IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「ん、んーーーあーーーー!」
カーテンから覗く光が大口を開けて寝ていたダリルに当てられた。
最初は抵抗していたダリルだったが観念したかのようにベッドから起き上がる。
ガシガシと頭を掻きむしるダリルの身体は一糸纏わぬ全裸だった。
粗暴そうな性格とは裏腹のシミ一つない白い肌が陽の光に照らされて光った。
「……やっべぇ、もう昼過ぎてんじゃねえか。流石にハッスルし過ぎたかぁ?」
傍らで寝息をたてるフォルテも服を着ておらず、2人がどのようにして寝たのかが手に取れた。
お楽しみでしたねである。
可愛らしい寝顔に思わず柔らかい頬をグニグニとつつくと眉間にシワを寄せてうめき声をあげる彼女に思わず笑みが溢れた。
ベッドサイドに置いた専用機の待機形態であるチョーカーを首に巻こうとした時、通信が入った。
IS間で行われる秘匿性が一際高い通信ライン。
チョーカーを首に巻き、プライベート・チャネルを開いた。
「おはようレイン、あらお楽しみ中だったのかしら?」
「いや、お楽しみしたまま寝ちまったのさ。スコール叔母さん」
レイン。それはダリル・ケイシーの本当の名。
彼女はブルー・ブラッド・ブルーとは違う
「あんまり通信かけてくるなよ。今IS学園は通信記録の警戒が強いんだ。何処にブルーのスパイが居るかわからねえからな」
「スパイの貴方が言うと説得力ないわね」
「前置きは良い。話題は俺の立ち位置ついてか?」
「察しが良くて助かるわ」
レインは
管轄は違えど、表向きではブルー・ブラッド・ブルーに協力する立場にあるといえる。
本人からしたらまっぴらごめんだし。頼まれなくてもミサンドリーのクソ共をぶった斬る気満々だった。
「レイン。貴方は引き続きダリル・ケイシーとして戦線に参加しなさい」
「いいのかよ。頼まれても加勢はしなかったけどよ」
「こちらと合流するのはまだ時期尚早だし、ブルーはこの際消えてもらうわ。流石に今回は元々ない愛想も尽き果てたわ。Мは契約上ブルーの方につくけれど。あなたは私の代わりに奴らをぶちのめして来て頂戴」
「言われるまでもねえ。話はそれだけか? こんなので通信寄越すなよな」
「ごめんなさいね。じゃあね」
気持ちのこもってない謝罪を最後に通信が切れた。
叔母はいつもこんな感じだ。圧倒的に大人の空気を纏う彼女に比べれば誰しもチャイルド同然。いちいちイラつくのも無駄というものだ。
「んー? ダリル? 誰かと話してたっすか?」
「おはようフォルテ。なに、アメリカの方から少しな」
「そっすか……うわっ」
「どした? ……ああこれか」
ダリルの胸元にはいくつものキスマークが付いていた。昨日の夜にフォルテが夢中でつけたものだ。
そんな跡を誇らしげに見せつける恋人にフォルテは真っ赤になる。
「ほんと独占欲つえーよなお前。どっちが攻めかわかったもんじゃねえ」
「うわーやったっすわ。もう隠してくださいっすよそれ」
「なんでだよ。俺は嬉しいぜ?」
「ダリルのスケベ」
困ったフリをしつつも2人は口づけを交わす。
何処か甘い味のするソレは2人の好物でもあった。
学年きってのコンビであるイージスのあり方はブルー・ブラッド・ブルーが肯定するあり方だろう。
だけど彼女たちの頭には女尊男卑なんてしみったれた社会などノーサンキューだった。
「あーーなんかムラついてきたわ。起き抜けにやるか」
「えー……昼なんだからご飯食べましょうよ。あと訓練もしないと」
「今更俺たちに必要ねえって、ほら!」
「あっ、もう仕方ないっすねえ」
ーーー◇ーーー
「どわりゃあああ!!」
「っ! させません!」
甲龍の双天牙月を弓のブレード部で受け止め。龍砲の発射を察知した菖蒲がシールドで防御。
衝撃を利用してノックバックしたのち梓の電磁弓射と八岐銃砲で弾幕を張るも、連結した双天牙月を回転し防御される。
直ぐ様矢をノーマルから曲に変更。炸薬弾頭を搭載した矢が双天牙月に触れて爆発。体勢が崩れた。
「須佐之男!!」
押し切る勢いで櫛名田の奥の手である強化外骨格【須佐之男】を発動。
