IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第150話【それぞれの愛】

 

 

「ラァァァブ! ボンバァァァァ!!」

 

 水蒸気爆発が起こす轟音が戦場の空気を震わせる。

 やたらめったらに爆発するそれはアクア・ナノマシンによるクリア・パッション。

 それを操るのはロシア第三世代のグストーイ・トゥマン・モスクヴェのプロトタイプをカスタムメイドした元ロシア国家代表、ログナー・カリーニチェ。

 

「愛は爆発! 爆発は愛! 激しく! 熱く! 爆ぜて燃えルゥ!!」

 

 ボンガボンガと無色透明の爆弾を四方八方に放出するその姿は正にISが生んだ爆弾魔、いやユナ・ボマー。

 

 それに相対するは更識姉妹。

 2人はひっきりなしに爆発するクリア・パッションに二の足を踏んでいた。

 

「あーもう! 前より爆発癖がついたわねあの女!」

「あんなに連発してるのにアクア・ナノマシンが途切れる様子がない。お姉ちゃんと違ってシルエットが膨らんでるからナノマシンタンクを増設してるのかな」

「アクア・ナノマシンってBT技術も使われてるから、BTナノマシンで操作技術上がってるのかも」

「それでも動かすのは人の手や思考。お姉ちゃん、私が……」

「お姉様ぁぁぁ!」

 

 愛しの楯無と同じ蒼流旋で姉妹の間に割って入るログナー。分断したのち左手のラスティー・ネイルで払い除け、至近距離でクリア・パッションを爆破、簪を海に叩き落とした。

 

「簪ちゃん!」

「お姉様ったら意地悪。私と熱いランデブーの最中に妹なんてものと仲良くシテ」

「あんたみたいなサイコレズの相手なんかするより簪ちゃんとお話する方が百億倍価値あるのよ。ほんと落ちるとこまで落ちたわねログナー。まさか国を裏切るなんて」

「私は最初から変わってませんヨ。私の一番は楯無お姉様。私の世界の中心は楯無お姉様。あの時の代表交代戦で貴方に熱烈にぶちのめされた時からログナーはお姉様ファースト。お姉様以外何もいらない何も欲しくナイ! お姉様と共にいる為なら、世界だろうが差し出しまショウ!!」

「はぁ……これもISが生まれた弊害なのかしらね!」

 

 ISが生まれ、女尊男卑社会になってから女性同士の交際率が格段に増えた。

 様々な要員があるが、IS黎明期の男性に対する評価は転がり落ちるように下がった事が起因とされ、世界的に女性同士の婚姻が法律で認める国が増加した。

 簡略的に表現するならば、男なんか頼りないから女の方が良いよねって認識が拡散された。

 因みに男性同士の交際状況は特に変わりはなかったりする。この事実に世界中の腐女子が涙した。

 

 もっとも、ログナーの場合はそのパターンに当てはまるかと言えばそうではなく。ログナーは楯無にボッコボコにされるまでマゾでもサイコでもレズでもなかったという。根底に危ない側面は見え隠れしていたが。

 正しく豹変したというのがロシアのお偉いさんの談だった。

 

「前はもっとクールだったのに、あの時の方が好きだったかなぁ!」

「ヤン♡お姉様に好きって言われマシタ! でも素は変わってないのデス。表に出してなかっただけデ!」

「今からでも遅くないから社交性持ちなさい!」

「お姉様が私のものになってくれるナラ!」

 

 楯無のISのプロトタイプであるログナーのモスクヴェ。だがその姿はミステリアス・レイディと彩色含めた細部までそっくりそのままに造形されている。簪の言う通りナノマシンタンクを増設してるが、それでもパッと見では差異は見られない。

 蒼流旋、ラスティー・ネイル、バイタル・スパイラル、そしてクリア・パッション。武装すらまったく同じ。

 違う点はアクア・クリスタルの数が違うこと。楯無が6基のクリスタルを停滞させてるのに対しログナーのは10基。

 

 ログナーは第二次形態移行(セカンド・シフト)したレイディに対抗するために武装増加というゴリ押しで対抗した。

 それに加え機体もブルー・ブラッド・ブルーに改造されたのだろう。体内に投与されたナノマシンでBT制御技術が向上し、楯無と同じレベルにまで引き上げられた。

 

