IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
お待たせいたしました!!
あ、箒誕生日おめでとう。
数多くの機密を内包するIS学園の地下区画。
その中でも更に更に奥深くに位置する超特別地下区画。
「そうですか。やはりレーデルハイトは先生の」
「気付いていたの?」
「いえ。束が口を滑らせたのです。ファクター・コードがあるのではと思ったのはこの馬鹿の召使が学園をハッキングした時ですが」
「軽蔑するかしら」
「………私があなたの立場なら、と考えはしました」
「優しいわね織斑さんは」
「不器用なだけです」
そこには世界最強の称号を持つ織斑千冬と、その恩師である御厨麻美。
「………おい、さっさと起きろ馬鹿」
「うごっ」
そして地面にめり込んで飲茶しちまっている
「はっ! ここは何処! 私は誰!?」
「ここは地獄、お前は間抜けだ」
「じゃあちーちゃんは閻魔様………はいすいません。これ以上ふざけないので今すぐ青筋を立てた拳を下ろしてちーちゃん」
何故こうなってるのかを三行で説明すると。
認識外の速度で放たれた麻美の出席簿の一撃が頭部に命中。
怯んだ隙に千冬が渾身の腹パン。
その勢いのまま地面が陥没する勢いで束を叩き付けた。
以上である。
いやなんでそんなフィクションのような攻撃食らって生きてるのか。
それはコイツが篠ノ之束だからというしかない。
気絶する瞬間最後の力を振り絞って飲茶ポーズをする余裕すらあったのだから。
それよりも細胞単位オーバースペックである束の認識出来ない一撃を放つ御厨麻美は何者なのか。
「麻美先生の出席簿アタック相変わらず痛いぃー。パワー的には目の前のゴリラの方が強い筈なのに。面より点ってことなのかな」
「怒りを込めたもの。痛くなかったら何度もやってたわ」
「死ぬ、本当に死ぬよ先生」
「息子同然の子を死なせたのだから当然よ。なんて私が言えた義理じゃないけど、アリアさんと剣司さんの分はやらないとね。終わりよければ全てよしとは行かないから」
「珍しく束さんは反省するよ、先生」
「二度とこんなことをするな」
「確約はしないよ」
「しろ。出なければこいつは起こさせん」
千冬が厳しい目で見やるのは数十のケーブルに繋がれた石像──否、1機のISの姿。
石像と見紛う無機質な灰色の体色を持つそれこそ。かつて織斑千冬をブリュンヒルデ足らしめたインフィニット・ストラトス。【暮桜】の成れの果てであった。
千冬の手が暮桜だった装甲に触れる。
無機質で冷たい石の奥底に。確かにそこに存在する熱を感じた。
「起きそうかな?」
「お前の召使が寄越した強制解凍プログラムのせいでな」
「ただの解凍プログラムじゃないよ。暮桜に被害が出ないよう奴を安全に排出するようにした特別製さ」
「本当に暮桜を目覚めさせるのね。本気なの、篠ノ之さん」
「勿論。そうじゃなきゃIS学園なんて超めんどくさいとこ4回もハッキングしないよ」
どんなプロテクトも即座に踏破出来る束だが。それでも目的のもの、暮桜の居場所を特定するのに4回もの労力を使った。
破られてるとはいえ、世界最高峰のセキュリティは伊達ではなく。束でなければ突破したとしてもカウンターで手持ちの機器全損など訳ないのだ。
それほど隠し通すには理由があり。千冬のみならず暮桜自身が決死の覚悟で封印し続けるのには。
暮桜の中に、決して目覚めさせてはいけない【怪物】が存在する為である。
「分かっているのか束。こいつを解放する意味を」
「勿論分かっている。束さんは馬鹿じゃない。だけどこれをしなければ先に進めない。束さんの目的は暮桜の封印を解いたその先………【しーくん】と再会を果たすためにあるのだから」
しーくん。
「やはり、そうか」
「だけどそれは」
「先生。私は自分の目で見てないものは信じない。私はしーくんに会う為ならなんだってする。勿論、解き放った奴を知らんぷりなどしない。これはインフィニット・ストラトスを生み出した私の責任だから」
声に込められた決意。
束の表情は千冬でさえ一度や二度見たか見ないかぐらい真剣そのものだった。
