IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「よーし撮れたな! 目瞑った不届きものは居ないな?」
「お疲れ様です疾風さん、今打鉄外しますね………疾風さん?」
「ん、どうした? そんな狐につままれたような顔して」
「いや、これネッシーだろ」
「どうでもいいわよ。大丈夫疾風君? 目が点になってるわよ?」
微動だにしない俺を見て、周りの従業員が心配そうに顔を除きこんだ。
だが当事者の俺はそれどころではなかった。
………なに………これ?
カメラのシャッターが押された瞬間、俺が産まれた時刻になった瞬間、頭の中に一気に膨大な文字が飛び込んできたのだ。
すでに知っていること、知らなかったこと。情報が頭に入ってくる、それを理解する。だが俺は混乱していた、間違いなく人生で一番だ。
え? え? え、え、ええ?
今まで見てきた世界が虚構なのではないか? と感じる程、視界が一気にクリアになった。遠くの物が近くに感じる、作業テーブルに目を向けると、普通は見えない距離の設計図がくっきりと見える。
それだけじゃない、視界が広がった。普通、人間の視界は目が顔の前面にあるため、視界は前方に限定され、視野により左右が僅かながら見える。
だが見えるはずの無い背後、後頭部からの光景が見えるのだ、男が二人、女が一人。
え? 嘘? いや………………………は?
「ちょ、ちょっと。なんか微動だにしないんだけど?」
「おい、さっき腕グワングワンしたときにおかしくなったとか?」
「サプライズが成功しすぎた?」
ガション。
「「「「「………………………………………え?」」」」」
面白いようにその場にいた全員が同じ言葉を出した。
………打鉄の足が、動いた、一歩を、歩いた。
まったく意識をしていない動作だった、目は動いた鉄の足に釘付けになる。
今度は意識して一歩歩く。
先程と同じ駆動音と一緒に、また足が前に動いた。
そして腕を上下させ、手のひらを握っては離し、握っては離した。
「お、おい、もう人間マリオネットはやめようぜ? な?」
「わ、私何も触ってないわよ!?」
「じゃあなんで動いてんのさ!!?」
誰も操作していない? じゃあこの動きはなんだ? まるで自分の手足の延長のように動かせる。
自然と視線が天井に向けられる。正直、自分が何をしたいのか分からないが。
「え? 疾風君?」
「いや、おいお前」
だけど、何をするのかは理解した。
「いっ、けっ」
瞬間、俺の体が上に吹き飛んだ。
危うく天井に衝突しそうになる。直ぐに方向をかえ、天井を滑るように向きを変えた。
「飛んで、る?」
「おい、遠隔操作って飛ばすことも出来たっけ? 出来ねえよな!?」
「ねえ、誰か僕の頬を引っ張って。いたたたっ!!」
「え、嘘? じゃあこれって。ええ!!?」
眼下で驚く従業員。
だがそんなことはどうでも良かった。
動いている、動かせている。
飛んでいる、飛ばせている。
他でもない自分自身が、ISを、インフィニット・ストラトスを動かしている。
「やっ……………た?」
空中を滑るように移動する、ハイパーセンサーというものを直で感じとる。
「やった」
やった。やりやがった。やりやがった!!
遂に俺は! インフィニット・ストラトスを───
ジリリリリリリリリリ!!!
「………………………………………………………」
けたたましい音を鳴らした安眠妨害機、又の名を目覚まし時計が眠っていた脳を半分起こす。時刻は…………7時30分……
ムクリと上体を起こした俺は細目で目の前の壁を直視した。
「………………………………………夢かよ」
残酷すぎる夢オチに、盛大かつ長い溜め息を吐き出す。
昨日のお昼時、俺が15から16になった日に今までうんともすんとも言わなかったIS。それを動かした夢だ。
そのあと、軍の駐屯地から突如帰ってきた父さんと母さんが大興奮で俺に詰め寄った。
という、なんともリアルな夢だった。
何度もISを動かした夢を見たことはあるが、あそこまでリアリティー溢れる夢は初めてだった。それ故、夢オチなだけにダメージもデカイ。
再スタートを決意した俺に対する神様のプレゼントだろうか。まったく神様も粋なことをする物だ。そんなことしなくても前は向けると言うのに。
むしろ今のでメンタルが三分の二まで減った、更に月曜日という追討ち。この状態で学校に行けとか惨すぎる、無断欠席したい。
「もうちょっと浸らせろや、ふんっ!」
かかっている鬱陶しい布団を蹴り飛ばし。今だ、けたたましくなり続ける安眠妨害機のスイッチを憎しみを込めて叩き伏せる。
「ていうか俺、どうやって家に帰ったっけ?」
