IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
Q、白式がファースト・シフトした状態で試合に出るメリットは?
A、ポテンシャルをフルに発揮し、一夏のセンスを最大限適応出来る(なお一夏の実力に比例する)
Q、同上のデメリットは?
A、ないです。強いて言うならシフトアップによる残機がない。
白い機体が出るとアリーナ観客席が沸き上がった。
1番目にISを動かした男の専用機。一夏のビジュアルに沸く女子、ISのビジュアルに興奮する整備課女子。織斑千冬の弟がどのような戦いをするのかという期待の声。
先程の疾風とセシリアの戦いを見て会場のボルテージは最高潮。
疾風が練習機であれだけやれるなんて誰も思わなかった。どちらが勝ってもおかしくないバトル。男だの女だの関係ない。そんなバトルがあった。
次も熱いバトルを見せてくれ。そう願う者は少なくなかった。
「逃げずに来たことを褒めてさしあげますわ」
「そいつはどうも」
目の前にセシリアのブルー・ティアーズ。
破壊されたレーザービットは補填されているが、腰のミサイルビットが確認できない。予備がないのか、それともビットごとバススロットに入れているのか。
「まず始めに、あの時の非礼をお詫び致しますわ」
「別に良い。こっちにも原因があったからな。俺もメシマズ国は言い過ぎた」
「お互い様ですわ」
初めてセシリアと
思い返してみたらそうなっても仕方ないと自身の行動を顧みるが今はそれを考えないでおくことにする。
今のやり取りは仲直りなんかではなく、遺恨を残さずバトルに集中するための通過儀礼だ。
「最後に一つ。ハンデが必要なら申し上げなさい」
「それは……」
「勘違いなさらぬよう。別に貴方を軽んじているつもりはありません。しかし貴方は疾風と違って経験も知識も不足している。ここで私が全力で差をつけるのはフェアではないと判断したからです」
ハンデをつける時点でフェアではないという意見もある。もし疾風と戦う前のセシリアなら気取ったポーズで挑発をかけただろう。
だが今のセシリアは真剣そのもの。本気で一夏のことを案じた上での提案だということを、一夏は理解した。
「いらねえよ。前も言ったが、男が一度言ったことを撤回するなんて情けねえことはしたくない。それに腰のビットがないのは既にハンデがあるようなものだ」
「私が隠してるとは?」
「そう考えたが、やっぱないって考えた。オルコットはそういう姑息なことをせず正々堂々とやるタイプだろ?」
セシリアは貴族だ。それも血統と伝統を重んじる貴族の中の貴族。
故の騎士道精神、そしてノブレス・オブリージュを胸に生きている。
そんな彼女が真剣勝負に水を刺すような真似はしないだろうという確信があった。
「だから全力で勝ちに行く。疾風と箒に鍛えられて、千冬姉からも託された。俺と白式、そしてこの雪片弐型でお前に勝つ!!」
じゃないと姉に笑われる。
ズボラで口より手が出て横暴鬼教官な姉だが。自分のことより弟のことを考えてくれる、素直になれない世界最高の姉だ。
「雪片とは、大きく出ましたわね」
「俺は俺の家族を守る。その為に、ISで強くなる。だから勝たせてもらうぜオルコット!!」
「よく吠えましたわ! それでこそ叩き潰し甲斐があるもの! わたくし、セシリア・オルコットも全力でお相手してさしあげますわ!!」
ブルー・ティアーズ、白式をロック。
撃たれる、避ける、いや前に出る!
疾風に教わったあの秘策。それを試す!
念じた瞬間、白式の全機能が前に出る為に動き出す。
PICの重力制御、視界補助、スラスター展開、スラスター内エネルギー加圧。ブースト放出、吸収、更に加圧。
織斑一夏の為に調整されたファースト・シフトISが今、うねりを上げた。
「行くぞ! 白式!!」
ギュオン!!
