IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第149話【高速切替戦闘(ラピッド・スイッチ・バトル)

 

 

「死ねぇぇぇ!!」

「乱暴ですこと!」

 

 エムの怒り、殺意、憎悪に呼応するようにレーザービットとフレキシブルが乱数軌道でセシリアを噛みちぎらんと殺到する。

 顔面を掴まれて海に叩きつけられたという事実はこれ以上ないほどエムのプライドを傷つけ、完全に冷静さを失わせていた。だが単純な思考を突き抜けたせいか苛烈な攻撃は更に勢いを増し、セシリアの命を穿たんと迫る。

 

「ああぁぁぁ!!」

 

 咆哮に呼応するようにスターブレイカー先端のバヨネットが一際桃色に輝く。BTエネルギーを過剰に注ぎ込んだコーティングを込めた刺突、振り下ろしがセシリアのブレイザーを殴りつける。

 

「私は強い! お前のような蝶よ花よと愛でられた甘ったれとは違うんだよ!!」

「あら不幸自慢ですか? それならわたくしも負けませんわよ!」

「そうだなぁ! 貴様は自分の手で恋人を刺し殺し! 信頼していた叔母にも利用された! これまで貫いていたノブレス・オブリージュはこの時の為に育てられたと言っていい! 惨めなものだなお嬢様!!」

「ええ全く持ってその通りですわ! だからこそ、この罪は必ずあがなう! その為にもこの戦争に勝つ! 大切な友たちと、愛する人と為に!!」

「かゆい! 甘すぎてかゆいんだよセシリア・オルコット!!」

 

 理想論綺麗事など圧倒的な力の前には無意味。

 力の狂信者たるエムにとってセシリアという存在自体がむず痒く度し難い存在なのだ。

 

 スターブレイカーの砲身が三叉に開き、膨大なBT粒子の塊が放射。

 限界を超えて蓄積されたBTレーザーは当たればただではすまない。だがその直線的な弾道を躱せないセシリアではなく最小限の動作で回避。だが命中していないのにも関わらずエムの口元に歪な笑みが浮かび上がる。

 

(獲った!!)

 

 回避したはずの高出力レーザーが直角で曲がり、回避軌道を取ったセシリアに向かった。エムはこの高出力レーザーの塊をフレキシブルで曲げてみせたのだ。

 BTレーザーは高出力であればあるほどフレキシブルの難易度が上がる。それを成したエムのBT適正の高さが伺える。

 

 少ない動作で躱したセシリアとレーザーの距離は近い。これは避けれまい、そうほくそ笑むエムはセシリアのうろたえる顔を望遠機能を使って見物しようと試みた。

 

 だがセシリアの表情は依然として変わらず。

 自機とレーザーの間にフェローチェを配置。斜めに配置したレーザーシールドで衝撃を受け流し、ブレーザーとビットからフレキシブルレーザーを発射。放たれたレーザーがエムのレーザーに吸い込まれると高出力レーザーが拡散、消失した。

 

「なっ、お前何をした!」

「わたくしのレーザーで相互干渉を起こしましたわ。同じBTレーザーで掻き回せば粒子を固定する作用が機能しなくなりますので」

「そんな芸当……それよりお前、私が曲げるのをわかっていたのか!?」

「ええ。今のわたくしにはそれがわかりますので」

 

 BTセンス。BT適正値100%を超えた者が発現するISによる拡張感覚の延長。

 強引なセカンド・シフトから再調整を施されたリベレイト・ブルーティアーズを纏うセシリアのBTセンスはナノマシンでセンスを強化された者を含めても世界水準最高峰のBTセンスの持ち主となった。

 同じ源流を持つフレキシブルの歪曲タイミングを察知することは、今の彼女には造作もないことである。

 

 勿論エムにも並外れたBTセンスは備わっている。現に圧倒されつつも被弾は最小限に留められており、先程の高出力レーザーを曲げれる程の適性を持っている。

 だがセシリアが操るフレキシブルがいつ曲がるかなど、エムは一度も察知できていなかった。

 またも、またもセシリアとの差を知覚したエムは怒りで狂いそうになった。

 

「殺す! 絶対に殺す! 今度は腕だけではすまさない! 全身刺し貫いた後に首を斬り裂いて疾風・レーデルハイトの顔に叩きつけてやる!!」

「口だけならなんとでも言えますわ……しかし疾風の名前を出されて黙ってはいられません」

 

