IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第17話【篠ノ之箒の焦燥】

(凄い、凄いぞ紅椿! この力があれば必ず!!)

 

 援護班の二機を置き去りに、紅椿はピンクの光翼を広げて目標に猛進する。

 猛烈な加速に目を瞬いた一夏は後続との距離が規定より空いていることに気づいた。

 

「ほ、箒。少し速すぎないか? このままじゃ疾風達の援護が」

「そんな悠長なことを言ってる場合ではないだろう。事は一刻を争うんだ、一秒でも早く方がついた方が良い」

「だけど」

「私と紅椿、一夏と白式。私達二人なら、どんな敵が来ようとも負けるはずがない! 疾風の援護など必要ないくらいにな!」

「ほ、箒?」

 

 普段とは全然違う箒の高ぶりに、一夏もより一層戸惑いを見せていた。

 箒と再開してもう3ヶ月。そして再開する前に過ごした間にも、ここまで高揚した箒を見るのは初めてだった。

 

「暫時衛生リンク確率、情報統合完了。目標の現在位置を確認。一夏、一気に行くぞ!」

「お、おう!」

 

 一夏が応じるのと同時に残った展開装甲をフルオープン、更に加速。

 視界に直線上の飛行機雲を形成する物体を目視で視認する。

 

「見えたぞ一夏!」

 

 考える間もなく福音の姿をハイパーセンサーが捉える。銀の名にたがわぬ白銀のIS。篠ノ之束が『白騎士』みたいだと呼称したのはあながち間違いではなかったのかもしれない。そして機体と一体化している特徴的な一対の巨大な翼。スラスターであると同時に砲台である【銀の鐘】

 もし斬る前に気づかれでもしたら対応が困難になる。

 

「加速するぞ! 目標に接触するのは十秒後。一夏、集中しろ!」

「ああ!」

 

 スラスターと展開装甲。もてる推進力を最大に使い福音に迫る。

 徐々に、福音と強襲班との距離が縮まっていく。

 箒の背中に掴まる一夏の白式が黄金色の光を放ち、零落白夜が発動する。

 紅椿は更に距離をつめるべく瞬時加速を持って一気に福音に肉薄した。

 直撃の間合い、当たるのを確信する。光の刃が福音のスラスターユニットと合わさる、その瞬間。

 

「なっ!?」

 

 福音はなんと、最高速度のまま反転。こちらに顔を向けながら後ろ向きの体勢で直角移動をした。

 

「一夏! このまま押しきるぞ!」

「ああ!」

 

 展開装甲の出力を調整して福音の後を追う。つかず離れず、先程から間合いに入っているのに一夏の零落白夜はギリギリ当たらない。

 

『敵機A、Bを確認、迎撃戦術に移行。銀の鐘(シルバー・ベル)マイクロミサイル(ハミングバード)。スタンバイ』

 

 オープン・チャネルから聞こえたのは抑揚のない機械音声。それは確かにあの銀の福音から発せられたものだった。

 一夏がエネルギーを気にしてか大降りの一太刀の隙を福音は見逃さず、スラスターの装甲がガパッと開いた。

 一斉に開いた翼から膨大な量の光の羽が撃ち出された。

 すかさずそれを避けようとするも、その光の羽のような弾丸は装甲にぶつかり、爆ぜた。

 

「くうっ!」

 

 その爆風の余波で紅椿に乗っていた白式が紅椿から離れる。

 立て続けに降り注ぐ銀の鐘、それに混じるようにホーミングしてくる羽型ミサイル(ハミングバード)で完全に紅椿と白式は分断された。紅椿の速度で零落白夜で切り込むことが出来なくなった。それはすなわち最初の作戦である一撃必殺の作戦は失敗になった。

 

(この爆発と範囲に加えてこの連射力、そして圧倒的な飛行性能。これが軍用とされているISの力か!)

