IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第22話【白雪を纏う】

「くぅ………ぅぅ………」

 

 エネルギーが切れた紅椿で突貫した箒はその弾雨の前に吹き飛ばされて岩場に倒れていた。

 

 上を見上げると、銀の祝福を広げた銀の福音がそこにいた。

 福音はエネルギー翼を広げ、こちらに砲撃体制を取った。頭上でエネルギーが回り始める。疾風を葬ろうとした、光の竜巻。

 

 逃げようと試みるもだが、その場から動けない

 徐々に大きくなるエネルギー球を前に箒は涙を浮かべた。

 

(ここで終わるのか。また、なんの成果もあげられずに………)

 

 巨大なエネルギーの塊がぽうっと輝きを増し、砲撃のカウントダウンが迫るなか、箒の頭の中にはただ一つの事だけが浮かんでいた。

 

(一夏に………会いたい)

 

 彼の顔が見たい。起き上がった元気な姿の彼が見たい。

 それが叶わなくても、声だけでも聞きたい。通信越しでもいい。最後に、彼の声が聞きたい。

 

(………駄目だな、それでは私の死に際を、一夏に聞かれてしまう)

 

 そんなことをすれば優しい彼のことだ、声を枯らすぐらいに泣き。福音に復讐の刃を向けるだろう。

 そんなことが起こってはいけない。復讐に堕ちる彼など。一夏らしくない。

 そう思うのは傲慢だろうか。

 

 だけど………それでも会いたいと願ったのだ。

 

「いち、か……」

 

 知らず知らず、その口からは愛しい人の名前を出していた。

 輝きが最高潮に達し、まもなく発射されることを理解し、箒は覚悟を決めてまぶたを閉じる。

 

 刹那、福音が爆炎に包まれた。

 

『?!!?!!!??』

 

 福音から竜巻が放たれるのと同時に福音が何処からか撃たれ、吹き飛ばされる。

 だが銀の祝福により産み出された光の竜巻は放たれ、箒を飲み込まんと向かってきた。

 

「うううぅぅぅおおおおおおおおお!!!!」

 

 何処までも響きそうな雄叫びと共に目の前に白が飛び込んだ。

 そしてその白は緑色の光の幕を展開し、福音が放った光の竜巻を霧の如く消し去った。

 

(な、何が起きてーー)

 

 ただ、戸惑う私の目の前にいるIS。見覚えがあり、なおかつ形の違うその純白の御姿。

 そのISの搭乗者は覚悟を持って叫んだ。

 

「俺の仲間は! 誰一人としてやらせねえっ!!」

 

 戸惑う箒の耳に届いたのは、さっきからずっと願い思って止まない。

 愛しき人の声。

 

 第二次形態移行(セカンド・シフト)した愛機、白式・雪羅と、織斑一夏の姿だった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 何が起きたのか、正直分からなかった。

 夢から覚めたと思ったら身体中の傷は塞がっており、白式も飛んでいる途中で姿が大きく変わった。

 

 だけどやることは分かっていた。

 真っ直ぐ、ただただひたすらに真っ直ぐ飛び。

 大切な仲間を、守るために。

 

 

 

 

 

「いち……か?」

「遅くなってごめんな。大丈夫か?」

「一夏っ、一夏なんだな!? 体は、傷はっ!?」

「なんともない。箒が無事でよかった」

「ば、馬鹿者………それは私の台詞だろうに……… 」

 

 ボロボロと大粒の涙が溢れ出る、腕を伸ばし、彼の顔に触れると、更に涙が止まらなくなった

 

「なんだよ、泣いてるのか?」

「な、泣いてなどいないっ!」

 

 何処まで強気なんだと思ったが。それでこそ箒だと一夏の頬が緩んだ。

 

「すまない、一夏」

「ん?」

「やはり私ではなんにも役に立てなかった。私は………駄目な奴だ」

 

 涙を強引に拭き取り、嗚咽を隠しながら言った。

 こんな弱音、言いたくないと思っていた。ましてや一夏の前でだ。

 それでも涙と共にこぼれ落ちてしまう。一夏が生きていた安心感も後押しして箒は吐き出す。

 

