IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
本当に助かってます
これからも応援宜しくおねがいします。
「更識先輩」
「楯無でいいわよ。なに?」
「なんですかこれ」
「柔道着よ?」
「それは分かります」
場所を移り変わり、一夏と楯無会長は畳道場で向かい合っていた。両者とも道着に着替えていた。何故か俺も。
因みに布仏姉妹は別件があるので不在。
「ISじゃないんですか? てっきりアリーナに行くものだと」
「ISで戦ったら冗談抜きで私が勝っちゃうけどいいの?」
「……いくら先輩だからって大言壮語がすぎるんじゃないですか?」
「一夏、生徒会長はロシアの現国家代表だぞ」
見ていられなくなり思わず口を挟んだ。
当の一夏は案の定というか疑問符を頭に並べている。
こいつは入学当初セシリアに「代表候補生ってなに?」と聞くほどISに関してだけ異常に疎い。セシリアは思わず一夏のことを猿と言ったらしい。
ごめん一夏、それだけは同意しちまうわ。
「代表候補生じゃなくて代表。昔の織斑先生のロシア版だぞこの人は」
「………マジで?」
「マジ」
「やーね。私はまだルーキーよ、ルーキー」
錆びたブリキ人形みたいに首を動かす一夏の前で威厳もなく笑う更識会長。
噂によれば会長は現国家代表であったログナー・カリーニーチェをボコのボコにして代表の座をもぎ取った。というのは母さん談。
「さて、勝負の方法だけど、私を床に倒せたら君の勝ち、逆に君が続行不可能になったら私の勝ちね」
「あの、いくらなんでもハンデつけすぎじゃ」
「大丈夫。私が勝つもの」
「………」
先程のカミングアウトで少しだけ頭が冷えた一夏だったが。こうもぼろ糞に言われては表情が険しくなるのは必然だった。
「遠慮しませんよ」
「何時でもどうぞ」
先ずは出方を見ようと徐々に間合いを詰める一夏。対して会長はなんと無防備に棒立ちで一夏を待ち受けていた。
怪訝な顔をしながら間合いを詰めた一夏は会長の腕を掴んだ。
瞬間。
「え?」
「は?」
一夏が宙に投げ出されていた。
「ぐへっ!」
「一夏大丈夫か!?」
「おう………」
「先ずは一回。さっ、まだ始まったばかりよ」
「ぐはっ!」
「これで5回、まだやる?」
「当たり前、です!」
「ほいっ」
「うわぁあ!」
ドシンとまた一夏が床に叩き伏せられる。
先程からこれの繰り返しである、一夏が掴んだ次の瞬間には一夏は床と一体になってしまっている。
とてつもなく強い。この人には弱点がないのではないかと錯覚してしまうほど。
「はい、これで6回」
「まだまだ!!」
一夏の気迫は充分、しかし何度も打ち付けられてるせいで疲労もたまってきているだろう。
あ、またやられた。
「七回目。もう降参したら?」
「ゼーハー………これで、最後にします」
「ん、潔いのは良し!」
再び相対する二人。
ふと一夏の荒い呼吸が収まった。カッと目を開いた一夏は今まで見たことない何かを放っていた。
楯無会長に走った。一夏は会長の腕を掴み、胸元に手を伸ばすもまた体制を崩される。またさっきと同じように床に投げ出されると、俺は思っていたが。
今回の一夏は崩された体制を強引に踏みとどまって耐えた。そのままバネのように更識会長に肉薄した。
「でやああーーっ!!」
型もなにもない直列猛進。
一夏の手はついに会長の胸元を掴んだ!
