IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
まず始めに。皆様のおかげでIS スカイブルー・ティアーズが赤評価に戻りました!! 皆様からの高評価、ありがとうございます!!これからも頑張ります!!
そして始まりました、1巻2巻編!
IF章のタイトルですが、IFってだけで苦手意識を持たれる方もいらっしゃると思うので直球にしました。
久しぶりに原作関連を書けたので筆が乗りに乗りました。
それではどうぞ!!
IF第1話【なにこれラノベ?】
インフィニット・ストラトス。
一人の天才少女が作り上げた宇宙活動用パワードスーツ。
無限の成層圏、その先に至る為に作り上げられたそれはある事件を契機に現行兵器を全て過去のものにした超兵器として認知された。
その圧倒的な性能と絶対数の少なさから国政と直結したパワードスーツ。だがその機械には致命的な欠陥があった。
女性にしか動かせない。
どのような手段を持ってしても男性が動かすことは叶わず、世界は瞬くまに女性優遇社会に…………え、長くなりそう? そんなことは知ってる?
すまないすまない。柄にもなくテンションが上がってな。
誕生から10年。女性優遇とは対象的に起こった男性冷遇の風潮が表面上収まってもなお、ISを動かす男性は現れることはなかった……そう、今までは。
ある日、1人の男がISを動かした。
そして、月を跨ぐことなくもう一人ISを動かす男が現れた。
この物語はIF。神様がほんの少し時間を早めたあり得たであろう一つの可能性。
あってもなくても特に変わらない、そんなもしもなお話。
これは2人の男性IS操縦者が、世界に織り立った物語。
ーーー◇ーーー
足取りが軽い。間違いなく人生で一番軽い。
天気は快晴、気温も丁度良く、時折吹く海風が心地よい。
「ねえ、あの男子って」
「やっぱりそうだよね」
「一見普通っぽいけど味がある感じ?」
「眼鏡男子、頭いいのかな」
周りを歩くのは女性、それも俺と同い年の女子ばかり。
周りを軽く見ても男は俺一人。
そんな男一人を見ては口々にこちらに聞こえないであろう声量を出すが残念、俺は耳が良いほうなのだ。
まだ私服でマスクもしてるというのにこの注目度。それも仕方ない。
何故なら俺は世界で一番注目されている2人の男の片割れ。世界に2人しかいない希少な存在になってしまったからだ。
モノレール駅近くの多目的トイレに入り、カバンに大事に入れていた制服に着替える。
着心地はバッチリ、鏡の前に立って不備がないかをチェック。
制服、といってもそれは一般的に普及している黒や紺色のブレザーや学ランとは真反対の白基調の制服だった。
大きい襟元は黒、縁取りは赤。1年生を示す青いネクタイ。
首から腕にかけて一本のライン、袖口は赤と細く黒。
左肩には4枚羽の天使とISという英字をオシャレにした学園の校章。
上着の上からベルトで締め上げ、ズボンは白一色。
シンプルでありながら何処か未来的。
特別感がこれでもかと伝わって来る。
しかも制服は改造可。お金をかければオーダーメイドで大々的にオリジナル制服も作れるという。
一節によれば制服の枠組みを超えた着物なんかにも出来るというが、流石にそんな魔改造を超えた異世界転生改造をするような人は居ないだろう。
「んーーーー。カッコいいね」
こんな平均的な顔面やスタイルでもこうなのだからもう一人のイケメン君が着ればさぞ映えることだろう。
……おっと、ナルシスト気味に鏡の前に長時間立つのは中々痛いぞ。
トイレを出ると集中線が出るぐらいの視線が!
「あの子2人目の男じゃない!?」
「制服着てるし間違いないよ!」
「私あの子タイプかも」
「えー1番目の子のほうがイケメンでしょ。なんか地味だし眼鏡だし」
ハッハッハ。好き勝手言ってくれるじゃないの。ダメージなんかないぞ。ないったらない。
あと俺をタイプだと言ってくれた人ありがとう。褒め言葉は素直に受け取ろう。
丁度来たモノレールに入り、反対側の扉の前に陣取る。周りは女子女子女子。間違って女性専用車両に乗ったのではないかと思われるが厳密にはそうではない。ただ男として乗るのは俺とあと一人ぐらいしか居ないというだけだ。
とりあえず痴漢と間違われないよう両手を手すりに固定っと。
態々立っているのは席を譲ったからではない。
1秒でも早く、1秒でも長くその全貌を視界に収めるためだ。
「おお!」
声を抑えるのも忘れ、学園の上に浮かんでいる『WELCOME IS学園』のホログラムに目を奪われた。
IS学園。正式名称、国立IS高等専門学園。
10年前に登場した超兵器、インフィニット・ストラトス、略してISを学ぶ世界でたった一つの教育機関。
そこで俺は生徒として通う。
申し遅れた。俺の名前は疾風・レーデルハイト。
大企業レーデルハイト工業社長のご子息にして。
世界で2番目にインフィニット・ストラトスを動かした男である。
目の前のドアが開いた瞬間周りのことなど知らぬとばかりにモノレールから飛び出した。
興奮が身体を支配している。理性を取っ払って改札口を走り抜け、全速力でIS学園正門のアーチにたどり着く。
「IS学園だ…………」
視界が滲む。
此処に通うことを夢見た。だけど絶対にそれは叶わないと思っていた。
頬をつねって現実であることを再認識し、溢れる涙を放置してIS学園を見上げた。
そんな喜び沸き立つ俺の後ろで、呆れつつ笑う淑女が1人。
「まったく、走るなんてはしたないですわよ。まるで子供のようですわ」
「俺は花のティーンエイジャーだぜ? 年相応にはしゃいで何が悪い」
頬に伝った涙を拭い振り返ると、英国の華がそこにいた。
ああ、まさかお前とこんなところで会えるとはな。
「久しぶり、セシリア」
「ええ、お久しぶりです疾風」
セシリア・オルコット。
英国でその名を知らぬ者はいない古き有力貴族、オルコット家の若き当主にして、専用機を与えられたイギリスのIS代表候補生。
そして稀有なことに俺の幼馴染だ。
日の光でキラリと光る金髪のロングに縦ロールという王道お嬢様スタイルのヘアスタイルに青いヘッドドレス。
眼は宝石のような鮮やかな蒼で、口元には珊瑚色のリップが艷やかな魅力を引き立てる。
制服はアレンジは効いてるがそこまで分かりやすいものではない、だが素材は間違いなく一級品に差し替えられているだろう。
なによりモデルとしても活躍する彼女はスタイルが良い。正しく世界中の美女が裸足で逃げ出すといっても過言ではない。
いやしかし本当に……
「美人になったなぁセシリア。最後に会ったのは3年前か」
「そうですわね、本当に驚きましたわ。貴女がISを動かせると聞いた時、危うく紅茶を吹き出すところでしたわ」
ということは既で耐えた訳だな。
流石お嬢様。恐るべき忍耐力だ。
俺なんか男がISが動かしたと知った時に虹が出来たよ。
「ところで、先ほどの物言いだと昔はそこまで美人ではなかったと聞こえますが?」
「大変失礼いたしました。以前より更に美と艶に磨きがかかっております。貴女以上の美女を私は知り得ません」
「あら、そんな歯の浮くような言葉を話せるようになりましたのね」
「これに関しては事実だよ。昔から今に至るまで、お前以上に綺麗な奴を俺は知らない」
初めてあった時は度肝を抜かれた。
マジでキラキラ光っててこの世のものなのか、もしくは本当に自分と同じホモサピエンスという種族なのか。もしくは自分は人間だと思った何かだったんじゃないかと思ったものだ。
そんな全力の賛美は言われ慣れているのか自然な笑みを浮かべて受け流すセシリア。
目立ちますから歩きましょうと促されるままIS学園のアーチをくぐる。
「俺は1年1組なんだけど、セシリアは?」
「わたくしも同じですわ」
「しゃあ! 顔馴染みゲット! いやーそこだけが心配だったからな」
とりあえず第1関門突破!