上半身のみの鎧武者が全身のプラズマスラスターを全開にし鳴神の巨大プラズマブレードで斬りつける。
鈴はそれを受け止めざるを得ず、されど刃を逸らして衝撃を逃がす。だが巨体のエネルギーから繰り出される斬撃を完璧に躱すことは出来ずシールドが削れる
だがそれは必要経費。その巨体に臆することなく懐に飛び込む。だがそこに須佐之男の左拳が襲いかかる。
「そう来るでしょうね!!」
鈴は菖蒲に向けていた双天牙月を迫りくるプラズマの拳に渾身の力で振り下ろす。
振り下ろし跳ね返る両刀の勢いのまま宙返りして回避。
「あぅあっ!」
イメージインターフェースの恩恵を第一に受ける須佐之男も空白になった思考では動くことが出来ない。加えて防御に使う盾も須佐之男の装甲にあてがっている。
仄かに光るアンロックユニット。衝撃砲特有の空間の歪みが目視出来るほど捻じ曲がる。
「ふっとべ!!」
全力全開の龍砲が須佐之男ごと菖蒲を地面に叩き伏せ。その首筋に双天牙月があてがわれた。
「よーし取ったぁ!」
「参りましたぁ」
須佐之男を解除して両手を上げる。
来たる決戦に向けて限界戦闘をする訳にはいかない。飽くまでウォーミングアップに留めるのが原則となっていた。
「鈴様絶好調ですね。須佐之男に怯まず向かってくるなんて」
「確かにあれ威圧感バリバリよね、子供泣くレベルで。でもあれ防御かなぐり捨ててるでしょ。離れたらそれこそ思うツボだし。ああいう巨体系はあえてゼロ距離よね」
その性格から鈴は考えなしの猪突猛進と勘違いされがちだが。その実天才的なまでの戦闘センスと反射神経に裏打ちされた臨機応変かつ思いっきりのあるスタイルが売りだ。
「やる気に満ち満ちてます」
「負けられないからね。乱をぶん殴って取り返す。泣き落としされてもぶん殴るわ」
「躊躇いがないですね」
「そういう仲じゃないし、助けられるってわかってるからね」
台湾代表候補生、凰乱音が出た時は優先的に対応することは既に許可を得ている。
ついでに日頃の恨みも込めてぶっとばすのは鈴より乱の方が大きいのと同じぐらい機密事項である。
「しっかし菖蒲もやるようになってきたわよね。衝撃砲全部受けきったじゃない。もしかしてまだわかりやすい?」
「はい。撃つぞ! ってのが凄く」
「んーー。やっぱ私化かし合い苦手だわ」
「駆け引き苦手ですもんね。その癖時に臆病になって」
「ちょい待ち。話題を180度変えるのやめてくれる?」
一夏ラバーズと書いてヘタレと読む。
ここテストに出ます。
「そういうあんたはどうなのよ」
「何がです?」
「疾風とセシリア。もうガッチリ噛み合って固定されちゃったじゃん。の割には悔しそうじゃないなって」
「そうですねぇ。でも疾風様とセシリア様があんな幸せそうなのを見たら。逆に応援したくなりますし、推したくなりました」
「色々突っ切って推し? 半端ないわねあんた」
「簪様も同じですよ。お二人とも尊いので」
「半端ないわねあんたら」
ノーブレーキと書いて疾風ラバーズな菖蒲と簪。
二人の思考回路は色々似てるようなものがあり、シンパシーを感じるのだ。
もし一夏に自分とは違う彼女が出来たとしたら、とても祝う気になれない。間違いなく寝込む。
「流石に諦めもついたって訳?」
「いいえ」
「いいえ? いいえって何よ。まさか略奪愛とか? エグいわね」
「違いますよ。疾風様からセシリア様を奪うのはこの上なく悪手です。なので、側室を狙おうと思います!」
「ぶふぉっ!? 更にエグいの来たんだけど!!?」
この女とんでもねえである。
そしてマジである。本気と書いてマジである。
「英雄色を好むと言います。疾風様ほど魅力的な男性なら側室の1人や2人は居てもおかしくはありません。私のご先祖様も正室2人、側室20人でしたし」
「あんたバッカじゃないの!? 側室って何時の時代よ! てか日本でもイギリスでも認められてないわよ!?」
「鈴様。認められないなら認めさせればよいのです。手は幾らでもあります。簪様も乗り気ですし」
「こわっ! 武家の人間こわっ!! てか簪も!? 疾風を好きな奴ってみんな揃ってロールキャベツ系なの!?」
日本でも最大規模な徳川グループの娘と裏世界最大勢力の更識の娘。
やる気になれば法さえも変えられる。気がする。