その夢の内容らしき昼頃からの記憶が朧気だ。いや、断片的にはあるのだが、どうにも夢とゴッチャになってたりしている。全部夢が悪い。目覚ましとか外部刺激で起こされた夢は忘れやすいと言う話を聞いたことがあるが、あれ嘘だよ。
段々と頭が覚醒していくにつれて外が騒がしいことに気づいた。
イラつきを覚えながら、半開きになっているカーテンから外を覗いた。
「………………………なにこれ」
目線直下の玄関にはテレビ局の車が数台、そしてカメラマンとアナウンサーでごった返していた。インタビューを受けているのは俺の母親でありレーデルハイト工業の社長であるアリア・レーデルハイト。
「………おいおい、おーいおいおいおい。なんだこれは、まだ俺はドリームの中だとでもいうのか?」
頬を思いっきりつねってみる、痛い。視界もはっきりしてるし、どうやら夢の中というわけではないようだ。
とりあえず下に行こう。
「ぶぇ!!」
「おっふ!」
出た瞬間にピンクの物体が脇腹にぶつかった。
ぶつかってきた物を見ると、ピンク色のパジャマを着た妹が鼻を押さえて唸っていた。
「か、楓! 大丈夫か?」
「鼻、鼻が潰れた………」
この子は俺の妹の楓。黒髪のボブカットにアメジストのような紫色の瞳が特徴で、俺の一歳年下の中学三年生。
気配り上手な良くできた自慢の妹である、ルックスの良さは母親譲りか、学校でも人気者。反抗期はあっただろうか? というほど素直な性格。だが遅咲きの反抗期もあるらしいから、油断は出来ない。
「ごめんごめん。怪我はないな?」
「大丈夫、疾風兄から受けた傷はむしろ勲章だから」
「やめろ、危ない発言をするんじゃない」
「傷物になったら責任とってね?」
「よーし傷はない大丈夫だな」
「イケズー」
訂正、早く来てくれ反抗期。
良くできた妹なのだが、如何せんお兄ちゃん大好きっ子である。兄離れの道は遠い気がするのは気のせいだと信じたい。早く彼氏を連れてきてくれ、認めるとは言っていない。
「ところで疾風兄。外見た?」
「見た見た、一帯何が起こってんだろうな? うちの会社絡みかね」
レーデルハイト工業は世界を代表するIS事業の一角だ、他社との対立ではなく協調というスタイルを取っているが。当然ながら他の会社から恨み辛みをぶつけられることはそう珍しいことではない。
鼻を押さえて悶えていた妹の動きがピタリと止まる。そして何処ぞの珍獣でも見たような顔で俺を見ている。
「疾風兄、覚えてないの?」
「え、俺なんかしたのか?」
「疾風兄、ほんとに大丈夫?」
なんだ? 俺なんかした? 記憶に無い。
心当たりと言えば……って違う違うあれは夢だあれは夢だ。
「あれは夢だ、夢に違いないんだ。そんな都合の良いこと有る筈ないじゃないか」
「?」
「楓、下にいくぞ」
「あ、疾風兄待ってー!
───ーー
「おはよう」
「おはよう疾風、外見たか? 凄いことになってるぞ」
「なに呑気な事言ってるのさ、表で母さんが必死に対応してるのに」
「アリアなら大丈夫だ。俺の嫁だぞ?」
「唐突に嫁自慢はよしてくれよ、見ていて恥ずかしくなる。おはよう疾風」
未だパジャマ姿の父さんの隣にいるのは俺と楓の兄であるグレイ・レーデルハイト。
母さんの秘書を受け持っており、高身長、高学歴、高収入という女性受け三大要素を見事にこなすエリート。
母さん譲りの金髪をきっちり揃え、清潔感のあるスーツ姿がビシッと決まっている。隣のヨレヨレなパジャマ姿の父さんと比較すると尚更それが際立った。
「おはようグレイ兄。いったい何が起きてんの? 他企業からクラッキングでもされた? それとも冤罪的なやつ?」
「おいおい、そんなの決まってるだろ」
「ああ、そうだよねゴメン。うちにこんなの来るとしたら一つしかないよね」
「いやそうじゃなくて」
「ん? なに?」
微妙に会話が噛み合わない気がする。現に大の男二人は目を丸くして呆気に取られた。
「父さん、どういう事?」
「知らん、昨日の帰ってきてからも何処か上の空だったし」
「あれじゃない? 嬉しさの余り現実逃避してるとか、さっきも夢だ夢だぁ、って呟いてたし」
「「有り得る」」
ちょいちょい待ってくれ、勝手に話進めないでくれ。
「お兄ちゃん、本当に覚えてないの?」
「だからなんだよ、いい加減教えてくれても良いだろ?」
「だから、お兄ちゃんは女性にしか動かせないものを動かせて見せたの!」
「なんだよ、ISでも動かしたって言うのか?」
「「「そうだよ」」」
「………………………ゑ?」
一瞬で俺の脳内組織は活動を停止した。
IS、ってなんだっけ? インフィニット・ストラトスの略称だよ。
それをなんだって? 俺が動かした?
………………ホアー?
