IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第148話【至高の白・凡百の黒】

 

 

 戦場が混迷を極める中、IS学園のハンガーも火の車だった。

 

「打鉄戻ったぞ! エネルギーケーブル繋ぐのを忘れるな! 直したら直ぐに出戻りだからな!」

「ラファール3機目が戻ってきた! デュノアさんとこは手空いてるのか!?」

「ヘルハウンドが戻ってきた? 動力系統不調!? あんな馬鹿げたもの取り付けたら不調の一つや二つ出るわよ!」

「でもあのオーバード・ウェポンは戦場用に調整されてたんじゃなかったか?」

「それがフォルテ先輩の冷却機構と合わせて無理やり稼働限界振り切って使ったらしくて……」

「もう馬鹿ばっかり! はやくこっちに回して! 専用機は大事な戦力なんだから! サボってる暇なんてないのよ!!」

 

 損耗率が5割突破したパイロットが順繰りにガレージに戻ってくる。

 最低勝利条件が死者0な以上無理をしない

 

 戦闘機や戦車と比べてISの整備製は格段に簡略化されている。

 そもそもシールドバリアのおかげで内部フレームまで損耗することが少なく。メンテナンス状況が常にIS側から確認できるため修理完了のチェックも容易なのだ。

 整備員が万全、そして補給線が完ぺきであれば整備補給の早さは僅か5分。F1レーサーのそれと比べれば兎と亀ほどの差だが兵器としてはこれほど早いことはない。

 逆にネックなのはエネルギー補給だ、これに限っては最低でも10分、遅くても15分ぐらいかかる。

 だからこそ5分で外装整備を終え、残りはISのシステムを含めた安全チェックだ。

 

 しかしISは戦闘機や戦車と比べて戦闘におけるスピードが段違い。整備性が良くても戦線復帰は1秒でもはやく出るのが理想なのがもどかしい。

 

 問題があるとすれば。

 

「ラファール12番機のパイロット疲弊! 担架を早く!」

「ごめんなさい……なんか凄い疲れちゃって」

「無理をしないで! 交代要員を呼んで! フィッティングに入る!」

 

 ISではなくパイロットの疲労状態。

 しかもこれは生徒のみならずIS学園の戦闘教員も含まれる。

 

 無理もないことだ。今まで命のやりとりなどしていない平和そのものだった。

 戦闘教員も数えるほどしか訓練外戦闘を行っていない。

 

 一歩間違えれば死ぬ。

 インフィニット・ストラトスの防御性能と操縦者保護の恩恵により歴史上の戦争と比べて死との距離は遠い。

 実際経験したことのない殺意に当てられれば戦争を知らない平和な人間の精神は削り取られるのは仕方のないことであった。

 無人機とは違う、剥き出しの殺意と憎悪。それは想像以上に精神を蝕む病魔だ。

 

 だからこそ戦況指揮を担う麻美のミネルヴァを筆頭に管制室の人間はパイロットのバイタルチェックを事細かに感知している。

 戦闘に参加している者はみんなこれから先の未来を生きていく。

 こんな女尊男卑主義が起こした下らない戦争なんかでPTSDを起こされたなど冗談ではないのだ。

 

「レーデルハイトさん、こちらの分解整備は終わりました!」

「武器のフルメンテも終わってまーす」

「ありがとよ布仏の嬢ちゃんたち! しかし手際の良さがダンチだな。うちでもそうはいない。卒業後はうちに来ないか? 面接免除で素通りさせてやるぞ!」

「ありがたい申し出ですが、謹んで辞退させて頂きます」

「検討に検討を重ねさせて頂きまーす」

「チーフ振られましたねぇ!」

「うるせー! 俺のラブコール成功率はアリアだけなんだよ!!」

 

 口を動かしながらもその整備技術はこの場にいる誰よりも手慣れていた。

 大柄で豪快な見た目とは裏腹に繊細なISを整備するその姿はレーデルハイト工業の整備チーフの名に違わぬ技術力。伊達にマッスルジーニアスと呼ばれていない剣司はまたたく間に1機のISを整備し直した。

 

「交代のパイロット来ました!」

「メモリーチップは!」

「あります!」

「よし入れてくれ! 最適化に入る!」

 

