IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第16話【天使討伐作戦】

「出てけ」

 

 容赦なくド低音で返した人類最強に人類最高はぶんむくれる。

 

「開口一番がそれって、ほんとちーちゃん酷い。私なんかした?」

「胸に手を当てて考えてみろ」

「………………ごめんちーちゃん。束さんの胸でかすぎてわかんないや」

 

 ギリィッ。右にいるツインテールから音がした。

 

「あのーこの場所は関係者以外立入禁止で」

「おや随分奇天烈なことを言うね。ISに関して一番の関係者は私だよおっぱいちゃん」

「お、おっぱい!?」

「お、なんだいまだ何か言う気かい? なら駄賃としてそのマシュマロを堪能させてあぁーー!?」

 

 頭を鷲掴みにされ外に投げ飛ばされた篠ノ之博士。投げた張本人は襖を閉めた。

 

「学園関係者ではないことは確かだ。まったく場を引っ掻き回すことしか知らんのかあいつは」

「否定はしないけど。IS学園が誕生した原因も私だぜ?」

「うわぁ!?」

 

 今度は床の畳を突き上げて篠ノ之束登場。なんでもありかこの人は。

 織斑先生は再び彼女を捕らえようと無言で近づいていく。

 

「まあまあ落ち着いて聞いたまえよちーちゃん。ここは断然紅椿の出番さ! 説明するまでもないことだけど大サービスで説明する束さんだぜ?」

「………話は聞こう」

 

 織斑先生と篠ノ之博士を囲うように新たなホロウィンドウが表示、中央の大きめのウィンドウには紅椿の姿が。

 

「さっきそこのイギリスがオートクチュール装備のISには紅椿は追い付けないと言ったけど。束さんの話なんも聞いてないのね、紅椿はそれすらも凌駕する現行最高のISなのさ!」

 

 指を鳴らす音に画面の紅椿が変化する。装甲の各所が開き、そこから何かが飛び出した。

 

「紅椿にはパッケージなんてものは必要ない。展開装甲をちょいッと変えることで瞬時に高機動仕様に変化できるのさ! そのときの速度理論値はこんな感じ!」

 

 紅椿のスピードグラフが伸び、その速さは俺とセシリアの専用機はおろか銀の福音の最高速度さえも抜き去った。

 

「疾風、展開装甲って………なんだ?」

 

 一夏だけでなく、当事者の箒もなんのことかさっぱりという顔をしている。

 

「展開装甲というのは、IS本来の目的である宇宙活動に対応したパッケージ換装を必要としないマルチプルアーマーのこと。今みたいに装甲各所の出力を調整したら攻撃、防御、加速をほぼロスタイム無しで行えるんだ」

「そんな凄いやつなのか。知らなかった」

「無理もないよ。展開装甲というのは第三世代の操縦者イメージ・インターフェイスを更に発展させたもの。まだ実用段階に値しない第三世代を越えた机上の空論と言われた技術だからね」

「おっ! 流石博識眼鏡君! あったま良い! 束さんは優秀な子が大好きです!! そのとおり! 紅椿は世界初の第四世代型ISでーす! ブイブイ」

 

 ところどころから「第、四!?」と漏れる。それは代表候補生だったのか教師陣だったかは定かではない。

 もしかしたら俺だったかもしれない。

 

「因みに白式の【雪片弐型】に使用されてまーす。試しに私が突っ込んだ!」

「え!? つまり、白式もその第四世代のISということ?」

「んー、厳密には違うね。雪片弐型の展開装甲は攻撃転用しか出来ないし、言うなれば白式は3.5、いや3.3世代かなぁ」

 

 つまりもし雪片弐型の展開装甲が完璧なら剣一本で防御と加速も出来たのか。もしそうだったら色々出来て面白そう。

 てか、知らず知らずに最新技術が傍にいたまま気付かなかったってことよな。まあ見た目はただのエネルギーブレードも出せる近接ブレードだし。

 

「それで上手くいったので今度の紅椿は全身が展開装甲にしてあります! これが最強たる由縁、完全に使いこなすことが出来た暁にはもはや敵無し! そんな紅椿ちゃんなのでしたー!」

 