 

 ここからは援護班の遠距離狙撃の支援の元に零落白夜を当てる作戦にシフトする。

 一夏は直ぐに後方の疾風に通信を送る。

 

「疾風、最初の作戦は失敗した!」

「了解。こっちは紅椿が予想以上に速くてそっちにつくのが大分遅れる。二人は攻めこまずに福音を足止めしておいて……」

「そんなの待っていたら福音が逃げてしまうだろう! 私と一夏だけで福音を落とす!」

「いい加減にしろ箒! お前達二人だけより四人で当たったほうが!」

「だったらさっさと来い! お前達が来る前に私達で福音を落としてみせる!」

「おいほう………」

 

 一方的に通信を切った箒。頭上に陣取っている福音を睨み付ける。

 福音はとにかく回避優先の動きをし、そこから爆発弾をこちらにばらまいてくる。

 弾丸一つ一つの命中制度は低いが、時にその中の数発にホーミング性能の高いマイクロミサイルが隠れていて、一夏たちは見事に翻弄されていた。

 

「一夏! 私が福音を追い込む! お前は隙をついて零落白夜を叩き込め!」

「待ってくれ箒! 疾風の言うとおり二人を待ったほうがいいんじゃないか?」

(また疾風か!)

 

 箒は内心で苛立ちを溜めていた。作戦が始まる前から箒はずっと心の内にあることが引っ掛かっていた。

 今の一夏は自分ではなく疾風を頼りにしているのではないかと。私では役不足なのでないかと。

 

「紅椿なら奴に追い付ける! お前は零落白夜を当てることだけを考えるんだ!」

「わ、わかった」

 

 今はやるしかないと一夏も割りきると箒は紅椿の展開装甲を再度展開、腕部の展開装甲を切り離してビット兵器として射出する。

 勢いに乗った箒が銀の鐘とハミングバードを掻い潜って空裂の斬撃ビームと雨月のビーム刺突で福音を追い込んでいく。

 

(銀の福音も化け物だが、紅椿も相当だな………!)

 

 福音も急転換と急加速を繰り返して降りきろうとしているが、出力では展開装甲を使用している紅椿のほうが上である。

 次第に紅椿の斬撃と射撃が福音を掠り始め、福音もビームショーテルを取り出して捌き始めた。

 

「そんな拙い剣さばきで、私と紅椿を止められると思うなぁ!」

 

 だが箒の鬼気迫る攻撃を前には有効打となり得なかった。

 ショーテルを弾き、段々と攻撃が福音に届いてきた。

 

(いける! 紅椿ならいける! 私と一夏ならやれる! やってみせる!!)

「La……♪」

 

 甲高いマシンボイス、一種の歌ともとれるそれを発した福音は、全方位に向けて爆発弾をばらまいた。

 

「そんなもの! 押しきってみせる!!」

 

 光弾の雨を紙一重で交わし福音に肉薄する。

 

「す、すげえ箒。俺もやらねえと! ………え?」

 

 一夏と攻めに転じようと突出しようとした瞬間、白式のハイパーセンサーがその場にあるはずのない物を捉らえた。

 

「はぁぁあああーーーっ!!」

 

 腹の底から力を引き出して紅の刃はついに白銀の肢体に届いた。SEに阻まれながらも福音がよろめき、辺り構わず銀の鐘を撒き散らした。

 だが、確実な隙が出来た。撒き散らされた銀の鐘も隙間だらけのまま。一夏でも容易に福音に

 

「今だ一夏! …………!?」

 

 福音に隙が出来たのにも関わらず一夏は海に落ちる爆発弾を瞬時加速で追い越し、零落白夜でそれを叩き斬った。

 

「何をしている!? せっかくのチャンスを!」

「船がいるんだ! 海上は先生たちが封鎖したはずなのに。密漁船かもしれない!」

「船だと?」

 

 紅椿のハイパーセンサーで海上の物体を写す。

 確かにそこには船があった。明らかに日本人ではない乗組員はこちらを見上げている。

 

「やつらは犯罪者だ! 構うな!!」

 

 降りかかる銀の鐘を避けながら一夏に叫ぶも、一夏はお構いなしに零落白夜で銀の鐘を防ぎ、密漁船を守りきった。

 

「何故密漁船を守った! 福音を仕留められる絶好の機会をお前は!」

「見殺しにしろと言うのか!?」

「当たり前だ!」

「なっ………」

 

 間髪いれずに返した箒に一夏は息を飲んだ。

 

「そんなものは守るに値しない! 巻き込まれて死んだとしてもそんなの自業自得……」

「ふざけるなよ箒!」

「!?」

 

 明らかに怒気を含んだ一夏の声に箒はたじろいだ。

 今まで無茶苦茶なことを言っても、朴念仁に怒って手を出した時でさえ怒らなかった一夏が本気で箒を叱ったのだ。

 箒自身は一夏に叱責を受けて頭の中が真っ白になっていた。

 