「今度こそ一夏の役にたとうと、皆の役に立とうした。だけどこの様だ。やっぱり私は……」

「そんなことないぜ箒」

「え?」

 

 涙を隠すのも忘れて箒は顔を上げた。そこにはいつもと変わらず優しい笑みを浮かべる一夏の顔があった。

 

「箒が役立たずなんて、そんなこと絶対にないぜ」

「なんでそんな」

「箒が頑張ってくれたから、俺が間に合った。皆も死なずに済んだんだ。それは、箒と紅椿のおかげって奴じゃないのか?」

「わ、私はお前の役にたてたのか?」

「ああ。ありがとうな、箒」

 

 変わらず笑みを見せてくれる彼に今度こそ箒の涙が溢れかえる。

 一夏がありがとうと言ってくれた。それだけで、箒の胸は一杯になった。

 

 絶えず涙を流す箒にどうしたものかと一夏は迷った。泣いたことを指摘すればまた泣いてないと言うに違いない。

 

「リボン、焼けちまったんだな」

「べ、別に問題はない」

「いや、俺のせいでもあるし。でも、ちょうどよかったかもな、はいこれ」

 

 一夏はバススロットにしまっていた白いリボンを取り出して渡した。

 差し出されたリボンに箒は目を白黒させる。

 

「り、リボン……?」

「誕生日おめでとう」

「お、覚えていたのか」

「当たり前だろ? あ、もしかして忘れてると思ってたのか? 酷いなー、箒は」

「そ、そんなことは……」

 

 7月7日、今日は箒の誕生日。

 何を渡せば分からなかった一夏は結局はシャルロットにアドバイスを貰ったのだが。色だけは自分で決めた。

 

 ザバッ! と海から福音が浮上する、水蒸気を纏いながら、その広げられた光翼が夜に写る。

 

「じゃあ行ってくる。まだ、終わってないからな。それ、せっかくだから使ってくれよ?」

「一夏………」

「箒達が繋いでくれた物、無駄にはしないからな!」

 

 言うなり、一夏は福音に向けて飛んだ。

 その速度は以前の白式より遥かに速かった。

 

「再戦と行くか!」

 

 雪片弐型を右手に構え、福音に向かって切りかかった。

 それを最小限の動きで躱す福音に対し、左手の新武装である籠手、【雪羅】を展開した。

 第二形態に移行したことで現れたこの雪羅は、状況に応じて三つのタイプを切り替える武装になっている。

 

 先程の福音を撃ち抜いた荷電粒子砲【月穿(つきうがち)

 銀の祝福を消し去った零落白夜のシールド【霞衣(かすみごろも)

 そしてもう一つは。

 

「間合いだ!!」

 

 一夏のイメージに答えるように、雪羅がガパりと開き、大きな手となる。

 その指先一つ一つから零落白夜と同じ光のエネルギー刃が出現する。

 

 雪羅、クローモード。雪片弐型とは別に零落白夜の刃を生み出す。

 突如出現した1メートルの光の爪に福音はシールドエネルギーで受け止めるも、その爪はシールドごと福音の装甲を切り裂いた。

 

『敵ISの情報を更新。攻撃レベルAで対処する』

 

 福音は急速離脱。エネルギー翼を広げ、福音は一夏に向かって掃射反撃を行った。

 一夏の視界いっぱいに広がる光の暴風雨。今の白式の機動力なら迂回してよけれないことはない。だが一夏は迷わず直進した。

 

「一夏!?」

「大丈夫だ! 箒!」

 

 雪羅を再びシールドモードに変形させ、迫りくる銀の祝福は霞衣の盾にあたって霧散した。

 零落白夜のシールド、それはすなわちエネルギーを完全に無効にする盾。霞に飛び込むように、衝撃によるノックバックはゼロ。

 速度を落とさずに白式・雪羅は猛進する

 当然エネルギー消費も激しいが、完全に無効化できる分。エネルギー兵器しかもたない銀の福音に対し、白式が武装面の完全なアドバンテージをとった。

 

『銀の祝福の無効化を確認、戦術パターンを変更。加速』

 

 福音は光翼全部をもってスラスターを吹かし、こちらを撹乱する。

 