「………フヒヒ」
「は、疾風?」
「フヒ、ははは」
「は、疾風兄?」
「はははははは」
「オイオイ、大丈夫か?」
大丈夫かって? 俺は大丈夫ノープロブレム。○○王にわっちはなる。
「はあ、そうか。これは夢の続きか。そうでないとすれば俺はエイプリルフールまで眠っていたのだな。うん、間違いない」
「あ、そうだ。テレビテレビ」
「そうだテレビかければ」
テレビ? テレビとはなんだ? 絵が動く箱です。
グレイ兄はリモコンを拾い上げ、テレビをつけた。
『現在、私は世界で二番目にISを動かした男性、疾風・レーデルハイト君の自宅に来ています。今、レーデルハイト工業代表取締役のアリア・レーデルハイト氏がマスコミの対応に当たっています』
ピッ
『レーデルハイトさん! 息子さんがISを動かして見せたのは本当なんですか!?』
『そこのところを詳しくお願いします!!』
『疾風君が動かしたというISは一人目のIS適合者である織斑一夏君が動かしたものと同一のISだという情報があるのですがそれは確かなのですか!?』
『現在わが社でも、動かしたISについて調べていますが今のところ変わったところはありません。何故息子が動かせたのは皆目検討つきません』
ピッ
『今回のISの件はいかがお考えですか?』
『そうですねえ、織斑一夏君がISを動かしたことを境に、男性で動かしたというデマが横行していましたから。まず、その疾風・レーデルハイト君が本当に動かせたのかも気になります。しかし今回の件が全て本当だというならば、男女間の現在のパワーバランスに、大なり小なり変化が起きるというのは確実だと思います』
「………………」
「目、覚めた? お兄ちゃん」
「んー、ちょいまって」
俺はスタスタと玄関には向かい、玄関ドアに耳をあてる。外ではテレビで出たような似た会話が繰り広げられていた。
もう一度頬を引っ張りあげる。痛い。
「………可笑しいな、何度頬を引っ張っても痛いんだが?」
「まだ信じられないか?」
当たり前田のクラッカー。
まだ意識と無意識の境界線に立っている弟を見かねたグレイ兄はポケットからスマホを取り出し、こっちに渡してきた。
スマホには俺が打鉄を身に纏い、空調を浮遊している動画がだめ押しとばかりに現実を突きつけさせていた。
「………」
「………」
「………コラ画像じゃないよな?」
「そんな残酷な事しない」
「夢じゃなかったと?」
「そうだぞ、最高の誕生日プレゼントだな。ハッハッハッハ!!」
そう、夢なんかじゃなかった。
俺は本当に、ISを動かしてみせたんだ。
「いよっしゃぁぁぁあああああああああっっ!!!!!」
目の当たりにした現実に俺は沸き上がる感情を余すことなく声にして解き放った。否、実際余りまくりである。
夢じゃない、夢なら覚めないでくれと必死に念じながら、俺は暫く叫び続けた。
ーーー◇ーーー
喜ばしい事に、夢じゃなかった。
顔を洗い、朝ごはんを食べ、グレイ兄にちぎれるほど頬を引っ張ってもらって。全て現実の感覚と感じた。
楓にも引っ張ってもらった、お返しに楓が頬を引っ張ってと言ったので引っ張ってあげた。その時の妹が恍惚な顔をしていたように見えたのは、きっとまだ現実を受け止めきれない故の幻覚だと信じたい。
ふと自分のスマホを取り出すとLINE通知が来ていた。
村上と柴田である。通知数は30を越え、今もなお更新されている。
村上『おい、疾風! ニュース見たぞ! なんだありゃ!!』
柴田『ほんとだよ、何が起きたのさ!?』
村上『詳細求む!』
柴田『求む求む』
んー、どう説明しようか。といっても説明の使用がない。
とりあえず『良くわからん』と打っておこう。試しにTwitterを開くと堂々のトレンド一位、というよりほぼ独占状態だった。
ウワーユウメイジンダー。
そうこうしている内に、玄関のドアが開き、居間に疲労困憊の金髪美人が現れた。
「ただいま…」
「「「お帰り母さん」」」
「ただいまキッズ達。あ、剣ちゃぁぁん!!」
豊満でボリューム豊かな淡い金色の髪を揺らし自分の旦那に飛び込んだ。
「おーっと! お疲れアリア」
「もう疲れたぁよぉぉー、あそこまで熱心なマスコミは生まれて初めてよぉ。私と剣ちゃんとの結婚発表より凄かったぁ、アッハッハー」
完全に顔面の筋肉が労働放棄しているこの女性はレーデルハイト工業のトップであり俺ら三兄弟の母親、アリア・レーデルハイトその人である。
今でこそこんなゆるっゆるなのだが、レーデルハイト工業では、それはそれは凛々しいお人で、女性からの求愛経験あるという。レーデルハイト工業の中では正にブリュンヒルデなみの人気である。