「うおっ!?」
「なっ!?」
一瞬で白式とブルー・ティアーズの距離が縮まった。音を置き去りにする超加速。レーザーはヒット、だが速度を僅かに落としただけで突っ込んでくる。
疾風が披露した物と同じ、だが高機動パッケージ装備の練習機とは天と地の差を誇る速度。
速いとは予測していたが予測以上の速さにセシリアは気圧された。
「でやぁ!」
「ああっ!」
咄嗟に盾にしたスターライトMkⅢが両断された。
ライフルが間に合わなければ、斬られていたのはセシリアだった。
「で、出来た!?」
「
セシリアに油断はなかった。
だが反応が遅れた、高機動型ISの名に嘘はない速度に虚を突かれた。
だがそれでも速すぎる。まるでそれ以外を削ぎ落としたような速さだった。
対する一夏も成功したことと思ったより速すぎる自身の愛機の驚きに思考が止まった。
「くっ!」
「いって!?」
機体周囲に展開したビットの射撃を身体を逸らして一発の被弾で済ませた一夏。
セシリアは遮二無二に距離を離し、ビット2基を自機周辺、もう2基ら白式を囲うように配備する。
「インターセプター」
音声認識で呼び出したIS用ナイフを手にセシリアは思考を回す。
メインウェポンが破壊され、今のセシリアはレーザービット4基と近接型相手には心許ないインターセプターのみ。BT操作適性が上がったことでビットを手足のように動かせるようになったのが幸いした、まだ戦いようはある。それでも……
「速いですわね! 雑味はあれど動きが様になってる!」
「優秀な先生が居たからな!」
最大速力で吹かす白式は放たれるレーザーを置き去りにしながらセシリアに接近。剣の届く範囲にとにかく近づこうとする
セシリアもその速さに機動を修整。多角かつフェイントを織り交ぜながら距離を離す。だが互いの距離がミドルとクロスレンジを行ったり来たりしていて気が抜けない。
「ひたすら斬りにかかってきますわね! あなた射撃武器はお持ちではないので!?」
「生憎この雪片弐型だけだ! バススロットもこれだけで埋まってるんだとよ!」
「欠陥にも程があるのでは!?」
「疾風も言ってた! うわっ!」
一夏は懸命に躱すも一発、また一発と被弾が嵩む。
それでも一夏は近づくことをやめない。いややめられない。何故ならそれしか一夏の戦い方がない。
(ライフルとミサイルなくしてこれかよ! 疾風はこれ相手に捌いていたのか!)
打鉄の盾ありきだが疾風はこれ以上の猛攻を10分耐えきった。
もしセシリアが慢心していたら一夏もそれほど耐えられただろうが、セシリアは本気で一夏を狩り尽くすつもりで攻撃を与えている。
しかもビットの動きも速い。制約が外されたそれはまるでISが4機に増えたような苛烈な攻めを見せている。
「うおー!」
「っ! 今のを避けますか!」
背後からの射撃をサイドブーストで回避。一夏は全方位視界が使えないからチラ見程度にしか背後を確認できない。
セシリアのビット配置の癖を疾風から聞かなかったら直撃していた。
(見極めろ! あれを動かしてるのは人間なんだ! オルコットはこっちの死角と隙を確実に狙ってくる!)
出来ればビットを潰したいが、ビットを追おうとすれば狙ったビットは全力で回避機動、残ったビットはその侵攻を阻んでくる。
「お前、本当に凄い奴なんだな」
「当然です。わたくしの言葉に一片の偽りなどありませんわ!」
セシリアと疾風の言う通り。彼女はスペシャリストだ。とても勝てる相手ではない。専用機の速さがなければボロっボロのボロ負けで恥をかいていた。
「だからこそ負けられねえよな、白式」
動かせば動かすほど白式が自分に馴染んでいく感覚を覚える一夏。
あと少し、あと少しで何かが掴めそうだ。そしてそれが逆転の切り札になる。根拠も理由もない確信がそこにあった。
余裕はない、シールドも既に3割減った。
それでも勝利の目を信じて一夏はアリーナを飛び回る。
ーーー◇ーーー
「これ思ったよりやべーな」
開始1分が経過した戦場をモニターで見てボソリと呟いた。
画面には四方から来るレーザーを掠めながらなんとか近づこうと頑張る一夏と近づかせまいと汗を垂らしながらビットに指示を出すセシリアの姿が。
「確かにヤバそうだが、どうヤバいんだ?」
「セシリアが一夏を積極的に落とそうとしていない」
「それは、手加減してるということか?」