 IS学園の訓練機は乗り終えた後に必ず初期化処理が入る。他人が乗った時の蓄積データが他の生徒の動きを阻害させない為だ。

 このメモリーチップには戦闘前に行った訓練時間の個人パーソナルデータが入っており、それを行うことでその搭乗者に合わせた経験データを即座に反映できる。

 本来はデータの秘匿性から軍事基地や研究機関のみ運用可のチップであるが、今回は非常時。特別に認可されている。

 

「チーフ、良いニュースですよ! なんでもこっちに増援が来たって! 各国国家代表に、あのテンペスタのアーリィまで来たとか!」

「なにぃ!? そりゃホラ話にしてもすげぇこったな! お前ら聞いたか! 希望が出てきた、裏方がへばっちゃ形無しだ! 弱音吐いた野郎はぶん殴ってやるから遠慮なく言えよ!」

「女の子の場合は!」

「後で3時間俺の惚気話をプレゼントだ!!」

「そいつは勘弁!」

「ラジャーチーフ!」

「燃やせ! レーデルハイト魂!!」

 

 エンジニアチームの戦場はまだ終わる気配はない。

 だが誰もが希望に満ちている。必ず勝てると信じているからだ。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「こん、のぉ!!」

 

 ブルー・ブラッド・ブルーの戦列に混じっていた専用機持ちの一人が混沌に満ちた戦場でなんとか敵を押しのけていた。

 周りは何処も敵ばかり。しかもどれも本職の軍人ばかり。しまいにはテンペスタが出たと疾風・レーデルハイトが高らかに叫んでいた。

 

 全体の士気が爆上がりするなかでも戦いは続いている。

 挟撃部隊の専用機持ち2人は新たな標的目掛けて飛翔する。

 

「敵機確認! あれは」

「グリフィン・レッドラム。ブラジル代表候補生だ」

「ブラジルの。でも聞いたことありませんね」

「あまりメディア写りのない子だったが、過去に1回だけ見た記事でね」

 

 オレンジの体躯に水色の結晶パーツをこさえた専用機、テンカラット・ダイヤモンドを纏うグリフィンに相対したのはロランとヴィシュヌだ。

 半ばブラフであった挟撃作戦の真相を聞いた二人は予定通り敵陣後方の襲撃に回っていた。

 

「ロランツィーネとヴィシュヌ! なんで私たちを裏切ったの!? 一緒に世界を変えるって言ったじゃない!」

「裏切ったのではない、表返ったのだ。生憎とても残念なことに洗脳中はろくに覚えてなくてね。君とはほぼ初対面だ」

「グリフィンさん目を覚まして下さい! あなたは洗脳されているんです!」

「洗脳されてなんかない! フランチェスカさんと一緒に世の中の悪い男の人たちを排斥する。そして孤児院を守るのよ!」

 

 浮遊するナックルリング【ダイヤナックル】と肩のアンロックユニット兼ビット兵器である【ルミナス】からダイヤモンド状の弾丸が放たれる。

 面食らうヴィシュヌの前にロランの触手、ヴァイン・アームズで払いのけるが。ダイヤに触れた途端爆発を起こし、弾け飛んだ礫がクレイモア地雷のようにシールドバリアを叩いた。

 

「あのダイヤモンド、爆発するのか!」

「起爆特性のあるエネルギー鉱石の生成。それが彼女の第三世代能力ということですか!」

「洗脳されているならまず動きを止める!」

 

 ロランが2丁のプラズマライフル、スピーシー・プランターにオーランディ・ブルームの第三世代能力であるバイオ兵装技術が組み込まれた種子弾を装填し、発射。命中すれば急成長した蔦が敵に絡みつき、動きを封じる。その拘束力は一次的とは言えセカンドシフトしたイーグルをも抑え込むほど。

 その隙に洗脳解除をすればと思ったがテンカラットのルミナスからダイヤではなく火炎弾が放たれ、種子を焼き尽くして二人に殺到した。

 

「炎も吐けるのかい! これでは種子での拘束は難しいな」

「おまけに、ぐっ!」

 

 振り下ろされたダイヤナックルも純粋な質量兵器。自慢の豪脚で弾き返すもその衝撃が身体を伝って痺れた。

 