「どうしたんだよお前! 紅椿を手に入れてからおかしいぞ!」

「おか、しい?」

「あいつらは確かに犯罪者だ! だけど見殺しにして黙って見てるなんて駄目だ! そんなことしたら、きっと自分を許せなくなる! 箒っ! 力を手に入れて強くなって、弱いものが見えなくなるなんて。そんなのお前らしくねぇ! 俺の知る篠ノ之箒は、そんな軟弱な考えをする奴じゃない筈だ!!」

「っ!」

 

 どこかで薄氷が割れた気がした。

 どこかで蓋が外れる音がした。

 

 一夏に言われたことが箒の中に深く浸透する。箒の瞳は開かれ、銀の福音はまだ健在なのにも関わらず呆然と立ち尽くした。

 

(私は。ただただ嬉しかった。紅椿を与えられ、力を手にし。この作戦でも一夏と重要な役割を担った)

 

 カタカタと両の刀を握る手が震える。

 

(やっと、やっとお前の隣に立てたと思ったのに……これじゃ……駄目なのか? 私では力になれないのか? 私では役不足なのか?)

 

 箒の顔がISとは対照的に青くなる、息も上がり、瞳孔は開きっぱなしだった。

 

『お前ら何ぼさっとしてんだ!! 福音は目の前だぞ!!』

「「!!」」

 

 慌てて福音に目を当てるとすぐ目の前に福音の光弾が無数に迫っていた。避けられない。

 

「箒っ!」

 

 駆けつけようとする一夏の声が響いた。いかに白式の推力が強くても、とてもじゃないが間に合わない。

 箒は紅椿のレーダーが捕らえたこちらに急接近してくる疾風とスカイブルー・イーグル。次に気づいたのはこちらに向かってくる一夏と白式。そして銀の福音が放った大量の銀の鐘。

 

 このままでは一夏は間に合わず銀の鐘が命中し紅椿は戦闘不能になる。

 そうなればブルー・ティアーズを加えた残り三機で銀の福音を対処することになる。

 

 紅椿は突出した成果を上げれずに戦闘不能という事実が襲いかかる。

 それは断腸の思いで姉に賽を投げた箒にとって、自分は必要ではなかったという結論に至る。

 一瞬の間際、長考とも取れる箒のなかに残った言の葉が脳内に浮上し、埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワタシハイチカノトナリニイラレナイ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の羽が紅椿に降り注ぐ。次々と羽が爆ぜ、爆煙が箒を包んだ。

 思わず息を飲んだ一夏だったが、煙が晴れた中には、半透明の障壁に包まれた紅椿の姿があった。

 展開装甲の防御形態によるエネルギーバリア、箒は不動のまま福音の方に向いていた装甲を開いて銀の鐘を凌いだのだ。

 

「箒! 一旦下がれ! こっちから確認したけど紅椿のエネルギーがもう三割切ってる! お前の後は俺が引き継ぐ!」

「………じゃない」

「セシリアがくるまでお前は待機だ、お前はよくやった! だから」

「違う………私は」

「聞いてるのか箒! 今すぐ後退するんだ!」

「五月蝿いっ!!!」

 

 少女の叫喚に一輪の華が青い空に咲いた。

 

 紅椿の手足、ウィングスラスター。全身に備えられた展開装甲が一気に花開き、その姿は正に紅蓮の華。

 最大出力の展開装甲は先が炎のように揺らめき、荘厳な見た目と共に箒の心証を表してるかのようだった。

 

 花弁を広げた紅椿が福音に向けてかっ飛ぶ。

 

『対象Bの出力増大を検知、最大火力を持って迎撃する』

 

 福音は後退しながら銀の鐘とハミングバードを紅椿に向けてばら蒔いた。

 光の軌跡を描き、箒は福音を切り裂かんと鬼気迫る。

 

「私は役立たずじゃない!」

 

 空裂から放たれた斬波は福音からそれて雲を両断する。

 

「私はもう見ているだけの弱者じゃない!」

 

 雨月の刺突が空を貫く。

 

「だから!!」

 

 瞬時加速、展開装甲の上から上乗せされた紅椿の速度は紅い光を置き去りに福音へ飛ぶ。SEに当たる銀の鐘によるノックバックさえも突っ切り。弾幕を対に突破、その眼前に迫った。

 右手に握られた空裂が一際赤く輝き福音と箒の顔を赤に染める。

 

「私は今度こそ! 一夏の力に!!」

 