 ピリッと、セシリアが纏う空気が変わる。

 気付けばセシリアとエムの周囲には外の援護に向かわせていたBTビット16基が鎮座している。

 背中に冷えた物を感じたエムはバイザーの内側で目を見開いた。

 

「貴様っ!」

「命乞いは聞きませんよ。そろそろ茶番(フェアプレイ)はお終いとしましょう。わたくしの全身全霊を持って、貴女を討ち果たしてみせます!」

 

 セシリアの蒼い瞳がファクター・コードによって更に彩られた。

 ISとのシンクロ率が上昇し、BTエクストラクターが唸りを上げ。12基のレーザービット、4基のブラスタービット、そして自機周囲に展開した8基のビットが一斉に火を吹いた。

 

「クッ、ソがぁ!」

 

 サイレント・ゼフィルスの蝶を模したマルチスラスターを駆使し光の包囲網を遮二無二に回避する。

 苦し紛れに出したレーザービットは一発撃つか撃たないかで敵のレーザーに全て絡め取られ。辛うじて生き残っているシールドビットは正に窮地を脱する盾となった。

 

(捌ききれない! 逃げ場がない、潰される! これがこいつの全力だと言うのか。あんなふざけた茶番劇に踊らされたのだというのか、この私が!)

 

 度重なる圧倒的な差。避け続けた現実が薄利し、エムの脳内に敗北の文字が広がった。

 

(私にもファクター・コードがあれば! もっと強いISさえあればあんな小娘なんかに負けるはずがない! 認めない! こんなこと認めてたまるか! 私は本物になるんだ! 力を、もっと力をっ!!)

 

 だが現実は光となってエムとサイレントゼフィルスを飲み込まんとする。

 シールドと回避だけでは捌ききれなくなったレーザーがシールドエネルギーをガリガリ削っていく。回避は不可能、ファクター・コードにより強化されたフレキシブルによって形成された光の鳥籠は正しくエムを仕留めるための狩場。

 再チャージしたスターブレイカーをセシリアに向けると、彼女もスターライト・ブレイザーのチャージを終えていた。

 

「これで終わりです!!」

「お嬢様がぁぁー!!」

 

 エムから放たれたものより一回り太いセシリアのレーザーが数瞬の拮抗を持ってエムのそれを喰らいつくし押し進む。咄嗟の判断で離したスターブレイカーは光の中に飲み込まれ爆散。

 得物をなくしたエムは逃げることなくセシリアに向かって突貫。残された左腕の腕部レーザー機銃を乱射し、左手に予備のナイフをコールする。

 

「っ!」

 

 後ろから何かが来る。BTセンスに裏打ちされた直感が即座にシールドビットを背後に走らせ、次の瞬間膨大なレーザーがビットと衝突した。

 それは先程セシリアが撃ったチャージレーザー。とことん意趣返しとしてフレキシブルで曲げられた一撃。間一髪防御が間に合った。だが同時にエムは自身を守る盾を失う。無数のレーザーがサイレント・ゼフィルスのシールドを突き破り、絶対防御を発動。追い打ちとばかりに負荷限界を超えたエネルギー・アンブレラが自壊。内部の高性能爆薬が誘爆するいとまもなくエムとゼフィルスが光に呑まれた。

 

「か、ぁ……」

 

 武装の大半を喪失し、PICでその場で浮くことで精一杯なエム。かつて自身がセシリアに負わせた屈辱をそのまま返された。

 あの時のセシリアと違い使える武器はない。それでも眼には闘志と怒りが満ち満ちている。

 敗北を認めるわけには行かない。そんなことをすればエムは自身の存在理由を捨てることになる。だからエムはこれは現実ではないと最後の逃避をして精神を保っていた。

 

 リチャージを終わらせたブレイザーを構えるセシリア。照準にブレはなし。引き金をかける指に重りはなし。今度こそ引導を渡すべく、非情を持ってトリガーを引く。

 

「負け……」

 

 呟く言の葉は光に掻き消える。

 だが迫りくる青白い光は黄金色の繭に阻まれた。

 

「あら思ったより凄い出力だわ」

「おーおー! ボロッボロだなエムぅ!」

「スコール……オータム?」

 

