IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第35話【純恋・矢の如し】

「今回はありがとうございます。急なお願いだったので断られると思ってました」

「いいよ。下手すりゃマジで迷うからなここは」

「そうですね。………」

「どうかした?」

「い、いえ。なんでも」

 

 目が合いそうになった瞬間顔を伏せる菖蒲。

 ポッと体温の上がった菖蒲の頬は夕方の光が隠してくれた。

 

「じゃあどっから行こうかな。なんかここってとこある?」

「あ、アリーナが見たいです」

「よし行くか」

「は、はい」

 

 端から見たら仲睦まじい雰囲気。そんな二人を遠くの物陰から見つめる者がいた。

 

 

 

 

「じーーーーー」

 

 英国代表候補生のセシリア・オルコットだった。

 今まで見たことないぐらい真剣、というより鬼気迫る表情で談笑している二人を見ている。

 その距離は教室3個分。セシリアの卓越したスナイピング技術からくる双眼鏡レベルの視力をフルに活用した尾行に、基本勘のいい疾風に気付かれずに済んでいる。

 

「じーーーー」

「なにしてんのセシリア」

「ひゃうっ」

 

 縦ロールが万歳するぐらいビックリするセシリア。

 後ろには不思議そうな顔をする鈴の姿が。鈴はセシリアの見てたであろう場所に顔を出す。

 

「なによ疾風と菖蒲じゃ、んっっ!」

「ん?」

「どした」

「いえ、なんでもありません。行きましょう」

 

 口を抑えられて角に引っ張り込まれる鈴。

 疾風は振り替えるも特に気にすることなく菖蒲を連れて歩き出す。

 

「ぷはっ。なにすん」

「しーー」

「………なにすんのよ」

「気付かれる訳にはいかないのです。大きな動きと声は控えてくださいませ」

「なに、尾行でもしてるの?」

「び、尾行ではありません。隠密的かつ監視的な後方警備です」

「尾行じゃん」

 

 反論の余地なぞなかった。

 

「丁度いい所に来ました。鈴さん、お付き合い下さいな」

「嫌よめんどくさい」

「あらあらそんなことをおっしゃいますの? レゾナンスで強引にわたくしを連れ回したのは何処の誰かしら」

「それはそれ、これはこれよ」

 

 便利な言葉である。

 自分に関心のあること(殆ど一夏関連)にはスポンジのようにギュンギュン吸収する鈴だが、逆に興味のない物に対してはガラスのように弾いていく。ある意味裏表のない、それが鈴という女だ。

 

「てかなんであたし誘うの」

「一人だと心細いのですよ」

「尾行なんて一人で良いでしょ」

「どの口が言いますの」

「うっさい。じゃ、あたしはスイーツでも食べてくるわ」

 

 セシリアの皮肉も何処吹く風。今も物陰から二人の様子を見るセシリアを置いてサッサとトンズラしようとする鈴。

 

「もしかしたら菖蒲さんは一夏さん目当てという可能性もありますわよね」

「はっ?」

 

 鈴の足が止まる。

 

「いやいや、どっちかというと菖蒲は」

「一夏さんは容姿に優れてますからね。もしかしたら同じ男性である疾風から情報を聞き出しているかもしれないですわね」

「………」

 

 そんなことはない。と言いきれなかった。

 一夏の女子人気は魔性の域といっても過言じゃない。それに気付いていないのは本人のみ。疾風と劇的な再開を果たした菖蒲だが、もしかしたらそれはフェイク、本当は虎視眈々と一夏との接点を作る為に……なーんてことも。

 

「可能性はゼロではありませんわよねー。まあ鈴さんはスイーツに夢中のようですし、大人しくわたくし一人で」

「やはり一夏か……いつ尾行する、あたしも同行する」

「凰鈴音」

 

 

 

 

 

 

 

 

「この学園は大小合わせて六つのアリーナがある。一ヶ所にこれだけのアリーナの数を持ってるのは此処しかないね」

「この第六アリーナはタワーと密接してるのですね」

「そこは高速機動実習が可能なとこ。この間、三年の整備科がロマンマシンと題してモンスターエンジン取り付けたラファールぶっ飛ばして地面にクレーターが出来た」

「ぶっとんでますね……」

 

 

 

