IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第34話【時代劇ファイナルウェポン】

「やっぱ無駄に広いよなぁここ」

 

 午後授業の実習に向けて一夏はISスーツに着替えていた。

 現在男子専用となっているロッカールームは疾風と一夏以外いないため静寂に満ちていた。

 

「いいじゃん。こんな広々としたとこ独占出来るんだし」

「そうかな、俺は落ち着かないよ」

「まあね。よし行くか」

「あ、先行っててくれ。少し白式の状態確認したい」

「そう。じゃあお先に」

 

 服の下に来ていた疾風は一夏より先にアリーナに向かった。一夏は長椅子に座り、白式のコンソールを呼び出してパラメータとにらめっこした。

 

「やっぱり雪羅のエネルギー効率が悪いな。疾風に調整してもらったけど。なんとかならないものか」

 

 銀の福音と戦っていた時もエネルギー切れの危機が二度もあった。あのとき箒が絢爛舞踏を発動して駆けつけてくれなかったら………

 ふと、そんなことを考えていると。急に一夏の視界が暗くなった。

 

「だーれだ?」

「えっ! だ、誰!?」

 

 背中から聞こえた声は同級生より大人っぽい。知らない誰かさんに一夏は慌てふためいた。

 

「はい、時間切れ」

 

 そう言って解放してくれる手の持ち主を確認しようと、一夏は振り向く。

 

「………誰?」

「うふふ」

 

 本当に知らない人だった。

 

(じゃあ、どっちにしろわからないじゃないか!)

 

 目の前の女子、リボンの色から二年生だとはわかる。

 疾風のイーグルに似た水色の髪にウサギのような真っ赤な瞳。

 目の前にいるのに掴み所がない。なんというか、神秘的、ミステリアス、そんな感じだった。

 

「えーっと」

「それじゃあね。急がないと織斑先生に怒られるぞ?」

「え?」

 

 サーッと血の気が引き、時計を見て、更に引いた。

 もう授業開始から、3分もたっている!!? 

 

「だああぁっ!? ヤバイ! まずい!!」

 

 もう一度元凶の人物を見たが、もうそこには誰もいなかった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「レーデルハイト、あの馬鹿はどこにいった?」

「こ、更衣室かと思いますけど。見てきますか?」

「いい」

 

 授業開始……時刻になっても一夏がこない。

 いつもの白ジャージの織斑先生の声は明らかに怒を含んでいる。

 怒られた訳でもないのに震えがヤバイよヤバイよ。

 俺は離れた。当事者じゃないからいいよね。

 

「あー、こぅわっ」

「大丈夫ですか疾風様?」

「なんとか」

 

 ISスーツを着た菖蒲が心配してくれた。優しい子。

 彼女のISスーツだが、下は黒、上は白だが、胸辺りが縁の取れた黒色の二等辺三角形模様と、なかなか凝ったデザインで。胸元には首から下げられた巾着袋が揺れていた。

 

「あれが初代日本代表。成る程、聞いた以上の貫禄ですね」

「まだあれは優しい方だよ。ところでそのISスーツ特注?似合ってるね」

「ありがとうございます。この配色、実は弓道着をイメージしてるんですよ」

 

 ああ、胸の三角は胸当てか。

 先程のゆったりとした着物とは違うラインが出るISスーツ姿だが、記憶のなかの彼女は痩せこけてるといった印象とは違う。

 スレンダーな体型ではあるが、至って健康そうに見えたことに俺は安堵した。

 

「菖蒲、その巾着袋なに入ってんの?」

「これですか? これはですね」

「すいません遅れましたー!!」

 

 巾着袋から取り出そうとした時に全速力で一夏がアリーナを走ってきた。5分の遅刻。

 残念ながら中断。後で見せて貰えばいいか。

 

「一応聞こう、何故遅れた」

「ギリギリまで白式の調整をしてたんですけど。その、えーと」

「なんだ、はっきり言え」

 

 口をモゴモゴと動かす一夏に容赦のない言葉を浴びせる織斑先生の目は身内に向けるような慈悲の心など一切存在しなかった。

 まさしく閻魔の大王の貫禄に、一夏も観念した。

 