 結果、クリア・パッションの大盤振る舞いという贅沢な戦術を思う存分発揮。息もつかせぬ爆撃で更識姉妹を寄せ付けない結果となった。

 

 更に更識側にとってもう一つ懸念がある。

 それはミステリアス・レイディが万全ではないこと。

 

 ゴーレムⅢとの捨て身の戦い。そして修復後に疾風と簪のタッグマッチによる禁じ手の神庭沈下(セックヴァベック)使用。トドメとばかりにセシリアの奪還で臨界を超えたミストルテインの槍の使用。

 

 現在レイディの稼働状況は80%。

 ミストルテインの槍、そしてワンオフ・アビリティーは使用不可。

 通常戦闘なら満足に行えるが決め手にかける。だが決め手がないぐらいで強さが揺らぐほど更識楯無はやわではない。

 それでも彼女に押されている要因があるとするば……

 

「あなた、私が手に入るからフランチェスカの誘いに乗ったらしいわね。洗脳したお人形でも満足出来るのかしら?」

「それは些細なことデス。お姉様が私の物になってくれるならそれだけで幸福の絶頂。それに、洗脳中で従順なお姉様を味わい尽くした後に洗脳を解いたお姉様をじっくり堕とすのも悪いないカモ。ほら、日本のカルチャーには快楽堕ちなんてのも、あるデショ?」

「ないわよ! ほんとあなた気持ち悪いわ!!」

 

 ログナーに対する生理的嫌悪。端的に言ってキモい。

 簪が来て持ち直したとはいえ、ログナーの狂喜的とまで言える歪な愛は楯無の調子を乱している。

 

「はーーー興奮してきまシタ。まあ今も興奮して『ピーー』してるんですケド。このあとお姉様とくんずほぐれつ、あーんなことやこーんなことやそーんなことまでぇ! キャーー!! お姉様! 私と今直ぐ『ピーー!』しまショウ!!」

「っ! …………はぁー」

 

 だがそんなことも言ってられない。

 今も背筋に氷柱が通るような寒気と鳥肌を立たせているが、これは自分だけの戦いではない。文字通り世界を決する戦いだ。 

 

 自分以外の生徒が頑張ってくれている。後輩である代表候補生が頑張ってくれている。

 その長である自分がこんな体たらくを働いては、学園最強として皆の前に顔向け出来ない。

 そして、妹の為に受け継いだ楯無の名。それを背負うと決めた覚悟を偽りにしない為にも。

 

(シャンとしなさい刀奈。こんなネタ枠の相手なんて人生の無駄よ。迅速かつ冷徹に……使命を果たせ)

 

 向かってくるログナーの蒼流旋の刺突を自身の蒼流旋でずらしソードモードのラスティー・ネイルを一閃。

 剣の導線上に同じ武器を置かれるが衝突のタイミングでリコール。空振って隙を見せた腹に拳を叩きこみ、離れたログナーにバイタル・スパイラルと蒼流旋の弾幕を掃射、ログナーは3重に重ねたアクア・ヴェールで受け流す。

 

「あっはぁ! 良いですよお姉様! やっとやる気になってくれたんですネ!」

「そうね。ありがたく思いなさい!」

「勿論! さあもっと愛を込めて!!」

 

 接近する楯無に大量の水蒸気爆弾の霧を放出し起爆態勢に入る。

 楯無は背後に隠していた水球を射出。霧の密集地帯で大爆発を起こし、霧を追いやった。

 

「にょ!?」

「なんてことないわ。第三世代武装の弱点なんて私が一番知ってるんだから」

 

 クリア・パッションが付与された霧は物理攻撃や光学兵器でも簡単に処理は出来ない。だが霧はその軽さ故に空気の対流に弱い。ましてや留まることが出来ない屋外なら尚のこと。

 ちょっとやそっとの風では踏みとどまれても、爆風という圧の塊にはどうしても踏みとどまることが出来ない。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)発動。水流を纏った槍が3層のヴェールに突っ込んだ。

 

「ぐぬぅ情熱的! でも足りまセン! 良いデスよ良いデスよ! もっと高めて……」

「ログナー。一つ言ってなかったことがあるんだけど聞いてくれるかしら」

「はい何でしょうお姉様」

「私、彼氏居るのよ。少し前から」

「…………………………嘘」

「うん、嘘よ」

「へ?」

 