そんな幼馴染みの想いを汲み取れないほど鈍くはない千冬は溜めに溜めた溜め息を吐き出した。
「………どのみち遅かれ早かれ奴は暮桜を突き破っていた。そうだろう?」
「うん。私の計算だと1年、いや半年あるかないかかな。その時は暮桜を破壊してね」
「わかった。暮桜の封印を解く」
断腸の思い。そして友人の決意を聞いて千冬は決心した。
「じゃあ早速始めようか! これにかこつけて盛りに盛りまくるからね! ちーちゃん!」
「ほどほどにしろ馬鹿」
ーーー◇ーーー
「疾風、当たり前のこと聞くから笑わないでね。これ本当にうちで作ったスカイブルー・イーグル?」
「分かるよ。実は俺が一番疑ってる」
《俺とマスターの努力の結晶に向かってなんてことを》
整備ガレージにてレーデルハイト工業のスタッフから提示されたデータを見た母さんが漏らした感想がこれだった。
セシリアと想いを分かち合い。容態が回復した俺に待ち受けたのは母さんからの往復ビンタと鯖折り寸前の父さんからのハグだった。
母さんからしたら遺書なんておぞましい物を送ってきた俺の行いは正に馬鹿息子のそれで。
父さんは自分たちも息子と同じことをするという自負から愛のハグと併用した鯖折りだった。
死ぬかと思いました。死を経験した奴が言うには安すぎる感想かもしれないが死ぬかと思いました。
お仕置きを終え。今一度
このあとセシリアのも見るということで彼女も同伴で。
「コスト度外視のハイスペックワンオフマシンと言ったところね。このイーグルのボディだけで素のイーグル7機分は作れるのよ」
「ボディだけで? 武器含めないで7倍なの?」
「そうよ。このエネルギーゲイン見てよ」
「うわなんだこれ!」
「都市機能でも賄うつもりですの?」
《やってみせようかお二方》
「「やめなさい」」
鷹マスコット姿で胸を張るイーグルに思わずWツッコミ。
だがこれで驚くにはまだ早いという。
「こんなエネルギーを蓄えてるのも納得ね。機体各所に増設されたプラスマバッテリー。そしてイーグルのメインジェネレーターがエクストラクター化。つまり空気中の電子やイーグル自身が放ったプラズマを再利用、抽出してエネルギー回復に宛がってる」
「つまり自力でエネルギーを回復してると? 絢爛舞踏みたいに?」
「流石にあそこまで埒外な回復も高速充填は出来ないし、回復してるのは飽くまでエネルギーだけでシールドが回復してる訳ではない。けどこれがあれば戦闘継続時間はグンと長くなるわね」
そりゃああんな大立ち回りしてガス欠にならねえ訳だわ。
イーグルさんや。あなたどれだけはっちゃけたんですか? こんな化け物生み出して。
(マスターの
(少しは妥協しろ馬鹿と言おうと思ったが強いことに困ることはないからありがとう相棒)
事実このスペックのおかげであの場を切り抜けることが出来たんだから文句はあるまいよ。
取り扱い注意過ぎるけども。
「そして一番謎なのがイーグル・スフィアに組み込まれたこのマスコットイーグルちゃんなのよね。ここまでのコミュニケーション能力に加えてユーモアまで行けるなんて。もうある意味新種の生命体ね」
「なあお前よ。本当にこれは解明不可なのか? いくら元が最新型AI技術を組み込んだとはいえ化けすぎだぞ?」
《それに関してはすまないマスターの御両親。私としても皆目検討がつかんのです》
嘘である。
だがAIの正体がコア人格のでっちあげなんて言えないよなぁ。
新種の生命体ってのも強ち間違いじゃない気がしてきたぞ。
「でもこのAIユニットがあるからこそシステムPGCは機能すると言っても良いわ。操縦者に対するG負荷を限りなくゼロにする。とんでもないけど、普通のISに組み込んでも使えないわ」
「というと?」
「機構はわかるから再現は出来る。けどこれって凄く緻密な計算とPIC力場処理の細分化することで成り立つの。一歩間違えばあちこちからG負荷が襲ってきてまともに飛べなくなるわ。最悪捻れて骨折不可避ね」
「いっ! 俺そんなヤバいシステム使ってたの!?」
結構ヤバい機動してたと思うんだけどな!?
