼き肉おにぎりを交互に頬張って胃袋に押し込んでいく。

 

 行きなり爆食スタートで申し訳ない。

 銀の福音の時の一夏並みにフィクション主人公した疾風・レーデルハイトです。

 

 いや振り替えるとほんと主人公してたな俺。

 壮絶な生い立ち。敵に囚われたヒロインを救い。挙げ句の果て死んでからの復活で覚醒して迫り来る敵をちぎっては投げ。

 

 我ながら凄いことしたなと思う。いやほんとに。

 

 とりあえず何故こんな暴飲暴食してるのか。先ずはその経緯を説明することとしよう。

 

 

 

 

 

 篠ノ之博士の潜水艦で敵の援軍を振り切った俺たち学園専用機持ちはそのままIS学園への帰路を取った。

 

 ワンダーランドはIS学園の機密ドッグに入港し。俺たちはやっと地面に足を下ろすことが出来た。

 

 向かえてくれた父さんや母さん、そして織斑先生と合流してやっと楽できるとISを解除したら。

 

「ぐえふ」

「「疾風ーー!?」」

 

 その場にバタンとぶっ倒れた。

 

 それはもう流れるような動作で。

 鮮やかと言えるぐらい全身と床を同化させました。

 

 ピクリとも動かない俺にみんな戦々恐々状態。

 セシリアなんて「死なないで疾風!!」とガチ泣きする始末。

 

 意識はギリギリあるけど身体にまったく力入らなくてな。もう喋る気力もないというほんと何これ? 

 脱力、ただひたすら脱力した俺はそれを伝える手段がなくて場が段々カオスなことに。

 

《あー、もしもし。動けないマスターの変わりに失礼する》

「うわなんだこの鳥!?」

 

 そんな状況を打開したのが小さいホログラム体として出てきてくれた相棒イーグルさんでした。

 

「なんだこれ、鷲か? にしてはやけに小さいな」

「マスコットみたいです」

《初めましてマスターの御友人方。俺はスカイブルー・イーグル・ヴァリアンサーのサポートAIだ。単刀直入に言うと、マスターはスタミナ切れだ。良ければこのまま治療ポッドにぶちこんで欲しい》

「死んでる訳じゃない?」

《うん。生きてる》

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 かいつまむとこんな感じ。

 

 イーグルの指示に従い治療ポッドにぶちこまれた俺。

 体力が回復した、と思いきや約10年の人生で一番の空腹に襲われて現在暴飲暴食中ということでありまする。

 

 イーグルが言うにはそれは当然とのことで。

 損壊の酷い肉体の再生。そして限度度外視でファクター・コードを酷使し続けた影響でエネルギーとカロリーを大きく消耗した。

 

 ファクター・コードの能力は確かに操縦者に多大な恩恵をもたらすが。それを維持するためのエネルギー摂取は必須である。

 逆に考えれば、疲労と空腹以外欠点がない………と楽観視するのは危険だがそれを踏まえれば使いようはあるということだ。

 

「けふー。ごちそうさまでした」

 

 最後のデザートである苺のショートケーキを食べてようやっと腹が満足してくれた。

 いつもの倍の量食った気がするが多分気のせいだろう。うん多分。

 

 セシリアについてだが。フランチェスカの洗脳作用の心配はもうないそうだ。

 体内のBTナノマシン、正式名称ブルーブラッド・ナノマシンは完全に機能を破壊され。ファクター・コード・ナノマシンのみが残ったとのこと。

 ブルー・ティアーズに内蔵されたVTシステムを含めた邪魔な機能は篠ノ之博士と御厨さんが全て取り除いたらしい。

 

 今後セシリアをどう扱うかは審議中。悪いようにはしないという会長と大人たちの言葉を信じるしかないだろう。

 もし何かあればそれはもう殴り込みかけますけどね! 今の俺とイーグルは止まらんよぉマジで!! 

 

 冗談に聞こえるけど。あの時の俺とスカイブルー・イーグル・ヴァリアンサーの動き………いやあんたそれ人間の動きじゃないねって機動してた。

 

 システムPGCで対G無効し、更にファクター・コード出力最大でぶんまわした結果ワルキューレ50機強、IS撃墜8機。残り7機は中破のところを一夏たちが殴りかかって海に叩き落とした。

 

 他人のログを見てもこれが自分の動きとは思えない。

 あの時の俺とイーグルは正しく人機一体。自分の感覚の延長線上としてISを操縦できた。

 

 ファクター・コード、そして第二次形態移行(セカンド・シフト)したイーグルのポテンシャル。

 

