IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第20話【第二次天使討伐作戦】

 

 

「あ、あー。テステス。こちら疾風、視界は良好。おーこりゃ絶景でございます。あ、通信聞こえてる?」

「問題ありませんわ、というか疾風少しは緊張感を持ちなさいな」

「失敬な、こちとら真面目ちゃんよ? ほれ見てくれ、この真面目に引き締まった顔を」

「見えませんわよ」

「こっち見ようとしてないよねお嬢、ハイセンの全方位視界も使ってないと見たぞ。まあいいや。こちらスカイブルー・イーグル。福音を目視、対象は自己修復中の模様、まだ動く気配はないね。傷は………あー、結構直ってるな、ギリギリだね」

 

 福音に傷を負わせてからかなりたつ。米国の修理用ナノマシンがどれだけ優秀か分からないが、確認する限り白銀の翼にはシミは見つからない。

 

「ブルー・ティアーズ、狙撃準備完了しましたわ」

「紅椿、配置についた」

「甲龍、何時でもOKよ」

「ラファール・リヴァイヴカスタムⅡ。準備出来たよ」

「シュヴァルツェア・レーゲン。設置完了までもう少しだ」

「お、オッケー」

 

 なんて声だ。さっきまで冗談を飛ばしていた自分の声がわかりやすいぐらい震えていたことに驚いた。

 心を落ち着かせる、自分はこの作戦の要。そして、確実に全員のナビゲートをこなさなければならない、半端ない重圧がのし掛かる。

 心臓が破裂するほど早鐘を打つ。腹の奥がキュッと冷えて息も少しだけ上がっている。

 一夏もこんな気持ちだったのだろうか。帰ったら聞いてみようかな。

 帰れたらだけど………

 

 落ち着かせようと念じても、どうにもならない。いや仕方ない、これだけはどうにも………

 

「けどさー、よくもまぁこんな作戦が通ったわよねー」

 

 そんな中、鈴の間延びした声が耳に届いた。

 

「勝てば大富豪、負ければ大貧民か」

「生き残ればの話だよ、それ」

「しかしあの教官を説得したのは見事だったぞ疾風」

「だそうですよ作戦立案者さん。わたくし達の命は貴方が握っていると言っても過言はありません。頑張ってくださいね?」

「え、ちょっと待って。言ってることは理解できるけど作戦は皆が一緒にっ、考えたものだろう? なんで俺だけの責任になってる?」

「わたくし達の命、貴方に託します」

「文字通りのはずなのに変に不安を煽られる気がするのはなんでかなぁ!?」

 

 後の始末を全ての俺におっかぶせるつもりかこいつら!? なんて薄情なのか! 

 

「落ち着きましたか?」

「え? ………あー、んー」

 

 気づけば。体の震えはだいぶ収まっていた。声を出してみたら、はっきりと出せた。

 

「指揮官たるもの、どっしりと構えてくれないと困るぞ」

「貴方が戦闘中に冗談を言うときは変に緊張してる時ですわ。新しい一面を見つけれましたわね」

 

 そ、そんなことないしー。軽口ぐらい出るしー。

 

 ん? 紅椿からプライベート・チャネルが。

 回線を開き、箒の顔が写された。

 

「どうした箒」

「疾風、礼を言いたい」

「ほんとどうした?」

「いや、さっき言いそびれたから。言わずにそのままなのは釈然としない」

 

 生真面目を形にしたような気難しい表情の箒、そこには慢心も増長も見られない。いつも通り、いやいつも以上に引き締まった表情だった。

 

「私は危うく道を踏み外し、本当に大切な物を手放してしまうところだった。ありがとう」

「わかってくれたなら。怒ったかいもあったよ」

「ああ………疾風。一つ聞いていいか?」

「ん?」

「お前にとってISは。スカイブルー・イーグルとはなんだ?」

 

 なにか。なにかか。

 

「相棒だな」

「相棒?」

「いつかISを駆ってモンドグロッソに行きたい。そんな夢の入り口に立たせてくれたのがコイツなんだ。夢のそのさきを叶える為に一緒に飛ぶ相棒、かな?」

「そうか」

 

