IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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本編
おまけ【超絶級スライダー】

の2本でお送りします


第31話【全部織斑一夏って奴の仕業なんだ】

「フンフフンフフーン♪ フンフフフフフーン♪ フンフフンフーン♪ フン、フフンフーン♪」

 

 

 夏休みも残り10日となったIS学園の一年生寮の廊下に響く鼻歌。

 軽やかな足取り、揺れるツインテール。

 健康的を体現したような小柄な少女。

 顔面の筋肉が完全に労働放棄した凰鈴音が歩いていた。

 

「フフフ、フフフフフフフフフフ」

 

 立ち止まり、突然こぼれだす笑い声。

 傍目から見たら完全に不審人物である。

 

「あー! 早く明日にならないかなぁ!」

 

 不意に大きな声を出す鈴。

 傍目から見たら完全に(割愛)

 

 だがそんなことなど気にならないし、そもそも気にする気もないのが今の凰鈴音だった。

 

「フフフ、ウフー……ウヒュヒュヒュヒュ」

 

 黙っていようにも漏れてしまう笑み。それほど今の鈴の機嫌は天井知らずだったのだ。

 学生寮のロビーの開けた空間に出てもその笑みは水漏れしつづけ、むしろ更に奇怪な声に変わりもはや笑い声なのかもわからない。

 

 そんな鈴を見てる男が一人。

 

「ウヒュヒュヒュ………あれ? 疾風、居たの?」

「ああ(今すぐ逃げ出したいけどな)」

 

 ロビーの真ん中に陣取る円形ソファに右手にスマホ、左手に紙パックの苺オレを握って珍獣を見るような目で見つめる疾風。

 気持ちを落ち着かせる為に残った苺オレを音をたてて飲み干す。

 

「じゃ」

 

 空の紙パックをゴミ箱に捨てることなく持ち帰る疾風。走らないギリギリの競歩速度でロビーを去ろうと試みた。

 

「まあまあ待ちなさいよ疾風!」

「え、なに」

 

 掴んでくる満面の笑みを浮かべる鈴に引き気味な疾風。

 普段一夏程じゃなくても人当たりの良い彼だが、正直言って今の鈴とは関わりたくない何かを感じていたのだった。

 

「なんでこんなに上機嫌だと思う? 知りたいわよね? 知りたくないわけないわよね? だから話聞いて! ね、ね、ね!?」

(知りたくない………って言える雰囲気じゃねーな、コリャ)

 

 早々に諦めを悟った疾風は痛いぐらい引っ張られながらソファに押し戻された。

 今まで見たなかで一番のニコニコ顔の鈴はしばらく身悶えしたあとに口を開いた。

 

「ねねね、なんでこんなに嬉しそうなのでしょう、かっ!」

「………一夏となんかあった?」

メイ・ツォ(そのとおり)!」

 

 早期終了を求める疾風は考えるまでもない最適解を延べた。

 思わず母国語が出た鈴はまさにブレーキが壊れたトラックと同義に見える。

 

「ニュフフ、実はね、実はね実はね実はね! 一夏とデートに行くの! 二人っきりで!」

「(付き合ったじゃないのか。そりゃそうか)ああそう。それさ、ほんとに二人っきりなのか? あいつにちゃんと確認取った?」

「とったわよ! ていうかペアチケットだからどうあがいても二人っきりよっ!」

「そうか、よかったな」

「水着も服も新しいの出して、あと下着も出したのよ、結構気合い入ったやつでね。臨海学校で肌見せるってわかってから食生活とか生活習慣とかも気をつけて体型も完璧にしたのよ! ………ほ、ほら。二人っきりで過ごすうちになんやかんやそんな感じやそんな雰囲気になるかもしれないじゃない!? って何言わせてんのよもー!」

「なんも、いたっ、言ってない」

 

 バシッ! バシッ! と割りとシャレにならないレベルで疾風の背中をぶったたく鈴。

 

 そこで疾風は唐突に理解する(あっ、これ飲み会で絡んでくるウザい上司的な奴だ)、と。

 キャー! と頬を抑えて足をバタつかせる鈴の姿はその低身長な体躯も相まって中学生通り越して小学生のようだったが。中身は中年の親父のよう。

 