 十数秒の空白のうちにログナーの腹にクリア・パッションの霧を流し込み、起爆。

 ふっ飛ばされたログナーは海面に向けて落ちていく。

 

「ヌゥゥゥ! お姉様ったら酷い嘘! でもこの程度では私の命には届きまセン!」

「別に私じゃなくてもいいのよ」

「私たちで倒せればいい」

「っ!」

 

 海面から浮上した打鉄弐式。

 落下の勢いのままもう一度叩き落とさんと霧を練り上げるログナーは簪の姿、ではなく簪が持つそれを見て目を見開く。

 

 それはロシア第三世代の伝家の宝刀。

 本来打鉄弐式が持つはずのない、アクア・クリスタル3基で形成された通常の四分の一サイズのミストルテインの槍が握られていた。

 

「なんでお前がそれヲ!」

「答える必要はない」

「くっ!」

 

 ログナーは練り上げた霧を前方に投射する。

 小さくてもそれは爆発物の塊。何故それを持てるのか、ブラフの可能性。あらゆる可能性を防ぐ為にアクア・ナノマシンを全力投射する。

 

「山嵐、斉射!」

 

 バカッと開かれた砲門から48発のマイクロミサイル。その半数が濃縮された霧に突っ込み爆発、クリア・パッションが乱されて機能停止。

 残った山嵐が左右から挟み込む。バックブーストで回避行動を取ろうとしたところを楯無に背中を蹴り落とされ態勢を崩れる。急遽アクア・クリスタル10基を合わせた球状のアクア・ヴェールの全開防御で山嵐を防ぎ切った。

 

 だがまだミストルテインの槍が残っている。クリア・パッションはまだ展開できない。

 せめて直撃は回避しなければならない。残ったアクア・ヴェールを繋ぎ直し前方に防御陣を敷く。

 

 だがログナーは見落とす、いやそもそも見ていないし知りもしなかった。

 打鉄弐式は対ミステリアス・レイディ用に作られたISだということを。

 

 正面にかざしたヴェールに突き刺さったのは水の槍──ではなく緑色に発光する細身の刃。最大振動出力を発揮した夢現だった。

 

「ナニ!?」

「拙い。お姉ちゃんと比べたら何もかも」

 

 ログナーも腐りきっても元国家代表。簪とは腕前の差は歴然。機体相性を加味してもそれは揺らぐことはない。

 だがログナーは簪を眼中に入れていなかった。ログナーにとって簪は噂通り出来の悪い妹。姉と比べて何もかも劣る存在であり路肩の石。

 故に見誤り、慢心する。目の前に居る女は既に落ちこぼれではない事を。

 

 ISのエネルギーを伝播した超振動が水の固形化を分解。ただの水となったそれを突き破り一刺し、更に連撃を加えログナーを仰け反らせた。

 

「こんのっ! 妹風情が調子に乗るナ!!」

「義理でもない赤の他人が言ってもって話だと思うけど」

「ムカつく! お望みならあんたを先に……あれ、槍何処にやっタ?」

「おまけに視野も狭い。よく代表やってこれたね」

 

 目を見開いて殺意を剥き出しにするログナー。だが夢現を両手で持っている簪を見て、先ほど形成していた筈のミストルテインの槍が無い事に気付く。

 そして背後から迫る光とエネルギー質量を察知し振り返る。

 

「そんな!」

「ナイスよ簪ちゃん!」

 

 山嵐の爆発を目眩ましに、直前で投げ渡された槍を楯無は受け取っていた。

 ISのエネルギーを注入された輝くミストルテインの槍を持ち、楯無は渾身の力を込める。

 

「喰らってくたばれレズ野郎! これが簪ちゃんとの初の共同作業! 更識式ミストルテインアターーック!!」

 

 普段より小さい槍に様々な感情が注ぎ込まれた一撃は両者を巻き込んで大輪の華を咲かせる。

 爆発によって弾き出された楯無は簪に受け止められ、ログナーはもみくちゃになりながらなんとか海の上を滑る程度で済んだ。だが遮二無二に間に合わせで防御したアクア・クリスタルは全損。ナノマシンの生成も先ほどの防御で使い切り補充を余儀なくされていた。