「いきなり知らない女の子に目隠しされて、それで遅くなりました」

「ほう、初対面の女子と楽しく会話して遅くなったと」

「楽しくなんて話してませんよ!?」

 

 一夏の言い訳もむなしく状況は悪化した。

 女の子ってワードが出た瞬間に隣の女子4人から冷えた空気が流れ込んできた。

 白式のチェックってだけ言っとけばいいものを。良い意味でも悪い意味でも嘘つけないなあいつ。

 

「デュノア。ラピッド・スイッチの実演をしろ。的はそこの馬鹿で構わん」

「俺は構うのですが!」

 

 戸惑っている一夏を他所にシャルロットは愛機であるリヴァイヴを呼び出した。

 

「あ、あの? シャルロットさん?」

「なにかな、織斑君?」

「ヒッ! は、疾風、タスケテ」

 

 シャルロットにあっさり見捨てられた一夏は自身のルームメイトである俺に助けをこうた。

 まるで捨てられた小犬のよう。可愛くないけど。

 

「まったく仕方ないな」

「は、疾風ぇ」

「いいか一夏。俺の言うとおりにしろ」

「あ、ああ!」

「あとでなんか奢れよ」

「ああっ!」

 

 最後の希望が届いたとばかりに瞳を輝かせる一夏。そんな一夏に俺は現状考えられる最大の手を授けた。

 

「まず手足の装甲だけを展開するんだ」

「おう!」

「胸の装甲も出しとけ」

「わかった! それで?」

「終わり」

「よしっ! え?」

 

 白式翼なしバージョンとなった一夏を置いといてシャルロットのもとへ。

 

「シャルロット、俺のボルトフレアを貸してやる。再チャージなしでも内蔵バッテリーだけで五発は撃てる」

「ありがとう疾風」

「疾風、さん?」

「GOOD LUCK一夏」

「はっ?」

 

 ジャキン! と両手の銃火器をアンロックするラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。

 

「おい疾風!」

「大丈夫、ISのシールドエネルギーは優秀だ。さあ行け一夏、お前は解き放たれた」

「おいぃぃぃ!!」

「覚悟はいい、織斑君?」

「待ってくれこれは誤解」

「一夏の甲斐性なし!!」

「ヴぁぁぁあああ!!?」

 

 

 

 いやー、凄かった。

 

 アサルトライフルからショットガン、その他もろもろの武装をラグ無しでコールするラピッド・スイッチには改めて舌を巻いた。

 プリセットを減らしてバススロットを増した空間に貯蔵している武器は約20個、それをおしげもなく見せたその技量はもはやエンターテイメントの域だった。

 

「はい、疾風」

「おう、どうだった使ってみて」

「思ったより撃ってから次弾が短かったし、反動も少なくて使いやすかったよ。でもスナイパーライフルに比べて少し射線にブレがあったかな」

「そうか、貴重な意見ありがとう」

 

 こういう意見は次の開発や現在の装備調整に活かされる。同じ企業戦士のシャルロットの感想を頂けたのは正直ありがたかった。

 

「では、二学期からは模擬戦の授業を始める。実際にISの動作を体感しあうことで、各々の技術力の向上をはかる」

「あの、織斑先生」

「なんだ徳川」

「織斑様はこのままで宜しいので?」

 

 おびただしい弾痕の真ん中に織斑一夏という屍が転がっている。

 シールドがあるぶん当てない心配をしなかったシャルロットの〆グレポンをくらった様は正に爆発オチだった。

 肉親である織斑先生は一瞥すらせずにパンと手を叩いた。

 

「では、最初に手本を見せてもらう。やりたいものはいるか?」

「はい」

 

 セシリア挙手。

 

「他に立候補したいものはいるか?」

 

 最近はビットの操作率が上がって順調に勝率を上げているセシリア。非専用機持ちからしたら実力者に違いはなく尻込みしてる。

 だが専用機持ちは一夏に良いところを見せたいようで。セシリアをだしにしようと前に出た。その気概があるならヤムチャしてる一夏を助けてやれと思うのは俺だけではないはず。

 

「はい!」

 

 が、先に手を上げたのは菖蒲だった。

 皆の視線がニューカマーである菖蒲にそそがれる。

 