「はっ! こうしちゃいられない! 明日の準備とか再確認しなきゃ。じゃあね疾風! おやすみー!!」

 

 喋るだけ喋った鈴が足をグルグルになる勢いでロビーを走り去り。疾風はポツンと一人取り残された。

 

 ダッシュで自分の部屋に戻るやベッドにダイブ。ベッドに乗っていたルームメイトのティナ・ハミルトンがチョコバーを落としそうになった。

 

「鈴、行きなり人のベッドに飛び込むのやめてくんない? あんたのベッドあっち」

「えへへー、ゴメンネー」

 

 ジトッとした目線など全然気にならない鈴はバタバタとティナのベッドに顔を埋める。

 

「ねえ、鈴」

「エヘヘ」

「鈴さーん」

「ヘヘヘヘ」

「………貧乳………」

「なんか言ったかゴラァっ!!」

「あ、それは聞こえるのね。はい自分のベッドに戻る戻る」

 

 牙を剥き出しにしてうなる鈴をベッドから追い出すティナは新しいチョコバー(ミント味)を取り出す。

 自分のベッドに放り投げられた鈴は再び「エヘヘ」と笑い続ける。

 

(あんま期待し過ぎないほうがいい。って言うべきかなぁ)

「いい感じにいってー、それからー、それからー。デュヘヘヘヘ」

(まあいいや)

 

 もはや興味の欠片もないティナは本日三本目のチョコバーにかじりついた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 カッと快晴。絶好のデート日和。

 今月出来たばかりのアミューズメントプール施設【ウォーターワールド】

 そのオープンイベントのチケットを偶然手に入れた鈴は当然のことながら一夏をデートに誘った。

 前売り券は完売し、当日券は二時間待ちという超人気施設。

 他のラバーズを出し抜いた鈴の浮かれようはもう記した通り。今回のデートで今度こそ進展を! という意気込みで望んだ。

 

 望んだのだが。

 

「おぉぉぉっそい!!」

 

 ウォーターワールドのゲート前で地団駄を踏むの必死に堪える鈴は変わりに大きい声を出した。

 声を出すのも無理はない。肝心のお相手である一夏が待ち合わせ時間になっても来ないのだ。

 

 プッツン切れた鈴が一夏に向かって電話をかけようとした瞬間、スマホが鳴った。

 画面には愛しい唐変木の名前が。

 

「もしもしぃ! あんた今どこ!?」

「学校だ」

「はいぃっ!? なんで出発すらしてないのよ!」

「あー、いやその。昨日な、山田先生から突然連絡がきて。ほら、夏休み前に白式が第二次形態移行(セカンド・シフト)しただろ? それで今日倉持技研から研究員が来てデータ取りしないといけないらしくて」

「………はっ?」

「本当にごめん。今日は行けそうにない」

「なぁぁぁああにぃぃぃぃ!!?」

 

 沸点が一気に突破した。

 耳元でキーンと大声を出された一夏が慌てて理由を話した。

 

「いや、俺も昨日言われた時に電話しようと思ったんだよ。でもお前電話出なかったし」

「部屋に来なさいよ!!」

「行ったよ。でもお前が寝てるってルームメイトの子に言われたから、なぁ?」

「んガァ、ぁ」

 

 確かに昨日は鈴も驚くぐらい早く寝たし、携帯電話も電源を切った。

 ティナには緊急時以外には起こさないようにと念入りに言っておいた。

 

(馬鹿ぁぁ! 馬鹿! 馬鹿ティナ! アメ乳!! これこそ緊急時でしょうが!!)

 

 帰ったら覚えてなさいとスマホを砕かんばかりに握りしめる鈴。

 

 補足しておくが。ティナ・ハミルトンに非はない(とも言える)。一夏に鈴が寝ていると言った時に一夏は用を言わずに立ち去ったし。なら一夏が来たと寝ている鈴に伝えようとも思ったが。

 のちの独占取材でティナは。

 

「四六時中ウザったらしいぐらい気味悪い笑い声で浮かれまくってる鈴に正直イラっとした」

 

 というコメントを残したそうだ。

 

「り、鈴? 聞こえてるか?」

「ひょ?」

「チケットの期限が今日までだし、俺はこの通りいけなくなってしまったし。かといって無駄にするのも勿体ないから」

 