 我ながらクサイことを言ってる感はある。だが紛れもなく事実であり本心だ。

 あの時グレイ兄に無理言ってコアをそのままにしてもらったのは本当に良かったと思える。

 

「多分お前以上にISに依存してる自信はあるぞ」

「ほんとか?」

「間違ってもISに乗らないなど言わないくらいにな」

「グゥ………」

 

 痛恨の一撃をくらって箒は沈んだ。

 紅椿のウィングが心なしか垂れたように見えた。

 

「とにかく! お前には返しても返しきれない借りを作ってしまった。少しでも返せるように、私はこの作戦で示すつもりだ」

「うん」

「だから自信を持ってくれ。お前は一夏の次に良い男だ」

 

 それはそれは、最大級の誉め言葉だね。胸が熱くなるよ。

 

「お待たせした。シュヴァルツェア・レーゲン・パンツァー・カノニーア。設置完了だ」

「データで見たけど、実物で見るとでかいわね。もうISじゃないわよそれ」

 

 福音から5キロ離れた小さな陸の上にいたラウラのレーゲンは、他のパッケージ装備の専用機と比べても大きく外見が異なっていた。

 

 八十口径のレールカノン『ブリッツ』を左右同時に装備し、それに反動に耐えれるよう、四機のアイゼン、そして対狙撃用物理防壁シールドを前方左右に配置。

 余りの巨大さ、そして反動制御故に機動性というものを廃止、ただひたすらに砲撃力を高める、ISというよりも一つの巨大な砲台。それがシュヴァルツェア・レーゲン専用砲戦特化型パッケージ【パンツァー・カノニーア】の勇姿であった。

 

「諸事情で途中船で運んだからな、その分機体接続に時間かけちまったな」

「だがそれに見合う働きをしてみせよう。では指揮官、頼む」

「軍隊長に指揮官言われるのは違和感しかないが。んんっ、よし」

 

 大丈夫、やれる、やれるさ。俺は一人じゃない。ここには覚悟を決めた頼れる仲間がいる。これほど心強いものはない。

 

「皆。今回は前回の作戦で一夏という突起戦力をかけた上での作戦だ。前回より難度の高い作戦になる。成功の確率も高いとは言えない。それでも、俺達にはやり遂げなければならない理由がある」

 

 遊びではない、文字通りの命をかけた作戦。それは全機体が競技用のリミットモードではなく制限解除されたアンリミテッドモードであることがそれを証明している。

 

「だからこそ、倒れた一夏の為にも。この作戦は必ず成功させる! あいつが起きるまでに、かたをつけるぞ!!」

「了解!!」

 

 全員の士気は充分。今度こそあの銀天使を、堕とす! 

 

「では。【第二次天使討伐作戦(エンジェル・ハント)】開始! ラウラ、派手に行こう!」

「了解。ドイツ式の祝砲を見せてやる」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ざあ……ざぁぁん。

 

「…………ん」

 

 何処か遠くから聞こえる波の音に一夏の意識が開く。

 

「…………ここ何処だ?」

 

 見渡す限りの青、鏡面のような湖か海もわからない場所に、ポツンとある砂浜の円の中で、一夏は横たわっていた。

 

「なんか、ウユニ塩湖みたいだな………ってあれ、何で俺こんなところに?」

 

 意識がおぼろ気だ。何故自分は寝ていたのか。それすらもわからない。

 思い出そうとするけど、どういう経緯でここにいるのかわからない。

 夢、にしては妙に現実味がある、不思議な感覚に一夏は辺りを見渡すが、水平線が目一杯にあるばかり。

 

(………………歩くか)

 

 立ち止まっても仕方ないと考えた一夏はあてもなく歩き出した。

 湖かと思っていたそれは水溜まりのような深さで、歩く度に波紋を広げていた。

 

「ーー♪ ーー~♪」

 

 歌が聞こえた。

 とても綺麗で、とても元気な、明るい歌声。一夏はなんだか無性に気になって、歌の方へと足を進める。

 さくさく……さくさくと、水を張った砂浜を踏み込む度に軽快に鳴る。

 

「~~♪」

 