あとはクラスの雰囲気だな。ガチガチの女尊男卑差別者は居ないと良いけど。そこらへんはIS学園が選別してくれてる事を祈ろう、倍率1万倍なんだし。
とにもかくにも味方が出来たことはこれ以上ないほど頼もしい。
「あ、そうだ聞いたぞ。入学前の実技試験の模擬戦、セシリアだけ勝ったんだってな」
「ええその通りですわ! わたくしだけが勝利致しましたのよ!」
フフーンと胸を張るセシリア。
さっきの美人云々では変化なかったのにこういうとこ褒められるのは嬉しいのか。誇らしげな彼女はそれこそ年相応の少女の姿だ。
なんだこいつ可愛いとこもあるとか最強か?
「流石セシリア・オルコットだな。俺は惜しいとこまで言ったんだけど負けちゃったのよね」
「経験がほとんどない中で惜しいところまで行ったなら上々ですわよ。それに、相手の教師も明らかに手を抜いていたようですし」
「それでも凄いよお前は」
IS学園は世界で屈指のISコア保有量を誇る、見る人が見れば宝島だ。その警備、セキュリティスペックは誇張抜きで世界最高峰。
そんなIS学園に所属する戦闘職員も間違いなく上澄みだろう。世界最強のあの人も居るらしいし。
だからこそ、試験とはいえ勝ち星をもぎ取ったセシリアは凄い。
「疾風は、雰囲気が変わりましたわね」
「そう? やっぱ眼鏡かけたからかな」
「それもありますが、なんだか逞しくなられましたわ。昔は泣き虫で臆病で引っ込み思案で弱い男の代名詞みたいな人でしたのに」
そこまで酷くはないと思うがな!?
…………あ、やめろ忌まわしい記憶が色々蘇りそう、燃え上がるな俺のアカシックレコード!
「こんな世界だ、強い男にならないとやっていけない。動かした物が動かした物だし」
「フフッ。わたくしを守れるぐらい強くなる、その言葉は守っていたみたいですわね」
「……そんなことも言いましたねー」
たまに思い出すたびにカッコつけ過ぎだと悶えることもあるが嘘ではない。
いつかISを動かすために身体を鍛え、精神を鍛え。覚えようとしたことは片っ端から覚えていった。
「空港前のもそうだけど。あの日の約束は片時も忘れたことはない」
「それはわたくしもですわ」
「んじゃま。今日からライバルだな」
「ええ、負けませんわよ」
笑みを浮かべながらもバチバチに火花を散らす。
まだ始まってもいないが、これから始まる学園生活がエキサイトなことになるのは間違いないだろう。
「ついたな教室。もう一人の男も居るのかな」
「恐らく一つに纏めてるでしょう。では疾風、また後で」
「おう。ではお先にどうぞ」
「殊勝な心掛け、褒めて差し上げます」
「感謝の極み」
レディーファーストは処世術の基本だからね。
さーてご対面!
「「ギンッ!」」
「わーお」
セシリアに続いて教室に入ると案の定視線がビジャンと来たぜ! これがもし実態を持っていたら塵一つ残らなかったことだろう。
だが想定通り。これしきで怯む疾風・レーデルハイトではない!
「初めまして、おはようございます!」
「わっ! 挨拶されちゃった!」
「さっきの織斑くんガチガチだったもんね、今もか」
「おはよ〜」
「はいおはよー」
よしっ。とりあえずファーストインプレッションは悪くないな。
見たところ視線に蔑みみたいな負の感じはなさそうか?
ひとまず挨拶し返してくれた萌え袖のぽやーとした子にありがとうの気持ちを込めて挨拶を返す。
俺の席は最前列の右から2番目。教室は中学の一般的な高校と比べてもすごく綺麗だ。机もホログラム装置付きやらなんやらが……いやそんなことはどうでもいい。
俺の隣、最前列ど真ん中に男が居た。
そう。世界で初めてインフィニット・ストラトスを動かし、世界最強の称号を持つあの人の弟。
織斑一夏が……
「うぅ……ぐぅ……ゴクリ」
「うわー」
すーごい縮こまっていた。
うんどう見ても緊張MAXだな! 顔もなんか青いし大丈夫か?
俺が来る前にこの熱視線に耐え続けていたのだろう。ご愁傷さま。
「あのー」
「うおわっ! なんだ、あれ男!!?」
「はい男だよ。大丈夫?」
「あ、ああなんとか。おお、男だ……そういえば俺以外にもう一人動かしてる人が出たって聞いたような聞いてないような」
俺のことを知らない、訳でもないか。
自分以外に男が居たという現実に少しだけ顔の硬さが緩んだな。
「初めまして、俺は疾風・レーデルハイト。2番目にISを動かした男性IS操縦者だ。よろしく、織斑」
「お、おう。って俺の名前知ってるのか」
「そりゃね。なんせ俺たちは男が動かせないISを動かしたからな。今じゃ世界で俺たちの名前を知らない人は居ないよ」
「そんなになのか!? うっ、胃が痛くなってきた」
おいおい流石にそれぐらいは知ってるだろうと思ったが。
それとも緊張し過ぎて直近の記憶すら曖昧なのか?
「レーデルハイト、だっけか。お前は平気そうだな」
「ん? あー俺は夢に見たISを動かせるって感じでワクワク状態だから。IS学園に通えるって夢も叶ったし」
「凄いな……俺は想像以上にキツい。なんで最前列ど真ん中なんだよ。後ろから凄い視線を感じる」
「仮に真ん中だったら全方位。最後列だと全員と目が合うな」
「じゃあここでよかった、のか?」
「さあねえ……」
これは本格的に上がってるな。
いや、これが普通の反応か。今の世の中、女性99%に男一人ぶち込まれるって結構怖いか。
男子校に女性一人が放り込まれるのと同じと考えればヤバさがわかるだろう。
しかし想像以上にやられてるなこのファーストマン。どうするべきかなーセシリア。
あ、無言で小さくサムズアップ。頑張れってことか、頑張るしかないよね。下手すりゃ壊れるぞ緊張で。
「とりあえず深呼吸しろ。その調子じゃ持たないぞ」
「そうだな。念のため人の字も飲もう」
「そうしろそうしろ。とにもかくにも数少ない男同士だ。お互い頑張ろうぜ」
「正直俺以外に男が居て助かったよ。ああ、俺のことは一夏でいいぞ。同い年だし」
「そうか? じゃあ俺も名前でな。改めてよろしく、一夏」
「こちらこそ。よろしくな、疾風」
ガッシリと合わさった握手は同盟の証、と織斑一夏は思ってることだろう。
手のひら越しから凄い信頼感が伝わって来る。緊張も幾分かほぐれたみたいだ。
同時に何処か張っていた教室の空気も和らいだ。
「織斑くんとレーデルハイトくんが握手」
「これは始まりか……」
「どっちが前につくか、そこが問題だっ」
「勝手に腐っときなさいよあんたら……」
和らいだよね?
しかしテレビでも見たけど実物は更に顔がいいな織斑一夏。
正しく世が認めるイケメン。この顔面で口説かれれば今の世の中でもイチコロになる確立大だ。さぞモテてたことだろう。
SNSでも女からは黄色い声が、男からは嫉妬が巻き起こった。特に男からはハーレム変われこの野郎! って日夜出てきている。
俺の親友も毎日言ってたな……これが格差か。
キーンコーンカーンコーン……
「おはようございまーす」
「「おはようございまーす」」
「皆さん入学おめでとう。私は副担任の山田真耶です。これから1年、宜しくお願いします」
入ってきた副担任、副担任なのか?
