IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第32話【激走、水上レース!ポロリもあるよ!】

「さあ皆さん! 長らくお待たせ致しました! 第一回ウォーターワールド水上タッグペア障害物レース、開催です!」

 

 司会のお姉さんが叫ぶと同時にジャンプ。するとその動きに連動するように大胆なビキニに包まれた豊満な胸が目に見えて揺れた。

 そのせいか会場からは何割り増しもの歓声と拍手でプールにさざ波がたった。

 

 というのも、その司会のお姉さん。向島優香(むこうじま ゆうか)は現役のグラビアモデル。

 男性客は彼女見たさにウォーターワールドの当日券を長い時間をかけて勝ち取った者もいるのだ。

 それに加えレース参加者は麗しい水着に包まれた若い女達。これで熱狂しなければ男ではない。

 

 しかし水着姿ひしめく中で異彩を放っている者が一人いた。

 全身をスッポリと包むタオル服。開いた前からは紺色のダイバースーツのようなものが覗き、フードの中から長い黒髪が溢れていた。

 恥ずかしがり屋なのだろうか。と観客の多くがそう思った。だがこれから行われるのは水上レース。落ちた時には万が一危険が起こる可能性もある。

 

「すいませーん。右から数えて四番目のペアの女の子。タオル服着たままだと危ないから脱いでくれると嬉しいなー」

 

 飽くまで優しい口調で注意する。

 見た感じそこまでアクティブな人に見えなさそうということからの配慮だった。

 

「はーーい。今脱ぎまーす」

「え?」

 

 タオル服の中から発せられたのは女性特有のソプラノ、アルトボイスではなく。もっと低い男のようなバスボイスだった。

 会場内に響いた低温ボイスに観客がどよめくなか。身に纏うタオル服に手を掛け、バッと空中に放り投げ、髪を無造作に掴んで取り払った。

 

 長い黒髪のウィッグ、体型を覆うタオル服に隠されたその正体は。

 

「え、えぇぇ!? 嘘、え、嘘!? ななななんと! タオル服の女の子かと思えば。中から出てきたのは男性IS操縦者の、疾風・レーデルハイトそのひとだぁーーー!!」

「えぇぇーー!?」

 

 突如女の子だけのレース会場に突如現れた眼鏡男子。まるで初めて男性IS操縦者が現れたのと同じぐらいのどよめきようだった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 受け付けに行こうと赴いたのだが、受け付け周りの様子が変だった。

 なんというか、周りにいる男どもが不満そうな顔で受け付けの方を見ていたのだ。

 

 すると受け付けを前にしたのに記入することなく退散する男二人組。

 流石におかしいと思ったので先ほど去った二人組に話しかけたところ。なんでも無言の笑顔で圧をかけられてエントリーさせて貰えなかったという。

 

 変わりに女性はすんなりとエントリー出来てる。どうやら開催側は女性のみの水上レースをお望みのようだということが火を見るより明らかだった。

 このままだと男である俺とセシリアのペアはエントリー出来ない。

 このまま諦めるしかないのか? 

 

 冗談じゃない。

 そっちがその気なら何がなんでもエントリーしてやろうじゃないか。

 逆境に闘志を燃やした俺達英国コンビは一計を案じた。

 

 こんなこともあろうかとバススロットから変装用に入れておいた黒髪のウィッグ。体型を隠す為に海パンからISスーツに着替え、その上からタオル服(フード付き)を。更にセシリアのメイクで軽く化粧を施し。そうして出来上がったのが疾子ちゃんだ。

 

 エントリーに並ぶときもルックス的に目立つセシリアの影になるように、ひたすら周りの視線に入らないように配慮した。念のため、フードから覗く長い黒髪で女の子だという先入観も取り入れたのだ。

 

「え、なんで男があそこに!?」

「まさかあの受付を突破したのか!?」

「お、俺も女装すればワンチャンあったのかー!?」

 

 観客席の男勢から称賛と無念の声が上がる。

 それを聞いて俺はご満悦だった。

 

「男性は駄目だって決まりはないから。参加しても問題はありませんよね?」

「あ、えーと、はい! 勿論オッケーです! 全然オッケーですとも!」

 

 困惑している司会のお姉さんにニッと笑ってやる。お姉さんは頬を赤くして咳払いした後、テンションを上げて会場を盛り上げた。

 

「おっと?まさかまさか。レーデルハイトさんのペアはなんとイギリス国家IS代表候補生であるセシリア・オルコットさん! これはとんだダークホースペアが登場しましたぁっ!!」

 

 若干わざとらしい言い回しだったが周りからしたらそこにセシリアがいることの方が驚きだったらしく。隣のペアも目を見開いている。

 

「まさかここまで上手く行くとは思いませんでしたわね」

「だな。よし、行くぞセシリア!」

「ええっ!」

 

 気合いは充分。出たからには勿論優勝だ。

 各々がこれからのレースに胸をときめかせるなか。専用機持ちペアは入念にストレッチをかかせない。

 準備運動は面倒と言っていたあの鈴でさえ真面目にやっているのが、本人達のやる気具合が見てとれた。

 

(何よ何よ。何でセシリアばっかり? あたしも代表候補生なんですけど!?)