「まあまあ落ち着いて下さい鈴様。これは鈴様にも悪い話ではありません。いっそのこと鈴様たち全員で一夏様を囲いません?」
「囲わないわよ破廉恥な! でも一夏なら逆に言いそうで怖いわ!! てかそれならあいつの嫁百じゃ済まない気がする……」
みんな等しく大切だ。誰かが悲しい目に合うんだったら。全員責任を取る。
良く言えば懐が広い。悪く言えば優柔不断。
マジで言いそうなのが織斑一夏という男。しかし彼に100人の彼女を幸せにする愛しか知らぬ化け物と同じレベルの甲斐性を会得出来るかは不明である。
数多の時空でハーレムを築いたその業は深い。
風評被害と言ってはいけない。いや、別にいいや。
「まあ戯れは此処までとして」
「マジで戯れにしてよ」
「アハハ。といってもこれは飽くまで疾風様が認めればの話ですから。疾風様は骨の髄までセシリア様一筋ですし。セシリア様もそのようなお考えはお認めにならないでしょう」
「まあ、そうよね。疾風が複数囲うなんて器用な真似出来るわけないし」
「なので召使いとして雇ってもらってお手つきを、というプランも用意してあります」
「ごめん菖蒲。あたしあんたのこと本気で怖い」
疾風ラバーズと書いてビッグラブ。
疾風含めてその愛の深さと重さは計れるものではない。
その思想には相容れないが。
菖蒲の前向きさと勢いは自分も見習わなければならないと感じた鈴だった。
「はぁいだらぁぁぁぁ!!」
「セイヤーっ!!」
「なに?」
「山田先生?」
雄叫びを上げながらアリーナに飛び込んだ真耶とクラリッサはお互いの得物のロックを外す。
「今日で雌雄をつけてやります!!」
「神の世界への引導を渡してやる!!」
「え、ちょっと待って!」
「ひゃぁぁぁ!!」
真耶は怒気増々で両手にグレネードとガトリング。クラリッサはハイな笑顔で試作レールガンを発砲した。
周りの被害も気にせずアリーナを滅茶苦茶にする2人に巻き込まれる形で鈴と菖蒲は吹き飛ばされた。
ーーー◇ーーー
始まりは些細なことだった。更識姉妹と布仏姉妹が書類整理を終え、虚が入れてくれたお茶で束の間の休息に入ろうとしていた。その矢先。
「ぶふぅ!!」
突如、生徒会室で楯無が茶を噴き出した。
原因は愛する妹、簪が何気なく姉に聞いたことが発端だった。
吹き出された茶は見事な放物線を描いたものじゃった。
「ケホッ、ケホッ。か、簪ちゃん? いまなんて言ったのかしら? 多分お姉ちゃんの聞き間違いだと思うんだけども。念の為、念の為もう一回言ってくれる?」
「更識と徳川の権力で日本に一夫多妻制の法律って作れる?」
「聞き間違いじゃなかったー!」
思わず耳を塞いでンアーーとうめく楯無。
口に手を当て何も言えなくなる虚。
わーかんちゃん大たーんと通常運転な本音。
そして爆心地カンザシー。
「あの簪様、順を追って説明して頂けますでしょうか。このままではお嬢様が再起不能になります」
「うん。疾風とセシリアがお付き合いしたでしょ」
「ラブラブだよねぇ」
「2人は既に熟年夫婦の貫禄が出てる。かと思えば新婚どころか出来立てカップル並の初々しさも兼ね備えている。ぶっちゃけ見てて尊いの」
「え? かんちゃん推し活始めちゃったの?」
「だって。あんなヒーローヒロインな展開をリアルで見るとね」
「まぁ、簪ちゃんの言いたいことは分かるわよ。惚れ直すわよねアレ」
洗脳されたヒロインを復活覚醒したヒーローが救い出す。
アイアンガイ顔負け、いやそれ以上の物を見せられた。
羨ましく思うのは無理もなく。そして決定的な物を魅せられ。嫉妬を超えて推しに昇華された。いや嘘、嫉妬もある。
「疾風とセシリアを引き裂くことは出来ないしする気もない。二人には死が分かつまで幸せになって欲しい」
「発言に重みがあるわぁ」
「でも私と菖蒲も諦めきれる恋をしてない。そんな風に悩んでたら菖蒲が言ったの。2人の力で合法的に付き合える方法で行こうと」
「それで一夫多妻制はぶっ飛び過ぎよ簪ちゃん」
「どうせ今回の事が終わったら、政界の女尊男卑派は一掃されるし。このドサクサに更識と徳川の力でやれないかなって」
「それこそ法整備崩壊待った無しよ。やめなさい本当に」