なんか随分と若い先生だ。背も低く童顔で大きめの眼鏡。同い年ですと言われても信じられる若さだ。
だが特筆すべきは顔の下にあるダブルマウンテンだ! なんだあのデカさ尋常ではない! しかも谷間もしっかり出ている! ええい、IS学園の教師は化け物か!!
これは目に毒だ、精神集中!!
ギン!
「ひぅっ。どうかしましたか? レーデルハイトくん。目がなんか怖いですよ?」
「あ、失礼しました。しっかり目線を合わせなければ失礼かと思い」
「そ、そうでしたか。真面目なのは良いことですね」
気を抜けば吸い込まれると思って山田先生の眼をロックオンしたら思いのほか眼力がバッキリしてたらしい。
怯む姿が本当に大人に見えない。一部を除いて。
「コホン。今日から皆さんはIS学園の生徒です。この学園は全寮制、学園でも、放課後も一緒です。仲良く助け合って、楽しい3年間にしましょうね」
「「はーい!」」
そう、IS学園は全寮制。
俺たちは今日からこの学園が家となる。
……おかげで泣き叫ぶ妹を宥めるの大変だった。
私もIS学園に行くぅぅぅぅ! ってなんとか飛び級の方法を模索したが敢え無く撃沈。
まるで今生の別れみたいで胸が痛かったよ。
「では出席番号の順で自己紹介をお願い致します。先ずは出席番号1番の相川清香さん」
「はい! 相川清香です! スポーツ全般が得意ですが中学ではハンドボール部でした! IS学園にもハンドボール部があるとのことなので、IS含めて頑張ろうと思います! 宜しくお願いします!」
おおっ、トップバッターとしては文句なし。しかも噛まずに元気よく自己紹介を完遂。これにはクラスメイトも思わず拍手だ。
2人目、3人目と自己紹介が終わり。次は一夏の番。
「次は織斑一夏くん。お願いします」
「………………」
「織斑くん?」
ん? どうした一夏、呼ばれてるぞ……おろ?
「くっ、自己紹介……自己紹介ってなんだ? ……」
あれーまた緊張してる!?
なんで? あ、またクラス全員の視線が一夏に。しかもさっきより期待値マシマシだ。まさかプレッシャーで頭ホワイトアウトしたのか!?
どんだけナイーブなんだファーストマン!
「織斑くん、織斑くん……織斑一夏くん!」
「は、はいぃ!?」
ガタッ! と思わず立ち上がった一夏の必死さにクラスは笑い声を上げる。
「あ、あの。大声出しちゃってごめんなさい。織斑くんの番だけど、聞こえなかったみたいでつい。あ、怒ってる? もしかして怒っちゃった? ご、ごめんね。五十音順だから次は織斑くんなの。自己紹介してくれるかな? ダメ、かな?」
「いや、あの、そんな謝らなくても。すいません、今すぐ自己紹介します!」
「あ、そんな急がなくてもいいの。落ち着いて、頑張ろ!」
むん! とガッツポーズをする(と同時に対艦兵器がブルンと揺れた)山田先生の不器用ながらも頑張ろうとする姿勢に何処か親近感を覚えつつ。今か今かと一夏の自己紹介を待つ。
「え、えーと……」
チラッ……
「っ!」
プイッ!
「うあー……」
なんだ、あの子がどうかしたのか? 知り合いか?
「頑張れ一夏。普通でいいんだ普通で」
「お、おう……え、えーと。織斑一夏です。宜しくお願いします」
「「「…………」」」
滑り出しは良いが続かない。てか周りの視線ギランギランだ。
これで終わりじゃないよね? もっと色々喋れコラァと言わんばかりだ。
セシリア、そしてさっきそっぽ向いた女の子も視線を向けている。あーまた一夏の顔が青く。
許してやれよ、彼のヒットポイントはもうゼロよ!!
(ま、マズい。このままだと暗いやつだとレッテルを貼られてしまう! なんか喋れ! なんかを、なんかを! ……ヨシッ!)
「あっ」
「おおっ」
深呼吸をし、これまでとは違う光。決意を固めた男の意地が目を宿った!
行け、一夏!
「以上ですッ!!!」
「「ダハー!」」
一夏は決め顔でそう言った。
どっとはらい。
これにはクラスの大半がずっこけて椅子から落ちる。ノリが良いなうちのクラスは、楽しいね! ついでに俺も落ちたよ!
いや、インパクトは残ったよ。
俺は好きだぜこういうの。
「え、あれ!? 駄目でした!?」
「駄目に決まってるだろ馬鹿者」
「いだぁっ!?」
パアン! 風船が割れたかのような快音と共に一夏の頭から煙が出た。
「いてて……げえっ! 関羽!? ぐはあっ!」
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
どっかで銅鑼が鳴った、いやこの場合一夏が銅鑼だな。
関羽か。三国志で誰が強いは呂布が上がるものだが、アイツ裏切りフィーバー野郎だからな。
関羽雲長も最強格、というより強さも呂布並、彼の赤兎馬を操れた猛将でもある。
女性でありながらそんな豪傑の名で呼ばれるのも無理はない。一夏に出席簿の一撃を見舞ったそれは間違いなく豪傑にして女傑なのだから。
「織斑先生。会議は終わられたのですか?」
「ああ。山田先生、仕事を押しつけてすまないな」
「いえいえ! これでも副担任ですから!」
先ほど一夏に向けたものとは違う柔らかな物腰に山田先生含めクラスの女子が熱っぽい息を漏らした。
かくいう俺も、目を輝かせている。
「諸君、おはよう。私がこのクラスの担任である織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。大いに学び、大いに励み、出来ないなら出来るまでやれ。無駄に出来る時間など1秒たりともないぞ。覚悟しておけ!」
ピシッと身が引き締まる声と迫力だ。
間違いない、噂は本当だった。
目の前にいるこの人は、初代モンド・グロッソ王者。ブリュンヒルデの名を襲名した、織斑千冬……
「「「キャアアアアアアーーー!!!」」」」
「ぬぅん!?」
「うわぁ!?」
背後から音爆弾が! なんだこれ人の出せる声量か!? 窓と天井が冗談抜きで揺れたぞ!?
「本物! 本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした! 握手してください! いいえこっちに手を振って下さい!」
「千冬様のためなら死ねる!」
「我が世の春がきたーー!!」
「ただの生徒、そういう風には、もう生きられん時代か」
「そいつは他人が決めることじゃなかろうさ。生き死にと同じによ」
「……まったく。毎年毎年よくもここまで馬鹿騒ぎが出来るものだ。私のクラスはそういう人種しか集まらないのか?」
いえいえ。1年生8クラス、いや3学年24クラス全て同じ反応だと思います。
いやー凄いね織斑千冬の人気っぷり。俺もあの時の試合に脳を焼かれて今に至るけどここまではしゃげん。
てかいま陸AC出身者いなかった? 終末系の。
そんな本気でうっとおしそうに後ろ髪をかく織斑先生の姿さえもズキュンと来たのか暴走列車はなおも止まらない。
「キャアアァァ! 千冬様ああぁぁぁ!」
「しつけて! 私をしつけて縛り付けてぇ!!」
「あっ、私の命はここまで。お墓はここに建てて」
「メロつくぜ……ブリュンヒルデに……憧れたんだ……!」
「より高く飛ぶのは、私だ!」
「ここが! このクラスが! 私の魂の場所よ!!」
ああもう尊死する人が続出してるよ。なにこれ地獄絵図? それともヴァルハラ?
