IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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セシリア誕生日おめでとう!!
アーンド、メリークリスマスイブ!!




第三章 【夏季休暇(サマー・タイム)
第25話【ティアーズ・コーポレーション】


 IS学園のカフェコーナー。ここでは紅茶、コーヒーは勿論、各国様々なスイーツが目白押しの、女子にとっては甘味とカロリーを摂取する場所。

 その一角で俺、疾風・レーデルハイトとイギリス代表候補生セシリア・オルコットがアフタヌーンティーを飲んでいた。

 

 セシリアは優雅に紅茶を楽しみ、俺はというと……なんか凡骨並みに顎を付き出していた。

 

「夏休み。それは全国の学生が待ちわびた休み天国ぅ、そして終盤には宿題地獄ぅ。夏休みとは二つのゴクを兼ね備えた、長期スクールバケーションのことであるぅ」

「何処見て言っていますの。後変な顔やめてくださいな」

地獄(へる)ぅ」

 

 福音事件からはや二週間。IS学園は夏休みスタート。

 多国籍ひしめくIS学園の生徒達は故郷に帰省したり、学園に在住したり、空いた訓練機に群がったりと。各々の休みを満喫している。 

 

「因みに俺はIS科目の宿題はもう終わらせました」

「早すぎません?」

 

 IS学園は世界最大のIS専門育成期間。当然ISに関する熱意は凄まじく、それは夏休みの宿題が通常一項目の2倍の量。

 夏休み前の復習だけでなく、夏休み後の予習も入っている圧巻のボリューム。

 

「三日前に終わった」

「本当に早くありません!? 渡された当日ですわよね!?」

「本当は寝る前に5ページぐらいで終ろうと思ってたんだけど……楽しくなっちゃって、アハ。気付けば深夜三時」

「貴方という人は本当にもう……」

「朝起きて終わったと言った時。一夏が俺を化け物を見るような目で見ていたよ」

 

 それはそうでしょうとセシリアは呆れながら紅茶を口に含む。

 アフタヌーンティースタンドから一口大ケーキを頬ぼって飲み込む。スコーン、お菓子、サンドイッチのタワーのお値段。なんと5000円。高い、だがこれでも安い部類というお嬢様談。

 

「で? なんだっけ。イギリスに帰るんだって?」

「ええ、学園に居る間にたまった仕事や、後……ISの稼働状態の確認や、オートクチュールのことなどを」

「どやされるんだろうなー可哀想に」

「言わないで下さいましー」

 

 ペターと机に張り付かずに済んだのは古きよき貴族精神の賜物だろう。それほどいまのセシリアは精神的にやつれていた。

 

 銀の福音との戦闘でブルー・ティアーズはものの見事に大破、高機動パッケージのストライク・ガンナーは頭部追加センサー以外ほぼ全損という相当な痛手をおっていた。

 企業戦士であるゆえに、勿論報告しなければならない。

 

 だが問題はその破損理由。

 機密作戦故に馬鹿正直に銀の福音と交戦して大破しましたなんて言ったら世界レベルで大騒ぎ。だが他のISとのトラブルとなるとそれはそれで両国の印象は悪くなる。

 そして苦渋の末の妥協案が。

 

「気分が上がって高機動行動下でビットパージしようと思ったら分離許容速度をミスって機体バラバラになりました。って流石に無理があるんじゃないか?」

「わたくしだってこんな馬鹿げた理由など出したくありません。でも他にありませんでしたのよ。苦しいですが」

「苦しいなぁ……」

 

 二人揃ってため息を吐いた。

 各方面の根回しも済んでるし、専用機持ちの面々にも箝口令を徹底している。

 しかし、仮にも代表候補生の期待の星がこんな凡ミスをしたなど、と思わずにいられなかった。

 セシリア・オルコットは実はドジっ子だったなんて評判がつくということになれば、目も当てられん。

 