 エムの窮地を脱したのはモノクローム・アバターのメンバーだった。

 最大出力で張られたゴールデン・ドーンのプロミネンス・コートでレーザーは拡散消失し。遮るように多脚銃器をぶっ放すアラクネがセシリアを退けた。

 

「潮時よエム。これ以上ルクナバルトに義理立てする必要もないわ」

「は、離せスコール! 私はまだ……」

「はいはいそーだなそーだな! お前は負けてねえよ生きてるうちは負けじゃねえからな! ほらさっさと行くぞ!!」

「姉、さん……」

 

 セシリアのビット再展開より前にスコールとオータムがエムを抱えて瞬時加速。またたく間に戦線を離脱した。

 構えたブレイザーを下ろし、エムが離脱した方向を見上げるセシリアはポツリと呟いた。

 

「……仕留めきれませんでしたわ」

 

 学園祭で屈辱を覚えてからサイレント・ゼフィルスの打倒を胸に刻んでいた彼女にとってこの戦いは敗北に等しかった。

 戦闘では終始マウントを取れていた。エムの行動を全て正面で受け止め、最後は圧倒的な質と量で徹底的に粉砕する。

 格の違いを見せつける戦い。我ながら貴族らしい戦い方ではない。ノブレス・オブリージュらしからぬ戦い方だ。

 

「疾風のようには行きませんわね」

 

 またもポツリと呟いた言葉は戦場の轟音に掻き消される。

 まだ戦いは終わっていない。しかしエムを退け、別働隊であるはずのスコール達が現れた。

 セシリアは戦争の流れに変化が起こりつつあることを予見していたのだった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「だらっしゃあぁぁぁ!!」

「な、なによ! いきなり勢いづいて!」

「当たり前! 楊管理官の前でこれ以上無様な姿晒せるわけないでしょ! 後が怖いし!!」

 

 鈴の双天牙月と乱の角弐が重厚な金属音と目もくらむ火花を飛び散らせる。

 増援である楊麗々代表候補生管理官が来てからというものの、ただでさえ豪快な鈴と甲龍の膂力が更に引き上げられた気がした。

 力任せに見えてテクニカル。力と技量を合わせ持つ鈴は特に難しいことを考えずにこれが行える。それは代表候補生の資格を1年でもぎ取り、専用機を受領するまでに至った彼女の類まれない天性のセンスに裏打ちされたものだった。

 

「ほらほらほらぁ! もっと腰入れなさいよ乱!」

「機体スペックは甲龍・紫煙の方が上の筈なのに、何でこんなに押し切られるの!?」

 

 振り下ろされる角弐を双天牙月の一閃が弾き飛ばす。

 

 甲龍・紫煙は龍砲が一門減ったとはいえ。機体自体のパラメータは甲龍・紫煙が僅かに上回ってる。

 量産機なのにオリジナルより強いのか? という疑問はあるだろうが、それは世間一般の認識から見た話である。

 

 一重に量産機は弱いというイメージが存在する。

 よくあるロボットアニメでは主人公機の量産機がオリジナルよりスペックが低いやられメカと描写されることがある。だがそれはコストパフォーマンスと操作性の簡略化、そしてパイロット自体の技量差によるものが大きい。

 

 だが実際量産機というのは元となったオリジナル、試作機の問題点や改良点を洗い出した所謂完成品であり後期型。基本的にスペックが上なのは不思議な事ではないのだ。

 なによりISは1機1機が一点物の高級品。甲龍・紫煙に至っては、オリジナルの甲龍より弱く作られる道理はないのである。

 

 だというのに乱は押されている。

 ナノマシンで感覚とIS適性を強化しているにも関わらず乱が劣勢な状態にあるのは何故なのか。

 それはたった一つのシンプルな答え。

 

「わかってないわね乱。こういうのはね、ノリが良いほうが勝つのよ!!」

 

 メンタル絶好調でノリノリな鈴が単純なスペック差を跳ね返すほどの力を発揮していることに他ならない。

 

「機体スペックだかナノマシンだかに頼ってるようじゃお里が知れるってもんよ! そんなんであたしを止められると思ってるの乱!」

「なにをっ!」

「さっさとボコして目を覚させてやるわ! 女尊男卑社会なんて下らないこと考えてるその頭をね!!」

 