 一人ハイテンションな篠ノ之博士を除き、一瞬でこの部屋はお通夜ムードに入ってしまった。

 それもそのはず。世界が第三世代技術の実現、そこから量産化にこぎ着けようとやっきになっているなか。この人はお構い無しに、しかも自分の妹の為だけにその階段を1フロア飛び越えたのだから。

 

「束、言ったはずだぞ。やり過ぎるなと」

「やり過ぎ? ご冗談を言いなさんなちーちゃん。可愛い妹のために頑張らない訳ないじゃない? それに束さんにとって第四世代の展開装甲なんて5年前とっくに完成してた。むしろ本当なら箒ちゃんの入学当初に渡したかったんだから、これでも我慢したんだぜ? 箒ちゃんがお願いするまでね」

 

 悪びれることなく色々とんでもワードを口走りまくる篠ノ之博士。

 余りにも規格外、いやそんな可愛い表現などではないのだが。とりあえず分かった事は箒が身に付けているISがこちらの想像以上の技術の集大成だということだ。 

 

 紅椿のデータを横にどかして篠ノ之博士は福音のデータに目を通した。

 

「ふむふむ、迎撃に来たISは全機出撃不可能に、これほど大立ち回りしたのにも関わらず死者どころか怪我人もゼロ、兵器だけ無力化。ニャハハッ、まるで白騎士事件みたいだねちーちゃん」

 

【白騎士事件】

 世界広しと言えど、この名前を知らない人はいない。

 今から10年前、当時まだ高校生に成り立ての少女、篠ノ之束が発表した『宇宙空間で活動可能なパワードスーツ』、インフィニット・ストラトス。

『現行兵器を凌駕するポテンシャル』という篠ノ之束の言葉は世界は激震すれど、それを子供だまし、少女の空想だと嘲笑い、まるで相手にしなかった。

 

 そう言わなければならなかったのだろう。

 当時まだ空を飛ぶことすら巨大な飛行機やロケット。莫大な費用によって動くそれが。人類が長い時間かけて作り上げた技術と歴史が。少女が開発したインフィニット・ストラトスという代物によってガラクタレベルまで落としこめられる。

 当時の国の維新やプライド、上層議員や技術者はそれを認めるわけには行かなかった。

 

 そこから1ヶ月後。驚天動地の事件、いや事件と呼ぶには生ぬるすぎる。そう、戦争とも言える歴史的な惨劇。

 日本を射程圏に抑えた潜水艦、艦船、軍事基地のミサイルシステムが同時多発でクラッキング、合計2341発のミサイルが発射、日本は360度からミサイルを飛ばされたのだ。

 

 当時の混乱や絶望は今でも色濃く残ってる者はいるだろう。

 俺は当時5、6歳ぐらいか………これといって覚えてることないな。まあまだガキだったし。

 

 日本は文字通り滅亡のカウントダウンスタート。今更戦闘機のスクランブル、迎撃ミサイル、護衛艦の迎撃を込みしても二千を越えるミサイルを全部さばける訳もなかった。

 一つの兵器、そう【白騎士】を除いて。

 

 一夏が乗ってる白式に似た、便宜上第零世代と付けられた中世の騎士を思われせる白銀のIS、白騎士。

 突如現れたそれは迫り来るミサイル群に突っ込み、切り裂いた。そう切り裂いたのである、白騎士はその手に蒼い『プラズマブレード』を持ってミサイルの半分、1221機のミサイルを一気にぶった斬り。遠方のミサイルは非実体兵器『荷電粒子砲』を何もない『虚空』から取り出して撃ち落とす。

 

 これにて日本は救われた、というようなハッピーエンドで終わるほど世界はお花畑ではなく、各国は国際条約? なにそれ美味しいの? ばりに日本の領空を侵略して戦闘機を飛ばして『白騎士の調査そして捕獲、或いは撃墜』。白騎士に向かってゾロゾロと飛んでった。

 

 結果はまあ、お察しである。先ほど篠ノ之博士が言ったように、並み居る戦闘機は全部撃墜、パイロットも全員無事。全くと言って良いほど歯が立たなかった。

 

