IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第14話【六者面談だよ全員集合】

「ひどい目に遭いましたわ」

 

 あのあと結局もみくちゃにされたセシリア。どうにか抜け出し、はしたないとわかっていて廊下を走って難を逃れた。

 

 ふらふらとおぼつかない足取りで徘徊する。これからどうしようか。とてもじゃないが、当初予定していた旅館を散策する余裕など持ち合わせていないわけで。

 

 あてもなく放浪していると、セシリアは自分が教員室に近いところに居ると気付いた。

 教員室、もとい織斑先生の部屋には世界で二人だけしかいない男性IS操縦者がいる。

 

(疾風とお話でもしようかしら。明日の試作装備のことも気になりますし。政府からもそれとなしに勘ぐるようにと言われてる。そういえば織斑先生が姉弟の時間を作れていないと山田先生が言ってましたっけ、疾風を連れ出すなら、調度いいかもですね)

 

 あれ、結局さっきの女子の言う通り。これは見方を代えれば逢い引きなのでは? と浮かんだセシリア

 

(いえいえ、下心はありませんから問題なしです。これは正当です、正当)

 

 行きがけの駄賃に一夏にも聞いてみよう。白式は追加装備の融通が効かないが、折角よるのだから念のため。

 

「あら?」

 

 織斑千冬の部屋に続く通路を見ると、箒と鈴の幼馴染ペアが揃いも揃って(ふすま)にピッタリと耳を当てている。

 

「なにをしていますの?」

「しっ」

 

 鈴が静かにとサインを送る。一体この奥になにがあるのか。

 二人に習って襖に耳を当てると………

 

「千冬姉、久しぶりだから緊張してる?」

「そんな訳あるか馬鹿者。んっ! 少しは加減しろっ……くあっ! そこは…!!」

「すぐに良くなるって、大分たまってたみたいだし、ねっ」

「あぁぁぁっ!!」

 

 ………中から聞こえたのは断末魔ではなく織斑先生の喘ぎ声だった。

 

「こっ、コココこコこ、コッココッ!?」

 

 鶏にクラスチェンジしたセシリアは何が起きているのか改めて二人に問うも。鈴は頬を赤くして気まずそうに目をそらし、箒に至ってはキャパオーバーで頭からプスプスと煙が出ている。

 

 そこでセシリアは気付いた。疾風は一体何処に。まさか中にいるなんて事はないだろう。

 

「うん、これぐらいでいいかな? 疾風もやるか?」

「!!!??」

 

 ところがどっこいバッチリ中に居たレーデルハイト家次男坊。

 セシリアは二人を強引に押し退けて体がめり込むレベルで張り付いた。

 

「いや、なんかすげー痛そうだったし」

「大丈夫だって、痛いのは最初だけだから」

「そうか? じゃあお願いしようかな」

(お願いしちゃいますの!!?)

 

 会話の内容、そして先程の織斑先生の喘ぎ声から中の状況をこれでもかと鮮明に浮かばせているセシリア。

 

「いだだだだだ! あ、だけどこれ良いかも! 凄い良いかも!」

「そうか? じゃあここら辺も」

「そこそこそこ! いいマジでいい! んあー!」

 

 もう何がなんだか分からなかった。

 ただ理解できるのは、あの泣き虫だった幼馴染がいつの間にか大人の階段を瞬時加速でかけ上がったことだった、それもアブノーマルに。

 

「そろそろ締めといくか、結構強めにいくぞ?」

「これ以上があるのか!? よぉぉし男は度胸だどんどこい!」

「じゃあ失礼して」

(失礼しちゃいますの!? 何を失礼しちゃいますの!?)

 

 余りの情報量に脳内のいろんなものが破裂したセシリアは目をグルグルさせて勢い良く立ちあがり。

 

「ちょっ!? セシリアなにを!?」

「待て早まるな!」

 

 二人の制止を聞かずにセシリアは襖に手をかけて禁断の扉をこじ開けた。

 

「駄目ですわ疾風! 男同士でそんなふしだらなことを!! ………………………………ありぇ?」

 

 理性をかなぐり捨てて禁断の扉を開け放ち、セシリアの網膜に写りこんだのは。

 

「あいだだだだ!! 痛い痛い! 痛いって! 痛いよ一夏君!? 外れる! 何かが外れるっ!」

「外れないから大丈夫だって。ほれ」

「おんごぉぉぉぉ!」

「………………………???」

 