 紅の刀が福音に振り下ろされる。エネルギーを臨界まで纏った空裂。

 

 必殺の一撃。それは銀の福音のシールドエネルギーにぶつかり。止まった(・・・・)

 

「………え?」

 

 箒は呆気に取られた。零落白夜に届かなくても、圧倒的エネルギーを纏った空裂で切り裂いたにしては手応えが軽すぎる。

 箒は瞳だけを動かし、SEにぶつかった空裂を見た。

 

 そこには先程の赤金の輝きを纏った刀ではなく、元の鉄の刀身であった。

 左にある雨月も同様に光が消え、それと同時に紅椿の展開装甲も光をなくし、開いた装甲が閉じていく。

 

 エネルギー切れ。

 元の三割程しかなかった紅椿のエネルギーを惜しげもなく使い果たした末の残酷な現実。

 振り下ろされる寸前で光を失った雨月は元の斬撃の重さしか、福音のシールドエネルギーを削ることが出来なかったのだ。

 椿の花は、地に落ちた。

 

「きゃあっ!」

 

 当然その隙を見逃す福音ではなく、両手のビームショーテルを振るい箒を弾き飛ばし。

 これまでと同様に銀の鐘とハミングバードによる爆撃を紅椿に向けた。

 

「あっ………」

 

 眼前に広がる光に箒は恐怖を浮かび上がらせる。

 エネルギーを使い果たした紅椿は最新鋭、第四世代という力は残されていない。

 明確に浮かび上がる死のビジョンに箒は目をつぶる事で逃避した。

 

(一夏………私は………)

「箒ぃぃーー!!!」

 

 愛しく想っていた彼の声、固く結んだ瞳を開くと目の前には何時もと変わらない彼の顔が。

 

「ぐああぁぁぁっっ!!!」

 

 一夏の笑顔が歪んだ。

 気がつけば一夏が光弾を背中で受け止めていた。

 何十発もの光弾が一夏の体に突き刺さり爆ぜる。零落白夜を使った後のなけなしのSEは消滅し絶対防御を突破。アーマーを破壊し、一夏の肌が熱波で焼け。

 耳を塞ぎたくなるような痛烈な悲鳴に箒はようやく目の前の現実を直視した。

 

「一夏っ!?」

 

 一夏の体から力が抜け、箒にもたれかかった。

 

「一夏っ! 一夏ぁっ!!」

 

 炎に包まれた一夏を受け止め、共に海に落ちていく。落ちるまでに最後に見たのは、苦痛を受けながらも笑う一夏の顔だった。

 

(なんで、笑ってるんだ?)

 

 箒はそれを理解することができず、自分のリボンが焼ききれることに気づかぬまま大海原に落水した。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「ぐああぁぁぁっっ!!!」

「なっ………」

 

 亜音速で紅椿と白式を追いかけたスカイブルー・イーグルは対に三機を視界に捕らえた。

 展開装甲をフルに展開した紅椿の攻撃は寸でで届かず。銀の福音に落とされるのを待つだけだった。

 だがそれを阻止すべく一夏は残りのエネルギーを使って瞬時加速して割り込んだ。

 

 通信越しに響く一夏の叫びに全身が一気に冷える感覚におちた。

 白式から送られてくるデータから目を背けたかった。白式のSEは0、そこから一夏の痛烈な叫びを聴けば、自ずと彼の状態が見て取れる。

 白式と共に紅椿が海に落ちた。銀の福音は二人が落ちた海を見つめていた。

 

 全身の毛が立ち上がった。目眩がした。花月荘で興味を示した銀の福音に感情は反転して全てその銀の肢体に対する怒りに変わった。

 

「うあぁっ!」

 

 ラピッド・スイッチと見紛う程の早さで電磁加速長銃【ボルトフレア】をコールする

 

 ボルトフレア。

 既存のレールガンを手持ち用にするコンセプトで作られた。コンデンサーの変わりにイーグルのプラズマエネルギーを蓄積、圧縮して放つことで小型化に成功。

 

 イーグルの強化されたイーグル・アイと照準を接続。電磁加速された弾丸を銀の福音に発射する。

 福音は動かず、弾丸は福音の前を通りすぎた。だがヘイトはこっちに向けられた。

 

『新たな対象を補足。対象Cに設定。迎撃を開始』

 

 そうだこい、こっちだ、こっちにこいっ、こっちをっ! 