「大丈夫か菖蒲。初戦でセシリア相手はちとキツイんじゃないか?」

「私も代表候補生です。それに、オルコット様の実力がどれ程なのか是非知りたいのです」

 

 んー、そう言われたら無理に止めるのも野暮だな。

 

「じゃあ練習機取りに行くか。打鉄のほうが慣れてるだろうから打鉄のほうが良いか?」

「ありがとうございます疾風様。ですがご心配なく。新参者ですが。なにも丸腰で戦場(いくさば)に来たわけではありませんよ?」

 

 菖蒲は皆から少し離れた場所に立つとペコリと一礼した。

 すると巾着袋が光ったと思えば菖蒲の体を覆うように光の粒子が次々と現れた。

 これって、ISの展開光? 

 

 ものの数秒で現れたのは、少し形が変わった打鉄だった。

 外見は打鉄だが、元の鈍色の鎧武者と違ってこちらは華やかだった。

 カラーリングが白地に緑黄緑、本来の地味目な配色から一転、しかし何処か華やかで、落ち着きを感じさせる雰囲気だった。

 

「菖蒲、お前専用機持ってたのか……」

「はい。徳川グループが開発した、第三世代型打鉄専用パッケージ試験型、稲美都(いなみつ)パッケージでございます」

 

 シルエットはカラーリング以外打鉄と同じだが。スラスター兼用のシールドが二枚から四枚に、装甲の各所が追加、右手には鉄甲のようなパーツ。

 右肩には徳川グループのロゴである徳川家の家紋がペイントされており………

 

「あれ? おい菖蒲、何でレーデルハイト工業のロゴがついてんだ?」

 

 そう。打鉄・稲美都の左肩には、何故かレーデルハイト工業のロゴマークがプリントアウトされていたのだ。

 

「はい。この稲美都は徳川グループとレーデルハイト工業の合同で開発された、ISパッケージのテストモデルなんです」

「俺、なんも聞いてないのだが?」

「すいません、実はこれが完成したのがつい最近でして、どうせならその場でお披露目した方が宜しいかなと。疾風様のお母様から」

 

 あの恋愛脳ママっ! 最近息子に対して隠し事が多いのではないか!? 

 俺一応工業の看板を背負ったテストパイロット兼広告塔なんだけども! 

 

「この稲美都パッケージなんですけど。まだ試作テストを数回済ませただけなんです。疾風様、一緒に武装やスペックをチェックしてくれますか? 疾風様は技術面に秀でてると疾風様のお母様が仰ってましたので。意見を聞きたいのです」

「いいけど。過度な期待はするなよ」

「はい! お願い致します」

 

 呆気に取られたが。新しいISとなれば俺の中のISギークの血が騒がないはずがなかった。

 

「よし、先ずはどこやろうか。スラスター? シールド周り? 武装のノウハウ? なんでも言ってくれ」

「………」

「あ、ごめん。引いた?」

「いえ、病室にいた頃を思い出して。あの時の疾風様もISの話をしたときは嬉しそうだったなって」

「そ、そうだっけ………えと、始めよっか」

「はい!」

 

 危ない危ない。授業が押してるから短めに済ませなければ。

 イーグルと接続してデータを閲覧する。

 

「どうですか?」

「このメイン武装。俺もこういう装備は初めて見たわ。まずやってみないとわからないかな」

「あ、ごめんなさい。武装やその他のオーダーは私が発案したもので」

「ん? ああ、いいよいいよ。こういう個性的な物は好きだ」

「す、好き………。ところで、どうですか疾風様。稲美都は私に似合っていますでしょうか?」

「勿論! なんというか和、って感じ? 色合いも、菖蒲とあってる気がする」

「そうですか、良かった」

 

 和やかな雰囲気を出しながらデータを点検していく。

 そんな俺と菖蒲を訝しげに見つめる人物が一人。

 

(疾風、少しデレデレし過ぎではありません?)