私のせいか、簪ちゃんを放っておいたせいなのかしら! 楯無は自己嫌悪に殺されそうになった。
簪は根がネガティブなとこは残っているが。殻に籠もっていた反動で羽ばたく力が凄い事になった。
その原因と立役者である疾風に理不尽な恨みをぶつけずにいられない。
「とにかく駄目よ! お天道様が許してもお姉ちゃんは許しません!」
「なんで? お姉ちゃんにも得なのに。だってお姉ちゃんは」
「かーんざしちゃーん!? 何を言ってるのかしら!? わ、私は別に一夏くんのことなんて」
「まだ一夏の名前出してない」
「はっ!?」
迂闊。自ら墓穴を掘りまくった楯無は更識家当主会議時に匹敵するほどの頭を回転をさせる。
そしてたまたま目に入った虚に焦点を定めた。
「ううう虚ちゃん! 気になるあの赤毛の子と連絡取ってたけどどうだったの!?」
「え、なんで私が五反田くんと電話したこと知っているのですか」
「さっき電話してるとき顔赤かったからそうかなって。しかも余り見ない柔らかい笑顔してたし」
「私そんな顔してたんですか!?」
「してたよ〜。まさに恋する乙女って感じ〜」
「本音も見てたの!? ……恥ずかしっ」
パシッと赤くなってる頬を抑える虚に謎のキュンを感じる楯無。
昔から私、恋愛は専門外ですのでという顔をしていたあの虚がこうもなろうとは。恋は人を変えるとは良く言ったものである。
ぶっちゃけ順調そうなのでマジで羨ましいのは楯無の胸の内。
「そういう本音はどうなの? なんか浮いた話とかないの? いや貴方に限ってそれはないんでしょうけど」
「わかるわ。本音ちゃんって花より団子って感じだし」
「『恋愛? それって食べれるのー?』って言いそう」
「みんな酷い〜」
と言いつつヘラヘラしてる本音。
本音って名前の癖して何考えてるかわからないのがのほほんクオリティ。
いや、もしかしたら簪や菖蒲以上にエキサイトな事考えてたり考えてなかったりするかもしれない。
布仏本音は底が知れない。
「とにかく。先ずはブルー・ブラッド・ブルーを倒さなくちゃ。悪が栄えた試しはない」
「正にそのとおりだわ。敵は強大だけど、だからこそ燃えるって物よね」
「そして打倒の暁には」
「させないから。絶対させないからね簪ちゃん!」
「お姉ちゃんのヘタレ」
「貴方たちがアグレッシブ過ぎなの!」
ーーー◇ーーー
「んん!?」
待ち人を待っていた俺に謎の何かが襲う。
多分俺の頭に白い稲妻エフェクトが走ったことだろう。俺ってばカテゴリ的には強化人間だし。
『どうしたマスター』
「いやなんか悪寒が」
『クソレズババアが罵詈雑言吐いてるんじゃないか?』
「いや邪気は感じなかったのよね。これは……凄み?」
その気になれば空も飛べたり、ジャンケン対決で3階建ぐらいジャンプ出来そうな凄みを感じた。
なんだろう。邪気はないけど必ず阻止しなきゃ行けないという謎の覚悟があった。
「はーやーてー兄!」
「うおっとぉ! 今日も元気いっぱいだなマイシスター!」
「むふー! 久方ぶりの疾風兄だぁ。スーハースーハースーハースーハースーハー」
「おおう。生暖かい息が当たりまくる。グレイ兄、助けてくれ」
「楓。疾風が困ってるから離れなさ」
「いやっ!!」
「凄い拒絶」
レーデルハイト家長女、長男。IS学園に到着。
二人は俺の縁者ということでもっとも狙われやすい存在。いま世界でもっとも危険であると同時にもっとも安全なIS学園に匿う流れとなったのだ。
「二人とも無事に来れてよかった。とくにグレイ兄はイギリスから此処まで来てさ」
「人生で初めて女装したよ」
「「女装したのグレイ兄!?」」
「食いつかないでくれ二人とも」
母さん譲りの金髪を弄りながら我らがイケメンお兄ちゃんは恥ずかしそうに笑った。
相変わらず一夏に匹敵するイケメンだな我が兄は。さぞ女装も映えただろう。
グレイ兄は今の今までイギリス支社で業務にかかっていた。
グレイ兄はフランチェスカとも顔を合わせている。いつ襲われてもおかしくない。だからといってイギリスに居たままでは危うい。
そこで護衛を買って出た更識の策が女装だった。
楓も美少女枠だし。本当にあのマッスルジーニアスの血入ってるのかなこの二人。
「イギリス支部色々大変だったでしょ?」