「膂力もありますね!」

「パワフルな御人だ。嫌いじゃないね」

「自重してくださいロランさん!」

 

 こんな時でも女性に対する賛美は欠かせない。

 何時だって女性を尊重する。ロランが99人も恋人を築き上げた所以がここにあるのかもしれない。

 

 それでも降りしきる爆発鉱石の勢いは止まらない。

 ゴスペルのシルバー・ベルと違って誘導性はないが、それでもこの特性は驚異。

 

「グリフィンさん! フランチェスカ・ルクナバルトが作る世界は子供たちに優しい世界では決してありません! 女性のみを優遇、至上とする極端な世界が平和であるわけがありません! わからないのですか!?」

「フランチェスカさんが世界を統率すれば世界はもっと子供たちに良い世界が出来る! 孤児院に入れない子供が泣かない世界が出来る! 女性至上世界になればそれが出来るって、あの人そう言ってくれた!!」

「孤児院には男の子も居るのにですか!」

「っ!」

 

 本人にとって予想だにしない角度から差し込まれた指摘にダイヤ生成の速度が緩まった。

 

「あの人は老若関係なく男という人種を憎む人です! 男だからという理由で幼い子供も排斥し差別する! そんな人が子供に優しい世界を作れるとでも!?」

「だ、だって! 孤児院に居る子はみんな良い子で」

「人格を考慮する人が洗脳なんて強硬手段を取るわけないじゃないですか! 目的の為なら自分の姪すらも野望の道具にする人が、子供に優しい世界を作れる訳がないんです! 現に貴方のような優しい人を洗脳し傀儡にしている!」

「違う、私は私の意思で……」

「なら思い浮かべてください、孤児院の男の子たちを! 今の女尊男卑に染まった貴方は、その子たちをどう思っているのですか!」

「そんなもの! いや違う、あの子たちは立派で、だけど汚らわしい男の。う、あぁぁぁぁーー!!」

 

 洗脳による矛盾と思考の板挟みで頭がぐちゃぐちゃになったグリフィンがダイヤナックルのリングから巨大なダイヤモンドを生成する。

 球状に形成された巨大ダイヤは溢れんばかりのエネルギーを輝かせ、今にも爆発しそうだ。

 

「ヴィシュヌ、彼女たちは洗脳されている。説得なんて効きはしない」

「ご、ごめんなさい! でも、あんな子供想いな人があんな風になって」

「ああわかるとも。君は決して間違っていない。君の説得は思わず聞き入ってしまうほど力が入っていた。君が言わなければ私も似たような言っていたかもしれん」

「ロランさん…」

「なればこそ。先ず彼女を元に戻さないとね。私たち3人で」

「はい! ……え、3人?」

 

 意気込むのも束の間疑問符を浮かべるヴィシュヌをよそにダイヤの輝きが増していく。

 急いで対処しようとするヴィシュヌとは対照的に余裕の面構えを見せるロランになに余裕カマしてるんですか!? と言おうとした瞬間。グリフィンが形成したダイヤを電磁ビームが貫き、大爆発を引き起こした。

 

「きゃあー!」

「いったい何が!?」

「通りすがってくれたんだよ、彼が」

 

 爆煙に包まれるグリフィンに突っ込んだのは稲妻を走らせるIS。

 タックルの勢いで背後からグリフィンを羽交い締めにし、脚部をカヴァスのクローで固定。4つのアンロックユニットも12本のラウンズで雁字搦めに封じていた。

 

「今だ! 洗脳解除を!」

「レーデルハイトくん!?」

「行くぞヴィシュヌ!」

「は、はい!」

 

 疾風の活に我を取り戻したヴィシュヌと一足先にに飛び出したロランがグリフィンのISに触れ、ワクチンプログラムを投入。

 ものの数秒でグリフィンの目から青い光が消えた。

 

「うっ………あれ。私なんでこんなところに。ていうか動けない、拘束されてる!?」

「よし! 洗脳解除完了! 起き抜けに手荒な真似してすみません。今こそカクカクシカジカが欲しいところだな」

「早業だったな疾風。グリフィン女史、起き抜けですまないがここは戦場なんだ」

「戦場!? というかあなたはロランツィーネ・ローランディフィルネイさん!? と、疾風・レーデルハイトもいる! それと君は……肉体凶器の娘さんのヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー!?」