 

 自身のISの状態をチェックしながら。セシリアは全方位視界で二人を盗み見ていた。

 

 もう会えないかもと思っていた友人を目の前にしたら喜ぶのは分かる。

 だけどなんというか。思い出す前にも関わらず抱き付かれても満更ではなかった彼に、セシリアの心は波がたっていた。

 

(確かに可愛い子ではあると思いますよ? ですがいきなり抱き付かれて振りほどかないって………むむ、なんでしょうねこのモヤモヤは)

 

 セシリアが前を向くといつものメンツが目に入った。

 そこには起き上がった一夏がシャルロットに話しかけてるところを離れて見つめる三人の姿だった。

 その様子を見てセシリアはハッとした。

 

 もしかして嫉妬? 

 

(いやいやいやいや)

 

 ブンブンと首を振るセシリア。自分は彼女たちと違って疾風に好意を抱いてなどいない。

 これはそう、見ず知らずの相手に心を許しすぎという危機管理のなさに腹を立てた。

 イギリスでの誘拐事件のことがあったにも関わらず警戒心が欠けてるのではと思ったのだ。

 納得したセシリアは再び二人の様子を見た。

 

「はい、チェック完了したよ。特に問題はなし」

「ありがとうございます疾風様」

「おう。セシリアは強いからな、気張れよ」

「はい。その………応援してくれますか?」

「ん? ああ分かった、頑張れよ菖蒲」

「はいっ!」

 

 パァっと表情が明るくなった彼女を見て、セシリアの胸にまたモヤモヤが沸いてきた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 両者のISが空に飛び立つ。菖蒲が乗る打鉄・稲美都の姿はまさしく鎧武者のそれだが、こうして遠目でみると天女のように見えてくる。

 セシリアが自慢の得物であるBTエネルギーライフル、スターライトMarkⅢを取り出すのを見て。菖蒲も自身の武器を取り出そうとした。

 

「………」

「落ち着いてイメージするんだ。引き絞って放つ、自身の武器を」

「はい」

 

 暫しの時間の後、菖蒲の手にはISサイズに拡張された機械弓がコールされた。

 いや、弓の中心から2本のレールのようなものが伸びている為、見た目的にはアーチェリーのそれに近い。

 IS用の弓。意外と見たことないジャンルだ。

 しかし、その武器は打鉄とも上手くマッチしており。全体的なシルエットは更に磨きがかかったように見えた。

 

「オルコット様」

「なんでしょう?」

「手加減はなしでお願いしますね」

「ええ、勿論」

 

 武器を持つお互いの手に力が入った。

 

「二人とも、準備は出来たな?」

「「はい」」

「それでは、始め!!」

 

 お互いが対角線状を保ちつつ、円形に移動し様子を伺う。

 

 先に仕掛けたのはセシリアだった。スターライトMKⅢのレーザーが打鉄・稲美都に向かい、肩部シールドに当たる。

 

「くぅ………っ!」

 

 よろけながらも体制を整え、その手に矢を取りだす。自身の弓、【(あずさ)】にセット、弦を引き絞る。

 梓に装備されたレールパーツにバチバチとプラズマが帯電し、矢は放たれた。

 バチン、という大きくもない音と共に。高速で放たれた矢にはセシリアは反応が遅れブルー・ティアーズの足を掠めていった。

 

(は、速い! 恐らく、あれは疾風のボルトフレアの応用。しかも速度はあれより速くて、鋭い)

 

 続け様、その手に同時に三本もの矢をコールし、一定感覚で撃ち付ける。

 

「織斑、抜き打ちだ。打鉄について説明してみろ」

「え、ええ!?」

「さっさとしろ」

 

 そういう解説は疾風の役目なのではないかと思いながら、一夏は頭の中の引き出しを引っ張り出した。

 

「打鉄は第二世代型の日本製ISで、世界シェア二位の機体です。特徴は整備のしやすさと、防御力が高いです」

「他には」

「えっと。今運用されてるISの中で最もパッケージの種類が豊富で、射撃パッケージの【撃鉄】は、長距離射撃命中率の世界記録を保持しています」

「ふむ、教本通りの答えでつまらないが、まあ及第点だろう」

「ど、どうも」

「では、今のを含めて。お前から見た打鉄・稲美都の特徴を言え」

「ええっ!?」

 

 終わったと思ったらまさかの応用問題が来た。どう見ても当たりが強い姉に、なんかしたっけと一夏は思い返すと。

 