「前の白式なら追いきれなかったけど。今の白式は違うぞ!!」

 

 強化され、2機から4機に変わった大型スラスターを備えた白式・雪羅は、瞬時加速の上の二段階瞬時加速(ダブルイグニッション・ブースト)を可能にしている。

 いくら福音でも、回避や攻撃での常時最高速度のブーストは無理なはずだ。

 一夏は福音に追い付き、その背中に荷電粒子砲を叩き込んだ。

 

『状況変化、再解析開始』

 

 再びおびただしい数の銀の祝福を霞衣で受け止める。

 横目で消費していくエネルギー残量をみる。

 福音に対抗は出来たものの。新武装と増えたスラスターで前よりも白式はエネルギーを消費するようになった。

 

「もたもたしてられねえ。速攻で落としてやる!!」

 

 再び雪片弐型を構え、福音に突撃した。

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

(一夏が駆けつけてくれた)

 

 心が躍動する、熱を持ち、跳ね上がる。

 そして戦う一夏を見て、箒は何よりも願った。

 

(私は、あの背中を守りたい………今度こそ、あいつの隣で共に戦いたい)

 

 強く、ただひたすらに強く願った。

 

 その思いに応えるように、愛機紅椿は脈動する

 エネルギーを失った筈の紅椿が展開装甲を広げ、赤い光と共に金色の粒子を溢れだした。

 

「これは!?」

 

 ハイパーセンサーからの情報で、機体のエネルギーが急速に回復していくのが分かった。

 

『ワンオフ・アビリティー【絢爛舞踏】発動。エネルギー、フルチャージ、完了

 展開装甲とのエネルギーバイパス構築、完了』

 

「これは、さっきと同じ?」

 

 疾風を助ける前に現れた金色の粒子。その時は一瞬だったが、今は紅椿を包み、金色の光が辺りを照らした

 まだ戦える。そう紅椿が箒に伝えてるようだった。

 

 箒は腕の装甲を解除し、一夏から貰ったリボンで髪を結った。

 

「ならば行くぞ! 紅椿!!」

 

 黄金に輝く深紅の機体は、白み始めた空を裂くように駆けぬけた。

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

「ぜらあああっ!!」

 

 零落白夜の刃が福音のエネルギー翼を切り裂いた。

 だが膨大な福音のエネルギーが瞬時に、その翼を修復した。

 

(やっぱ直接本体に当てねえと駄目か)

 

 福音もそれが分かっているのか、迂闊に此方に踏み込んでは来なかった。

 エネルギーはもう三割しかない。

 

 諦めるという考えは無かった。

 だが現実は刻一刻と俺の心を焦りに向かわせた。

 焦りから大振りになったその瞬間を福音は見逃さず、その翼を一夏に向けた。

 

「しまったっ!」

 

 だが福音の砲撃はまたも阻まれ、福音が海に落水する。

 福音にヒットした紅の光。それが何かを一夏は知っていた。

 

「一夏!」

「箒!? お前、ダメージは。それにその姿」

「細かいことは良い! それよりも、私の手を握れ!!」

 

 金色に光る紅椿の手と白式の手が重なる。紅椿の金色の光が白式の白い装甲に流れていく。

 繋いだ瞬間、一夏の全身に電流のような衝撃と炎のような熱が広がり、一度視界が大きく揺れた。

 そして三割を切っていたエネルギーが、瞬く間に満タンになっていった。

 

「な、なんだ? エネルギーが! 箒これは……」

「紅椿が応えてくれた。一緒に行くぞ、一夏!」

「おう!!」

 

 一夏は再び雪片弐型を握り、箒の背に乗った。

 

『対象のエネルギーの回復を確認。理解不能、理解不能。危険、直ちに現最大出力による排除を開始する』

 

 それに対し福音は白く輝く翼を更に輝かせる。

 バシュン! という一際大きい音と共に光の弾幕が此方に迫ってきた。

 

「箒! そのまま突っ込め!」

「わかった!」

 

 羽の嵐の中を、霞衣で受け止めながら直進する。

 そして嵐の間に隙間が出来た。

 

「今だ! 私が回り込む、止めはお前だ、一夏!」

「ああ、今度こそ決める!!」

 