 

「こんな! よくもログナーより先にお姉様との共同作業ヲ! ケーキ入刀より先に共同作業ヲォッ!!」

「そこは性交じゃないのね」

「意外に乙女なんだ。意外に」

「五月蝿い妹! まだ武器は残って」

『撤退するわよログナー』

「あぁ!!? 邪魔するなアニエス!」

『フランチェスカは負けるかもしれないし。逃げおおせても貴方の望みは叶いそうにないわよ』

「だけどお姉様ガ!」

『なら勝手にしなさい。私は先にクライアントの方に行くから』

「…………チィッ!!」

 

 先に離脱したアニエスの正論に反論することが出来ず思わず舌を打つ。

 ログナーはバススロットからペン型注射器をコールし首元に打ち込んだ。ログナーの目がBTナノマシンの青から元の色彩に戻っていく。

 ログナーは自身の内にあるBTナノマシンを殺し、フランチェスカの支配下を抜け出した。

 

「お姉様、それとついでに妹! 今回は引かせて頂きマス! 待っててくださいねお姉様! 必ずやログナーは戻って来ますカラ!!」

 

 機体各所の増加ナノマシンタンクをパージ。海に落ちたそれは巨大な水蒸気爆発となり、ログナーは海中に消えた。

 

「自爆!? ……じゃないわよねぇ」

「逃げられた」

 

 情報戦が得意な弐式のハイパーセンサーにログナーのIS反応はない。

 アクア・ナノマシンは水を操る力。

 水中で使えば抵抗を限りなく減らして移動が出来る。ログナーは水柱から海を渡って逃げおおせた、まるで忍者のように。

 

「はぁーー。これからもあの女が付き纏うんじゃないかと思うと気が重い」

「動画サイトのアカウントもBANされてるし、頻度は減るんじゃないかな」

「だと良いけど。そんなことより簪ちゃん、ミストルテインの槍の成形完璧だったじゃない! やるー」

 

 簪がログナーに叩き落とされる寸前、楯無からバススロットに入れていた予備のアクア・クリスタルを譲渡された簪は海中でミストルテインの槍の生成作業を行なっていた。

 

 姉と仲直りしてから、布仏姉妹を交えてミステリアス・レイディのメンテナンスに加わっており、データ整理や構築をする中でレイディのデータを拝見していた。

 本来打鉄弐式にアクア・ナノマシンを操る機能はない。だが簪はナノマシンの骨組みと海という素材を使って見事生成に成功。簪の神業ともいえる戦闘中リアルタイムアップロードと、以前組み込まれたミステリアス・レイディの実戦データが可能にした、姉妹の絆の結晶だった。

 

「でもエネルギー注入の起爆までは出来なかった。普通の生成より何倍も時間使っちゃった」

「だからこそ投げて渡せたんじゃない。それに普通は何時間かかろうが不可能なのに、簪ちゃんは謙虚なんだから。不可能を可能にする簪ちゃんは凄い! 最高! 可愛い!!」

「か、可愛いは関係ないと思う……」

 

 荒んだ心を癒すように簪ちゃんを抱き寄せて撫でくりまわす楯無と褒められて満更でもない簪。

 姉妹の絆はサイコレズストーカー如きに断ち切られるものでは決してない。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 IS学園対岸付近。

 黒兎隊IS2機と黒兎隊洗脳兵4機の戦いは。

 

「どうした、もっと動け。ビットに意識を割き過ぎだ」

「シュツルム・ウント・ドランクゥゥゥ!」

「キャア!」

「このっ、ネタとガチの温度差エグいって!」

 

 終始ラウラとクラリッサが優位に立っていた。

 

 片やオールラウンドに立ち回るラウラ。片や20本のワイヤーブレードを手足のように操り、超高速回転でワイヤーによる黒い竜巻を生み出すクラリッサ。

 相手はBT兵器を主体にした4機、手数は同格かそれ以上だった。

 

 越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)とBTナノマシンにより空間把握能力は格段に跳ね上がっている筈なのに何故こうも押されるのか。

 答えは単純。+αをこさえたマチルダら4人の眼の能力以上に2人と眼の親和性が高いからに他ならない

 