 ISが生まれてから変わりゆく社会に幼い頃から鈴は納得がいってなかった。

 大して偉くもないのに威張り散らす女子が嫌いだった。それに萎縮してなよなよする男子が嫌いだった。

 あんなのが当たり前になる世界なんて鈴は真っ平御免だ。男だの女だの、そんなチクチク細かいことを気にする世界など凰鈴音は望まない。

 

「男なんてどいつもこいつも無責任で馬鹿ばっかり! それで泣いてる女の人が居るってなんでわからないの!?」

「まだ言うの!? いい加減飽き飽きよその文言!」

「だって……だって楽叔父さんがそうだったじゃない!!」

「っ!!」

 

 一瞬、双天牙月を持つ鈴の腕が緩んだ。

 

 劉楽音(りゅう・がくいん)

 日本で中華料理店を開いていた剛腕の持ち主であり鈴の父親。

 妻であり鈴の母、劉春燕(りゅう・しゅんいぇん)と共に営む店は知る人ぞ知る名店として栄えており。夫婦仲は近隣従民や親交のあった一夏から見てもとても中が良いと評判であった。

 

 だが鈴が中学2年生の時に劉楽音は蒸発した。

 家に帰ると呆然と机を見るいつも快活だった母の生気のない表情。机の上には指輪と父の名前が書かれた離婚届。

 鈴も何が起きたかわからなかった。いつも通り帰ったら看板娘として店の手伝いをするはずだったのに。笑いながら鍋を振るって居るはずだった父は家族に何も告げずに消えたのだ。

 

 それから鈴は父の顔も声も聞いていない。従兄弟である乱の家族も、他の親族さえ彼の行方を知らない。

 そして鈴は中国に帰った。幼馴染であり大好きな一夏に別れを告げて。

 

「何も言わずに楽叔父さんは居なくなった! 鈴と春さんを置き去りにして! そんな男がこの世には沢山いる! 他に女が出来たとか! 君とは馬が合わなかったとか! そんな勝手な理由で家族を置いていく! フランチェスカさんはそんな男が居ない世界を作るために」

「うるっっさい!!」

「いっ!?」

 

 一喝に乱が怯む。

 緩んだ双天牙月の持ち手を砕けるぐらい握り潰す鈴の眼には今だ闘志が。いや、先程よりも燃え盛る闘志の炎が宿っていた。

 

「べらべらべらべら御託ばっかり! 知ったこっちゃないないのよ!!」

「なっ、だって楽叔父さんは」

「知るかそんなもん! てかさっき離婚がどうだと言ってたけどIS生まれてから女の方が離婚切り出し率高いってあたしでも知ってんだからね!?」

 

 事実である。

 女尊男卑の風潮になってから情けない男とはいられない、男となんて居られないなんて理由で離婚する女性は当時後を絶たなかったのだ。

 

「あんた達の言ってることは全部が全部薄っぺらいのよ! そんなもん聞く価値もない! だからさっさとぶっ飛ばす! これに限る!!」

「なんて単細胞なの!?」

「単細胞上等! 難しいこと考えてドツボにハマるぐらいなら突っ走った方が良いことあるっての!!」

 

 瞬時加速発動。紫煙から放たれる龍砲と甲尾による機銃掃射を物ともせず双天牙月が振り下ろされる。更に双天牙月周辺に腕部衝撃砲発生機構から展開された空間圧縮をかけ、空気抵抗摩擦による火炎を発生させた。

 

「なに!?」

「しゃあ! ぶっつけ本番だけど出来たぁ!」

 

 横目で見ていた中国国家代表の甲龍・哪吒の圧縮火炎機構を見様見真似で再現させて見せた。

 本来の火炎機構と比べれば虚仮威しに過ぎないが、乱の度肝を抜くには充分。その手から角弐を取り落とすことに成功した。

 

「しゃらぁ!!」

「きゃあ!」

 

 別の武器をコールしようとした乱をボルテックチェーンで拘束。その顔面を鷲掴みにしてワクチンプログラムを流し込み、洗脳を解除した。

 

「よっと……目覚めた? 乱」

「う、うん……ありが……感謝するわ、鈴」

「そこは普通にありがとう言いなさい、よ!」

「にぎゃ! ちょっと胸鷲掴みにしないでよ! 僻み!? さっきのこと気にしてんの!?」

「気にしてないわよ! ちっちゃくないわよあたしの胸ぇ!」

 