《ドヤッ》
「そして俺の相棒が凄いドヤ顔してるんだけど」
「表情豊かですわね」
マジで新種生命体では。
それも人間より高次元な。
「そして武器はどれも高コストで複雑。イーグルが設計図を出さなかったら開発期間は今までの非じゃないだろうな。とても綿密かつ精巧な作りをした武器。技術者からしたら一種の芸術品だぜ。予備は作れるけどくれぐれも壊すなよ疾風。1つ作るにしてもコストがかさみすぎる。お前は機体限界試験マラソンばりにISを壊すからな。わかったな? フリじゃねえぞ」
「肝に命じるからそんな怖い顔で迫らないで父さん」
これまで戦闘するごとに装備や何やらを壊しまくってきた俺。
武装や機体を壊さずに戦えたのなんてサイレント・ゼフィルスやアンネイムドの副隊長の時ぐらいと言えばその酷さがわかるだろう。
イーグルの武器はどれも高性能に違わぬ超高価格。
研究試験施設が吹き飛んだ現在のレーデルハイト工業はあまり余裕がない。
あのとき研究施設に居た従業員は避難用地下通路を通って避難することが出来た。
だがそれでも全員ではなく。少ないながらも犠牲者が出てしまった。
それを察してか表情を陰らせるセシリア。
図らずもその一端を担ってしまった。たとえセシリアが手を加えずとも結果は変わらない。エクスカリバーの砲撃を耐えれる手段はあの時の俺達にはなかったとしても………
「セシリアちゃん。自分の責任だと思うならそれは驕りよ」
「え?」
「フランの計画は誰にも止められなかった。たとえあなたが洗脳されなかったとしても一人で止められるものではない。疾風のこともそう。セシリアちゃんがやらなかったら他の誰かがやったことよ。もし責任があるとしたら。それは近くにいながら息子一人も守れなかった母親ぐらい」
「そんなことはっ」
「全ての元凶はフランチェスカ・ルクナバルトとそれに従う頭がゆだったアホウども。私が怒りを向けるのはそいつらだけよ。だからウチんとこでセシリアちゃんを悪く言う人居たら教えてね。カウンセリングするから」
そのカウンセリングは文字通りなのか物理的なものなのかはわからんが。
そこは触れてはならんだろうと口を噤む。
「といっても罪悪感を持つなってのは無理な話。疾風、ケアは貴方に任せるからね」
「わかってるよ母さん」
「宜しい。だからセシリアちゃん、これからも宜しくね」
「は、はい」
変わらずニコッと笑う母さんの姿にほんの少し心が温かくなったセシリア。
好きな人の親御さんからどんなことを言われるか内心恐れていたセシリアは心から安堵した。
「将来の家族としてもね」
「え?」
「は?」
「あら違うの? さっきからずーーっと手を繋いでるからてっきりそうだと思ったんだけれど」
「「あっ」」
顔文字がつきそうなぐらいニヨニヨとした母さんの視線の先には、ガッシリと恋人繋ぎをしてる俺とセシリアの手が。
病室から出てずっと手を繋いだままなのを忘れていた。完全に手を繋ぐのが心地よくてそのままだった。
セシリアが慌てて手を離す。が、すかさず俺はセシリアと腕を組んだ。
「疾風!?」
「何か問題あるか」
「大ありですわよ! 御両親の目の前でこんな密着して………」
「言っとくがレーデルハイト家では日常風景だぞ。目の前の夫婦は揃いも揃って青少年恋愛みたいに子供の前でイチャコラするんだ。これぐらい普通よ普通」
「だとしてもわたくしたちがする必要は!」
「まあ一番はセシリアと片時も離れたくないんだ。俺が」
「あぅっ! 疾風、あなた本当にわたくしに対して甘くなりましたわね! わたくしどうすれば宜しいのかしら!!」
「しょうがないだろ、どうしようもなくお前が好きなんだから。ということでセシリアとお付き合いすることになりました。楓には内緒でお願いします」
「はーい」
「あっさりと! こんなあっさりで良いのかしら! あー、えーっと。不束者ですが………ぅぅぅ………」
あーセシリアがショートしてしまった。
分かってたことだがウブだなセシリアは。可愛すぎる。
そのあと拘束を逃れようとしたセシリアに対し肩を抱くという更なる一手を講じ、「次はハグだぞ」という脅しに屈したお嬢様は体温を高くするのでありましたとさ。
ーーー◇ーーー