 思わず魂が抜け落ちたような返事を気にすることなく一夏は続けた。

 

「箒にチケットをやったから、一緒に楽しんできてくれ」

「はっ?」

「あれ、箒いないか? ゲート前で待ち合わせって言っておいたんだけど」

 

 キョロキョロと辺りを見回す。

 いた、鈴がいるゲートの反対側に。なにやらソワソワと誰かを待ちながらも、青筋をたてて誰かを待っている風に見えた。

 

「あ、あんたねぇ………自分がなにしたか分かってるの!?」

「うおっびっくりした!いきなり大声出すなよ。え? 今すぐですか? すいませんもう少し、駄目? あー分かりましたすいません」

「もしもし?」

「わりぃ、鈴。今すぐ行かなきゃならなくなった。本当に悪いけど、プールは箒と楽しんでくれ。それじゃ」

 

 電話が、切れた。

 沸点を越えた怒りは水蒸気となって霧散とし、鈴のメンタルは真っ白になった。

 

 しばらく立ち尽くした後。鈴はフラフラとおぼつかない足取りで反対側の箒の方に歩いていく。

 

「むっ。鈴じゃないか。き、奇遇だなこんなところで(鈴も誰かときているのだろうか。まあ、私は一夏とだけどな、フフフ)」

 

 なにも知らない箒は鈴との遭遇に動揺しながらも心の中の喜びを滲ませる。

 その喜びが直ぐに崩れ去ることも知らずに。

 

「ケケケ、おめでたい顔してるわね」

「けけ? ど、どうした鈴。顔が変だぞ?」

「ケケッ!」

 

 目と口が異様に釣り上がって笑う鈴を見て箒は妖魔という言葉が浮かんだ。

 ゆらっと上がる両手はガッシリと箒の両肩を固定した。

 

「よく聞きなさい箒。一夏は来ないわ」

「え、なっ。なんで私が一夏と来ることを知って!?」

「そんなこと今はどうでもいいわ。とにかく、一夏は、来ないのよ! 此処に!」

「え? ほ?」

「あんたは今日、一夏とデートをすることはないのよ!」

「………そんなバハマ」

 

 思わず言葉がバグる箒。ドサッと手に持っていたバッグを地に落とした。

 

「………」

「………」

「………状況を整理したい。とりあえず中に入ろう。お前には色々聞きたいことがある」

「………ケケッ」

 

 フラフラとモノクロな雰囲気を漂わせながら館内に入っていく美少女二人。

 中に入っていく二人の姿が揺らいで見えたのは。きっと夏の陽炎の仕業に違いない。多分。

 

 

 

 

 

 

「つまり、一夏は自分の代わりに鈴と遊びに行ってくれ。ということを言ったのだな」

「そーねー」

 

 ズゴゴゴと中身の入っていないジュースグラスを啜る鈴。

 箒は頭を抱えてため息を吐いた。

 

「はぁ、正直おかしいと思った。一夏が私に突然デートを誘いにくるなんてことを」

「嘘つけ。私服、めっちゃ気合い入ってる癖に」

「あ、当たり前だ。一夏とデートかもしれないと思ったら気合いも入る! お前だってそうだろう」

「うぐっ……」

 

 嫌みを正論で返された鈴は押し黙るしかなかった。結果的にこの会話は自動的に終了を迎えた。

 

 チラッと横目に他の客を見る。

 家族連れもいれば友達と共に遊んでいるものもいる。

 そんな中、一際二人の目に止まったのは男女一人ずつ、いわゆるカップル(っぽい)客たちだった。

 

「見て、あそこの赤いビキニの子、腕組んでるわよ胸当ててるわよ!」

「あそこの黄色いのは男の方にあーんをしているぞ」

「ちょ。なにあの紫の子。凄い気合い入ってるんだけど。あっ」

「お、おおっ………」

 

 男女組を見つけては羨ま恨めしい視線を送り続ける箒と鈴。

 本当なら今頃一夏と二人っきりで思う存分プールで遊び。ゆくゆくは………ゆくゆくは………

 

 やめよう。これ以上惨めなることはないだろう。と、視線を外そうとしたその時。またも一組の男女が目に入った。

 