あとやっぱりフロム出身者居るよね? 2022年現在にはまだ発売してないタイプの。
「ち、千冬姉が、教師? イテッ!」
「ここでは織斑先生と呼べ。で? お前は自己紹介の一つも出来ないのか?」
「だ、だって千冬姉、ウギャ!」
「織斑先生だ」
3度目ならぬ4度目の出席簿アタック。ついに一夏が床に崩れ落ちた。
いったいいくつの脳細胞が死滅したことだろう、合唱。
「あ、やっぱり千冬様の弟だったんだ」
「なんか千冬様……織斑先生と違って頼りなさそう」
「ISを動かしたのはやっぱりブリュンヒルデの弟だから?」
「でもレーデルハイトくんも動かしたよ」
「レーデルハイト……ひょっとして元イギリス国家代表と同じ?」
と、周りも2人の関係性に気付き始めたようだ。
一夏関連のニュースで表向き関係者としては放送されなかったからな。
俺は母さん経由で知ってたけど。
「な、なんでこんなところにちふ、織斑先生がいるんだ……IS学園で教師? 聞いてないぞそんなの」
「え、千冬様がIS学園に居るって有名な話だよ?」
「へ?」
「織斑先生が赴任したって噂が流れてからIS学園の倍率ドーンと上がったよね」
「嘘だろ、全然知らなかった……」
「何倍に上がったんだっけ、1000倍?」
「2000倍です!」
「いや1万倍だよ、1万倍!」
「静かにしろ!」
ざわつくクラスメイトを一喝。
フワフワしていたクラスが一気に引き締まった。
「諸君らは我が学園の高い倍率を潜り抜け、この学園の生徒となった。だがそれに胡座をかいて停滞しては元も子もない。これから君たちにはISの基礎知識を半月で覚えてもらう。そのあと実技授業だが基本動作は身体に刻みつけろ……いいか、いいなら返事をしろよ、よくなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろよ」
「「「はい!」」」
「はい!!」
「……疾風、なんでお前はあの鬼教官相手にそんな元気なんだ」
フッ。高ぶっているのが女子だけだと思うなよ。
ここから俺のIS学園生活が始まる! そして織斑千冬が担任というフルセット!
俺のテンションはまさにフォルテッシモ! 経験したことのない貧民時代に遡っている!
今ならゴールデンエンペラーオーバードライブ噛ませちゃうぜー!!
「元気があって結構、だが自制しろよ。おい織斑、いつまで這いつくばってる。それとも床に座るか?」
「いや床に倒したのちふ……」
「なんか言ったか?」
「いえ、なんでもありません織斑先生」
目がビッカビカな俺と違って実の姉が担任であることに恐怖したり、何処か安心したり呆れたりといずれも負の感情オンパレードな弟さん。
まあ強く生きろよ。俺も母さんが教師だったら色んな意味でキツいから同情はしとく。
「私からは以上だ。自己紹介の続きをするぞ。織斑の次は、セシリア・オルコット」
「はい。皆様ごきげんよう、わたくしはセシリア・オルコット。イギリスの古き貴族の末裔、オルコット家の当主にして、IS代表候補生も兼任しております。好きなことは午後のティータイム。特技はテニスとバイオリンですわ。皆様との日々が実りあるものとなることを願っております。宜しくお願い致しますね」
堂々と、そして優雅さを感じる自己紹介に拍手。
流石セシリア。この程度はお手の物だな。
そのあとは次々と滞りなく自己紹介は進み、次は一夏にそっぽを向いた女子。
「……篠ノ之箒です。とくに言うことはありませんが、剣道が得意です。実家が道場でしたので一通りの武術は出来ます……以上です。宜しくお願いします」
おー、一夏よりはマシだけど簡素な自己紹介。というよりみんなの自己紹介が元気いっぱい。
というか篠ノ之と言ったか? まさかあの篠ノ之か? 珍しい苗字ゆえに皆も気づいたのか空気がザワついた。
「──最後は、疾風・レーデルハイト」
「はい!」
おっと俺がトリか! わ行の人は居ないのか。
そして案の定突き刺さる視線。さっきの一夏の失敗もあって期待度が倍プッシュ。
一夏や篠ノ之さん、セシリアもこっちを見ている。
成る程、こんな中で自己紹介はなかなか度胸がいる。しかしセシリアが見てる前で無様は晒せない。
そして俺までくじけては一夏含めた男全体の沽券に関わる。
「おっ」
「おおっ」
その場で振り返り、クラス全体を見渡す。
更に期待度が上がり、そして何処かコイツも大したことないかもしれないという裏返しが垣間見える。
お望みならば見せてやろう。
事前に考えた自己紹介にアドリブを加えたテンションおまかせ大増量フルマックスを。
刮目せよ、これが俺の自己紹介だ!!
「皆さんおはようございます! 疾風・レーデルハイトと申します! 身長は175センチ、体重は66キロ。誕生日は6月27日。血液型はB型。親は元イギリス国家代表兼レーデルハイト工業社長のアリア・レーデルハイトで自分はそこの次男です。好きなものは甘いもの、甘味系は何でも大好きです! 逆に苦手なものは辛いもので、自分でも子供かと思うほど苦手です。趣味はISの設計図やISの情報や資料を見ること! あとまだ数回しかありませんがISを動かすこと! ISが三度の飯、いや四度五度の飯より好きです! 特技はISの参考書の丸暗記、大まかなところならページ数だけで内容を当てられます! 資格はIS整備士免許2級とIS情報検定1級を持っています! 将来の夢はIS国家代表となってモンド・グロッソの舞台に出ることです! 叶わない夢と思っていましたが、ISを動かしたということにきちんと責任を持って日々精進したいと考えております! 女子高というのは勝手がわかりませんが、できるだけ早く馴染もうと思っております。3年間という長くも短い期間ですが、精一杯青春を謳歌したい所存です! あっ、最後にもう一つ。今度レーデルハイト工業で新作のISスーツの発表があるので、そちらも是非宜しくお願いします! 私からは以上です。改めて皆さん、宜しくお願い致します!!」
…………………………………………んー?
あれ? なんでこんなに静かなんだ? 拍手どころか声の一つも上がらない。
みんなあんぐりと口を開けて固まってしまっている。
一夏も、篠ノ之さんも、山田先生も、あのセシリアさえもだ。唯一織斑先生だけ呆れ顔。
何がダメだったんだ? 声量よし、滑舌よし。何も問題はない。
調子に乗って自社の宣伝をしたのがマズかったか……?
静寂の中。一時間目の終了を告げるチャイムが嫌に鼓膜に響くのであった……
ーーー◇ーーー
時にIS学園の教室の壁、その廊下側はほぼガラス張りだ。
だから授業をコッソリ抜けだすことなど不可能。廊下に立っていたら室内から筒抜けだ。
そして現在廊下には学年問わず女子がわんさかと居る。目的は勿論俺たち。世界で2人しか存在しない俺たちを一目見ようと廊下を埋め尽くしている。
「パンダになった気分だ。いや、俺はもしかしてパンダだったのか?」
「自認パンダはやめとけよ織斑パンダ」
正しく1年1組は動物園の檻状態だ。
俺の空前絶後サンシャイン自己紹介が終わって織斑先生が教室を出た瞬間一夏は机に突っ伏し、顔を青くしながら視線に耐え続けていた。
だが奇妙なことに誰も話かけに来ない。空き時間に大挙してきて質問攻めに合うかと思ったが。聞こえるのは「あなた話しかけなさいよ」とか「抜け駆けするつもり?」という牽制合戦が始まっている。
廊下も同じだろう。教室には一歩も入らず飽くまで見物としての体制を取っている。
「俺の友達が女子だらけの学園生活とか羨ましいとか言ってたんだ。代わってくれとも」
「ああ俺も居たよ」
「今すぐ代わってくれ、いや助けてください」
ハーレムで羨ましいとほざく世の男たちよ。この織斑一夏の焦燥っぷりを見てもまだそんなことが言えるだろうか。
「でもさ、みんな好意的でよかったじゃん。俺は最悪女尊男卑過激派の巣窟だと覚悟してたよ」
「ああ、確かにそれはそうだな」
「ちょっといいか」
「「おっ?」」
声をかけてきたのは篠ノ之さんだった。
彼女もセシリアに負けず劣らずのスタイルの持ち主でカテゴリ的に充分美人だ。
「すまないが、そこの馬鹿を借りても良いだろうか」
「誰が馬鹿だ」
「どうぞどうぞ。ところで2人は知り合いか?」
「幼馴染だよ。小さい頃に箒の道場で稽古してたんだ」
「腐れ縁というやつだ。ほら行くぞ、グズグズするな」
「あ、おい待てって。じゃっ」
当の本人を置いて篠ノ之さんが足早に教室に出た。廊下の見物客の半分がゾロゾロとついていく。動物園の散歩イベントか。
それにしても織斑に篠ノ之。上の繋がりを邪推するなは無理な話だが……
それはそれとして篠ノ之さんの耳が赤かった理由を邪推したいところですね!
