IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
自分の中では最低二週間投稿を心がけているのですが。なんか………プチスランプとかとか。
なにはともあれ、夏休みイギリス編、完結です。
あ、ハッピー・バレンタイン(一分遅刻)
今年も安定のゼロ個でした(`・ω・´)
土埃が舞い、一陣の風がそれを吹き飛ばす。
セシリア・オルコットは愛機、ブルー・ティアーズを纏い。手に持つスターライトMKⅢを、メイブリックが乗るラファール・リヴァイヴに向ける。
「お嬢様、楓様の救出に成功、このまま病院に連れていきます」
「ありがとう、こちらは任せて」
「ご武運を」
「ありがとう、チェルシー」
従者との通信を終え、セシリアは再び目の前の女を見据える。
そんな彼女を見て、疾風は掠れた声を絞り出す。
「セシ、リア………」
「無理して喋らないで。楓さんはこちらで保護しました。あなたはじっとしていなさい」
疾風は安心したのか、安堵の息を漏らす。
彼の呟きに反応したメイブリックは信じられないという顔で頭をかきむしった。
「セシリア?あの代表候補生のセシリア・オルコット?なんでお前がレーデルハイトといる?なんでお前が私の邪魔をする?お前には関係ないだろ!引っ込んでろよっ!」
「………」
「お前のせいで全部グチャグチャだ!何もかも上手く行っていたのに!全部全部全部全部全部!!お前のせいでぇぇええええ!!」
ヒステリックに叫ぶメイブリック。反応することなくセシリアは変わらず冷えた視線を向け続ける。
「なんとか言えよっ!」
「………」
「なんとか言えって言ってんだよぉ!!」
無反応のセシリアに業を煮やしたメイブリックは、再び武器を量子変換するために意識を集中する。
「なんとか」
「………はぁ?」
「言いましたよ?満足ですか?」
「わ、私をコケにするなぁぁっ!!」
マシンガンをコールし終えたメイブリックがセシリアに向ける。
彼女越しに疾風を狙う。もしセシリアが避ければ疾風に当たる、避けられない。メイブリックは脳内で蜂の巣になる彼女の姿をイメージしてほくそ笑んだ。
だが弾丸は一発も飛び出さなかった。
撃つための銃口がセシリアと別方向から飛んできたレーザーに焼け爛れ、潰されたからだ。
ブルー・ティアーズの第三世代兵器、BTビットのオールレンジ射撃。
セシリアが廃倉庫に突入する直前にあらかじめ飛ばしておいた物。
今のセシリアにとって、ビットと機体操作の同時運用など容易いことである。
「大人しく投降なさい。あなたに万に一つの勝ち目はありません」
「ふざけんな!良いとこのお嬢様がっ!!」
「警告はしましたわ」
予想の範囲内とばかりにセシリアはビットを滑らせ、レーザーを放った。
そこからは一方的に事が進んだ。
四方から正確に放たれるレーザーにメイブリックはまともに動くことも出来ず。
おざなりとも言える量子展開は完了したと同時にレーザーに撃たれて溶解。
辛うじて接近戦に持ち込めたものの、セシリアのインターセプターに軽くいなされ、ミサイルで吹き飛ばされて元の位置に戻された。
「………弱いですわ」
セシリアは冷ややかに見下した。
絶対零度の視線を向けるのと対照的に、セシリアの心中は熱を持っていた。
(こんな矮小な存在に。疾風が負けてしまうという状況を作り上げられたというのか)
人質を取って無抵抗の疾風をいたぶり。挙げ句の果てに動けない彼の前で実の妹を辱しめに合わせようとした。
彼の痛ましい姿を見たとき。あの嬉々として空を飛ぶことに喜びを感じていた彼が、無惨にも地べたに這いつくばっているのを見たとき。
セシリアの中の何かが焼き切れた。
故に彼女は冷徹に、確たる力の差を持ってメイブリックを蹂躙する。
相手を嬲ることなど、セシリアの趣味ではないが。怒りを燃える彼女の中に躊躇いなどあるはずがなかった。
「ぐ、あっ………」
「終わりです。それ以上は身体に響きますよ?」
「うる、さい。まだやれるっ!」
「そうですか」
彼女の纏うラファールは所々装甲が欠損している。
よろけて立ち上がろうとするメイブリックに、セシリアは容赦なくフルバーストをぶち当てた。
「くそ、が……」
メイブリックは気を失い、ラファールを纏ったまま地に倒れ伏した。
崩れたメイブリックを見て、セシリアはスターライトMKⅢをリコールした。
「………………ヒヒ、馬鹿がよぉっ!!」