 それに加えて追い詰められている要因が一つ。

 

「「フォイエル!」」

「あぁ、またビットが!」

 

 対岸に位置する黒兎隊が駆る12機のEOSレーデルハイト工業砲戦仕様カスタムのIS用レールカノンから撃たれる砲撃だ。

 キャニスター弾の広範囲攻撃により次々とビット兵器を粉々にし、手数をガリガリと削っていた。

 シュヴァルツェア2機に意識を向ければ対岸からの砲撃。砲撃を注視すれば隙を刈り取ってくる隊長と副隊長。

 

 1基は散弾に、1基はグレネードに、そのまた1基はワイヤーブレードでズタズタにされ。

 4機に6基ずつ付いていたビットが全損するまでそう時間がかかることはなかった。

 

 ドイツ国家代表アレクサンドラ・リンデマンが海軍に居るにも関わらずシュヴァルツェア・ハーゼが何故ドイツ最強の部隊と成り得たのか。

 それは抜群のチームワーク。徹底された連携技術にある(アレクサンドラは突出してトリガーハッピーによる弾薬枯渇のあと袋叩きにされることが多い)

 

 そして彼女らの基本戦術は包囲殲滅と飽和攻撃による敵対勢力の選択肢削除による封殺である。

 

「こんな、なんで私たちがこうも一方的に」

「判断ミスだな。我々の罠に気付いた瞬間に後退すれば致命的にならなかったものを」

「洗脳されて我々の基本戦術すら忘れたのか? フランチェスカの洗脳教育は弱体効果があるらしい」

「ビットは全てなくなった。投降しろ、戦力差は歴然だ」

「……変わりましたよ隊長。いつもなら投降勧告なんてせずに殲滅しに来たでしょうに」

「当然だ。我々の目的は貴官らの奪還なのだからな」

「はっきり言って隊長は弱くなりました。あの織斑一夏なんて男と関わったせいで!」

「IS学園に行く前はクールで情け容赦ない軍人の鏡そのものだった貴方が今や醜態を晒し続けている!」

「私たちはそれを許してはおけないんです!」

「お前たち隊長が織斑一夏にキスしてプロポーズしたと聞いた時、誰よりも飛び上がって喜んでなかったか?」

「無駄だクラリッサ。どうせ不都合な記憶は封じられてるだろう」

 

 女性は強くあるべし。

 女尊男卑思考に染められた彼女たちの記憶には力こそ全てと刻み込んでいた、冷氷と呼ばれたラウラ・ボーデヴィッヒ隊長の記憶しかなく。一夏に恋をし乙女回路を組み込まれたラウラではなかった。

 

「確かに私は弱くなったかもしれん。甘くなった、堕落したと言われても反論は出来ないかもしれん。だが私は今の自分を恥じたことはない」

「何故です!」

「それを含めてのラウラ・ボーデヴィッヒだからだ」

 

 一度落ちこぼれとなり周りから冷遇され。織斑千冬と出会い頂点に返り咲き。その強さに焦がれ、強さこそ全てと考えた。

 馴れ合いなど不要。部隊として最善の運用が出来ればそれでいい。軍人のビジネスとしてそれはある種の理想形だ。

 

 だが織斑一夏に出会った。

 敬愛する織斑教官の偉業を台無しにし、彼女の隣に居る彼を憎み、逆恨みした男に勝負を挑んだ。

 

 結果は自滅も良いとこの情けない敗北となった。

 力こそ全て、だが暴力だけの力は更なる力によって容易く壊れる脆い物だと知った。

 

 織斑一夏は言った。

 強さとは自分がどうありたいかを常に思うことじゃないか、と。

 

 どうなりたいか。織斑教官のようになりたいと願った。だがそれは模倣するだけでは辿り着けなかった。

 

 織斑千冬は言った。

 お前は誰だと。誰でもないならお前はラウラ・ボーデヴィッヒになればいいと。

 

 シュヴァルツェア・ハーゼ隊長という役職でもなく。

 プロジェクトの成功体、遺伝子強化試験体C-0037ではなく。

 ありのままの、ラウラ・ボーデヴィッヒという人間になれと。

 