IS学園地下ブリーフィングルーム。
そこにはダリル先輩とフォルテ先輩を加えた学園専用機持ち一同、織斑先生と山田先生。父さんと母さん。
そして篠ノ之博士、麻美さんが一室に集められた。
「では、状況を整理する。世界各地で突発的にISコア保有施設を襲撃していたブルー・ブラッド・ブルーだが、突如としてテロ活動を停止。一斉に消息を絶ったそうだ」
「セシリアを取り戻したからですね」
「その可能性は高い。レーデルハイトとオルコットから聞く限り、敵の首魁であるフランチェスカ・ルクナバルトはオルコットに狂気的な執着があることが分かっている」
「陰険な女っすねぇ」
「陰険さならお前も負けてねえよフォルテ」
恐らくは世界に分散していた戦力を集めてセシリアを奪い返す為に集結している。
それかあのババアが精神崩壊起こして再起不能になってそれどころじゃないか。或いは両方か。
「現在。オルコットがIS学園に居ることは外部に漏れていない。が、恐らくここを襲撃する可能性が高いだろう」
「セシリアちゃん抜きにしてもIS学園には相当数のISが保管されている。その他にも機密が目白押し。テロ組織じゃなくても喉から手案件だよ」
「それにIS学園はインフィニット・ストラトスにおけるスポーツ文化、ISの平和利用の象徴だ。IS学園が落とされれば世論へのダメージは計り知れないだろう」
IS学園はIS操縦者、又はIS関連の知識を学ぶ為に日本を主導に建造された教育機関。
そんなIS学園の建設初期には。
『てめー日本人が作ったISのせいで世界は混乱してるから責任もって人材管理と育成のための学園作れや。そこの技術はよこせや。あ、運営資金は自分で出してね』(織斑一夏の要約)
なんてヤクザA国を筆頭に無茶振りを押し付けられた日本はというと。
『技術開示の有無や費用は同意するが。その代わり今後IS学園の運用には口を挟まないということで宜しいか? だって日本の所有物だし他人が口出す権利なんかないよな? ん?』(織斑一夏の要約)
痛烈に皮肉をお見舞いした。
ただでは転ばない元大日本帝国でありIS発祥国として世界的ヒエラルキーが向上した日本。
昔より発言力が強くなった和の國に対しぐうの音も出ないヤクザA国。
仕方ないから金出してやるよ! と世界有数の国々(のちのIS主要加盟国同盟)が札束をつぎ込んだ。
なんやかんやで完成したIS学園はそのあとの運用についてルールの穴という穴を突かれ、一時期波乱万丈の坩堝となり。今の国家、組織、宗教に所属しない完全なる独立不可侵領域として落ち着いたのだった。
まあ長々と何が言いたいかと言うと。IS学園は表向き裏向きでもISの世界的シンボルとなっている。
故にそれを陥落させ手中に落とせばブルー・ブラッド・ブルーの権力と力は歯止めが効かなくなるということを意味するのだ。
更に分かりやすく言うと。
IS学園奪われると、世界超ヤバい。
「それを差し引いても、いや差し引かなくてもあのクソババアはセシリアの為に全兵力を向けることに躊躇わないよ。むしろ今襲ってきてもおかしくない」
「疑問に思うんだけどさ。どうしてそこまでセシリアに執着してるんだ? 確かに戦略的価値は高いと思うが」
「愛着だよ」
「それだけなのか!?」
「それだけだ。愛の力は恐ろしいよ。ここに実例がいる」
「凄くわかりやすい。ありがとう」
愛の力を見事体現した奴はチゲーやと羨望とよくわからない感情を向けられることに変なむず痒さを感じる。
あと地味に服を掴むセシリアが天使過ぎる。
あとでまたハグをしてあげねば。
「理由はこの際関係ないものとする。わかっていることは現在IS学園は存亡の危機を迎えようとしていることだ。これまでとは比較にならない戦力がIS学園を襲撃、そして手中に納めようとしている可能性がある」
「実際そこんとこどうなんだセシリア?」
「はい。フランチェスカは世界征服の橋頭堡としてIS学園を掌握すると言っていましたわ」
「クソが! 身の程を知れ!!」
「疾風、顔が怖いぞ」
「阿修羅だ………」
当たり前だ! 俺たちの聖地をあんなド腐れサイコレズミサンドリーどもの巣窟になんかされたら。考えただけでも鳥肌が立つわ!!