 男の方はタオルを首にかけた眼鏡の男。特に可もなく不可もなく。何処にでもいるような同い年ぐらいの少年。

 女の方は思わず目を瞬いてしまう程の美少女。足先から頭のてっぺんまでバランスの取れた黄金比のようなスタイル。

 白いビキニ、長い金髪に青いヘッドドレス。特徴的なのは左右一つずつの縦ロール………

 

「「あれ?」」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「ふいー。結構周ったな」

「これでもまだ半分ですわよ?」

「遊園地かよ此処は」

 

 夏休みも、手で数える程になり。

 俺とセシリアはウォーター・ワールドに遊びに来ていた。

 ひとしきり遊んだあと、小休憩のついでに飲み物を買っていくことに。

 

 全国でも最大級の屋内レジャーランドプール施設のウォーターワールド。そのオープンイベントに俺とセシリアはあるつてで前売り券を入手したのだ。

 そのつてというのが。一夏の家に行く前、柴田からケーキを買った時だ。

 

 

 

「あ、ちょっと待って。疾風に渡したい物が」

「ん? なにこれ。チケット?」

「もうすぐ出来るでっかいプール施設。ウォーターワールドのペアチケット」

「これ、結構入手困難と言われる代物ですわよね?」

「え、マジで? 貰えるなら貰っちゃうぞ俺」

「いいよいいよ。抜け出せない用事が入ってさ。ほんとは村上あたりにやろうかと思ったけど、丁度疾風が来たから。誰か誘って行ってきたら?」

「ふむ」

 

 

 

 

 とまあ、そんなこんなで眉唾もののチケットを入手した俺はセシリアを誘って乗り出したという訳だった。

 

「しかしあのウォータースライダーやばかったよな」

「身長、年齢制限がかかるのも当然でしたわね」

「まさかあんなことになろうとは」

「思い出さないでくださいましっ!」

「ごめんごめん。 てか、もうすぐお昼だよな。ちょっと早いけど飯にするか?」

「そ、そうですわね。それがよろしいかと」

「ここ食い物も注目されてるらしいから楽し……み」

 

 ふと、視線を感じた俺は思わずその方向へ。釣られてセシリアもチラリ。

 

「「あれ?」」

「「あ……」」

 

 なんの因果か。私服姿の箒、鈴と目があった。

 あれ、鈴って今日一夏とデートじゃなかったか? 昨日ウザイぐらい浮かれてなかったけ………

 

「あそこにいるのは……」

「待てセシリアっ! 見なかったことにしろ目線をそらせ!」

「え。な、何故? 一声かけるぐらいでも」

 

 いや。駄目だ。

 こんな時に無駄に冴えまくる俺のブレインが警報を出している。

 とりあえずここは逃げることを優先して。

 

「なに目線反らしてしてんのよあんたら」

「ひっ」

 

 こ、こいつ。脳内(プライベート・チャネル)に直接! 

 

「楽しそうねぇあんたたち。ちょっとこっちに来なさいよ。ねぇ?」

「え、いや。いいよ。多分邪魔になるだろうし」

「そんな心配1ミクロンもないから早く来なさいよコラ」

 

 超絶不機嫌な鈴の声が脳内に響き渡る。

 い、行きたくねぇ。

 

「な、なんですの? 何故あんなに鈴さんは怒って。わたくしたち何か粗相を」

「いや、俺達は悪くないよ。絶対」

「早くこい」

「……箒」

「すまん二人とも。今の鈴を止めれる元気はない………」

 

 鈴とは対照的にこちらは随分と憔悴しきった声。

 選択肢がないってあんまりだと思うんだ。

 居るかどうかわからない運命の神を勝手に呪いながら、俺達は熊の巣穴に潜り込んでいった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「というわけよ。酷くない!? あんまりじゃない!? 絶許じゃない!?」

「あー、うん。それは酷い」

 

 鈴から聞いた内容が想像以上に頭お抱え案件だったことにこっちも疲労が出てきそうだ。

 

「てかあんた一夏と同室でしょうが!あいつが用事出来たって、なんで教えてくれないのよ!」

「まさか今日だったなんて思わなかったんだよ。俺のチケットも今日までだったけど。流石にそこまで頭回らねえって」

 