『お前も守ってやるよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 今も胸に刻まれた愛する男の言葉。

 なんてことないように。当たり前のように言ってのけた彼の言葉は今までの何よりも心に響いた。それこそ、存在するはずのない恋心が出きてしまうほどに。

 

 そしてラウラは、灰色の人生に色を見たのだ。

 

「私は今の自分を誇りに思う。シュヴァルツェア・ハーゼの隊長として。ドイツ連邦共和国の代表候補生として。そして織斑一夏を愛する1人の女である、このラウラ・ボーデヴィッヒを! その名その決意に、一点の曇りはない!!」

 

 赤と金の瞳には一切の迷いはない。

 ラウラ・ボーデヴィッヒは今の人生になんの負い目も感じていない。愛する人と敬愛する元教官。信頼できる友、そして戦場を共にする部下が居てくれる。

 壮絶な生まれを持つ自分にとっては余りにも恵まれた新しい人生。それに恥じぬ為にラウラは今日も人生という長くも短い道を歩く。

 

「流石隊長! 小さい身体に巨大な魂!!」

「何処までもついてきます隊長!!」

「ボーイ・ミーツ・ガール! それに勝る乙女はこの世にありません!!」

 

 威風堂々。それを形にしたような銀髪の少女の姿にシュヴァルツェ・ハーゼは盛りに盛り上がった。

 特務部隊らしからぬ和気あいあいさではあるが、それが黒兎隊のスタンダートなのだ。

 

 そしてお気づきだろうか。

 部隊の誰よりもラウラを敬愛しているクラリッサが先ほどから何も発さないことに。

 

「……大丈夫かクラリッサ」

「だ、大丈夫です。隊長がカッコよすぎて鼻血が止まらないだけなのでオッホッ……」

「大丈夫なら、良い」

 

 ドクドクと出る鼻血を抑えながら満面の笑みを浮かべる副官を脇に置いたラウラは4人に向き直った。

 

「認めません、そんな隊長私たちは」

「御託は良い。文句があるなら捕まえて洗脳することだな。それともビットがなければ戦えないか?」

「舐めないで下さい!」

 

 シュヴァルツェ1機、ティアーズ3機が肉薄する。

 構えたレーザーライフルの光線をレーゲンのワイヤーブレードで難なく弾いた。

 

「お前たち手を出すな。後は私がやる」

「一度追い詰められた私たち4人を援護なしでやれるとでも!」

「やれるさ。これくらいはな」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で敵中央に突入。4人は即座にラウラを包囲しようと立ち回るが先んじてラウラが放ったワイヤーブレードが4人のライフルを破壊。獲物を無くした4人はレーザーサーベルとプラズマ手刀を刺しに行く。

 レーゲンのAICを前に近接戦は悪手。だがAICは単一目標にのみ有効で複数相手では分が悪い。誰か1人を止められても残りが確実に仕留められる、筈だった。

 

越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)、演算出力最大」

 

 あと数センチで届く刃先がビタッと止まる。それよ4人同時に。

 それは紛うことなくAICによる慣性停止結界だった。

 

「私が弱くなったと言ったが少し訂正しよう。私は前より強くなったぞ」

「な、え!?」

「どういうこと! AICは全方位には展開出来ない筈じゃ」

「フン。その眼は飾りか? 強化された視覚で良く見るといい」

 

 BTナノマシンで強化された越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を通してハイパーセンサーが空間の歪みを捉えた。

 そこにはピンポイントで的確に4人の腕を掴むAICの力場があった。

 

「まだこの眼を使わなければ不可能だがな。真っ直ぐ突っ込んでくる相手ならば予測して配置することが出来るようになった」

「このっ!」

「無駄だ」

 

 追加されたピンポイントAICが残ったプラズマ手刀を停止させる。

 そして最初は手だけを止めていた力の触手が腕全体を固定していく。

 

「虚幻は終わりだフランチェスカ・ルクナバルト。私の部下を返してもらおう」

 

 ワイヤーブレードを巻き付け自身に引き寄せ、4人にボディを押し付けワクチンを流し込み、その身を蝕んでいた青を消し去った

 

