IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
第33話【華やかなる大和撫子】
「ハッハッハ。ハーっハッハッハ!!」
「当たらねぇ!!」
学園のアリーナ。明日で夏休み終了。そんな夏の後半のアリーナには熱気を放ちながらISを飛ばしている若者が二人。
白式の
「はっはー! 甘い甘い! 狙いが甘いわ! グラブジャムよりも甘い!!」
「なんだよそれ!」
世界一ゲロ甘な糖漬けドーナツ。
「ほれほれ当ててみなサーイ!」
「くっそ! ならぁ!」
遠距離では埒があかんと近接戦闘にシフト。増加されたスラスターによる急加速で雪片弐型を持って頭上のイーグルに向かう。
こちらもスラスターに火を入れて逃げようとしたが、白式・雪羅は瞬時加速を使うことなくイーグルの背中に刃を滑らせる。その刀は展開され、光の刃に変形していた。
「避ける!」
「まだだ!」
躱した俺に一夏は左手を伸ばすと同時に雪羅の指間接も伸ばし、爪先から細い光の剣が伸びた。勿論これも零落白夜を帯びている。
投網のように覆い被さってくる零落白夜の爪をプラズマフィールドで防いだ。
零落白夜が無効にするのは飽くまで光学兵器やエネルギー兵器。純粋に電撃で構成された球型フィールドには刃が通らなかった。
プラズマフィールドを広げて爪を弾く。直ぐに後退する。
「セカシフした白式はっや。普通に追い付かれてイーグル泣いてるんだけど」
「その割には当たらないんだが!」
「勿論、逃げるんだよぉー!」
直線的な機動をイーグルのマルチスラスターでジグザグに避けていく。
いくら一撃必殺級の零落白夜も、当たらなければどうということはない。
「直撃コース! 貰い!」
「っ!」
前回の追加武装から引き継いだボルトフレアを取り出し、狙いを定めて撃つ。
咄嗟に一夏が雪羅の零落白夜シールド【霞衣】を発動させるも、防げるはずもなく直撃する。
呻き声を上げる一夏に接近、インパルスをコールして穂先を展開。
至近距離で最大チャージのプラズマ弾をくらって吹き飛ぶ一夏、途中で体制を整えセカシフで新たに習得した二段瞬時加速で一気に肉薄、零落白夜を展開してない雪片弐型を振るった。
ガキンとイーグルのシールドエネルギーにぶち当たる。手応えを感じた一夏。だが俺はその刀を左腕でガッチリ掴んだ。
「つーかまえたっ」
「誘いやがったな!?」
俺の背後にはプラズマダガーを展開したビークが全機スタンバイしていた。
「一夏に聞きたいんだけど。今シールドどんだけ?」
「やべっ」
「おらよぉ!」
掛け声と共にビークが一夏のSEを食い荒らし。試合終了のブザーがなった。
ーーー◇ーーー
「ちっくしょー! 勝てねぇ」
「はい、三戦三勝な。ということでスイーツ千円分奢り宜しく」
「し、仕方ない」
アリーナでかいた汗をシャワーで流したあと。俺と一夏はカフェテラスでお菓子を注文した。
俺は菓子パンとチョコケーキ。一夏は出費が出たせいかカフェオレのみである。
テーブルに向かうと、いつものメンツが既に談義に花を咲かせていた。
「あ、三連敗マンじゃん」
「うるさいぞ鈴」
鈴に一睨み効かせながら座り込む一夏は早速カフェオレを口に含む、も熱さに思わず渋い顔をしてまた鈴が笑った。
「あら疾風、それベルリーナー・プファンクーヘンですわよね?」
「おう」
置かれた菓子パンにセシリアは目を光らせた。
この長い名前の菓子パンは言うなればジャム入り揚げパンだ。
ドイツの菓子らしい。初めて食べたときラウラが我が物顔で力説していた。
「いやー、ただのジャム入り揚げパンだと侮ってたがこれが中々美味くてさ。今じゃ週2、3は食ってる」
「週2………3っ?」
セシリアとシャルロットが揃って絶句する。
このベルリーナーは普通の揚げパンと違ってバニラの衣がついている。味は絶品の一言なのだが、結構なカロリー爆弾なので女子から見たら手がつけたくてもなかなか手が出せない一品である。