 まったく血が繋がってないとは思えないぐらい自分と乱は似ている。

 この小生意気に少し、いやほんの少し、いやマジでほんの少し育っている胸を除いては。

 

「ねえ、鈴お姉ちゃん。さっきのことだけど。もし楽叔父さんに会えたらどうするの?」

「そんなの決まってるじゃない。首根っこ掴んでお母さんのとこにぶん投げるのよ。あと一発殴るわ、これは確定事項」

「アハハ。その時はあたしも殴ったあとに引きずってあげるわ」

「仕方ないわね。そん時はお願いするわ」

 

 鈴は双天牙月を。乱は紛失した角弐の変わりにジャマダハル【龍牙】をコール。

 目の前には群がるワルキューレの群れ。

 

「あんたはさっさと補給に戻りなさい。あたしは残りのアホどもをぶん殴りに行くから」

「冗談。鈴のヘナチョコ攻撃でへこたれるほどあたしと紫煙はやわじゃないんだから!」

「言うじゃない。なら足引っ張んじゃないわよ!!」

「こっちの台詞だっての!!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 戦場の一角で奏でる銃火の旋律。

 鼻をつくような火薬の臭い。

 ISの視覚と聴覚保護がなければ五感の二つを喪失するような応酬。

 レーザーが飛び交う近未来なバトルフィールドにおいて、薬莢が海面に着水し続けるこの戦闘はある意味異質であった。

 その場で行われていたのは全てフランス第二世代ラファール・リヴァイヴのカスタム機。3対1の変則戦だった。

 

「カーカカカカカカカカカカオぉ!!」

「その変な掛け声なんとかならないの?」

「無理!」

「あっそ」

 

 放たれるライフルからの被弾を物ともせず双剣をやたらめったら振り回しながらチョコレート馬鹿、ショコラデの乱撃を涼しい顔で躱し、高速切替(ラピッド・スイッチ)でライフルから10連装ショットガン【タラスク】に持ち替えてぶっ放す元フランス国家代表のアニエス。

 これはヤバいと冷や汗をかくのも束の間、オレンジのラファールが前に出る。

 

「させない!」

 

 重い一撃に横やりを入れたのはシャルロット。対実弾仕様にチューンしたエネルギー・シールドパッケージ【ガーデン・カーテン】

 実弾特化仕様となったカーテンは弾丸の大半を真正面から受けることなく特殊なエネルギーの流れにより受け流して衝撃を軽減出来る。

 目の前には既にグレネードランチャーに換装を済ませて短距離でもお構いなくぶっ放す、だが2発目を撃つ前に真耶のカバーが入る。

 一発目の爆発をシールド多重展開で受け流し、アニエスは避けながらもグレネードをばら撒いて戦場を掻き乱しにかかる、その爆炎を突き破って3機のラファールがアニエスに迫る。

 

「お二人とも手を緩めないで!」

「飽和射撃!」

「イケイケゴーゴー!!」

 

 アニエス・ドルージュはシャルロットを超える高速切替(ラピッド・スイッチ)の使い手。

 そしてそれを十全に扱える操縦技術に裏打ちされた高速切替によるヒット&アウェイの完成形、砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)

 

 敵が引けば近づき、近づかれれば離れて撃つ。敵との距離感を完全に支配下置く高等戦術。

 アニエスはこの戦術を持って、第一回モンド・グロッソ決勝では1分。第二回モンド・グロッソでは3分間織斑千冬相手に生き残り、後者に至っては手傷を負わせた。

 

 技量で劣るシャルロット一人では勝利はなし。3人でやったとしても各個撃破される可能性すらある。

 故に攻める。攻めて攻めて攻めて攻めてを繰り返す。

 ショコラデがガンガン行こうぜとばかりの積極的なアタッカー役。

 シャルロットが対実弾仕様のガーデン・カーテンを利用したシールダー兼第2のアタッカー。

 そして真耶は2人のサポート兼第3のアタッカー。

 とにかく隙あらば攻撃。空飛ぶ武器庫の異名を持つラファール・リヴァイヴのペイロードに物を言わせた物量戦術。アニエスの意識を散らし、判断ミスを誘い。崩れたところを突き刺し、削り尽くす。

 