 そこには少女がいた。

 白いワンピースに白い髪、その顔は被ってある白いハットで絶妙に隠されていた。

 少女は湖面に生えた小さな木に腰を掛け、こちらに目もくれずに歌い続けていた。

 

(ふむ……)

 

 一夏は何故だか声を掛けようと思わず、近くにあった流木に腰かけ、その歌声に耳を傾けた。

 

 

 

 

 どれくらいたっただろうか。いや、時間にしてそんなにたっていないのかもしれない。もしかしたら凄いたってたかもしれない。

 少女は突如歌うのを止め、乗っていた木から飛び降りた。

 バシャっと音を立てて少女は着地し、その足でこちらに向かってくる。

 

「こんにちは、織斑一夏」

「お、おう」

 

 まさか話しかけられるとは思わなかった一夏が驚いている間に、少女は一夏の隣に座り込んだ。

 

「………………」

「………………」

 

 暫しの沈黙、聞こえるのは風の音だけだったが、それが妙に心地よく感じた。

 

「ねぇ、織斑一夏」

「ん?」

「貴方は何故ここにいるの?」

「何故って。わかんね、気づいたらここに居たし」

「ふーん、それは。何故だと思う?」

「それは……その。夢……とか」

「夢、そう。君がそう思うなら。そうなんじゃないかな」

 

 そういう物なのだろうか。

 わからない。何故ここにいるのか。

 何か、大事な事を、忘れている気がする。

 

(……なんだっけ?)

 

 少女は流木から下り、元の場所に戻っていき。また歌を歌いだした。

 その歌は明るくて、透き通っていて、そして。

 

 何処か寂しく、悲しくも感じた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 自己修復の中で、胎児のような格好でうずくまっていた福音が突如横殴りに吹き飛ばされた。

 

『!!???』

 

 SEが削れると共に福音が自己修復行動から警戒行動、戦闘行動に移行する。

 

「初弾命中! 続けて砲撃を行う!!」

 

 それにたいして二門の大砲が続けざま砲弾を撃ちはなつ。撃つ度にアイゼンで固定されている地面に入るヒビがその威力を物語る。

 福音も直ぐ様ラウラのレーゲンに飛翔する。マルチプル・スラスターが、銀の鐘が。ラウラのブリッツの砲弾を掻い潜って肉薄しようとする。

 

(4000……3000……やはり早いな)

 

 あっという間に福音が銀の鐘の射程距離に到達する。

 同時にパンツァー・カノニーアのバレルシリンダーの弾も切れ、バススロットリロードで新たな弾丸が装填される。

 福音が銀の鐘を掃射、動けないレーゲンの物理シールドに突き刺さり爆ぜた。

 

 負けじとラウラも砲撃、福音は最小限の動きで難なく避けようと翼を傾ける。なんなく避けれる。

 それが通常の砲弾なら。

 

「一辺倒と思ったか、木偶が」

 

 福音の手前で弾けた散弾が、銀の肌に打ち付けられる。

 怯んだ福音に追い討ちとばかりに命中した砲弾が爆裂した。

 ラウラが超大型のパンツァー・カノニーアのパーツをバススロットにしまわないで携行した理由、それは学園の試作装備の中から同規格のキャニスター弾、グレネード弾頭をありったけバススロットで拝借した為である。

 

 福音は情報を更新しようと回避、銀の鐘をばら蒔いてラウラを牽制する。

 

「嘗めるなよ! その程度で揺らぐほど、私の愛機と祖国はやわではない!」

 

 対光学兵器処理が施されたシールドで銀の鐘を受け止めながらレーゲンの砲戦パッケージは三種の弾頭を巧みに使い分けながら福音を翻弄する。

 

 それに対し福音は大きく蛇行、砲の内側に切り込む為にビームショーテルを展開して瞬時加速

 パンツァー・カノニーアの物理シールドのほんの隙間、正面の間から見えるラウラに福音の刃が迫る。

 

「5秒後、セシリア!」

「宜しくてよ!」

 

 直後、ラウラの直上から落ちてきた一筋の青い光に福音は頭に直撃、

 ラウラの頭上に待機していたブルー・ティアーズによるステルスモードからの強襲狙撃だった。

 