「そっちには負けるさ。日本は、というよりお前も大変だったな」
「ん。ぼちぼちね」
「疾風兄! 演説凄いカッコよかった! 余りにカッコよすぎて私思わずぜっ」
「ストップ妹よ。お兄ちゃんその先聞きたくない」
「はっ、うっかり。というか髪伸びたね疾風兄! それって地毛? カツラ? 触っていい?」
「触ってもいいけど。お兄ちゃんグレイ兄と話があるんだ。母さんたちのとこ行ってくれる?」
「えーー! まだ疾風兄成分補給してない!」
「あとで1時間吸わせてあげるから」
「ほんと! 約束ね! ヤッホーーー」
バビューンと去る妹。
これで俺が1時間拘束される事が確定したわけだが。長い事心配かけてしまっただろう。必要経費と思って甘んじて受け入れよう。
「母さんと父さんから話は聞いてる。思い出したんだってな」
「流石グレイ兄話が早い」
どうやって話の糸口を開こうかと悩む暇すらなく兄から糸口を開いてくれた。
つくづく出来たお兄ちゃんだ。
「グレイ兄は何処まで知ってるの。俺の出生とか」
「何も知らないよ。まだ高校生だったある日突然父さんたちが『知り合いの子をうちの子にすることになった。色々訳ありだから、最初から家族だったという事にしてくれ』って言われてそのまま受け入れたよ」
「よく受け入れたよな。そんな得体の知れないガキンチョを」
「自分で言うとアレだけど。俺は子供らしくない子供だったんだ。年相応の趣味や主観をしてる癖に人より達観してるというか。まああれだな。中学、高校が激動の青春だった。ある2人の濃すぎる女子のせいで、いやもう1人居たか」
その3人が気になりはしたが。話の腰を折るまいとあえて突っ込まずにいく。
「何か訳ありなのは間違いはないし。楓もお前も、5人の家族が昔から当たり前だったみたいに過ごしていた。いきなり来たまだ6歳なりたての男の子。疑問はあったし戸惑いもあった。怖いとすら思った。俺は夢を見ているんじゃないかって思う時が何回もあった」
「異物感の塊だよな」
「そうだな。でもあの時のお前が何処か寂しそうで、何かに怯えてた感じでさ。小さい声でお兄ちゃんって言ったんだ。それを見たら兄としてしっかりしなきゃならないって思えた。この子は疾風・レーデルハイトだ。俺の兄弟であり家族だ。それ以上でもそれ以下でもないのだと」
「グレイ兄………」
「なあ疾風。俺はお前の良き兄でいられただろうか」
言葉にするのは簡単だ。
普通の養子なら問題はないだろう。
だけど親からは特に理由もなく、そして楓は初めから俺を家族と認識していて。
疎外感があっただろう。経緯を知らなくても、俺という存在はレーデルハイト家に縫い付けられた雑なパッチワークだ。
だけど、それでもグレイ兄は受け入れてくれた。
家族として過ごす。そんな当たり前のことを、当たり前にする為に。
現にグレイ兄と過ごした時間は。何処までも普通で、普通に楽しい時間だったのだ。
「勿論だよグレイ兄。こんな出来のいい兄ちゃんで居てくれて俺は幸せ者だよ。むしろ俺の方が心配なぐらいだよ」
「そうか、ありがとう疾風。といってもお前は出来のいい弟だったからな。苦労なんてなかったさ」
「自己主張がなかっただけな気がするけど」
「今は苦労しまくりだけどな。何回もISボロボロにするし。挙句の果てテロリストに宣戦布告したり、しかも全国中継で。賢い子かと思ったけどもしかして普通に大馬鹿なのか?」
「違いないけど今言うことではない気がする!」
ええ自他ともに認める大馬鹿野郎ですけどね!
不出来な弟でごめんなさいね!
自然と笑いが出た。
ほんの少し怖かったつっかえが取れて心が軽くなるのを感じる。
「あ、グレイ兄。くれぐれも楓には」
「わかってるさ。血の繋がりがあるってことでかろうじてリミッターがかけられてるんだ。もしそれが解き放たれたら……」
「うわー、想像できるぅぅー」
いまも婚姻届を懐に忍ばせているだろうレーデルハイト家次女だ。
それに加えてセシリアと付き合ってることなど知られた暁には、もーう大変だぞー。
「あらあら。なんか楽しそうね」
「あ、御厨さん」
声をかけていたのは御厨さん。後ろには織斑先生と篠ノ之博士も。
学園のシステム周りとかだろうか?