「オホン。話を戻しますわ。わたくし、明後日にはイギリスに帰るのですが。疾風に提案があります」

「提案」

「疾風も一緒に来ませんか? イギリスに」

「ん? なんでまた」

「明後日は、両親の命日ですの」

「ああ、丁度明後日か」

 

 俺は口に持っていこうとしたミニチョコケーキを皿に置いた。

 

 今から3年前の8月半ばのイギリス。

 100人以上の死者を出した列車横転事故は当時日本でもニュースに取り上げられるほどの事故。

 その中に、セシリアの両親もいた。

 

 外出するときは一緒に居ることなど久しくなかったセシリアの両親。なんの目的で、何処に行こうとしたのかなどは不明。

 あの時は二人揃って葬式でギャン泣きしてたかな。

 

「それと、疾風にはわたくしがイギリスに滞在している間のボディーガードを頼もうかと思いまして」

「ボディーガードって。なんかあったの?」

「いえ、そういう事ではないのですが。近頃、欧州のIS業界で不穏な噂が耐えなくて。疾風もレーデルハイト工業から何か聞いてません?」

「……亡国機業」

 

亡国機業(ファントム・タスク)

 

 簡単に言えばISを使って行動する裏の秘密結社。

 

 発足は第二次世界大戦で生まれ、かれこれ50年は活動しているというのだが、これは実は定かではなく。何処の国の組織、又無所属の組織なのかはわかっておらず。詳細な情報はほぼ皆無と言える。

 

 そして、各々の国から試作ISを奪い、各国に被害を出している特一級の犯罪組織、最近ではアメリカの第二世代が奪われたと、工業経由で耳に入っている。

 

「親にも釘を刺されたよ。町に出るときも一応警戒はしとけって。成る程、だからか」

「ええ、普通のボディーガードを雇うより、ISを持ち歩ける人がそばに居るというのは心強いのです。勿論ボディーガードはついでで、本命はお墓参りですが。どうでしょう?」

「いいよ」

 

 一昨年は行けたけど、セシリアには会えず。去年の命日は親だけが行って、俺は日本に居たままだったからな。単純に外せない用事があったのだけど。

 顔を見せるという意味でも行っておきたい。ほんと、色々ありすぎたし。

 イギリスに居たときは色々に世話になったし。今年は会っておこう。

 

「決まりですわね。行きはわたくしのプライベートジェットで送るので旅費に関してはご安心を」

「サラッとプライベートジェット出せるとこ、お前ほんと金持ちよなー」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 イギリス、ヒースロー空港。

 飛行機から降りた時の肌寒さに身震いした。

 日本より緯度が高いイギリスは日本より寒い。

 日本の首都が軽く30度を越えるというのにイギリスは夏にも関わらず最高でも20度というこの格差。

 少し着ればなんとかなるこの丁度いい気温。こんな過ごしやすい気温が日本にもあればなー。

 

「お帰りなさいませお嬢様」

「ただいま戻りましたわ、チェルシー」

 

 空港の玄関口でセシリアの専属メイドでおり、彼女の幼馴染みでおるチェルシー・ブランケットの姿。

 空港という人が大勢いるなか、伝統的なロングスカートのメイド服は周囲から浮いてるように見えたが。その堂々とした立ち振舞いに思わず目を見張った。

 

「遠路遥々ご苦労様です。疾風・レーデルハイト様」

「お久しぶりです、チェルシーさん」

「おや。昔みたいに呼び捨てでも宜しいのですよ?」

「あいにく敬語を覚えてしまったもので」

「大人に近づいた証拠ですね」

 

 ニコッと笑うその姿に思わず胸が鳴った。

 それほど目の前のチェルシーさんは美人で、なによりメイド服というのがなんとも男心をくすぐった。

 

 俺がまだイギリスにいた頃、よく三人で遊んだ時が懐かしい。

 

