IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
徳川菖浦が1年2組に転校した日の翌日。延期されていた全校集会が行われた。
内容は勿論、今月中程にある学園祭についてである。
(しっかしまあ、これだけの女子が集まると)
ザワザワとしている女子のなかにポツンと男子が一人。入学当初と同じぐらい居心地の悪さを感じている織斑一夏がそこにいた。
「疾風の奴。何処行ったんだ?」
そう、同じクラスでもう一人の男性生徒である疾風が一夏の隣にいない。
体育館に行く途中でサッと別れたのだ。
『俺は別件だから。また会おう』
意味がわからない
姉である千冬こと織斑先生が何も言わなかったということはサボりではないのだろうが。
「それでは、生徒会長から説明をさせて頂きます」
静かに告げたのは生徒会役員の一人だろうか。その声でざわついた会場が一瞬で静まった。
コツコツと靴の音が響き、生徒会長が壇上に上がった。
「やあ皆。おはよう」
「ふぁっ」
「どうしたの織斑君?」
「いや、なんでもないなんでもない」
間違いなかった。あの時一夏に目隠しをした二年生だった。
ふと一夏と目が合うと、生徒会長はニッコリ笑った。一夏はどういう顔をしていいかわからずに固まった。
「今年は色々立て込んでてちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君たち生徒の長よ。以後、よろしく」
生徒会長の笑みは優しく、何処か蠱惑的だった。その肌を滑るような声は同姓でさえ魅了し、あちこちから熱っぽいため息が漏れた。
「さて、散々待たせたから単刀直入に切り込むわよ。今月の一大イベント学園祭。今回は一味も二味も違うわよ!」
生徒会長が指を鳴らした。
それに合わせて、空間投影ディスプレイに一夏の写真がデカデカと映し出された。
「題して!『各部対抗織斑一夏争奪戦』!!」
「………え?」
「ええええええ~~っ!!!!!?」
割れんばかりの叫び声に、ホールが冗談ではなく揺れた。
一夏がぽかんとしていると一斉に一夏へと視線が集まってくる。
「コホン。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行い、上位組に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今年は男二人のうちの一人である、現在部活に所属していない織斑一夏を! 一位の部活動に強制入部させましょう!!」
「素晴らしい、素晴らしいわ生徒会長!!」
「こ、これは。薄い本の流れに持っていける可能性も!?」
「やってやる! やぁぁぁってやるわっ!!」
(凄い熱狂ぶり………俺にそんなお得感ないと思うんだけどなぁ。女子の部活に男子いらないだろ………)
周囲の熱狂とは裏腹に冷めてる朴念神ワンサマー。
自分の状況を受け止めれないその姿勢を愚かと呼ぶかそうでないか。
「ちょっと待ってください! 疾風様は何故対象ではないのでしょうか!」
菖蒲が小さい背丈を目一杯伸ばして挙手する。
確かに。もう一人の疾風だって部活に入ってない。男が理由だとすれば、疾風もいないとおかしい。
「んふふ。それについては本人に話して頂きましょう。じゃあ疾風君、後は宜しく」
「えっ?」
生徒会長が少し後ろに下がると、ステージの陰から疾風が現れた。
皆が状況を理解できないなか、疾風はマイクの前に立った。
「アッア、テステス。ンフンッ、どうも皆さんおはようございます。本日付で生徒会副会長として生徒会の一員になりました、疾風・レーデルハイトでございます。皆さん、これからどうぞ、宜しくお願い致します!」
「は!?」
「ええええぇぇっ!!?」
また会おうってそういうことか。一夏はようやく彼の言葉の意味を理解した。
先程の一番争奪戦と同じぐらいホール内に声が響き渡った
「さて、理由についてですが。私と織斑君が部活に入らないことに各方面から苦情が発生した為です。生徒会は何処かに入部させないと不味いと思いました。ですが勝手に組み込むことも、見逃すことも難しい。そこで今回このような展開に踏み出したということになります。なお、各部対抗争奪戦に私の名前が無いのは。生徒会に入ったことで、部活動に入ったという扱いになった為です」
