IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
ティロリンティロリン。ティロリンティロリン。
ベッドの横のミニテーブルに置いてあるスマホのアラーム。手探りで探し当ててタップ。
ムクリと起き上がり、目蓋が解放されないながらも辺りを見回す。
「………広っ」
客室のベッドから起きて、第一声がそれだった。
普通の部屋が四つ入っても足りないぐらいの客室。
見るからに、触ってみてわかるIS学園より高そうなベッドからなんとか抜け出そうとする。
コンコン。
「はーい」
「疾風様、朝食の準備が出来ました」
「わかりました。直ぐに、行きます」
まだ覚醒していない頭を無理くり働かせて、着替えの服を手に取った。
ーーー◇ーーー
あのあと、なんとかダンスを乗りきった俺は、オルコット邸に泊まることとなった。
久しぶりに来たこの屋敷は相も変わらず壮大。門から家まで道があるし。
その間には噴水や、庭師が丁寧に手入れを行っている植物の数々。
絵に描いたような豪邸要素のオンパレードに圧倒されながらも、オルコット邸に到着。大勢の執事とメイドさんに出迎えられた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま戻りましたわ」
総勢二十数名のメイドと執事が揃ってお出迎え。
はっきり言って壮観である。
両側使用人ロードの真ん中から四十代ぐらいの栗毛の男性が見えた。燕尾服を着てるから執事さんだろう。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま戻りました、ハロルド」
「ご無事でなによりでございます。チェルシーもご苦労。今日はもう休みなさい」
チェルシーさんは一つお辞儀をして屋敷の中に入っていった。
「ようこそ、疾風・レーデルハイト様。執事長のハロルド・ブランケットでございます」
「え、ブランケットって」
「チェルシーは私の娘です」
「そうだったんですか。どうぞ宜しくお願いします」
チェルシーさんのお父さん執事長だったのか。
偏見だけど、執事長とかってお爺ちゃんな印象がある。
「レーデルハイト様」
「はい」
「お嬢様とはIS学園でも大変、仲が宜しいと聞いております」
「まあ、そうですね」
「どうぞ、これからも清いお付き合いをお願い致します。もしお嬢様に何かあれば」
「あ、あれば?うぉっ」
ハロルドさんが顔を近づけて、いや、あの近くない?なんかこわ………
「世界や神、敬愛すべきお嬢様に背いてでも。あなたを消しにいきます」
「ひっっ」
こ、こぇぇえええ!!
ドスの聞いた声怖い!! 目が笑ってないよ!?
ガチだ! ガチ過ぎる! チェルシーさんあんたの父親何者? 裏の組織的なドンじゃないよね!?
「んんっ。ハロルド、そろそろ」
「失礼致しました。ではこちらへ」
「は、はい」
「先程のことは」
「我が命に刻みます!」
納得してくれたのか。ハロルドさんの彫りの深い顔がほんの少し。本当に少し、柔らかくなった気がした。
ーーー◇ーーー
いや、ほんと怖かったなチェルシーパパ。
まさかセシリアに対してあそこまで過保護とは。そんだけあいつが大事にされてるってことなんだろうけども。
感謝しろよハーシェル。俺が止めなかったら、お前今頃ミンチ肉だったぞ。
ハロルドさんで思い出し震えをしているうちに食堂に着いた。
これも長い広間で、中央にはこの長い部屋と一緒に伸びたのではないかと思うようなロングテーブルと数多の椅子が陳列していた。
「おはようございます疾風」
「おはようセシリア」
セシリアの向かいの席に座る。
ふとセシリアを見ると、いつもよりメイクが薄い。ような気がした。素メイクというやつ? そこんとこはどうにも分からないけど。
あ。あくび噛み殺してる。
「眠いのか?」
「ええ、遅くまで溜まった仕事を片付けていましたから」
「俺はここに来て直ぐにベッドに直行しちまったけどな」
慣れないダンス、慣れない環境というのもあり。IS学園より上の一級品のベッドの柔らかさに誘われ、泥に沈むように寝てしまったのだ。
「シャワー入りそびれたから。後で入ろうと思う。で、今日の予定は?」
「今日はオーバーホールに回したブルー・ティアーズの受け取りぐらいですわ」
「もう直ったのか」
「本体の損傷は軽微でした。なので、今日は疾風のボディーガードの任を解きます」
「ああ、俺が着いていったら、なにかとめんどくさそうだもんね」
「ごめんなさいね」
「いや、俺も極力あそこには行きたくないわ」
また行ったら、どんな罵詈雑言が飛んでくるかわかったもんじゃない。
メンタルの強さには自信はあるが、あそこに進んで行くほど俺は無謀ではない。
「しかし、驚きましたわ」
「何が?」
「何がって。ティアーズ・コーポレーションとレーデルハイト工業の技術契約の話ですよ」
「あーー………………ハイ?」
いまなんと?