 二機は左右からの挟撃にうつる。

 再び来る銀の祝福を大きく迂回しながら福音に肉薄しようと試みる。

 

「食らえ!」

 

 紅椿が放った雨月の射撃を難なくかわす福音。それでも箒は両の刀で振り、突きだし。福音の動きを掻き乱す。

 

「そこだぁ!!」

 

 僅かな隙を、と一夏は零落白夜を叩き込むも、福音の光の翼に阻まれる。

 光翼は目隠しとなり、零落白夜により翼は霧散するも本体には届かない。

 

「なにっ、うわっ!!」

 

 福音の蹴りが白式に打ち込まれ、すかさず残った片翼から光弾の雨が降り注ぐ。

 

(シールドモード、間に合うか!?)

 

 急いで霞衣を展開しようとした次の瞬間、青白い雷光が光弾の雨を凪ぎ払った。

 

「この電撃は………」

「なにまたぼさっとしてんだこの唐変木が!」

「その声は、疾風!?」

「私たちも」

「ここにおりましてよ!!」

 

 彼方から放たれた砲弾と青白いレーザーが福音の追撃を許さずと遮り、福音は一時的にその場を離れた。

 そして攻撃の先には疾風達五人のISの姿もあった。

 

「皆! 無事だったか!」

「なんとかね。箒も無事でよかったよ」

「すまない応急処置とパッケージ解除に手間取ってしまった」

 

 皆が戻るなか一番に飛び出したのは甲龍だった。

 

「一夏ぁっ! あんたなにのんきに眠りこけちゃってんのよぉっ! ぅぅ………」

「あらあら鈴さん、心配だったのはわかりますが、顔がぐちゃぐちゃですわよ?」

「心配なんか………心配……したわよ! しまくったわよ馬鹿ぁ!」

「ご、ごめんって」

 

 本当に無事で良かったと、一夏は心から安堵する。

 鈴が離れるのと同時に辛うじて空気を読んでいた疾風が興奮冷めやらぬ顔で白式・雪羅に乗っている一夏に詰め寄った。

 

「おい一夏お前。一度死にかけてから遅れて登場って。何処のヒーロー主人公だお前!? そしてそんなカッコよくなって再登場ってなんなんだよ、なんなんだよお前カッコいいなっ!!」

「褒めてるのかけなしてるのかどっちだ?」

「褒めてる! なんだそのスラスター! なんだその左腕! 足! 頭! カッコいいなこの白式ぃっ! だからちゃんと隅々まで調べさせなさい! じゃないと俺はお前に何をするか分からなオゥエフッ!」

「疾風。その白式はひとまず置いとくとして、今は福音をなんとかしませんと」

「せ、せめてデータだけでも」

「分かりましたわ、ね?」

「ハイ、スイマセン」

 

 ハァハァと息をあらげて詰め寄る疾風の暴走をセシリアが強引に止める。

 

『敵対対象の増加を確認、殲滅行動を続行する』

 

 こちらも空気を読んでくれたのか、それとも新たな敵に対して情報を纏めていたのか。こちらが一段落した後に福音が再び光翼を輝かせる。

 

「では作戦指揮官さん。よろしくお願いしますわ」

「了解。みんな、長丁場はこっちが不利だ。包囲して福音を拘束して、一夏がぶった斬る! 細かい詳細は随時指示する!」

『了解!!』

「それじゃ。散開!」

 

 疾風の号令で全機散開。包囲の時間を稼ぐために疾風が瞬時加速で福音に突っ込んでインパルスを撃ち込む。

 銀の祝福で迎撃する福音。イーグルのプラズマを前方に集中展開して防いでいる間に甲龍・崩山パッケージの砲撃体制が整った。

 

「さっきのお返し! 万倍にして返してやる!!」

 

 一時のチャージの後の甲龍のパッケージによる赤色拡散衝撃砲が一斉に飛び交い、福音のボディを叩いた。

 福音は標的を鈴に向け、銀の祝福を発射しようとする。

 

 背後から青い光弾が福音の翼を叩いた。

 

「お聞きなさい! 私とブルー・ティアーズが奏でる鎮魂歌(レクイエム)を!!」

「なにそのカッコいい決め台詞!」

 