「うっ、その道筋で私ですか。まあ私はお二人より知名度低いですしね。仕方ないですよね」

「ああごめんね! 別にそういう意味で言ったんじゃないんだ!」

 

 肉体凶器はヴィシュヌのお母さんの異名。ムエタイチャンプでその蹴りは人体をも砕くと言われている。飽くまで噂ではあるが。

 そしてヴィシュヌも母親から指導を受けており、2代目肉体凶器の異名を襲名する日も近いだろう。

 

「グリフィンさん。状況どれぐらいわかってます?」

「えっと……なんか変な人に誘拐されたあと………えと、フランチェスカ・ルクナバルトの兵隊として戦えとか……あ、ヴィシュヌさんがさっき言ったことは覚えてるから。うん、大体わかったよ」

「え、覚えているのですか?」

「記憶が少し残っている?」

「さっき束さんがプログラムのルーチンを少し変えたらしくって。洗脳解除後の状況確認をスムーズに出来るようにしたらしい」

 

 先程から洗脳解除している人たちは目覚めたら戦場という結構な恐怖体験を免れる為に一度学園に戻って状況を落ち着かせてから再出撃、又は乗り換えの運びとなっていた。

 これではロスになると天才は数秒でプログラムを書き換えたのだ。

 こんなこともあろうかと。ではなく普通に失念してからの修正らしい。やはり破格だ篠ノ之束。

 

「そうとなれば戦うよ私! 子供たちが泣かない世界の為にもね。ありがとうヴィシュヌ、君の言葉、確かに響いたよ」

「説得は無駄ではなかったというわけだな、ヴィシュヌ」

「ええ。この調子で皆さんを救い出しましょう!」

「よし、3人はスリーマンセルで行動を。彼女を1人にはさせないで」

「任せてくれたまえ。ところで疾風、本丸にはいつ攻めるんだい?」

 

 質と量を両立した大量の援軍にブルー・ブラッド・ブルーの軍勢は総崩れ。ワルキューレの数も加速度的に減ってきている。

 フランチェスカをやるなら今、というのは間違いではない。だが疾風の顔が少し陰りを見せる。

 

「もう少し戦況を傾かせてからにする。こちらが圧倒的に優勢ではあるけど、それと同時に敵は追い詰められている。あの女がまた何かをやらかすかもしれない」

「慎重だね。前線指揮官故に大胆には行けないか。いや失礼。十二分に大胆ではあったな」

「まあ、ね。スパイから得た情報はもうないのもあるから。それに、改良型のVTシステムもある」

「張り子の真似事か、美しくないね。それ故に危険だ」

「誰も死なせない、ですものね」

 

 戦争においてもっとも難しいことを第1目標に掲げるIS学園軍。

 それ故に慎重に慎重を重ね。それこそ俺tueeeくせに慎重すぎるぐらい事を運ばねばならない。

 

「殺さないし殺させない。ISは兵器だけではないんだ。だから俺はこのまま囮と撹乱を続けるよ。3人とも、気をつけて」

「了解した」

「うんうん。良い子だね疾風くん。うちの子みたいに良い子だ」

「ん? あ、はい」

「よーし! 2人とも行くよ! お姉ちゃんが前に出るから援護よろしく!」

「ちょ、グリフィンさん!?」

「アグレッシブな上に包容力高め。嫌いじゃないな!!」

「戦場ぐらい自重しろロランこの野郎!!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 IS学園側の増援で敵は総崩れになりつつある。

 だがその中でも不動の立ち振る舞いを見せる豪傑がそこにいた。

 

 打鉄と白式を足して2で割ったような黒のIS、黒鉄(くろがね)を駆る秋山杏樹1佐が両手に携えた二振りのブレード、光刃を構え直進。

 向かうは姉妹機の白きIS。日本代表、楠木麗の白鉄(しろがね)は黒鉄と同種のブレードを正眼の構えで静かに立っている。

 

「散華の陣!」

「「了解!」」

 