「え。おばさんから聞いてませんの? 本格的な発表はまだ先ですけど」
「失礼、ちょっと待って」
スマホを見ると母のLINEに通知が。
『セシリアちゃんのとこの会社と契約取れた~(*≧∇≦)ノ
昨日は高級レストランでごはん食べたの。疾風は忙しそうだったから呼べなかったけど。セシリアちゃんとデートだったから良いわよね( *´艸`)
そういえばセシリアちゃんを守る為に大立ち回りしたそうじゃない? 流石、剣ちゃんの息子ねー。お母さんも鼻が高いです(`・ω・´)』
こんな大事なことをLINEで言うのかマイマザー!
てか良い歳してんのに顔文字つけてくるなよ恥ずかしい!
あとデートじゃねーよっ! やめろっ!
あの時の騒動はやっぱりというかTwitterで話題を呼んだらしい。
案の定ハーシェルさんは結構叩かれてた。セシリアはモデルをやってるからなー。そこんとこのファンとかもいるんだろう。
内心、俺にも報復くるんじゃね? と身構えてる。まぁ、あんな目立つとこで目立つことしたんだから仕方ないと割り切ってほしい………無理だろうけど。
「大体わかった。まあ、これから宜しく」
「ええ、宜しく」
メイドさんが持ってきたブレックファストを食べてみた。
うん、普通に美味しかったです。
でも何処か味気なかったのは気のせいだと思いたい。
ーーー◇ーーー
さーて。お暇をもらったわけだが、これからどうしようか。
イギリスを散歩してみたいものだが。俺そこまで土地勘がないからなー。なにより、一人というのもどうにも寂しみがあるし、
チェルシーさん、はセシリアの専属だから離れられないし。
となると………
電話を書けてみるとワンコールも待たずに出てくれた。
『おはよう疾風兄! 疾風兄から電話なんて珍しいね! もしかしてデート? デートだよね? デートだったら嬉しいな! デートと言ってよ疾風兄!!』
電話に出るなりデートという言葉を四連発で放ってくる俺の可愛い妹、楓。
あらかじめ耳を離してなければ危なかった。
「ハイハイおはよう。朝から元気だね」
『実は電話に出るまで寝てた私なのでした!』
寝起き直後でこの元気のよさ。最近の女子特有のバイタリティは楓にも影響を与えてるようだ。
てか寝てたのにあんな早く出てこれたの? あんなマシンガントーク繰り出せたの?