 とりあえず一夏。お前言葉が足りねえよ。

 鈴のそれが不幸な偶然の連続だとしても。箒にはちゃんと説明してやれよ。鈴が怒りすぎて妖怪になるのも無理ない。ていうか箒そんなに怒って無さそうだな。

 

「いや、鈴が余りにも可哀想な気がして。怒りよりも消失感が勝ってな」

 

 ああ、他人が怒ってると自分が冷静になるっていうアレ。

 

「とりあえず一夏は殴る。これ決定」

「付き合おう、鈴」

「同時に無理難題押し付けてやれ。援護してやる。メンタルボッコボッコにしてやろう」

(心なしか疾風が乗り気ですわ……)

 

 固く拳を交わす三人を前についていけてないセシリアはおとなしく静観を決め込んだ。

 

「で、お前らどうすんの?」

「いやーなんか今さら泳ぐ気なんてないわ」

「私も興が削がれた。このまま帰ることにする………」

 

 二人が立ち上がろうとした瞬間、館内アナウンスが響き渡った。

 

「本日のメインイベント! 水上ペアタッグ障害物レースは午後一時に開始致します! 参加希望の方は………」

 

 一瞬動きを止めた二人だが、特に興味がないのでそのまま帰ろうとする。が、その後の言葉にケモミミ宜しくピーンと耳を立てた。

 

「優勝賞品はなんと! 沖縄五泊六日の旅をペアでご招待ー!!」

((これだ!!))

 

 箒と鈴の脳内は一夏と二人っきりのアバンチュールが瞬時加速の勢いで構築されていく。

 

「箒!」

「ああ!」

「目指せ優勝!!」

 

 ガシッと腕を合わせる二人。

 その信念は何者にも砕ける物ではなかった。

 

(箒にはなんか考えて奪いましょ)

(鈴には代わりのものを与えて譲って貰おう)

 

「なあセシリア」

「しっ。お口チャックですわ疾風」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「参加したいんですけど」

「ニコー」

「あの………参加したい………」

「ニコー」

「なあ、行こうぜ」

「いやでも………わかった」

 

 すごすごと男性ペアが申し込むことなく列から離れていった。それを見た他の男子ペアもそれとなしに列を抜けていった。

 

「ムッフッフ。上手くいっているな」

 

 受付の様子をモニター越しに見ている少し小太りの男は去り行く男どもを見てほくそ笑む。

 

 先ほど参加を希望しようとしている男は、受付の女性の「お前空気読めよ」という無言の笑みに退けられている。

 

「むさ苦しい男より瑞々しい女ばかりの方が盛り上がるに決まっている。これだから美学がわからん者は困る」

 

 女性優遇社会であるが。水上を走り回るのは女性がいいに決まっている。

 それは主催者であり、この場のオーナーである向島光一郎(むこうじま こういちろう)の指針、というより趣味であった。

 

 しかしこの男、結構欲深く。はっきり言うとフェミニスト(スケベ親父)な向島オーナー(妻子持ち)は眉を潜めていた。

 

(先程申し込んでいたポニーテールとツインテールの子は可愛かった。他の子も勿論可愛い子ばかり。しかしこれだ!! という子がなかなか来ないな……)

 

 ムムムと唸っているオーナー。ふと、モニターに一際目立つ金髪の子が。

 

「ん? おおっ!?」

 

 思わず声を出してスタンドアップ。

 

「な、なななな何故此処にあのセシリア・オルコットがっ!?」

 

 向島光一郎は何度も目を擦ってはモニターを見てを繰り返した。

 それもその筈。このもうすぐ五十代はセシリアの超絶ファンだった。

 本人の好きな金髪属性にモデル、それに加えてお嬢様と代表候補生というてんこ盛りは見事オーナーの心を撃ち抜いた。

 

(セシリア・オルコットが出場するとなれば会場の熱気も最高潮間違いなし! そして何より! 私が見たい!!!)