「すまん、言い方が悪かった。セシリアは守備的な攻め方をしているんだ。長くなってもいいから着実にジワジワシールドを削っていく戦い方に変えてきている」
俺の時は攻勢を出させない為にガンガン攻めて削り落とす戦い方をしていた。
打鉄の盾を剥がす意味合いもあっただろうが、搦め手が得意と睨んだセシリアは策を弄する隙すら出させない波状攻撃スタイルでバトルしていた。
「攻撃が激しくないなら一夏のチャンスも増えるのでは? それだけ生きられるだろう」
「もっと簡単に言えばこの戦い方には隙が少ないんだ。とにかく一夏を近づかせない、ビットを壊させてはならない。ライフルがあったらもっと攻めてただろうけど、今セシリアの手持ちにはナイフしかない。セシリアは接近戦が苦手だから近づかれたら終わる」
「何故セシリアが近接戦を苦手だと思うんだ?」
「セシリアがインターセプターを音声コールしてたから」
音声コールは武装呼び出しを早める手段だ。
だがそれは初心者のやり方だ。努力の天才でもあるセシリアが自分の武器を音声コールで呼ぶなど恥以外の何物でもない。つまりセシリアはインターセプターのコールイメージ練習を怠っていたということになる。
というより、セシリアは近接戦闘を想定から外しているのではないか。ブルー・ティアーズの戦い方は多対一のミドル・ロングレンジ。そもそも近づかせることはブルー・ティアーズの特性的に負けも同然なのだ。
「開始始めの
「何か手はないのか!?」
「ビットを破壊して手数をなくす……それか相手のレーザーを掻い潜ってとにかく本体を斬りまくる。だけど今それをやってる最中だし出来ない状況だ。セシリアの偏差射撃が正確すぎて逆に命中率は低いけど、直ぐに修整されるだろう」
「八方塞がりじゃないか」
「うん。それに遅延戦闘に焦らされた一夏が突進してくるのを待ってる。罠にかかった獲物は仕留めやすいからな」
「そんな、このままじゃ一夏は!!」
負ける。
見るものが見れば一夏は頑張ったほうだと評価するかもしれないが……
「零落白夜があればな……」
「それは暮桜だけのワンオフ・アビリティーだろう。動かしたばかりの一夏には無理だ」
たとえワンオフ・アビリティーを発動しても、ワンオフ・アビリティーは操縦者とISの親和性が生み出す超常能力。
姉弟とはいえ、同じワンオフ・アビリティーなど絶対にあり得ない。そもそも乗ったばかりの一夏と白式にそこまでの繋がりはない。
「近づいて斬る。それしかない」
「一夏……」
一抹の奇跡も望めない状況。
一夏のポテンシャルが試されていた。
ーーー◇ーーー
「よく生き残ってる、方ですよね?」
「そうだな。私は瞬殺されると思ってたが」
「実の弟さんに対して辛口過ぎません?」
「織斑を甘やかして良いことなどない」
素直じゃないなーという視線を一睨みで迎撃された真耶はモニターに目を戻す。
「こ、こっからどうすれば勝てますかね」
「無理だな」
「酷い……少しは手心とかないんですか?」
「逆にあると思うか? オルコットは本気だ、遊びの一つもない。全力で叩き潰しにかかったほうがまだ可愛いものだ」
現在アリーナはセシリアが支配している。
武装のいくつかを無くしたにも関わらず一夏を空間に縫い付けている。
加えてビットのエネルギー補充にも余念がない。1基ずつ、着実にプラットフォームに戻して射撃の圧を緩めない。
白式も悪い機体ではない。機体ポテンシャルは近接型にとって理想的な速さと細かさを持っている。
一夏も筋は悪くない。IS搭乗3回目、練習は1回しかしていないのに未だ生き残っている。
場数を踏んでいない。戦場を俯瞰出来ていない。技量が足りない。判断が足りない。武装の優劣が圧倒的。そしてなにより相手が悪い。
なにもかも足りていない。足りていないながらも一夏は片時も諦めていない。全力で、全開で、セシリアに勝たんと思考と身体を動かし続けている。
「いつもの癖がないことが救いだな」
「癖?」
「あいつは調子に乗ると左手を握ったり離したりするんだ。そういう時はいつも単純なミスをする。今は余裕がないからしていないだけだろうが。少なくともこの戦いは一夏にとって糧になるだろう」
「…………」
「どうした?」
「よく見てるなーって。流石ご姉弟、なんだかんだ言って仲が良いんですね」