これ以上話していたら普通にトークになりそうなので、さっさと本題に移ることにした。
「実は今日1日暇をもらったんだよね」
『デートだね!?』
「そこから離れなさい。一緒にイギリス観光しようかなと」
『やったデートだっ!!』
「……意味はあってるけど、俗世的には違うからな。俺達兄妹」
『からの禁断の1ページが!」
「ビリビリビリビリビリ」
『破かないでー!』
もはや恒例となりつつある俺のスルーボケにきっちり反応してくれる妹。可愛い奴め。
「とりあえず予定は空いてそうだな? ホテルの場所教えてくれ。迎えに行く」
『ノーだよ疾風兄! せっかくのデートなんだからちゃんと待ち合わせしないと!』
「わかったわかった。お前に任せる」
『やたっ! じゃあピカデリー・サーカスの………なんとかの像に11時!』
「エロス像な。じゃあそこで」
『は、疾風兄がエロスって言った………これはホテルをピックア』
「言わせねえよ」
頭が茹だってる妹の危険な発言をカット。
楓を(妹曰く)デートに連れてくとセシリアに伝えて、俺はイギリスの街に繰り出していった。
最近構ってやれなかったんだ。今日1日ぐらいは付き合ってやらないと。
ーーー◇ーーー
ロンドンのど真ん中。イギリスの超有名な待ち合わせスポット。ピカデリー・サーカス。
現在………11時、05分。
「遅いなー」
5分オーバー。普通ならなんてことない。許容範囲内に収まる。だが相手があのブラコン極まりし楓・レーデルハイトが相手となれば話は別だ。
もしかしたら30分前でもいるんじゃないかと、出来るだけ早く待ち合わせのエロス像に向かったのだが姿が見えない。
途中飲み物を買ったりスマホでレーデルハイト工業とティアーズ・コーポレーションの情報を見たりと時間を潰してみたが。
11時15分。15分もオーバー。
しかも連絡無しときた。
流石に心配になったお兄ちゃんは妹に電話をかけた。
ワンコール、ツーコール、スリーコール。
おかしい、いつもなら。というより今朝はプルルルのPの時点で出てくれたのに。
しばらくコール音が続く。
電車かバスに乗ってるのだろうか? と思ったら繋がった。
「もしもし楓? なんかあったか? やっぱ迎えに言ったほうがいい?」
『………』
「楓? もしもーし?」
応答なし? まてまて、ほんとどういう………
『ゴメーン、お兄ちゃーん。楓ちゃんはデートにいけませーん』
「っ!!?」
背筋が一気に冷えた。
甲高い声が俺の鼓膜を震わす。
楓の声じゃない。慌てて画面を見た、間違いなく楓のスマホにかけている。
「だ、誰だお前は! 楓は、そのスマホの持ち主はどうした!」
『うふふ、慌ててるわね。お嬢ちゃんは私の横で寝てるわ。まあ無事といってもいいわね、今はだけども。うふふふ』
「何笑ってやがる。妹に何かしてみろ! ただではすまさない!」
『あら怖い、でも身の程をわきまえなさいよ。主導権は私にあるのだから。今から指示する場所に一人で来なさい。もし誰か呼んだりしたら、彼女の純潔は無惨に散ることになるわ』
「お前っ!!」
『アハハハ! 待ってるわよ、疾風・レーデルハイト!』
ブツリ、電話が途切れた。
ダランとスマホを持つ手から力が無くなる。
楓が誘拐された………
迂闊だった。楓に文句言われても俺が迎えにいったらこんなことには!
ブルルルと、スマホからメールの着信が届いた。
後悔してる暇はねぇ、急がねえと!!
メールに添付されたマップデータを見て、直ぐ様通りがかったタクシーに乗り込んだ。
ーーー◇ーーー
「ここで下ろしてください」
「良いのかいお客さん。この先はなーんも無いぜ?」
「結構です、俺が降りたら直ぐに町に引き返してください」
「あいよ」
運転手にお金を払ってUターンするタクシーを見届け、再びマップデータを確認する。
「行くか」
ーーー◇ーーー
「ん、く………」
うっすらと覚める意識の中、楓は手足を動かそうとしたが、何故か動かなかった。
「ここは……」
「さあ? 何処か田舎の廃倉庫としか言えないわね」
顔をあげてみたが、何処かわからない。
動けないと思ったら身体中が縄で椅子に縛り付けられていた。
目に見える範囲には男が三人、そして首謀者らしき赤毛の女の人が一人だった。
「改めておはよう、楓・レーデルハイトちゃん。手荒な真似してごめんなさいね?」
「え? なに? え?」
「可愛そうに、戸惑うのも無理ないわよねぇ」
首謀者らしき赤毛女は愉快そうに笑うと、周りの男も釣られて笑い声をあげた。
(なんでこんなことになってるの?)