「整備室。っていってもまだ一年生は整備授業1項目が終わってないから使えない。専用機持ちは自由に使っていいから菖蒲は大丈夫だな」

「そうなのですか」

「まあ何か困ってたら整備科の先輩に頼めばアドバイスくれるよ………油断してたら変な装備取り付けられるから注意な」

「つけられたことが?」

「コンクリート製の柱にブースター取りつけたような鈍器をイーグルのプラズマジェネレータに直結されかけた」

「整備科の人はどれも変人さんなのですか?」

「普通の人もいるよ。多分」

 

 

 

「ここは学生食堂。値段はリーズナブルで早くて上手い。多国籍だからか料理のレパートリーがエグい。菖蒲って好きなものなに?」

「天ぷらです。特に鯛の天ぷらがお気に入りで」

(おお、良い笑顔。でも、それって徳川家康死亡説のやつでは………)

 

 

 

「ここは大浴場。俺達男が入ったから時間割りが急遽汲み取られた。結構いい湯らしい」

「らしい、とは?」

「俺実は入ったことないんだよね。シャワー派だから」

「それは勿体ないですね。大きいお風呂は良いものですよ」

「んーー、まあ機会があったら入ってみる、つもりではある。一夏曰く男湯は貸し切りのがらんどう同然だってさ」

(つ、つまり。私が入って疾風様の背中を洗うことも可能………………)

「菖蒲大丈夫? 顔真っ赤だけど」

「ふ、ふぇ!? な、なんでもございましぇん!」

 

 何を想像したのか菖蒲の顔から煙がシューと出た。

 もしかして体調不良かと慌てる疾風に菖蒲は大丈夫ですと言って誤魔化す。

 

 

 

 

 

「ねえ」

「なんですの?」

「さっきはよくわかんないノリでついてったけどさ」

「ノリノリだったじゃないですか」

 

 しばし押し黙る鈴。あの時はなんか波紋的な電波をツインテールがキャッチしてしまったのだ。

 フルフルと頭を振り、鈴はポツリ。

 

「………これ一夏の線ある?」

「………………」

 

 あれから広いIS学園を歩き続けているが一夏の話題が出た様子はない。

 それどころか話題に上がるのは疾風のことばかり。

 朝のハグ、それから今に至るまで。端から見たら分かりやすいぐらい疾風に対して好意的だ。

 徳川菖蒲は疾風のことを………

 

「まだ分からないでしょう。もしかしたら別れ際に言うかもしれませんし」

「そうかなー」

「それに彼女は他企業のスパイの可能性もあります。もしかしたら最近IS業界で騒がれてるテロリストの可能性も」

「あんたはあんたでなんでそこまで菖蒲を疑ってるのよ。まだ一日しか居ないけど。菖蒲は見た限り純粋で良い子ちゃんよ?」

「一夏さんが関わってないからそんなこと言えるんでしょう貴女は。と言うより、もう彼女を名前で呼んでるのですか? 随分仲がよろしいのですね」

「シンパシーを感じたのよ」

「シンパシー?」

「なんつーかね。似てる気がするのよ、あたしと菖蒲は」

「具体的にはどんな?」

「女の勘」

 

 なんともアバウトな返答にセシリアも眉を潜める。

 ふと笑い声が聞こえた、振り替えると疾風と菖蒲が顔を合わせて楽しそうに笑っていた。

 

「あたし降りるわ。一夏絡みじゃないなら付いてっても意味ないし。あんたも嫌われない程度にしときなさいよ」

 

 セシリアは黙って二人を見た。

 振り向いて鈴の方を向けば余計なことを口走ってしまいそう。そんな気がしたのだ。

 鈴も完全に興味を無くしたようだ。これ以上強いても意味はない。

 

「あ、念のため。念のためよ。菖蒲が一夏のこと話したら絶対にアタシに連絡しなさいよ? 絶対よ!?」

 

 セシリアは黙って二人を見た。

 

 

 

 

 

 あれから30分以上。

 疾風の学園案内は特に問題なく進んでいた。

 雑談を挟みながらIS学園を歩いていく二人は仲の良い友達に見えた。しかし時折菖蒲が見せる少女の顔にセシリアは見逃さなかった。

 

 セシリアの戸惑いの種は菖蒲だけではなかった。

 疾風が放課後のIS搭乗を蹴った。

 それは彼の病的に匹敵するISに対する執着を知るセシリアにとって何よりも信じられないことだった。

 いつも放課後は一目散にアリーナに赴く程ISにのめり込んでる疾風がISより菖蒲の頼みを優先した。

 アリーナの終了時間の後に案内をしても門限までには間に合う。それなのに。

 