「レーちんレーちん」
「んあ? レーちん?」
と、俺にも来訪者が。
ポヤポヤとした朗らかな雰囲気のフワフワした女の子だ。糸目、というより何処か眠そうなナマケモノみたいな子だ。
「確か、布仏さんだったか」
「当たり〜。のほほんさんと呼ぶがよい。異論は認めぬ〜」
のほとけほんね、縮めてのほほんさんか。
てか凄い萌え袖だ。日常生活に支障が出るレベルだろ。暗器とか隠せそう。
「フッフッフ。目の付け所が良いねレーちん。そう、この萌え袖の中には!」
「まさか本当に!?」
「じゃ〜ん! お菓子を隠せるのだ〜!」
「それはそれで驚きだ!」
びっくりした、マジで暗器が出てくるのかと思った。だって飴が出る前に眼がキランと光った気がしたもの。なんか鋭い気を感じたもの。
そんな萌え袖から飴が出てきてクッキー出てきてマシュマロ出て来て煎餅も出てきて……
「いや出過ぎじゃないかな凄い出てきたよお菓子!?」
「のほほんさんの萌え袖は魔法の萌え袖〜。これはお近づきの印ってことで〜」
「あ、そう? ありがとう」
「クッキーも〜らい」
「いやあんたが食うんかい!」
ウマーとゴーイングマイウェイな布仏本音ことのほほんさん。
なんだろう、見てるだけで癒されるこの緩さ。それこそ貰ったお菓子全てで餌付けしたいぐらいに。
「それでレーちんとは俺のことか?」
「そーそー。レーデルハイトだからレーちん。駄目〜?」
「別に良いけども。ちなみに一夏は?」
「おりむー」
「セシリアは?」
「せっしー」
くっ、オルルンではなかっか
セシリアだけ苗字から取るんだ。法則性が読めない、やるなのほほんさん!
「そういえばのほほんさん。俺が挨拶した時、挨拶返してくれたよね。ありがとう」
「どういたしまして〜。この人面白そ〜と思ってたら案の定だった〜。自己紹介凄かったね、みんな固まってたけど〜」
それね。俺が出来うる最大限の自己紹介したはずなのに。一夏の時と違って反応薄過ぎない? 顔か? やっぱり顔なのか?
「そういえば特技で参考書丸暗記ってほんと〜?」
「2022版なら完璧よ」
「最新版じゃ〜ん。じゃあ今からページ数言うから当ててみて〜」
良いでしょう。かかってきなさい!!
「最初は〜148ページ〜」
「宇宙におけるISの安全と信頼性」
「37ページ〜」
「ISの部位紹介、カスタムウィングのページかな」
「254ページ〜」
「バススロットの容量……いや違うな、バススロットコールの応用。バススロットからの銃器に直接コールによるタクティカルリロードについて」
「520ページ〜」
「……いや流石に多すぎだろ。確か467ページぐらいじゃなかったか?」
「ぜ、全部合ってる……嘘でしょ」
「「ええ!?」」
二つ後ろの席の………鷹月さんがページを追ってくれていたみたいだ。周りからの拍手に内心ホッと息をつく。
セシリアは何故か自分のことのように得意気だ。フッフッフ、お前の幼馴染凄いだろ?
思わぬ形で評価を上げることが出来たな。ありがとう国際IS参考書2022版。
「すっごーい。ほんとに丸暗記してるなんて相当だね〜。レーちん結構なISオタクだったりする〜?」
「オタクを自認するというのは勇気がいるが敢えて言おう。俺は自他共に認めるISオタクだ」
「言うね〜…………かんちゃんと気が合いそう」
「ん?」
「なんでもなーい〜。これから宜しくね〜」
萌え袖をプランプランしながら席に戻るのほほんさん。
かんちゃん……ボソッと言ってたが誰のことだろうか。
ーーー◇ーーー
2時間目。待ちに待ったIS学園初授業はIS筆記。初回の基礎理論だ。
内容は勿論網羅しているが。ISに限っては何度学んでも面白い。山田先生がメインで教え、担任の織斑先生がサブで授業の様子を見守っている。
尊敬する織斑千冬の前だけあって先ほどワイワイしていた女子は真面目に授業を受けている。
そして件の一夏はというと。
(なんなんだこのPICやらハイパーセンサーやらは。専門用語のオンパレードじゃないか、本当に人類が分かる言語なのか?)
あいも変わらず汗ダラダラで目が揺れまくっている。はたから見ても何もわかりません的なのが出ている。
なんかこころなしか心臓の音まで聞こえる気がする。
「織斑くん、ここまでで分からないところはありますか?」
「あ、えっと……」
「分からないところがあったら遠慮なく聞いてくださいね。なにせ私は先生なのですから!」
フンス! と胸を張る山田先生。おお、胸を張れるだけの戦闘力。
一夏を見かねて善性の塊であろう山田先生が助け舟を出してくれたのだろう。一夏にとっては正しく光明だった。
「山田先生!」
「はい、織斑くん!」
「ほとんど全部わかりません……!」
「え、全部ですか!? えっと、全部というと」
「1から10までです……」
「えーっと……織斑くん以外で今の段階でわからないという人は……」
シーン。もうこれ以上ないぐらいの静寂。音爆弾が起きたとは思えないほどの静けさ。
おお、あれほど自信満々だった山田先生が見る影もなくオロオロと。
大丈夫か一夏。今やってるのは本当に初歩の初歩だぞ……
「織斑、入学前の参考書は読んだか?」
「………あっ、あの凄い分厚いやつ?」
「そうだ」
「……古い電話帳と間違えて捨てました」
スパァァァン! 出席簿の衝撃が一夏の脳天から足先を貫いた。ちなみに授業前にも食らってるのでこれで6発目だ。
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。あとで再発行してやるから1週間以内で覚えろ」
「ええっ! でも1週間であの分厚さはちょっと……」
「2度は言わん」
「はい。努力します」
電話帳と間違えるレベルを1週間で覚えろとは拷問過ぎる。
ふと、一夏は隣から一際大きい圧と視線に気づく。
「いいっ!?」
「…………」
(疾風が、疾風が凄い目をしている!? およそ人に向ける目ではない! 化け物を見るような目で俺を見ている!?)
この時、俺の目は正しく物の怪を見るような目だったという。それほど俺は一夏に信じられないという眼差しを送っていたらしい。
え? 電話帳と間違えて捨てた? あのIS参考書2022年版を?
あのインフィニット・ストラトスのイロハが書かれたなにより尊ぶべき聖書をこの男は電話帳なんかと間違えて捨てたと言うのか? あの聖書を!!?