(よかった。私が篠ノ之束の妹だとバレてない)

 

 内心でぶつくさ言う鈴と何処かホッとしたような箒。他のペアもセシリアの超絶ルックスにタジタジの様子。

 そして観客席では。

 

「セシリア・オルコットとペア? 友達だとか?」

「もしや既に大人の関係に?」

「はっ? IS動かせる上にあんな美人な彼女を持ってるって? 許せねぇ」

「呪呪呪呪呪」

 

 全方位から肌で感じる程の鋭い視線が身体に刺さりまくる。視線を赤表示したら俺見えなくなるのではないかというレベルである。

 

「ククッ」

「疾風?」

「セシリア。今俺ら観客から付き合ってるって思われてるぞ。男女ペアになったら即付き合ってる扱いだってさ。そんなことないのにね」

「つ、付き合ってるって。まったくあなたは」

 

 少し驚きながら呆れてるセシリア。

 考えてみると、外部から見たらやっぱりハーレム野郎と思われてるんだろなぁ。村上も前メール越しで恨み節ぶつけてきたっけ。残念、ハーレム野郎はもう一人のほうです。

 とりあえず今日帰り道は気を付けよう。

 

「ではルールの説明です! このウォーター・ワールドが誇る50×50メートルの水上アスレチックエリア! その中央の島にあるフラッグを取ったペアが優勝です。途中の5つの障害物は二人で協力しないと突破は難しいので、ペアの相性と友情が試されます!」

 

 アナウンスに聞き漏れがないように一字一句取り込んだ後。再度コースを下見する。

 

 2500平方メートルなだけあってかなりの広さ。

 落ちても即失格にならず、なんならそのまま泳ぐことも可能だが。泳いで渡るにはアスレチックが邪魔で渡った方が早い。

 

 このアスレチックの量だと、一般の客なら結構苦戦するだろう。そう、一般人ならば。

 セシリアと鈴は代表候補生、一通りの軍事訓練を受け、狭き門をくぐった猛者達。

 箒は元から身体能力お化けだ。そして女には身に余るタフネスと度胸がある。

 そして俺はいつかISに乗るためにと、小さい頃から己を鍛え上げ。更に女と比べて高いフィジカルを持っている。

 

「さあ! いよいよレース開始です! 位置について、よーーい!」

 

 パァン! 競技用ピストルの号砲により。異物が一人混じった水上レースがスタート。

 

「ふっ!」

「なんとぉ!」

 

 さっそく足払いをかけてきた横のペア。いやいや開幕から殺意が高いねぇ! 

 なんとこのレース。妨害OKなのである。あれかね? 女性だけ集めてキャットファイトののちにポロリもあるよ! を期待したのかな製作陣は。

 しかしこの程度なら造作もない。足払いをかけてきたペアを逆に転ばせてプールに突き落とした。

 

「行きますわよ!」

「おう! ってゑ?」

 

 しかし問題が発生した。

 一番最初にド派手に登場した俺。容姿端麗なモデルスタイルのセシリア。

 会場全ての注目を一手に引き付けてしまった俺達に妨害上等の過激ペアどもが一斉に大挙してきたのだ。

 

『お先に!』

『失礼する』

「あっ、お前ら!」

 

 ご丁寧にプライベートチャネルで言ってきた二人は混乱に乗じて俺たち乱闘組を尻目に進んでしまった。

 あの二人が先に行くのは不味い。あれよあれよと距離が離れていく。

 なんとか抜け出そうと次々と水面に突き飛ばすも、次を相手にしてる間に直ぐに上がってリスタートしてくる。

 

「くそっ! 鬱陶しい!」

 

 力任せに吹き飛ばすことも可能だが。下手に変なところに触ればその場で騒ぎになりかねん。

 

『仕方ありません。本当なら使いたくなかったのですが、奥の手を出しますわ!』

『奥の手ってなに?』

 

 口を開いている余裕がないため、掴みかかる女子の攻防をさばきながらプライベートチャネルで会話する。

 

『えっ、お前それマジ?』

『勝つためです! 合図したら下を向いてくださいな!』

『あーもう了解! 勝つためだ!』

 