状況を理解しようと、楓は順を追って思い出してみた。
愛しの次男からの電話の後、大急ぎで着替えてホテルを飛び出した。
そこからバスとか乗り継いで目的地に走ってる途中………そう、何かに掴まれて、そのまま………
誘拐、楓は自分に置かれてる状況を理解した。
「なんでこんなことを?」
「あら、こんな状況でも落ち着いてられるのね?」
「落ち着いてない。今も怖いもの」
「素直でいいわね。良いわ、気分が良いから教えてあげる」
彼女は楓の耳元に近づきこう言い放った。
「疾風・レーデルハイトをこの世から消すためよ」
「っ! は、疾風兄を、消す?」
消す。それはつまり。楓の目の前にいる女は疾風を殺すと言っているのだ。
「な、なんで? 疾風兄があなたに何をしたの? あなたと疾風兄はどういう関係なの!?」
「あなたのお兄ちゃんなんて知らないわ、会ったこともないし」
「じゃあなんで? なんで疾風兄が殺されなきゃならないの!?」
「疾風・レーデルハイトは何もしてないわ。私が恨んでいるのは母親とレーデルハイト工業よ」
「お母さん?」
「私の人生はね、レーデルハイト工業のおかげで滅茶苦茶にされたの」
自分の母親であり社長。会社のことなどうわべしかしらない楓はその社会情勢などしるよしもなく。ただ話を聞くことしか出来なかった
「10年前、私の両親が経営していた会社がレーデルハイト工業と企業同盟を結ぶと決まったの。そうしたら今より経営も楽になって暮らしがもっと豊かになるって、思いっきりはしゃいでたのを、今でもはっきり覚えている、でもね……」
キッと、先程まで穏やかな表情が憤怒の表情に変わった。
「いざ商談と思ったら入ってきたのは警察だったの。レーデルハイト工業は家の会社が裏で麻薬とかヤバイことに手を出してたのを感ずいて、警察と合同で捜査をして家の会社を潰しにきたの。そして瞬く間に会社は倒産。両親は豚箱行きよ」
「目的は、親の敵討ち?」
「はん、そんなんじゃない。この話にはまだ続きがある。その親の一人娘だった私は会社の取引先の社長の養子に入ったわ。でも、そこの経営は家の会社が潰れたからか経営難に陥って。『会社がこうなったのはお前の親のせいだ!』って義理の親に言われて。養子先でも酷い扱いを受けて、私はなんて不幸なんだろうって思った」
「そんな………」
「だけど、それで終わらなかった。本当の地獄はまだ先にあったの。ねえ? なんだと思う? 綺麗なお嬢さん?」
怒りと空虚が入り交じったガラス玉のような瞳を近づける彼女に高校生にも満たない彼女は恐怖を覚えた。
首を振ることさえ出来ない楓を前に、彼女はその瞳を目一杯広げ、天井に向かって叫んだ。
「使ったの! 私の身体を! 当時まだ小学生だった私の汚れの無い身体を! ロリコン趣味の中年相手に義理の父親は取引材料として使ったのよ!! クハハハハハハ!! 笑えるわ! なんでそんなことが出来るのか! 何故私がこんな目にあわなければ行けないのと! あの時は世界すら恨んだわ!」
「ひ、酷い」
思わず溢れた声に、女の狂笑が止まった。
「………酷いですって?」
「ヒッ」
ギョロっとした目で楓に振り向いた彼女の顔からは感情が消えていた。
底冷えするような声に楓の体が硬直する。
「優しいのねぇ? 自分を誘拐した相手にそんなこと言えるなんて。ああ優しいわぁ優しいわぁ。後生大事に育てられたんでしょうねぇ。ふざけんじゃないわよ!!」
女は椅子ごと縛られた楓を倒した。