 杏樹の背後を一列で跳んでいた部下の打鉄が四方に散開。アサルトライフル、焔備で射撃。

 弾丸が麗に殺到するなか彼女はゆらりと陽炎のような足運びで避け、流れるように瞬時加速。杏樹の懐に飛び込み、一閃。

 二刀と一刀がかち合い火花を散らしたのが一瞬、そのまま刃を滑らせ杏樹の横を通り過ぎ、瞬時加速の余力を残したまま部下の打鉄に肉薄。白鉄の第三世代能力であるシールド攻撃転化を込めた突きを肩部シールドの隙間から胴体に差し込んだ。

 

「しまった!」

「離れろ炭森!」

「カバー急げ!!」

 

 狙われた3番機と麗の間に射撃を差し込むが3番機を盾にするように動く麗。そこから2撃目を叩き込むところを杏樹の肩部シールドによるチャージングが阻止、シールド裏側にマウントしていた閃光弾を投げつけてその隙に離れつつ弾幕を展開して態勢を立て直す。

 

「炭森! シールドは!」

「残り32%です!」

「やっぱり火力がダンチですね。白鉄シリーズの第三世代能力は」

 

 日本第三世代機の武装、光刃は本来自機のエネルギーで攻撃力を増す暮桜の雪平を解析して作られたエネルギーブレード発生機構を備えた刀。そこに劣化版零落白夜と言えるシールドエネルギーを効率よくブレードの出力に転化する第三世代能力を備えたのが白鉄と黒鉄であり、元々の白式に備え付けられた能力だ。

 

 杏樹の黒鉄は二刀の他に様々な補助武装を備えている。これは刀だけでは勝てない故の彼女なりの工夫の賜物だ。

 だが麗の白鉄は光刃一振りのみ。余計な武装を排斥することで全体のエネルギー容量を上げているそのISは刀一本で5機のISを相手取っている。

 

 会敵してから実に8回の打ち合い。その全てを受け流され、杏樹を無視して部下の打鉄を斬り付け、時には必殺を彼女に叩きこむその様は肝が冷えるなんてものではない。

 一対多の戦い方をしっかり据え置いた戦い。敵の影に隠れ、敵を盾にしつつ必殺を放ってくる。最初から最後まで、一本の光刃と太刀捌きのみでだ。

 

 加えて。

 

「疾っ……!」

「チィッ!」

 

 二段階瞬時加速と同時に鞘から抜き放たれる、神速の太刀。

 鞘から抜き放つ際、電磁運動によってレールガンのように放たれる抜刀動作は白鉄にのみ施されたカスタム。シールド転化の高火力に抜刀と斬撃の早さをプラス出来る。

 だがそれはカタログスペックの話。抜刀のタイミング、抜ききった後の動作を完璧にこなさなければ電磁射出の際に力が入りきれずナマクラ、最悪剣がスッポ抜けて明後日の方向に跳んでしまう高難易度の技術だ。

 

 だからこそ成功すれば比類なき速さを持つ神速の剣と成りうる。

 楠木麗が織斑千冬の後継として日本代表足り得たのは彼女と白鉄の抜刀術あってこそだ。

 

 のけぞった杏樹に二撃目を叩きこむ麗にまたも銃撃が殺到、部下の1人が黒鉄を掴み強引に間合いから離脱させる。

 

「ご無事ですか1佐!」

「ああ、大事ない!」

「流石は日本代表にして織斑千冬の再来と言われる楠木教官。もしかしたら私たちの動きも知り尽くしているのかも」

「あの教官がそんなロジカルなことするかな。訓練だって実戦稽古のみでフォーメーションなんて知らない筈よ」

「あの人の指導って擬音オンパレードだもんね」

 

 一瞬脳裏によぎったオノマトペの数々

 まさかの箒タイプな国家代表だった。

 

 だがその腕前は本物。かつて秘密裏に行われた織斑千冬との国家代表決定戦においてただ一人彼女の一撃必殺を躱し、千冬に剣を掠らせることが出来たのが彼女だ。

 その腕前はより洗練された物に昇華され、常人より剣術が優れている杏樹でさえISで感覚が拡張されてるかつ、楠木麗の剣を知っていなければ受けるのが間に合わなかった。そして間に合ったとしても芯で受けられず手がビリッと痺れてしまった。即座に部下の援護射撃がなければ間違いなく二段目の胴を斬り裂かれていたほどに。

 