その時、あまりの衝撃に俺の精神はIS学園を突き抜け遥か空の彼方、成層圏の向こう側を通り過ぎ太陽系すら脱却した無限の彼方に行っていた。
これが……人類が到達しうる極地。
おお、これがコーラル、青ざめた血、人類の可能性、ついでにゲッター、AC6とBloodborneの続へ……
「れ、レーデルハイトくん大丈夫ですか!? 瞳孔が開きっぱなしですよ!?」
「はうぁっ!?」
俺の意識はIS学園1年1組前席右から2番目に強制返還された。
な、何か見ては行けないような見たかったような、幻覚というか別次元の何かが見えた。
「ISは現行兵器を凌駕する力を秘めている。それとは裏腹に操作性は従来の兵器より格段に扱いやすく、専用機ともなれば持ち運びも容易だ。故に危険が付き纏う。一度の間違いでテロも可愛くなるほどの被害を出すことさえある。それを回避し、正しく使う為の知識と訓練だ」
「は、はい」
「織斑、そしてレーデルハイト。お前たちは男でありながらISを動かした。お前たちの存在は間違いなくこの世界の特異点でありイレギュラーだ。その重要性をしっかりと理解しろ」
「はい!」
「…はい」
正論であり、心に刻みつけなければならないものだ。
ISは待機形態というアクセサリー状態で持ち歩くことが出来る。
誰にも気取られることなく、もしそれを街中で使用し、破壊を撒き散らすことになったら……
「レーデルハイト。お前が良ければだが、あとで一夏に基礎理論を教えてやってくれ」
「え、俺、じゃなくて私がですか? 私なんかで宜しいのでしょうか」
「謙遜するな。このクラスで基礎理論に1番精通しているのはお前だ。それに同じ男同士ならシャイな織斑も緊張せずに済むだろう」
「疾風、俺からも頼む。少しでも追いつかないとヤバイというのはわかった。俺はみんなに追いつきたい」
「……わかった。放課後付き合ってやる。あとでジュース奢れよ」
「恩に着る! 宜しく頼む!!」
前途多難過ぎるが。やる気は出てきたようだ。
知り合ってまだ半日すらたっていない。だけど放っておけないぐらいの友情は築いているつもりだ。
この時、俺は一つ見逃していた。
このクラスで誰よりも責任感と誇り、そして実力を持つもう一人の女傑の憤りを。
ーーー◇ーーー
よし、時間は少しも無駄に出来ない。次の授業でピックされるであろう箇所の要点だけでも教えなければ。
「ちょっとよろしくて?」
「へ?」
カバンに入った分厚い参考書を取り出してる間にセシリアが一夏に声をかけていた。
なんだろう。少し圧がある? 表情も何処かトゲがある。
そして声をかけられた一夏はセシリアの顔を見たまま止まっていた。見惚れたか? 無理もない、目の前に居る女は世界レベルの美少女だからな。だがセシリアは無視されたと受け取ったようだ。
「ちょっと、聞いてまして?」
「ああ、聞いてる。なんか用か?」
「まあなんですのそのぶっきらぼうな態度は。このわたくし自ら声をかけられるだけでも光栄なこと、それ相応の態度というのがあるのではなくて?」
どうしたどうしたセシリア。なんか凄いバリってないか?
確かにセシリアほどの美女から話しかけられるという幸運は世の男からしたら宝石に匹敵する価値というの決して間違いではないが……
「悪いな。俺、君が誰だか知らないし。えーっと、名前なんだっけ?」
「なっ? わたくしを知らない!? このセシリア・オルコットを!? イギリスの代表候補生にして主席であるこのわたくしを!?」
「セシリア。国家代表ならいざ知らず代表候補生はそこまで知名度はないぞ」
「あなたは黙ってなさい疾風。イギリスではわたくしを知らぬ者など誰も居ませんでしたわ」
「それはイギリスだからだろ。ここは日本国だよ」
女なら雑誌やモデル、そういうニュースを見て知る機会はあるかもしれんが、男である一夏が知らないのは不思議なことではない。
よくて欧州周辺でなら良いほうだ。
「セシリア・オルコット、な。よし覚えた。これでいいか?」
「まあ、良いでしょう。あなたがどれだけ無知なのかは充分知り得ましたし」
「なら無知ついでに一つ質問していいか?」
「ええ。下々の要求に応えるのも貴族の務め。なんなりとお聞きなさい」
「代表候補生って、なんだ?」
ガタタッ! 本日2度目のズッコケである。
クラスの結束力とノリは良いようだ。
「一夏、お前本気で言ってる? 聞いたことすらない?」
「おう」
「嘘だろ承太郎」
「いや俺は第三部主人公じゃないぞ」
「信じられませんわ……あなたどれだけ世間知らずですの? 代表候補生を知らない? 常識ですわよ……あなた、ご自宅にテレビを持っていませんの? そこまでの貧困層ですの?」
「一夏、お前ネットとか見たことないのか? いや、もしかして山育ち出身なのか? 大丈夫だ一夏。一度決めたからには、責任を持って教えてやるからな!!」
「失礼だな、テレビもあるしネットぐらい見るぞ」
「「じゃあなんで代表候補生を知らないん
「うおおっ!?」
マジか。ここまでなのか織斑一夏よ。
織斑先生の弟だよな? 国家代表の弟だったんだよな? そうじゃなくても代表候補生の名前ぐらいは知ってるだろ。いや俺がおかしいのか?
ああ、セシリアなんかあまりの衝撃に目眩を起こしている。強く生きろセシリア、俺はお前の味方だぞ。
「それで、代表候補生って?」
「オホン! 国家代表IS操縦者、その候補生として選出される一握りのエリートのことですわ! 単語から想像したらわかるでしょう?」
「おお、確かにそうだ。ていうことはセシリアはそのエリートの一人?」
「その通り、エリートなのですわ! そしてわたくしは専用機であるISを任された身。エリートの中でも更にエリート! イギリス国家代表の座を誰よりも期待されているスーパーエリートなのですわ! お分かり!!?」
「お、おう」
身振り手振り、大袈裟な仕草で説明するセシリア。
よかった、セシリア復活した。反動で大分テンションおかしいけど。
ああ今ので思い出した。何処か懐かしいと思ったら小さい頃のセシリアだ。
あの頃は自分がどれだけ優れてるか凄い自慢してきたな……
「本来なら、このわたくしと同じクラスであることだけでも奇跡。自分がどれだけ幸運なのか理解出来まして?」
「そうか、それはラッキーだ」
「……馬鹿にしてますの?」
「お前が幸運だって言ったんじゃないか」
抑揚がなさすぎる棒読みにセシリアは更にカチンときた。
幸運云々はさておくとして、彼女は今年の1年生の中でただ一人の専用機持ちだ。彼女と共に学べることは一夏の力になることは間違いない。
ただこの剣呑な空気では不安がある。
「はあ……同じ男なのに疾風とは大違いですわね。男でありながらISを動かしたという事実をまるで理解していないご様子。先ほど参考書の件といい、自覚が足りないのではなくて?」
「疾風レベルで期待されるのは困るぞ」
「……まあ、疾風は男としては結構例外ではありますが」
うん。それはそう。
女性含めても参考書丸暗記ページ回答可なんて我ながら化け物だ。
「えーっと。それで本題は? わざわざ自己紹介の為に来たわけではないだろう?」
「ええその通り! 筆記は疾風が教えるから良いとして、実技に関しては不安がありますわ、あなたの場合は特に! よければわたくし自らレクチャーして差し上げても宜しくてよ」
「なっ!?」
おっ、篠ノ之さんが立ち上がった。
「いや、別にいい」
「あら遠慮することはなくってよ。なにせ、わたくしはこの学年でただ一人! 入試で教官を倒したエリート中のエリートなのですから!!」
「入試って、あれか? ISの模擬戦のこと?」
「それ以外ありまして? お分かりになられたでしょう。このクラスでわたくし以上の適性など……」
「それ俺も勝ったぞ」
「「「は?」」」
空気が止まった。
いまなんて言った?