 セシリアの提案に思わず驚いてしまったが。最有力候補ということは事実なので渋々了承した。

 俺とセシリアは前方からラリアットを噛まそうとしてる二人組に向き直った。顔面の迫力が凄い。

 

「今!」

「南無三!」

 

 目元を腕でガードしたあと下を向いた。

 ラリアットの間をすり抜け、セシリアが刹那の間に二人をプールに落とした。

 

「私達は滅びぬ!」

「何度でも蘇るさ!」

 

 ザパァッとレースに復帰しようとするペア。顔面の気合いが入りすぎて特撮の怪獣のようだ。

 だが目の前に意識を向けすぎて自分達の現状に意識を向けていなかった。

 

「その意気やよし。ですが少々大胆すぎるのではなくて?」

 

 静かに腕を上げるセシリア。両手には、色鮮やかなパステルカラーの水着ブラが計二つ。

 

「「きゃああぁぁぁっ!?」」

 

 公衆にセミヌードを披露した妨害ペア組は揃ってしゃがみこんだ。客席からレースコースまで距離が近くないのが唯一の救いか。

 セシリアは恨めしげに見る妨害ペアの水着をクルクルと丸めて遠くに放り投げた。

 

 想定外で期待以上のハプニングに会場は大いに沸き上がった。

 

「さあ、次に剥ぎ取られたいのはどなたかしらっ!」

 

 口角を上げて走ってくるセシリアにへっぴり腰になった妨害組を容赦なく水面に、時に抵抗する者にはブラ剥ぎの刑に処してか突き落としのコンボを披露して先に進んだ。

 

「おーっと! レーデルハイトペアの相方、セシリア・オルコットさんがまさかの外道戦法! これは意外な一面が見えたー!」

「だ、そうだぞ貴族様」

「あら、水着を剥いてはいけないというルールはありませんわよ」

 

 それは普通やらないからだ。俺でさえ思い付かなかったぞ。

 

「箒さんと鈴さんの姿が見えません。急ぎますわよ!」

「あいよっ!」

「さて、大幅に遅れた期待の男女ペア! 目の前に浮かぶのは第一関門である小島エリア! 一人乗っても沈みかける小島をペアで支えながら渡らなければなりません」

「うおおーー!!」

「な、なんと男女ペア! そんなの知らないとばかりに小島エリアを物凄い勢いで突破しました!」

 

 乗れば沈む。ならば沈む前に次に行けば沈まない。まるで水上を走る勢いで小島を踏み抜いた。

 

 続く次の島は放水エリア。一人が迂回して放水を止めながら進むルートなのだが。セシリアは合間をぬって、俺は放水を身体に受けながら強引に最短ルートでクリアした。

 

 お次の障害は壁。2.5メートルの壁をどうにかして片方を上に上げた後に、もう一人を引っ張り上げるというもの。

 肩車にしろ、踏み台にしろ。もたつけば時間を大幅にロスする。先に行ってるペアももう一人を中々上に上げることが出来ず苦戦している。

 

「台になる、先に上がれ」

「了解」

 

 状況を素早く見極めた俺はギアを上げて壁に走る。手前で反転して手のひらで台を作り、セシリアが俺の手に乗った。

 

「おぉぉ!らぁっ!!」

 

 そのまま力の限りセシリアを上に飛ばし、彼女を2.5メートルの頂上に跳躍させた。

 俺はセシリアを上げた後直ぐ様距離を取り、走って壁にジャンプ。壁を蹴って上のセシリアの手を掴むことなく縁を掴んでよじ登った。

 

「男女ペア、第三エリアの壁ゾーンを兎の如く突破! 先ほど同様の方法で突破したペアが一組居ましたが。彼女達はなにか特殊な訓練を受けているのでしょうか!?」

 

 なんだあいつらも同じことやったのか。道理で反応が薄かったはずだわ。

 

 しかし先程のポロリ騒動から一転。最下位辺りから怒涛の追い上げ見せる英国組の活躍ぶりに男女問わず観客のボルテージは急上昇。

 所々に配置されているアスレチックもヒョイヒョイと飛び越えてすり抜けていく。すれ違いざまに前方のペアを残らずプールに突き落としていく容赦のなさを見せながら突き進む。

 因みに二人に落とされたペアは先をいっていた鈴箒ペアにもれなく落とされてるため水落ち二回目である。

 

 そして徐々に見えてきた第四エリア。

 ここでは両側計四台のバレーボールマシンから飛んでくるボールを避けながら向こうまで渡る。

 言うて飛んでくるボールの早さは参加者を配慮してかそこまで早くなく。すり抜けるのも難しくなさそうだった。

 

 そして。

 