 いつかファクター・コードの補助なしでこれぐらい動かせるようにならなければ、ヴァリアンサーの性能をフルに発揮できやしないだろう。

 

 コンコン。

 

「はーい」

「セシリアです。入ってもよろしいでしょうか」

「どうぞー」

 

 失礼しますと医務室のドアを開けた。

 付き添いに来ていた会長はごゆっくりと書かれた扇子開いたあと立ち去った。

 自動ドアが閉まり、残されたのは俺とセシリアだけ。

 

「検査終わったのか?」

「え、ええ。身体は問題ありません。もうあの人の干渉は受けないでしょう」

「それは良かった………セシリア、こっち来な」

「………」

 

 手招きしてやると無言のまま椅子に座る。

 

 重い沈黙が明らかに沈んでいるセシリアの周りを漂っている。セシリアは洗脳時の記憶があるのだから無理もない話だが。

 

 対して俺はというと。

 

「セシリア」

「………はい」

「見て、めっちゃ髪伸びた」

「はい?」

 

 ケロッとした顔で自分の後ろ髪を弄っていた。

 

「身体の再生治癒するとき副次効果で髪が伸びてね、ほら肩まで伸びてるのよ。一気に目標達成よ、やったぜ! セシリアから貰った髪ゴムつけてるけど似合うかな?」

「えっと、その」

 

 身体の変化を嬉々として語る俺にセシリアは目を瞬いた。

 先程死に体だった男とは思えないぐらい目をキラキラさせている俺の口は止まることを知らなかった。

 

「あとねあとね。実は視力回復したんだよ! 眼鏡なくても全然見れるのよ。凄くね? 凄くね!? あとこの眼鏡なんだと思う? イーグルの新しい待機形態なのよ! 前の眼鏡はなくなったから気を利かせてくれたのかな。やっぱないと違和感あるっていうかなんというかさ。しかも某江戸川みたいに凄い機能が盛り沢山と………」

「………」

「あーー、うん。ごめん。ちょっと無理あるか、この空気」

 

 だがそれは何処か無理があった。

 沈んだセシリアを励まそうと明るい話題を振ったが。それすら霞んでしまうほどセシリアは自身の所業を悔いていた。

 それでも俺の言葉が利いたのだろう。セシリアはようやく自分から言葉を紡ぎだした。

 

「………あの時。私はあなたからISを奪いました」

「そうね」

「酷い言葉も沢山浴びせました」

「うん」

「はっきりと覚えてます。記憶と認識を弄られ、奥底に封じられても。私が手を下したことに変わりはない。疾風を刺し貫いた時の感触も手に残っていて………わたくしは、疾風をこの手で殺した………」

 

 膝に置かれた手に力がこもる。

 その手に涙が落ちてシミとなって消える。

 

 自身が犯した罪は消えることはない。

 未来永劫セシリアの胸に重しとなって残るそれは余りにも大きく、押し潰すに余りある物だ。

 

「疾風が生き返った時、本当に嬉しかった。愛する人に触れられることがしあわせだった………でもふと思ったのです。わたくしは………疾風の側に居て良いのだろうかと」

 

 震えが大きくなる。

 口に出すことすら怖かったのだろう。

 更に涙が溢れ、身体もこころなしか奮えている。

 

「レーデルハイト工業以外のIS保有基地も襲いましたわ。それにわたくしはもっともフランチェスカ・ルクナバルトの側にいました。ブルー・ブラッド・ブルーの隠れ蓑であったティアーズ・コーポレーションもオルコット家が所有する企業。世間から激しいバッシングを受けることは明白。この学園でもわたくしを責める人はいるでしょう………それは良いんです。わたくしは覚悟は出来ていますから」

「お前が自分の意思で行ったことじゃなかったとしてもか?」

「洗脳されたからと、それで許されることではありません。わたくし自身も許すつもりはない。どんな形であろうと多くの人間を傷つけ、そしてあなたを殺したのですから」

 

 涙を浮かべながらも、その瞳には覚悟を宿した強い光を浮かばせている。

 でもその決意は湖面に浮かぶ月のように揺れに揺れている。

 

「わたくしが真に恐れるのは。わたくしと共にいることであなたも責められることです。あなたはもっと大成する。わたくしの存在は必ず足枷になります。わたくしは。疾風から離れるべきなのです………………でも」

 

 再度うつむいた彼女の表情は見れない。

 だが何かを言おうとして彼女は何度も言葉を飲み込む。

 俺は次に出てくる声を逃さぬよう静かに待った。

 

 余りにも長く感じた数分間。

 やっとの思いでセシリアは声を発した。

 

「わたくしは………………………疾風と、一緒にいたい」

 

 絞り出した声は、余りにも儚かった。

 