 ストライク・ガンナーにスラスターとして接続されたビットの封印を解かれて飛来する。連続で飛んでくるレーザーを福音はなんとか抜け出そうとするも、そこに甲龍の衝撃砲が降り注ぐ。

 

「箒、切り込むぞ!」

「ああ!」

 

 二方向から紅椿とスカイブルー・イーグルが二機の射撃の合間を縫って肉薄する。

 その斬撃を避け、再び籠の中から脱しようとする福音。

 

「逃がさん!!」

 

 眼帯を解除したラウラのシュヴァルツェア・レーゲンから放たれた4つのワイヤークローが福音の右足に絡み付く。AICで自身を固定し、遠心力の要領で福音を振り回す。

 

「シャルロット!!」

「行けぇぇーーっ!!」

 

 振り回すワイヤーの軌道線上を向かいあうようにラファール・リヴァイヴカスタムⅡが肉薄、グレー・スケールの劇鉄を起こす。

 

 シャルロットは実体兵装のなかでの最強の一撃である盾殺しを銀天使の翼にめり込ませた。

 福音はそれに対しぶつかった光翼を自発的に爆発させ、炸裂装甲の要領で攻撃をいなす。

 

「デュノア社をなめるな! アメリカ!」

 

 だが今回はシャルロットが上手だった、翼が爆発する瞬間にラピッド・スイッチでガーデンカーテンのシールドを自身の回りに展開、同時に瞬時加速で爆風を置き去りにして福音のボディに杭を打ち込んだ。

 

 吹き飛ばされた福音は右足に絡み付いたワイヤーを装甲ごと切り離し、包囲網の穴である上空に直角に飛翔した。

 

『パターンセレクト、全方位に最大火力射撃を行使する』

 

 福音の機械音声がそう告げると、銀の祝福の光翼を自身の体に巻き付け、そのまま回転して球状の塊に変貌した。

 

 翼が回転しながら一斉に開き、無限の砲門から放たれた爆裂光弾が嵐のように全方位に降りかかる。

 福音は圧倒的物量で、場をリセットし、浮いた標的を各個撃破しようというパターンを選択した。

 

 だが、現リーダーである疾風は撃たれる前の僅かな時間のなかで対応、各所に指示を出した。

 

「ラストだぁ!!」

 

 疾風の号令で箒が一夏を支え、羽の射程圏から離脱。それを援護するべくシャルロットがパッケージを広げて受け止める

 残った機体は疾風のスカイブルー・イーグルを守護。持てる手で羽を迎撃し、自身そのものを盾として彼を守った。

 それは正しく肉壁の戦法だったが。疾風を信じて皆は疑うことなく指事に従った。

 

「ハイパーセンサーサーキット、フルドライブ、ルート確立、誤差修正。過剰負荷? ほっとく!! 銀の祝福の射撃時間終了予測、計算完了!! インパルスの内臓プラズマコア、オーバーロード!!」

 

 イーグル・アイからパチパチと火花が弾けながらも疾風とスカイブルー・イーグルは膨大な計算を纏めあげ、次の一手に繋げる。

 

 福音の全方位射撃が終わりを迎える頃、疾風を守っていたセシリア、鈴、ラウラは銀の祝福に吹き飛ばされ、残った羽がスカイブルー・イーグルに突き刺さり、爆ぜあがる。

 視界が爆煙に晒され、体勢を崩され、福音を見失う。

 だが、疾風は福音の位置データだけを頼りに残りの出力を槍を持つ右手に注いで、

 

「と、ど、け、えぇぇぇええええ!!!!」

 

 投擲。

 投げられたインパルスは撃ち尽くした羽の隙間を一直線に飛び抜け、福音のシールドエネルギーに突き刺さる。

 

 インパルスの中に凝縮された全てのプラズマエネルギーが急速にその中を駆け巡り、インパルスは先程のラプターの比ではない高電圧の放電球に変貌した。

 

 高電圧の檻により福音の動きが止まり、ハイパーセンサーが一時的にダウンする。

 

『ハイパーセンサー再起動、状況確認』

 