(あ、俺遅刻したわ)

 

 自業自得である。

 

「そろそろ行きますわよ!」

 

 セシリアがBTビットをオープン。周囲に展開されたビットの挙動に気をとられるうちに、蒼い射手は獲物を取り囲んだ。

 

 人間の五感では把握できない全方位攻撃に、菖蒲はハイパーセンサーを逐一確認し、的確に肩部シールドを動かして防御する。

 その表面には薄い電磁フィールドの膜が走り、ぶつかったレーザーが散らされて盾の上を滑った。

 

「レーザーが拡散して!?」

「隙が出来てますよ!」

「なっ!? きゃあ!!」

 

 ジャキンと、梓のレールパーツが前方に拡張され、矢が装填されたレールパーツから先程とは非にならない放電量が集束され、そのままプラズマ弾として放たれた。

 不意を突かれたセシリアはそのプラズマ弾をもろに喰らい吹き飛ばされた。

 

 その射撃を見て、一夏は理解できた。

 

「菖浦さんが使ってるISは所々に疾風のイーグルに似た機能が使われてるみたいです。普通の打鉄よりも全体の性能が上がってる気がします。あのパッケージはイーグルの機能を打鉄に乗せてる感じ………だと思います」

「ん、お前にしては上出来だな」

「あ、ありがとうございます(やった、千冬姉に褒められた!)」

 

 ろくに褒めやしない鬼教師の姉に褒められたのか一夏は心のなかでガッツポーズ。

 この優しいところをもっと日頃から出せれば良いのに。と思っていたら出席簿が一夏の頭を小突いた。

 

「あいてっ」

「顔に出てるぞ馬鹿者。まあ、攻撃力面での応用力はまだまだレーデルハイトのスカイブルー・イーグルには及ばないだろう。見ろ、プラズマ弾を撃ちだした後のレールバレルがボロボロになっている。恐らく本来の用途ではないのだろうな」

 

 頭をさすりながら一夏は菖蒲の梓を見た。確かにバレル部分が焼け焦げて使い物にならなくなっていた。菖浦は焦げたバレルをパージし、スペアのバレルをコールして取り付けた。

 

「油断しましたわ! おまけに固いですのね!」

 

 ビットを滑らせるも、四つのビット一機につき四つのシールドを対角線上に合わせて防御している。

 正面から来る射撃は回避したり、梓の弦に備わったプラズマブレード発生装置にガードされた。

 

「ならば!!」

 

 セシリアはビットを呼び戻し、全方位ではなく自機周辺に配置。点ではなく面で稲美都の守りを削っていく。

 徐々に押され、ずれた隙間にビームが突き刺さる。

 

「くっ! 流石代表候補生の名は。伊達ではありませんね。ですがそれは私も同じこと!」

 

 四本の盾の隙間から、弓は射られた。

 

「そんな直線的な」

 

 最小限の動きで矢の軌道からそれる。だが放たれた矢は先程と同じものではなかった。

 横によけたセシリアを追うように、放たれた矢はグイット方向を変え、当たった矢は爆発した。

 

「矢が曲がってっ!?」

 

 稲美都は通常矢の他にバリエーションにとんだ特殊性の矢を複数持っている。

 今放たれたのは方向転換ブースター内蔵型の爆裂矢【(きょく)】。

 

 崩れたセシリアを見逃さず、菖蒲は先程の矢よりも二回り大きい矢を出現させ、よろけたセシリアにすかさず放つ。放たれた矢からワイヤーを放たれ、ティアーズを拘束し。更に電撃が追い討ちをかけた。

 

 試作型対IS用電撃捕縛矢【(しばり)

 電撃とワイヤーで動きの止まったセシリアに菖蒲は好機を見出だした。

 

「決めます」

 

 静かに息を吐き。菖蒲は決めの矢をコールする。

 呼びだせれたのは先程の拘束矢の非ではないほどの巨大な矢。その円周はISの腕の太さと同じぐらいの太さ。

 バレルが拡張され、姿勢制御用に肩部シールドを四方に配置し、PICで自身を固定する。

 

 装填、弦を限界まで引き込む。

 