そんなのありか!と各方面からブーイングが鳴った。
ここだけの話。疾風は一夏とは違った意味で人気だった。
些細な事にも気付いて手助けしたり、IS関連ではその豊富な知識から頼れる存在となっている。
「えー、まあ変わりと言ってはなんですが。一位になった部活動には、織斑君の強制入部に加え、私も短期間だけ入部し、マネージャーを勤めさせて頂きます」
「よぉぉぉしっ!!」
「織斑君のみならずレーデルハイト君もゲット!?」
「負けられない! 負けられないわ!!」
「今日から直ぐに準備を始めるよ! 秋季大会? ほっとけそんなもん!!」
(秋季大会をそんなものあつかいするなよ)
部活にかけた青春を突き進んでいたであろう女子の破綻っぷりに一夏は心中でツッコミを入れた。
「あ、学園祭の準備も良いですが。各部は秋季大会も控えています。どちらも誠心誠意をもって取り組むように。何事もそつなくこなす、これが良き人、良き女性のあり方ですからね」
女子が言ったことを聞いたか聞いていないかったかは分からないが、随所にちゃんとフォローを挟む所が、なんとも疾風らしい。
一部熱暴走した生徒は一時的だが冷やされた。
と思えばそんなこともないのである。
「皆さん! 織斑一夏を手に入れるにはとにかく頑張るしかありません! ファイトです! 戦わなければ生き残れない!!」
「はい! 頑張ります! 頑張らせて頂きます!!」
「最高で一位! 最低でも一位よ!!」
「戦え! 戦えー!!」
一度火がついた女子の群れは止まらない。
そんなお祭り騒ぎななか、一夏の叫びなど誰にも届く筈はなかったのだった。
「ちょっと待って俺なんも知らないんだが!?」
ーーー◇ーーー
時を少し遡り、菖蒲と別れた後。夕日をバックに更識楯無がこう言った。
「生徒会に入りなさい」
「はい………は?」
今なんと?
「はいって言ったわね! よし行くわよ!」
「まてまてまてまて!」
「マテッマティッカ!」
「いやネタが古いなっ!」
俺分かっちゃったけども!
俺ギリ生まれてないけども!
てかキリッとした顔で言うな! 無駄に!
「ゴメンゴメン。でもちゃんと切り込んでくれたわね。ナイスツッコミ!」
「それはどーも。てか生徒会ですって? なんで更識国家代表が生徒会の勧誘なんかを?」
「それは私がこのIS学園の生徒会長だからよ」
「納得しました」
今思うと直ぐに分かるような質問だったな。
でも生徒会長か、国家代表だからこのIS学園としては妥当だろうけども。
「それで俺が生徒会? なんでですか?」
「貴方部活入ってないわよね」
「まあ、そうですね」
「IS学園の生徒は何かしらの部活に入らなければならないということは知ってる?」
勿論知ってる。
確か九月中旬までに入らなきゃならないんだよな。
出来れば指摘されないままで居て欲しかったぁ。
「いつまでたっても男二人が部活に入らないって近辺や学園長からも苦情が来ててね。もし今月いっぱいまでに入らないと」
「入らないと?」
「こっちで強制的に決めさせて貰うことになるの」
「うぎゃー」
それはマジで御免被る。
強制的に飛ばされた先がもし運動部とかだったら毎日放課後部活動でISが動かせない可能性が大。
1日に1ISを信条とする俺にとってもはや害悪以外に他ならない。やりたいやつだけやれって感じ。
てかそれに対して一言言いたい。
「はい生徒会長」
「なんでしょう疾風君」
「何故このIS学園にはISに関連する部活動がないのでしょうか」
ISを扱うことを前提としたIS学園だというのにISを扱う部活が一つもない。最初は見逃したと思って10回ぐらい見返したが表記されてるのは普通の高校にあるような物ばかり。
「それはね、放課後練習に使う生徒に割り振られちゃってるからよ」
「部活動という名目で独占させる訳にはいかないと」
「正解」
「じゃあIS専用機活動部というのは」
「参加条件が厳しすぎるし現状と変わらないのでド却下」
ド畜生!