「いけっ!」
「おおおおっ!!」
そのまま投げ飛ばすような勢いで体制を崩そうと腕を思いっきり振った。
「きゃん」
「「あっ」」
勢い余って道着の前を思いっきり開いてしまい、楯無会長の形のよいバストとレースの下着が覗いてしまった。
「一夏君、エッチ」
「え、あの、その、これは!!」
突如のラキスケに一夏は狼狽して数歩下がる。先程の怒りなどもはやそこにはなく、はっきり言って全身隙だらけの状態。
「お姉さんの下着姿は、高くつくわよ」
タッと今度は楯無会長が一夏の懐に入り、一撃。一夏の体が浮いたあと、そのまま連撃を叩き込み、吹き飛ばした。
「ぐはっ!!」
叩きつけられた一夏は一瞬身動きしたかと思うと、グッタリと床に身を投げだして動かなくなった。
生まれて初めて三次元版空中コンボを見てしまった。
「おい大丈夫か一夏? おーい!」
「大丈夫よ、頭とか打ってないし。気絶しただけでしょう。っさ! 次は疾風君よ!」
はだけた道着を直しながら、楯無会長は朗らかに俺を誘う。
「え、俺もですか。なんで?」
「んー? 単に私が戦いたいだけよ。それに、あの時のリベンジしたくないのかしら?」
挑戦的な笑みを浮かべる会長。今の一夏の姿を見てからだと正直腰が引けるが。
一夏を脇に寝かせておいて、俺は楯無会長の前に立った。
「会長」
「んー?」
「俺の強さってどんだけですか?」
「弱いよ、一夏君よりは強いけど」
「でしょうね」
「怒らないんだ?」
「まあ事実ですし」
「張り合いないわねー」
いや挑発と分かってて乗りませんよ俺は。
「ところで疾風君は勝ったらなんか欲しいものとかある?」
「カフェテリアのゴージャススイーツスペシャルセットを」
「欲が無いように見えてガッツリ欲出してきたわね。嫌いじゃないわ」
両者が畳の上で構えを取る。
こうして見ると、やはり隙が見つからない。
勝てるかなー。勝てるっていう絶対的ビジョンがどうしても不透明だ。
とりあえず場に立った以上無様は見せられないということは理解してるので立ち向かうことにする。
さて、先ずは。
駆ける。そして正面から打つ、と思わせて重心をずらして打ち込む。この間は僅か一秒に満たないが彼女はそれを確実に止めた。
そこから隙間を余すことなく五発叩き込む、これも止められる。
足払い、から掌底、手刀、回し蹴り
当たらない、止められ、いなされ、本当にその場に立っているのかと思うほどだ。まるで霞を殴っているみたいだ。
「ん、悪くないわ。じゃあ、次は」
ドンっと少し離れていた距離が縮まり、自分の目の前に楯無会長が表れる。
ノーモーション、無拍子とも言われる予備動作無しの歩法。右手には既に掌打が構えられ、俺にめり込まんとしていた。
だけどそれはさっきの一夏のやつで見た。
突き出された腕の袖を引き、道着を掴み、そのまま背負い投げに移行とする
「あら危ない」
瞬間。あろうことか背負わされた状態で体制体制を立て直し、背中に掌打を叩き込んだ
「くふっ!?」
無様に仰向けに床にぶつかった。即座に体制を立て直して向き合うと………
「や♪」
「へっ、がっ!」
二回のジャブ、そこからのストレートが腹に決まり吹き飛ばされた。
床に投げ出される瞬間に受け身を取るも、腹を強く打ち込まれた事による吐き気がこみ上げ、口の中に酸味が感じられた。
「中々やるじゃない、動きの無駄を最小限に止め、一度見た動きを正確に対処して応戦する。うん、良いセンスね」
「ううっ………」
「だけど」
ふらつく体のまま目の前の相手を見据える。相も変わらずニコニコと笑ったまま会長
またも無拍子で間合いをつめる。
「そう何度も」
掴みかかろうとする腕は空を切る、楯無会長はそこから俺を軸に右旋回し、死角となる右斜め後ろから脇腹に掌底を叩き込んだ。
「それじゃ、私には届かないわ」
「ぐっ!」
先程の一夏とは違い、一撃一撃を確実に叩き込んでくる。並みの男なら今のでダウンしていただろう。
鍛えてて良かったと思う反面、なまじ鍛えてるせいで楽に気絶出来ないなと思いながら彼女から離れる
いやなんなのこの人めっちゃ強い。いつか戦ったハーシェルのボディガードなんて目じゃないんだけどどういうこと?