 疾風の指示の元に打ち込まれたレーザーに誘い込まれた福音は分け目も降らずにレーゲンから離れようとするがその動きの揺れを見逃すセシリアではない。

 ビットに回すはずのエネルギーを全部ライフルに回された高出力レーザーが右腕のショーテルを溶かした。

 

「二人はそのまま撃ち続けろ、奴をポイントに誘い込む。鈴、シャルロット。準備して」

「おっけ」

「見えてるよ」

 

 縦横無尽に海原を駆け回る福音。狙撃手と砲撃手により超高速軌道になかなか移れない福音。

 なまじ両者の位置が離れてる分片方に集中するともう片方に撃ち抜かれる。

 福音は情報を整理して状況を更新する

 

『敵機A、Bの射撃パターンを計測………計測』

 

「──よし、鈴のほうに誘い込む。甲龍の高出力衝撃砲加圧準備」

「もうやってるわよー!」

「二人は誘導しろ、射撃位置をガイドする」

「「了解」」

 

 疾風とイーグルに示されたポイントを頼りに、セシリアとラウラが福音のルートをことごとく潰していく。

 福音も銀の鐘をバラまいているものの狙いがまともにつけれていないそれではそこまで効果が見込めない。

 銀の福音は自分が誘い込まれていると知らずに、龍のねぐらに向かっていく。

 

「福音の速度、パターン計測完了。鈴、そろそろくる。13秒後にポイントにぶちこめ」

「オーライ」

「………5秒前」

「そらいけぇ! 鬱憤バラシ!!」

 

 俺の合図で海面から炎が吹き上がり、福音に直撃する。

 それと同時に海の中から甲龍が浮上する。

 

「まだぁ!!」

 

 二門の衝撃砲と砲撃パッケージ【崩山】により増設された二門、計四門の衝撃砲が一斉に火を吹いた。

 放たれた弾丸は、過剰な空間摩擦により不可侵の透明ではなく紅蓮の如く赤く染まり、まるで炎を纏っているようだった。

 

 福音も迎撃するが、攻撃力と拡散能力に特化されたその砲弾の雨は福音の銀の鐘にも勝るとも劣らず、それは正に竜の伊吹。

 

「鈴、ヘイトを向けたまま移動開始。次のポイントに移行する」

「まだ当てたりないけど、了解」

「当てにいっていいよ。衝撃砲は不可視じゃなく高出力モードのまま。細かい軌道妨害は二人に任せろ」

「はいはい、やれって言われてもできないっつの」

 

 4門から断続的に放たれる赤熱衝撃砲、多種に渡る砲撃、直上から放たれる高速レーザー。

 徐々に形成される檻に防戦一方な福音はAIであるにも関わらず焦っていた。

 

『優先順位を変更、機体の保持を最優先。元空域からの離脱を最優先に』

 

 バラッと全方位に銀の鐘をバラまいて、スラスターを開いて強行突破を図る。

 

「シャルロット!!」

「行くよっ!」

 

 ステルスモードを解除したラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。

 瞬時加速を発動して福音に急接近、だが福音に察知され銀の鐘の光弾が瞬時加速中のシャルロットに迫った。

 

「甘いよ、その程度!」

 

 だがその羽は届くことはなかった。襲い来る爆裂弾はラファールの専用防御パッケージ、【ガーデン・カーテン】の緑色のエネルギーシールドに阻まれる。

 

 左手のシールドの前面が開閉し一本の杭が飛び出す。

 フランスの大手ISメーカー、デュノア社が誇る操作性と威力を両立した盾殺し(シールド・ピアース)。名称を【グレー・スケール】。

 

「一夏の仇ってねっ!!」

 

 第二次装備でも随一の威力を誇るカテゴリーであるパイルバンカーの先端が福音の背中に突き刺さり衝撃が爆ぜる。

 加えてリボルバー機構により連射可能なそれは続けて二撃目を叩きつける。

 

 最大六連撃が可能だが福音は全力でスラスターを吹かすことで三撃目を反らしてみせた。

 

「交代だシャルロット。射撃兵装で撹乱を」

「オッケー、腕の見せ所だね」

 