「レーデルハイトの言うとおりだ」
「え!?」
「IS学園はISを学ぶ場だ。決して女尊男卑主義者の苗床にさせる場所ではない。故に我々は持てる全てを尽くし。これを迎撃する必要がある。オルコット、敵の戦力は分かるか」
「はい。わたくしはフランチェスカの側近として様々なデータを拝見していましたので」
「では、敵ISの詳細な数も?」
「現在ブルー・ブラッド・ブルーが保有するISの総数。今回鹵獲したISを引いた数は………145機です」
「「百、よん!?」」
145機。現存コア467のほぼ三分の一の数だ。
世界同時多発的に洗脳させた尖兵を味方として潜り込ませた強奪手段。呆れ返るほど有効な戦術だ。
IS学園も一歩間違えれば奪われていたらしいし。対処した皆に感謝だな。
そしてその中には洗脳された日本代表。
そして恐らく自発的に参加しているフランス代表といった一際強力な戦力も含まれている。
「ブルー・ブラッドがそこまでの戦力を保持してるとは。想像以上だな」
「それだけではありません。人型BT兵器ワルキューレも相当数作られています。更に彼らの母艦である【キャメロット】。それは強力なBTレーザーキャノンを保有する機動戦艦となっています。篠ノ之博士のお陰でエクスカリバーが封じられたのは幸運でしたわね」
「頑張ったからね! エッヘン! あ、ちなみにエクスカリバーをこちらで使うことは出来ないからね」
「え、どうしてですか束さん。あれがあればこっちの強力な武器になるのに」
「やんごとない事情があるんだ。それにだよいっくん。戦略兵器なんて滅多に使うもんじゃないよ。便利だけど、それに頼りきってしまったら人は知らず知らずに深みに堕ちていくもんなのさ」
まあISも立派な戦略兵器だけどねアハハー! とお気楽に笑う篠ノ之博士に苦笑いしつつ。その金言は決して間違いではないことは理解できた。
例えばインフィニット・ストラトスが登場して以降鳴りを潜めた核兵器。
抑止力の効果を失いつつも。一度でも撃たれれば全てを無に帰すそれは力や尊厳を軒並み吹き飛ばす悪魔の兵器だ。
日本はそれによって焼かれ。ISが生まれた後でも。世界は核兵器を2度と使わないよう戒めることとなった。
まあその裏では核兵器よりもISに金をつぎ込め! って背景もあるんだけど。
「こちらの戦力はどれぐらいでしょうか」
「はい。現在IS学園が保有しているISは練習機が30。戦闘教員用が10機。専用機は12機の、合計52機となっています」
「あれ、山田先生。学園のISってもっと少なかったですよね?」
「かねてより申請していた学園の保有コア増強の案が大規模ハッキング事件の後に通ったんです。立て続けに起きる事件に対する生徒のカリキュラムの遅れと学園の安全を考慮して。まさかこんなことになるとは思いませんでしたが」
「現在戦闘教員、そして学生の志願者を募った完熟訓練を行っている。短い時間だがやらないよりマシだろう。日本政府にも協力を打診している」
「レーデルハイト工業から私も含めて3機出せるわ。整備チームもまるごと持ってくるから!」
「それでも戦力差は3倍か………」
敵はBTナノマシンで感覚やIS適正、技量を強化してきた第三世代IS、ブルー・ティアーズの量産型。
加えてワンオフ機も多数確認されている。
この前のイーグルと俺の大立ち回りも圧倒的スペックとファクター・コードと初見殺しを絡めた反則技によってようやく成立したものだ。
こっちに
「無論、我々も無策ではない。束」
「はいはーい! セシリアちゃんの中にあったBTナノマシンを調べて無事に洗脳解除の抗体を作ることが出来たのだー!」
「出来たんですか!?」