 セシリアはたまらず顔を覆った。

 何処までも本心で、何処までも我が儘なセシリアの本心。

 

 言ってしまった後悔と安心。相反する心はセシリアの精神を掻き乱した。

 

「でも、あなたと居るとわたくしは幸福を感じてしまう。愛されてると感じてしまう。罪を犯したわたくしがそのような幸福を受けてはいけない。だから離れるべきだ。それが罰だとわかっているのに。わたくしは、疾風と共にありたいって思ってしまう。こんな想いは間違っている。わたくしは愛されてることに安堵してる自分が許せないのです」

 

 黙って立ち去ることも出来たはずなのに。

 彼女は俺に会いに来てくれた。自分を命懸けで助けてくれた恋人に一目会うために。

 

 セシリアは誰よりも責任感がある。

 俺の目の前から去るという言葉は本当だ。

 そして共に居たいと思うのも本当だ。

 

 愛する彼と共に居たい。

 でも彼と共に居たら彼を傷つける。

 セシリアの心をねじ曲げ、行われた所業は余りにも罪深く。それはセシリアに十字架となって重く重くのし掛かる。

 

 罪の意識にさいなまれ、幸福であるべきではないと考えてしまったのだ。

 

 セシリアはあの時の俺に似ている。

 程度は違えど、自分は相応しくないと感じている。

 

 ………だからこそ。

 

「疾風?」

 

 今度は俺の番だと。

 俺はセシリアを優しく抱き締めた。

 

「この前のデートの時。俺が言ったこと覚えてるか。セシリア、俺やっぱり普通の人間じゃなかったんだわ」

「え?」

「クローンなんだって。死んだ御厨麻美の息子さんのクローン。本来生まれる筈のない命が世に生を受けちまったんだ」

「疾風が、クローン」

「あー、別によくあるテロメア短いとかそういうのはないんだ。ただ心臓が凄く悪くてさ、ファクター・コードの補助なしだと生きられないぐらい弱くって。あ、今はもう完治してるけどね」

「そんな………それではわたくしは」

 

 特殊解離剤(リムーバー)を打ち込んだ時点で殺しに行ったようなものじゃないかと。セシリアはそれが恐ろしく感じた。

 

 そんな彼女の機微を感じながら俺は敢えて楽観的に語った。

 

「まあまあ、それは一端置いといてだな。とりあえずクローンだったんだ。それも結構アウトな分類のな。だからどっちかと言うと俺の方がセシリアの側に居ちゃいけないってことになる。彼氏がゲノム法違反の産物なんて厄介以外の何物でもないし」

「そんなことないです! わたくしは」

「そう。お前はあの時それでも良いと言ってくれた。何が起きようと俺の側に居るって」

 

 嬉しかった。

 ありのままの自分を肯定してくれる彼女がとても頼もしく、愛おしく感じた。

 

「俺はお前を守るために飛んだ。助けたときにも言ったが。俺はお前が居ないと駄目だから。お前なしだと生きていけないし。生きる意味もないから」

「だからってあんな。あんな無茶をして。死ぬつもりでしたの?」

「死ぬつもりだった。ファクター・コードを再起動させてISを動かさないと。お前にアクセスして助けられないって篠ノ之博士に言われてな。どのみち動かしたあとは、ね」

「だから。私が殺した訳ではないと言いたいのですか? そんな馬鹿な話がないでしょう!!」

「まったくその通りだ。だけど俺はあれしか道はなかったし。それ以外を選ぶ訳にはいかなかった………全部が全部、無理やり納得して。悪い方向に言っちまった………こうして生きれるとは思わなかったけど。全てが結果オーライで済んで良いことではないけど………」

 

 奇跡か必然か。何故俺が生き返ったのか。

 わからないが、ただ一つ言えることがある。

 

 慰めにならなくても、これだけは伝えたい。

 

「セシリア。お前は悪くないよ」

 

 ギュッと更に力を込めていく。

 セシリアの罪、重荷、それすらも抱き止めるように強く。バラバラに崩れてしまわないように抱き締める。

 

「全部あのフランチェスカ・ルクナバルトの歪んだエゴが引き起こした物だ。お前は俺を殺した。だけどそれはセシリアじゃないセシリアがやったことだ………現にお前はずっと苦しんでいただろ。俺にリムーバーを押し当てた時も泣きじゃくって泣きじゃくって」

「な、何故それを」

「全部聞こえたから。ファクター・コードの影響なのかは分からないけど。あの時の耳にした悲痛な叫びを。俺はどうしても放っておくことが出来なかった」

「でも、それでもわたくしは許されないことを」

「まったく。この強情っぱりめ」

 