「本日はボディーガードをお受けして頂きありがとうございます」

「ご期待に添えれるよう。微力ながら、頑張ります」

 

 差し出された手をこころよく握り返した。

 むぅん、近くで見るとやっぱ美人だなチェルシーさん。まだ俺ががきんちょの頃でもセシリアと遜色ない容姿をしてたっけ。

 

「疾風様。この度の臨海学校でお嬢様をお救いくださったこと。このチェルシー、感謝の心で一杯でございます。本当にありがとうございます」

「ングッ……」

「ンンッ……」

 

 二人揃って変な声が漏れた。

 

「どうかなさいましたか?」

「なんでもないです。まあ偶然俺が近くにいただけですので……」

「ご謙遜を。疾風様であれば、安心してお嬢様を任せられます」

「あ、ありがとう、ございまーす」

 

 実は。

 セシリアの被害報告には続きがある。

 

 セシリアが高速機動中に空中分解、それはすなわち墜落を意味する。

 そこで誰かが落下する彼女を受け止めた、ということにしなければならないのだが。

 

『疾風で良いでしょ』

 

 と、一夏ラバーズが口を揃えて言ったのだ。

 なんで俺なのかと口にすることすらはばかれる雰囲気にあれよあれよと話は進み。

 

 そんなこんなで。落下して危機一髪のセシリアを間一髪で俺が助けにいったという、なんとも劇的でヒロイックなシナリオが完成したのだ。

 正直、恥ずかしさと嘘をついている後ろめたさで一杯だった。

 母親にこの事を話したときなんて、もうおおはしゃぎ。

 

 目の前で笑うチェルシーさんになんとなく申し訳ないと思った俺は一気に話の流れを変えにいった。

 

「そ、それにしても相変わらず美人ですねチェルシーさん。メイド服が一瞬ドレスに見えましたよ」

「あらお上手。そういう疾風様もすっかり凛々しくおなりになられて。学園でもさぞ人気者でしょうね?」

「いやいや、一夏に人気が集中して俺なんてそんな見られてませんよ本当に。凛々しくなったなんて、眼鏡かけてるからそういう風にみえるだけですよ。外したらそれはもう只でさえ冴えない顔が更にみすぼらしい感じになりますって」

「あら、では私が疾風様にアプローチをかけても、望みはあるということですのね?」

「え? いや、それは……」

 

 先程より茶目っ気があり、身長差から自然と上目遣いになるチェルシーさんの魅力に思わずドキッとしてしまった。

 

「んんっ! チェルシー、余り疾風をからかうのはお止めなさい?」

「申し訳ありませんお嬢様。つい」

「疾風がいくらモテなさそうな外見だからってそういうことを軽く言うのは良くないと思いますわよ」

 

 おおっとぉ。唐突なディスりが入ったぞ? 

 疾風・レーデルハイト。泣きそう。

 

「お嬢様、失礼ながら申しあげさせていただきます……彼が魅力的な男性だと思ったのは本当よ、セシリア(・・・・)

「なぁっ!?」

「えっ」

 

 メイド口調から一転、突然現れた砕けた物言いに。俺とセシリアの胸が跳ね上がった。

 それは小さい頃俺達三人だけの時、一緒に遊んだときの彼女の素の口調のまんまだったのだ。

 

「表に車を待たせております。では参りましょう、お嬢様、疾風様」

「え、ええ」

「は、はい」

 

 ニコリとメイドモードに戻った彼女にものの見事圧倒された二人を他所に俺達の荷物を両手に歩くその姿は。

 何処か強者の装いを感じさせる、ロイヤルメイドの姿であった。

 

「相変わらず敵わないな、あの人には」

「……もう」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 リムジンに揺られて着いた先は巨大なビル。

 第三世代型ISブルー・ティアーズの開発元。【ティアーズ・コーポレーション】。

 

「こっちも流石にでかいよなぁ」

「レーデルハイト工業とティアーズ・コーポレーション。イギリスIS企業のツートップですもの。では、疾風も来てくださいな」

「はいよ」

 