 先程行ったショコラデのがむしゃらアタックも、2人の攻撃の手が緩んでしまった隙を埋めるために弾丸に向かって突撃などという特攻紛いな無茶をしたのだ。

 彼女的には弾を全部斬り飛ばすつもりだったらしいがどこぞの一人称俺ちゃん傭兵ばりに弾けず身体で受けたが気にしない。

 

 上記のようにショコラデは突拍子もない行動で動きを悟らせず、シャルロットは高速切替で射撃のリズムを絶えず変調し、真耶はそんな2人の合間を縫うように的確に射撃を挟む。

 息をつかせぬ弾幕。しかし相手には単式パイルバンカー【ロワイヤル】がある。決して踏み込みすぎない。

 これでやっと対等な勝負が出来ている。かつて千冬としのぎを削った国家代表の名は伊達ではない。一瞬の隙を高速切替(ラピッド・スイッチ)が刈り取りに来る。

 倒し切るなど欲張らなくていい。3機で敵の特機戦力を釘付けに出来てるだけ大戦果だ。

 

 対してアニエスの方はというと。そこまで戦意を燃やしてるわけではない感じである。

 

(ジリ貧ね。いつ抜け出そうかしら)

 

 アニエスの目的は飽くまでIS学園にいるロゼンダ・デュノアでありフランチェスカの世界征服ではない。協力は飽くまで義理立てに過ぎない。

 ここを逃せばアニエスがデュノアを潰すという目的を果たす日は遠く離れることだろう。だが戦況は圧倒的不利、共倒れで悲願達成が頓挫するなど冗談ではない。

 

 先程サイレント・ゼフィルスを回収しにスコールとオータムが介入してきた。

 今でさえ積極的な攻勢を取るのが困難な状態でもし相対していたセシリアが、もしくは遊撃で飛び回っている疾風がシャルロット達に加勢することとなれば流石のアニエスでも物量差で潰される。

 

(逃走先は確保できている。後はタイミングを)

「ミッサーーーイル!」

「チッ!」

 

 ショコラデがマイクロミサイルを発射。タラスクを発射後マシンガンで迎撃しつつ後退。

 シャルロットと真耶がミサイルと並走しつつ瞬時加速。当てるのではなく、ミサイルの誘導コース外に射撃し回避先を限定する。

 

「常套手段ね」

「っ!」

 

 強引にシャルロットの射線上を横切り、追ってきたミサイルを彼女の射撃で破壊する。爆炎に巻かれたシャルロットの眼前にロワイヤルを構えたアニエス。撃鉄を起こされ、究極の衝撃が襲ってくる。

 

「こんのー!!」

 

 シールド多重展開、ガーデン・カーテン出力最大。インパクトの前に展開したシールドで強引に杭の射出方向をずらし直撃を防ぐ。逸らされた一撃が轟音を立てて盾の上を滑るがそれでも受け流した右腕に痺れが走り、追って痛みが浮かぶ。

 

(痛い! でも必殺を逸らした! この隙はデカい!)

 

 カーテンを展開したまま左腕のグレー・スケール展開。シャルロットの最大火力をぶち込み活路を拓く。

 当てれる! と思った瞬間シャルロットは目を見開く。アニエスのロワイヤルが消えると同時に、左手にロワイヤルが展開されているのを。

 ロワイヤルは単発。一度撃てばリロードと冷却が入る。だが左手に出たロワイヤルは未使用状態。

 

「2個目……!」

 

 驚愕に一瞬、思考が止まり再度覚醒。だがこの致命的な刹那は高速切替(ラピッド・スイッチ)を持ってしても間に合わない。

 

「させま─」

 

 ブーストを入れた真耶の大口径ライフルがロワイヤルにヒット。ブレるロワイヤルをリコールし、右腕を新品のロワイヤルに高速切替。

 

「─せん!」

「ココだアぁっ!!」

 

 真耶から半歩ズレてショコラデが蹴り上げ。再度照準がズレる。

 腕2本はまだ蹴られた反動で動けない。突き出したグレー・スケールが眼前に迫る。

 足元にシールドを展開、蹴り上げてグレー・スケールを下から突き上げる。シールドがスケールごと上に行く。

 違和感。グレー・スケールは腕部アタッチメントに保持される武器。だが上に行くそれは明らかに腕の延長線上より上。

 シールドが抜け、開けた視界には大口径ショットガン【レイン・オブ・サタディ】を構えるシャルロット。シールドで蹴り飛ばされる瞬間パージし、自由な両腕にショットガンをコール。