 

「これぐらいだな。なんか分かんなかったとこある?」

「いえ、とても分かりやすかったです。今日はありがとうございました」

「いんや、色々話せて俺も楽しかったから」

 

 どうやら終わったようだ。

 このままどちらかの部屋に行くのか、それとも………

 

「では疾風様。また明日お会いしましょう」

「ん、また明日」

 

 特になんのアクションもなく疾風は彼女から離れていった。

 何かを渡した素振りも、後をつけるよう様子もない。

 と思ったら彼女はセシリアに向けて歩きだしてきた。

 

「ま、まずっ」

「誰かいらっしゃるのでしょうか?」

「………」

「よければ少しお話しませんか?」

 

 話す、何を話すというのか。

 分かりきっている、恐らく彼のことだろう。

 まだ彼女に姿を見せていない、このまま逃げることも可能だが。セシリアの貴族魂がそれを許さない。

 それに、セシリアも彼女に聞きたいことがあった。

 

「やはりオルコット様だったのですね」

「いつから気付いていましたの?」

「見えたのが金のお髪だけでしたので、オルコット様という確証はありませんでした。ですが複数ではなく個人なら、オルコット様という可能性が高かった」

「金髪ならシャルロットさんという可能性もあったのでは?」

「いえ、疾風様と関わりが一番深いのがオルコット様だと知っていましたから」

「疾風から聞きましたの?」

「はい、病院に居たときに何度も」

 

 柔らかく笑う彼女を前に、セシリアの表情は固かった。

 何処までも友好的で、害意も敵意もない。しかし何処か挑戦的な彼女にセシリアは苦手な印象を持っていた。

 

「IS以外だとほとんど貴女との話題でした。少し、いえ、かなり嫉妬してしまいました」

(嫉妬。何に対して?)

 

 喉元まで出掛けてる答えを押さえつけてセシリアは心中で問いを出した。

 

「オルコット様」

「はい」

「私に聞きたいことがあるのではないですか?」

「何故そうお思いに?」

「授業中、模擬戦をした後も私を見ていましたよね?」

 

 沈黙は肯定。それを分かっていても、菖蒲が聞いてきたことにセシリアは答えられなかった。

 だがこれはセシリアにとっても悪くはなかった、相手から聞く機会を貰えたのは正しく好機だった。

 

「昼休みのことです」

「はい」

「貴女は自分は疾風の許嫁だとうそぶきました。皆が冗談だったのかと笑うなか、貴女は小さく呟きました」

「え?」

 

 一時の静寂、夕焼けに照らされる2人の美少女はとても絵になっていた。

 セシリアは言うか一瞬迷った。だがこのモヤモヤを抱えるのはセシリアにとって正しく苦痛そのものだった。

 

「『私は別に冗談じゃなくてもいいのに(・・・・・・・・・・・・・・・・)』とは、どういう意味ですか?」

「っ!」

 

 菖蒲の笑顔が崩れた。

 

「き、聞かれていたので?」

「はい」

「あう、まさか聞かれていたとは」

「菖蒲さん?」

「あの、この事は他の人には?」

「知る限りわたくしだけかと」

「そうですか。うぅ、お恥ずかしい」

 

 菖蒲の色白の肌が朱に染まった。熱くなった頬を手で抑えて俯いて悶えてしまった。

 セシリアも彼女の純な反応にどうしていいか分からなかった。

 

 もっと打算的な女かと思ったのだが。それはセシリアの思い違いだったのだろうか。

 

「あの、やはり貴女は」

「はい。私は疾風様をお慕いしております」

 

 一拍置いて、菖蒲はセシリアの目を真っ直ぐ見据えて答えた。

 頬を赤くしたまま、だが瞳は揺るぎない光を宿していた。

 

 対してセシリアはそこまで驚かなかった。

 出会い頭で抱きつき、時々疾風に向ける熱のこもった視線、そして今問いただしたこと。

 それを考えれば疾風に好意を向けていると至るには容易かった。

 

「私、表向きでは試作パッケージの試験運用を目的にこの学園に来たことになっていますが。本当は違うんです」

「違う? ですが貴女は授業で」

「半分は本当です。でも、本当の目的は疾風様です。疾風様にお会いしたいが為に日本代表候補生の座を勝ち取り、使える手を使い尽くしてこのIS学園に来ました」

「貴女そこまで」

「不真面目な動機だと笑いますか? でも私は本気です。それを恥とは微塵も思いません」

 

 彼女は笑みを浮かべながらも、その目は真剣そのものだった。

 

 分かっていたことだ。疾風もこの学園に2人しかいない男のうちの一人。

 彼のことを男性IS操縦者やレーデルハイト工業社長の息子という俗物的な思いなしで好意を向ける女の子が出てもなんら可笑しいことではない。

 なのに。

 

(どうしてこんなに胸が痛むの?)