 実際俺が戦闘機相手を想定しても、おそらく負けないと思う。なまじ素人が操縦したISでさえ、圧倒的性能とシールドバリアによる防御力がIS以外の兵器と比べると一線を越えているのだ。

 そのあとも各国が負けるものかっ!! と追加投入されるも。白騎士は『定時退社なので帰ります』な感じで夕焼けに溶けるように消えた。もとい光学ステルスで世界から姿を消したのだった。

 

 大型プラズマブレード、荷電粒子砲、量子変換、圧倒的機動性、SEによる防御力、光学ステルス。サイエンス・フィクションも真っ青なオーバーテクノロジーをこれでもかとノンフィクションで見せられた世界はインフィニット・ストラトスの存在を嫌でも知覚させられた。

 

「そのあと白騎士を作ったのは私ですと発表して、私の開発したインフィニット・ストラトスは全世界に普及されるのでしたー。白騎士事件を私が作り上げたマッチポンプだ! と叫んでるやつもいたけど『その証拠は何処にあるの?』と聞いたときの反応は見物だったなー。まあそう考えるのも仕方ないよね、だって束さんだしっ!」

 

 エッヘンと胸を張る篠ノ之博士、それに伴い山田級の胸がポヨンと跳ねるのを思わず目で追ってしまった。

 

「しかし白騎士って誰だったんだろうねー? 一時期怪しまれたちーちゃん、そこんとこどうなんですか?」

「知らん」

「私としては……」

 

 ごすっ! 鈍い音が束さんの頭からなった。

 織斑先生の出席簿ならぬ、情報端末アタック(ガワが金属)

 

「酷すぎる! まだなんも言ってないのに! 束さんがパッカーンしたらどうするつもり!?」

「言う前に黙らせる、常識だろ。ほれ、接着剤」

「私今日後何回ちーちゃんに酷いって言えばいいんだろ。そろそろ泣くぞ? てかなんで持ってんの接着剤」

 

 取り敢えず受け取った篠ノ之博士。

 織斑先生さっきから邪険に扱ってるけど、もしかしたら仲良いんじゃないかこの二人。 

 

「話を戻す。束、紅椿の調整にはどれくらいかかる」

「7月7日にちなんで7分で出来るよ☆」

「では、今回の作戦は織斑と篠ノ之の強襲班、レーデルハイトとオルコットの援護班での作戦とする」

「ほえ? 箒ちゃんといっくんで充分じゃない?」

「投入できる機体が多いに越したことはない。何か問題でもあるか?」

「べっつにー、ちーちゃんがそれで良いなら束さんなにも言わなーい」

 

 反りが合わないイギリスのISが参加するせいなのか博士は不満げな態度を隠そうとしない。

 対照的に箒の方は自分が作戦に参加できると聞いて嬉しいのか、しきりに一夏の方をチラチラ見ている。

 

「二人とも、パッケージのインストールは後どれくらいかかる」

「えーと。ギリギリ間に合います」

「わたくしもです」

 

 まだインストールし始めの時に呼び出されたから、俺達のパッケージはまだISに適合していない。他のメンツも動揺だろう。

 だがギリギリということはチェックを万全に出来るかどうか怪しい。でもそんな贅沢を言う猶予はこちらにはないのが現実だ。

 

「束、二人のパッケージの最適化をアシストしてくれ」

「えーー。なんで私がそんなこと」

「散々こちらを引っ掻き回したんだ、それぐらいやってくれてもバチは当たるまい」

「私にあのメシマズ国のISを弄れっていうの?」

「ただでさえ成功率が低い作戦なのだ。それに織斑と篠ノ之は高機動活動の経験がない。経験があるものを遊ばせておく理由はない」

「………………」

 

 明らかにやりたくないですオーラをこれでもかと出している篠ノ之博士。

 筋金入りの人嫌いに加え、相当根に持つタイプのようだ。なんとやっかいな。

 このままでは話が続かないこの状況、それを打開せんと立ち上がったのはセシリアだった。

 

「篠ノ之博士。我が国の数々の非礼、イギリス代表候補生であるわたくしセシリア・オルコットが謹んでお詫び申し上げます。ですので、どうかブルー・ティアーズのパッケージの最適化を手助けしてもらえないでしょうか。お願いします!!」