そして母さんは元イギリスのIS代表であり、世間からはイギリスの剣撃女帝の異名を持つ。そして、高速機動部門のヴァルキリーでもあるのだ。
しかし特筆すべきはその外見である。きめ細やかな肌にスレンダースタイルの若々しい体形。これで40代+子持ちと言うのだから尚驚きである。前に20代と見間違えられたらしい、そんな馬鹿な。
「そりゃ今回は仕方ないだろ?」
「んーそうね、今回は仕方ないわね。だけど頑張ったからご褒美頂戴! 濃厚で熱いベーゼをうむぅっ!」
心は恋する暴走乙女全快の母さんは、息子娘が見てる中で父さんにキスをせがんだ。が、そこを我らが頼れる長男が止めに入る。
「父さんにも言ったが恥じらいを持ってくれ、二人ともいい歳なんだから」
「あら、愛に年齢は関係ないのよ?」
「だとしても疾風や楓が見てる前でするのは止めてくれよ」
「そう………なら貴方の前なら良いのね?」
「張っ倒すよ母さん」
確かに見てて恥ずかしく、胸焼けが起こるが、それだけ家庭円満だということを思い知るのだからそれはそれでというのもある。
楓がその様を見て、俺の名前を呟きながら悶えている時があるが。突っ込んだら妄想に巻き込まれるのでこちらは放置案件。
「あ、やっべもうこんな時間! 学校行かねえと!!」
「はいストップ!」
「グエッフ!」
時計を見るなりスタートアップした俺のパジャマの襟元を引っかけられ、首が閉まって変な声が出た、何をするお母様。
「疾風、今日あんた学校休み」
「え、何で?」
「当然でしょ、世界で二人目の男性IS操縦者が表だったらマスコミの餌食でしょ。それに専門の機関で検査を受けて国に申請出さないといけないからどっちにしろ休みよ」
「マジかい。ほんと俺IS動かせたのな……なんでISを動かせたの?」
「それも含めて検査に行くのよ」
結果は分かりきってると思うけどねと呟く母さんは嬉しそうだった。
「まあ、そういうことだから楓も今日は学校休みだ。外に出たら色々不味い、だからといって一人でお留守番させても危ないし」
「会社に連れて行ったほうが安全かもね」
「てことは? やった! 学校休みぃ! イエーイ!」
「喜ぶな楓」
目の前に世界の定義を揺るがしかねない男がいるのに皆はいつもと同じ態度だ。
呑気というか、なんていうか。平常運転でなにより。
ほっとしていると化粧を終え、仕事モードに突入した母さんがきた。
「グレイ車回して、会社にひっきりなしに電話かかってるわ。あなたは疾風連れて機関に向かって頂戴。楓、着替えてきなさい」
「はーい!」
楓の元気な声とともに皆は散り散りになる。
「疾風」
母さんがでこをくっつけアメジストの瞳を真っ直ぐ俺の目と合わせる。
「これだけはわかって。貴方がISを動かせようが動かせまいが、私にとって貴方は疾風・レーデルハイトというかけがえのない私の息子よ。貴方の事は私達が必ず守って見せるからね」
「うん、わかってる」
「良い子ね、ほら貴方も着替えてらっしゃい」
母さんは俺の額にキスをした。
さて、着替えるとするか。一応正装の方がいいのかな?
ーーー◇ーーー
現在、IS関連の国際研究所にいる。
ここはISのコアに関する分析。量子変換、瞬時加速等、まだ解明されてないISの秘密をこぞって調査している世界で数あるなかの1つである。
といっても、織斑一夏がISを動かしたことにより、今じゃどうしたら男性でもISが使えるかということに観点を置いており、他はお座なりになってるらしいけど。
女尊男卑と言っても男性は女性に比べて労働力が高いし、ISが普及する前の軍事能力は大幅に男性に依存していた。
つまり、男性でもISを動かせるようになれば利点はある。欠点も山盛りだが。
これを批判する人…女性、女権団は当然存在しているが、科学者の好奇心に勝てる者はいない。それは政府の中にもあり、これに投資をする上位階級者も沢山いる。
そして今日二人目の男性IS適合者…俺が出たことでこの研究も加速していくだろう。
実は俺がISを動かせなかった時はここに就職しようかと思ったのは秘密だ。
ここに来るのは後数年後だと思っていたのだが。いやはや、人生とは何が起こるか分からない。
「それでは、ISスーツを着用してもらいます。着替え終わりましたらお声かけ下さい」
渡された少し短めのTシャツと長めの短パン型のISスーツを、用意された一室で着替える。
一度全裸にならなきゃいけないからな、これは。まあ着けたら着けたでゴワッとするんだけど。
そして上下に付けられているスイッチを押すと……
「おぅっ」
生地の素材に微弱電流が流れ、生地が肌に吸い付く感覚に思わず声が出た。