 

 セシリアは疾風に恋人が出来ることが嫌ということはなかった。

 むしろ目の前の徳川菖蒲という女性は疾風のIS好きを理解している。

 まだ会ってから半日も立っていないが。菖蒲は恐らく純粋に疾風の事を想っている。ようにセシリアの目にはそう見えた。

 

 今までの面子とは違う反応を前に、セシリアは先程鈴が言っていたことを思い出した。

 

『まだ一日しか居ないけど。菖蒲は見た限り純粋で良い子ちゃんよ』

 

 鈴がシンパシーを感じたという意味がようやく分かった。想い人を追うために代表候補生となってこの学園に来た。まったく同じ動機。

 疑問がわかった。それなのにセシリアの胸のモヤモヤはトゲを増すばかりで、セシリアの内をチクチクと刺していた。

 

「だから、貴女には負けません」

「え?」

「貴女も疾風様を想っていますよね?」

「はっ!?」

 

 突然矢のように放たれた宣戦布告を受け止めることは出来ずに避けるセシリア。

 今彼女はなんと言ったのかと、セシリアは自分の耳を疑った。

 

「あの徳川さん、今なんと?」

「オルコット様も疾風様のこと好きですよね?」

「ええっ!?」

 

 聞き間違いではなかったことにセシリアはまたも驚愕した。

 

「徳川さん、貴女は勘違いをしていますわ。わたくしは別に疾風に好意などこれっぽっちもありませんわ」

「嘘です。では何故そんな辛そうな顔をしているのですか? 私が疾風様をお慕いしていると言った時から、貴女の顔に陰りが見えます」

「辛そうって。そんな顔していません」

 

 そう、セシリアはそんな顔などしていない。するはずなどない。

 なのに窓ガラスに写る自分の顔を見るのがとても億劫だった。

 

「そうですか。では私の思い違いでしたね」

「ええ、その通りです。ではわたくしはこれで」

 

 チクチクと痛む胸を抱えながら、足早に菖蒲の横を通りすぎた。

 セシリアは今すぐ離れたかった。

 これ以上話をしていたら自分の中の何かが壊れそうで。

 

「では、私が疾風様とお付き合いしても構いませんね?」

「っ!?」

 

 バッと後ろを振り向いた。

 菖蒲は手を前にして、射抜くような視線をセシリアに向けていた。

 

「オルコット様、いえセシリア様。私は疾風様が好きです、お慕いしています。この気持ちは、誰にも負けるつもりはございません」

「………」

「勝手に喋って申し訳ございません。ですが私は本気です。では、失礼致します」

 

 礼儀正しくお辞儀をした菖蒲はセシリアに背を向けて歩きだした。

 その力強くも美しい佇まいに、セシリアは目を離せなかった。

 菖蒲の姿が見えなくなると、急に全身の力が抜けた。

 セシリアはそのまま壁に寄りかかる。普段の彼女は決して壁に寄りかかることなどしない。

 だから今周りに人がいなくて良かった、などと考える余裕は今のセシリアにはなかった。

 

 胸の痛みが酷くなる。

 何故か分からない。もしかしたら分かってるかもしれない。否、やはり分からない。

 グルグルと回る思考と共に胸は痛みを増すばかり。

 

 両親と死別してオルコット家の存続問題に忙しかった時より痛みは深かった。

 

 こんな感覚は知らない。セシリアは正体不明の痛みを抱えたまま、自分の部屋に戻った。

 その痛みの正体はいくら考えても、答えが出ることはなかった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「んーー」

 

 菖蒲と別れた後、なんとなく校内をブラブラしていた。

 ISを動かそうと考えていたが、アリーナの使用時間まであと少ししかない。

 かといって戻ってもやることなどないし。

 