 

 セシリアが頭を下げた。

 滅多なことでは頭を垂れないオルコット家の党首が恥を忍んで篠ノ之博士に頼み込んだのだ。

 

「俺からもお願いします篠ノ之博士! 二人の手助けになりたいんです! お願いします!」

「おいおい、なんで頭下げるのさ」

「俺のパッケージもやってもらうのですから当然です。篠ノ之博士、お願いします!」

 

 改めて頭を下げて懇願する。

 実質セシリアは何も悪くないのに頭を下げるんだ。これで聞いてもらえるならプライドなんて捨てて幾らでも頼み込んでやる。

 

「眼鏡君はいいよ。でも君は駄目だ」

「ちょっ、なんでですか! 俺だけじゃなくセシリアのもお願いします! この中で一番の高機動に慣れてるのはセシリアです!」

「ならもっと誠意を見せてほしいな。土下座するとかさ」

「っ!」

 

 彼女の発言にセシリアは息を飲んだ。

 由緒正しき歴史を持つ英国貴族の党首が一個人に土下座する。それは

 

「束、お前いい加減に」

「ちーちゃんなら知ってるでしょ。私があの時どんな思いをしたか。後ろで偉そうにふんぞり返ることしか脳がない頭でっかちにろくに見もしないで門前払いされたんだ。それに見合う物を見せてほしいものだね」

 

 篠ノ之博士は苦虫を潰すような顔で頭を下げているセシリアを睨み付ける。彼女を知る一夏と箒は見たことのない知人の顔を見て困惑している

 篠ノ之博士の言い分も分かるし、理解もできる。だけど………

 

「待ってください。なにもそこまでさせなくても良いじゃないですか」

「じゃあ代わりに眼鏡君が代わりにやる? そーだなー、凄いぶりっこっぽく『らぶりぃ束ちゃんお願いします♡』って言って貰おうかな☆」

「た、束さん!?」

「それやってくれたら考えても良いよ」

 

 セシリアの土下座か。男の俺がぶりっこで頼み込むの二択………

 俺はスッと前に出て咳きこんで喉を整えた。

 

「え、ちょっ!」

「は、疾風っ!?」

 

 篠ノ之博士の前に立ち、両拳を顔の前に上げ、右足を後ろに上げ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らぶりぃ! らぶりぃ! 束ちゃん! 僕達のパッケージを最適化して下さいな! アハッ♡」

 

 刹那。花月荘大広間、風花の間が凍り付いた。

 

 迷いなく首をコテンと倒したその顔は今まで見たことないジャンルの満面の笑み。

 

 数十秒。あまりの豹変ぶりにその場にいた人間は時が止まったかのように俺を見て固まったまま。誰しも信じられない物を見たと目を見開いたまま制止していた。あの織斑先生さえ微動だにしていない。

 当の篠ノ之博士は………

 

「プフッ! アッハッハッハッハッハ!! 本当にやるとは思わなかった! やばい、こんな笑ったの久方ぶりかも、ハハハハハハ!!」

「束」

「ふーふー。オッケーオッケー、笑わせてくれた礼だ。過去のことは置いといてこの篠ノ之束が最高に君たちのパッケージを仕上げてやろうじゃないか! その前に紅椿の調整だね、よしっ! いくぞ箒ちゃん!!」

「え、え、ちょっと待って引っ張らないでください!」

 

 篠ノ之姉妹は未だ凍り付いてる大広間を後にして消えていった。

 残された面々は二人が消えた出口からぶりっこポーズを継続している第二の男性IS操縦者に目を向けた。

 

 上げていた右足を戻し、もう一度咳き込み。その場にいる面々を見渡し、疾風・レーデルハイトは眼鏡を上げて淡々と言った。

 

「処世術です」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「はいかんりょー! 眼鏡君のは普通に行ったけどイギリスのは結構ガタガタだったなぁ、よくこれでオッケー出たもんだ。ていうかBT兵器封印して全部スラスター一括って第三世代兵器とはって感じ。本末転倒とはこのことか。これの速さに追い付けるようなBT兵器を作ることをオススメするよ。では束さんの仕事終わり! バイビー!」