1日ISを動かせない専用機持ちの辛さを主張しても無理という袋小路。
IS好きに救いが無さすぎる。
こうなったら後100機ぐらいコアを取り入れないとこの学園の部活動スルーは出来ないのでは?
「だけどそんな心配は無用! 貴方が生徒会に入れば。貴方は部活に入った扱いになるのですっ !」
「生徒会って部活でしたっけ?」
「細かいことはいいの」
とぅす。
「でも生徒会に入ったとしても放課後拘束されるのは変わらないのでは?」
「そんなことないわよ。部活と違ってそこまで時間かからないし。忙しい日もあるけど毎日じゃない。貴方が望むIS使用時間の確保も充分可能よ」
「マジですか」
「マジよ」
それは願ってもいない好条件。どちらにせよ強いられるなら選ばない理由はない。
だけど。素直に頷けない。
だってね。
「その他ほかに内申書の功績アップ。IS学園の全商品の割引、施設のある程度の利用制限緩和。整備科が使っている整備室の利用可。これ以外にも色々あるわよ?」
なんとも餌をぶら下げられてる感が否めないからよ。
「確かに魅力しかありませんけど。何故そこまで俺を? 男性IS操縦者だからですか?」
「それは第一ね。でも理由は他にもあるわよ。貴方は現一年生の専用機持ちの中でも抜きん出た能力を持っている。
福音のことを知っているのか。ということはロシアはそれを知っているのか?
いや、この人が福音の情報を知る程の学園関係者なら漏らしたというリスクはしないか?
「でもまだ拙いわ」
「拙い?」
「貴方は危機的状況に陥ったときに冷静になりきれない気質がある。例えばイギリスで妹さんの誘拐事件に出くわした時とかね」
「っ!!」
思ってもいない話題を振られて自分でも分かるぐらい動揺した。表情を固めて表に出さないように努力するが、恐らくこれもバレている。
「何のことでしょうか。俺にはさっぱり」
「貴方を襲ったISのナンバリングはハーシェル社の物だったけど。首謀者は別にいるわ。ハーシェルの若社長ははめられただけよ」
「なんだって?」
この人、何処まで知ってるんだ?
てかあのボンボン利用されただけ?
ザッマァ。
当の本人は笑みを崩さずに俺の目を見ていた。
俺にとって彼女の認識がロシア国家代表から得体の知れない学園生徒会長に変わっていく。
信頼して良いものか。だけど此処で断って適当な部活に入らされてISの時間を確保出来ないのは俺にとって本末転倒。
「悩んでるなら仮入部扱いで良いわよ」
「………」
「でも貴方は必ず自分から生徒会に残留することを選ぶ。貴方にとって生徒会は必ずメリットになるわ」
「今出した条件以上に?」
「ええ」
更識楯無の目の色が変わった。
なんというか。姉が弟を見るような、そんな優しい目だった。
「わかりました。では一応仮ってことで」
「決まりね。じゃあ早速行くわよ生徒会室に!」
「え、今から!?」
「もち! 貴方には明日の全校集会でスピーチをしてもらうんだから!」
「なにそれ聞いてない!」
「今言ったもん♪」
「なんともっ!!」
ーーー◇ーーー
「というわけで生徒会副会長になりました、マル」
「そんなあっさりと」
「せっかく弓道部にスカウトしようと思ったのですが」
「ごめん菖蒲。普通に断ってたわ」
「ガーーン」
昼休みの食堂で俺はいつものメンツに案の定問い詰められていた。
「ねえ、もしかして一夏にも声かかるんじゃないでしょうね」
「かかるだろうな確実に」
「絶対入んじゃないわよ一夏!」
「鈴、今はそれよりも争奪戦のことだろう」
ラウラの冷静な指摘に渦中の一夏はため息を吐いた。
「どういうことなんだよ疾風」
「知らん。てか俺マジで入ったばかりだし。あのスピーチも会長に『こうこうこういうこと喋ってね♪』って原稿完全なしでやらされたからな」