「蝶よ花よと愛でられたままのお子ちゃまに何がわかるっていうの!? 何を感じれるってのよっ!? 全部レーデルハイト工業が! あんたの親がうちの会社を告発したから! 私はあんなめにあったというのに!! あんたの親が悪いのよ! 私は何もしてない! 悪いことなどしていない!! なんで放っておいてくれなかったの!? ねぇなんで!? なんでなんでなんで!!」
感情を爆発させ狂ったように叫びながら、赤毛女はその幼い体躯に蹴りを入れた。
「げほっげほっげほっ。うぁっ」
「あらぁごめんなさいね。でも恨むなら親を恨みなさいよ、ねっ!!」
「かはっ!」
一際強い蹴りに肺の中の空気が一気に外に押し出された。
「ははは、いい気味ぃ。それにしても遅いわね、あなたの大好きな疾風兄。約束の時間を設定してなかったからかしら? もう一度電話をして」
首謀者の女が楓のスマホに触ろうとした瞬間。
廃倉庫のドアが吹き飛んだ。
「な、なんだ!?」
手下の男が慌てるなか、彼女は崩れた壁に目を向けると、歪んだ笑みを広げたのだった。
ーーー◇ーーー
指定された廃倉庫の中を覗くと、縛られた楓に向かって赤毛女、そして男が三人。
「なっ!」
次の瞬間俺は目を見開いた。床に倒した楓を主犯と思われる赤毛女が何度も蹴りを入れたのだ
苦悶にみち、顔を歪めた自身の妹の姿に体の中から赤い感情、怒りが沸き上がり、満たした。
あらかじめ思考していた考えは吹き飛び、俺は直ぐ様自分のIS、スカイブルー・イーグルを展開して。倉庫の扉を吹き飛ばす。
「なにしてんだよてめええーっ!!!」
警告なしで突っ込んだ。インパルスを持っていない方の右腕を握り締めて、赤毛の女に振りかぶる。
プラズマを纏った拳が女に突き刺さり、ISの拳越しに
「なにっ!?」
「いきなりISで殴るなんて、酷い男」
拳がふれてるのは半透明のヘックスの集合体の壁。腕には機械の腕が。
俺のよく知るそれは。
「シールド・エネルギー!?」
「ラファール・リヴァイヴ!!」
女が光を展開。女の体は標準色のネイビー・カラーのラファール・リヴァイヴに変貌した。
「たかが誘拐犯風情がIS? なんだお前はっ!」
「昔、あんたの会社のせいで人生を滅茶苦茶にされた女よ。メイブリック社と言えば分かるかしら」
「知るかよ!」
脚部プラズマブレードで女、メイブリックに蹴りを入れ下がらせる。
「折角ISを出したんだから楽しまないとねぇ!!」
両手に展開したIS用ブレードをプラズマサーベルで受け止める。
右、左とくる攻撃を難なくさばき、両腕のブレードを斬り飛ばした。
「やるじゃな」
「遅えっ!」
新しく武器を取り出す間にサーベルで斬りつける。
メイブリックは取り出したマシンガンを撃つも焦っているのか照準が疎らだ。
プラズマフィールドを展開して弾を弾いてインパルスでマシンガンを斬り潰した。
弱い! 動きもぎこちなく、武器展開も遅い。
フェイクかどうかわからないが、こいつはトウシロ。
日々専用機持ちと戦い、銀の福音と戦った俺から見たら。こいつの動きは明らかにつたない!
相手は盾を展開したところをインパルスで切り上げて蹴りを入れる。
立ち上がろうとしたところを上空から踏みつけ、盾越しにインパルスを叩きつけた。
「ゴッ………」
何度も、何度も、何度も叩きつけられた盾にヒビが入る。至近距離でプラズマ弾を打ち込むと盾が粉々に砕け散った。
「なっ!」
「よくも俺の妹を痛め付けてくれたな」
インパルスの穂先を展開。ISのエネルギーを流し、プラズマがインパルスの穂先を包み込む。
止めを刺す。刺せなかったら何度でも打ち下ろす。許しを請うたとしても叩きつけてやる。
「楓が味わった痛みを、受けろっ!!」
インパルスの最大出力状態、巨大なプラズマの槍を形成したインパルスを振り上げた。
パァンッ!