 

 約束通り篠ノ之博士は俺達のパッケージの最適化をしてくれた。予定の1/3の速さで仕上げてくれた、しかも二機同時に。

 アドバイスなのか文句なのか愚痴なのか。全部をない交ぜにしながら篠ノ之博士は何処かに消えていった。

 また崖かけ上ったんじゃないだろうな。

 

 先に仕上げて貰った箒は一夏と共に他の奴ら+山田先生から高機動戦闘のレクチャーを受けている。

 

 かくいう俺は福音と各機体のデータを閲覧する。今回の作戦、前線指揮の役目は索敵能力が一番高い俺に任命されたからだ。

 それにしても改めてみるとわかる紅椿の性能の高さ。一番最初に飛んだときでさえ速かったのにまだ上があり、本気を出せば高機動パッケージの速度を越える。規格外とはああいうのを言うんだろうなぁ。

 

「疾風」

「んー?」

「………その、ごめんなさい」

「まーだ言ってんかよ。別に良いって言ってるだろさっきから」

「すいません」

「いやもうだから。あー」

 

 対策会議が終わってからセシリアはしきりに俺に謝ってきた。こっちは気にしない気にしないと繰り返してるのにやっこさんは聞き入れてくれない。

 

「オルコット家ご当主様の土下座とガキンチョのぶりっこポーズ、天秤かけたらどっちに傾くかなんて明白だろ」

「でもわたくしの」

「関係ない」

「ですが!」

「お前のせいじゃない」

 

 イーグルから降りてセシリアの眼を正面から合わせる。セシリアはブルー・ティアーズに乗ってるから自然と目線が上に向いた。

 

「お前が祖国の事を思ってるのは知ってるし、代表候補生という肩書きに責任を持ってんのはわかる。だけど他人の失態を無理に背負い込む必要なんてないだろ」

「だからってなにも疾風があんなことしなくても」

「あれは俺が勝手にでしゃばっただけだから。それに、別にお前のためだけじゃない。あのままお前が土下座したところであの偏屈ヘソ曲がり科学者が納得するとは思わないし、俺がやったほうが早くことが済むと思っただけ。だから勘違いすんなよ」

「ず、随分篠ノ之博士のことを。尊敬していたんじゃなかったんですの」

「尊敬もしてるし、ISを生んでくれたことは感謝している。けどなー。一夏に色々聞いてたけど、あの人嫌いっぷりは想像以上だったわ。あの温度差ハンパねーもん」

 

 好き嫌いの対応の仕方が正に対極的。身内や気に入った人には限りなくオープンだけど、それ以外は極端に閉鎖的。例えるなら昔日本がやってた鎖国のよう。

 

「天才は漏れなく奇人というけど、ここ二日で身に染みて理解した私なのでした。とりあえず言われた字面だけ見とけばいいんだよ、だからそんな気にしない気にしない、俺は気にしてないから。オッケー?」

「ええ。わかりましたわ」

 

 一応納得はしてくれたようだ。タレ目がちな目は少しだけ上にあがったように見えた。

 

「ところでどうよ俺のスカイブルー・イーグルの高機動パッケージ【ソニック・チェイサー】の雄姿は! なかなかどうして格好いいだろう?」

 

 全体のシルエットはそのままに、肩と足にスラスターを追加、腰あたりに尾羽を模した長めの大型増加スラスターを追加、ウィングにも追加パーツが取りつけられたりとなんとも増々。頭部のイーグル・アイには羽飾り状追加センサーが追加されている。

 

「羽が増えて、より鳥っぽくなったみたいですわ」

「そうでしょうそうでしょう」

「ですがドラッグマシンにも見えますわね」

「曲がらないって言いたいのか。確かに直線機動は強い代わりに高機動戦闘時の旋回性能は落ちてるけど、ほんの少しよほんの少し」

 

 ノーマルの旋回能力が高いだけで、今のイーグルは並みレベルになってるわけで。

 実際セシリアのストライク・ガンナーより最大加速度は早いし、もしかしたら紅椿に追い付けるかもしれない。

 赤く塗ったら更に速くなりそう。止まらない気もするが。

 