「ん、インパクトの瞬間に体をよじったのね。入ったと思ったのになー」
いや結構入ってますです。はい。
「けほっ。流石です。正直勝てる気がしませんよ」
「あら、もう降参? 簡単に諦める子は好きじゃないんだけどなー」
「いやまさか。せめて一矢報いますよ。そういうの得意なんで」
「そうねー。君はそういう子よね」
構えを正して、深く息をする。
これが本当の殺し合いだったら、あらゆる手を使って即座に逃げただろう。
勝つ見込み無いのに激昂して向かうほど、俺は勇敢ではないし蛮勇でもないとは自負しているつもりだ。
まあ自負してるだけであのブサ女にボッコボコにされちゃったけども、
「会長」
「なに?」
「もし俺が貴方を殺す為に襲いかかったとしたら殺れます?」
「貴方に殺られる程弱くはないと思ってるわ」
「そうですか」
だったらここからは。
「容赦しませんから」
ーーー◇ーーー
「え?」
会長の笑みが崩れた。
思わず声が漏れた。
目を瞬いた。
頭が疑問を感じた。
突如疾風の纏う物が変わった。先程のは洗練された流れるようなものだったのに対し。今の疾風は溢れ出る黒い何かを制御していた蓋を取っ払ったような圧が感じられた。
閉じられた彼の目が開かれ、楯無に向けられる。
ほんの僅か。感覚として感じられるか感じられないかのような刹那の間、確かに一瞬、楯無の体が震えた。
「っ!」
瞬きをした瞬間、楯無の目の前に疾風の姿があった。
いや、それだけではない、先程のどす黒い気が極限まで抑えられ、気配遮断に似た状況を作り。幾重にも重ねられた条件によって行われた接近は楯無に一瞬の動揺を感じさせた。
咄嗟に繰り出された拳を受け止める。
防御した腕から風が吹き、全身から床にかけて衝撃が走った。
(なんて力!)
疾風はそのまま半歩下がり跳躍、空中から踵落としを決めに来る。
普段の楯無なら空中に飛んだ瞬間に叩き落としにかかるか、投げに行くかという選択肢があったのだが。
先程の一撃で軽く体制を崩された為、その選択肢を選ぶことは出来ず。そのまま腕を交差して受け止める。
重厚な衝撃が爪先まで走り、思わず奥歯を噛んだ。
疾風は後方宙返りで距離を取り、手刀、正拳、抜き手、蹴り、足払いと連続で畳み掛けてくる。
楯無は攻められながらも自信のペースを取り戻していく、不安定なまま挑んでも相手の搦め手でまた逆戻りしてしまうのを防ぐためだ。
それを察知したのか否か、疾風はリズムを変えてこちらに踏み込み、更に攻めの姿勢に移行してきた。
いなしていなして、気が付くと楯無は防戦一方の状態になっていた。
(この変わりようはなに!?)