 これから社長に会いに行った後にブルー・ティアーズを預ける。

 わざわざ無関係な俺が入るのは、先程の作り話の口裏を合わせるためだ。

 

「しかし、俺が入ってほんとにいいのかね」

「?」

「ここ、男性禁制って噂があるだろ」

 

 そう、この目の前にそびえ立つティアーズ・コーポレーションの中には、女性しか存在しない、らしい。

 IS業界のなかでもこの会社の女性優遇制度は高く、かわって男性は一切雇っていないと、母さんから聞いている。

 噂では結構な女尊男卑主義の巣窟という噂もあり。面接に伺おうとした新卒男性は会社の門すら潜れず、履歴書も即日返却どころか応答なしという徹底ぶり。

 

 現に、自動ドアの横に立っている女性ガードマンの目線がドギツイ。いやなんなのあれ、視線で人殺せるんじゃねーのあの人。

 

「問題ありません。社長にはアポイントメントを取ってあります。疾風が咎められることなど一切ありませんわ。一応、写真などの記録はお止めくださいな」

「分かってるよ、即捕獲されて裁判待ったなしな気がする」

 

 正直、入りたくないです。

 

「じゃあ入るか、いざ難攻不落の城へ……」

「はぁぁぁやぁぁぁてぇぇぇにぃぃぃいいっっ!!!!」

「あ? おぐふぉぉっ!?」

「えっ!?」

 

 突如どこかで聞きなれた声に向いてみれば横っ腹に弾道ミサイルが直撃。

 勢いを殺しきれなかった俺は衝突物ごと地面を滑った。

 

「疾風っ!?」

「え、なに? あれ、楓!?」

「ふぉぉーー! 疾風兄の匂いだぁ! スーハースーハースーハースーハー」

「待て待て嗅ぐな! 嗅ぐんじゃない! 離れろ!」

「いーやー!」

 

 衝突物の正体はマイシスター、楓・レーデルハイト。クリッとした可愛らしい顔は俺の胸元に埋まって離れない。

 現状を理解出来ていないセシリアは、呆然としたのちハッと我にかえった。

 

「あの、えと疾風? その子は?」

「楓、我が妹」

「え!? 楓さん? まぁ、大きくなりましたわねえ」

「感心してなくていいから、こいつ剥がすの手伝って」

 

 絡み付いたタコのように離れない楓を二人がかりでようやく引き剥がすことに成功した。

 引き剥がされた張本人はキッとセシリアを睨み付けた。

 

「私と疾風兄の相瀬を邪魔するなんて失礼にも程があるよ! オシリア・セルコット!!」

「オシッ!? わたくしはセシリア・オルコットです! どんな間違いですの!?」

「うるさい! そのどでかいお尻で疾風兄を誘惑したんでしょ! このデカケツ!!」

「ゆ、ゆゆゆ誘惑などしていませんわっっ!!」

「嘘だ!!」

 

 嘘じゃないぞ。セシリアが俺にそんなことするわけないじゃないか。

 ……ないったらないんだよ。

 

「とにかく誘惑などしていません。わたくしと疾風は清い関係です」

「んごぉほぉっ!? 既にその段階まで行ってるノォ!? 疾風兄と付き合うのは私よ!」

「違います! わたくしと疾風はそんな関係じゃ。というより親族のお付き合いこそ不埒では」

「知るかぁ! とにかく、疾風兄を惑わす売女は。この楓・レーデルハイトが駆逐してやる! うぉらぁー!!」

「やめろバ楓」

 

 ヒョイッと楓を持ち上げてセシリアから遠ざける。

 足が届いてない楓はパタパタと両手両足をブンブン振り回す。

 