 リヴァイヴは後退、右手にアサルトライフル【ヴェント】左手にショットガン【レイン・オブ・サタディ】をもって射撃戦を開始。

 ラピッド・スイッチによって定期的に両手の武装を変えて撃つ。散弾かと思えば高速弾、単発かと思えばグレネード。それに気を取られていると三方向からまた別の射撃が飛んでくる。

 めまぐるしく変わる状況、次々と現れる敵対象に福音のAIは見事に混乱していた。

 

 四方のISに囲まれた軍用IS。

 アメリカとイスラエルの最高傑作は疾風を加えた5人の学生が作り上げた檻に封じ込まれつつあった。

 だが流石の銀の福音の性能。包囲網を構築されてもなお、その巨大なマルチプル・スラスターによる複雑な軌道で四人の攻撃を躱し、銀の鐘を撒き散らし続ける。

 

 しかし、途中から銀の鐘の射撃が止まった。

 エネルギー切れだろうか? と普通はそう考えてもおかしくないが、現場にいるISドライバー達は違うと確信していた。

 時間にしてたっぷり10秒、力の限り鳴らされた鐘が戦場に木霊する。

 

『エネルギー、フルチャージ。銀の鐘(シルバー・ベル)。理論最大稼働開始』

 

 銀の福音のマルチスラスターが目一杯展開され、フルで開かれた翼の合間、総勢36門の銀の鐘の発射口から、膨大な光が爆発した。

 36門から五連続、総勢180発の爆裂光弾はきっちり四人に向けて飛ばされた。

 

 それより早く飛んだ疾風の指示で各々が動く。

 セシリアはスターダスト・シューターの高出力レーザーを横凪ぎに掃射して数を減らしたのち離脱。

 鈴も同様にばら蒔いた後に海に着水して難を逃れ。

 動けないラウラを守るようにシャルロットがガーデン・カーテンに加え物理シールドを多重展開して防ぎきった。

 専用機持ちから逸れた無数の銀の鐘は海に着水し爆発、次々と水柱を吹き上げて水蒸気が辺りを満たした。

 

 最大出力で放った銀の福音のスラスターは冷却の為排熱。排熱が終わるまで福音は動くことは出来ても銀の鐘を使用することが出来ない。

 邪魔物を押し退けた福音は現状から逃れる度に再びスラスターを吹かして現中域を離脱しようとする。

 

 だが俺達がそれをさせない。

 何故ならこの時を待っていたからだ。

 

「セカンドフェイズ! 箒!」

「出撃する!!」

 

 セシリア達四機が形成していた檻から遥かに離れた場所、福音の索敵外で待機していた箒と紅椿か満を持して戦場に馳せ参じる。

 

 展開装甲を全開、瞬時加速を行う為に溜めていたスラスターエネルギーを全解放。

 一瞬で高機動パッケージISと同等の速度を叩き出した紅椿は赤い光を引きながら仇敵銀の福音に肉薄、文字通り一瞬で十数キロの距離を縮め、両手に握られた紅く輝くIS刀を福音の肩に速度を乗せたまま斬り込んだ。

 

 ギャリィィ! と鉄とSEがこすれあう音が静寂の海に響く。

 

(やれる! 行け! 押し込め! 斬り伏せろ! このまま翼をっ!!)

 

 衝突の勢いで檻を逃れようとした福音ごと移動している箒は福音の背中に取り付けられたバックパックユニットに接続された福音の基盤とも言えるマルチプル・スラスターユニットに向けて刃を滑らせる。

 

 あと少し、あと少しで接続部に雨月と空裂のどちらかが届く。

 そう思った瞬間、福音は信じられない行動に出た。

 

「なっ!?」

 

 今もなお食い込んでいる紅椿の刀をそのまま素手で握りしめて止めたのだ、AIではあり得ないような非生産的な行動に箒を含め全員が戸惑いを露にした。

 

 銀の鐘の砲門の一部が開き白く輝く。

 自身のSEと絶対防御が発動しながらも、紅椿の双刀を強く握りしめて逃がさない、このままゼロ距離で銀の鐘を撃つつもりだ。

 福音は銀の鐘の一部に冷却を集中させて稼働状態にした砲門を開く。無防備になっている箒に狙いを定めた。

 

 危機的状況に陥った箒、彼女は自分と対峙している物を正面から見た。

 無機質な仮面、感情なきAIはとにかく冷たく相手を倒す。

 本当にそうだろうか? 