実を言うと、ISスーツを着るのは今回が初めてである。
当然と言えば当然なのだが、男性用のISスーツは一般販売されていない。女性用のISスーツを触る機会はあったのだが、流石に女物と明言されているものを、進んで着ようとは思わなかった。
好奇心より自尊心と羞恥心が勝った結果である、悲しいことだ。
因みに、このISスーツは耐弾性、対刃性にも優れている。薄いから衝撃はそのまま来るし、限度もあるが。更にISを通して随時メディカルチェックをする画期的なスーツである。
「これもあの人が作ったんだよな。一体何者なんだよ」
あの人とは篠ノ之束博士のこと。ISに関する様々な技術を世界に知らしめ、467のISコアを製造して行方不明となった。
現在その行方を様々な国家が追っているが、未だに所在は掴めていないという。
何故篠ノ之博士はISを女性にしか使えなくしたのだろう。何度も何度も考えている事だ。意図的にやったのか? それとも偶発的か。いくら考えとも答えは出ないままだけど。
「レーデルハイトさーん、着替え終わりましたか?」
「あ、すいません! 少し手間取ってしまって」
「お手伝い致しましょうか?」
「いえ結構です! 今出ます」
お手伝いってなんですか? 入られたらたまらんと体当たり張りにドアを開けにいく。
「うん、サイズは大丈夫みたい、良かったわ。どうしかしたの?」
「いや、今までこう肌にフィットするやつ着たことないのでちょっと、なんか」
「裸みたいって感じかなぁ?」
後ろからイタズラっぽい声が聞こえたと思うと、何かに尻を鷲掴みにされた。それはもうグワシッと。
「ひょあぁ!!?」
「んーー、十代のお尻はなんでこんなに柔らかいのかねぇ。ほれぇほれぇ」
「うおぁぁ!!?」
揉みし抱かれた手を振り払いばっと振り向くと、なんか………変な人がいた。
スク水型のISスーツ、右胸部分にカガリビと片仮名でかかれておりその上から白衣を羽織っている。うん、そこまではまだ良い、問題はそのあと。
室内なのに麦わら帽子と水中ゴーグル、しかも銛を携えている。
屋内なのに、なんだこのアウトドア感バリバリな感じな人は。まるでまだ出発してもいないのに海が楽しみすぎてスリーカウントで入る勢いの子供のようじゃないか。
「篝火さん、余り年下の子をいじめないであげてください」
「もー良いじゃないスキンシップよスキンシップ、若々しい肌に触れると自然と肌も若返るのよ? ねぇねぇ、後でお姉さんと良いことしなぁい? 君好みだから私は大歓迎だよぉ?」
篝火と呼ばれた水中眼鏡さんがポヨンと豊満な胸を持ち上げて言う。この質量、山田元代表候補生にも引けをとらない。
つまり目のやり場に困る。
「おうおう、真っ赤にしちゃってぇ可愛いじゃないか」
「篝火さん」
「はいはいわかったわかった、あんたが疾風・レーデルハイトだね?」
「は、はい」
水中眼鏡をパチンと外し、切れ長の目をより細めた。
「私は篝火ヒカルノ、倉持技研の第二研究所所長だよ」
「倉持技研?」
「あれ、知らない?」
「すいません」
「あーいいよいいよ、まあ分かりやすく言えば織斑一夏の専用機を作ったとこだね」
まあなんとも断片的かつ分かりやすい説明だこと。
「その倉持技研の人が何故?」
「んー? 単に興味本意。今回は私が君をジックリねっとり調べてあげるからねん」
切れ長の瞳がギランと光る。狩人、いやこれは獲物を前にした獣の目。
「よ、宜しくお願いします。篝火さん」
「硬い硬い、ヒカルノで良いよ。よしそれじゃ行くよ少年」
篝火ヒカルノさんは悠々と歩いていった。
銛を持ったまま。
『じゃあテスト始めるよ、アー・ユー・レディ?』
ヒカルノさんがスピーカーとガラス越しに呼び掛けた。流石に銛は持ってないようだ。
目の前には余り馴染みのないが、よく知っているネイビー・カラーのISが鎮座していた。
「ご、ゴー」
『そこは変身! って言わなきゃ駄目だよ眼鏡君!』
無茶ぶりを言ってくれる。
あいにく振って成分を高める容器や災害レベルを上げる引金は持ち合わせていない。
『先ずは目の前のラファールに乗ってみな。乗り方はわかるかい?』
「問題ないです」
傍らに置いてあるハイパーセンサーのヘッドセットを装着し、中の空洞の部分に腰かけるように寄りかかると、左右に開いていた装甲が集まるように装着される、空気が抜ける音と共に、ISが自分の体にフィットし馴染んでいくのがわかる。
一瞬世界が凝縮されるような感覚の後に景色が数段と鮮明になる、視界もそれに適応し、すみにウィンドウが何個か現れ、真ん中にAIからのポップアップが表示される。
『ラファール・リヴァイヴ、起動完了』