「鈴さん! 箒さん!」

「よぉ!お前ら元気かぁ!?」

「ゲッ! もう追い付いてきた!」

「振りきるぞ鈴!」

 

 一足先にボールエリアを突破した鈴と箒が見えた。間には他の走者がいない。

 

 迫り来るボール。さっきの早さなら一個ぐらい避けなくても強引に………ってあれ? 思ったよりボールが重い。

 

「ホゴプパァ!!」

「えっ!?」

 

 一つのボールを受け止めた俺の身体に残り三つのボールがぶち当たった。

 いや、待って。明らかにさっきよりはやかっ………

 

「ブヘッ!」

 

 ドッポーン。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「あーっと! レーデルハイトさんが第四エリアのボールゾーンで落水ー!! (あれ? なんかボールが異様に早いように見えたの気のせい?)」

 

 思わず叫んだ司会のお姉さんが疑問符を浮かべたまま様子を伺う。

 本来ボールゾーンで射出されるバレーボールマシンのスピードは時速70キロ。当たってもそこまで痛いと感じない程度の早さ。だが疾風が当たったボールの早さはとてもじゃないがそんな優しい早さではなかった。

 

 それもそのはず。疾風に向けられたボールの時速はその倍の時速140キロ。これは通常男性のスパイクに匹敵するレベルの早さである。

 なぜこんなに速度に差が出たのか。

 

「よっしゃあ! 落ちたぞぉ! よくやったお前達ぃぃ!!」

 

 それも全てウォーターワールドのオーナー、向島光一郎の策略であった。

 

「オーナー。奴は落ちましたがこのあとは」

「コースに戻ったと同時に再開だ! 奴を絶対にゴールさせるな! それとセシリア・オルコットには絶対に当てるなよお前達!!」

「イエッサー!!」

 

 インカム越しに男性スタッフに指令を出したオーナー。ムッフッフとご満悦な笑みを浮かべてモニターを眺めていた。

 

「オーナー。流石にやりすぎではありませんか? いくら男がレースに参加したくらいでそんな」

「たわけもの。それも許せんが違う」

「ではセシリア・オルコットを取られた嫉妬?」

「確かにセシリア・オルコットの横など羨まけしからんがそうじゃない」

「じゃあなんです?」

「決まっている! あの男が疾風・レーデルハイトだからだ!」

「はい?」

 

 秘書の女性は首をかしげた。

 オーナーと疾風に接点などあるはずがないのだから。

 

「駄目だ、絶対ダメだ。織斑一夏の方がまだマシなのだ…」

 

 それは三週間前ほどのこと。SNSで話題になったあるニュースのこと。

 【疾風・レーデルハイト。華麗に軟派男を撃退】。なんとも美化されたタイトルだと思ったのだが。その時の動画を見たときの娘の反応がまずかった。

 

「凄い。なにこれカッコいい…」

 

 明らかにアイドルを見るような目をしていたのだ! 

 確かにそのときの疾風はちぎっては投げの大活躍で見ようによっては姫を助ける王子のようなもの。そこから娘はすっかり疾風・レーデルハイトのファンとなったのだ。

 

 娘である優香はグラビアでも人気を誇る美少女だと向島オーナーも自負している。現にファンも大勢。男性スタッフの九割は彼女のファンだ。

 もしあの疾風・レーデルハイトが優香のファンで、商品の沖縄旅行を手にした暁には。

 

『優香さん。俺実はあなたのファンなんです。宜しければ、一緒に沖縄旅行でランデブーしませんか?』

『行きます!!』

 

 そしてその旅行でロマンチックにアダルティーな雰囲気に………

 

「ぬがぁあーー!! 許さん! そんなことパパは許しません!」

 

 向島光一郎は確かに女好きだ。水着の女の子を特等席で見たいという理由でオーナーになったというのも過言ではない。

 だが水着の女の子も大ファンであるセシリア・オルコットも、自分の娘に比べれば塵芥に等しい! 

 向島オーナーは大分、いやかなりの娘バカだったのだ。

 

「頼むぞ我が勇士諸君! 優香の貞操を奪わせてはならないっ!!」

「イエッサー! 水底に沈んでもらいます!」

 

 再びバレーボールマシンのマキシマム射撃が再開された。

 オーナーはいけー! そこだー! とスポーツ観戦をするように熱狂していた。

 

「やれやれ」

 

 こうなったら止めても無駄だ。

 彼の秘書兼奥さんである妙齢の彼女がそれを一番わかっていた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「うおっぷあ! あっぶねぇ! だぁはぁっ!」

 

 水上に上がってすぐに豪速球が飛んできた。再び豪快に水にダイブ。

 

『なにこれ! なにこれ! なんのいじめこれ!』

『不思議なことに、わたくしにボールが全く飛んできませんわ』

『悪意があるねぇ!』

 

 ブクブクと水中で様子を見ながら様子を見る。

 ん? このまま水中を移動すればいいんでね? やだ俺天才じゃね?