と思ったら篠ノ之博士がグレイ兄を見るなり怪訝な顔をして目を細めた。
「ん? なんか記憶のどっかで見たことある顔が居るんだけど? 重箱の隅にあるような感じの」
「親の顔すら忘れるお前がそれだけ覚えてるなら重畳だな」
「グレイ・レーデルハイトさんよ篠ノ之さん。ほら、お金持ちの」
「あーー! ボンボン! お前ボンボン野郎じゃん! 思い出した! ボンボンだボンボン」
「久しぶりですね篠ノ之さん。相変わらず俺を見るなりボンボンって。昔からボキャブラリー無かったけどついに退化したのかい?」
「はぁぁぁん!?」
「あと先生もお金持ちで思い出させないで下さい。それしか取り柄無いみたいじゃないですか」
「……フフッ」
「織斑さんも笑わないで。そんな肩震わせて笑わないでくれ」
ん? ん? んー?
なんかやけに親しげじゃないお兄ちゃん?
てかいま御厨さんのこと先生って言った? つまりつまり?
「グレイ兄。もしかしてこの御三方とお知り合いだったりする?」
「そうだよ。2人とは中学時代の元クラスメイトで、御厨所長は元担任」
「ファッツ!? マジで知り合い!? 同級生!?」
「あれ、言ってなかったっけ」
「言ってたらこんな反応してないよねぇ!!?」
おい待て待て! これ以上驚くことはないと思ってたけどこれは無理だよ!?
確かにグレイ兄は織斑先生たちと同じ24歳だけど。嘘だろマジか。
さっき言ってた激動の青春がこれか。もう一人は間違いなく篝火ヒカルノ所長だろう。
口を開けてアガガガとなっている俺を脇にグレイ兄は御厨さんに会釈した。
「改めまして、お久しぶりです先生。お元気そうで何より」
「ええお久しぶり。前にお宅に出向いた時には丁度入れ違いになって会えなかったから。それこそ中学卒業以来かしら? 進路相談の時、母親の仕事を継いで次の社長になるって言ってたけど」
「はい。今は秘書をしながら母から学んでいるところです」
「貴方が居るならレーデルハイト工業は安泰ね」
「ありがとうございます。今回の事件で深い痛手を負いましたが。必ず立て直すことを誓いますよ」
いつも通りな感じだけど。なんか嬉しそう。
2人と同じくグレイ兄にとっても御厨さんは恩師なのかな。
「しかし先生。昔もお綺麗でしたが今はもっと綺麗になった気がします。顔付きも何処か明るいようにも見える」
「あら、相変わらずお上手ね」
「事実ですよ。俺は基本的に嘘はつかない人なので」
「ありがとうレーデルハイトくん」
おおう。
グレイ兄って滅多なことで女の人褒めないのにベタ褒めじゃないか。
しかしあれだな。実の兄が血縁上実の母親口説いてるっぽく見えてなんかモニョるな。
そしてモニョったのは俺だけではなく。
「グヌヌヌヌ。おいボンボン! ボンボンの癖して先生にナンパするとは良い度胸じゃん!! いてこますぞコラァ!!」
「失礼な。これは先生に対する嘘偽りない賛美だ。ナンパなんかという低俗な奴と一緒にしないでもらおうか。それにいかにも俺が先生に相応しくないって体で話してるが少なくとも君よりは人間が出来てると自負しているよ」
「はぁぁ? 金持ちと凡人範疇の高スペックだけが取り柄の奴が人類史上最高レベルの天才である束さんに張り合うって?」
「相変わらずスペックでしか人を測れないのは変わってないね。少なくとも篠ノ之さんと違って社会不適合者じゃない時点で勝ち確定だよ。社会不適合者じゃない時点で」
「二回! よりにもよって二回も言いやがったなこのボンボン金髪!」
「なんか言いましたかこのキツめメルヘンファッション」
「ぬがぁぁぁ!!」
ムキーという効果音が出るぐらい篠ノ之博士がプンプンだ。
あっ、博士が荒ぶる鷹のポーズで威嚇し始めた。そしてグレイ兄が鼻で笑った。
「先生。あの2人って前からああだったんですか。少なくともあんなに煽り散らかすグレイ兄初めて見ました」
「お前の兄は学生の頃風紀委員だったんだ。先生と一緒に当時ヤンチャしてた私と束を授業に復帰させようとつけ回していた。束はああ見えて理論詰めは出来るが煽り耐性が低くてな。それが分かってから先生をネタに煽り始めて今に至る」
「すげー、篠ノ之博士相手に。俺の煽りってまだひよっこだったんだな」
「競うな馬鹿者。しかしまあ、お前のそういう側面を見た時は。あーこいつは間違いなくあの男の弟だなと思ったよ」