「敵のナノマシンによる感覚強化もあるのかもしれませんがね」

「ああ、だがいつもの楠木教官よりも太刀筋にブレがある気がする」

「洗脳が施されたせいで本来の力が出せてない。或いは感覚が鋭敏になり過ぎて逆に足かせになっているのか」

「一方的にやられてる身で説得力はないがな。さてどうするか」

 

 剣の間合いから離脱した途端、麗は斬り込まず光刃を鞘に収めた。戦いをやめたのではない、利き手は直ぐにでも抜刀出来るよう近くに添えられている。

 戦端を開いてから楠木麗は自分から積極的に攻めては来ない。相手の動きを読み、自動的にカウンターを繰り出すかのように斬撃を見舞う。だが有効射程に居ればその限りではなく、こうしてアウトレンジに位置して万が一に備えている。

 

「やっぱり戦い方が違いますね。楠木教官はゴリゴリのインファイターでした。こんなカウンターに徹するタイプではない」

「あの人根っからの戦闘狂ですからね。斬る対象が居れば目を爛々として斬りかかってきますよ笑顔で」

「笑顔……そういえば今の楠木さん全然笑わないね。あと結構お喋りだったのに、あと旦那自慢」

「確かに、稽古中何度惚気られたことか。こっちが滅多切りにされてるのに惚気ながら剣振り回してくるの怖かったな」

「そうだな。現に今の楠木教官の中に夫の武男さんはいない」

 

 楠木武男。楠木道場の師範代にして麗の夫である寡黙な男。

 麗はアリア並みに夫を溺愛しており、アリア以上にいつでも夫の惚気を繰り広げていた。

 

 だがレーデルハイト工業襲撃時に現れた麗は夫の記憶をフランチェスカに封じられていた。

 彼女を構成する一つでもある夫との記憶を全て消された楠木麗は楠木麗の形をした戦闘機械と言っていいほど冷淡に剣を振るっている。

 

 尊厳破壊も良いところだ。洗脳されてる時点でへったくれもないが。

 

 そんな麗は今もジリジリと間合いを詰めてきている。戦況が逼迫してる状況だ。フランチェスカに命じられれば速急に自分たちを斬り伏せて他に行く可能性すらある。

 

「我々で白鉄のエネルギーを限界まで搾り取る。それしかないか……」

 

 零落白夜の廉価版である白鉄の第三世代は原点と比べてもシールドエネルギー消費は少ない。だが無限ではない以上。補給に行かない限りはシールドを削られたまま。

 後は他のものに託せば良い。それが最善であり、合理的だ。

 

「──こちら司令部の御厨麻美です。自衛隊部隊、状況の報告をお願いします」

「現在楠木麗と交戦中。部下4名のシールドが全員4割を切っている。私は損害を受けてはいないが、第三世代能力でシールドは7割まで減っている」

「単刀直入に聞きます。勝てますか」

「…勝てない。我々では決定打を打てずに居る」

 

 迷いは一瞬。軍人として正確かつ正直に情報を伝えた。

 意地を張りたかった。自分たちで彼女を元に戻したかった。

 だがここは自分たちだけの戦場ではない。日本を守る軍人として、自分の我を通すことを優先するこたは出来なかった。

 

「了解しました。そちらに援軍を送ります。それまで耐えてください」

「援軍? 半端な物ではたちまち斬り伏せられるぞ」

「はい。なので希望あるものを向かわせます。到着まで約1分。ご武運を」

「聞いたな。凌ぐぞ、60秒を!」

「「了解!」」

 

 各々が腰を入れ、肩部シールドと武器を取った。

 その気概を感じ取ったのか、楠木麗が動いた。

 

「密集陣形! 教官の剣を通すな、時間を稼げればいい!」

「了解!」

「打鉄流ファランクス!」

 

 黒鉄、打鉄4機の計10枚の肩部シールドをより合わせ、巨大な盾に。

 盾の隙間から焔備で射撃。白鉄の侵攻ルートに制限をかけようとするが白鉄も肩部シールドを掲げて防御。速度を乗せたまま蹴りを見舞う。

 

「ぐぅっ!」

「陣形崩すな! 隙間をこじ開けられる!」

「白鉄が背後に!」

「回頭! 違う、上か!」

 