「まあ、なんだ。あんなのでも私の弟だからな。これぐらい普通だ」
「気づいてます先輩。さっき織斑くんのこと名前で呼んでましたよ」
「っ!」
完全に無意識だった。これにはブリュンヒルデも硬直したのち頬を赤らめるというもの。
いつも冷静沈着クールビューティな織斑先生の珍しい一面を見てしまい、真耶はニンマリと笑った。
「あ、照れてます? 照れてるんですね! 織斑先生にもそんな家族愛なんてほんわかな一面があるとは思いませんでした。鬼の織斑先生も弟さんの前では形無しアタタタタタタ!!」
「私はからかわれるのは嫌いだ。家族関連は特にな」
「手を出してる時点で語るに落ちてテテテテテテテタァ!!」
「まだ言える元気があるようだ」
真耶に渾身のアイアンクローを叩き込みながら視線は変わらずモニターの方を向いている。
白式、そして雪片弐型。あれを作った製作者の意図を千冬は測りかねていた。
あんなリファイン版暮桜を一夏に渡して、あの気狂い兎は何を考えているのかと。
バススロットの容量が無いというのも気になる。暮桜の時はそんなことがなかった。設計ミス? そんな可愛いことを奴がするわけがない。
(白式……しろしき……白騎士……これは偶然か? 奴の腹の中には一体何が……)
「織斑先生……そろそろヤバイです。謝るので許してくだ……ガクッ」
「おっと」
ーーー◇ーーー
「よく耐えた方です。褒めて差し上げますわ!」
「褒めるか攻撃するかどっちかにしろー!」
未だ攻撃の波は変わらず。
途中ビットの補給で4基から3基に変わったことがあったがそれでも攻めきれず。剣を振るうこともないままレーザーをひたすら避け続け。危ないと思ったレーザーを雪片弐型で受け止めて防いでいたが、それでも当たるものは当たった。
良い知らせもある。
それは雪片弐型がただのブレードではないことだ。
何がきっかけかは分からないが、念じることで刀身が開いてエネルギーブレードを生やすことが出来るのだ……以上。訂正、これで何が好転するというのか。
もしかしたらブレード光波みたいに斬撃が飛ばせるのでは? きっとそうだ、だから近接武器1本しかないんだ! そんな淡い期待を込めて思いっきり振り抜いたが何度振っても念じても斬撃が飛ぶことはなかった。
手持ちでもいいから盾の一つでも持ってくれば良かったか。いや、白式は避けて斬る戦い方だ。中途半端に防御して止まったらそれこそ蜂の巣だ。
そもそも防御しながら戦うなんて出来るかわからん。
「ぬあっ! こんのー!!」
いよいよシールドが30%になった。
ジワジワと嬲り殺しにされてるこの感じ。セシリアが手加減している、なんてことはない。余裕がないのはセシリアだって同じだからだ。
だからこそ見ただけならセシリア有利でも、一つ何かが変われば天秤は逆転する。
セシリアは絶えず距離を離し、ビットによるクロスアタックで徐々に削る戦法を崩さない。
この状況を打破する手段が……一つだけある。
一度吐き出したスラスターのエネルギーを取り込み、次のブーストに上乗せする。ISのイメージと操縦技術の合わせ技で発動する高速移動。
練習では20回中1回しか成功せず、試合開始時になんとか成功した。
あの加速力があれば、セシリアの元に一気に行ける……とは思えない。
一度目は奇襲と奇策が同時に発動して通用した。二度目は必ず警戒されるだろう。
爆発的な加速を得られる瞬時加速には欠点がある。
それは移動中方向転換が出来ない事だ。それこそドラッグマシンのように直線勝負。無理に動かせば負荷による負傷、最悪骨折する。
つまり発動しても読まれた場合狙い撃ちされて終わる可能性がある。
あと一つ、あと一つ何かが足りない。
その足りないものは、自身の脳裏に掴みかけている何かなのだ。
「これでフィナーレですわ!!」
自機サイドに2基、離れたところから2基のビットからの一斉射撃。
雪片弐型でガードするが、防ぎきれる熱量ではない。これを食らえば負ける
「勝ちてえ……」
勝ちたい。これまで自分の為に教えてくれた2人に報いたい。
自分を応援してくれるみんなの期待に応えたい。
こんな未熟な自分にここまで本気で戦ってくれているセシリアに勝ちたい。
「勝ちてえ……いや、勝つんだ!!」
だから負けられない。
これをしのいで勝つんだ。しのげるかなんか知らない。とにかく勝つんだ!