 

 後半が本音である。

 

「青野君! 三番目に来る青いヘッドドレスを付けた子は絶対に出場させるのだ! わかったな! オーナー命令だ!」

「りょーかいでーす」

 

 無線越しに受付嬢に指示を出す。

 時を待たずにセシリアがシートにサインをするのを見た瞬間、オーナーのテンションは天井突破した。

 

「やった! やったぞ! 我! 勝利せり!!ワーハーハッハッハッハッ!!」

 

 のけぞって全身で喜びを発する向島オーナー。側近の秘書はいつものことと大した反応もしなかった。

 止めるものがいないまま、向島オーナーの笑いはしばらく止まることはなかった。

 

 

 

 


 

 Q・どおして誰もIS二次創作でウォーターワールドを出さないんだ!! 

 A・出さなくても問題ないからです。

 

 ぬあーー!! (爆散)

 

 どうも、作者です。

 いやーほんと少ない。見たなかで一作しか出てこなかったけど舞台がウォーターワールドで水上レースなどなかった。勿論オーナーもいない。

 見逃してるだけだろうけどもね。

 

 そして当然ながら一話では終わらないのじゃ。

 

 今回はまだ続きます。

 尺が余ったので。簡素ですが、疾風とセシリアのプールデートをどぞ。

 

 


 

 

【超絶級スライダー】

 

 

 

「でっか」

「屋内プール施設で日本一の大きさですからね」

 

 中に入ってみてわかるその広大さよ。見取り図を見るとどごぞのランドを思い出す。

 さっき見たけど。当日券2時間待ちとかだった。平時なら絶対諦めてたな。

 

「疾風の水着、臨海学校とおなじですわね」

「別に変える意味ないし。一つありゃ十分だろ」

「疾風ってファッションにこだわりとかありませんの?」

 

 ない。

 そんなファッション云々を言っているセシリアの水着は前回とは違って、少し布地の面積が一回り小さい白の水着。

 無地の白だが。面積が少ない分本人の肉感的な魅力がより一層引き立っており、水着を繋ぐリングパーツがなおのことセシリアを扇情的に見せている。

 自分のスタイルに自信を持つセシリアなればこその水着だろう。

 

「ん? なんですの疾風。もしかして、わたくしの水着姿に見惚れまして?」

「ああ見惚れた。やっぱセシリアは美人だよな」

「………からかいがいのない」

「素直に喜べよお前」

 

 プイっと視線を外すセシリアに思わず苦笑いをしてしまう。

 

 しかし色々あるなー。どっから回ろうかな。やっぱり王道のウォータースライダー? 波のプールもいいな。

 

「あのー」

「はい?」

 

 俺と反対側からセシリアに声を書ける男の人。ん、イケメンの部類。

 

「お一人ですか? 良ければ一緒に遊びませんか?」

「え?」

「すいませんこいつ貴女を見て居てもたってもいられなくなっちまって」

「言うなっ! えと、どうでしょう?」

 

 これはナンパだな。周りを見ると遠巻きにこちら、というよりセシリアを見ている男がそこらじゅうに居た。

 見た感じチャラ男的な下心丸出しじゃないだけ好印象ではあるが。

 

「すいません、うちの連れになんか用ですか?」

「えっ!? あ、すいません! 気づかなくて………それではっ」

「あ、おい待てって!」

 

 気まずくなった男は目を泳がせた後立ち去っていった。明らかに落ち込んでいる。

 

「………」

 

 が、俺も同じぐらい憂鬱になっていた。

 雰囲気を見てみると悪気はなかったのだろうが、明らかに隣に居たのにも関わらず一緒に居ると思われてなかった。

 この前柴田にケーキを受けとる時も、俺を無視してセシリアを誘おうとしていた男がいた。あの時は明らかに俺が居るとわかってて声をかけたから尚更タチが悪かった。

 

「疾風、どうしましたの?」

「なあ、俺ってそんなにセシリアと釣り合ってない?」

「は?」

「いや別に気にしてる訳じゃないけど。男避けにすらなってないと思うと、いち男として悲しみを感じるといいますか」

 

 一夏だったら釣り合ってたかなぁ。

 グレイ兄といい楓といい、なんで俺には美形の遺伝子流れなかったのさ。

 

「疾風」

「はい? あいったぁ!」

 

 振り向いた瞬間にセシリアは俺の額に強烈なデコピンを噛ました。

 

「え、なん、なに?」

「まったく何を言うかと思えばそんなことですか」

「お前そんなことって」

 

 俺の顔面偏差値専用機持ちグループ内最底辺だぞ? 