「もち! 疾風くんが命をかけてくれたんだから、ここでやれなきゃ世界一の天才の名折れ! 既にワンダーランドに居る洗脳された8人は解除済でーす!」
「すげっ。流石天才」
「もっと言ってくれたまえ!」
鼻高々に巨大な胸部装甲を張る篠ノ之博士。そしてご立派なそれに歯ぎしりする鈴をワンセット。
篠ノ之博士が言うに。洗脳解除された8名はこちらに協力してくれるとのことだ。
元々ブルー・ブラッドの構成員だった残り11機のクリア・ティアーズはIS学園生に宛がうという。
これで総数は71機となった。
更に、洗脳解除が出来るワクチンが完成した。つまりそれが意味するところは。
「洗脳された戦力を奪還し、そしてこちらの戦力を増強することが可能ということだ」
「それならば戦力差を加速度的に縮めることが出来る!」
フランチェスカの支配を脱し、返す刀をぶちかます。
これがIS学園が繰り出す秘策の一手だ。
「やり方としてはこちらのISにワクチンプログラムをインストール。物理接触で洗脳を解除するって感じ。暴走したセシリアちゃんのケースと違って接触時間は格段に短くなってるよ。まあ相手は勿論抵抗するだろうけど」
「要するに適度にぶちのめして洗脳を解くってことね。そっちの方が性に合ってるわ」
パシッと拳を合わせる鈴。
聞いた話によると鈴の従姉妹である台湾代表候補生も洗脳されてるという。
取り戻す算段が出来た今、やる気がみなぎるというものだろう。
「そしてIS学園は切り札を使用する」
「切り札?」
「ああ。IS学園設立から長らく使用されずに備わっていた、学園の最終防衛機構だ」
「まさか。オペレーションBF、ですか?」
「なんです? そのオペレーションBFというのは」
「オペレーション・バトルフォートレス。IS学園全体を軍事要塞とする戦闘形態だ」
IS学園が、要塞化だって?
確かに世界最高峰の施設にしては防衛設備が少ないと思っていたけれど、そんな隠し札が。
なにそれ燃える。
「私もドイツで噂程度でしたが。まさか実在していたとは」
「これが発動すれば。我々は強大な武力行使を敵に叩きつけることが出来る。戦況をひっくり返すまではいかずとも、拮抗させることは出来る」
「そんなものがIS学園に」
「本来はIS学園が他国による侵略を受けるとか。それぐらいのレベルじゃないと発動できないのよ。一回発動すれば世論が五月蝿くなっちゃうからね。ただでさえ世界随一のISコアを保有してるんだから」
だが今回はその条件に当てはまるということとなる。
オペレーションBFで要塞と化したIS学園がブルー・ブラッドに奪われる。そんな最悪な展開はなんとしてでも防がなければならない。
「それは直ぐに発動できるので?」
「ああ。国際IS委員会の承認が降りればな」
「国際IS委員会にですか!?」
「どうしたセシリア」
「…織斑先生。恐らくそれは承認はされませんわ。何故ならいまの国際IS委員会の役員のほとんどはブルー・ブラッド・ブルーの
「「なっ!?」」
「洗脳されてるとかじゃなくて?」
沈痛な表情で首を振るセシリアに戸惑いを隠せない
国際IS委員会は世界におけるISの中心的存在。
ISにおいて何よりも公平な存在である筈のそれが既にフランチェスカに同調する者たちによって腐敗させられていたとは。
「政府関係者を始め、ありとあらゆるところで女尊男卑の風潮は根付いていました。フランチェスカはそれを巧みに利用、或いは協力関係を構築していましたから」
「なんということだ」
「10年前からそういう風潮は鳴りを潜めていた、とは思ってたけど」
「私たちの世界って本当に薄氷の上だったんですね」
あー、うちのお嬢様が暗い顔を。
やっぱ差別って悪だな。
しかしそうなると頼みの防衛機構なしでやれってことだ