「うおーー!!」
連なるレーザー。装甲を開いて展開したエネルギーブレードの一振りがレーザーとぶつかり。
霧散した。
「え?」
「なっ!?」
弾いたのではなく消えた。
気づくと雪片弐型が、いやIS全体が金色のオーラに包まれていた。
《ワンオフ・アビリティー【零落白夜】起動。エネルギー転換率90%オーバー》
「ワンオフ・アビリティー、零落白夜だって!?」
それはかつて姉のISが使っていた能力。
姉をモンド・グロッソ優勝に導いた、必殺の刃。
(まったく、俺は何処まで姉から託されたんだか)
だがこれなら勝てる。
この刃の前に、エネルギー兵器は役に立たない。
「行っくぜぇぇぇーー!!」
瞬時加速起動。狙うはセシリア・オルコットただ一人!
「迎撃!!」
4基のレーザービットからのレーザーが突進する白式に殺到する。
だがその全てを雪片弐型の一振りが消え去る。
霧散することでノックバックはない。瞬時加速の勢いを殺すことなくクロスレンジの間合いに踏み込んだ。
「そんな! まさかそれは……!」
「喰らえ!!」
「くうっ!」
苦し紛れにかざしたインターセプター。だが近接戦闘に置いて一夏に敵う筈もなく雪片弐型の袈裟斬りがブルー・ティアーズのシールドを霧散し、絶対防御の上を滑った。
セシリアの初被弾。だがシールドエネルギーは一気に8割も損失した。
のけぞるセシリア、だが攻撃は終わらない。雪片弐型を握り直し、一夏は最後の一撃を見舞う。
「俺の、勝ちだ!!」
刀が振られる。避けきれない、防げない。
負ける、その確信を前にセシリアは防衛本能で目をつぶった。
ビーーーー!
試合終了の音がなる。
《白式、エネルギーエンプティ。試合終了。勝者、セシリア・オルコット!》
セシリアの勝利によって。
「へ?」
「あれ?」
雪片弐型の刃は届かなかった。
当たる直前でエネルギーブレードは消失し、白式のシールドがゼロになっていた。
両者、いやアリーナに居る全員が唖然とした。
「あらーー」
「……はぁ……」
現状を察した男と姉を除いて。
ーーー◇ーーー
「…………」
「…………」
「俺の勝ちだ! で自滅エンドとは持ってるな一夏」
「ぐふぅ!」
俺が放った針の一刺しを食らい一夏は疑似吐血でくたばった。
その姿を箒と織斑先生は呆れ、セシリアは苦笑いし、山田先生はいつも通りオロオロしている。
結論から言おう。一夏は負けた。
あと一歩でセシリアに勝てた筈だがあと一歩、いや半歩足りなかった。
零落白夜。
ワンオフ・アビリティーであるその能力はエネルギー兵器の無効化である。
レーザーやビームのような光学兵器は勿論。果てはISのシールドエネルギーを素通りし、剥き出しの絶対防御に直接攻撃を与える必殺剣。
だがそのチート級の能力にはデカすぎるデメリットがあり、発動中はシールドエネルギーを直接ワンオフ・アビリティーの動力として使ってしまうということだ。
度重なる被弾で残ったなけなしのシールドエネルギーは零落白夜に吸い付くされてゼロ、一夏の負けとなったのだ。
「大きく持ち上げておいてこのざまとは。本当にお前は馬鹿者、いや大馬鹿者だな愚弟」
「ぐ、愚弟!? そんな言い方ないだろ千冬姉! あだぁ!!」
「織斑先生だ」
自分は弟って言った癖にぃ……という恨み節を見事にスルー。この姉容赦ないな。もう少し労いの言葉をかけましょうよ。
「えーっと織斑先生。結局あれは零落白夜で間違いない感じですかね」
「ああ、間違いない」
「
「何事にも初めてというのはある。今日がその日だということだ」
「その零落白夜のせいでバススロットが埋まったって訳ではないですよね?」
「それは知らん」
白式、それはジェネリック暮桜。いやこの場合はリメイク版暮桜と言った方が正しいのか?