今までの疾風の攻撃は競技に乗っ取ったようなスポーツマンシップたる動きだった。
だけど今の疾風は手段を選ばずに楯無の意識を刈り取るレベルのキレが出ていた。
「ははっ」
漏れ出た笑い声。
彼の口角が一瞬上がったように楯無は見え。眼鏡の奥にある瞳は獲物を捕らえて喰らう獣のようなギラついた獰猛さが移っていた
道着を思いっきり捕まれた。
楯無は冷や汗をかいた。
体制を崩す疾風の手を払うも勢い余って道着がはだけ、ブラがあらわになる。
胴着の中に内包されたきめ細やかな少女の魅力を放つ胸元。
だが先程狼狽した一夏とは違い、疾風はそれに見向きもせずに楯無を地に伏せようと攻撃してくる。今の彼の目には楯無を倒すことしか考えていないのだ。
いや、そんな生半可なものではない。一瞬でも気を抜いたら自身の命が刈り取られる。そんな非日常的な気迫が彼にあったのだ。
楯無は正直侮っていた。そこら辺の手練れ並みと思っていたが。その認識は改めなければならない。まさかこれ程とはと楯無の胸中は感心から危機感に変わっていた。
「あっ!」
大降りの攻撃をするかとおもえば小さく足を払われ、今日初めて、いや久方ぶりに楯無の体勢が崩れた。
彼の圧が一際巨大になった。抜手の形を取った右腕が楯無を貫かんと迫ってくる。目の瞳には狂喜が宿っていた
(殺られるっ!)
比喩でも冗談でもなく本気で感じた。これを受ければ殺される。久しく感じていなかった命の危機に、楯無の全細胞が一斉に対応する。
倒れかけた足を踏みしめ、後ろにのけぞった体制のまま右足で思いっきり蹴りあげる。
予想外だったのか、それは疾風の左肩にあたり、均衡が崩れた。
蹴りあげた勢いで後転し、一気に間合いをつめる、腕と脚の間接に素早く掌底を打ち込み、麻痺したところに腹部に拳を打ち込む。
「ゴフッ」
肺から放出された空気と共に唾液が飛び、疾風の目が見開く。
追の間を空けずに疾風の顎に掌底打ち、足が地から離れた疾風の胴に楯無は全力の飛び回し蹴りを喰らわせて疾風を吹き飛ばした。
「があっ!」
吹き飛ばされた疾風の身体は数度床を跳ねたあと、木製の壁に打ち付けられて床に落ちた。
「ふぅー………はっ! やっば!」
余りの状況に楯無は完全に加減など忘れてぶちのめしてしまった。
直ぐに彼の元に走って安否を確かめる。
「疾風君大丈夫!? しっかりして疾風君!」
「ぅ、うぅ………あ」
辛うじて身動きをしてるのを確認すると、直ぐに彼の身体を確認した。
幸い頭を打ったり、骨折をしている様子は無いとわかると、楯無はほっと胸を撫で下ろした。
ふと、自分の道着がはだけている事に楯無は初めて気が付いた。
「お姉さん、結構魅力ある方だと思うんだけどなぁ。一夏君は良い反応してくれたけど………」
せっせっと道着を治した。楯無は気絶している疾風の顔を見つめる。
そこには年相応の寝顔があった。
ふと、彼のトレードマークである眼鏡がないことに気づいた。
辺りを見渡すと、少し離れたところに彼の眼鏡が転がっていた。どうやら地面を転がった時に外れたのだろう。
眼鏡を取ってフレームが歪んでいないことを確認すると、彼の寝顔にそっとかけてあげた。
「はぁ、油断したわ。能ある鷹は爪を隠す、か。いや貴方の場合は鷲か」
彼のISの名称を思い出してポツリと呟いた
楯無から見た彼は一言で言うならISジャンキー。
ISに関することは無邪気なまでに楽しみ、励み、空を飛ぶ。
だが今回の疾風は今まで知っていた疾風・レーデルハイトとは違っていた。
驚異的な瞬発力は見て分かったが、それ以上に勝利への執着心。まるで獣のようだった。
「一体何が貴方をここまで強くしたのかしら?」
いつかISを動かす為に鍛えていたという情報を本音からは聞いていた。
でも本当に?