 セシリアのブルー・ティアーズの高機動パッケージ【ストライク・ガンナー】

 一言で言うと、優雅。

 腰とウィングのプラットホームに搭載されていたBTビットを全て腰に連結したその姿はまるでスカートようで。ビットがなくなったプラットホームには増加スラスターが装備されている。

 頭にはメット型の高感度ハイパー・センサー【ブリリアント・クリアランス】

 この高機動形態はブルー・ティアーズに使われるBT粒子を加速して増幅させる光圧スラスターというものらしい。

 ………しかしまぁ。

 

「さっきの篠ノ之博士じゃないけど。ブルー・ティアーズの特徴殺したねぇ」

 

 セシリアのパッケージ。腰に連結されたビットの砲身は塞がれてスラスターのみの使用となっている。

 使用はパージすれば出来るらしいが、ある程度速度を落としてからパージしないと機体が空中分解してしまうらしい。博士が言っていたガタガタはここかもしれない。

 

「高機動戦闘だとビットの推力が完全にISに負けてしまいますので。今回の福音相手にはこれが最適解ですわ」

「まあ確かに言えてる」

「ですが納得もしています。BT粒子の光圧スラスターが実現したのは嬉しいのですが多角攻撃が出来なくなったのは今までと同じ戦いは出来ませんから。前はBT適性値が思うように上がりませんでしたが、今は上昇したのですし、この機会に開発本部に打診を申請しなければ」

「まあないものねだりしてもしょうがないだろ。俺のイーグルも高機動中はビット使えないの同じだし。紅椿は展開装甲の一部を切り離してビット兵器にすることが可能………ね」

 

 攻防速に加えて自立兵器か。どんたけ盛ってるんだか。

 

「そういう疾風も浮かない顔していますわね。やはり緊張しますか」

「うん」

 

 このIS学園に入ってから、楽しいことがいっぱい増えた。ISを動かすのもそうだけど、皆と過ごす色んな日々は退屈しなくて、楽しくて。このまま二年生になり、三年生になり、卒業して国家代表たして大成したい。そんな日々が続くものだと思っていた。

 現実を甘く見ていた、と言ったらそれまでだけど。専用機………個人が持ちうるには余りある兵器を持ち歩くということは。今回のような事態に対処しなければならない場合もある。

 だが………

 

「俺として一番不安なのは、なぁ」

「………」

 

 揃って向く方向には………

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 時刻は十一時半。砂浜で後ろに一夏と箒、前に俺とセシリアがスタンバイしていた。

 

「じゃあ箒。よろしく頼む」

「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

 作戦の性質上、一夏は全くエネルギーを消費せずに目標に向かう必要があるため、一夏が箒に掴まって移動する形になる。

 

「それにしても、たまたま私達がいたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせれば出来ないことなどない。そうだろう?」

「ああ、そうだな。でも箒、先生たちや疾風も言ってたけどこれは訓練じゃないんだ。実戦では何が起きるかわからない、十分に注意して……」

「無論わかっているさ。ふふ、どうした? 怖いのか?」

「そうじゃねえって。あのな、箒」

「ははっ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいいさ」

 

 さっきからこの調子だ。専用機を与えられたからか、はたまた一夏と共に行動することからか。箒の声は確実に浮わついているのか口数が普段より多い。若干、いやかなりハイになっている。

 

「箒」

「なんだ疾風。作戦の見直しか?」

「少し落ち着いたらどう? そんなんじゃいざというとき」

「失敗するとでも? 大丈夫だ、この紅椿はお前のイーグルより数段上の性能だ。必ず福音を落として見せるさ」

「そういう話をしてるんじゃない。俺は」

「どうした? まさか臆病風に吹かれた訳じゃないだろうな? この作戦は自由参加だ、降りるなら早めに言った方がいい」

 

 挑発的な言葉にムッと来たわけではないが、ここは一つ言っておかないと気が済まない。

 

「………正直に言うぞ。俺はお前が強襲班として参加するのは反対だ」

「なんだと!?」

 

 案の定、モニター越しに箒が睨み付けてくる。

 相手のペースに乗らず淡々と諭すように続ける。

 