「離してよ疾風兄! こいつ殺せないっ!」

「俺を殺人犯の兄にする気かお前は」

「だって疾風兄昔この人のこと!」

「楓、今すぐ大人しくしないとお兄ちゃん楓と縁切るからね」

「こんにちはセシリア・オルコットさん。今日は良い天気ですね」

 

 楓・レーデルハイトの特技、感情の高速切替(ラピッド・スイッチ)

 

 セーフ。楓が何を言おうとしたか検討もつかないが必ずしも状況を改善させる方向ではないのはたしかなので奥義発動。

 危うく黒歴史的ななにかが出てきたら俺の人生が危ない。

 

「んで? なんで楓がここにいる?」

「立派なリムジンだなーと思ったら中に疾風兄がいたから走ってきたの」

「どんな脚力だよ。てか一人かお前」

「ううん。お父さんいたけど置いてきた」

 

 父さんぇ……

 

「いやそうじゃなくて、なんで日本にいるはずの楓がイギリスにいるの?」

「お母さんの仕事ついでにイギリスに旅行に来たの」

「仕事?」

「うん。確かティアーズ・コーポレーション? だったかな? そこの社長さんと話があるんだって」

「なんだって?」

 

 俺はセシリアと顔を見る。彼女も初耳とキョトンとした顔。

 目の前にそびえ立つティアーズ・コーポレーション本社を見た。

 

「こん中に母さんが?」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ティアーズ・コーポレーション社長室。

 そこには出された紅茶を飲むレーデルハイト工業社長のアリア・レーデルハイト。隣には息子であり秘書であるグレイ・レーデルハイトがタブレットに目を通していた。

 社長室にブラックスーツを着た穏やかそうな女性が入ってくると、グレイはタブレットをしまった。

 ブロンドのセミロングに蒼い瞳、口許にはルージュがさし、アリアと同様に美人と呼ぶに相応しかった。

 

「お待たせしたわね、アリア」

「久しぶりフラン」

「ええお久しぶりね」

 

 フランチェスカ・ルクナバルト。

 ティアーズ・コーポレーションの社長。

 セシリア・オルコットの叔母にあたり身元保証人。セシリアの母親が経営していたこの会社の後釜。そして。

 引退したアリアに変わる、現イギリスIS国家代表である。

 

「ふぅ。あ、ごめんなさい」

「いいのよ。イギリス代表と社長の兼任なんて大変よね。わかるわー、私もそうだったから」

「今回はあなたの急な仕事が入ったから急遽予定を切り詰めたのよ」

「あら、わざわざありがとうね?」

「いいのよ。競いあった旧友との対談だもの……それより」

 

 穏やかに離していた彼女の蒼の瞳が一気につり上がった。その視線の先は、アリアの隣に座るグレイだった。

 

「何故ここに男がいるのかしら」

「息子のグレイよ、格好いいでしょ」

「出てって」

 

 朗らかに話すアリアの言葉を冷酷に、冷徹に切り捨てた。

 先程の穏やかな雰囲気とは打ってかわって。その顔は憎悪と拒絶に満ちた眼差しをグレイに向け、彼女は思わず鳥肌のたった腕を抱いた。

 

「相変わらず男嫌いは治っていないのね」

「治るわけないでしょ。男なんてどれも低俗な生き物。歴史上数々の愚行を犯した低能な人種なのよ?」

「あらあら親の前でよくもまぁツラツラと」

「そんなの関係ないわ。今すぐ出てってくれる? ここは男性禁制の会社なんだから」

「それは無理よ。彼は私の息子であると同時に秘書なのだから」

 

 苦虫を潰したような表情を隠そうとせずにフランチェスカはポーカーフェイスを貫くグレイから視線を離した。

 とりあえず納得はしたようだが、その表情は優れない。

 対するアリアは人の良い笑顔を崩さずに続ける。

 

「そんなこと言ってちゃずっと独身よ」

「するつもりもないわ、そんなおぞましいこと。あんな人と結婚なんかするから、ソフィアさんも変わってしまったのよっ」

「あの人なんて言わないの。実のお兄さんでしょう?」

「あんな人兄でもなんでもないわ!!」

 