本当にそれだけの理由でここまで強くなれたのだろうか。
「改めて調べ直そうかしらね」
サラッと言った楯無が、倒れている一夏と疾風を見て、自分が大の男を運ばなければならないということに気づくまで、後10秒。
ーーー◇ーーー
「………何処やねんここ」
見渡す限り何もない漂白されたように真っ白な大地、そしてちぎれ雲が漂う蒼い空。
そして。
「風つっよ!」
思わず目も開けられない暴風の応酬。
立つことがやっとなその現状に、俺はなんともいえない既視感を感じていた。
あれ、俺前にもここに。
「また来たのか」
「へぇ?」
後ろを振り向くと。自分より頭一つ少ない空色カラーのメカクレボーイがそこにいた。
「まったく、そうホイホイと来られる場所ではないのだがな。まあ、お前の意思ではなくーーーのシンクロ率が問題か」
「な、なんだって?」
一部ノイズが走ったような。
てか君は………
「思い出す必要も気にかける必要もない。今はな」
「意味が分からないんだけど」
「気にするな」
「そう言われると余計に、ブフゥ!」
さっきより更に勢いの増した風圧が顔の肉を震えさせた。
これ台風でも来てんのか!?
「しかし、来たというなら助言の一つぐらい噛ませてやるか。疾風・レーデルハイト」
(はい?)
「ブレーキなんかかける必要なんてない。そんなもの取っ払ってしまえ、邪魔なだけだ」
耳を叩く暴風音の中でも、メカクレ君の声はやけにクリアに聞こえた。
「そら、もう帰れ。隣が五月蝿くてかまわんから何とかしろ」
「ぶふーー!!」
フワッと体が浮いた、と思ったら、物凄い勢いで俺の体は宙を舞って吹き飛ばされた。
「うおっ」
ガバッと起きると知らない天井。
………いや、保健室だなこれは。
起き上がろうとしたら体のあちこちが痛い。なんでこんなに痛いんだっけ?
「うわっ! ラウラ待て! はやまるな!」
「問答無用! 嫁の外敵は私が排除する!」
なんだなんだ?
隣を見るとカーテンのシルエット越しに騒がしい雰囲気が。
って、なんか衝突音聞こえたんだけど?
「なにっ!? ぐっ………」
「はい、私の勝ち」
なんかわからんが。会長が勝ったらしい。てかこの声ラウラか?
「一夏君、動ける?」
「今俺を押さえてる手をどけてくれたら」
「重畳。じゃあ行きましょうか、ラウラちゃんも一緒に」
「ラウラ、ちゃん?」
「どこにですか?」
「第三アリーナよ。ほら、善は急げよ!」
「「うおおっ!?」」
保健室の自動ドアが開く音がして、保健室に静寂が戻った。
あれ、俺もしかして放置?
………まあいいや。体痛いし、なんかまだ眠い。
………スヤァ。
ーーー◇ーーー
ISアリーナの更衣室に隣接したシャワールームで少女二人は汗を流していた。
曇りガラスのドアには二人の抜群のスタイルがシルエットとして写されていて、同姓でさえも魅了するような健康的な色気を放っていた。
「はぁーー」
「大きいタメ息ですこと」
「吐きたくなるよ。いきなりあんな………」
むくれるシャルロットにセシリアは嗜めるように言ってやる。
二人でIS搭乗前にストレッチをしていると、生徒会長が一夏とラウラを連れてこう言ったのだ。
「私はこれから一夏君の専属コーチになったの。宜しくね」
余りにも当たり前のようにサラッと言われて虚を突かれたシャルロットとラウラは当然何故そうなったのか一夏に問い詰めたのだが。
「すまん、勝負の結果なんだ。ごめん」
「負けたら言いなりになるって言うね」
と半ば申し訳なさそうに話す一夏と嬉しそうに言う楯無に開いた口の塞がらない二人を差し置いてトントン拍子でことが進んで一夏の訓練が始まったのだ。
一夏の射撃適正の低さとノウハウを理解するために楯無が提案したのはマニュアル射撃の基本技術である『シューター・フロー』の