それを気軽にパクついている疾風に二人は戦慄を隠せない。体重増えないのか? と聞こうとしたが、余りにもリターンよりリスクが高すぎて聞かないことにした。
「あー、なんでセカンド・シフトしたのに勝てないんだよー」
一夏が頬杖をついてぼやいていると。女子が口々に指摘した。
「動きが単調」
「零落白夜をバカスカ使い過ぎ」
「荷電粒子砲の狙いがなっていませんわ」
「対して疾風は間合いを完璧に取れていた」
「要するに一夏はわかりやすいんだよ」
「よ、要点を纏めてくれてありがとう。勉強になります」
ぐぅの寝もでない完璧なプロファイリングに一夏はガックシと頭を垂れた。
ズーンと青黒い縦線カーテンが見える。
「はぁ、どっかにエネルギー落ちてねえかな。流石に燃費悪すぎる……」
「そりゃそうだよ。ただでさえ大食いなのに追加武装出来て。更にスラスターも増やしちゃったんだから」
「てか一夏。最後の試合、零落白夜で無効化出来ない攻撃を霞衣で守ったのは完全に悪手でしょ」
「あれはなんというか、咄嗟に守れっ! ってなったというか」
夏休みも終わり、授業の模擬戦を終えた一夏に待っていたのは、セカンドシフトに移行した白式、もとい白式・雪羅のデメリット面だった。
マルチプルウェポンである左手の大型手甲【雪羅】と、前の倍以上になったウィング・スラスター。戦力の大幅な増加を果たしたが、これがとにかくエネルギーを食いまくる。
そしてファースト・シフトから一気にやることが増えた。近遠距離の即時切り替え、射撃訓練に新装備の慣らし。ようするに一夏は自分のISに振り回されっぱなしなのだ。
雪片弐型一本でやってきた一夏からしたら、他のことをやらないでいたツケが一気に来たのだ。いかにセカンド・シフトしてグレードアップしたとはいえ、使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。
レーザー兵器を多用するセシリアや箒には有利をとれたが、実弾やエネルギーを使わない組との戦績は敗色が強かった。
「しかしアレだな。そんな問題も私と組めば解決だな! 紅椿にはエネルギー増幅機能の絢爛舞踏がある!」
「なに言ってんのよ。あんときから一度も成功してないくせに。その点甲龍は燃費もいいし近接中距離もこなすから組むならアタシに決まりね!」
「ふん。それなら私も負けていない。全てのレンジを万能に対応。AICで相手を止めた相手に零落白夜を叩き込む。効率的かつ実戦的戦術だ」
箒の言葉を皮切りに、各々が自分が一夏のペアに相応しい合戦がスタートする。
一夏は相変わらず状況がわからないままスパッと切り出した。
「でもさ、またペアトーナメントが始まるとも限らないぜ?」
「あるかもしれないでしょうが」
「そっか、その時はシャルと組むかなぁ」
「へっ、僕!? え、ど、どうして?」
「前に組んだから」
「あ、そう」
輝きに満ちていたシイタケ目は一夏の手によって一瞬で虚無目に転身する。
虚ろな瞳で近くにあったパンを掴んで頬張った。俺の皿から。
「おいシャルロットそれ俺の!」
「はむ? あ! ご、ごめん!」
「あ、いやこっちもごめん。食べていいぞ、好きなだけ食べなさい」
「私の饅頭いるか? 遠慮するな」
「シャルロットさん。このケーキ美味しいですわよ。一口いかが?」
「あ、ありがとう皆」
「しゃ、シャル。カフェオレ」
「いらない」
落胆したシャルロットに皆が一斉に優しくしているのを見て一夏もカフェオレを差し出すもそっぽを向かれた。
「一夏」
「お、おう?」
「上げて落とすとか、クズだな」
「は、疾風!?」
皆の気持ちを代弁して一夏にもの申した。
予想外の方向から襲撃してきた罵倒に目を丸くする一夏。
「白式よりも自分を知るべきだぞ織斑
(お、怒っている。疾風が怒っている!)