「無事か、お前たち」

「……すいません隊長。シュヴァルツェ・ハーゼの看板に泥を塗ってしまいました」

「一生の恥です。死んで詫びます」

「死なんでいい。身体は大丈夫か」

「なんか身体が重いです。あと眼が痛い、パチパチしてます」

「正直、これ以上の戦闘行動は望めないかと」

「無理もない。本来想定していない強化ナノマシンの二重使用だ。クラリッサ、鼻血は止まったか。こいつらをIS学園へ」

「了解しました。鼻血は止まりました」

 

 クラリッサが4人を引き付れてIS学園に戻るのを見届けることなくラウラは戦場に身を翻した。

 

「隊長」

「なんだファルケ」

「私たちは前の隊長も今の隊長も好きですよ」

「フッ、知っている」

 

 彼女ら仲良し4人組はラウラが落ちこぼれになった時でも気に病んでくれていた。そして復帰した時は泣きながら喜んでくれた。

 当時他者との関わりを軽視していたラウラは邪険に扱っていたが、今は感謝している。それは一夏と出会ったあと改めて理解できた。

 

 こんな少女隊長を慕ってくれる彼女らを、ラウラはどうしても助け出したかった。

 

「女性至上世界か。そんなものがなくても強い女は居るし、強い男も居る」

 

 自分を守ると言ってくれた男。

 自分の罪を許してくれた男。

 その2人を受け入れ親睦を深めたクラスメイトたち。

 

「この世に性が2つあるなら共に生きるしかないだろうに」

 

 彼らを知っているラウラにとってフランチェスカが掲げる女性至上主義は最初から無益なものにしか見えなかった。

 真に女性至上世界なんてものがあるなら、そこに暴力は必要ない筈なのだから。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「頃合いか、いや遅いくらいだな」

 

 各地の戦闘に決着がつき、手すきになった人員が他の戦線に組み込まれるのをミネルヴァの情報越しに確認する。

 

 既に敵の戦術機能は崩壊しつつある。数の利は未だに敵側にあるが、それはワルキューレを加味してのこと。ISの戦力差は既に開いており、ワルキューレですら加速度的に数を減らしている。

 

 これ以上追い込みすぎればフランチェスカの逃走を招く可能性がある。彼女が手下の女性たちを見捨てて逃げるかは分からないが、自分さえ生きていればまた立て直せると考えるかもしれない。

 その場合は守るべき女性を見捨てて逃げたというレッテルが貼られるが、最初から力による支配を掲げる奴だ。洗脳というカードある以上、長い時間をかければ兵力を補填することも不可能ではない。

 

「こちらレーデルハイト。これより最終段階、敵旗艦の無力化とフランチェスカ・ルクナバルトの討伐にかかる。人員は私とイギリスのスカーレット・ナイツ、アメリカのイレイズドで行います」

「イギリスだけで良いんじゃねえか? 敵残存戦力はフランチェスカを含めてIS4機、あってもワルキューレだけだろ」

「フランチェスカの力量が未知数ですし、万に一つ逃げられる訳には行けません。過剰なぐらいが丁度いい」

「了解よ青い鳥さん。各機戦闘中止、これより敵旗艦に向かう!」

 

 本音を言えばタイマンでボコしたかったがこれは戦争だ。目的と手段を間違えてはならない。

 いや、むしろ無駄に騎士道精神気取ってる奴を「卑怯者」って言われながらボコすパターンも悪くはないか。

 

「キャメロットに主砲発射の兆候あり。これまでで最大のエネルギー総量です。各機警戒を」

「苦し紛れの最期っ屁か?」

「主砲を見過ごしたら一気に接近する」

「主砲、来ます」

 

 眼下を過ぎる白色の極光。

 エクスカリバー級の砲撃だが、IS学園のバトルフォートレスは展開されたエナジーカーテンで尽く防ぎきっている。まだ学園のエネルギーも余力があるからまだまだ防げると思うが。

 

「……っ、しまった!」

 

 通信越しの麻美さんが初めて焦りを見せた。

 何があったのかと確認するまでもなく、敵旗艦が放った極太ビームが無数のレーザーに枝分かれしたのだ。

 

「嘘だろ! あの規模のレーザーをフレキシブル出来るのか!?」

 

 初の想定外。だがそれを止める術はなく千を超えるレーザーがIS学園のドームシールドに次々と突き刺さった。

 