 

『っ! 疾風!』

『え、なに。ウボボボボ!?』

 

 ボシュっ! ボシュっ! 

 水中で移動しようと試みたら。なんと奴ら水中に打ち込んで来やがった! ガチ度どんだけなの!? なに、俺なんか悪いことした!? そんなに男が出られるの嫌だったの!? 

 

(優香さんを狙うなんて許さぬ!)

(そもそもセシリア・オルコットがありながら狙うなど)

(万死に値する!)

(あと単純に妬ましい!)

 

 動機が不純なれど彼女を想う気持ちに偽りなし。彼らは最後の壁となってエデンに潜り込んだ悪魔に鉄槌を打っていく。

 

「これはなんという激しい攻撃! 男なのだからこれぐらい突破してみせろということでしょうか!? (そんなわけないよー! きっとお父さんの仕業だよこれー!!)」

 

 彼女は飽くまで会場側の人間。会場の雰囲気を高めるために的確にフォローというなの誤魔化しを入れていく。

 

『もう怒った。そっちがその気ならこっちにも考えがある。目には目を、ボールにはボールだ』

『どうしますの?』

『ぶちのめす』

『いいでしょう。付き合いますわ』

 

 こういうときのセシリアは結構ノリが良かった。段々手段を選ばなくなってきたのは果たして誰の影響なんだろうか。

 水中を叩くボールの嵐。ふと、その嵐が少しの間とぎれ。

 

『今ですわ!』

『よぉぉぉし!』

 

 水面に浮上。新鮮な空気を目一杯取り込み、セシリアの手助けでコースに復帰した。

 バレーボールを片手に持って。

 やられたらやり返す。それが俺の流儀。

 

 ボール射出マンの一人と目があった。

 次の瞬間俺は飛び上がり、左手に持ったボールを宙に上げ。

 

「オラァ!!」

「え? ひでぶっ!」

 

 男の顔面にボールをシュー! 超! エキサイティン!! 

 ボールをめり込ませた射出マンAの一人はそのまま後ろにバタリと倒れこんで気絶した。

 

「疾風!」

「よしきた! しねぇっ!!」

「うわらば!!」

 

 水に浮かんだ大量のボールを取ってくるセシリア。トスされたボールを呆然としている透きだらけの射出マンBにシュー! 同じくダウンした。

 

「よくもぉっ!」

 

 ジャンプした疾風の着地の瞬間を見極め。射出マンCのMAXスピードの凶弾が俺の背中目掛けて放たれる。

 

「させませんわ!!」

 

 その背中を守らんとセシリアが割り込んだ。

 射出マンCはヤバい! と思って思わずマシンから顔を出した。

 だがセシリアはその豪速球を見事なレシーブで上に上げた。

 

「ナイスセシリア!」

 

 背中合わせでスイッチした俺は落ちてくるボールを的確にぶっ叩いた。

 

「KILL!!」

「たわば!!」

 

 三人目もシュー!

 見たかこの野郎!花月荘で七月のサマーデビルとのバトルを制したスパイクは伊達ではないわぁ!! 

 

「残りはお前だぁ! くらぇっ!」

「うおおおっ! 優香は! 妹は俺が守る!!」

「いや誰だよ!!」

 

 グラビア界に疎い俺は目の前の射出マンDの意味不明発言に声を荒げた。

 最後の刺客はなんと、向島オーナーの息子であり司会のお姉さんの兄。

 父も父なら息子も息子であった。

 

「だぁぁ! お前マシンから出ろ! 当たらねぇ!」

「うるさい! ゴールなどさせん!」

「信じられない光景です! まさかまさかのボールの応酬による一騎討ち! 一体誰がこんな展開を予想できたでしょう! そして最終エリアでもレスリングコンビと凹凸コンビが激しい攻防戦を繰り広げています!」

 

 鈴と箒も足止めをくらってるか。

 意地になっている俺に甲斐甲斐しくボールを運んでくるセシリア。

 あちらも鬼の形相でマシンにボールを送り続ける向島兄。何度目かもわからないスパイクが奴に飛ぶ。

 

「ええーい! いい加減に倒れろコラー!」

 

 ガツーン! 