 顔面偏差値トップのお嬢にとってそんなことですかこのヤロー。

 

「疾風がどれだけ顔がよかろうと醜男だろうと。わたくしにとってそれは些細なことにすらなりませんわ」

「いやお前醜男だったら見向きもしないだろ」

「話の腰を折らない。とにかく貴方がそんなこと気にする必要などありません。周りがとやかく言おうと、わたくしが誰と一緒に居るかなどわたくし自身が決めることです」

 

 うおぉ。なんともカッコいいこと言ってくれるなコイツ。俺が女なら確実に惚れてたわ。

 

「さて、先ずは何処に行きますか? わたくしウォーター・スライダーに興味があるのですが」

「もしかして初めて?」

「ええ。アミューズメントプールはこれまで縁がなかったので」

「じゃあウォータースライダー行きますか」

 

 

 

 

 

「おいセシリアー行きなり最難関コースは無謀だってー。先ずは中盤辺りからいこうぜー」

「問題ありません。このセシリア・オルコットに勝負を挑んできたのですから。受けてたたなければオルコット家の名が廃ります」

「誰も挑んでねーよ」

 

 異様に闘志を燃やすセシリアは階段を登っていく。

 それというのも。ウォーター・スライダーのコーナーで見たあの謳い文句だ。

 

【最難関コース! 君はこの激流を制覇できるか! やれるものならやってみろ!】

 

 と、キャラクターがビシッとこちらに指を指しているイラストに目を止めてしまったセシリアの心に火が着いてさあ大変。

 

 初級中級上級をすっ飛ばして超絶級なる場所に向けてひたすら上がっていく。

 

 ヒエー、高いなぁオイ。屋内プール天井のギリギリを攻めてる。

 因みにこれ、並んでから45分たっている。つまりまだ俺達の身体は濡れてすらいない。

 

 しかし身長制限に加えて年齢確認もあった。この高さといい、さっきから聞こえる。

 

「キャー!」

「オワー!!」

「ウオァー!!!」

 

 このチューブ越しに聞こえる悲鳴(ガチ目)をBGMにしながら順番を待っているこの心境よ。

 あ、やっとこさ順番が来た。

 

「はい、ではボートに乗ってください。後ろの人は前の人にしっかり捕まって下さいね」

「だ、そうだが。どっち前行く」

「勿論わたくしが行きます」

 

 意気揚々と前に出るセシリア。

 

 さて、この場合俺がセシリアに後ろから抱きつかなければならない。

 え、嘘だろ? マジで? またあの肌に触るの? いやまてまて何言ってる俺ぁ。セシリアの身体に触るなんて今回がハジメテジャナイカ。アハハ。

 

 しかし、俺が前に行くとなるとセシリアが俺に抱きつくことになる。そうなった場合。セシリアのミサイルビット×2が俺の背中に………

 

「よしじゃあ俺後ろな」

 

 言っておくが、決してヘタレた訳ではない(迫真)

 これからプールをしっかりと楽しむための防衛措置ということをわかって欲しい。

 

 オレンジ色のボートに乗り込んで。セシリアに捕まろうとする。ん、待てよ? 別にそこまで強く抱き締めなくてええやん? やばいオレテンサイジャネ? 

 

「あ、すいません。もっとしっかり捕まってくれませんか? そう、もっとギュッと!」

 

 この係員(女)! 俺が考え付いた最善策を蹴り飛ばしやがって! 

 そうだよな! 安全は大事だもんね! 

 完全逆ギレである。

 

 やむなく俺はセシリアの腹に抱き付いた。うわ、柔らかい………

 

「ひゃっ!」

「な、なに!?」

「も、問題ありませんわ! もっとギュッとしてもいいのですのよ! ホラっ!」

 

 一度離れた腕を引き戻して自分の腹に抱き付けるセシリア。おおお、さっきより肌の隙間がぁ。

 

「プールに着いたら直ぐにその場から離れてくださいね?」

「わかりました」

「ではウォータースライダー超絶級、いってらっしゃーい!」

 

 係員がボートを押してチューブの中に放り込んだ。

 さて、超絶級とはいかほど、えっちょ、最初から早くね!? 