 薔薇薔薇な光景などではなく、疾風の背中にまたがった一夏が彼の肩らへんを指で押していた。押されている疾風はこの世のものとは思えない声をこれまた凄い表情で発している。

 

「んがぁ、痛い。痛いよ一夏君。………あれなんでセシリアいんの?」

「えと、その………」

「おっ? 箒と鈴も。揃ってどうしたんだ?」

「いや、お前こそ何をしているんだ一夏?」

 

 箒が唖然としながら言葉を紡いでいく。

 

「何ってマッサージだけど」

「「「マッサージー?」」」

 

 初めて聞いた風に三人揃って面白いように首をかしげる。

 

「んーーあーー! おー、肩がかっるい。凄いな一夏、ISよりこっち方面で商売した方が儲かるんじゃね? 売れるぞ、イケメン整体師が貴女のコリをほぐしますって感じで」

「いやそれはないって。てかなんだよイケメンって」

「おーい誰かボール持ってない? 顔面にめり込ますから」

「その顔面って俺か? もしかして俺か?」

 

 立ち上がった疾風は肩をブンブン振り回して軽さアピール、その勢いのまま一夏に叩き込まないか心配だ。

 

「ところでセシリアよ」

「なんですか」

「男同士がなんだって? ん?」

「なんでもありませんわ!」

 

 眼鏡の奥からニンマリと除く視線にセシリアは慌てて目をそらす。

 自分がなんともふしだらな妄想を繰り広げてしまったことを恥じたセシリアはそれを、忘れようとしていたが疾風の指摘で無駄に終わった。

 こうなったのも同室のあの子達のせいだと、勝手にその場にいない人達に責任を押し付けた。

 

「あまりからかってやるなレーデルハイト。今時の女子はどれもこれもいっちょ前に妄想が激しいものだ」

「お、織斑先生! 別に私はそんな」

「それって経験則か千冬姉?」

「一夏それ一歩間違えたらセクハラじゃね?」

「私の場合はそんな暇などなかったよ。あと織斑先生と呼べ」

「お願いですからわたくしの話を! あーもう!」

 

 置いてかれたセシリアをよそに男子二人と教師が話し合う。

 セシリアは早めに諦めモードに入った。

 

「調度いい。凰、デュノアとボーデヴィッヒを呼んでこい、焦らず早めにな」

「しょ、承知しました!」

 

 その場から逃げるように鈴が二人を呼びにいった、相変わらずというか未だに織斑千冬という人物が苦手なのは変わらない。

 苦手とは別に緊張感が勝る二人はどうしたらいいかわからないまま立ち尽くしていた。

 

「しかし一夏よ、お前マッサージなどが得意だったのか」

「よく千冬姉にやってたからな。マッサージは」

「こいつのマッサージの腕は馬鹿にしたもんではないぞ。折角だからお前らも受けてみたらどうだ?」

「えっ? いや、私は別に………」

「一夏さん、箒さんが是非とも受けてみたいとおっしゃってますわ」

「おいセシリアっ?」

 

 先程の醜態などなかったかのようにサラッと言ったセシリアに箒は彼女と一夏の顔を交互に見る。

 突然振られた箒はセシリアの腰をつかんで襖の向こうに連行していった。

 

「い、いきなり何を言っているんだお前は!」

「何をとは無粋な。折角他の人達がいないのですから私が誘導したと言うのに」

「だからといって。い、一夏の手が私の体に………そんな嫁入り前の女がそんな………」

「箒さんが行かないなら仕方ありません。折角ですからわたくしが受けに行くことにします」

「なんっ!?」

「最近腰あたりがこっていて、調度いいのでこの機会に」

「させん! 一夏のマッサージは私が受ける!」

 

 計画通り。セシリアのお節介は無事に実を結んだ。

 

「どうした箒、顔が膨らんでるぞ」

「問題ない! さあやるぞ!」

「おう、じゃあそこにうつ伏せで寝転がってくれ」

 

 ズカズカとふくれ面で戻る箒は言われるままに布団にうつ伏せになった。

 顔が赤いのはご愛嬌。

 

「お客さん。オーダーはありますか」

「ま、任せよう!」

「じゃあ腰あたりからな」

 

 マッサージと分かっていてもドキドキしてしまう箒の心臓。

 いまかいまかと待っていた一夏の手が腰に触れビクリとするのも束の間。

 