「勝った、と言いましたか?」
「あ、ああ」
「わたくしだけと聞きましたが……」
「女子ではってオチじゃないのか?」
「あり得ませんわ! だって疾風でさえ勝てなかったのですよ!? 疾風が出来なくてあなたが出来たなんて、そんなこと絶対にあり得ませんわ!!」
凄い俺のこと評価してくれるなセシリア。なんか照れる。
というか勝ったのか? IS学園を警備する戦闘教員を? 筆記はダメダメでも、ISの操縦は織斑千冬譲りだとでもいうのか?
「まあ、勝ったと言ってもあれは……」
「どういうことですの!? どんな手段で勝ちましたの!? 教えなさい!!」
「ちょっと待て、少し落ち着けよ」
「これが落ち着いていられますか!!」
キーンコーンカーンコーン……
「っ! 続きは次の小休憩で、逃げないで下さいましね! よろしくて!?」
「いやよくな……」
「よ! ろ! し! く! て!?」
「……わかった、後でな」
「フン!」
嵐は去った。だが不安定なので要注意である。
下手すれば空から光の雨が降ることでしょう。
「……なあ、疾風とセシリアは知り合いなのか?」
「幼馴染だ、3年ぐらい会ってなかったけど……あまりセシリアを悪く思わないでやってくれよ。あいつ、自他共に厳しい性格なんだ。プライドの高さが長所であり短所ではあるが……」
「ああ、なんかそんな感じするぜ」
どちらが悪いってもんじゃないが、先が思いやられる。大丈夫かなぁ……
あ、次の授業の予習してない。
「席には、ついているな。結構。それでは授業を始める」
しかも山田先生ではなく織斑先生が教壇に。
あ、また一夏の顔が青く……
「授業の前に、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める。クラス対抗戦とは一学期につき一回行われる学年ごとのISバトルだ。クラスの威信をかけ、又は競争による向上心の上昇、スキルアップを図る意図がある。その他にも生徒会の定例会議や委員会の出席などがある、まさにクラスの代表であり長という役目だ。クラス代表は1年間変更できない。だが内申点にも大きく加点されるため、就任を任される価値は大いにある」
クラス代表かあ。小学校中学校ともに委員会というのは避け続けてきた。正直超めんどくさい。
ISによる本気のバトル。IS好きにとってはこれ以上ないほど望むものではあるが。俺の場合代表にならなくてもISに乗れる機会は今後あるから辞退一択だな、うん。
「
あ、終わった!!
これから起こるべく未来を予知し思わず天を仰いだ。
「はい! 織斑くんを推薦します!」
「ええ俺!?」
「わたしもそれが良いと思います!」
「じゃー私はレーちん、レーデルハイトくんで〜」
「わ、私もレーデルハイトくんを推薦します!」
「クラスの顔と言うならやっぱルックスも良くないと!」
「あのブリュンヒルデの弟だし!」
「私も織斑くんで!」
「織斑くんをクラス代表に推薦します!!」
「え、ええ!?」
「ふむ。織斑が多いか。ではクラス代表は織斑に」
「待ってくれちふ、織斑先生! 俺にその役は荷がおも……」
「自薦他薦は問わぬと言った。クラスの期待を背負う、代表とはそういうものだ。選ばれたものに拒否権はない」
「そんな横暴な!!」
おお! 予想に反して大多数が一夏を推薦した!
うーん、やはり顔か。だが今はこの並フェイスに感謝を! 悪いな一夏、お前には生贄になってもらうぜ! 授業料ってことでジュースの件はなしにしてやる!
……ちょっと待てよ。
ここで呼ばれると予想していたアイツの名前を誰も言ってなくないか?
マズい、この状況はマズいぞ! せめて俺だけでもあげなければ……
バン!!
「納得いきませんわ!!」
ああ遅かった。俺の馬鹿……
「そのような選出は認められません! こんな無知な男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!! このセシリア・オルコットを差し置いてクラス代表など、そんな屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!!?」
うわー、完全にエンジンかかってる。
3年前より大人びたと思ったが本質は変わってない感じか。
「実力であればイギリス代表候補生であり、専用機を持つわたくしがクラス代表になるのは必然です! 疾風ならまだしも、こんな顔だけが良いという理由で極東の猿がクラス代表になるなど言語道断ですわ!!」
「セシリア、流石に猿呼ばわりは言いすぎだって」
「いいえ! 疾風もわかっているでしょう! ろくに主張もせず、責任すら知らず、代表候補生という名前すら知らず、挙句の果てに貰った参考書を電話帳と間違えて捨てる阿呆なのですよ!? 元日本国家代表の弟である、織斑一夏ともあろう者が!!」
「で、でも。一夏は教師に入試で勝ったんだぞ。素質はあるかもしれな……」
「そんなのまぐれに決まってますわ!! それとも、あんな与太話をあなたは本気で信じますの!!?」
「それは……」
確かに一夏が教師に勝ったというのは、正直信じることは出来ない。そしてセシリアが言ったことはすべて事実だ……
反論出来ないと見てセシリアは更に進み続ける。どんどん熱くなって自分を制御出来ていない……ここも昔と変わらないままか、勘弁してくれ。
「まったく! やはり極東の島国は大したことありませんわね。何故ISが生まれたからというだけでIS学園をこんな国に……文化的に後進した国で猿のサーカスを見るためにはるばるイギリスから来たわけではありませんのに!!」
やっべ! それは流石にライン超えだぞセシリア!
そもそも元日本国家代表の前でよくそんな……ってええ!? 織斑先生笑ってる!? なんで!? どうして!? ホワイ!!?
とにかく何かフォローを、どうフォロー入れれば良いんだ!? このままじゃセシリアのクラスに対する印象が最悪になる!
なんか織斑先生全く止めないしどうしたら。
「イギリスイギリスって。そんな大層な国でもないだろ」
「……一夏?」
一人頭を抱えてると、いつの間にか一夏が立ち上がってセシリアと正面を向いていた。
あれ? 一夏顔変わった? いつからタレ眉イケメンからキレ眉イケメンにクラスチェンジを……
「大体イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一マズい料理で何年覇者だよ」
「ぶふぉ!?」
おーっと一夏さんがぶっこんだぁ!
ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲レベルのインパクトバレットをセシリアに叩き込んだぁ!!?
完成度たけーなオイ!!
これには愛国心の塊であるセシリア・オルコットの堪忍袋も全切れ!!
「な、あ、はぁ!? あ、あなた! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先に侮辱したのはそっちだろ。てゆーか島国はお互い様だ。むしろ日本より面積少ないし、その分態度がデカいのかイギリス人は。その癖メシマズとか救いようがないな!」
「な、なんですってえ!?」
一夏どうした、レスバがキレッキレだな!
とてもさっきまで顔を青くしたやつの台詞とは思えない!
「イギリスでもおいしい料理はありますわよ! 食べたこともないくせに!」
「スターゲイジーパイとかうなぎのゼリー寄せとか見た目のインパクト炸裂なのが国の代表料理面してるのヤバイだろ! なんだようなぎのゼリー寄せって! 何をどう考えたらあんなゲテモノ料理が爆誕するんだよ! うなぎの蒲焼きを見習え!!」
「そ、そっちこそ! 納豆だのくさやだの腐ったものを敢えて食べる変態国家じゃありませんか! 特にフグの卵巣の糠漬け! あれは一体なんなんですの!? 毒のあるフグを捌いて食べること自体おかしいのに、科学的に解明もされてないのに毒が抜けたから食べれるとかはっきり言って頭おかしいですわよ!!」
「腐った言うな! 発酵だ発酵! あとこの前マーマイトってジャム食ったけどなんなんだあれは! あんなものをパンに塗って朝食とか拷問以外の何物でもないだろ!! あとフグの卵巣の糠付けは本当にわからん!!」
なんだろう。レスバの方向性とレベルがおかしいところに行ってる。なんでお国グルメ論争になってるの、IS何処行ったIS。
というか二人とも罵倒しあってる癖にお互いの食事事情博識過ぎじゃない?