 叫んだ彼女に目を見開いたアリアを見たフランチェスカはハッとした。

 公的な会談の前で熱くなりすぎたフランチェスカは流石に押し黙った。

 自身の心をクールダウンすべく紅茶を口にする。

 

「その男のことは、まあ許します。では」

「ええ、本題と参りましょうか」

 

 さっきまでのほんわかした雰囲気から一転。レーデルハイト工業社長であるアリア・レーデルハイトは鞘から刀を抜くように、自らの空気を変えた。

 対するフランチェスカも背筋を伸ばして目の前の相手を見据える。

 

「今回は正式にティアーズ・コーポレーションと契約を結ぼうかという話ね」

「ええ、この話題は何回目かしらね」

「今まで私の会社とかたくなにコンタクトを取らなかったあなた。大方、私の会社は男性従業員が多くを占めているからよね?」

「そうよ、IS企業にISを動かせない男を入れるなんて、正気の沙汰ではないわ。そんな会社と契約してうちに悪影響がでかねないわ」

 

 男性従業員が多く占めるレーデルハイトと、男性がいないティアーズ。

 IS業界では真逆の立ち位置である両社。

 何度もアポを取ってきたレーデルハイト抗議に今まで不可侵を貫いたティアーズ・コーポレーション。だが今回は門を自ら開けたのだ。

 

「だけど今回はあなたからアポを取ってきたわ。私としては嬉しい限りだけど。なにかあったのかしら?」

「それは、そっちには関係ないことよ」

「今までこっちのアプローチにそっぽ向いておいての今回の心変わりよ? 何故そうなったか聞いてみても良いじゃない?」

「単に状況が変わったのよ」

「状況、ねぇ……」

 

 シンと静まり返る社長室。両社長とグレイが平静を保っているなか、ティアーズのほうの秘書は書類の入ったファイルを胸に抱いてこらえていた。

 それほどこの社長室の空気は張り詰め、重苦しかった。無表情を貫いているグレイも、内心でさヒヤヒヤしている。

 

 息苦しい空気で詰まった風船のような状況に剣を突いたのは、アリアのほうだった。

 

「当ててもいいかしら?」

「そんなことしても無駄よ」

「釣れないこと言わないで。そうねー、うちの息子がIS動かして慌てた? いや違うわね、それなら織斑一夏で行動を起こすし。あ、お宅のセシリアちゃんが原因? ううん、これも違うわね」

「もういいでしょう。了承するなら書類にサインを」

「待って待って、あと一回だけ言わせて頂戴」

「はぁ……好きになさい」

 

 昔の友人の奔放さに振り回されて目頭を抑えるフランチェスカに申し訳なさそうに笑うアリアは、ラストアンサーを述べた。

 

「製造中の新型ISが強奪されたとか」

「っ!!」

 

 凄まじい切り口にフランチェスカは思わず立ち上がった。

 対してアリアは差し出された紅茶を優雅にすする。

 

「正解みたいね。あなた昔から隠し事苦手よね」

「なんで知ってるのよ。まさか、あなた達が私の製品を!?」

「それは筋違いよフラン。私は今の世界情勢を整理して仮説をたてただけ。確証なんてなかったけど」

 

 やられた。フランチェスカはなんとか悟られまいと奥歯を噛みしめる。

 今回の会談は書類のサインと同時にどちらが利益的なアドバンテージを取れるか損得勘定を話し合う為のもの。

 今現在の優位は秘密を握ってしまったレーデルハイト工業。フランチェスカは自分の迂闊さに罵声を浴びせたかった。

 