俺の説教を食らったことのある一夏は思わず身震いした。
前回のウォーターワールドのことがあったせいでなおのこと辛辣になる。こいつはやっぱり朴念神だった。
「お、おい。どういうことか説明を……」
「まあ冗談は二割として」
「残り八割は!?」
「シャラップ一夏」
「は、はい」
低音ボイスで一夏をミュートにしたあと。ラウラが戻ってきたのを見計らって口を開いた。
「まあ、さっきのペア云々だけど。ぶっちゃけ白式は誰と組んでも相性はいいと思うよ」
「どういう意味よ」
「白式は零落白夜というジョーカーを常に持ってる。一撃必殺を当てれば勝ち、なら相方はそのルートを作り上げればいい。誰と組むかによって、どのような戦い方を組み立てれるか。やりようによっては戦いかたは幾らでもある。だからさっきお前らが言ったことは、皆正しいということだ」
「な、成る程……」
俺の説明にラバーズはとりあえず納得してくれたようだ。
実際イーグルかティアーズを組ませても相性は良いからな。
「といっても。白式が中核となるんだから一夏の頑張り次第だな。遠近両用、攻防一体、速度上昇を得た白式を生かすも殺すも、一夏が頑張んなきゃ意味がない。わかったか一夏?」
「はい、これからも精進していきます」
「まあ一夏の場合その鈍さもほどほどにしないとな」
「うんうん」
「え? どういうことだ?」
「そういうとこ!!」
一斉にダメ出しを食らった一夏は、何がなんだかわからないという顔のまま呆然としていた。
これはまた駄目だな。皆は早々に見切りをつけてお茶会を再開した。
ーーー◇ーーー
IS学園のゲートに車が入る。
一台や二台ではない。15台の黒塗りの車が続々とIS学園に入っていく。
ゲートを管理する警備員も目を白黒させながら車が去っていく方を見送った。
物々しい雰囲気を出しながらIS学園の校門前で車が規則正しく止まる。
車から降りてくるのは絵に描いたようなボディーガード、黒いスーツに黒いサングラスの男がぞろぞろと降りてきた。
そして最前列の車から初老の男が降り、後部座席のドアを開けた。
車から一人の少女がIS学園に降り立つと、ボディーガード達の姿勢が自然と直立する。
「ここまででいいです」
「宜しいのですか?」
「はい。というよりやり過ぎです。過剰ですよこの数は」
「そんなことはありません。これでも足りないぐらいなのですから」
「とにかく、私はもう籠の姫ではありません。父上にもそう伝えておいてくださいな」
大勢いるボディーガードに一礼し、少女は目の前にそびえるIS学園を見上げた。
深く、深く深呼吸。胸に手を当てた彼女は愛おしげな笑みを浮かべた。
「やっと、やっと会えますね、疾風様」
「まったく、あいつの鈍感癖はどうにかならないのかな」
「鈴、なんか言った?」
「なんもー」
夏休み明けの教室。クラスメイトが夏休みに何処に行っただの何をしたのかと盛り上がってるなか、鈴は何度目ともわからないことをぼやいてみる。
先生が入ってきた。今日はSHRと一時限目の半分を使っての全校集会。これから移動して体育館に行く、はずだったのだが。
「えーっと、今日は都合により。全校集会は明日に延期されましたので。今日は通常授業とします」
「「えー」」
突然の延期宣言+やるはずのなかった筆記授業にクラス内のブーイングが飛び交った。
それもそのはず。その全校集会には皆が楽しみにしていた学園祭の話があったからだ。
というのも、此処の学園祭は、やはりというかなんというか。規模が違う。
毎年クラス総出による、普通校とは違う予算での出し物はクオリティが高く。ISアリーナを使っての巨大な出し物等も行われ。各国からのお偉い方も来るという。とにかくスケールが違う。らしい。
鈴もシャルロットから聞いただけで詳しくは知らないのだ。
「その代わりという訳ではないのですが。なんと、二組に転校生がやって来ます!」
「「「ええー!?」」」
まさかの不意打ちに鈴も目を見開く。
「男!? 男ですか!!?」
「今度は野獣系!?」
(いやいや、そんなポンポン男性IS操縦者が出ちゃあ、世話ないわよ)
内心呆れながら鈴は頬杖をついた。
「代表候補生の人ですか? それともなんか特別な?」
「ええ、まあ。続きは入ってからにしましょう。どうぞー!」
さて、どんな子が来るのか。
鈴の心配は、やはり一夏関連で。
シャルロットしかり、ラウラしかり。転校してきた女の子は一様に一夏に惚れている。
シュンと自動ドアから、その転校生が入ってくるのを見て鈴は品定めしようと視線を鋭くする。
「お、おう?」
ドアから入ってきた転校生の雰囲気に鈴のみならずクラス全員が息を飲んだ。
「では、授業を終了します」
「起立、礼、ありがとうございました!」
「「ありがとうございました」」
今日の午前授業が終わった。
先生が教室を出るのを待たずにクラスメイトは弁当を出したり、足早に食堂に向かう者もいた。
「ちょっと残念だったな。此処の学園祭ってすごいみたいだからさ」
「そうだな、高校生になったばっかだから全容は分からないけど。まあ、明日の全校集会に期待しよう」
ぶっちゃけ楽しみではある。噂によるとライトノベルに出てくるようなクオリティだとか。流石は、天下のIS学園。金のかけ方が大変豪勢だ。
「ヤッホー」
「お、鈴じゃないか。アホッ面の一夏は此処に居るぞー」
「おい、誰がアホッ面だよ」
「いや、一夏に用はあるけどそうじゃないのよ。疾風、あんたに客よ」
客? はて、二組にそこまで親しい人いたかな?