スターライトMKⅢが粒子となって消えたと同時にメイブリックは死んだふりから起き上がってブースト。右手にはIS用のナイフが握られ、メイブリックは心のなかで勝ちを確信した。
(浅はかな)
だがセシリアはそれを見透かしていた。
セシリアは空中で待機していたビットに指令を出す。小さな射手は弓をたがえ、光として撃ち出す準備を整えた。
避けることすら容易いことだが。充分迎撃出来る距離だ。ISがリミットダウンするまで撃ち続け、恐怖というものを身体に教えてやろうと思った。
「………スイッチ」
「っ!」
セシリアは撃たなかった。
ISを持って辛うじて聞こえた、弱くか細い声。
無茶だと思った、出来るはずないと、動かないで大人しくしておいてほしいと。
だけどセシリアは瞬時に横に避けた。
その掠れた声の中で確かな意思を感じ取れたから。
セシリアと入れ替わって現れた疾風が、右の拳に稲妻を文字通り握り締め。
「ーーらぁっ!!」
「へ?ごぉっ!!?」
ヘラヘラ笑ってるメイブリックの顔面にぶちこんだ。
ISのシールド越しでも衝撃が
「ゼー、ヒュー………喰らわしたぞ、クソッタレ………」
息も絶え絶えに、砕けた装甲がパラパラと落ち、血が滴り、満身創痍の疾風はISを支えにやっと立っている状態だった。
思わずセシリアが駆け寄ろうとしたところを制止し、血濡れの瞳でメイブリックを睨み付ける。
「ハハ、まだ起き上がれるとは嬉しいなぁレーデルハイト。どうしたぁ?立ってられるのもやっとだなぁ、私が楽にしてやるよ!」
「うるせぇ………お前はもう、詰みだ」
「あぁ?」
メイブリックの身体、ラファールの深緑カラーの装甲に突如電撃が走った。
自身のISを見ると、小さなステルス戦闘機のような物体が二つ、コバンザメのように張り付いているではないか。
その正体は、イーグルの自立兵器であるビークビット。先程殴り付けると同時に飛ばして置いたものだ。
メイブリックはそれを引き剥がそうと手を伸ばしたが、飛来物がその手を弾いた。
「あぁ?」
乾いた音をたてて転がったのは、廃倉庫に放置されていた鉄パイプ。
その鉄の棒はパチリパチリと電流が走り、カタカタと震えていた。
そしてメイブリックはようやく気付いた、自身を走る電流が、空中を伝って両側に延びていることに。
その細い電流の先には、乱雑に置かれた大量の鉄パイプや鉄板。電流の糸は廃鉄置き場の側にある残りのビークビットに繋がっていた。
疾風が地に伏せている間、なにもしなかった訳ではなかった。
戦闘を援護しようとすれば逆にセシリアの邪魔をしてしまう。だがこのままやられっぱなしでは腹の虫が収まらない疾風は一計を案じ、戦闘に使用していなかった六機をスタンバイさせた。
(電磁誘導、ビーク間のプラズマコントロール構築、完了)
それはプラズマを応用した電磁石、エレクトロマグネット・コントロールによる鉄塊操作。
イーグルのスペックでは自由自在に離れた鉄を浮遊させるまでは行かない。だがビークを中継点として利用すれば話は別。
カタカタからガタガタと鉄の集まりは音を上げ、倉庫内に反響していく。
「じゃあな、出来れば死んでくれ」
「レェェェデルハイトォォォ!!」
雄叫びを上げながら突撃するメイブリックにリニアモーターカーのように打ち出された鉄は余すことなく激突、なけなしのSEをぶち抜き、メイブリックをラファールごと喰らいつくした。
ド派手な金属音が響き、土埃が空気中にぶちまけられる。
鉄の塊と化したラファールとメイブリックが出来上がった。
今度こそ沈んだ。IS反応消失、鉄パイプと鉄板の隙間から腕がダラリと覗いているのを見て疾風の身体は崩れ落ちる。
「疾風!」
臨戦態勢を解いたセシリアが血相を変えて疾風を支えた。
薄れ行く意識の中、イギリス国軍所属のメイルストロームが近づいてくるのを、センサーで感知した。
ーーー◇ーーー
目覚めると知らない天井だった。
って、何処の地下都市やねん。
「いっ………てぇ………」
痛みで身体が動かせない。なんか体がギッチギチに縛られてるような。
それと違う圧迫感が俺の腹辺りに、しかもなんか暖かい………
景色がぼやけてるのは眼鏡がないせいか。薄目で見てみると長い鮮やかな金髪、青いヘッドドレスが上下にゆっくり動いている。
生暖かい感触に気恥ずかしさを感じたので起こさないように身をよじる。
「んゆ……?」
無理でした。
「は、疾風?」
「おう、セシリア、おは、よっ!?」
突然目の前が金色とふわふわと良い匂いで一杯になったってええっ!?