およそ二ヶ月間乗り続けたなかで一度たりとも表示されなかったメッセージに、テンションがどうしようもなく底上げされていくのを感じた。
【ラファール・リヴァイヴ】
打鉄に続いて世界シェア第三位の第二世代型IS。コンセプトは汎用性と機動力。機体各部には武装のハードポイントがあり大量の武器を量子変換せずに装備可能、更に量子変換領域・バススロットの多さもあり、この事から別名、空飛ぶ武装庫。打鉄と同じく使いやすさと整備性の高さから、IS学園の訓練機としても使われている。
『気分はどうだい?』
「この世に生を受けたことに感謝するレベルで最高です」
『オーケー! そいつは重畳。じゃあ検査1。ポイントまで歩行。そこから第二ポイントまでダッシュ』
3メートル地点に1と表示されたマーカー、足元に2と表示されたマーカーが現れる。
行って戻ってこいということか。
深呼吸をし、目を見開いて右足を大きく踏み出す。足と思考の動きに合わせてISの足も前に動き、ラファールはズシッと一歩。踏み込んだ。
「おぉ」
足が動いたというだけで興奮を隠しきれない。
段々とペースを上げていき、問題なく、一つ目をクリアした。
『んー、なかなか良い感じじゃないか。よし次いってみよう。まだまだやること一杯だからね?』
「はい!」
望むところだ。
ーーー◇ーーー
「これで初日は終わりね。明日も検査あるから宜しくね」
「今日はありがとうございました」
「おう。因みにお姉さんはもうこれないからそこも宜しく、どう? 寂しいだろぉ?」
「そ、そうですね、アハハハ」
「あ、今『もう会わなくてすんで良かった』って思ったな? お姉さん悲しい」
「え、いやそんなことは!」
「お! じゃあこのあとお姉さんとシッポリアフターを楽しむかい?」
「シッ!?」
「冗談冗談! イヤー君はほんとにからかいがいがあるよハッハッハ」
俺の純情なピュアハートを弄ばないでください。
「はい、これが今日の検査結果。まあこれから頑張れよ少年!」
ヒカルノさんはバシッと俺の肩を叩いて去っていった。銛を忘れずに。
「なんともまあ、強烈なお人ですね」
「あれでも凄い人なんですよ」
うん、凄い。いろんな意味で。暫く忘れなさそうだ。
検査が終わったあとに父さんと合流した。検査の間に何をしてかと聞くと、パチンコと答えた。大企業の婿養子がパチンコとはこれ如何に。因みに大負けとのこと。
しかしなんていうか。マスコミは凄い、研究所の表から出ようとしたらワラワラいた。マスコミの情報網は侮れない。
そんな終わるまで待機の姿勢を崩さないマスコミを尻目に裏口からコッソリと研究所を後にした。
「お疲れさん、今日はどうだった」
「願わくばこれが夢じゃないことを願う」
「まだ言ってんのかよ」
「当たり前だよ、俺がこの日をどれだけ待ち望んでいたか分かるだろ? でも楽しかったぁ、明日も乗れると思うと、なんかフィーバーしそう」
ISで歩いたり走ったり、軽くであるけど飛んでみたり、ずっと待ち望んでいた体験だったから、まだ興奮がおさまらない。
「検査終わったらどうなるんだろ」
「十中八九IS学園行きだろうな」
「やっぱりそうか」
「それか何処ぞの研究所でモルモット生活」
「それは絶対嫌だ! そんなことしたら俺ガチで何かしでかすからな」
「冗談だ、もしそうなったら工業のコネやパイプフル活用して止めてやるからよ」
笑えない冗談だ、もしそうなったら男性IS適合者が大勢発見されるまで缶詰状態、最悪解剖されてそのまま人生エンドもあり得なくもない。
想像しただけで身震いした。
あ、検査結果。
封筒を丁寧にちぎって書類を取りだし、ある一つの項目を探し続ける。
「IS適正B+だって」
「お、いいじゃないか」
「俺はB-ぐらいだと思ったんだが、これは凄いな……」
「こりゃ代表候補生も夢ではないな」
「適正ならね。先ずは技量を積まなきゃなぁ。んで、ISを動かせた要因…………不明」
これは予想通りだ。もし判明したら世界がひっくり返る。
「今年の誕生日プレゼントは何ともまあビッグなものだなあ」
「むしろ今までなんでうごかせなかったんだっていうね」
「やっぱり誕生日だから?」
「神様の気紛れとか」
そんなファンシーなことあってたまるか。突然動かせたこと自体特異なことなのに。
いや、織斑一夏も偶然触れた打鉄で起動している。俺と織斑は同世代、何か関係があるのだろうか………
「まあなんにせよ、明日から忙しくなるぞ、お前の専用機作ってやらねえとな」
「ふぁ? マジで?」
本来ISの個人所有、専用機というのは各国の代表、代表候補生、軍人や特殊部隊に限られるが。それよりも特に稀少な男性IS適合者はデータサンプリングという名目で特別に専用機が与えられる。