 発砲。散弾がアニエスのシールドエネルギーに着弾。遅れて物理シールドが展開された。

 

 シャルロットがアニエスに与えた。初めての直撃弾だった。

 

(読み負けた! だけど)

「なっ、貴様ぁ!」

 

 吹き飛ばされた先に居た味方のクリア・ティアーズをシャルロットの方に蹴り上げ、マイクロミサイルポッドをコールし発射。

 バススロットから増加スラスターを取り出し瞬時加速で戦闘領域を離脱する。

 

 ショットガンで迎撃、飛んできたクリア・ティアーズを盾にしてミサイルを受け止める。

 だがアニエスのラファールは既に射程距離外に退避。そのまま戦闘領域を離脱しようとしていた。

 

「アニエスおばさん!」

「おいおい逃げるのかアニエス!」

「ええ、悪いけどお暇させてもらうわ。最後の読み合いは見事だったわシャルロット。次に会うときまで腕を磨いておきなさい。一人で出来るぐらいまで、ね」

 

 ハイパーセンサーが離れていくアニエスを捕らえ続け、やがてシグナルロスト。

 その瞬間シャルロットの全身から汗が噴き出し、身体の力が一気に抜けた。膨らんだ風船が萎むようにシャルロットの戦意が急速に抜け落ちた。

 

「デュノアさん! 大丈夫ですか!」

「大丈夫です、少し疲れただけ」

「いやーヤバかったねぇ! 3連続ロワイヤルチャレンジ。私もよく身体が動いたわぁ。真耶ちゃんナイススナイプねぇ。あ、シャルロットちゃんチョコ食べなチョコ。疲労感にはチョコよチョコ。真耶ちゃんはシャルロットを学園に送って休ませて来て。私はまだまだ行けるからカカオ布教してくるわ!!」

「待ってください! 僕はまだ大丈夫です!!」

「知ってる知ってる。でもこのカカオの現人神様の方がもっと大丈夫ってだけだからさ。ここは大人に任せて先にゆけい!!」

 

 板チョコをシャルロットに握らせて次なる戦場に飛びこむショコラデ。

 追おうとするが、シャルロットの身体は鉛のように重かった。

 

 高速切替(ラピッド・スイッチ)同士の攻防。

 度重なる取捨選択、イメージ・インターフェースの酷使。短くも濃い戦闘のやりとりは確実にシャルロットの気力を削っていた。

 

「デュノアさん。敵の特機戦力の一人が撤退しました。我々の作戦は成功です。今は身体を休めましょう」

「すいません、山田先生」

 

 どのような形であれアニエスを撃退した。

 だけど最初からアニエスは逃げる気だった。あのまま戦っていたらどうなっていたのか。疾風やセシリアが加勢に来れば倒せたかもしれないが、少なくともシャルロットとアニエスの差は歴然だった。

 

(もっともっと強くならなきゃ。じゃなきゃアニエスおばさんを超えるなんて夢のまた夢。次は絶対に勝つ)

 

 身体は疲弊しながらも心はむしろ燃えている。

 自分はまだ弱い、だからまだ上がっていける。

 強くなれる。それは決して夢物語ではない。

 

 フランス第二世代ISラファール・リヴァイヴ同士の攻防はひとまず終わりを迎えることとなった。

 





 五年ぶりの雪害が来ました。どうもブレイブです。
 都心も大変なことになってるみたいね。フフフ北海道においでぇ。

 今回はセシリアVSエム、鈴VS乱、ラファールトリオVSアニエスを締めくくりました。

 エムが思ったよりボッコボコになりましたね。少し可哀想だけどいいんや、うちのメインヒロインがそれだけ強くなったって事だからね。黒騎士少しアプデしようかね。

 鈴と乱、というより鈴の親父の扱いはどうするかもう決めています。少なくとも12巻場面には出しません。あんな極上の食材をパッと出などさせんよフフフフフ。

 最後にシャルロットたちとアニエス。これは少し大変でした。高速切替(ラピッド・スイッチ)による息もつかせぬ攻防となると台詞少なめ地の文多めの方が良いかなと思いましたがどうでしょう。まだまだ戦闘描写の研鑽が必要だなと思いましたわ。

 次回は残りのバトルを消化出来ればなと思います。
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