即興で仕上げたスピーチ文でよーやったよ俺。
「そもそもなんで一夏には直接声がかからない」
「確かに。昨日の段階で一夏と疾風を同時に引き込めば済む話だったろう」
「無理」
「どうして?」
「俺と一夏だと人気度が違う」
「ああ、疾風の方が人気だもんな」
「お前ほんと頭パッパラパーだな。織斑先生と脳味噌入れ換えてこい」
「そんな千冬さんなんか見たくないわよ」
「どういう意味だよ鈴」
そういう意味だよ一夏。
「一夏を強制的に生徒会に入れちまったら確実に苦情を越えた物が生徒会に殺到する。何故なら俺より一夏が入部してほしいという意見が圧倒的に多いから」
「全校集会から思ってたけど、俺にそこまでメリットないと思うんだが」
「別にお前に特別何かしてほしい訳じゃないよ。入ってもらうのが目的だし」
「お荷物でも?」
「お荷物でも」
お荷物という名の映えスポットだけど。
「とりあえず一夏、色々覚悟しておけ。あの人は曲者過ぎる」
「今までで一番逃げ出したい気分なんだが」
「逃げれるといいね」
「無理そう」
一夏は得体の知れない物を感じながら昼食のハンバーガーにかぶりついた。
「………」
「なんか沈んでるセシリア?」
「え、そんなことはないですわ!」
「あそう」
バクバクと優雅さが少し無い食べ方をするセシリア。
明らかになんかあったろうけど。聞くのは野暮?
「あの、疾風」
「ん?」
「その生徒会って自主制ですの?」
「いや、生徒会長が選ぶ決まりらしい」
「そうですか」
さて、どうなるかね生徒会ライフ。
俺そういうお堅いのは苦手なんだけど。あの生徒会長だから大丈夫かな?それはそれで不安要素ありありだけど。
「も、もしも一夏が生徒会に入るなら私も入るぞ!」
「え?」
「なにぬけがけしてんのよ!アタシが入る方が有意義でしょ!」
「寝ぼけたことを言うな。ここは部隊長である私が」
「あ、ズルい!僕も一夏と一緒に生徒会やりたい」
「いやまだ入ると決まった訳じゃないから」
「でも生徒会長スゲー自信たっぷりだったな」
「一夏!!」
「俺なんも悪くないだろ!」
いつもどおりギャーワー展開になる一同。
その横でステーキ定食をモクモクと食べる俺。ハハッ、慣れって怖いなー。
「疾風様、揚げ出し豆腐食べますか?美味しいですよ」
「おっ、貰う。じゃあステーキ一切れ食べて良いよ」
「ありがとうございます!」
思わぬ施しに菖蒲の瞳が輝いた。
そんな菖蒲を横目に見ながらセシリアはヘルシーサラダを口に運んだ。
ーーー◇ーーー
場所変わって教室にて放課後の特別HR。今はクラスの出し物を決めるため、わいのわいのと盛り上がっていた。
このクラスの出し物でも、一位には金一封が送られることがあってか。クラスの熱気も凄まじいことになっている。
「えーとっ」
「………」
クラス代表として一夏が、その補佐として俺が意見を纏めるために電子ボードの前に立っているのだが………
【織斑一夏と疾風・レーデルハイトのホストクラブ】
【(同上)とのツイスター】
【(同上)とポッキーゲーム】
【(同上)と王様ゲーム】
世も末だよ。
「却下」
「ええええー!!」
「当たり前だ! こんなの誰が嬉しいんだ!」
「私は嬉しいわね、断言する!」
「男子両名は女子を喜ばせる義務を全うせよ!」
「織斑一夏と疾風・レーデルハイトは共有財産である!!」
そーだそーだ! とクラス全員からヤジが飛び交う。
完全に物扱いである。世紀末だよここ。
「や、山田先生、ダメですよね? こういうおかしな企画は!」
「え、私に振るんですか? え、えーっと……わ、私はポッキーなんかが良いと思いますよ」
副担任(20)もこの始末。ポッと染めるんじゃないよ頬を。
因みに頼みのストッパーは早々にトンズラを決め込んだ。結果無法地帯である、ハハッ楽しいねっ!