 AIらしからぬその行動はなにかを必死に行ってるような、箒達に負けられない何かがあるのではないか。

 少なくとも箒にはそう写ったのだ。

 

(だがそれは私達とて同じこと!)

 

 箒の脳裏に、IS学園での一夏との出来事が鮮明に沸き上がった。

 

『久しぶり。六年ぶりだったけど、箒ってすぐわかったぞ』

『俺を信じろよ、箒。信じて待っていてくれ。必ず勝って帰ってくるよ』

『幼馴染みの頼みだからな。付き合うさ──買い物ぐらい』

『ま、待て箒! これは誤解だ!!』

 

 再会して嬉しかったこと、その背中が逞しく写ったこと、余りにも鈍すぎること、なんとも腹立たしかったこと。

 

 色んなことがあったがこれだけは確かだ。

 

(一夏と再会して、私はとても楽しかった)

 

 だが今彼は眠っている。目の前の敵の攻撃で、自分の不手際のせいで。

 

 銀の福音は箒に牙を突き立てる。ここで箒が倒れれば、学園側が圧倒的に不利に立たされる。

 

「ラウラ以外フォワード! 紅椿を福音から引き剥がせぇっ!」

「くっ、箒さんで射線が!」

「今いくよ箒!」

「間に合えーっ!」

「箒! 武器を離して撤退するんだ!」

 

 疾風、セシリア、シャルロット、鈴、ラウラ。

 皆の声が通信越しに箒の耳に入る。

 

(ここで引いて………)

 

 自分の欲の為に、あの姉に頭を下げてまで。

 自分のせいで一夏は今も眠っている。

 立ち上がった箒に皆が力を貸してくれた。

 

(なんのための………)

 

 箒はキッと福音を睨み付ける。福音はその翼にエネルギーを溜め、今まさに発射する体制に入っていた。

 

「なんのための力だ!!」

 

 箒の思いに答えるように、紅椿の爪先の展開装甲が開き、エネルギー刃を発生させる。

 箒は福音に思いっきり頭突きをかましてみせた。余りにも原始的な攻撃に福音は思わず刀を離した。

 

「ぜああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 自由になった箒。その場で一回転し、踵落としの要領で接続部にエネルギー刃を叩きつけ、ついに福音の片翼をもぎ取った。 

 

「ぐぅっ姿勢が!」

 

 ぶっつけのマニューバで機体がよろけるなか、もう片方の翼をチャージしていた福音は今も紅椿を狙っていた。

 

(避けられない!)

 

 紅椿はエネルギー節約の為に展開装甲のオートディフェンスをカットしている。

 即座に防御しようと思考するも、間に合わないという確信があった。

 

 だがその前に疾風の指令が全員の耳に届いた。

 

「サードフェイズ。スタート!」

 

 疾風の指示に、救援に向かおうとした鈴、セシリア、シャルロットは自身のバススロットから『青いビット』を取り出した。

 

 その『青いビット』はセシリアや疾風が使っている物より大型で、疾風のビークに形が酷似していた。

 

『青いビット』は出現するや後部のスラスターを爆発的に吹かし、猛スピードで福音に突貫した。

 

 福音が『青いビット』に気づき、銀の鐘を緊急停止させ、自身のマルチスラスターで回避しようとしたが、『青いビット』は獲物を逃しはしなかった。

 鋭角的に動く三機の『青いビット』は1つ、また1つと。瞬く間に福音を包む青白い放電球に変貌した。

 

【ラプター】

 

 スカイブルー・イーグルのパッケージと同時に開発されたビット兵器。

 対象に近づき、内蔵された放電ユニットをオーバーロードさせ。発生させた放電球で相手を拘束する。

 運用としてはビットよりミサイルに近い一回限りの兵装である。

 

 三機のラプターの放電球で発生させた高電圧は福音を完全に拘束し、僅かながら福音のハイパーセンサー能力を低下、一瞬のブラックアウトに至った。

 