「疾風!?生きてますのね?夢じゃありませんわよね?大丈夫ですわよね?無事ですわよね!?」
「ちょっま、って、イタタタ」
「あ、ごめんなさい……」
我に返ったセシリアはすごすごと離れていった。顔が真っ赤っかだ。
どうやらというか、ここはどっかの病室。セシリアが感極まって抱き締めてきたのだと知ると、俺も顔が熱くなった。
とにかく眼鏡、眼鏡何処だ。
探しているとセシリアが眼鏡ケースごとくれた。かけてみると。
「oh、なんか違和感。これスペアか」
「わかりますの?」
「同じ度でもかけなれてない物かけると少しクラッとするのよ」
あー、あの眼鏡お気に入りだったのに。おのれ………
改めて自分の身体を見てみると、見事に包帯だらけ。こりゃあハロウィンやれそうだな。
「あれ、イーグルは?」
「レーデルハイト工業のイギリス支社でオーバーホールですわ。ダメージレベル、Dですって」
「でぃ、Dぃ!?」
ダメージDと言ったら、装甲から取っ替えるレベルじゃないか。
そりゃあ全身にしこたまパイルバンカー打ち込まれまくったらそうもなるか。最後よく動けたなぁ。
そこからセシリアに事件の顛末を聞いた。
セシリアが駆けつけれたのは、俺を監視するようにチェルシーさんに言ってたからだということ。血相を変えて走ってく俺を只事ではないと判断してセシリアに連絡を取ったこと。
事件の後にイギリスの査問委員会が来たこと、楓は怪我はあれど、そこまで酷くはないこと。メイブリックが何故あんなことをしたのかということ。
メイブリックの過去は、残酷だと思う。だが同情なんかしてやるものか。
自分も他人に消えない傷を与えようとしていた。あの女は自分から同じ穴の狢になったのだから。
肝心のあの女。メアリ・メイブリックはというと、どうやら生きているらしい。俺と同じぐらいの怪我をしてるだけで生きてはいるということ。悪運の強いやつ………
「あのクソ女が言ってたクライアントの正体は分かったのかよ」
「本人から聴取を取れてないのでなんとも言えませんが、メイブリックの使用していたラファール・リヴァイヴのISコアの出所は分かりましたわ。ハーシェル・カンパニーの所有ISコアでした」
「んんっ!やっばりかぁ!」
ここ最近で明らかに俺に恨みを持ってる奴筆頭、イスラエルのハーシェル若社長。大方(強引な)プロポーズを邪魔されたあげくネット上で晒し者にされたことへの報復といったところか。
「本人は否定しているようです」
「どうみても確定だろ」
「ここだけの話ですが。ハーシェルが言うに、ISコアは随分前に何者かに強奪されたと証言したそうです」
「へーそー」
口から出任せにしては随分と上等な文句じゃないの………絶対信じてやらないけど。
ベッドに身を投げ出す。ふと気付くと外が暗かった。
「なあ、今何時?」
「18時です」
というと、あの倉庫についたのが10時00分ぐらいだったから………
「8時間も寝てたのか。てかお前こんな遅くまで居て大丈夫?ハロルドさん怒らないの?」
「………」
突然俯いて押し黙ってしまった。
あれ、俺なんか不味いこと言っちまった?