 結果、IS学園はそのレーザーを防ぎきった。

 だが分割されたとはいえ相当のエネルギー総量。並びに今まで蓄積されたエネルギー消費によりドームシールドの耐久性が下がった。更に、エネルギーがオーバーフローしたことで火器管制システムに異常が発生。復旧を急いでいるが時を有するとのこと。

 

 だが状況悪化はこれで終わらない。

 

『全クリア・ティアーズ。VTシステム起動。IS学園に取り付きなさい。1機でも突破出来れば私たちの勝利よ』

 

 クリア・ティアーズに安城と同じバイザーユニット、そして白色の機体に黒の差し色が刻まれた。

 

「警戒! 敵クリア・ティアーズが一斉にVTシステムを発動!」

「うわっ、こいつら私たちを無視して学園に!」

「EOS部隊は撤退を! シールドを抜かれれば死ぬわよ!」

「止めろ! 奴らを止めろ!」

「決死隊がこいつら! てか弾当たんねえ!!」

 

 勝負に出たかフランチェスカ! だけどこんな捨て身の戦術、いや戦術どころかカミカゼだぞこれは! 

 

 さっきの安城に搭載された物と同じ統合型VTシステム。同時にBTナノマシンをフル稼働させて攻撃を回避している。

 

 やられた! まさかこんなプライドもかなぐり捨てた特攻をしてくるなんて! 

 奴らの非合理さを甘く見ていたのか!? 

 

《敵旗艦からIS反応5! マスター、フランチェスカが出てきたぞ!》

「なに!?」

 

 あの女が出てきた! 逃げる為? それとも戦うため? 

 学園に1機抜ければ誰かが人質に取られる。そうすればこちらは後手の後手に回らされる。盤面を台ごとひっくり返される。

 

「レーデルハイト、指示を出せ! 俺たちは行くのか、行かないのか!」

「……!」

「疾風、戦線が崩壊してきている! こっちに戻れるか!」

 

 どうする全機反転して援護にいやフランチェスカに逃げれる可能性もだけどこの勢いは全員で対処しなければだけど逃げられたら全部終わるいや相手が特攻したということは勝利を諦めていないだけど部下を見捨てて逃げるとしたらでも仮にも女性至上を目的とした奴が女性を見捨てるのかそれともそれしかない覚悟だった──

 

 あれを使うしかないのか。

 あれさえあれば一気に鎮圧が出来る。だが今使えばフランチェスカに勝つことは不可能に……

 

 ガラリと変わる戦況。矢継ぎ早に入ってくる情報をイーグルが整理して出してくれる。

 全てを見て思考を止めずに最善手を探し出す。だが焦りも出てきて思考が纏まらず止まらない。

 

 身体が冷え、頭が熱くなるなか、なんとか指示を振り絞り……

 

「狼狽えるな!!」

「っ!」

「え、今の声は」

 

 ぐちゃぐちゃになった思考を吹き飛ばす、厳格かつ凜とした声色。

 時には厳しく、時には不器用に。俺たちを教え導いてくれた恩師の声

 

「レーデルハイトとイギリス、アメリカの部隊は敵旗艦を叩け。こちらは気にしなくていい」

「りょ、了解です!」

「残ったISは態勢を立て直せ。無理に守らなくていい。何機かは通して構わん」

 

 IS学園の絶対防衛線、その沿岸にあの人は居た。

 一振りの日本刀を握る。世界最強の女傑がさも当然のように言い放った。

 

「全て、私が斬る」

 





 いまんところ花粉の影響はないがいつかかるか震える男。
 どうも、作者のブレイブです。

 今日は残ったヒロインズのバトルを消化。
 ログナー、キモさマシマシ。
 シュヴァルツェ・ハーゼTueeeeeeee!!でお送りしました。

 ログナーといいショコラデといいパッとでのキャラ濃すぎなんてもんじゃないですなぁ。いやほんと出番も情報もない、ショコラデなんて簀巻きにされたしかないですし。
 ラウラのとこはほとんどラウラの独白になっちゃった、だって苦戦する要素皆無ですしね。強いラウラ書けて満足です。

 そして満を持してサウザントウィンターが出る!
 次回、お姉ちゃん無双とラスボス会敵でお送りいたします
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