鈴に促されて後ろから一人の女子が出てきた。
「うおっ」
「ほわぁ……」
唐突だが、IS学園の人気の一つに制服のアレンジの高さがある。
学校指定の服装がデフォルトだが。個人によっては、制服のデコレーションを行う場合もある。
例えばセシリアはドレス風にアレンジされたもの。鈴は肩を露出させ、ミニスカートにスパッツという感じ。
多少お金がかかるも、制服を自分好みにカスタマイズ出来るのは世界中探してもここぐらいだろう。
で、なんでいきなりこんな話をしたかというと。目の前に現れた女子の姿がこれまで見たことないタイプだったからだ。
「き、着物?」
そう、古来から日本で愛されていた衣服である着物。現在は余り見かけないが。京都などの古都、祭りや祝い事で見かけることがある。
IS学園の制服カラーである白地に赤と黒を交えた物をそのまま着物にしたようなカラーリング。
血色が薄目の肌と、それを際立たせるような緑の黒髪。その大和撫子を形にしたような平安美少女の登場に。皆が一様に彼女に釘付けとなった。
「疾風様!!」
その和服少女と目があった。一呼吸置くことなく彼女は俺の名前を呼んだ後に俺目掛けて小走りで駆け寄り。そのままポフっと、俺の胸の中に収まった。
「おふっ?」
「お久しぶりです! 疾風様!」
は、疾風様?
顔を上げてニパッと向日葵のような笑顔を見せてくれた美少女。
教室は時が止まったようにシーンと静まりかえった。そして。
「「「ええええぇぇええ!!?」」」
クラスに窓ガラスが揺れるレベルの音響爆弾が炸裂した。
塞ぎようのない俺の耳に音響爆弾が直撃、そのおかげで現実に戻ってこれた。
えと、状況を整理しよう。
鈴が連れてきた和風美少女が俺を見るなり猛烈なハグをしてきました。
うん、わからない。というか考える余裕がないのが正しい。
だって凄い良い香りするもん。匂いじゃなくて香り。
「疾風様?」
「あー、その」
「あっ! ご、ごめんなさい。私ったらはしたないことを」
名残惜しげに離れた彼女。ポポポと頬を火照らせて照れる姿は正しく可憐と言えるだろう。
しかし、なんか見覚えがある気もするけど思い出せぬ。いや、もしかしたら俺の熱烈なファンという可能性も微レ存。様付けだし。
んー。いくら考えても思い出せない。
「えと、それで」
「はいっ!」
「……どちらさまでしょうか」
「ガーン!」
なので正直に聞いてみることに。
女の子は目に見えるようにショックを受けてしまった。
「うぅ、そうですよね……なんせ二年半も前ですもの。頻繁に合っていた訳ではないですし、覚えていないのも無理はないですよね」
うっ、罪悪感と申し訳なさが半端じゃない。
俺は記憶の引き出しを豪快にひっくり返して捜索した。
「二年半前ってことは、中1?」
「はい。といっても。会っていたのは主に病室のなかでしたね」
病室。
キーワードを聞いた途端、ぐっちゃぐちゃになった記憶の中身からそれは取り出された
「もしかして、菖蒲?」
「っ!!」
名前を口にすると、彼女は顔を上げて目を見開いた。
「思い出しましたか?」
「え、嘘っ。菖蒲なのか?」
「はい!