 しかしなんでセシリアは俺をつけてきたんだろうな。

 菖蒲が何かを察してから後方に目を向けていたら、窓ガラス越しにあいつの顔が見えたのだ。

 

「………ん?」

「ハロー」

 

 何時から居たのか。壁に寄りかかった女の子がこちらにヒラヒラと手を振っていた。

 水色の髪にルビーの目、手には扇子を持ち何処かミステリアスな雰囲気を漂わす彼女を、俺は知っていた。

 

「お久しぶりです。更識ロシア国家代表」

「ええ、疾風君も元気そうね♪」

 

 更識楯無。現ロシア国家代表にして、最年少で国家代表の座についた若手のホープ。

 噂によると前国家代表をぶちのめして手に入れたというのを小耳に挟んだが。

 

「ところで何かご用でしょうか?」

「あら、用がなかったら会っちゃいけないなんて。お姉さん寂しい、グスン」

「さ、更識さん?」

「あたし、結構会えるの楽しみにしてたのにこんな塩対応だなんて、あんまりだわ。う~~~」

 

 えっ、ちょガチ泣き!? 

 あっという間にボロボロと大粒の涙を流す更識さん。

 脈略もない急展開に、大丈夫かと駆け寄った。その時。

 

「なーんちゃって」

「え? んっ!?」

 

 カンっ! 

 更識さんの扇子が俺の喉元にあった。

 

「隙だらけ。ということはなかったかな?」

「うくっ」

 

 更識さんの扇子は俺の喉元、その少し先のヘックス状の障壁に阻まれていた。

 直ぐ様距離をとって臨戦態勢を取った。

 

「とっさにシールドバリアを展開するなんて。やるじゃない」

「嘘泣きとはなんとも姑息な手を取りますね」

「あら。女の涙は女に許された最強の武器よ?」

 

 軽口を叩きながらも、目の前の動きを注視する。

 いつでもイーグルを展開出来るようにイメージを固めた。俺の体にはパチリとプラズマの線が見え隠れしている。

 

「あらら。警戒させちゃったかしら?」

「行きなり扇子で喉に突きつけられたら誰だって警戒するでしょう」

「それもそうね。ごめーんちゃい」

「謝る気がねぇ!」

 

 ほんと最初もそうだったけど掴み所がわからない人だなこの人は。

 てかあの大粒の涙ボロッボロ出てたのに嘘泣きって。何処に目薬仕込んでたんだろ。

 当の本人は扇子で口許を隠しながらコロコロ笑っている。

 

「アハハ、とりあえず驚かせてごめんね? 一夏君はあっさりと目隠し出来たから、貴方はどうなのか気になっちゃって」

「一夏を目隠し?」

 

 あれ、どっかで聞いて………

 

 

 

『いきなり知らない女の子に目隠しされて、それで………遅くなりました』

『ほう、初対面の女子と楽しく会話して遅くなったと』

『そんな楽しくなんて話してませんよ!?』

 

 

 

「貴女だったんですね? 一夏が遅刻した原因は」

「うふっ。私の美貌に天下の一夏君も見惚れちゃってね」

 

 バッとトレードマークの扇子を広げる。書いてあるのは『美しさは罪』。

 

「そのせいでうちの一夏君、蜂の巣にされたんですよ」

「いやん、そんな怒らないで。どっちにしろ私が仕掛ける仕掛けないにしろ遅刻確定だったんだし」

 

 そういう問題じゃないだろうなぁ。

 てかそれならこの人も遅刻したんじゃないか?

 

「あの、それで本当になんの用です? 俺の反応の良さを確かめに来ただけですか?」

「勿論違うわよ。これ以上伸ばしちゃったら流石にだれちゃうし、本題に移りましょうか」

 

 本題。セシリアより上の位置にある国家代表とも言える人が俺になんのようだろうか。

 

 俺のISの情報? それとも俺の身柄目当てか。

 でもそれだったら何故ISを展開しない?

 

 先程の喉突きは恐らく手加減していただろう。

 更識楯無は専用機を持っている。もし俺を本気で捕らえるつもりだったなら、かろうじてシールドを部分展開するだけで精一杯だった俺などひとたまりもなかった筈だ。

 

 とすればいったいなんだ? 

 

 

「疾風・レーデルハイト君」

「はい」

「生徒会に入ってくれる?」

「はい………は?」

 

 

 

 ………………は? 

 

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