「んんっ? いだだ、いだだだダダ!? 結構強く行くんだな!」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ、これぐらい耐えなくて何が篠ノ之流か。遠慮なく頼む」

「それを理由に持っていくのか。じゃあ失礼して」

「んんんんん!」

 

 マッサージで痛みを感じるのはそれほどこっている、つまり体を酷使しているということ。そこをほぐすやり方は色々あるが、箒がそのままと言うので一夏は無理のない範囲で力を込めた。

 

「大分固いぞ。剣道頑張ってるんだな」

「まあな。訓練機を借りれない日は必ず通っている」

「箒は剣道部だもんな」

「うむ。お前は剣道部に入る気はないのか?」

「んー。今はISで手一杯だから」

「そうか………………だがこれからは………」

「ん? なんか言ったか?」

「なんでもない」

 

 箒の呟きは誰にも聞かれることはなく、腰の指圧は終わった。

 

「次は肩だ。ここは少し優しめにやるからな」

「うむ」

 

 先程は指による点に力をいれたため痛みが発生したが、今度は手の平による面で肩をほぐし始める。

 

「うわっ、肩もヤバイな。やっぱ竹刀ふってるからか」

「それもあるが………その………女には色々あるんだ、男と違って」

「んー、まあ確かに男と女だと勝手が違うよな。痛いか?」

「いや、大丈夫だ………ふーー」

 

 微妙に噛み合ってない会話を展開しながらも一夏式マッサージは続く。

 

(しかし本当に上手いな。体が軽くなってるのがこの時点でわかる………………そうだ、今度からこれを口実に一夏の部屋におもむくというのはどうだろう。うん、わりと悪くないのでは?)

 

 先程の重点的にコリをえぐりほぐす点式マッサージとは違って柔らかくほぐされる面式マッサージは箒の心をもほぐし、彼女の睡魔を誘った。

 

「うあ………むぅ」

「寝てもいいぞ?」

「いやだめだろぉ、ここはお前達の部屋なんだから………(お前が良いなら喜んで寝るが)」

 

 まどろみの胸中にある箒、まぶたを開けようにも見えない重りがたえずまぶたを下げさせる。

 

 ムニュ。

 

「!!!???」

 

 突如、浴衣ごしの臀部(おしり)に感じた感触、5本の棒と1面が尻肉に沈む。俗に言う鷲掴みである。

 明らかにマッサージではないとこのときの剣道少女は理解した。

 

(なななななな!? な、なに大胆なことをしているんだ!? まだ私たちには早いだろう! いや別に本当に嫌な訳じゃないしお前が望むなら私はいつでもバッチコイなのだが、いやダメだやはり心の準備があるしそもそも周りの目がっ!!)

 

 箒の眠気は瞬く間に消滅、頭のなかは一気にピンクカラーになる。

 幼馴染みの突拍子もない行動に羞恥と怒りと期待をもって後ろを振り返った。

 

「残念、私だ」

「いや何してるんですか千冬さん!」

 

 期待を外れて自分の尻肉を掴んでいたのはニヤっとした想い人の実姉。思わず先生呼びを忘れて箒は突っ込んだ。

 そして何を思ったか千冬はそのまま浴衣をつかんで上にあげた。箒のお尻があらわに。

 

「うわぁぁあ!?」

「色気のない声だな。おっ、胸だけかと思ったがケツもでかいんだな」

「何を言うとりますか!!」

 

 布団をふっ飛ばす勢いでその場を脱出する箒。その瞳は頬に赤みをさした幼馴染みに向けられた。

 

「見たのか一夏!?」

「見てない見てない!」

「そうかお前は見てないか、ベージュのパンツ」

「え、白じゃなかったか?」

「わすれろー!!」

「へぶぉ!」

 

 千冬に見事釣られた一夏は浮き上がった先で剣道少女の手刀でゴロゴロと悶絶。

 

「篠ノ之、いくらでかいせいで洒落た下着がないとは言え花の十代が無地の白とか恥ずかしくないのか?」

「余計なお世話です!」

「少しはそこにいるオルコットを見習え。清楚なふりして浴衣の下は結構大胆なのはいてるはずだ」

「な、何を言いますの!?」

 

 千冬のセクハラターゲットが箒からセシリアにチェンジ。つい先程身ぐるみを剥がされかけたセシリアは我が身大事と自身の体を抱く。

 