「あ、でも勘違いしないでね? 別にそのことであなたより上に立とうとか、それをネタに脅そうなんて砂粒一つ考えてないから」

「白々しいわね」

「ごめんなさいね? どうしても知りたかっただけなの。だって、私のレーデルハイト工業も危ないもの。それに、今回の主犯の検討は大方ついてるでしょう? 亡国機業(ファントム・タスク)、今欧州で次々と被害報告が上がってるテロ組織」

「そこまで知ってるのね」

「うちは情報網が優秀だから」

 

 レーデルハイト工業の特色の一つである、企業ネットワーク。

 他のジャンルとは天地ほどの激しい競争社会の中で彼女は情報を武器にここまで成り上がったのだ。

 

 先程スクープをネタにしないとはいえ、それでも弱味を握られた。

 だがそこのところ誠実な彼女のことだから言わないと言えば口外することはまずないだろう。

 それでもフランチェスカの内心は穏やかとは程遠かった。

 

「社長、失礼します。セシリア・オルコットと疾風・レーデルハイトがお見えです」

「え、疾風? 疾風がここに来てるの?」

「ええ、今回の臨海学校の件で少し」

「ああ聞いたわ! うちの息子がおとぎ話のようにセシリアちゃんを助けたのよね」

「……」

「行ってもいいわよ? その間に考え纏めといてね?」

 

 アリアの言葉に眉間に指をあてるティアーズ・コーポレーションの社長フランチェスカ・ルクナバルトはセシリアと疾風を応接室に入れるよう連絡する。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 案内された応接室で最初に感じたのは寒気、そのあとは自分の体に刃物が刺さったような錯覚。

 

 よろけなかったのは一重に俺のメンタルが強靭だったからか、それとも傍らにセシリアが居たからか。

 それほど目の前に立っている。現イギリス国家代表の目線は鋭く、険しかった。

 母さんの後釜であるイギリス代表に生で会えるという淡い期待は、彼女と対面して跡形も残さず消え去った。

 

「ブルー・ティアーズ操縦者。セシリア・オルコット、ただいま戻りました」

「ええ、おかえりなさいセシリア」

 

 フッと空気が僅かながら緩んだ。

 敵意を向き出しにしていた社長はセシリアに向くなり同一人物とは思えない程にこやかに笑みを浮かべた。

 

「叔母様、申し訳ございません。折角頂いたオートクチュールを」

「いいのよ、あなたにケガがなくてなにより。ストライク・ガンナーの耐久性を再確認したと思えば。データもちゃんと取ってきてくれたのだし」

「はい。ありがとうございます」

 

 ホット胸を撫で下ろすセシリア。

 いざこざや、トラブルか起こらなくてほんとなにより。

 問題は……

 

「それで。何故お前のような男がセシリアの隣にいるのかしら」

「えと、今回のトラブルの証人として」

「そんなのは結構。どうせ今回の演習ではビデオログは取れない決まり。あなたがここに来る理由など一つもないわ」

「まあ、そうですね」

「それともなに? セシリアを助けたから報酬でもねだりに来たのかしら? とんだ愚か者ね。男が女のために動くのは至極当然のこと。たかがISを動かせたぐらいで自惚れないでちょうだい」

 

 目まぐるしく浴びせられる罵倒に頭がくらくらする。

 俺ひとっつも悪いことしてないのに何故此処まで言われなきゃいけないのだろうか。

 しかもアポ応じてくれたんだよな?酷くない?余りにも。

 

「叔母様、彼は今回わたくしのボディーガードとして同行してもらっています」

「ボディーガード? ボディーガードなら私が用意をしたのに」

「彼は専用機を持っています、腕も確かです。今欧州で起こっている様々なトラブルが横行するなか、わたくしのような者が丸腰で街を出歩けば格好の的です」

「だからって。だからってあなた、よりによって男なんかを」

「叔母様」

 

 目の前の社長を遮ってセシリアが前に出た。

 俺にはその背中がいつも以上に凛々しく、そして大きく見えた。

 