 

「はっ」

「っ!」

「およっ?」

「あっ……」

 

 俺が放ったヤケクソスパイクは射出マンDではなく、彼のバレーボールマシンに直撃した。

 グラリと揺れたマシンはけたたましい音をたてて倒れ、力尽きるように止まった。

 そしてシーンと静まり返る会場。

 

「………」

「………」

「………」

「シュー!!」

「ユウカっ!!」

「ヨシイクゾ!」

「え、ええ」

 

 それはそれこれはこれと男の頭にボールをシュー!したあと足早に第四エリアを後にした。

 

 これ以上なく全速力で走りこんだ俺達は最終エリアの山ゾーンに。その頂上にあるフラッグを取れば優勝だが。

 

「フンッ!」

「セアッ!」

 

 目の前にはレスリングコンビとおもしき筋骨粒々なペアが地面の上で延びており。奥では竹刀を持った箒とヌンチャクを持った鈴が激しい仲間割れを起こしている。

 

「ハァッ! ん? 疾風!?」

「トリャア! ってセシリアぁっ!? あんたらいつの間に!」

「いつの間にじゃねえよ」

「あなたたち何をしていますの?」

 

 呆れてる俺らを前にスッと武器を下ろす二人とも。

 

「箒が竹刀を出して私の尻ぶっ叩いたのよ!」

「鈴が私の顔面足蹴にするから!」

「この二人はお前らが?」

「知らない! 何かに当たった気はしたけど」

「その手持ってるのはなんです?」

「一夏折檻用竹刀だ!」

「一夏ぶったたき用ヌンチャクよ!」

 

 んーーまるで状況が読めないぞー? 

 まあ、ISを出さないで喧嘩していることを褒めるべきか? いや当たり前だよバカ。

 え、バススロットから武器を出すのはまずい? うーん、そこは今触れないでおこう。

 

 とりあえず。

 

「狙うはフラッグのみ!」

「押して参ります!」

「なっ、いきなり!?」

 

 目的は変わらないので鈴と箒に向かって突貫した。二人は慌てて武器を構える。

 そして唐突に急停止した。

 

「ん? あれもしかして一夏か!?」

「ま、まさかのブーメランパンツ!?」

「ちょっと。そんなはったりに騙されるとでも思って………」

「何!? 一夏のブーメランだとぉ!?」

「箒ぃぃぃ!!」

「隙ありぃ!」

 

 ムッツリーニ箒ちゃん参上。

 あ、UFO!戦法に動揺して掴みが緩くなった武器を奪ってプール上に投擲する。

 二人の間をすり抜け、グリップを掴まずに山を駆け上がる。箒と鈴も同様に追従する。

 あっという間にフラッグが目の前に。

 

「うおおおおっ! 貰ったぁ!」

「させるかぁ!」

「ぬあぁっ!」

「あたしのものよ!」

「鈴さん借りてたお金返しなさい!」

「それ今関係なぁぁーー!!」

 

 残り数メートルの攻防戦。

 そこには男も女などなくただひたすらに勝利を求める戦士のそれだった。

 ツイスター並みに絡み合いもつれ合い引っ張りあいの攻防戦の末。

 

「ウオラァぁ!」

「おーっと疾風選手抜けたぁ! フラッグまで残り一メートルだ! いけー!!」

 

 足に力を振り絞り、手を目一杯伸ばす。旗まであと30センチ………

 

 スパコーン! 俺の目の前で旗が消えた。

 

「はっ?」

「ハヤテェ! 貴様に優香はやらーん!」

 

 振り替えるとなんとシューした筈の射出マンDこと鬼ぃちゃんの姿が。

 何故か呼び捨てにされたが。その顔芸クラスの顔を見たら何故か俺から見ても兄に見えた。復讐したい系の。

 

「あーっと! 第四エリアのスタッフがボール片手に乱入!? 流石にしつこ過ぎると思います!」

「見たか優香ぁ! お兄ちゃんやったぞ!」

「誰ですかあなたは! あなたみたいな人私の身内にいません!」

「ごふぉあっ!」

 

 鬼ぃちゃん。吐血。

 

 だがそんなプチ漫才に気にする程IS学園勢に余裕はなかった。

 鬼ぃちゃんが放ったスマッシュによって飛ばされた旗は放物線を描いてプールの方に落ちていく。

 

 最初に動いたのはセシリアだった。

 そのセシリアの水着のヒモを鈴がむんずと掴んだ。

 

「最終手段よ!」

「えっちょ鈴さん! きゃあっ!!」

 

 ハラリ、水着がほどけてセシリアのバストから浮いた。

 途端に会場の男どもは待ってましたとばかりにスタンディング。懐からカメラやらスマホを取り出して永久保存版を取らんとし。オーナーも思わず立ち上がった。

 