俺の顔の真横にシールドが発生した。
タイル一枚ほどのシールドが受け止めていたのは小さい銃弾。
「動くんじゃねぇ! 妹を撃つぞ!」
ハッと楓の方を向くと、手下の男が楓の頭に拳銃を推し当てていた。
「楓! ぐっ!」
腹部に衝撃。
メイブリックの手にはショットガンが握られていた。
「お手柄よリックぅ! さぁ! サンドバッグになりなぁ!!」
両手にアサルトライフルを取り出してそれを俺にめがけてぶっ放すのに対して俺は反射的に電磁フィールドを展開し、それを弾いていく。
「貴方はそこから一歩も動かずに私の攻撃をただただ受け続けなさい。攻撃は許さない、妹ちゃんの頭が吹き飛ぶわよぉ!」
「チィッ!」
「ガードは許してあげるわ、その方が長く楽しめるから!!」
弾切れと同時にリロード、バススロットから呼び出された銃火器を絶え間無く浴びせかける。
ラファール・リヴァイヴの最大の特徴であり、異名である『飛翔する武器庫』
実弾兵装に対しては最高の相性を誇るイーグルでも。その圧倒的な物量を立て続けに受け続けてはプラズマの維持も困難になってくる。
相手の銃撃を受け続けていくうちに、弾丸の一つがISのシールドエネルギーにぶち当たった。
「アハハッ! 当たった当たった!」
上機嫌のトリガーハッピーは身の毛もよだつような笑い声をあげながら、様々な火器をばらまき続ける。
その凶弾はプラズマの壁をすり抜け、シールドエネルギーが削られていく。
くそっ、なんとか糸口を見つけようにも。この状況じゃ文字通り手も足も出ない。
しかもこんな田舎の廃倉庫じゃ、助けも絶望的。
くそっ! 俺としたことが! メイブリックを無視して楓を奪い去ってれば!!
「あぁ楽しいわ。さて、次の武器は………これなんか良さそうねぇ」
ラファールの右手から現出したのは、色は違えど、俺のよく知る最強の実体質量兵器。
「グレー・スケール………」
「良くご存じ!」
急加速して一気に懐に入り込んだそれは、ガパリと獲物を捉えようとする爬虫類のようにシールドを開閉、奥の鉄杭がその姿を覗かせた。
「しまっ、防御!」
打たれるであろう箇所にインパルスでプラズマを展開するも、グレースケールは容赦なくそれを突き抜けた。
「おらっ! おらぁ!!」
続けざま炸薬を破裂させ、杭が撃ち続ける。
インパルスの柄が二発目でヒビが入り。三発目で真っ二つに砕けた。
四発、五発、六発を腕で受けた。
メイブリックは新たにグレー・スケールを呼び出して、弄ぶかのように、装甲のある部位にすかさず打ち込んでいく。
打ち込まれては吹き飛ばされ、無理やり立たされてはまた装甲に打ち込んで砕かれていく。
「死ねよぉっ!」
「い"っでっ!!」
そして対に、絶対防御でも相殺しきれなかった衝撃が俺の身体に襲いかかった。
そのあとも何度も。何度も攻撃を加える。
もはやプラズマフィールドもろくに発動できてないその有り様は正に嬲り殺しだった。
もう何発打ち込んだか分からない程打ち込まれた。装甲はボロボロで、ところどころ血が流れ、眼鏡が落ちてカシャンと乾いた音を鳴らした
「もうやめて! 疾風兄が死んじゃう!」
「当たり前よねぇ! そのつもりなんだから! あんただけは殺せってのがクライアントからの条件なんだからねぇ!!」
クライアントだと?
黒幕はこいつじゃないのか?