パァっと輝く笑顔が眩しい。
周りは完全に置いてけぼりをくらって呆然と二人を見ている。
「菖蒲? 本当に菖蒲!? 足ついてる? 生きてる!? 手術は成功したのか!?」
「は、はい、ご報告が遅れてしまい。申し訳ございません。手術は無事に成功致しました」
「そっか!そっかぁ………良かったなぁ、ホントに良かった」
「ああ。そんな泣かないで下さい疾風様。はい、ハンカチをどうぞ」
「ん、ありがと」
今度は俺が泣き出した。
周りは更に困惑するなか、彼の幼馴染みが切り口を出した。
「あの、感動の再会のなか申し訳ありませんが。疾風、そろそろ説明してくださいな」
「え? あ、うん。ごめんごめん、感極まってつい」
一つ咳払いをして心を落ち着かせる。
菖蒲に目配せすると、彼女はコクリと頷いてくれた。
「この子は徳川菖蒲。徳川グループのお偉いさんの娘さん」
「徳川グループって、確か打鉄の製造元の?」
「正解」
【徳川グループ】
日本有数のIS関連会社で、打鉄を発表して一躍IS業界に名乗りを上げた企業で。レーデルハイト工業に並ぶIS学園最大のスポンサーでもある。今では日本のIS企業の6割りは完全に掌握しているとか。
確か白式の開発元である倉持技研は、徳川グループの傘下組織の一つだ。
そしてIS学園にとって、レーデルハイト工業以上の最大手スポンサーだ。
菖蒲と出会ったのはイギリスから日本に引っ越した時に出来た友達。
だが、体が弱かった彼女は学校と病院を入退院で行ったりきたりしていた。
親繋がりで知り合った俺は、その時から友達である村上や柴田と一緒にお見舞いに行っていた。
だが中学一年の冬、菖蒲の病状が悪化した。そのときは安定したものの、このままでは遅かれ早かれ死に至ると言われた。
それを回避するには海外の病院で手術を受けなければならない。
菖蒲は手術を受けると言って、そのまま海外に飛んだ。
それから連絡が取れないまま月日がたった。成功したのかそれとも失敗したのかわからないまま今に至ったのだ。
「成る程、だからあんな反応でしたのね」
「そのわりに忘れるって酷くない?」
「ごめんなさい」
「大丈夫ですよ凰様。思い出してくれただけで私は嬉しいですから」
お恥ずかしながら。前の高校に居たときは時々思い出していたけれど。いや、これは言い訳だな。
菖蒲は許してくれたみたいだが、今度なんかお詫びしよう。
「しかし、まさかIS学園で再会するとは思わなかったぞ」
「申し訳御座いません。疾風様がISを動かせると聞いて居てもたっても要られなくなって行動に移したのですが。色々と手続きに時間がかかってしまって」
「手続き?」
「代表候補生になるための手続きです」
「え! じゃあ今お前代表候補生なの?」
「はい、日本の代表候補生兼試験パイロットです。財閥の娘というだけでは入学出来ませんでしたので。頑張りました」
頑張りました。菖蒲は一言で纏めたが、その努力の程は計り知れないだろう。
「そうだったんだ。でもまた再会できて本当に良かったよ」
「私もです疾風様」
クシャっと笑い合う俺と菖蒲。
本当に手術が成功して良かった。あとで村上と柴田に連絡いれとかないとな。
「あ、あのー」
「ん?」
遠慮がちに手を上げたのは鷹月さんだった。
「その、お二人はどのような関係なのでしょうか? 普通の友達という風には、ちょっと見えづらかったなー、というか?」
「関係といっても、友達というか」
「はい、親同士が決めた許嫁でございます」
「まあそんな感………え?」
今なんか凄いフレーズが聞こえた気がしたのだが。
チラッと菖蒲さんを見ると「ん?」と小首を傾げた。
「え、あの菖蒲さん? 今なんと言いました?」
「親同士が決めた許嫁です」
「ワンモア」
「許嫁、です」
「はっ!?」
「「ええーーー!?」」
爆音パートツー発生。
二組と三組からも何事かと顔を出してきた。
「ちょ、ちょっとまて! 菖蒲! なにその話聞いてないんですけど!?」
「あら? 疾風様、親御様から聞いておられないのですか?」
「初耳だねぇ!?」
え、なにそれ? 全然聞いてない!