 背後に回ったのはフェイント、急上昇し落下の勢いを乗せて足裏で踏みつけるが咄嗟に動いた杏樹のシールドに阻まれ。腕部に仕込んだ機関砲を発砲。だが読まれたのか機体を捻り、そのまま光刃の光が黒鉄の腕を斬りつけた。

 

 舌を打つ間もなく紫の光を纏う光刃がISのシールドに滑り込まれる。シールドを咄嗟にかざすも半歩ずらされた位置から光が迫る。

 だが杏樹も読んでいた。右側に避けた麗の眼前に残りの閃光弾を射出、敢えて斬らせて弾けさせた閃光が一瞬ISのセンサー類を麻痺させる。

 

 麗はその場で盾を構える。

 敵は防戦に徹している。ここで下手に距離を取れば態勢を整えられる。

 自衛隊が後退してることを予見し、閉じた眼を開いて眼前の敵を定める。目と鼻の先に杏樹と黒鉄があった。

 

「なっ!?」

「すいません教官。やはり私は大人になりきれないようです!」

 

 是が非でも、我欲を通してでもこの刃を届かせたい。

 ロジックから離れた衝動と意地が引き起こした杏樹の行動は洗脳により感情を抑制された麗の隙を見た。

 

 黒鉄の二振りの光刃が第三世代能力の紫光を走らせる。上段から振り下ろされた黒鉄の光刃を白鉄の光刃が止め、もう一振りの光刃が麗の胸に突き立てられた。

 

「うっ!」

「フフッ! 我が刃、届いた!」

 

 興奮から思わず笑みが溢れた。

 予想だにしない攻撃に麗は白鉄を後退させた。

 

 そして規定の60秒を稼ぎきった。

 

 黒鉄と白鉄の間に、3機のISが滑り込んだ。

 

「日本自衛隊の皆さん、お待たせしました! IS学園一年、織斑一夏加勢します!」

「同じく篠ノ之箒、赤椿で援護します!」

「ご無沙汰してます秋山1佐。徳川菖蒲、この場に馳せ参じました!」

 

 現れたのは一夏、箒、菖蒲の若き日本代表候補生たち。

 手が空いた彼らは麻美の指示の元援軍としてこの場に降り立ったのだ。

 

「君たちが援軍か! やれるのか、相手は日本国家代表だぞ!」

「やってみせます! 俺たちはもしもの為に千冬姉、織斑先生から対日本国家代表の稽古を受けました!」

「正直それだけで通ずるとは思えませんが。自衛隊の皆様のご助力があれば或いは!」

「私の櫛名田が肉盾となり、白鉄の斬撃を受けきって見せます!」

 

 気迫もISのエネルギーも充分。

 若き勇士の勇ましき姿は折れかけた自衛隊の精神を持ち直してみせた。

 

「白式、赤椿、そして私の黒鉄がフォワード、櫛名田はフォワードの防御に徹しろ、絶対に攻撃をするな。残りは射撃でサポートだ。数の利を活かし、最強の一をこじ開ける!」

 

 至天に到達出来なかった者、至天を目指す者。

 楠木麗の強さには到底届かない未熟な剣。だがいずれも進むことを躊躇わない武の申し子。

 

 総勢8の刃が至高の1に挑む。

 

「総員かかれ! 楠木麗を取り戻すぞ!!」

「「「了解!」」」

 

 

 





 どうも、入院から自宅療養からの初出勤後に見事筋肉痛を起こした男。作者のブレイブです。

 戦いも佳境を入るなか、整備士も大忙し。
 IS学園の整備シーンなんて打鉄弐式制作と、エクスカリバー戦準備でちょろっとでしたから少し悩みました。
 パーツ交換だけで5分、短いか長いのか。

 そして第一部最後のアキブレキャラ、グリ姉が登場。
 爆発するダイヤモンドが能力ですが。これって飛ぶクレイモア地雷だよなぁってふとインスピが湧いちゃいました。お姉ちゃんエグいよお姉ちゃん。

 最後はついに全開戦闘シーンの日本代表の白鉄。と自衛隊部隊をチラリ。一刀流でなんか特徴を見せたいということでレールガン居合斬りを覚えさせました。
 最後は一夏たちを交えて8VS1。これでも勝てるかわかりません。
 着々とクライマックスに近づいております。次回もお楽しみに!!
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