「照準固定、【桜花(おうか)】、放ちます!!」

 

 一際大きい音と共に放たれた巨大な矢、いやもはや矢とは言えない大きさの桜花はプラズマの尾を引きながら飛ぶ。

 そのままセシリアのブルー・ティアーズに突き進み、爆音をたてて爆ぜ広がった。

 

 試作型一撃決戦用重爆裂矢【桜花】。

 自機を固定しないと反動で照準が定まらないほどの威力で放たなければ真っ直ぐ飛ばない程の重量を誇る矢であり。発射間までのラグが長いのが弱点。

 

 爆発の風圧によって引き起こされた砂嵐が俺達に降りかかった。

 な、何て威力。セシリアは無事だろうか。

 

「やった! やりましたよ疾風様!」

「お、おう。ってまだ試合終わってないぞ菖蒲!」

「え?」

 

 勝ったと確信した喜びの余りセシリアとは反対にいる俺の方に向いた菖蒲

 敵から目をそらした。その致命的な隙をティアーズを駆るセシリアは見逃さなかった。

 

 まだ晴れない爆煙の中から瞬時加速を発動させたセシリアが飛び出した。

 

「そんな! 桜花が当たったのに!」

 

 セシリアの左手には近接ブレード、インターセプターが握られていた。

 菖蒲は慌てて肩部シールドを前方に張るが、瞬時加速に後押しされたセシリアの斬撃に稲美都は吹き飛ばされる。

 

「きゃあ!」

「ふっ!」

 

 吹き飛ばされた菖蒲に腰のミサイルビットとスターライトの攻撃を浴びせる。

 菖蒲さんはそれを防御しようとするも、それを防ぎきれずに更に態勢を崩す。

 

「痛っ……はっ!」

 

 いつの間に周囲に配置されていたレーザービットに、菖蒲は目を見開いた。

 眼前にはスターライトMKⅢの銃口を向けるセシリアのブルー・ティアーズが。

 

「チェックメイトですわ」

「………投了します」

 

 武器を下ろし、菖蒲とセシリアはゆっくりと地上に降りていく。

 

「負けてしまいました。とてもお強いのですね、オルコット様」

「いえ、貴女の戦い方も見事でした。最後の一撃にはヒヤリとさせられましたわ」

 

 ISを解除した二人はどちらともなく手を差し出して握手を交わした。

 手加減なしの白熱したバトルに生徒のテンションは軒並み上がった。

 二人が降り立つと同時に一組二組の生徒は二人、というより菖蒲に群がった。

 

「徳川さん凄い! ISで打つ弓って格好いいね!」

「レーデルハイト君といい、徳川さんといい。転入生組は総じて侮れないわね」

「そいえばレーデルハイト君とは本当にどんな関係なの!?」

「返答次第では放課後コースよ!」

「ほおほお、滑りのよい美肌ですなぁ」

「は、疾風様ーー!」

 

 おお、あっという間に菖蒲がもみくちゃに。度が過ぎたら止めに、入れるだろうか。

 あ、セシリアが出てきた。

 

「ふぅ」

「お疲れー。ナイスファイト」

「ええ、どうも」

 

 セシリアは一息吐くも直ぐに疲労を感じさせない毅然とした姿を見せる。

 

「最後の桜花の一撃どうやって回避したんだ? 直撃してなかったろ?」

「運良くワイヤーの電撃が収まったのでミサイルで相殺しました。ワイヤーはビットで焼き切りましたわ」

「流石。電撃収まらなかったらどうしてたの」

「自爆覚悟で撃ってましたわ」

 

 あらワイルドだわこの子。

 

 そのあとは各々がグループを作ってISを飛ばしていた。

 練習機同士の模擬戦もあったが。なにより身になったのは専用機との戦闘だろう。

 

 打鉄やラファールとは違う第三世代兵装との戦いは今までとは違う刺激があり。班ごとにどうすれば突破できるかと論議が交わされながら模擬戦を行う姿は正に授業の理想系とも言えた。

 

 一番顕著に見えたのは一夏のところか。結局遠距離からバシバシ撃たれるというパターンを構築されて一夏も冷や汗をかいていた。

 SEが普段の半分からのスタートだったために無闇に零落白夜を使えなかったが。そこまで練度の高くない相手だったため月穿の射撃練習になったと本人は言っていた。

 