「疾風、なんとかしてくれ」
「なさけないぞークラス代表。さばいてみせろー。お前ならそれができるはずだー」
「圧倒的棒読みだな! 副担任まで敵に回った俺にどうしろと!?」
「独裁政治引け」
「箒辺りに殺されるわ!」
「どういう意味だ一夏!」
カオス、正しくカオス。
この惨状を打開するのは我らが救世主ワンサマー。ただし現在進行系で役立たずだ。仕方ない奴め
「はい一旦整理しよう。まあ校内で二人しかいない男性を有効活用するのは良い案ではあるよな。だけどさ。これ、俺と一夏にリソースつぎ込み過ぎだろ」
「どういうこと?」
「俺と一夏。いつ学園祭回れるの?」
「あっ」
突きつけられた結果に一同は口を開けたまま動かなくなった。
「一夏と俺目当てじゃない客もいるだろうから、そこら辺からは投票こないんじゃね」
「んごぉ」
「ぶっちゃけ。俺と一夏倒れるし。生徒会も流石に認めてくれないと思うよ」
嘘である。
ぶっちゃけこの案持ってきたらあの生徒会長のことだ。笑いながら採用するだろう。
一先ず軽く論した後に電子ボードを真っ白にして反撃の糸口を潰した。ブーイングが飛ぶかと思ったが。意外にも反応はなかった。
「あ、ありがとう疾風。とにかくもっと普通な意見をだな!」
「メイド喫茶はどうだ?」
そう言ってきたのはラウラだった。
普段色事関連には皆無なラウラの発言に、クラスの皆もぽかんとしている。
「客受けもいいだろう。飲食店は経費の回収も行える。外部から客も来るなら、休憩所としても使えるはずだ」
「いいんじゃないかな? 一夏と疾風には執事で出てくれたらそっち方面の客も来るよね」
ラウラとシャルロットのダブルショットが見事一組女子全員にヒットする。
「織斑君とレーデルハイト君の執事! いい!!」
「メイド服はどうする? 私、演劇部衣装係だから縫えるけど」
「クラス全員分、いけそう? 良かったら裁縫部も手を貸そうか?」
確かに、服を一から縫うのって大変だ。ましてや接客担当全員分のサイズを用意しなければならないからあるから尚更だ。
「メイド服ならツテがある。後でかけあってみよう」
「それでは、このメイド・執事喫茶。もとい、ご奉仕喫茶で可決ということで、宜しいでしょうか?」
「賛成!」
満場一致により、一年一組の出し物は【ご奉仕喫茶】となった。
ーーー◇ーーー
「「失礼致しました」」
織斑先生に報告完了。職員室を出て。ドアの閉まる音を聴いて、一夏はふぅっと息を吐いた。
「お疲れクラス代表」
「おう。なあ疾風」
「申請書作成頑張れよ」
「先回りで潰さないでくれよ」
学園祭、うちの奉仕喫茶で必要な機材と食料の申請書をクラス代表が作成する。
一夏はそういうデータを纏める作業が大の苦手なのだ。
「しかしさ、織斑先生があんな笑ってたの初めてみたよ」
「俺も久しぶりに見た」
ご奉仕喫茶の立案がラウラだと知ると、織斑先生は声を上げて笑ったのだ。周りの先生もUMAを見るような目で大口開けて笑う織斑先生に目をとられた程だ。
「てかなんで疾風も来たんだ? 報告なら俺一人でも良かったのに」
「仕事」
「なんの?」
「生徒会のよ」
「え?」
またもいつの間に居たのか。
職員室のすぐ横。学園祭騒動の元凶である生徒会長、更識楯無が扇子を広げてこちらを見ていた。