 だがオルコット当主のセミヌードは安くない。とばかりに浮かんだビキニを腕で押さえつけ、もう片方の手で鈴の足を掴もうとするも失敗し、尻餅をついた。

 箒も飛び出し、鈴に追い付いて二人で一緒に旗を。否、こんな時にでもお前には取らせんと必死の形相で旗を掴みにかかる。

 

「一夏との!」

「沖縄は!」

「「わたし(あたし)の物だぁ!!」」

「無慈悲アタック!!」

「「ぼへぇぇっ!!」」

 

 二人の頭を鷲掴みして水面に叩きつけた。

 正に無慈悲。

 

「俺の物だぁ!」

「ぶぶぶぁっ(甘いわぁ)!!」

「ぶへぇぇっ!」

 

 沈んだままなのに箒が俺の足を掴んでビターン! と水面に叩きつけた。腹痛い!! 

 

 かすかに触れたフラッグは更に遠くに行ってしまう。

 

 水面に浮かんだ俺たちはおたがいを掴んでは取っ組み合いになって膠着状態になる。

 後ろから迫る他のペアも次々とプールに飛び込み。もはやコースも関係なしに、もはや前も見えない泥沼状態になったフラッグ戦。

 

 そんな亡者の群れの上を勇敢に飛んだ者が一人いた。

 

「疾風! 頭借ります!」

「頭? ごふふっ!?」

「べぎゃぁっ!?」

 

 水着を直し終えたセシリアが俺の頭、そして何故か鈴の頭を踏み台にして最後の跳躍。

 フラッグが浮かぶ水面に頭からダイブ、大きな水飛沫が辺り一面に飛び散った。

 

 ザワっ、ザワっ………某賭博漫画風にざわつく会場。

 もつれ合っていた競技参加者、観客、司会のお姉さん、オーナーもかたずにセシリアが沈んだ水面を見つめている。

 

「………ぷはっ!」

 

 何分にも感じた数秒後、水中から浮かび出たセシリアは顔にかかった髪を後ろに思いっきり顔ごと振り払った。

 その姿はまるで人魚のようで。その瞳がもみくちゃにされていた俺の眼とあった。

 

 すると彼女はニッと軽快に笑みを浮かべ、沈んだ右腕を高々と上げた。

 その手には、水に濡れた白い旗がしっかりと握られていた。

 

 割れんばかりの拍手と雄叫びが会場を揺らした同時に我に帰った司会のお姉さんがマイクを握りしめた。

 

「き、きまったぁぁー! 第一回ペアタッグ水上レースを制したのは! レーデルハイト&オルコットペアだー!! 皆さん! 激戦を制した二人に今一度大きな拍手をーー!!」

 

 歓声に沸くもの、水中で落胆するもの。

 勝者と敗者をきっちりわけた大活劇はいまここに幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「ほんと! うちのオーナーと馬鹿達がご迷惑をおかけしました! ボール当たったところアザになってません?」

「ああ、大丈夫ですよ。レーデルハイト工業社製ISスーツは耐衝撃能力も優秀ですから!」

「なんか宣伝みたくなってますわよ疾風」

「企業戦士だから」

 

 ペッコペッコと謝る向島優香さん。

 謝る度にツインなバストが凄いことになってるがそこにはあえて触れないことにしよう。

 

「まあなんやかんや色々ありましたけど。凄くエキサイトしたのでよしということで」

「うぅー、そう言ってくれるとありがたいです」

 

 ホッと息を吐く優香さん。

 

「あの、ところで倒してしまったバレーボールマシンは………」

「あー、あれはなんとかなるので大丈夫です(お父さんのポケットマネーから出させてやる)」

 

 今度はこっちが安堵の息を吐いた。

 そうか、よかった。正直そこが一番気がかりだった。ああいうマシンって馬鹿高いって聞いたことあるからなおのこと。

 

「では俺達はここで」

「あ、すいません。その、お願いできる筋合いなどないのですが」

「?」

「サインお願いします!」

 

 後ろ手から出されたのは色紙とマッキーペン。

 

「いいですよ」

「ほんとですか!?」

「はい。ていっても他人に書いたことないんで下手だったらすいません」

「ぜ、全然大丈夫です!(マジ!? 疾風くんの初サイン!? やったー!家宝にしなきゃ!)」

 

 サラサラリと色紙を書き上げた後にウォーターワールドを後にした。

 

「よかったですわね疾風。初のサインがあんな美人さんで」

「なんか言葉に棘がある気がするのは気のせいかな?」

「それは疾風の被害妄想ですわ」

 

 言ってるセシリアは不機嫌とかではなく至ってフラットなので気にしないことにした。

 

「てかこの沖縄旅行券どうする? 行ってる間IS動かせないし、イギリスで遅れた分取り返したいからなー」

「出ること事態が目的でしたからね」

「じゃあそれあたし達に渡しなさいよ」

「お前達が必要ないなら私たちが有効に使わせてもらおう」

 