もはや声を出すことも出来ず、度重なる重撃にまた吹き飛ばされた。
ISの情報からしきりにアラートがけたたましく鳴り響く。
スラスター不調、PIC制御困難……
機体ダメージは、レッドを通り越してデッドゾーンか……
様々な状況と情報の中、なんとか模索しようとするも、身体中から鈍い痛みが広がり、時折意識が朦朧としてくる。
その朦朧とした意識は頭から衝撃を受けることで一時的に覚醒する。
「気分はどうだ、レーデルハイト。少しは私の屈辱が理解できたか?」
「あっ………うぇっ………」
知るか、と吐こうとしたが上手く声が出ない、鈍い痛みがだんだん強くなってきた。
「でも足りない、私の憎しみは収まらない。こんなんじゃまだ足りないのよ!」
「んがっ!」
ガッと、頭を踏みつけていた足でそのまま頭を蹴りあげる。
「このまま殺してもいいけど。それじゃあ面白みないわよねぇ。どうしようかなーー」
わざとらしく辺りをキョロキョロ見回すメイブリックを睨む。だが今のこいつにはその視線すら快感になっていた
「そうだわ、ピッタリのがあるじゃなぁい」
メイブリックは狂気な笑みを楓に向けた。
「あんた達、その子好きにして良いわよ」
「なっぁ!」
こいつ、何を……!
「ただしこの場でやること、こいつの居る目の前でやるの、そのほうが盛り上がるでしょ?」
楓に銃を当てていた男は、気色悪い笑顔を浮かべたあと、楓の上着を引きちぎった。
「キャアッ!」
「か、えでっ!」
「ちょっと、もう少しゆっくりやりなさい、その方が長く楽しめるじゃない」
やめろ!!
声を張り上げようとするも、喉から血が飛び出すだけだった。
俺はなんとかメイブリックの足を掴むも、直ぐに振り払われてしまう。
「大人しくしてなさいよレーデルハイト、あの子を滅茶苦茶にしたら直ぐに殺してあげるから。せいぜい自分の生まれを後悔することね。可愛そうねぇ妹ちゃん、レーデルハイトの家に生まれたのが運のつきよ、惨めにその純潔を散らしなさい!」
「い、いやっ! 助けて疾風兄ぃっ!!」
やめろ! やめろやめろやめろっ!!
動けイーグル!! ここで動かないと、楓が!!
「おおっ。小さいくせに良い身体してんじゃねぇかぁ」
「こりゃあ楽しめそうだっ」
「最初は俺だ! どけお前ら!!」
「いやぁぁああっ!!」
「良く目に焼き付けなさいレーデルハイト! これが私の受けた傷の一部よ!!」
やめろ、頼むやめてくれ。頼む! 頼むぅぅ!!
「やめてくれぇえええーー!!!」
俺の叫びもむなしく、男の腕が楓の下着を掴んだ。
ガシャァン!
「なに!?」
倉庫内を照らしていた窓が音をたてて割れた。
続けざま黒い筒状の何かが2つ、カツンと乾いた音を鳴らして床を蹴った。
突如、一瞬の巨大な音と閃光、そして黒い煙幕が薄暗い廃倉庫を包み込んだ。
「うっ! なによこれ!」
あれは………対ハイパーセンサー用ジャミングスモーク?
イーグル・アイでようやくボンヤリと見える煙のなか。楓と男三人の他に。人影が、もう一人。
「なんだこ………ごほっ!」
「ぐあっ!」
「があっ!!」
煙の中で男が嗚咽をあげる。
「なによこれ、なによこれ、なによこれ! こんなの聞いてないわよぉ!!」
右手にライフルを展開し、煙の中を一網打尽にしようとしたメイブリックの凶行を蒼の光が貫いた。
「なにっ!? きゃあっ!」
光に撃ち抜かれたライフルが溶けて崩れ、暴発。飛散した弾薬がメイブリックを叩きつけた。
今のは………レーザー?
「無事、ということにしておきましょう。よく耐えてくれましたわ」
フワリと。
柔らかく、ゆっくりと、天使が天から舞い降りるように。俺の眼前にあいつが現れた。
「……あっ………ああ………」
鮮やかな蒼色。身体から離れて浮かぶ板のような翼は正しく天使の羽のよう。
波打つように揺れる金糸の髪は、彼女の荘厳な魂を表すように煌めいていた。
その瞳に、確かな怒りを宿して。
蒼の騎士は銃口を向けた。