見た瞬間一夏は俺の後ろに隠れるようにひっそり移動した。おい盾にすんな。
「ん? 一夏君、どうして警戒するのかな?」
「いや会長、自分がしたことを振り返ってくださいよ」
「アハッ☆」
無邪気に笑う彼女を見て一夏は反論する気を失った。
「疾風君には一夏君を生徒会室に呼んで貰うよう頼んだのよ」
「なのに何故来たんです?」
「気分よ」
それなら仕方ないですね。
生徒会長につられるまま俺と一夏は生徒会室に足を進めていく。
抜け出せそうにない、そんな無気力ながら何か言わないと気が済まない一夏は口から声を出す。
「あの。もしかして俺にも生徒会に入れって言うんですか?」
「んー、それが一番だけどね。今回は違うのよね」
「違うんですか?」
「ええ。今回は成り行きとはいえ君に迷惑をかけたじゃない? だからお詫びとして」
腕を後ろにくんだままクルンとこちらを向いた楯無会長は変わらない笑顔を浮かべていた。
「一夏君のISのコーチをしてあげよっかなーって。どう、嬉しいでしょう?」
「いや、いいです」
うわっ。こいつ国家代表からの直々のコーチングを秒で蹴りやがった。
まあ朝のこと考えれば無理もないだろうけど。
「うーん、そう言わずに受けてほしいなー」
「なんでですか?」
「私が生徒会長だからよ」
「はい?」
「あら知らない? IS学園の生徒会長になるには条件があってね。それが………おっと珍客かしら?」
「え?」
振り向いたその先には粉塵を巻き上げる勢いでこちらに突進してくる剣道着に身を包んだ女子が竹刀を上段に持って突進してきた。
「えっ?」
「2人とも脇によけてて」
「了解です」
反応が遅れる一夏を押して壁にピッタリとついた。
「生徒会長覚悟ぉぉーー!!」
「迷いのない踏み込み。だけど迷い無さすぎじゃない?」
会長は振り下ろされた竹刀を持つ手を掴み、そのまま後ろに投げ飛ばした。
背中を打った副部長はそのまま気絶した。
「あ、合気道?」
「いいえ、パンクラチオンよ」
「パ、なんだって?」
呆気に取られるのも束の間真横の窓ガラスが音を立てて割れた。
「ちょ!」
「なんだ!?」
これには俺も驚きを隠せなかった。
もしかしたらテロリストの襲撃かと思って身構えたが、会長は変わらず涼しい笑み。
「あら、随分粗っぽい。借りるわよ斎藤副部長」
延びている剣道部員の竹刀を蹴りあげてそのまま隣の校舎からこちらを狙う弓道部員に投擲。
スコーンと面白いぐらい額にヒットして弓道女子は沈んだ。
バン! と今度は目の前の掃除道具ロッカーからボクシンググローブとヘッドをつけた三人目の刺客が飛び出した。
と思ったら後ろからキックボクシング部員、右の通路から空手部員女子が立て続けに会長に襲いかかってきた。
「更識楯無ィィぃ!!」
「我らの春の為に!」
「ここで死ねぇぇえ!!」
殺気を隠すことなく肉体凶器と化した部員が会長に殺到する。
流石に危ないと一夏は飛び出そうとした。
「一夏君」
「はいっ?」
「生徒会長の条件。それは即ち全ての生徒の長たる存在は」
会長に延びる拳、脚、掌は空を切り。
気づけば鈍い痛みと共にその意識を刈り取られていた三者は音を立てて地に倒れ付した。
「最強で、あれ」
「お」
「おーー」