元々そういうのはないと思って戦術組み立てようとしてたけど。ないとなると厳しいものが………
と、普通なら思うだろうがそこは我らが最強教師。そこらへんはぬかりなし。
「お前たち。私がそんなことも考えずに最高機密を喋ると思っているのか。既にそこには手を回してある。安心しろ」
「千冬ね………織斑先生がそう言うなら大丈夫か」
「大丈夫よ! 安心してね!」
「なんで会長が答えて……あ、察し」
ドヤ顔です。会長が凄いドヤ顔をしています。
もう何が起こるか分かったようなものです。
「まー起動させるだけなら問題なし。けどちょっとインパクト足りないよねぇ」
「束?」
「敵はセシリアちゃんとIS学園目当てでここに来るだろうけど。それは飽くまで予測でしかない。IS学園要塞化の理由付けも筋は通ってるけど。世論からの視線はやっぱり痛いことになるよねぇ………とにかくインパクトがない。これは世界の為の戦いである! っていうインパクトが!! そう、IMPACT!!」
「姉さん現実にインパクトなんか必要ない! そういうのは姉さんだけで充分だから!」
「えへへーそれほどでもぉーグヘヘヘヘヘヘヘ」
「褒めてないです! うわこっちに寄るなぁ!!」
最愛の妹に褒められた篠ノ之博士。美人台無しの気色悪い笑顔で箒にすり寄っていく。
そして止めに入った一夏をそのご立派な双丘で沈めていく。
ほんとこの人フリーダムだな。
そんな奇人を幼馴染みに持つ世界最強はこめかみの皺を伸ばしている。
「つまり何が言いたい」
「宣! 戦! 布! 告! さ!!」
「(顔面が)やかましい!」
「シンプルなデコピン!」
「まあまあ織斑さん。篠ノ之さんの言動がとち狂ってるのはいつものことだけど「麻美先生!?」言ってることは的を得てると思うわ」
「まあ………………………確かにそうですね」
「認めたくないって顔に出てるぜ千冬姉」
「織斑先生だ」
要約するとこう。
いま世界はブルー・ブラッド・ブルーへの恐怖に満ちている。
ISという絶対的な力の多くを掌握し、更に勢力を増す彼女らの矛先がいつ自分に振りかかるかわからない。
そんな中でIS学園がブルー・ブラッドへの徹底抗戦を表明すればどうなるか。
世間はIS学園がテロリストを祓ってくれることに希望を見出だし、IS学園を英雄視する。
そして自分たちは悪を討つ正義の味方として彼女らに対抗する力。オペレーションBFを行使する。
正当な力の使用により世間からの反感は大幅に軽減される。
わかりやすい正義と悪の縮図である。
「ということで宜しくね疾風くん」
「あ、はい………はい?」
だからこそ。
しかも実績があるという。おまけ付きで。
ーーー◇ーーー
セシリアが奪還されてから既に3日。
ブルー・ブラッド・ブルーの移動拠点である戦艦【キャメロット】は来たるIS学園襲撃に備えていた。
「クイーン。全戦力の帰還率、89%まで完了。ワルキューレの搭載は終了しています」
「IS部隊の帰還完了次第、IS学園に進路を取ります。セシリアも恐らくそこにいるわ。なんとしてでも取り戻すのよ」
あれからセシリアの詳細は掴めない。
フランチェスカの軛から解き放たれた彼女は
束の潜水艦に取り込まれたブルー・ブラッドのパイロットたちも察知出来ない。
セシリア以外のBTマインドを解除する方法を確立したのか。
いや、それならIS学園のISを強奪に使っていた生徒たちの洗脳が解かれていないのはおかしい。恐らく電波を遮断する場所に隔離されてるのだろうとフランチェスカは判断した。
「クイーン。
「………繋いで頂戴」
『ご機嫌ようブルー・ブラッド・ブルーのリーダー。世界征服とやらは順調か?』
Sound Onlyの画面から聞こえてくるのはボイスチェンジャーで加工された声。