『システムダウン、修正、システムリスタート。ハイパーセンサー、ブート』

 

 福音のハイパーセンサーが息を吹き返す。

 ほんの二秒の瞬き。一秒後に周囲の敵の場所を把握する。

 レーゲンは定位置から動かぬまま。他の四機も福音から離れている。

 逃げられる。福音は再び翼を広げ、現中域より離脱しようとした。

 

 

 

 遥か上空の夜空から、雲耀が降りた。

 

 刹那、残された福音の翼は稲妻に裂かれ、否、上から押し潰されるように崩壊した。

 

『!?!?!?!?!?!?!?』

 

 同時に膨大なプラズマ衝撃波が福音の装甲を殴り付け、福音のエネルギーを根こそぎ削り取った。

 

 福音の翼を砕いた『それ』はそのまま海面に激突し、巨大な水柱を上げ、下から福音を海水で殴り付けた。

 

 福音は理解できなかった。

 

 一時的にセンサーを無力化されたとはいえ、敵の攻撃になすすべもなく当てられるとは思わなかったからだ。

 増援の気配はなかったはずなのに──

 

 ──いやあいつだ。

 一度自分の翼を砕いた、雷を纏った空色のIS。あいつが、今──

 

 羽を失った銀の肢体はそれだけを理解し、海に堕ちていった。

 

 

 

 ──◇──

 

 

 

 何故疾風がその場に居なかったのか福音の位置と各々の位置を正確に把握し、なおかつ指示を出せたのか。

 

 答えは疾風が箒たちより遥か上、成層圏から全員と福音を見下ろしていたからだ。

 イーグルのイーグル・アイを更に強化する、高機動パッケージ専用強化ハイパーセンサーアダプター。

 本来のハイパーセンサーよりも遠くにある目標を正確に把握し動きを読むために特化した性能。

 

 箒たちの役目は福音の片翼をもぎ取り、疾風から受け取ったラプターで福音を拘束することにあった。

 そして成層圏からの瞬時加速、重力による過重、そして電磁エネルギーを纏った急降下強撃がもうひとつの片翼と残りのシールドエネルギーを削るという計画だった。

 

【インドラの矢】と名付けられた埒外と言える落下速度を誇る必殺の一撃。その速さ故に一度発動すれば狙いの修正は不可能。一歩間違えれば操縦者ごと真っ二つにしてしまう程の威力を誇る、条約違反スレスレレベルの危険な攻撃方法。

 普通なら絶対と言えるほど確率の低い攻撃方法。ましてや本体に直撃させず翼だけを狙うなど不可能の領域。

 他の専用機持ちは勿論、作戦内容を聞かされた教員、織斑先生からも「不確定すぎる」と一蹴された。

 

 確かに疾風も相手がAIでなければ無理だと一蹴しただろう。

 だが福音にはAI故の明確な弱点がいくつかあった。

 

 一つ目は『行動原理』

 

 福音のAIは暴走したが、なにも闇雲に暴れまわるほど本能で動いている訳ではなかった。というよりむしろ機械らしくロジックを元に動いている。つまり暴走状態でも、福音のAIには明確な指針があった。

 それは『攻撃してきた敵対対象の排除』、そしてそれより優先されるのが『銀の福音の生存と、安全の確保』

 

 前者は言わずもがな。後半だが、これは銀の福音が深追いはしないで危なくなったら必ず逃げようとし、追い詰められたら銀の鐘を全力でばら蒔いてから体制を整える。

 それが分かっていれば、人の意識が介在しない福音のAIの動きをある程度予測が出来るのだ。

 

 二つ目は『予想外の攻撃に対する反応速度の遅れ』

 

 最初の作戦で俺が放ったボルトフレアは福音に当たらなかったが。あれは単に当たってなかっただけで、福音は微動だにしなかった。そのあと福音は目の前に弾丸が通過してから気付いたように見えたのだ。