会長に奇襲をかけた五人の刺客を次々と沈黙させたその姿に。一夏はただ呆然と、俺は思わず拍手をしてしまった。
「あ、あの。これは一体どういう状況なんですか?」
「うん? 見ての通りだよ? か弱い私は常に危険にさらされているの。だから騎士の一人や二人は欲しいなーって」
「「さっき自分で最強だと言ったばかりじゃないですか」」
「ハモりで言われちゃイヤン」
会長はポンポンと埃をはたき。少し乱れた制服を整える。
先程乱闘したとは思えない爽やかな笑顔はなおも健在だった。
「まあそんなこんなで、生徒会長は学園の頂点。常に最強である生徒会長は何時でも襲ってオッケー。見事打ち倒したら生徒会長になれる、ということなの」
「どんな世紀末ですか」
「会長は覇王だった?」
「覇王は一夏君のお姉さんじゃない?」
俺達は納得すると同時に謎の寒気が襲いかかってきた。
ブルル………
「でも久しぶりだなー。こんなのは月に一回二回あるぐらいだったし、集団で徒党組むなんて初めてだわ。あ、疾風君。この人達脇に避けといて」
「りょーかいです。一夏手伝え」
「え、俺も?」
延びている四人を空き教室に放り込み、ガラス片を片付けた。
「まあ仕方ないか。なにせ学園祭部活一位の景品が君になったんだから。ね、一夏君」
「は、はあ」
「あら自覚なし?」
「自覚っていうか。俺ってそんな賞品価値あります?」
まだ言うのかお前は。
俺が呆れてると会長は隠すことなくスパッと言ってくれた。
「あるわよ。こんなことになるぐらいに」
「いい加減に認めろよ。この人気者め」
「言葉にトゲがあるのは」
「気のせいじゃないぞ」
「なんでだぁ………」
なんでだろうねぇ。ため息つきたいのこっちだっつの。
そうこうしてるうちに目的地に到着。目の前には他とは違う立派な扉。といっても自動ドアではないので設備的にはこっちのほうがレトロだが。
「いつまでぼんやりしてるの」
「眠………夜………遅」
「しゃんとしなさい」
「らじゃー………」
ドアから聞こえてきた声に一夏は何かに気づいた。
「ん? 今の気だるげな声は………」
「ああ、今中に居るんです?」
「ええ、そういえば貴方達は知っている顔よね」
「驚くぞ、一夏」
「え、それってどういう」
重厚な見た目とは裏腹に軋みを感じず滑るように開く扉をあけると。
「ただいま」
「おかえりなさい会長」
出迎えたのは如何にも仕事が出来ますという、眼鏡に三つ編みの三年生の女性と
「わー………おりむーとレーちんだぁ」
対照的に仕事が出来なさそう、というよりやる気の問題ののほほんさん。
「え、なんでのほほんさんが?」
「あら、あだ名だなんて、仲いいのね」
「あー、いやその………本名知らないので」
「ええ~!? ひどい! ずっとあだ名で呼ぶからてっきり好きなんだと思ってた~………」
「すまんのほほんさん、俺も忘れかけてた」
「レーちんまで! 裏切り者~。末代まで祟ってやる~!」
「本音、嘘をつくのはやめなさい」
「バレた。わかったよーお姉ちゃん」
「お、お姉ちゃん?」
うん、そういう反応になるよな。俺もそうだった。
そういや俺が初めてここのIS乗る時に手伝ってくれて、のほほんさん呼び出しくらってたけど。生徒会役員としてだったのか?