「篠ノ之、オルコットに頼んで見せてもらえ」

「本当に何をおっしゃってますの!?」

「いやなのか? 友達の為に一肌脱ぐのがノブリス・オブリージュってやつじゃないのか?」

「それとこれとは話が別です! 後物理的な意味じゃありません!」

「あの、織斑先生。セシリアも困ってるのでこの話題はそのへんに」

「下着が地味だとあいつにそっぽ向かれるぞ」

「見せてくれセシリア」

「箒さんっ!?」

 

 魔法の呪文【幼馴染みの姉の虚言】により箒の洗脳完了、姉の言葉は強かった。

 箒はセシリアの腕を掴んでまた襖の奥に連れていこうとするも今度のセシリアは踏みとどまる。

 

「離してください箒さん!」

「頼むセシリア、私は一夏にそっぽを向かれたくない」

「いーやーでーすーわー。向こうに行ったら、わたくしがこれまで大事に守ってきた何かが一刀両断されそうな気がします!」

「安心しろ、私は女に興味はない。ということで下着を見せてくれ」

「字面だけで100%アウトですわー!?」

 

 千冬の洗脳誘導により完全に暴走機関車と化した箒。

 日頃から鍛えている箒の力強い引きに流石のセシリアもエレガントを保つことは不可能と判断し、扉の縁になりふり構わず手をかけて耐えている。

 

「疾風! 何静かにしてますの早く助けなさい!」

「え、大丈夫? なんかあられもない感じになっちゃってない? 見ても大丈夫なパティーン? 下着見えてない?」

「大丈夫ですから早く!」

「よしきた」

 

 顔に手を当てていた疾風は瞬時に箒を羽交い締めにする。絡んだ瞬間二の腕に何か柔らかい物が当たった気がするが気にしないことにした。

 

「はーい箒ドードー、ドードー。てか力つよっ、何処のレスラーだお前は」

「誰がレスラーだ! というか私は馬か!?」

「ポニーテールなだけに」

「やかましい! というか言いたいだけだろお前はっ」

「唐突に必殺、脇バイブレーション!」

「ちょ、アハハハハハハハ!」

 

 埒があかんと判断した疾風は箒の脇に手を突っ込んで合計10本の指をワシャワシャと動かして箒を骨抜きにした。

 

「やれセシリア」

「はいな」

「おいやめろ二人とアハハハハハハハっ!!」

 

 簡単に倒れ付した箒にセシリアが馬乗りになって脇をくすぐり、疾風は足を二本同時に束ねて足裏をコショコショ。

 

「君が、泣くまで」

「くすぐるのを」

「「やめないっ」」

「アヒャヒャヒャっ!! ヒーヒー! アーハッハッハッハ!!!」

「失礼しまーす。連れてきまし………なにしてんのあんたら」

 

 要望通りシャルロットとラウラを連れてきた鈴が二人に組みしかれている箒を見て目を丸くする。

 背後の二人もなんだなんだと覗きこむ。

 

「強制猥褻容疑に対する処罰中で御座います」

「いやそんな女の足を抱きながらキリッと言われても」

「知ってるぞ疾風、それはウィーンウィーンというやつだな」

「おいまてまるで俺が変態みたいじゃないか。てか何処で知ったのそれ。ドイツだから? ドイツ経由?」

「というか大丈夫? 箒息してる?」

「セシリア」

「呼吸はしてますわ」

「終了、しゅーりょー」

 

 よいしょと立ち上がって箒を見下ろす、ピクピクと痙攣してヒューヒュー息が漏れている。うん、生きてるね、よし。

 倒れ付している箒を掴んでズルズルと元凶である織斑先生の元へ運んでいった。我ながらなんて酷い対応だろう、後で謝っとこう。

 

「終わりました」

「ご苦労」

「ご苦労じゃありませんわ。危うくまた身ぐるみ剥がされるところでしたわ」

「え、また?」

「拾わないでくださいまし!」

 

 一夏とは違い耳ざとい疾風は気になるワードをピックする。ほんとこういうところが少しでも一夏に移ればと誰が思ったか。

 

「おい男ども、そろそろ女子の入浴時間が終わる、もうひとっ風呂浴びてこい。汗臭くされては困る」

「確かに汗だくだ。流石に三人を全力でやると来るものがあるな」

「お前はやると決めたら手を抜かないからな。レーデルハイトくらい要領よく振る舞えばいいだろうに」

「態々時間割いてくれるんだし、それに本気でやらないと相手に失礼だろ?」

「不器用だな」

「たまには褒めてくださいよ織斑先生」

「褒められるようなことをしたら考えてやる」

「チェー」

 