しかしあれだな、8時間寝てるにしては異様に身体がダルいな。
「………2日」
「はい?」
「2日です。あなたは2日も目を覚まさなかったの」
「え、そんなに!?」
「そんなにですわよ!!」
「おぅっ」
いきなり大きな声を出したセシリアに身を引こうとしたが身体が痛くて出来ず。
明らかに怒っているセシリアに喉を奥がキュッとなった。
「大体疾風も疾風です!あの時あの女ではなく楓さんの救出を第一に考えていればあんな状況にはならなかったでしょう!目先の怒りではなくもっと全体を見なさい!優秀なハイパーセンサーがあるのにあなたは視野が狭いです!」
「ぐうの音も出ません」
「あなたは世界にとっても価値のある人物ということを再認識した上で行動しなさい!分かりましたか!?」
「ごもっともです!申し訳ございませんでした!」
余りの気迫に思わず目をつぶってしまった。
相当なおかんむり、怖い。
無理もない。もしセシリアが来なかったら、俺は殺されてただろうし、メイブリックが遊びではなく本気で殺しにかかっていたら間違いなく俺は今ここにいない。
それからセシリアが話さなくなったので、おそるおそる目を開けると、俺は思わず目を疑った。
セシリアがボロボロと泣いていたから。
「え、セシリア?」
「ずっと、ずっと起きないままで。お医者さんは、寝てるだけで命に別状はないとか、回復に向かってると言っていましたけど。でももしかしたら、もう一生起きないんじゃないかって、わたくしはそれが心配で心配で!」
顔を見ると唇を噛んで涙を堪えようとしてるが、後から後からと大粒の涙が溢れていく。
お墓参りの時にあれほど自分が泣く姿を見せるのを良しとしなかったセシリアが隠すことなく泣き続けている光景に俺は驚きを隠せなかった。
「ボディーガードを頼まなければとか。チェルシーに監視をさせずに、屋敷から出るなと言っていれば………」
「セシリア」
「わたくしがイギリスに一緒に行こうと言わなければ。疾風もこんな目に会わずにすんだのではないかって。そう思わずにいられなくて」
うつ向いたまま溢れる涙を拭うことなく落としていくセシリア。
慰めようとした。そんなことはないと、お前のせいなんかじゃないと。
だけど言えなかった。言ってもセシリアは納得してくれない。彼女は責任感が強いから、きっとまた自分を攻めてしまう。
だから。
「ありがとうセシリア」
「え?」
だから俺はありがとうと言う。
言われた本人は顔を上げたまま固まった。
その目は涙で潤んでいて、頬が仄かに赤くなっていた。
思わず出そうとしていた言葉が引っ込んでしまった。
見惚れてしまった。それぐらい綺麗に泣くものだから。
「………どうして、お礼なんて?」
「え、あ。んん」
しまった。話そうと思ったのに内容がぶっとんでしまった。不意打ちとは恐ろしい。
一つ咳払いをして気持ちを整えた。
「いやだってあの女。ハーシェルに頼まれなくてもうちに危害くわえそうだったし。むしろ俺がいなかったらそれこそ楓が大変な目にあってたかも知れなかっただろ?」
「それは結果論じゃ」
「かもしれない。でももしかしたら本当にそうなる可能性もあり得た訳だしさ。だからありがとうセシリア。お前がイギリスに呼んでくれたおかげだ。ありがとう、俺と妹を守ってくれて」
スカートを握りしめている手に包帯に巻かれた自分の腕を置いた。
きしむような痛みに身体が悲鳴を訴えてきたが。気にしない。
「………うぅ………」
「う?」
「ううぅぅぅ………」
「えっ、ちょ!慰めたんだからまた泣き始めるなよっ」
「だ、だってぇ………」
「おいおい………」
慌てる俺の前で、再び涙を流し始めたセシリア。
しばらくの間。怪我人である俺がセシリアを慰め続けるという変な構図が続いていたのだった。
ーーー◇ーーー
疾風が目を覚ます二日前。
暗闇に包まれた一室。
広い窓を背にディスプレイを睨んでいる女性がいた。
『レーデルハイト工業とティアーズ・コーポレーション。技術連携を発表』
イギリスが誇る二大企業が手を結んだという世界にとっても一代ニュース。
眺める女性の顔が、画面の光に照らされている。
ティアーズ・コーポレーションの社長であり、現イギリス代表、フランチェスカ・ルクナバルトだった。