あ、織斑先生が笑いを堪えてる。
「そもそもISは日本発祥だろ。ISの始まりが生まれた国を良くもそんな好き勝手言えるな」
「ISは日本ではなく篠ノ之束博士が作ったものです! 世界で未だにISコアを自力で作れた国はありませんわよ!」
「じゃあイギリスも同じだろ」
「イギリスは第三世代IS量産化プランの軌道に乗っていますわ! 日本は試験的に製作された暮桜の量産化が頓挫! 未だ第二世代の打鉄にかかりきり。直ぐにそれも廃れ、世界は第三世代量産化に舵を取りますわ! これでどちらが優れたかお分かりでしょう!」
「ぜんっぜんわかんないね! そんな専門用語ばっか並べてカッコいいと思ってんのか! だが日本がイギリスより優れてるとはっきり言えることがあるぞ。モンド・グロッソが2回行われた中で、イギリスは2回も千冬姉に負けてるだろ!!」
「なっ! くぅ……!」
おーーっと一夏選手の切り返しが炸裂ぅ!
我らがお母様! あなたが織斑先生に負けたおかげでセシリアが劣勢で御座います!
ていうか一夏のやつ、その時の代表が俺の母さんって気づいてないな。ウケる。
「こ、個人の武勇とテクノロジーは関係ありませんわ。というか、織斑千冬は例外中の例外です!」
「負け惜しみにしか聞こえないぜ」
「ぬぅ! よく言いますわね、自分の姉が何処に働いてるのかも知らずにのほほんとしてた人が一丁前に姉自慢とは!」
「なんだと!!?」
「なんですの!!?」
うーん。これいつになったら終わるんだろ。
そしていつになったら織斑先生介入するんだろ。
山田先生なんかさっきからオロオロしっぱなしだし、篠ノ之さんは……なんか一夏のこと見てムスッとしてるな。
そのあとはしばしお互い睨み合い。まるで居合勝負のような空気が漂う。
「決闘ですわ!」
「セシリア、手袋あるけど使う? 床にパーンしようぜ床にパーンと!」
「なんで持ってますのよ!? いいから黙ってなさいあなたは! 織斑一夏、私と尋常にISで勝負なさい!」
「おういいぜ。そっちの方がわかりやすい」
「デュエル開始の宣言をしろのほほん!!」
「デュエル開始〜〜!」
「いい加減になさい疾風! いまシリアスな空気でしてよ!!」
いやもうだってここまで来たらギャグ空気に持ってきてクラスのわだかまりを無くしたほうが良いかなって。
ギャグ空間は強いぞ、あの織斑千冬よりもだ。
「ハンデはどれぐらいつける」
「あら。啖呵を切った割に最初から手加減のお願いかしら?」
「いや、俺がどのくらいハンデをつけたらいいかって……」
「「「アハハハハハハハハ!!」」」
「え、えっ!?」
一夏が言い終わるか終わらないかの差で1年1組は爆笑の渦に包まれた。
おー、ここでそれを言っちまうか。ほんと凄いな一夏は。しかもそれを本人は本気で言ってるのがまた。
「織斑くん、それ本気で言ってるの?」
「だ、だって、男が本気で女子と力比べするわけには」
「前時代的ー! IS生まれる前でも怪しいよそれー!」
「男が女より強いなんてIS生まれてから逆転してるんだよ?」
「でもそういうこと堂々と言える男って希少じゃない?」
「でも……アハハハ! やっぱおかしー!」
自分が場違いなことを言ったと、一夏は自分の失策を恥じた。
そう、これが今の世界の常識だ。
ISが生まれて10年、過激な男性差別が大分収まった今でも男より女が強いという風潮は当たり前として根付いている。
その証拠に、1年1組のみんなから邪気を感じない。それが普通だと思ってるからだ。
「フフッ。あなたはISドライバーよりコメディアンの方がお似合いですわね。日本の男子はジョークのセンスはあるようですし。あなたの場合はジョークではなくボケですわよ疾風」
「先回りで潰された!?」
「それで、ハンデはどれぐらいがお好みかしら? 武器を一つだけ、というのでもよくってよ?」
「いや、ハンデはいらない」
「織斑くん。流石に代表候補生、それも専用機持ち相手にハンデなしはキツいと思うよ。意地張らずにハンデ貰おうよ」
「男が一度言ったことを覆せるか。ハンデはいらない。本気で来い」
「その覚悟、褒めて差し上げますわ」
一夏の本気にクラスの女子は戸惑いを隠せない。
みんな一夏が勝てるなど微塵も考えちゃいない。戦力と技量の差は歴然。
だがそんなことは関係ない。意地があるのだ、男の子には。
「さて、話は纏まったな。まったく、授業時間の半分も使って随分と盛り上がってくれたな」
「うっ、それは……」
「申し訳ございません」
「まあいいさ。ではクラス代表を決めるための模擬戦を執り行う。試合内容は織斑、オルコット、レーデルハイトの総当たり戦だ。その結果を持って、クラス代表を決めることとする」
「「はい!」」
「…………ん? あれ、俺もですか!?」
「当然だ。お前も推薦された者の1人なのだからな」
あ、そういえばそうだ!
のほほんさんと、えーっとそうだ鷹月さんが推薦したんだった!
「あらそれは良いですわね。疾風の実力を確かめるまたとない機会ですわ」
「えーー、明らかに一夏とセシリアのタイマンの流れだったじゃん。クラス代表なんて面倒だよ。そんなことする暇あるならISに打ち込みたい」
「あら、わたくしと戦いたくないのですか」
「…………」
「わたくしは戦いたいですわよ。強くなったあなたが、どれほどの男になったのかを」
…………フゥ。
「そこまで言われて黙ってたら、男が廃るってもんだな」
「ハンデは必要かしら?」
「ハッハッハ! 愚問だろそれは! 本気でやってこそのISバトルだ。たとえ敗色濃厚だったとしても、本気でやるからこそ意味がある。そこに男も女も関係ない」
それにな。
「一夏が度胸見せたんだ。男はまだまだ捨てたもんじゃないって皆に。いや、このIS学園に示さねえとな! なあ一夏!」
「ああ、勿論だ!」
一夏がみんなに笑われたのを見て、俺も思うところがないわけじゃないんだ。
それこそ絶対見返してやると思うぐらいには。
「フッ。期日は1週間後の月曜、場所は第3アリーナだ。各自準備を済ませておけ。いいな」
「「「はい!!」」」
「それでは授業を始める。教科書5ページを開け」
先ずは授業をしっかり聞くところからだな。
しかし金髪お嬢様に勝負を挑まれる特別な存在、この場合は主人公か。俺はサブ主人公か巻き込まれる脇役ってところか。
これなんてラノベだ?
タイトルはそうだな、無難に【インフィニット・ストラトス】でどうだろう。
何はともあれ、この3年間。退屈せずにすみそうだ。
俺は胸の高鳴りをペンに乗せ、1週間後の戦いに思いを馳せるのであった。
どうも、久々に原作1巻やアニメ第1話を見てワクワクした。作者のブレイブです。
なんで第一部最終章なみの文字数叩き込むのかな俺は。というのも名シーンが多すぎて削りに削れないという。
お嬢のちょっとよろしくて?と納得いきませんわ!が書けて満足です。次書くの楽しみ。
ちなみに自己紹介のとこは本編第4話に調味料ぶっ込みまくった形となります。もう少し行けたな……いえなんでもありません。
次回は何処まで行けるかな。バトル前までは書きたいところ。
今回面白いと思ったら高評価、コメントを宜しくです!
ではでは!!