「ええ。私は布仏虚。本音の姉よ」
「妹の本音でーす。むかーしから、うちら布仏家は代々更識家のお手伝いさんなんだよー」
「姉妹で生徒会ですか?」
「そうよ。生徒会長は最強でないといけないんだけど、他のメンバーは定員数になるまで好きに入れていいの。だから、私は幼馴染みの二人をね。あ、疾風君は私が直々にヘッドハンティングしたの」
取れたてホヤホヤでございます。
「ってことはのほほんさんも生徒会なの?」
「あー、おりむー今仕事出来そうにないって思ったでしょ~」
「いやそんなことは」
「まあそうなんだけどね~」
「おいっ」
一夏のツッコミもなんのそのとぐでーとするのほほんさんは今日も絶好調。こう見えて書記職なのだ。虚先輩は会計。
「さ、座って頂戴な。学園祭の事については、疾風君が説明した通りね」
「いい迷惑なんですけど」
「じゃあ今すぐ部活決めれる?」
「そ、それは」
核心を突く質問に一夏は口をモゴモゴして黙った。
会長と話してると行きなり出鼻くじいてくるんだよな。
「まあさっきも言った通り。交換条件としてこれから学園祭までの間まで私が特別に鍛えてあげましょう。ISも、生身もね」
「あの遠慮します。さっきも言いましたけど、コーチなら沢山居るので」
「ふーん」
意味ありげに会長は一夏から俺に目線を移した。
実際問題、一夏の特訓というのは以下の通り。
箒は擬音オンパレード、鈴は直感型で投げ出し、ラウラは鬼スパルタ。シャルロットの教え方は普通に上手い。
が、最大の問題としては各コーチの相性の悪さ。基本よっぽどの事がない限りマンツーマンにはなれない。
片方が教えているともう片方が乱入し、一夏そっちのけでバトってしまい次第には一夏VSコーチ二機という変則マッチができあがる。
一夏の特訓より一夏へのアピール合戦に発展、優先されてしまうのだ。
何時も余裕綽々と笑みを浮かべる会長もこればかりは眉を潜めてしまった。
因みに俺とセシリアが教えようとしてもラバーズ達から睨まれて終了。
だから会長が自らコーチングするという事になった。
実際国家代表に上り詰めた実力は正しく俺達ニューカマー組より経験は豊富だろう。
会長は視線を一夏に戻した。
「じゃあ私のコーチは必要ないと?」
「ええ」
「でも君は弱いままだよね」
あまりにもさらっと。当たり前のように言われた一夏はムッとする。
「それなりには弱くないつもりですが」
「ううん、弱いよ。無茶苦茶弱い。自分でも気づいてるんじゃない?」
「そんなこと」
「専用機持ちの中では間違いなくワースト一位だわ。少なくとも、誰かを守れる程強いとは思えないかな」
ピン、と空気が張り詰めた。
顔を見ずとも隣に座る一夏が怒気を発したのを感じる。
「今なんて言ったんですか?」
「言葉通りの意味だけど?」
「俺には誰かを守る事が出来ないということですか?」
「ええ、良くて守られるのが関の山ね」
一夏の琴線の上でアクロバティックダンスをした会長を前に。一夏はバン! と机を叩いて立ち上がった。
「じゃあ、勝負しましょう! 俺が負けたら従います! なんでもやってあげますよ! その代わり、俺が勝ったらさっきの言葉は撤回してください!」
「うん、いいよ」
にこりと笑った会長の顔には『罠にかかった』と書かれていた。
のほほんさんは拍手を、虚先輩は眼鏡を上げ、俺はあーあ、とタメ息を吐いた。
だが当の一夏はボルテージが上がりすぎて、会長の掌に乗っていることに気付くことはなかった。
現実を見つめるには事実を突きつけるのが特効薬なんだ。
意外と原作ではこの地雷は触れられておりませぬ。
正直、一夏はIS適正とISとその場の土壇場でなんとか生き残れてるイメージもありけり。
再生能力なかったら確率的に福音で死んでますしね。