スコールのモノクローム・アバターや彼女ら実行部隊の上に立つ者。それは
通信越しに相対している相手がどんな性別か、そもそも人間なのかもわからず。こちらからコンタクトは取れず、通信はいつも向こうからのみだった。
「ISコアの占拠率は順調に進行中です」
『そうかそうか。まあそんなことはどうでもいいんだ。君が世界を支配しようが破壊しようが再生しようが我々にとって興味の対象ではない。だがIS学園を掌握することは絶対条件。その条件を飲んだからこそ。女尊男卑世界なんていうお遊戯を容認したのだからね』
(崇高なる世界を理解できぬ凡人めが………)
フランチェスカは奥歯を噛み締めた。
目の前で話す奴は自分たちがどうなろうと構わず。その結果に興味がない。
飽くまで利害の一致故に黙認されている。その事実は少なからずフランチェスカを苛立たせた。
だがそれを表に出すことは出来ない。
フランチェスカのワンオフ・アビリティー、
疾風・レーデルハイトに使った特別なリムーバーやセシリアに投与したファクター・ナノマシンも彼らからもたらされた物だ。
(そもそも彼らのリムーバーが完全であれば疾風・レーデルハイトにセシリアを奪われなかったものを! 何処までも癇に触る奴らね………!)
どうみてもその場で殺さずに遊びを出したフランチェスカの怠慢なのだが都合の悪いことは彼女の頭にない。
『我々はIS学園が手に入ればそれでいいし。あとは如何様にもしたらいい。君たちの健闘を心から祈ってるとも。そもそもこれだけの戦力差で負けるなんて阿保の極みとしか言えないがね』
嘲笑と共に通信が切れた。
本当に言いたいことしか言わない奴とフランチェスカは怒りを募らせる。
世界征服は上手く行ってるのに何もかも上手く行っていない感覚。
それもこれも疾風・レーデルハイトが原因。
今度こそ彼を殺す。IS学園の掌握などそのついでだ。
彼とセシリアが仮にIS学園にいなくとも。自分の思惑を外れた報いを受けさせてやる。
元から疾風に対してこれ以上ない憎悪を向け。いまはドロドロのコールタールを地獄の業火で煮詰めたようなどす黒い怒りに溢れていた。
『クイーン! こちら管制室!』
「どうかしたの?」
『大変です。いま、IS学園が世界中に声明を出しています! 学園の代表はあの疾風・レーデルハイトです!!』
「なんですって!?」
一介の学生風情がIS学園の代表?
いったいなんの冗談なのかとフランチェスカは映像を開いた。
後に、この声明は歴史的瞬間として記録される。
それはインフィニット・ストラトスが生まれて初めて行われる。
ISが投入された戦争の始まりだった。
どうも皆さん。1ヶ月の半分寝落ちした男、作者のブレイブです。
いや毎度のことながら申し訳ない。
今回は色々つぎ込んだ+書いてない期間の反動で滅茶苦茶疲れましたです。そんなの知ったことじゃねえ?はいまったくその通りでございます。
あとなんか束さん入れるとシリアスが保てないな。存在がギャグだからなあの人。あとシリアス続きの反動だね、うん。
さてさて今回微妙に見え隠れしていた暮桜のシークレット情報が一部解禁で御座います。
束が求めるしーくんとは、暮桜に眠る化け物とは。それも追々明かされることとなるでしょう。
あっ、ちなみに暮桜の封印石化は例のレッドムーンさんとは無関係です。
あれ何回も読み返してるんですけどなんかモニャるんですよね。描写が短く突然過ぎてな。
あとIS学園のISコア保有数ですが。原作設定よりかなーーり盛ってます。
原作3巻のブリーフィング場面に書いてたのですが。学園専用機と教員機入れて30機は流石に少ないよと。
そりゃ箒ちゃん専用機欲しくなるわけですわ。