 織斑先生と一夏が言いながらも何処か楽しそうに話す一夏に一夏ラバーズは困ったりムッとしたりとせわしなかった。

 

「あー、二回も風呂入るとかめんどくさ。でも汗かいたの事実だし………おのれ篠ノ之妹め、姉妹揃って汗をかかせてくれる」

「わ、悪かったな………ん? おい今のどういう意味で」

「さーて温泉入ろっかな! 行くぞワンサマー!」

「おう。ってそのあだ名やめろよ!」

 

 再起動した箒の質問を勢いで掻い潜ってバスセットを引っ張り出した。

 

「じゃあな皆の衆、我が家のようにくつろいで行きたまえ」

「難しいかもしれないけどな」

 

 男二人はスタコラサッサと教員室を後にし。残ったのは元日本代表と四人の代表候補生+αの計6人。

 

「おいおいどうしたお前ら、いつもの馬鹿騒ぎはどうした。それとも一夏がいないと騒げないか?」

 

 千冬に促されながらも「先生と話すのは初めて」だのしどろもどろになって前に進まない。

 

「まったくこうまで生徒との壁があるとは、先生がっかりだぞ?」

「お、織斑先生。なんか面白がってません?」

「おい馬鹿セシリアっ」

「行きなり虎の尾を踏むなっ」

「勇気と無謀は別物だよっ」

「特攻するのはまだ早いぞっ」

 

 踏み出した足を全力で止めにかかるラバーズ。一夏に対するアレコレがないぶんセシリアはそこらへん勢いが良かった。

 

「しょうがないな。私が飲み物をおごってやろう、何がいい?」

 

 突然の気前のよさに戸惑いつつも断れる空気じゃないので大人しく応じた。

 置かれた飲み物を手に吟味する女子。持ったまま進まない状態でセシリア以外の四人が「先に飲め」という無言の圧を出し、セシリアはプルタブをあけてミルクティーをひと口飲み込んだ、他の面々もそれに続く。

 女子の飲み物が喉元が通るのを見て千冬はニヤリと笑った。

 

「飲んだな?」

「は、はい」

「そりゃ、飲みましたけど」

「な、なにかはいっていましたの?」

「失礼なことをいうなバカめ。なに、ちょっとした口封じだ」

 

 そういって織斑先生が冷蔵庫から取り出したのは星のマークがキラリと光るアスァヒィスゥパァドゥラァイを取り出す。プシュっという景気の良い音を鳴らし、唇で受け取って豪快に喉に流し込んだ。

 

「クハーー、やはり風呂上がりはこれに限る」

 

 全員が唖然としているなか織斑先生は上機嫌になっている。

 

「ん? どうしたお前たち。私だって人間だ、酒ぐらい飲む。それとも私は作業オイルを飲む物体に見えるか?」

「い、いえそういうわけでは」

「余りお酒を飲むイメージがないといいますか」

「そうでもないぞ、教官がドイツに居たときは結構飲む方だった………樽一つ飲んだという噂もある」

 

 織斑千冬の意外な1面を垣間見た女子ズは引きながらも感心する。

 

「あの、まだ勤務時間なのでは?」

「そう堅いこと言うな、今日の業務は終わった。それに、口止め料は払ったはずだが?」

 

 ニヤリと笑う織斑先生の言葉に全員が「あっ」と手元の飲み物をみる。

 前払い、それも少し詐欺じみた感じはするものの中々の手並みであった。

 

「さぁて本題だ。お前ら、あいつの何処がいいんだ?」

 

 あいつと言っているが全員が誰を指しているのかわかっていた。彼女の弟である織斑一夏しかいない。

 

 千冬の視線に促された箒と鈴が先陣を切った。

 

「その………剣の腕が鈍りに鈍ってるのが気に食わないわけでして。前は私より強かった癖に今ではあんなに腑抜けて」

「あ、あたしは腐れ縁みたいなものです、そう腐れ縁。なんかほっとけないというか危なっかしいといいますか」

「わかった、私からやつに伝えといてやる」

「「いいです! 伝えなくていいです!」」

 