 僅か1、2秒で福音はセンサー復旧させ、視界をクリアにする。

 膨大な電圧の檻は先程の放電球より出力は上だったが持続時間が短く、福音のセンサーを麻痺したのは、ほんの一瞬だった。

 だが目まぐるしく変わる戦場のなかで、その一瞬は致命的な傷となる。

 

 センサーに反応、福音はその方向を向こうとした瞬間、爆発による海の水蒸気を切り裂き、白式・雪羅が銀の福音の喉元に喰らいつく。

 

「今度は逃がさねえぇぇぇっ!!!!!」

 

 一夏は雪羅をクローモードに展開し、その大きな手で福音を捕らえた。

 二段階瞬時加速で海の上を滑り、そのまま小さな孤島の砂浜に福音を打ちつける。

 

「うあぁぁっ!!」

 

 打ち付けられた福音は翼から銀の祝福を放とうとするも、一夏は雪羅から霞衣を零距離で展開して消し去る。

 雪羅で押し込んだ福音に右手の零落白夜の刃を力の限り突きつけた。

 膨大なシールドエネルギーに刃を突き付け、福音のエネルギーを減らし続ける。

 押されながらも一夏の喉笛を引き裂こうと、福音の鋭利な手が少しずつ一夏の首目掛けて伸びていく。

 

 その一方で、視界に移るエネルギーメーターの残量が28を切って、後数秒で0に変わろうとしていた。

 

(くそっ、届かねえのかっ)

 

 迫り来る現実に挫けかけた、その時。エネルギーメーターの数値が1で止まり、そのまま1・2・1・2と拮抗し始めた。

 同時に背中から暖かな熱と光が一夏と白式を包んだ。

 

「これは、箒っ!?」

 

 ハイパーセンサーのカメラで捕らえた後ろには絢爛舞踏を発動した箒が一夏の背に手を当て、エネルギーを送り続けていた。

 

「押し込め!! 一夏ぁぁぁ!!」

「っ!! ぅぅおおおおお!!!!」

 

 絢爛舞踏のエネルギーコネクトに後押しされ、再び最大出力で展開された雪片弐型の零落白夜を一気に押し込む。

 福音から伸びた手が一夏の首に触れようとしている。

 

「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 その爪の切っ先が喉笛に触れかけたところで、福音のシールドエネルギーにひびが入り、音をたてて砕け散った。

 シュュュンという音と共に福音の頭部バイザーから光が消え、頭から延びていた光翼が力なく地に伏せる。

 銀の福音は動きを停止した。

 

「はあ……はぁ、はぁー……」

 

 極限状態の反動が一夏にバックし。雪片弐型を杖代わりにして立つのがやっとだった。

 荒い息が肺から放出される。

 息が苦しい、呼吸が荒い、体が熱い。

 そのまま崩れ落ちそうになった体をーーーー箒のISの手が支えた。

 

「箒………?」

「立てるか?」

「ああ………」

 

 箒と紅椿に支えに立ち上がる。

 一夏と箒の目が交錯する。

 箒はバチリと合った目線に頬を赤らめ、そんな箒を見た一夏は気まずくなって顔をそらした。

 

 パッと背後が明るくなる。

 夜に突入していた空を、朝焼けの太陽が優しく一夏達を照らす。

 その太陽に五つの黒点が。

 

「福音の反応が完全に消失、てことは!」

「ああ、今度こそ私達の勝ちだ!」

「おいそんなフラグ言って大丈夫か? また第二第三の福音が的な感じでサードシフトとか」

「物騒なこと言わないで下さいまし!」

「てかあんたのその発言が一番のフラグよっ!!」

 

 先程死闘を繰り広げたとは思えない感じで、やいのやいのと通信越しで騒ぎ立てるメンバーに一夏は笑った。

 

「終わったな、一夏」

 

 箒の顔を見た。いつも仏教面な幼馴染みは微笑みを浮かべて一夏を見ている。

 箒の笑顔を見て一夏は胸が熱くなった。こちらに向かってくる皆も、また笑顔を浮かべている。

 照らされる太陽に移された一夏の顔も、また笑顔だった。

 

「ああ、やっとな」

 

 それが、織斑一夏が守りたいと思った、いつもの日常なのだから。

 

 

 


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