出来れば平和で日常的なタイミングで話して欲しかったですけどね。
いや織斑先生からわざわざカミングアウトすることでもないだろうけども。言わなかったグレイ兄が悪いな、うん。
と思っていたら決着がついたらしい。
グレイ兄の澄ました顔を見るに勝敗はそうなったようだ。マジでパネェなお兄ちゃん。
「ぬがっきゅいいいい」
「いい大人が人が出さない声を出すものじゃない。獣かお前は」
「ああ言えばこう言うなお前は!」
「君が大人の会話が出来たら打ち返さないよ俺は」
「くぅぅぅ」
もうコテンパンである。
ここまで負けっぱなしな篠ノ之博士は世界広しと言えどもここぐらいだろう。
だが負けっぱなしで終わらないのも史上最高と称された篠ノ之束とも言えるだろう。
灰色の脳細胞も真っ青なハイパーマルチタスクブレインは伊達ではない。
「フッフッフ。そんな生意気な口をこの束さんに吐いて良いのかなグレイ・レーデルハイト。束さんには君を追い込める秘策があるのだよ」
「なん、だと!?」
「フッフッフ」
「驚いた……君が俺の名前を口にする日が来るなんて。これは歴史的瞬間だ。篠ノ之さん後生だ、もう一回言ってくれ! 録音するから!」
「ちがーう! そうじゃなーい! ほんと調子狂うなお前は!」
いやほんと調子が狂います。
兄よ。あなたそんなにひょうきんな男だったのかね。
人生驚きの連続と言うが。この一ヶ月間で一生分の驚きをしてる気分だ。もうこれ以上何が起こっても驚かないことないと思えるよ。
「あーもう完全にあったま来た!! 疾風くん! 君のお兄さんはね! 卒業式の時にちーちゃんに告白したことがあるんだよ!!」
「なにぃぃぃ!?」
「あの馬鹿……」
「ちょ、篠ノ之さん!?」
すいません訂正します!
まだ驚くことがありました!!
「しかもベタにロマンチックな桜の木の下で!」
「桜の木の下でぇ!?」
「そして速攻フラレたんだよ!!」
「速攻フラれたのぉ!!?」
「篠ノ之ぉっ!!」
堪忍袋の尾を置き去りにグレイ兄が篠ノ之博士に掴みかかった。
おー怒ってる。怒ってるグレイ兄は貴重だぞ。少なくとも俺はあんなふうに怒られたことないぞ。
自然と動く視線に気付いた織斑先生はそれ以上聞くなよという目をしていた。
織斑先生。うちの兄は中学からでも優良物件過ぎたのに何故断ったのですか。
しかも全然狼狽えも顔も火照らせてないし。完全脈無しだったの? 悲しいな。
「このっ! 君は相変わらず起爆剤の塊だな本当に!」
「へへーん! 束さんを怒られせたらこうなるんだよザマーミロぉ!」
「クソッ! ならば俺も切り札を切るしかあるまい。あのバレンタインの惨劇を!」
「馬鹿! アホ! マヌケ! あれは墓場まで持っていくって皆で決めたじゃん!」
「あの時一番被害受けたの俺なんだぞ! しかもなんで告白のこと知ってるんだ!?」
「え、普通にちーちゃんに盗聴器仕掛けてたからだけど」
「あれは篠ノ之さんが御厨先生にチョコ上げたいという話から始まったぁ!」
「しゃぁべるなぁぁぁ!!」
篠ノ之博士がグレイ兄を押し倒した!
これ写真撮ってスクープに売ったら大変なことになるな。そんな絵面が展開された。
流石に止めるかと思った織斑先生、のポケットに入ってたスマホが鳴る。
「なんだ、ボーデヴィッヒ? 私だ、どうしたボーデヴィッヒ……なに? 山田先生とハルフォーフが? わかった、直ぐに行く」
「あれ、ちーちゃん何処行くの?」
「第3アリーナだ。ハプニングを止めに行ってくる」
「あ、私も行く! まだちーちゃんと話したいし。おら行くぞボンボン!」
「ちょっ! なんで俺まで!」
「置いていったらバレンタインのこと話すでしょ! ほら!」
「うわっ! まさかの俵持ち!? 前から思ってたけど君たちの筋力何処から来てるんだ!?」
米俵のように担がれたグレイ兄が強制連行されるのを止める暇もなくただ見送るだけとなった。
「まさかグレイ兄も御厨さんの教え子だったとは。凄いアレでしたけど」
「フフフ。でも仲が悪いわけじゃないのよ」
「わかります。篠ノ之博士、凄い自然体でしたから」
拒絶するわけでもなく、むしろ篠ノ之博士から話しだしたぐらいだ。
名前を覚えていたかは定かじゃないが。嫌ってる訳では……ないよな?