 なんとも、安直なグレーゾーンを置いた幼馴染み組。だがヘタレと言うなかれ、ブリュンヒルデとは違う1面を知っている彼女達にとって千冬の存在はそれだけ大きいのだから。

 だがそこで織斑千冬は瞬時に切り返すと慌てふためいてしまうのは予定調和。

 このまま一字一句伝えてしまえばあの一夏のことだ、100%そのまま伝わってしまう。

 

「僕は………私は、優しいところ、です」

「優しいか。だがあいつは誰にでも優しいぞ」

「そうですね………でも、私はその優しさに救われました。一夏がいたから、今の私があります」

 

 でもやっぱり優しすぎるから、少し悔しいかな。とはにかむシャルロット。

 千冬を相手に正直に話したはにかむ彼女に、素直になれない組はグヌヌと下唇を噛む。

 そして今度は一夏ラバーズの素直クール担当であるラウラが口を開く。

 

「私は強いところです」

「いや弱いだろ」

 

 容赦ない。その場にいた女子は心のなかで声を揃えるも、千冬が言わんとしてることは理解できていた。

 現在の専用機同士の模擬戦の成績で一夏と白式は他と比べて負け越している。最後に入ってきた疾風とイーグルに対しても勝ち負けでは負けの数が多い。

 疾風は一夏に対して対接近型対策を徹底して立ち回っている、接近戦においても白式の雪片弐型よりリーチの長いインパルス(射撃機能内蔵)を用いるためなかなか切り札である零落白夜を当てづらい。

 疾風が負けたパターンも一夏の土俵に合わせた接近戦主体の場合が多い。

 接近して切ることしかできない白式と同じタイプの暮桜を使った千冬からすれば、一夏はまだまだ弱いということなのだろう。

 

「確かに一夏の実力は私よりも劣ります。ですが私はその弱さを言い訳にしない精神的な強さに引かれたんです」

「精神的か………私からしたらまだ感情を制御できてない猪武者に見えるが」

「い、いえ。少なくとも私よりは強いです」

「ほう。今日はやけに噛みついてくるんだな」

「はっ! 申し訳ありません教官に対して不躾なことを!」

「いやいいさ、それだけお前の中の一夏の存在は大きいということだ」

 

 いつもみたいに教官呼びを咎めることなく千冬は2缶目のビールをグイッと飲み干した。 

 

「まあ強いか弱いかはさておき、あいつは存外役に立つぞ。家事も料理も中々だし、マッサージだって上手い。まあお前達女子が言うみたいに顔もいいのか? そこはよく分からんが」

 

 一拍おいて織斑先生が立ち上がって一夏ラバーズに向けて挑戦的、かつイタズラめいた眼差しを向けてこう言った。

 

「というわけで、付き合える女は得だな。どうだ、欲しいか?」

「くれるんですか!!?」

 

 まさかの申し出にラバーズの目が俗にいうシイタケ目ばりに輝いた。光量を計ったら何デシベルになるだろう。

 

「やるかバカ」

「うぇ~~」

 

 しかしそこは織斑千冬、釣り上げた餌をぶんどって即座にキャッチ&リリース。

 ラウラですら思わず情けない顔と声をあげてしまった、ラバーズのテンション急降下。

 

「女ならな、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする。せいぜい自分を磨けよ、原石(ガキ)ども」

 

 そういって上機嫌で追加のビールを口にする織斑先生を見て女子ズは思った。

 ブリュンヒルデの壁を越えて奪うなんて至難の技なのでは? 

 それに………

 

「一番の敵は一夏さん自身だと思いますわ」

 

 セシリアの言葉に皆もうんうんと頷きながら手持ちの飲み物を含んだあと口々に愚痴りはじめた。

 

「僕なんて同居したのに(半分男としてだけど)」

「私は同居した上に告白同然なことも言ったが(買い物と勘違いされたがな!)」

「アタシ昔プロポーズ的なこと言ったのに(味噌汁って言えば良かったの? ねえ)」

「私はプロポーズしたぞ(キスもした)」

 

 各々内外で愚痴を放つ、こう並べてみると織斑一夏が如何に鈍感オブ鈍感なのがわかるだろう。アプローチが若干変化球的なのは置いといて。

 

「確かにな、あいつの愚鈍さには私も呆れているよ。落とすのは至難の技だな。おまけにあの性格だ、困難を極めるだろうよ」

「なんかあの鈍さに心当たりとかあります?」

「知らんな」

 