今回の技術連携はティアーズ・コーポレーションからしても充分に利益が見込めた。だがフランチェスカの表情は険しいものだった。
そんな彼女のイヤーカフス。ISの待機形態に誰かが通信を寄越してきた。
ビデオ通信を開くと、フランチェスカと同じぐらいの豊満な金髪をたなびかせる妖艶な美女が写った。
「ハーイ」
「なんのようかしら、スコール」
「疾風・レーデルハイトは一命を取り留めたようね」
チッ。彼女は舌を打った。
少なくとも、疾風の生存を良しとするような顔ではなかった。
「わざわざハーシェル・カンパニーから奪ったコアを与え。妹を餌にして疾風・レーデルハイトを襲撃。随分と過激じゃない?まあ結局失敗しちゃってコアは政府に撤収。肝心の子もあなたのお気に入りのお嬢さんに助けられることになったと」
「私を怒らせたいのかしら、スコール」
「あら怖いわねぇ。でもあのISコアは私達モノクローム・アバターが苦労して手に入れたものよ。それを理解してほしいわね。亡国機業実行部隊の1つ、ブルーブラッド・ブルーのリーダーさん?」
「………」
フランチェスカは押し黙った。
昔から目の前で笑う女が苦手だった。
「でも良かったわね。セシリア・オルコットにチョッカイを出した若社長の社会的地位と権利は地に落ちた。あなたにとっては結果オーライじゃない?」
「あんな小物。コアのナンバーが割れずとも直ぐに消すつもりだったわ」
コアの所在を選んだのは飽くまで万が一の為。
事実。彼女の指示のもと、女性権利団体がクラウス・ハーシェルを潰すために動き始めている。
「というより。守ってくれたセカンドマンに感謝するどころか消しにかかるとか。恩を仇で返しすぎて正直引くわ」
「自称ボディーガードを名乗るなら当然のことよ。あの場でボロ雑巾にならなかったのは残念で仕方ないけど」
「そう、もういいわ。例の2号機はどうも。有効に使わせて貰うわ、それじゃあね」
スコールとの通信を終え。フランチェスカは脱力したように背もたれに沈んだ。
モノクローム・アバターから提供されたISコアの見返りに社の最新鋭機、サイレント・ゼフィルスを強奪という形で譲渡する。
元々セシリアのブルー・ティアーズの改造案だったが。予想以上のBT適正値の上昇により2号機として製造されたのがサイレント・ゼフィルスだった。
フランチェスカは席を立ってガラスの窓からイギリスの美しい夜景を見下ろす。
眼下を通る老若男女。
目に写る男。見知らぬ男も嫌悪の対象。だがフランチェスカの目蓋に写るのは、眼鏡をかけた若い少年。
朝方、セシリアが突然電話をかけてきた。
彼女に娘はいないが、兄夫婦の子供であるセシリアを我が子のように愛しているフランチェスカにとってそれは心が踊るものだった。
だがセシリアは開口一番に『社長。ブルー・ティアーズをこれから受け取りに行きます。未調整でも構いません、今すぐ譲渡してほしいのです!』と言ってきたのだ。
セシリア自身は隠していたが、声の何処かに焦りが見てとれた。
首謀者でもあるフランチェスカは直ぐに何を求めていたのか察した。だからもっともらしい理由をつけてセシリアを止めた。
だがセシリアは止まらなかった。『お叱りは後で受けます』と言ってラボに預けていたブルー・ティアーズを強引に持ち出して飛び出し、疾風・レーデルハイトを救い出した。
彼女は愕然とした。今まで見てきたなかでこんなセシリアは見たことがなかった。
規律を重んじ、自分に厳しく生きていたセシリアが強奪紛いな行動を起こす。
その要因があの男性IS操縦者だというのが、フランチェスカの中にどす黒い感情を溜めていく。
BT適正値の急上昇の時も、模擬戦の真っ只中だったという。その対戦相手が、またあの男性IS操縦者だという。
セシリア・オルコットの転機に必ず疾風・レーデルハイトがいる。その現実がなによりもフランチェスカ・ルクナバルトの頭を殴り付けたのだ。
「疾風………レーデルハイトっ………」
歯を固く食いしばり。握りしめた拳からは血が滴り落ちた。
「あの子は。セシリアは私の宝よ。あの娘を汚す存在は私が排除する。私が殺してやる」
姪に対する歪んだ愛情、疾風に対する歪んだ憎悪。女尊男卑という歪んだ信念。
それをいびつだと欠片にも感じず。今日も彼女は男という存在そのものを憎んでいく。
「全ては、素晴らしき女性至上世界の為に」