 現に次のセシリアの狙撃にはもろにくらった。

 つまり福音はレーダー範囲外、もしくはステルスからの強撃には反応が遅れる。

 ならなぜファーストアタックの零落白夜が当たらなかったのか。それは作戦前にラウラが言った通り福音は零落白夜、又はそれに類似する物の対策が万全だったと見ている。

 零落白夜と他の奇襲攻撃を見比べても、明らかに回避の制度が違いすぎたことがそれを証明してくれた。

 このことから福音は近接攻撃の奇襲に敏感だという結論に至った。

 

 そしてこれは補足だが、福音は前回の戦闘でビームショーテル一振り損失とハミングバードを全弾撃ち尽くしている。

 

 以上のことを踏まえた今回の第二次天使討伐作戦は以下の通り。

 

 1、箒以外の四機が福音の弱点を各々が持つ最大火力をぶつけ。入れ替りで対象を攻撃することで福音の情報処理能力に圧力をかける。

 2、福音が最大火力を放出後に待機していた紅椿が最大戦速で突撃、福音の翼の一つを破壊する。

 3、箒、ラウラ以外の三人が疾風から受け取ったラプターを発射、高電圧球体で福音を拘束。

 4、動きの止まった福音に対してインドラの矢で強襲、福音のもう一つの翼を破壊し戦闘不能にする。

 

 

 

 ルーキーが執り行うには余りにも難易度の高いミッション。

 だが疾風とイーグルの正確なナビゲート、皆とISの奮闘で、見事銀の福音を海中に堕としてみせたのだった。

 

 

 

 ──◇──

 

 

 

 疾風のインドラの矢が引き起こした海の波紋は未だ広がり、波を引き起こし、近くの小島を飲み込んだ。

 

「箒、大丈夫か?」

「ああ、私は大丈夫だ。それより福音はどうなった」

「疾風のインドラの矢が福音の片翼を破壊したのは確認できましたわ」

「てことは………勝ったの? 僕たち」

「疾風が福音のパイロットを回収するまで分からんが。おそらくは」

「………しゃあこらぁーー!」

 

 鈴の雄叫びを皮切りに皆が作戦の成功を喜んだ。

 疑いようもなく、皆が一丸となって掴みとった勝利である。

 

(やったぞ一夏。仇を討てたぞ)

 

 箒は花月荘で眠っている一夏を思って目を閉じた。

 彼女はようやく、自分自身を誇れる自分を取り戻したのだ。

 

「そうだ、本部に連絡いれないと」

「そうでしたわ。こちらセシリア、本部応答を。福音は無事に撃墜──」

 

 海の中にいる疾風の変わりにセシリアが応対する。連絡を心待ちにしている本部に通信を繋ぐ、もしかしたら一夏が目を覚ましているかもしれないという、淡い期待を持ちながら──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだっ!!」

 

 皆が安堵に包まれるなか、通信越しに疾風が叫んだ。

 勢いよく海から上がってきた疾風は箒たちと合流。その顔は皆とは違い、焦燥と恐怖に襲われていた。

 

「どうしましたの疾風? 福音は」

「まだ奴は生きてる!!」

「え?」

 

 疾風から告げられた報告に皆が対応に困っている時、空気が文字通り揺れた。

 

 その刹那。箒達の直下の海が吹き飛んだ。

 

「!?」

 

 それは嵐か、雷か。

 球状に蒸発した海は光の球体にえぐりとられ、水蒸気となって回る。

 

 その中心には翼を手折られた【銀の福音】が直立していた。

 そして背中に装着されていたマルチプル・スラスターの接続プラットホームが福音から切り離され、光となって消えた。

 

 その時、信じられないことが目の前で起こる。切断された羽の付け根から、蛹から浮かした蝶のように、エネルギーの翼が生えてきた。

 まるでそれが元々の姿、今までの鉄の羽は拘束具だったかのように。福音はその6対12翼の光翼を広げて顕現する。

 

 

 

 

 

 福音は翼を広げる、目の前の敵を屠る為に。

 

 

 

 

 

 福音は、歌う。

 

 

 

 

 

「キュアアアアァァァァァァァァァッッ!!!」

 

 

 

 

 

 大切な人を、守るために。

 

 

 

 

 




疲れた、そしてお待たせ。

どうにか原作と差別化しようと頑張ったけどこれが限界だった!すまぬっ!!

やっぱ情報処理役一人でも居たら違うよなって話

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