 なんか楽しそうな千冬、実の弟相手に勝手に転がりまくっている彼女達が愉快にみえたのだろうか。

 

「お前はどうなんだオルコット。一夏に対して何かないのか?」

「わたくしは皆さんと違って恋愛的なものでは……」

「それでもいい。お前は一夏のことをどう思ってる?」

 

 ロイヤルミルクティーを飲み込んだセシリアが一息置いた。

 

「初対面の時よりはマシになりましたが。まだ自分の立場を理解しきれてないと思います」

「というと?」

「一夏さんは世界でも極めて希少な存在です。世界中の中心的な存在であり、男性からしたら自分たちのシンボルとして見られます、彼が望まなくとも。自分のことで手一杯なのもありますが、もう少し自覚というのがまだ」

 

 セシリアは入学したての頃の一夏を思い出しながら眉をひそめた。

 

「クラス代表を決める時、代表候補生であるわたくしを差し置いて皆さんは織斑君織斑君と。わたくしあの時認識すらされてなかったのでは?」

「結構根に持ってるのか?」

「根に持ってるというより。今思うと現実に殴り付けられたといいますか」

 

 それほどまでに男性IS操縦者、IS学園という箱庭の中でも異彩を放つ彼は是が非でも注目の的なのだ。

 

「それをふまえて、色々引っくるめて一夏さんは鈍すぎます。もう鈍いの一言です、鈍いを人の形をしたものです彼は」

「まったくそこまで言われると頭が痛いな」

 

 やれやれとビールを一口飲む千冬、気付けば三本目である。

 

「まあ、奴のISに対する認識の責任は私にもないとはいえない、というよりある。色々手のかかる弟だが、何かと気に掛けてやってくれ。余計なお世話だろうがな」

「い、いえ」

「そんなことはないです」

 

 まだ表情が固い生徒に難儀だと感じつつ、千冬はその固い氷を砕くための石を投げつけた。

 

「さてオルコットが一夏に対するものは他のとは違うのはわかった。成る程、ということは本命はレーデルハイトか」

「んんッ」

 

 突然の変化球に吹き出すことはしなくても気管に入ってしまったセシリアは思いっきりむせこんだ。

 

「ゲホッゲホッ! い、いきなり何を言いますの織斑先生」

「違うのか? てっきりそうだとばかり」

「違います」

『え、違うのか?』

「ちょっと皆さん?」

 

 おかしい、さっきまで千冬と生徒5人という図式だったのに気が付けばセシリアと5人という図式になってしまっている。

 

「同じイギリスの血が通っている」

「幼馴染みで地位も同じくらいだし」

「小難しい話も合いそうだし」

「ISも青い。割と共通点あるな」

「そ、それだけでしょうに……それにそんなこと言ったら、一夏さんと一番共通点あるのは箒さんになりますよ?」

「!!?」

 

 皆が口々に言うなかでセシリアが痛恨の一打を放つと箒以外の三人がセシリアをよそに口々に自分と一夏との共通点を言い出し始めた。

 これで一時的にセシリアと千冬の一対一になった。

 

「私の見立てではお前はレーデルハイトにご執心だと思ったのだが」

「何を根拠に」

「レーデルハイトとの初試合、織斑の時とは熱の入りようがあまりにも違っていた。初戦であそこまで本気でやりあえる相手などそうはいない」

 

 なにか分からないが、何かを見透かされているセシリア。この人は本当にあの朴念仁の姉なのだろうかとさえ思えた。

 

「あいつの家事能力はわからんが成績や運動能力、ISの知識では学園でも上の方だろう。それに気が利く。勘も鋭いし、少しアプローチをかけたら気づくのではないか?」

「アプローチもなにも別に疾風のことは」

「ボヤボヤしてると取られるぞ。あいつも学園に二人しかいない男なんだ、一夏に向いていなかった好意がそっちに行くのも時間の問題かもな。今のうち唾をつけといても損はあるまい?」

「つ、唾をつけるなんてそんなっ」

 

 ケラケラと笑う千冬に目を細めて震えるセシリア。

 実際考えていないわけではなかった。入学して1ヶ月たったいま疾風に対する周りの認識も大分馴染んできている。

 疾風に好印象をもち、彼に告白し、ゆくゆくは………

 

「お、想像したな? お前もいっちょまえに女子だな」

「なんだ? やっぱり疾風のこと好きなのか?」

「もしかしたらと思ったけどやっぱり?」

「どうなのセシリア? そこんとこ」

「決断は早めの方がいいぞ、私が色々教えてやろう」

「ちょっと皆さん!?」

 