 

 アップダウンからグネングネンと左右に揺れたかと思えば直線からのヘアピンカーブ。

 思わず頬がブルブルと。

 

「きゃあーー!」

「んーーーー!」

 

 直も加速を続けるボートの速度は(体感)瞬時加速並みのスピードに。

 時々揺れすぎて引っくり返るんじゃないかと思うぐらりと傾いたりとスリル要素も満載。

 いやとにかく早すぎないか!? 

 

「は、疾風。これ想像以上にっ」

「あ、あんま喋るな舌噛む」

 

 最初のドキドキなど感じる暇もなく俺は振り落とされまいとセシリアの腹を締め付けるレベルで捕まっている。

 前に座っているセシリアもボートに当たる水しぶきになんとも形容しがたい顔をしている。俺に見られてないのがせめてもの幸運だったろう。

 周りの景色が見えないまま水流に楽しむ余裕さえ感じれないまま身を任せていっていると。

 

「光がっーー」

 

 セシリアの途切れた声を聞き、なんとか前に目を向けると前方に確かにそとの光があった。

 速度が緩やかになっているボート。身体の力が抜けたのかセシリアの肩に顎を乗せた。

 密かに安堵しているとバッと光がさした。

 

 やっと終わる………と思ったらそこは透明なチューブの中で。目の前にプールは見えず、やや高い景色が。

 

「疾風」

「はい?」

「目の前」

「今度はなーーーにっ」

 

 尻が浮いた、と思ったら視界が強制的に下にむけられ。次の瞬間。内蔵がフワッとした。

 

「へ?」

「ひょ?」

 

 物凄い風圧と浮遊感。気づけば俺達は外に投げ出されていた。

 

「ああぁぁ!!?」

「ヴォブブブ!!?」

 

 ボートから落ちて水中でもがきながら、とにかく上へ上へと身体を動かし。水面から浮上。

 

「ブッハァ!! ハーフー、ハーフー」

 

 一体全体何があった? 何がなんだかわからないまま終わったけど。

 後ろを振り向くとほぼ垂直のガラスのチューブが結構な高さを誇っていた。どうやら最後の最後でウォーターフリーフォールとなっていたようだ。

 いやー、ビビった。例えるならお化け屋敷の最後の最後に驚かされる感じ。まったくやってくれるぜ。

 

 てかセシリア何処。

 

「疾風、疾風何処ですの!?」

「え、お前こそ何処………」

 

 声の方に向くと裏返ったボートがボコボコと、動いていた。

 少し力を淹れてひっくり返すと中からセシリアが出てきた。

 

「おう、大丈夫かセシリア」

「え、ええ。ああ怖かった……」

 

 あのセシリアが素直に怖いと言った。

 超絶級の名は伊達ではなかったか。 

 

「とりあえず上がるか。次来るだろうし」

「そうですわね………あれ?」

「どうし」

「見ないで疾風!!」

「あべしっ!」

 

 行きなりセシリアの平手が俺の頬を直撃。

 

「いった! なに!?」

「そ、その………えと」

「あい?」

「水着が」

「はっ?」

 

 セシリアを見てみると。なんか様子がおかしい。というか違和感が。

 顔が真っ赤になり、モジモジと自分の胸部分を隠している。

 胸部分を隠している? 数回瞬きすると。違和感の正体がわかった。

 

 水着の肩紐が、ない。

 

「ご、ごめん!」

「だから見ないで!」

「あー! どっ、何処にいった!?」

 

 慌てて辺りを見渡すが。水着がプールに浮かんでいるようには見えない。

 

「お母さーん!」

「どうしたの?」

「なんか拾ったー」

 

 幼い声に俺の意識が向けられる。

 プールサイドを走る小学生ぐらいの男の子。母親の方に走る男の子の手には白くまぶしい二つの布をリングパーツで繋がれている水着が高々と握られていた。

 

「疾風!」

「かしこまりぃぃぃ!!」

 

 緊急ミッション、小さき略奪者から水着を取り戻せがスタートした

 その時、俺が繰り出したクロールは実に見事なものだったらしい。

 

 

 

 おまけ、終わり。

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