そのあとセシリアとシャルロットがお手本を見せていたのだが、その最中に楯無が一夏にちょっかいを出してるのを見てシャルロットが体勢を崩してスターライトMKⅢのレーザーが直撃して墜落。
そこからはラウラを加えて一夏に積めよってセシリアが場を納めようと宥めるという事態に発展。
「一夏さんが年上に弱いと再認識しましたわね」
「年上といっても一歳しか違うのにね」
そう言ってプーっと頬を膨らますシャルロットは年相応だった。
しかし無理もない。他の女子と比べて比較的一夏の指導担当をリードしていた有利を横取りされたのだから。
「一夏も一夏だよ。売り言葉に買い言葉で後先考えないんだからさ」
「男の子ですからね。何を言われてそうなったのかは知りませんが。それでも国家代表のコーチというのは貴重過ぎる経験だと思いますわよ?」
「そうだけど。納得行かない!」
「ウフフ」
シャワーから出た金髪美少女達は髪を乾かしにいく。セシリアが使うケアマネージメントの話題に盛り上がりながら。
ふとセシリアはシャルロットが自分の顔を覗き込んでいることに気付いた。
「どうかしましたシャルロットさん?」
「ねえセシリア」
「なんでしょう」
「なんかあった?」
「何故?」
「朝から元気なかったなって思って。その割にはISに乗ってる時は力が入ってたし」
髪を梳かしていたセシリアの手が止まった。気づかれないように再び梳かし始めたがその動きはぎこちなかった。
「良かったら話してくれない? 誰かに話すだけでも、気持ちは楽になると思うよ?」
「………」
今日で何人も心配された。それほどセシリアは表情に出ていたのかと自らの未熟を呪いたくなった。
しばらくセシリアは黙りこんだ。
辛抱強く待ってくれるシャルロットを前に、セシリアは話す決心をした。
「他の人には内密にお願いしますね?」
「うん、もちろん」
「そっか、菖蒲さんが……」
コクリと頷くセシリアに、シャルロットは言葉を探しながら途切れ途切れに見繕った。
「その。疾風と菖蒲さんが、もし付き合うとしたらセシリアはどうする?」
「べ、別にわたくしには関係ありませんわ。疾風が誰と、つ、付き合おうと……」
「本当に?」
「……」
何故か口から言葉が出なかった、首の方まで上がっているのに、まるで、それ以上出すことを脳が拒否しているかのように。
「セシリアは、菖浦さんからそれを聞いて、どう思ったの?」
「分かりませんわ。自分が自分でないみたいになって。もう本当に訳が分かりませんわ」
セシリアの切なげな表情に、シャルロットさんはうーんと眉を潜めて唸った
(これは、たぶん……うーん)
シャルロットも今のセシリアの状態に見覚えがないわけではなかった
だから思いきってシャルロットは聞いてみることにした。
「セシリアは疾風の事は嫌い?」
「そんなことはありませんわ、憎らしいこともありますが。彼は私にとって親友ですわ」
それだけは間違いないと言うセシリアを見て、シャルロットは更に畳み掛けた。
「じゃあ、好き?」
「すっ!? ま、まあ友達としては」
「異性としては?」
「しゃ、シャルロットさん? 何を仰っているかわかりませんわ」
「本当に?」
「ほほほ本当ですわ」
「ふーん」
「シャルロットさん、この話は終わりにしましょう」
「え? セシリア?」
「それではまた明日。ごきげんよう」
「ちょ、ちょっと!?」
呆然とするシャルロットを背後にセシリアは更衣室から消えた。
閉まる自動ドアを背後にセシリアは何処としれなく歩きだした。
思わずに逃げてしまった。自分の行動の無責任さにらしくなさ過ぎるとセシリアは自身を叱責する。
「別に好きとかではありませんわよ。ええそうです。わたくしは疾風のことなど、何とも思っていな…」