 

「こっちを向けぇぇっ!!」

 

 腹から来る恐怖を叫びと攻撃で誤魔化した。

 とにかく今はこいつを一夏と箒から引き離すことが先決。

 

 急接近してくる福音は銀の鐘を撒き散らしながら頭にくっついているマルチスラスターでカクカクと細やかに曲がって撹乱してくるが、イーグルの目がそれを見逃さない。

 回路を回せ、少しでも情報を、奴の動きを記録しなければ。

 

 戦闘のさながら送っていた紅椿へのホットラインがようやく繋がった。

 

「は、疾風。一夏が」

「箒か? 一夏がどうした、落ち着いて状況報告をするんだ」

「血が……血が出てるんだ、止まらないんだ……一夏が、私のせいで……私どうしたら……」

 

 先程と同一人物なのか? そう見間違うほどに箒の声はか細く、弱々しく、震えていた。

 

「箒、落ち着け、先ずは」

「だけど一夏が…一夏が」

「先ずは落ち着け! 箒!!」

 

 俺の大声に箒が通信越しに息を飲んだ。

 

「作戦は失敗だ、お前は一夏を抱えて花月荘に戻れ、お前にしか出来ないことだ、やれるな?」

「お、お前はどうするんだ?」

「俺はこいつを引き付ける!」

「む、無茶だっ。たった一機で」

「お前よりはうまく立ち回れる! さっさと行けこのノロマ! 一夏を死なせてぇのか!!」

「わ、わかった」

 

 センサーウィンドウの傍らで箒の紅椿が一夏の白式と共に海面に浮上した。

 箒の腕の中の白式はスラスターユニットは既に量子変換で消え去っており、残っているアーマーも僅かにしか残っておらず。

 見ないようにしても嫌でも目に入った紅椿とは違う【赤】に表情が歪んだのが自分でもわかった。

 

 そしてハイパーセンサーはそれとは違う物をとらえていた。

 

「イーグル、あの船との通信プロトコルを解析。それとボイスチェンジと翻訳プログラム準備」

 

 男性搭乗者がこんなとこに居ると知られたらいらん騒ぎになる。

 ジジっという音が鳴り、通信が開かれる。

 通信から怒声が鳴り響く、密漁船も状況を把握してられないのか引っ切り無しに男の声が聞こえてくる。

 

「そこの船、ここは禁止領域だ。これから送るルートを通って直ちにこの領域をされ」

「なんだお前は! なんでISがこんなとこにいるんだ!」

 

 キーを何段階も上げた声で注意を呼び掛けるもなんとも聞き耳を持たない。

 密漁船の乗組員は通信の向こうで騒ぐ。

 

 それに業を煮やした俺は威嚇がてら、船の真横にボルトフレアを撃った。弾丸は船すれすれの海面に当たって水柱が高く上がった。

 

「こちらはお前たちを沈められる権利を持っている。即刻立ち去れ、でなければ命の保証は出来ない」

「お前な、何を」

 

 もう一度水柱が上がった。船が揺れる揺れる。

 

「また撃ちやがった!」

「狂ってやがるぜコイツ!」

「ぐだぐだ言ってねえでさっさと指定されたルートを通りやがれこのボンクラども! さもないと俺がてめえらを鮫の餌にしてやる!! その汚ねぇケツさっさと間繰り上げて消えやがれ! 殺してやるぞ使い道のない粗◯ンどもがぁ!!」

「わかった! わかったから撃つなぁっ! うわぁぁぁ!!」

 

 ボイスチェンジャーで高音に加工された女の声から出るとは思えない粗暴な物言いと等間隔で撃ち込まれるレールガンに密漁船は泡を食ったように船を進めた。

 

「セシリア聞こえるか」

「はい、何かありましたの?」

「一夏がやられた、負傷している」

「何ですって!?」

「今箒が運んで花月荘に向かわせている」

「わたくしは二人をエスコートすれば宜しいのですか?」

「いやお前には別枠を頼みたい。作戦区域内で密漁船がいた。今からそっちに誘導するから先生達のところまで誘導してやってくれ」

「了解しました」

 

 よし、これで密漁船をこの場から引き離して思う存分動ける。さっきから射角に入らないように調整して動いている。クソっ! なんで俺があんな奴らのためにこんな気遣いしなきゃならんのだ。

 