 いつの間にか共通点論争は終わっておりまた5対1の状況になってしまっていた。

 

「変な勘繰りはやめてください! な、なにも想像していませんわ!」

「ほっほーん」

 

 ジーと見つめる四人の眼。

 居たたまれなくなったセシリアは急いで言葉を紡ぎ出した。

 

「だいたいあの男の何処が良いのですか! 見た目は至って平凡ですし特に目立った外見的特徴などないしあるとすれば眼鏡ぐらいで、一度口を開けばISISと四六時中ISのことを考えるぐらいギークでわたくしの水着を選んだ時だってブルー・ティアーズの色が蒼だって理由で選ぶ始末なのですよ実際似合ったからそれは良しとして、あと頭の回転が早いからこずるいこと考えたり一見なに考えてるか分からないと思ったらよからぬことを考えてて、勘もよくて耳聡いから妙に確信を突いてくることを言いますし! 口で勝った時のあのしてやったり顔なんて思い出すだけで悔しさが溢れ出そうですわ! もうその鋭いところを一夏さんにというより二人を足して割ったら丁度いいのではと思います! ああもう小さいときなんてそれはもう素直で弟みたいに可愛げがあったのに今となってはもうっ!」

「……………」

「はっ」

 

 セシリアの長く勢いのある流暢な早口言葉に四人は目を丸くし、千冬に至ってはビール缶を横に振りながらニヤニヤしていた。

 

「クラス代表決定の時より語ってるじゃないか、オルコット」

 

 指摘されたセシリアはカーっと顔を真っ赤に染めた。語るに落ちるとはこのことではないか。

 

「とにかくわたくしは疾風にそういう感情は持っていません! 疾風とは幼馴染みでそれ以上でもそれ以下でもありませんのでそこのところどうぞ宜しくお願い致しますね!」

「からの?」

「ありません!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 湯上がりの男二人が廊下を歩く。

 まだ若干湿った髪をした一夏の姿はその容姿も相まって映えるものがある。一夏ラバーズはもとより今の一夏の姿を見ればため息を吐いてしまうのではなかろうか。

 俺は………どうなんだろ、特に反応がない気がする。自分で言ってて少し悲しくなってきた。

 

「ヘックシュン!!」

「湯冷めか?」

「ズズ………いや違う、絶対セシリアがなんか言ったんだ、間違いない」

「なんで分かるんだよ」

「なんとなく!」

 

 きっとあの女性空間で俺の悪口とか鬱憤たか言ってるに違いない。

 

「てか置いてきたけど皆大丈夫かな」

「出るときガチガチだったもんなー、借りてきた猫みたいに」

「千冬姉は厳しいし怖いけど、話してみたら案外普通だし、プライベートなんて結構ユルユルなんだぜ?」

「マジ? そこんとこ詳しく」

「おおいいぜ………っ!?」

 

 突然一夏が体をビクッとさせた後周りを見渡した、その顔には先ほど風呂で流したのにも関わらず汗が流れていた。

 

「どうした?」

「いまなんか寒気が」

「まさか織斑先生じゃね?」

「そうかもしれない………」

「こぅわっ」

 

 ヒシッと腕を抱く男性IS操縦者。

 専用機を持ちながらも、織斑ティーチャーの底知れない恐ろしさに身を震わせた。

 

 会話は自動的にフェードアウト、俺達はその先生のいる自室に戻るために無言で歩き続けた。

 

 曲がり角を曲がると先程噂をしたセシリアと遭遇した。

 と思ったら露骨に引かれた。

 

「え、なに?」

 

 困惑する俺にセシリアは何か言いたそうにモゴモゴと口を動かしたり腕を動かしたりしている。

 

「おーいセシリアどうした? 織斑先生にしごかれた?」

「………ますからね」

「はい?」

 

 よく聞こえないと耳に手を当ててもう一度お願いしますとジェスチャー。

 するとセシリアはプルプルと顔を赤くしながらビシッと俺の顔面に指を突きつけてこう言った。

 

「違いますからね!」

「………いや何がや」

「とにかく違いますからー!」

「いやだから何がーー!?」

 

 言うだけ言って足早に去っていったセシリアに手を伸ばすも空を掴むばかり。

 

「なんだったんだ?」

「さぁ?」

 

 

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