 ドンっとゲート前で仁王立ちしている鈴と箒。

 顔がもう歴戦の戦士のそれなんよ。

 

「お断りします」

「なんでよ! いいじゃない! 使わないで腐らす方がもったいないでしょ!」

「あげるとしてもお前達にはやらん」

「何故だ!」

「簡単です。お二人ともどうせ自分が一夏さんと行くと言って決着がつかず台無しになるのが見えてますから」

「んぐぅ!」

 

 自覚があったのか、二人は胸を抑えてうずくまった。

 

「まあ、そう落ち込むでないよ。ほら、迎えが来たぞ」

「迎え? 誰よ?」

「おーーい!」

 

 向こうから手を振って向かってくるのは、二人が今日二人っきりで過ごすと思っていた、一夏だった。

 

「え? なんで一夏がここに?」

「俺が呼んだ。ほれ、行ってこい」

 

 トン、と二人の背中を押すと突っかかりながら一夏の前に出た。

 何かを言ってやるつもりだったが。突然の一夏の出現に思考が纏まらない鈴と箒はモゴモゴと声を漏らすだけに。

 

「あの、えっと」

「一夏、その」

「悪い! 二人とも!!」

「「えっ?」」

 

 手を合わせて頭を下げる一夏に面食らう二人。

 

「鈴! ちゃんと要件をルームメイトに伝えなくて悪かった! メールもしとけばよかったな! 悪い!」

「え、あ、うん。分かってるならいいのよ」

「箒も言葉足らずですまん! あんな風に行ったら普通に一緒に出かけるって方向に持ってっていくよな。ごめん!」

「な、あ。そ、そうだ! 猛省しろ猛省………」

 

 いきなり出鼻をくじかれた。

 こうもひたすら平謝りされたら怒るに怒れなくなるのは一重に惚れた弱みに他ならない。

 

「お詫びになんか奢るよ。何がいい? 甘いものとか」

 

 申し出を断ることなく数秒考えた後。鈴と箒は一夏の目を見てピシャリと行った。

 

「@クルーズ、期間限定の一番高いパフェ」

「ぐあっ」

「群林堂の高級豆大福6個セット」

「おごっ」

「「それぞれ二つずつ奢れ」」

「うぎゃあっ」

 

 @クルーズのパフェ2500×2。群林堂はわからないが。さぞかしお高いのだろう。

 御愁傷様。

 

「わかった。俺も腹をくくる」

「よし! そうと決まれば早速行くわよ!」

「なっ! お前なに腕を組んでいる!?」

「なによ。悔しいならあんたも組めば?」

「い、いいだろう! 一夏! 私も組むぞ!」

「お、おいお前ら」

「ちょっ!これ見よがしに胸おしつけんじゃないわよ!」

 

 早速わちゃわちゃする三人。本当に組むとは思わなかった鈴が箒に噛みついた。

 

「さて。俺達も行くか、@クルーズ。祝勝会的な感じで」

「お邪魔になりません?」

「どうせ二人っきりなんてなれないし。絞られる一夏見ながら食べるパフェはきっと美味い」

「それは、いいですわね」

 

 まだ暑さが残る中。夕暮れの光で影は長く伸びていた。

 前方の影は、せわしなく動いている。

 

「あの、二人とも。ちょっと」

「「歩きにくいって行ったらどうなるかわかるよな?」」

「………はい」

 

 両側から拘束された一夏はまるで連れてかれる宇宙人のようだった。

 これはしばらく頭が上がらないな。

 そんな三人を見たセシリアが口許に笑みを浮かべて俺を覗き込んだ。

 

「わたくし達も腕を組んでみますか?」

「急にどうした」

「いえ、慌てる一夏さんが面白くて。で、どうします?」

「いや。流石にあれはハードル高いよ。だから………」

 

 俺はスッと手のひらをセシリアに差し出す。 

 

「お手をどうぞ。レディー?」

「フフ。喜んで」

 

 互いに優勝の余韻があったのか躊躇うことなく手を繋いだ。

 軽やかに手を結んだセシリアと俺は少し離れていった三人に追い付こうと走った。

 

 俺達はISという年不相応な最強の兵器を扱う者達。

 だが夕日に照らされたその顔は、間違いなく年相応の少年少女の笑顔だった。

 

 

 




 景品の沖縄旅行はブランケット夫婦のもとに行きました。

 はい!これにて夏休み編終了です。いやー今回も書いた書いた。
 次回はpixiv版で密かに人気を誇ったあの子が出てきます。pixiv勢の方々、お楽しみに。
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