「言い方が悪かった、一夏を乗せる役目はお前じゃなくてもいい。計算上、セシリアが乗せても福音迎撃には充分間に合うんだ」

「私は不必要だと言うのか!」

「落ち着け、一々突っかかるな。お前の速度なら援護班としてもちゃんと機能する。今回の作戦は飽くまで零落白夜を当てることだ。今からでも遅くない、ここは経験が豊富なセシリアに」

「冗談じゃない! この役目を譲るつもりはない。私を見くびるなっ!」

 

 聞く耳を持たない箒に俺のイラつきがたまっていく。

 今回の作戦は神経を擦りきっても足りない、遊びではなく本物の戦闘だ。

 にわかの俺でもことの重大さと危険を理解出来ているのにこいつは………

 

 俺は我慢できず、これだけは言わないでおこうと思ったことを口にした。

 

「そんなに一夏と一緒が嬉しいのか?」

「っ!!」

 

 図星を突かれたのか箒の顔が引きつる。

 

 箒は専用機を持たずにこの学園に入学した。専用機を持つ一夏は訓練機の都合を考えずにアリーナを使用出来る、無論他の専用機持ち、特に一夏に好意を向いているラバーズ達もだ。

 

 こうなると、必然的に一夏と接する時間に差が出てくる。仮に訓練機の都合を取ったとしても技量と力が上であるラバーズが相対的に一夏の相手をすることになる。

 

 それに危機感を持った箒が取った手段こそ。ISを生み出した姉に専用機を頼むことだった。

 

『これでも我慢したんだぜ? 箒ちゃんがお願いするまでね』

 

 篠ノ之博士の発言から、今回臨海学校の最中に篠ノ之博士と紅椿が到来したのは箒がコールしたから。

 そして結果的に大きな力を手に入れた箒は今、誰よりも一夏の隣にいる。

 先程から強襲班から離れる事に過剰に反応するのはまさにそれだろう。

 

「お前の気持ちは理解は出来る。何故そうしたいのかもな。だけど今回の作戦にそんな浮わついた感情は不要だ」

「何が言いたい!」

「そんなフワフワと浮かれてる奴に、背中を預けることは出来ないと言っているんだ!」

 

 仏の顔も三度までとはこのこと。

 プライベートチャネルなのにも関わらず大声を出してしまったのでセシリアと一夏は何事かと振り向いた。

 大きな声に箒は気圧されるもそれは一瞬でまた睨み付けてくる。

 

「なんだその目は。言いたいことがあるなら言ってみろ。とにかく、俺に降りろというまえに先ず自分の環境を整えろ。じゃないと、お前か、もしくは他の誰かが、死ぬことになるぞ」

「………私より日の浅いお前に言われることじゃない」

「なんだって? ってオイっ!」

 

 ブツッと通信を切られた。再度かけ直すもロックをかけられて通信できない。

 カーっと腹の下からくるむず痒さを抑えつつ織斑にコールした。

 

「織斑先生」

「どうしたレーデルハイト」

「やはり箒は作戦から外したほうがいいと思います。幾らなんでも浮かれすぎです。俺からなに言っても分かってるのか分かってないのか。織斑先生からの言葉なら、箒も言うことを聞くはずです」

 

 箒に聞こえないようにプライベートチャネルで通信する。この作戦は一瞬の油断が命に繋がる。なのに箒からは緊張感があるものの、何処か綻びがある。すなわち不安なのだ。

 

「いいたいことは分かる、だが承服できない」

「何故ですか?」

「篠ノ之束だ」

 

 何故この場にいない篠ノ之博士が出てくるのか。

 

「あのタイミングで飛び込んできて紅椿の有用性を示した。つまり今回の作戦に篠ノ之を参加させたいがために口を挟んできた。その状況で途中から篠ノ之をはずした場合、思わぬ横槍が来ないとも限らない」

「横槍って、妹の為にそんな」

「そういう女なのだ、あいつは。私から織斑と篠ノ之に忠告はしておく。今はこれで納めてくれ」

「………了解」

 

 チャネルを閉じて、ため息を吐いた。

 確かにあれは狙ったかのようなタイミングだった。そうみると、紅椿の受領後に銀の福音暴走の状況が来たな。余りにもタイミングが………

 いやまてよ、まてまて、でもそんな、まさかそんなこと。だけど、篠ノ之博士が妹の晴れ舞台のために………

 