とにもかくにも一夏はこれからなんちゃってブリュンヒルデとして戦っていかなければならないということになる。
前代未聞のワンオフ・アビリティー標準搭載型IS、白式。それを生かすも殺すも織斑一夏次第ということだ。
玄人向けなんてもんじゃねえぞ。せめてバススロットは空けとけよ。製作者はほんと馬鹿だな!!
「ISの待機形態移行も問題ないな」
「あ、ああ。あのISがこんな腕輪みたいになるとは」
IS、特に専用機は持ち歩き用にアクセサリーの形、待機形態として携帯出来る。
一夏の場合、白地に青と黄色の白式カラーの腕輪だ。ちなみにセシリアはイヤーカフス。
「現在エネルギー切れで出来ませんが、これから織斑くんが呼び出せば直ぐに展開出来ます。ただし規則がありますので参考書のページをちゃんと読むように。破ればとっても厳しーい罰則がありますので」
「は、はい……疾風」
「はいはい、ちゃんと教えてやるよ」
ISを持ち歩く。それは一歩間違えれば誰にもバレることなく大量殺戮の口火を切ることが出来るということだ。
専用機を持つ重要性、それをきっちり教えなければ。
「時間が押したな。織斑とレーデルハイトの対戦は明日の放課後に行う。では解散!」
「お疲れさまでした。わたくしは自室に戻りますが、疾風はいかがしますか?」
「俺は感覚を忘れないうちに一夏に復習させるよ」
「では先に戻りますわね。織斑さん、今日の試合には驚かされましたわ。まさかファーストシフトでワンオフ・アビリティーとは」
「こっちこそ。もし零落白夜が出なかったら一方的にやられていたぜ。負けたけど」
「筋は悪くありませんでしたわ。今後の活躍に期待致します」
「ああ、次は負けないぜ。オルコット」
「セシリアで結構ですわ。変わりにわたくしも名前で呼んでも?」
「良いぜ。よろしくなセシリア」
「こちらこそ、一夏さん」
ガシッと力強く握手する2人。
昨日の敵は今日の友。うんうん、テンプレートだがこういう展開は嫌いじゃない。実に良い。
……だから箒さんこんなことぐらいで嫉妬なんかするんじゃありませんよ。キリないからそんなんじゃ。
「んじゃあ部屋に戻る前にシャワー浴びるか。ISスーツのなかムレムレだわ」
「そうだな。箒、先に部屋に戻っててくれ」
「待て、私もシャワーを浴びてから一緒に戻る」
「え、箒って自室のシャワー以外無理じゃなかったっけ? それに男のシャワーだからこっちのほうが早いぞ」
「言ってやるな一夏。仲間外れが寂しい幼馴染の気持ちを組んでやれよ」
「チェ、チェストー!!」
「照れ隠しで振り下ろすなー!!」
ーーー◇ーーー
シャアァァー……
「フーー」
シャワーから出るお湯を全身に受け、身体の疲れとストレスを一緒に流していく。
シミ一つない肌は小気味よく水滴を弾き、そのボディラインに沿ってお湯が滴っていく。
英国の宝石とも言われるセシリアのプロポーションは頭から爪先にかけて全てが完璧だった。
同棲すらも見惚れる均整の取れた身体。これでも発展途上の15歳なのだから恐ろしい。
セシリアとしてはもう少し胸が大きければ最高だ。それでも日本女子と比べれば大きい方で、彼女の上は箒か山田先生ぐらいだ。あれを見た時は少しだけ圧倒されたのは秘密。
逆にお尻の方は充分育っている、しかしまだ大きくなりそうなのが密かな悩みである。
「……今日の試合」
今までにない熱を感じた。
疾風とのバトル。専用機でもない練習機にパッケージをつけた機体であんな戦い方を。
型にはまらない自由な発想。此処ぞというときに思い切りの良さ。そして狂気的なまでの勝利への執念。
もしBT適正値の上昇がなければ彼の槍は自分に届いて負けていた。
一夏とのバトル。彼の専用機は高機動近接型で刀1本、それも雪片弐型という銘を刻んだ刀。暮桜の真似事かと思ったらまさか零落白夜まで引っ提げて来るとは。
しかもたった一回の練習であそこまで動けるのは驚いた。疾風と違って知識も技量もない。だが爆発力は疾風以上だ。
どちらもセシリアの勝利で終わった。
だがどちらも一つボタン掛け違えれば負けていたかもしれない。