「あれ? セシリア?」
「ギャっ!?」
疾風の声が聞こえた気がしたセシリアは飛び上がった。
なんとも淑女にあるまじき声を発してしまったことを恥じながら。くるっと、声のした方向に向くと。
「ぎょっ!?」
「どうされましたセシリア様?」
「なんか変だぞ? マジで」
また淑女にあるまじき声を発してしまった。
目の前には制服を来ている疾風と、もはや制服とは言えないほどの魔改造、というより別物である着物を着た菖蒲がいたのだ。
(よりにもよって今会いたくない人ベスト1、2と遭遇してしまうとは)
いや、それならまだいい。問題はここからだ。セシリアにとって看過出来ないのは二人の状態だった。
「何故お二人はそんな密着していますの!?」
「み、密着してるなんて。そんな」
「な、なんで顔を赤らめますの菖浦さん!」
赤くなる理由は分かるが、この状況についていけないセシリアは弱冠混乱状態に陥っていた。
そう、二人はお互いの肩を抱き、隙間の無いほどに身体をくっつけていたのだ。
チクっと、セシリア胸が痛んだが。それを必死に振り払った。
「待てセシリア。なんか誤解してる」
「何が誤解ですの? 昨日といい今日といい! 二人は本当にどういう関係ですの!」
なんでこうも必死になっているのかと気付いたセシリアはどうにか冷製さを取り戻し。二人の話を聞くことにした。
一夏と楯無との勝負の後に、疾風も楯無と勝負して敗北。そのあと保健室で一人寝ていた疾風
やがて目が覚めて、これ以上長居をするのは良くないと保健室を出て自室に戻ろうとするも、身体の痛みに歩きづらそうな所を偶然菖蒲が発見し、今に至るという。
つまり、彼らはいちゃついていたのではなく、動けない疾風を菖蒲が支えていた。
そういう筋書きのようだ。
「じょ、女性に支えられるなんて。情けないですわね、疾風は」
ツンとした態度をとりつつも、セシリアの胸の疼きは薄くなっていた。
「まったくもってその通りです。ごめんな菖蒲、部屋反対方向なのに」
「いえ、疾風様の為ならこの程度労力のうちに入りませんわ。それに疾風様と一緒に居られて、私は嬉しいですよ?」
「そ、そうか。ありがとう」
疾風にお礼を言われ、照れた菖浦さんは、わたくしの視線に気づくと、先程とは違う笑みを浮かべた。
セシリアは胸の内を見られたような気がして顔が熱くなった。
「あ、菖浦さん! よかったら疾風を送るのを変わって差し上げますわ! ほら、反対方向ですし」
「いえ、私は全然大丈夫ですので。セシリア様は気にしなくても良いですよ」
「しかしですね。重いでしょう疾風は、菖浦さんは病弱だったと聞きましたし。無理をするのは良くないのでは? な、なので疾風はわたくしが送ります」
「ご心配くださってありがとうございます。ですが私はこの通り完治しております。どうぞお気遣いなきよう」
「うぐっ」
(なんだこの論争)
ものの見事に論破されたセシリアは、ただただたじろいでしまう。
疾風はすっかり蚊帳の外という感じに、セシリアはまたしても必死になってしまっていた。
『ピンポンパンポーン。1年2組、徳川菖浦さん。1年2組、徳川菖浦さん。職員室にお越しください。繰り返します──』
「あら、呼ばれてしまいました」
「行ってこいよ菖蒲。俺はもう大丈夫、おっとと」
菖蒲から離れて一人で歩こうとした疾風だが上手く直立出来ずよろけてしまった。
「ああ駄目ですよ疾風様、無理をなさっては。うーん……セシリア様」
「な、なんでしょう?」
今度は何を言ってくるのか。セシリアの体は自然に強ばってしまった。
彼女は昨日と変わらない真っ直ぐな瞳を合わせながらこう言った。
「疾風様を部屋までお願いします」
「ふぇ?」