 あっという間に二時限分を使った授業は過ぎた。

 汗を軽く流してから他のアリーナに赴く女子や、カフェテリアでスイーツを食べに行く女子もいたが。今回は菖蒲という新しい要素が加わった為、授業終了と同時に自然と彼女に群がっていく。

 

「ねーねっ! 徳川さんのISの待機形態ってどんなの? 私ISの待機形態好きなのよー!」

「あ、私も見たいな」

「え、えーと。その、あまり見せびらかせられるような物では………」

「大丈夫大丈夫、どんな奇抜デザインだとしても引かないから」

「むしろギャップ萌え」

「で、では」

 

 IS学園女子の溢れて溢れるバイタリティを前に、菖蒲は首から下げた巾着袋を緩めて中身を取り出した。

 

「ぬおっ!?」

「そ、それはまさかぁっ!!」

 

 菖蒲の周りに居た女子がズザーと後退った。

 巾着袋から出されたそれは。黒光りする漆を下地に繊細な金の塗装が施され、真ん中には徳川の紋様である三つ葉葵が刻印された、日本のカルチャーに触れた物なら誰もが知るアレである。

 

「静まれ静まれい!」

「この紋所が目に入らぬか~!」

「ちょっ! お二方!?」

 

 ズイッとISスーツ姿の相川さんとのほほんさんが菖蒲の前に躍り出る。

 

「此方におわす方を何方と心得る」

「恐れ多くも徳川の末裔。徳川菖蒲様にあらせられるぞ~」

「一同、御令嬢の御前である!」

「頭が高~い! 控え居ろ~う」

「「はっ、ははーー!」」

「み、皆さんやめてくださーい!!」

 

 打ち合わせでもしたんじゃないかという程の再現っぷり。

 IS学園女子のノリの良さは世界一。国籍問わず菖蒲の前に整列して頭を垂れた。

 菖蒲は一連の原因である某時代劇のファイナルウェポン。徳川の印籠を模した打鉄・稲美都の待機形態を握りしめながら顔を真っ赤にしてオロオロしていた。

 

「ははっ」

「嬉しそうですわね」

 

 簡易劇場が繰り広げられてるのを見て思わず笑った俺にセシリアが横から顔を覗いてきた。

 

「そう見えた?」

「ええ、まるで親が子を見るような」

「そうだな。ベッドから離れられなかったあいつを見てばっかだったから尚更な。見ろよ、なんだかんだ言って楽しそうだろ」

 

 土下座から起き上がった女子に再びもみくちゃにされる菖蒲の顔は戸惑いながらも笑みが溢れていた。

 一組もそうだが、二組も比較的フレンドリーな人ばかりなので菖蒲はあっという間に打ち解けられた。

 

「す、すいません皆さん。疾風様の元に行っても宜しいでしょうか?」

「あ、ごめんねちょっと強引だった」

「いいよいいよ。早く彼氏のとこに行きな」

「か、彼氏じゃないですよ。あ、疾風様! ひゃっ!」

 

 パタパタと小走りしてくる菖蒲は俺の目の前で足をもつれて体を傾けた

 一歩前に出て受け止めてあげる。うわ軽い。

 

「おっとっ」

「あ、ありがとうございます」

「はいはい。健康になったと思ったらおっちょこちょいか? 少しは落ち着けよ」

「すいません。あの、疾風様にお願いが」

「どした?」

「私、まだこの学園で知らないことが多いので。お時間があれば校内を案内してくれますか?」

 

 んーどうしよ。この後は別のアリーナでイーグルを飛ばそうと思ってたんだけど。こっから二時間も待たせるのは酷だよな。

 

「いいよ」

「本当ですか!? じゃあ急いでシャワーを浴びてきますね! 更衣室前で待ち合わせしましょう! ではまた後程!!」

「おう。あ、転ぶなよー」

 

 激走する菖蒲を追うように俺もシャワーを浴びに行く。

 

 その場で一人アリーナでたたずむセシリアは二人の姿が見えなくなった後、静かにアリーナを出ていった。

 

 

 

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