「グレイ兄の言ったとおり。顔色よくなりましたね」
「そうね。少し重い荷物を下ろせたから、かな」
ほんの少し柔らかく笑う御厨さん。
前までは何処か無理して笑っていたから、良かった。
「御厨さん……その」
「どうかしたの?」
「……俺、全部思い出しました。俺が生まれる前から、レーデルハイトの子になる前まで」
「それは」
「あっ、待って下さい! 責めるつもりないんです! むしろ、感謝してるんです!」
この世に生を受けて、記憶を引き継げず、心臓が弱りきった。はっきり言って厄まみれで、出来損ないだった俺と向き合ってくれた。
一度精神の均衡が崩れた後も、変わらず自分を気にかけてくれたこの人に。
「でも私は、あなたを一度殺そうと」
「確かにそれは変えられない事実です。でもあなたが俺を愛してくれたことも事実です。貴方と過ごした幼少期、俺は間違いなく幸せだった。俺はあなたをこれっぽっちも憎んでいない。それだけは、自信を持って言えます」
「疾風くん……」
「だから、どうしてもこれだけは伝えたいと思いました。ううん、思ったんだ……俺をこの世に産んでくれてありがとう……
「っ!!」
産みの親に向ける。精一杯の感謝の言葉。
彼女にとって、もう二度と聞くことはないと思っていた言葉に驚きを隠せず、そして静かに涙を流した。
「…………ありがとう。こんな私を、お母さんと呼んでくれて……でも、そう呼ぶのは今日で最後にしてね」
「でも」
「私の息子は、もうこの世にいないの。あなたがどれだけ同じ遺伝子と外見を持っても。私の息子、御厨疾風はもういない。ずっと、ずっとそれを認められなかった………ようやく、子離れが出来るわ」
「御厨さん」
「ありがとう疾風くん。私のことをもう一度お母さんと呼んでくれて。凄く嬉しかったわ」
涙を隠さず、それでいて満面の笑みを浮かべた。
長い間罪の意識に苛まれた御厨麻美の心が、ほんの少し救われたのだ。
あの一回で充分だと。彼女はそう言ったのだ。
ならこれ以上言うのは、というもの。
「わかりました。今日で最後にします……ではその代わりと言ってはなんですが」
「?」
「麻美さん、と呼んでも良いでしょうか。御厨さんだと他人行儀ですし……馴れ馴れしいですかね?」
「ううん。嬉しいわ疾風くん」
「そうですか。改めて、これから宜しくお願いします。麻美さん」
「ええ、宜しくね」
俺と麻美さんは本物の家族ではないのかもしれない。
でも繋がる形というのは家族だけではないはずだ。
家族ではなくても。俺と麻美さんの繋がりは確かにそこにあるのだから。
「最後に一つ。お願いがあるの」
「なんでしょう」
「……抱きしめても、良いかしら」
「っ! はい、よろこんで」
ぎこちなく、そしてしっかりと抱きしめる。
自分の息子の生き写し、触れることでわかる心臓の鼓動を。
御厨麻美は、俺の見えないところで静かに涙を流した。
どうも、AC6でAC過去作の再現するの楽しい。ブレイブです。
実はISのAC再現機40機あまりをX(旧Twitter)に投稿したことがあって、興味がある方は覗いてくれると幸いです。
さて。本当は前編後編で分けたかったのに案の定上手く行かない俺です。
今回はなんといっても超久々に疾風の兄グレイ・レーデルハイトが登場。
最後に喋ったのが第一章の7話。名前が出たのが第三章でしたからね。誰やお前と思った人絶対居ただろ……
これでもレーデルハイト工業の次期社長候補にして縁の下の力持ちという絶妙な立ち位置。これから出番増やしたいなと思う。
後は、菖蒲簪のぶっ飛び発想。これに関しては前から構想はありました。が、本人たちも半分冗談としているのでこれ以上広がることはない、はずです。
次回後編。ついに戦いの火蓋が切って落とされるのか。
俺の文才で展開できるのか!ひと思いになんとかなれー!の精神で頑張らせて頂きます。