それ以上に、専用機は持ち運び用にアクセサリー化する機能を持っている、つまり、誰にも警戒されることなく身の丈以上の武器を持ち歩くと言う事に他ならない
「工業が作らなかったら、政府が見繕うんだ。どうせなら工業で作ったほうが色々と+になる」
「把握した。世代は?」
「第三世代型だ、今うちんとこで試作中の奴を組み込む予定だ。それでだな、お前のアレを引っ張り出してくれないか?」
「アレとは?」
「お前のパソコンに入ってるアレ」
「アレを!? あんな落書きが役に立つのか?」
父さん言っていたアレとは、俺のパソコンに入っている設計図だ。独力と知識で書きなぐられたISの武器や機体の設計図が無数に存在している。完全に趣味で作った物なので、落書きという表現が一番似合う。
「役に立つ、前にチラッと見た時。幾つか良い線をいっていた物があった」
「いやいやそんな」
「ほんとだぞ? 充分技術者の素質がある。誇って良いぞ?」
「マジ?」
「おう、コンセプトとか言ってくれたら、それに沿うよう出来るだけ譲歩してやるよ。折角の専用機なんだ、疾風が望むようなもんを作らないとな」
なんとも優遇された感が半端ない。
今日ほど企業の子という立場に感謝をしたことがない。
「新型ISの第三世代能力の実用化、ISスーツのオーダーメイド、その他書類等々」
「連日検査、荷造り、その他書類等々」
「「やることが一杯だ」」
脱力感ありありの声だったが俺と父さんの顔は笑っていた。
無理もなし、これから未知の経験が待ってると思えば笑わずにいられなかった。
つくづく思う、本当に人生は何が起こるか分からない。
ーーー◇ーーー
俺がISを動かしてから、早くも二週間がたった。
本当に過密な二週間だった。
各種検査、洒落にならない書類の山、IS学園の試験(入学が確定してるため飽くまで形式的なもの)、専用機の立ち会いアドバイザー。結局高校には数日ほどしか立ち寄れなかった。
だけど嬉しかったこともある。クラス総出で俺の送別会を開いてくれたのだ。
村上と柴多を含め、笑顔で激励をかけてくれたクラスメイトには正に涙物だった。同時に男子陣営から嫉妬の羨みの感情を向けられて気がするが、そこは気づかないフリでスルーさせてもらった。
今から電車に乗り、IS学園行きのモノレールに乗り換える、今日から俺の輝かしい(予定)の新生スクールライフが始まる。
のだが、現在問題発生につき対処中である。
「ヴぅぅぅ、疾風兄~~~」
「泣くなよ楓、もうそんな歳じゃないだろ」
「だっでぇぇ」
楓が泣き出したのだ、昨日あたりからずっと涙目であったが、遂に決壊してしまったようで、現在進行形で放水している訳だ。
しかも場の悪いことに現在最寄りのJR駅、人集りが多いのも相まって非常に気不味いことこの上ない。
しかも俺が身に纏うのは学ランではなく、白地に赤と黒を基調としたIS学園の制服。普通の学ランやブレザーと違って明るい彩色のそれは、なかなか特別感バリバリの制服だ。
こんなワンオフ仕様な制服は確実に異彩を放っており、上述の楓ダム崩壊も後押ししてかなり目立っていた。
「ほーら楓、疾風を困らせないの。困らせるなら長男を困らせなさい」
「ちょっと待って母さん、矛先をこっちに向けないで」
「グレイ兄は疾風兄じゃないもん!!」
「残念だったわねグレイ、フラれたわよ」
「いや別に僕は……」
「ドンマイ」
「おかしいな、何故か分からないが空しさと遣る瀬なさが沸いてきたぞ」
「やめよう皆。グレイ兄の顔に影が見えるから、青と黒の」
楓のブラコンは何故かグレイ兄には向かない。外見を含めた全てのスペックにおいて俺よりグレイ兄が勝っているというのに、楓はグレイに靡かない。
補足として、楓は決してグレイ兄が嫌いという訳ではない。しかし明らかに懐き度に差がある。何故だ………
「行かないで疾風兄ぃ」
「お前の気持ちは分かるが、答えはNOだ」
「私を置いて他の女に会うのね!!」
「女子校だからな」
「疾風兄の浮気者!!」
「楓、俺達血の繋がった兄妹なんだぜ?」
「愛の前には些細な障害だよ!」
「法律の前には無力よ」
「うぅぅぅぅ………」
尽く論破され。楓ダムが突貫工事中なのに早くも決壊しそうだ。
女の涙。それは何時の時代にでも効果を発揮する、女にだけ許されたリーサルウェポン。この状況で再度泣かれてみろ、周りの注目は更にかさ増しされ、挙句の果てには何処ぞの馬鹿な女尊男卑主義者が警察を呼びかねない。
「楓ちゃんや」
「なによぅ。疾風兄なんか知らない!」