「疾風は叔母様が思うような男とは違います。それに、彼はわたくしが知るIS乗りのなかでもっとも信頼にたる人物です」

「セシリア……」

「彼はわたくしがISに乗る切っ掛けと目標をくれた大切な人です。叔母様、わたくしの親友を必要以上にけなすのは止めてください」

「なっ!?」

 

 姪の思わぬ反論に社長は目を見開いて震えた。

 自社の期待の星のセシリアを見る社長の目は、まるで見たことのない物を見るようで。

 

「これから開発ラボにブルー・ティアーズを預けた後にお墓参りに行ってきます」

「え、ええ」

「では失礼致します。行きましょう疾風」

「あ、ああ。失礼致します」

 

 セシリアに促されて応接室を出て、残されたフランチェスカ社長は椅子に座り込んで手で顔を覆った。

 

「……疾風……レーデルハイト……」

 

 彼女の口から絞り出されるように男性IS操縦者の名前が出る。

 その声色は聞くものを畏怖させるような怒りに満ち満ちていた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ブルー・ティアーズを預けた後、表で待っていた楓と父さんに別れを告げてリムジンに乗りこんだ。

 別行動と言われて文句ブーブーの楓を父さんが抑え込んでいるうちにそそくさとその場を後にした。

 

「あーー」

「大丈夫ですか疾風」

「なんとか、てかなにあの人。怖すぎ……あ、水飲んでいい?」

 

 ティアーズ・コーポレーションが見えなくなると共に超高級な座席に全身を預けた。

 カラカラに乾いた口のなかに水を流し飲む。

 

「てか俺、入る必要なかったよな」

「ごめんなさい疾風。叔母様の反応を予測できなかったわたくしの落ち度ですわ」

「いや別に謝らなくていいけど。てかあれか? 俺に文句言う為だけに会社に入れたのか?」

「あそこまでとは、流石のわたくしも驚きましたわ」

 

 セシリアが間に入らなければ、あの罵詈雑言はまだ続いていたのではないか? 

 しかしほんとなんなんだあれ、俺が今まで見たなかで間違いなくトップ入るレベルのミサンドリーっぷりだったぞ。

 

 敵視、というのも生ぬるい程の強烈なプレッシャー。

 表に立っていた女性ガードマンが赤子に見えるぐらいあのイギリス代表社長様の圧はすさまじかったのだ。

 

「社内もそうだ。行く先々でドギツイ視線で。あれこそ針のむしろだな」

 

 必要以上にフレンドリーなレーデルハイト工業を見続けた手前もあるが。

 

「IS企業ってあれが普通なのか?」

「いえ、恐らくティアーズ・コーポレーションが特殊だと思います」

「というと?」

「疾風は知らないでしょうが。あの会社、女性権利団体のスポンサーなのです」

「……うげぇ」

 

 思わず酷い声が出てしまった。

 納得もしてしまった。どうりであんなに俺を外敵みたいな眼で見ていたのか。

 逆にセシリアに向けられた顔はとても柔らかくて。そのあまりにも激しい落差に俺は途中で気持ち悪くなりかけた。

 女尊男卑主義者の巣窟、あながち間違いではなかったか。

 

「よくもまぁ、あんなとこにいても歪まなかったねセシリア。俺は安心したよ」

「わたくしもIS学園に入るまでは男性を軽視していましたわよ」

「マジ?」

「ええ、まああそこまで酷くはありませんが。男なんてどれもお父様のような人と思っていましたわ」

「叔父さんみたい……ねぇ」

「お嬢様、そろそろ到着致します」

 

 助手席に座るチェルシーさんの声に外に目を向けた。

 

 たどり着いたのは墓地。

 セシリアの両親が眠っている場所だ。

 

 




さて、いきなりですが。いやいきなりではないですが。
ほんのすこし次回のSBTの更新が遅れます。

ちょっと別口で書きたいものがあるので。
詳しくはこのあと活動報告にあげるのでそこでチェックよろしくです。
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