「貴方はどうしますの?」

「俺はこれから福音とデートする」

「デートって。ま、まさか一人で福音を相手にするつもりですの!?」

「防戦ならなんとか立ち回れる。ここらへんで不明瞭なとこの情報も収集しときたい。それに」

 

 銀の福音がこちらの動きを計算したのか、絶妙なポイントに銀の鐘をばら蒔いてきた。

 避けるのが少し面倒な局面にボルトフレアをリコールしてもうひとつの新武装であるインパルスよりもサイズの大きい槍【ボルテック】をコールした。

 

 ボルテックの唯でさえ大きい穂先がスライドしてさらに伸長する。スライドした中から青白いプラズマが溢れ、そのまま大きくホームランを打つように何もない場所でボルテックを振るう。

 ボルテックの振るった範囲から広がるようにプラズマの網が空中に放り投げられた。

 電撃の網に絡め取られた銀の鐘は本体にたどり着くことなく爆破、網に引っ掛かる前に他の弾幕も誘爆し、網にかからなかった弾はそのまま俺の横を素通り。撃たれた36発の天使の羽は鷲がしかけた網に見事無力化された。

 

「イーグルと福音は相性が良い、これがね。下手に突っ込まなかったら俺でも充分対処出来る」

「本当に大丈夫ですの?」

「そんなに心配ならさっさとそいつら引き渡してさっさとUターンしてきてくれ」

 

 どっちにしろ、こいつを野放しに出来ないから誰かが釘付けにするしかない。

 増強されたパーツのお陰で俺も福音とドッグファイトすることか出来ている。

 

「……ご武運を」

「おう! 俺がこいつに惚れ込んで駆け落ちしないうちに成るべく早く宜しく」

「なっ、こんな時にふざけないで下さいまし!」

「わかったよハニー」

「誰がハニーですか! もうっ」

 

 通信がぶち切られた。ダーリンへこんじゃう。

 軽口を叩いてみたものの。いや叩きながらも

 

「少しでも気を抜けば死ぬな。これは」

 

 俺は一部も気を緩めてなかった、いや、緩められなかった

 降りかかる銀の鐘はボルテックのプラズマネット、時折えぐい角度でホーミングしてくるハミングバードはプラズマバルカンで撃ち落としている。

 だが、これは飽くまで相性だ。もしこの装備を持っていなかったら対処は出来ず俺は爆死している可能性も。

 

 先程見たボロボロの一夏の姿。ISの防御性能の高さがなければ間違いなく死んでいた。

 無事だろうか、わからない。ISの操縦者保護能力に期待するしかない。

 でももし。もし死んでしまったら。という考えが脳裏に過る度、操縦桿を握る手に力が入った。

 

 一夏がISを動かしたと知ったときは自分も動かせるかもと一抹の望みを持った。打ち砕かれたときには逆恨みもした。

 初めて会ったときはなんの警戒もすることなく握手求めてきたりして、同室でも以下同文。

 行きなり勝負を持ちかけられた時は嬉しかったな。最初の相手が俺と同じ男で、そういえば意図的に手加減しろと言われて結局使っちゃってラバーズ達にもみくちゃにされて。

 

 どうしようもない鈍感な感性には戦慄すら感じられた。それと同時にどんなことされても笑って受け止める凄い奴だということも。

 

 部屋に帰るといつも他愛のない会話とかISの話題で盛り上がった。

 雪片弐型とインパルスが打ち合う度に高揚感で白熱するほど打ち合った。

 まだ出会って1ヶ月。学園に男二人ということもあったが、俺と一夏は間違いなく親友と言える関係になっていた。

 

「Laaa……………」

 

 天から降りてくるような透明感のあるマシンボイス。

 様子を伺う為に上方に陣取って、無機質な仮面が俺を見下ろす。

 

 その唯一無二の親友を、経緯はどうあれコイツが海に落とした。殺しかけたのだ。

 一人で倒そうとは、倒せるとは思ってはいない。

 だけど今はその憎らしい羽を一枚引きちぎらないと、マグマのように煮えたぎる腹の下の感情が収まらない。

 

 ボルテックの柄を砕けるぐらい握り直す。

 機体出力があがり、イーグルの装甲に蒼白い稲妻がバチバチと巡り回る。

 

「行くぞ。ファッキン天使気取り」

 

 ボルテックの穂先をその顔面に向け。憎しみの眼光で悠々と浮かぶ銀の福音を貫いた。

 

「その翼、へし折ってやる」

 

 

 

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