父さん母さん! 俺の知らないところでなにいろいろ話を進めちゃってるのでしょうか!?
たまらずセシリアも優雅を維持できず汗を浮かべて詰め寄ってくる。
「ははは疾風!? これはどういう!?」
「ちょっと待って! 俺も状況についていけないんだが!?」
「わたくしがお家事情で格闘している間に一体何がありましたの!?」
「何度かお見舞いに行ったくらいとしか言えないっす!」
「疾風様、私と許嫁になるのはお嫌なのですか?」
「返答に困ること聞くのやめてほしい!」
「私は嬉しいですよ?」
「え!?」
「「えーー!!?」」
もう何度目かわからないえー! が一年一組の教室に響く。
て、ちょっと待とう。今話の流れのままなんと告白をされた?
え、え!? え? えーー?
キャパオーバーする俺と状況についていけていないセシリア、そしてことの発端たる菖蒲はニコっとしていて全く動じてない。
修羅場だと徐々に周りがはやし立てる、ラバーズは口を開けたまま目を白黒し。あの一夏でさえ顔を赤くして圧倒されている。
「えと、菖蒲、その………」
「ふふ、疾風様ったら──冗談ですよ」
「ほ?」
「「「へ?」」」
先程まで騒がしかった教室が一気に静まり返った。
皆の視線が菖蒲に針ネズミのように集中するなか、菖蒲は動じずに頬に手を当てて笑っていた。
「ごめんなさい、あまりにも流れが良くて。つい興が乗ってしまいました」
「な、なんだ。脅かすなよ菖浦さん」
「うふふ、ごめんなさい。疾風様にまた会えたのが嬉しくて」
おとなしい子と思ったら中々とんでもない子が来てしまったわ。
いたずらっぽく笑う菖蒲に周囲のテンションは静まり、野次馬として来ていた生徒も教室に戻っていった。
「私は……けどね」
「え?」
「どしたセシリア」
「い、いえ。気のせいですわ」
あ、そう。
本人が気のせいと言うならば下手に追及出来ない。でも気のせいって大抵気のせいではないよなー、二次元だと。
「徳川さーん。あ、いたいた」
「先生? なにかありましたか?」
「書類の確認をしてもらいたいから、少し来てほしいのだけれど」
「わかりました。では疾風様、また後程」
「お、おう」
楓は軽く会釈して二組の先生に着いていった。
教室からいなくなると、急に力が抜けて椅子に座り込んだ。
「どうした。告白されたってのに随分やられてるじゃないか」
「あんなガチの告白なんて初めてだったんだよ」
「モドキだったけどね」
「やかましいわ」
「レーデルハイト君って告白とかされなかったんだ」
「あっても金目当ての女ばっかだった」
「IS学園に来てからは?」
「4人ほど。でも男性IS操縦者だからって理由だけだった」
「「あーー」」
クラスの皆が悟ってくれた。
納得してくれたのは嬉しいけど虚しさが込み上げてくるのはなんでだろうね。すねてないもんね。
「一夏、ごはん食べに行きましょ。あんたらは……どうせ来るでしょ」
「当たり前だ」
「じゃあ行くか」
初っぱなから怒涛の展開がありつつも、いつものメンバーで食堂に行くことに。他の生徒もそれぞれ動き出した。
「………」
「行くぞセシリア」
「え、ええ」
「大丈夫?」
「問題ありません。行きましょう」
少し考える素振りをみせたが。またいつもの毅然とした態度でセシリアは先を進んでいる一夏の方に向かっていく。
「疾風。そいやさっきの子、徳川菖蒲さんだっけ。徳川ってもしかして」
「うん、徳川家康のガチ子孫」
「マジか! 凄い人が来たんだな」
「俺も初めて聞いた時は驚いた」
道すがら菖蒲とのことを話すことにした。
二組に転入してきたらしいし、午後の実技授業でまた会えるだろうな。
とにかく元気になってくれて本当に良かった。
「………気のせいですわよね」
一歩離れて歩くセシリアがポソリと呟いた。
その呟きは昼休みの喧騒にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。
はい、満を持してまさかのオリヒロイン。
自ら難易度を爆上げしていくという鬼畜の所業。
pixiv版でこの子を上げた時はビクビクしたものです。
なんやかんやで第5巻編スタート。皆さん、改めて応援よろしくお願いします。