 身体を離して真っ直ぐセシリアの宝石のような瞳を見据える。

 涙で潤んで光る瞳には俺が写る。

 

 ならこっちにも考えがある。

 暖めていた最終手段を使おうじゃないか。

 

「覚えてるかセシリア。お前とIS学園で初めて戦った時に決めたこと」

「決めた、こと?」

「あ、忘れてるんだ。いや放置しすぎて俺も忘れてたこともあったけどさ。ほら、俺が入学して屋上で話した賭け事のこと」

「賭け事………あっ」

 

『負けた方は勝った方の言うことを聞く』

 

 昔からセシリアに何度も吹っ掛けられて何度も負けての繰り返しだったアレだ。

 あの時俺はセシリアに勝ってその権利を得たまま使わないでいた。

 

 セシリアの顔が赤くなる。

 何を言われたか察したのだろう。これから何を言われるか察したのだろう。途端に慌てふためいて目が泳ぎまくってしまった。

 

「え、でも。え、待って下さいあれは子供の遊びの延長線上ですし。そもそもこれはそんな簡単に済ませてはいけないことですし。そんなことでわたくしが許されるなどあってはならないですし、それにそれに、わたくしより疾風には菖蒲さんや簪さんもんんんっ!!?」

 

 俺とセシリアの距離がゼロになる。

 その先は言わせないと強制的に黙らせた。

 

 必死に逃げ道を探していたセシリアの口は塞がれて声を出すことは不可能となり。

 伝わる体温にセシリアは眼を見開き、頬の赤みが更に増した。

 

 唇を離して、真っ直ぐその蒼い瞳を捕らえ。一呼吸すら空けずに告げた。

 

「セシリア。愛してる。ずっと俺の側にいろ」

「ひぅ………」

 

 今まで以上に強気な口調にセシリアは言葉を発することが出来ずにパチパチと瞬きをする。

 

 俺も恐らく耳まで赤いだろうがそんなの知ったことか。もう止められないし止まらない。

 

「お前がそれを罪だと言うなら俺も一緒に背負ってやる。てか背負わせろ。お前はなんでもかんでも一人で背負いすぎだ。お前の彼氏は時々頼りないかもしれないが、結構頼りになる男だぞ」

「疾風………」

「もしお前が間違った道に進もうとしたら………その時は俺がお前を殺してやる」

「あ、あう………」

 

 文字通りの殺し文句にセシリアの赤みが止まらない。

 本当にあの時の泣き虫疾風とは大違いだ。

 改めて目の前の幼馴染みが男であることを再認識したセシリアはボソボソと言葉を漏らす。

 

「後悔しませんか」

「するぐらいなら死んでねえ」

「苦労をかけますよ」

「一緒に苦労すればいい」

「こんな可愛げのない女を」

「お前は宇宙一可愛いし綺麗だ」

「え、えと。その………」

「拒否権なんかないぞ。なんでも言うこと聞くって言ったのはお前だ」

「~~~!」

 

 八方塞がりも良いとこだ。

 今まで負け続けだったが。今度こそ俺の勝ちだ。

 

「………ズルいですわよ。あんな子供の約束を持ち出して」

「いい加減観念しろ。一緒にいたいって言った癖に意地張るんじゃねえ」

「………はいっ」

 

 やっとのことで観念したセシリアは涙を浮かべながらも笑った。

 そしてもう一度抱き合った。

 あの時感じた体温をもう一度感じ、絶対に忘れないように。

 

「ずっと側にいて」

「ああ」

「わたくしを離さないで」

「離すもんか。たとえ世界がお前を拒絶しても。俺はずっと隣にいる」

「出来ますの? そんなこと」

「なんでもやってやるさ」

「馬鹿ですわね」

「ああ、まったくだ」

 

 惚れた弱みだ。

 こればっかりはどうしようもならない。

 

「愛してます疾風」

「俺も愛してる」

 

 お互いの想いを確かめあった俺たちは。

 

 もう一度キスをした。

 

 

 

 

 

 

 





 ファーストキスはケーキ味。
 どうも、こんな恋愛に憧れはすれど体験はしたいと言いがたいブレイブです。

 いや拗れるとは言えど限度がある!と我ながら想います。
 これが最終回でもいいかな。なんて思ってしまう感じになりましたハイ。

 というわけでメンタルボロボロなヒロインと一度死んでメンタル無敵な主人公のラブコメは一区切り。
 章タイトルどおり比翼連理となった彼らですが。まだクソレズサイコババアが残ってます。

 次回もう少し箸休めというなの決戦前夜。そのつぎは決戦、って感じになればいいなぁと夢見る私でした
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