「疾風、どうしましたの?」

「ちょっと箒のことでな。………俺が箒よりISを動かしてる時間が長かったら説得力あったのかな」

「それは関係ありませんわ。さっきわたくしからも伝えましたが。箒さんのモチベーションは良好でした。良好過ぎな気もしますが。何があってもいいように、私達援護班でしっかり補助してあげましょう」

「そうだな」

 

 セシリアと話してると箒との差が顕著に感じられた。

 とりあえずこのまま作戦が進む。不安を残していても、限定された状況下で最善の行動を心掛けなければ。

 

「全員、聞こえているか。今回の作戦は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)だ。短時間での決着を心がけろ」

「了解」

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

「そうだな。だが、お前はその専用機を使いはじめてからの実戦経験は皆無だ。だからくれぐれも無茶はするな」

「わかりました。出来る範囲で支援をいたします」

 

 一見落ち着いているように見えるが、やはり口調に弾んでいる。流石の一夏も不安げな顔をしている。

 一夏と箒の体がピッと伸びた、どうやら織斑先生とプライベート・チャネルを開いているのだろう。

 話が終わったのを見計らって、作戦の説明に移した。

 

「今回前線指揮を担当する疾風だ。じゃあ今回の作戦、『天使討伐(エンジェル・ハント)』の見直しをするぞ。箒は紅椿の展開装甲を使用して一気に福音に肉薄、一夏は全力で零落白夜を叩き込む。俺とセシリアは、速度の関係上先に出撃する。初撃が失敗したときは俺とセシリアが遠距離狙撃で支援して福音の動きを阻害する。この作戦の要はお前達強襲班だ、絶対に気を抜かないように」

「わかった」

「わかっている」

 

 出来れば箒に色々言いたかったが。これ以上つべこべ言っても箒が気を悪くしてしまうかとしれない。本当に大丈夫だろうか………いや今は集中しないと! 

 

「それではオペレーション『天使狩猟(エンジェル・ハント)』、開始!」

「開始了解。援護班、ブラストオフ!」

 

 イーグルのプラズマブースター、ティアーズの光圧スラスターが青白い光を発して離陸する。

 高機動戦闘用に視界を鮮明化、一気に雲の高さまで上昇する。

 そして、10秒後に一夏達が出撃する。

 

「強襲班、発進する! 行くぞ一夏!」

「おう!」

 

 箒は装甲を文字通り開くと、その隙間を埋めるように光子翼が展開。一夏を背に乗せたまま急加速、空に向かって駆けた。

 

「あん?」

「どうしましたの」

「後ろから」

 

 イーグルの広範囲センサーが後方から接近する強襲班を捉え、それは一気に俺達に近づきなんと追い越してみせた。

 

「はあっ!? 速すぎるだろ!?」

「この短時間でここまでの加速を!?」

「おい箒! 先走り過ぎ、って聞いてねぇ!」

 

 さっきの会話からロックをかけっぱなしなのか通信が繋がらない。

 

 データより速い! どういうことだ?

 先程の初飛行とは比べ物にならない程の加速性能。瞬時加速もめじゃない加速力に。

 一夏にコンタクトを取ろうにも強襲班は既にハイパーセンサー無しでは確認できないほど一夏と箒は彼方に飛んで行ってしまった。

 まずい予定がずれた。このままでは二人が失敗した時に直ぐ援護射撃をすることが困難に。

 

「セシリア、すまんが先に行く!」

「はい! わたくしもすぐに」

 

 ストライク・ガンナー装備のティアーズを置き去りにイーグルの全スラスター出力を最大にする。

 

 頼むから無茶はしないでくれと、スカイブルー・イーグルは俺のはやる気持ちをスピードに乗せ、日本の海を飛び進んだ。




今回の箒に色々突っついてますが、蜂の巣をついたみたいな感じになりました。

あまりこういう感じに追求するのを見たことがないので少し迷走しながら書きました。

あと天使討伐を堕天使討伐にしようと思いましたがなんか厨二というワードが頭をよぎりました。
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