プイッと背中を向ける楓。だが、その肩は泣いているせいか震えている。
なんとかしなければならない、このままでは、折角の華々しい門出が妹に嫌われてスタートという悲惨な結果になってしまう。
………………仕方ない、使いたくは無かったが、こちらもリーサルウェポンを取り出すとしよう。
「残念だ、俺は楓が大好きだし。本当は離れたくないのにな」
「え! ほんと!?」
回れ右のほんの少しの間に泣き顔から笑顔に変わった妹。もしや嘘泣きでは? と疑うレベルの変わり身の早さは、尊敬の域に達する。
「あぁ、だけど俺は泣いてる楓よりも笑ってる楓が好きだし、笑顔で『頑張れ』って言われて見送られた方がやる気もアップなんだけどなぁ、残念だなぁ」
クッ、我ながらくさい台詞だ、口説き文句など俺には荷が重すぎる。
普通、女性にこんな事言っても相手方が納得する確率は低い。のだが………
「疾風兄頑張ってね! 愛してるぅ!!」
あっさり機嫌が直り、抱きついて俺の胸に頬ずる楓。
チョロい、チョロ過ぎる。ラノベヒロインもまっ青なレベルでチョロいぞマイシスター。お兄ちゃん君の今後が心配で仕方ないよ。
しかし俺も我ながら悪いやつだ、こう言えばこうなると分かった上で楓にこんなことを言っている。許せ楓、今のお兄ちゃんの頭はISで一杯なんだ。
いつもだろと言ってはいけない。
「疾風! 疾風!! うおぉぉぉぉ!! 間に合ったぁ!」
一難去ってなんとやら、勢いよくゴムが滑る音と共に必死の形相を浮かべた村上が自転車と共に颯爽と登場。
「あ、綺羅斗だ」
「やめろ! 下の名で呼ぶんじゃあない!」
「五月蝿い、今私は一年分の疾風兄成分を補給してるの。私の目の前に立つなら疾風兄の顔になって出直せ」
「え、なに? 俺の顔面の価値全否定なの? てか相変わらず俺に辛辣だな楓ちゃん!」
「お前の顔面偏差値などこの際どうでもいいが。どうしたお前、見送りに来たのか?」
「ん、ああ。最初はそんなつもりじゃなかったし、偶々近く通っただけだったんだけどさ。あんなもん見ちまったら来るしかあるめえよ」
「あんなもん?」
「ほれっ」
「ん?」
村上が見せてくれたスマホにはTwitterのトレンドに俺の名前が……え、また?
もう判明から二週間たったから少しほとぼりが冷めたと思ったらまたランクインしている。しかも内容というのが。
「駅の前に二人目の男性操縦者とヴァルキリーが揃い踏み……ちょ、マジか」
「マジマジ、俺も書き込み見てここに来たわけだし」
楓の対処に夢中で周りを見ていなかったが、さっきよりも人集りがかなり増した気がする。よく見ると遠巻きからスマホで此方を撮影してる人がわんさかと。
これが有名人の気分か!
「ねえ、やっぱり本物だよね?」
「キャー! 奇跡! 私レーデルハイトさんのファンだったのよ!」
「サイン頼めばいけるか? シット! 色紙がねえ!」
「よしっ、これ出せばバズる!!」
「兄と妹の禁断の愛。ハァハァ」
ヤバイヤバイヤバイ。このままでは鰻登りに野次馬が増えてしまう。情報社会、恐ろしや。
「じゃあそろそろ行くわ。楓、お願いだから離れて」
「いや! まだ補給仕切れてない! 後一時間!」
「遅刻するから! かくなる上は、その無防備な脇を狙う!」
「ヒョっ!? アヒャヒャヒャヒャ!!」
「HEY! 村上パース!」
「俺ぇ!?」
奥義、脇擽りの術により力の抜けた楓をポーイと村上に投げつけ(押し付け)、家族からの声援を背に、その場を後にする。
押し付けられた村上が楓にボコボコにされてた気がするが、あえてスルーすることにした。
ーーー◇ーーー
「IS学園よ、私は帰ってきた」
無駄に良い声で核弾頭をブッパする男の台詞を目の前の巨大学園に言ってみた。誰も聞いてないと言ってはいけない。声量控え目だと言ってもいけない。
しかし二週間前に来た何処ぞの男が此処に戻ってこようとは、アイツは夢にも思うまい。
連絡を入れようと思ったが、そもそも俺はセシリアの連絡先を知らなかった、あの時は気分が高揚していてそんな配慮もなかった。また連絡するとは何だったのか。カッコ悪いですハイ。
それは一先ず置いておくとしよう。どうせ同じ学び舎、嫌でも顔を合わせるだろうさ。
頬を叩いて己を奮い立たせ、再び目の前の学園を見上げる。
「よし、行くか!」
俺の新たな夢、待ち焦がれた瞬間、色んな感情をゴチャゴチャに纏め。俺はIS学園に踏み出した。
北海道在住のブレイブです。地震は激しく停電もしましたが、生きてます。
更新が遅かったのは地震とは関係なく私の遅筆です、あしからず。
これから第四話のリメイク作業に入ります、今回ほど遅筆にはならないと願いたいです。