2人ともとんでもない原石。
うかうかしてたらセシリアなんて軽く飛び越せそうなぐらいだ。
「先の楽しみが増えましたわね」
最初はIS学園に入ることに懐疑的だったが、今は感謝している。
なにより疾風と再会できた。それが何よりも嬉しい。
「フフフッ」
そう、疾風だ。彼は自分との約束を忘れず、逞しく成長した。
今日のバトルの間、疾風はずっと笑っていた。ピンチの時も、チャンスの時も。あのバトルを思いっきり満喫し、負けた時でさえ笑顔だった。
このIS学園の誰よりもISが好きな疾風。
ああ、早く彼の専用機が来ないものか。またバトルがしたい。互いの専用機のポテンシャルを余すことなく発揮する熱いバトルが。
その瞬間が来る日が待ち遠しい。
そして逞しくなった。眼鏡もかけて雰囲気も変わり、男らしさというものが出てきた。
自身に満ち溢れたその立ち振る舞いは、以前の泣き虫の疾風と同一人物とは思えない。
男子三日会わざれば刮目して見よ、この国のことわざにそのような言葉があるが、今の疾風・レーデルハイトは正にそれだ。
「お父様とは大違い……」
セシリアの父は顔色ばかり伺う男だった。
母も、娘であるセシリアでさえも。ISが生まれてからはもっとだ。
気弱で、軟弱で、臆病。ISが生まれる前から、今の社会の大多数の男たちのような男だった。
セシリアはそんな父が嫌いだった。でも好きだった。やっぱり嫌いだった。
母は何故父を婿養子に入れたのか。どんなメリットがあったのか、そこに愛情はあったのか。
それを知る術は三年前の鉄道の事故で失った。
父と母を失い、否が応でも財産を受け継いだセシリアは戦った。
金の亡者どもを、親切心という仮面をつけてにじり寄る卑怯者どもを、清廉を装って自分の美貌と身体を目当てに這い寄る下劣な輩どもを。
自分は父とは違う、母のような立派な女性になると。将来は父のような男とは結婚しないことを誓った。
昔の疾風は父と仲が良かった。気弱同士うまが合ったのだろうか。
立派になった疾風は父のことをどう思っているか。
「ただいまー!」
「っ! おかえりなさい」
そんな疾風と一つ屋根の下とは。母が見たらどう思うだろう。
少なくとも良い顔はしないだろうが、今の疾風なら男として認めてくれるかもしれない。
「あれ、セシリアはまだシャワーか。洗面所入ってもいい?」
「どうぞー」
「失礼致しまーす。うわー見えないのに刺激が強いな。ここは地獄の国境線か?」
「私のヌードは高いですわよ?」
「一生かけても払えなさそうなので大人しくしまーす。というかそもそも見ないから」
冗談も言えるようになった。
少し、いや大分ギャグに走るのが玉にキズだが。
「あのさ、ちょっと相談があるんだけど」
「クラス代表のことですわね?」
「考えてることは一緒か」
「嬉しいですか?」
「嬉しいねー。ハハハ、一夏どんな顔するかなー」
すっかり悪ガキに育ってしまった幼なじみ。呆れる自分もなんだかんだ楽しみにしてるあたり案外同類なのかもしれない。
明後日のホームルームが今から楽しみである。
ガルパンの映画に初めて行くけど次は何時だ状態の仲間入りを果たしそう。どうも皆さん、作者のブレイブです。
私はまだ若いからいいけどもガルパンおじさんならぬガルパンお爺さんが生きてるうちは最終回頼むぞ運営!!
はい、今回は武装ハンデ状態本気モードのセシリアVSなんちゃってブリュンヒルデ強制プレイ練習一回済み一夏の対戦となります。
いやほんと初心者にあげるISじゃない白式。束ってやっぱ天才(馬鹿)ですね。主人公補正ないとやってられないよ一夏。
原作だと非ファースト状態の灰色式で27分粘ってるんだって、どんだけ遊んだのセシリア。むしろ27分かける方がむずいだろ。
今回は両者本気だとどうなるかという想定でやりましたが我ながら白熱しましたね。原作と同じ自滅エンドにはなりましたが。満足な出来だと思います。
今回のお話がよかったら高評価! コメントを宜しくお願いします!
次回疾風VS一夏ですが、ネタバレですが割愛します! 是非もなし! 次回もお楽しみに!