IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「聞いた? また転校生来るんだって」
「もしかしてテレビに出てた、疾風・レーデルハイト?」
「あの剣戟女帝の息子?」
「そうそう、しかもこのクラスに入ってくるって!!」
「え、そうなの!?」
「ヤバイテンション上がってきたぁぁ!!」
「宴じゃあ! 宴の準備をしろぉぉ!」
どうやら今日は転校生が来るらしくここ一年一組クラスはやんややんやのお祭り騒ぎだった、しかもその人は正真正銘二番目の男性IS適合者らしい。
「レーデルハイト工業の御曹子かぁ、凄い人が入るんだね」
「レーデルハイト工業ってそんなに凄いところなのか?」
女子の集まりを見ながら呟いたのはフランスの代表候補生のシャルロット・デュノア。
シャルロットの家はデュノア社という量産機ISの世界シェア第三位に入るほど大企業だ。
その世界ランクを維持している企業の子がそこまで言うのだから相当な会社なのだろう。
「情けないぞ一夏、私でさえ知ってるというのに」
「あんたってさぁ、ほんとISの知識欠落してるわよね」
「うっ、そんな蔑んだ目で見ないでくれよ。本当に知らなかったんだから」
少しきつめの雰囲気を醸し出している女子の名前は篠ノ之箒。小学一年から四年の間一緒の学校にいた俺の幼馴染み。
幼少の頃、箒の実家である道場で一緒に剣道を習っていたが、事情により離ればなれになり、このIS学園で六年ぶりの再会を果たした。
剣道の腕は一流、去年の全国大会では見事優勝を獲得している。あのニュースを見たときは自分のことのように喜んだのをよく覚えている。
そして隣のサバサバとしたツインテールの子は中国代表候補生である凰 鈴音。
鈴は隣の一年二組のクラスだが、時間を見つけては一組に遊びに来ている。
中学の時は俺より少し上ぐらいの成績だったのに、よくたった一年で代表候補生になれるのは凄いとしか言いようがない、きっと想像を絶するような努力の賜物だろう。
「そういえば一夏って、デュノア社のこともよく知らなかったよね」
「んぐっ」
「ISってより世間一般常識よね。レーデルハイト工業とデュノア社を知らないとかほんと信じられないわ。世界でも五本指に入るほどのIS企業よ? この学園でそれを知らない人はいないでしょうね。あんた以外」
「んぐぐっ」
「一夏、本当に情けないぞ。私は幼馴染として心配だ。これからお前が生きていける事を切に願う」
情けない二回も言うな。てか生き死に関わる程重症なのかと口には出さないながらも頭を抱えた。
そもそも俺がこの学園に入ったのはISを動かしたというだけに過ぎない、それ以前はISとは無縁に生きていたし、姉である千冬からもISには関わるなと念を押されていた。だからあの参考書を電話帳と間違えて捨てたのは仕方ないのだと思いたかった。
しかしこの状況は辛いので、即刻打開するために斜め後ろの席にいるセシリアに話題そらしというなのSOSをだした。
「ところでセシリアはレーデルハイトって奴がどんな人か知ってるか?」
「………」
こちらの声が届かなかったか、セシリアは窓の外をじっと見ていた。
「セシリア?」
「………あ、なにか言いました?」
「いや、疾風・レーデルハイトって奴がどんな人か知ってるかなぁって。レーデルハイト工業ってイギリスにも展開してるって言うし、セシリアなら詳しいのかなと思って」
「成る程。彼とは昔知り合った友人ですわ。親同士の仲でした。といっても、ここ数年は会っていませんでしたが」
「へえ、じゃあ久しぶりの再開って訳だ」
「あー、いえ、実はそうではなかったりですね。その………いえ、なんでもありませんわ。とにかく彼は悪い人ではありませんので、仲良くしてあげてくださいな」
「いやいや、その引きは気になる流れだから。勿体ぶらずに話しなさいよ」
「ご、後生です。掘り下げないで下さいまし」
一度気になり出した鈴はセシリアに追及する、迫られるセシリアはそれを押し返そうとやんわり抵抗する。
突如、コンコンと何かを叩く音に二人の格闘が中断される。
「ん? おおっ!!」
「? うわっ! 何してんのラウラ!?」
一同の視線の先には窓越しに叩く銀髪眼帯のドイツ代表候補生であり、ドイツの特殊部隊の隊長であるラウラ・ボーデヴィッヒの姿があった。
俺は急いで窓を開けるとラウラはスタッと教室に入り、登る為に使ったであろうフックロープを回収する。
「どっから来てるんだお前は!」
「うむ、登校時間に遅刻しそうになったのでな、よじ登ってきた。しかし流石IS学園だ、登るだけでここまで苦労するとは」
「それって普通に来たほうが早かったということ?」
「そうなるな」
「あんたって天然なのか不器用なのか」
揃って呆れてる俺たちにラウラはよく分からないという顔をしている。
入学当初は周囲に壁を作っていたラウラだが、この前の事件を通して随分と丸くなったもんだ、出会い頭に平手を喰らったあの時が懐かしく思える。
「だがコツは掴めた。次はもっと早く登ってみせるぞ」
「次があると思ってるのか馬鹿者め」
そのとき空気が凍った、心なしか気温も下がった。
「きょ、教かっ」
スパァンッ。聞き方を変えれば心地よい音が教室に響きわたる。
ラウラの後ろにはIS学園1の鬼教師、俺の姉である担任の織斑先生と、明らかに狼狽えているIS学園1の癒しこと副担任の山田先生がいた。
「ボーデヴィッヒ、私は窓から登校しろと教えた覚えはないぞ」
「しかし教か」
スパァン! 一撃目より強くなった千冬姉の伝家の宝刀、出席簿。ただの出席簿と侮るなかれ、あれはマジで痛い、いや痛いなんてもんじゃない。一瞬川が見える、記憶にないはずの婆ちゃんが手をふってくる。
「織斑先生だ、何度も言わせるな。まったくお前といい織斑といい、何故私を先生と呼べないのか」
呆けていたらこちらに飛び火が。
しかしそれは仕方ないと思いたい。ここに入学する前は普通に『千冬姉』と呼ぶのに慣れてるのに行きなり変えるとか。しかも千冬姉と呼ぶとさっきみたいに出席簿アタックを喰らう、理不尽だ……
もうすぐ二ヶ月半ぐらいなのに時々呼んでしまう=出席簿アタックを喰らうのだ。
「凰! ちんたらしてないで、さっさと自分の教室に戻れ!」
「はひっ!」
千冬姉の横をそろ~っと抜け出そうとした鈴、ピシッと姿勢を正したかと思うと一目散に教室から出ていった。
それを見た皆がそそくさと自分の席に戻る。
「山田先生、ホームルームを」
「はい、えーっと既に耳を挟んでる人もいるかと思いますが。またこのクラスに転校生が来ます」
「シャアコラァーー!!」
「野獣系ですか! 知的系ですか! それとも男の娘系ですか!!」
「織斑くんと組ませたら攻めと受けどっちですか!」
待ってましたとばかりにクラスが湧いた。正真正銘の男が入るということもあり教室が若干揺れている。
「静かにしろ」
しかしそのクラスの揺れも千冬姉の鶴の一言でピタリと止む。
「それでは、入って来てください」
山田先生の声に導かれ教室のドアがゆっくりと開いた。
時間を少し遡る。
IS学園に足を踏み入れた俺は受け付けで用件を伝えて待っていた。登校時間がずれ込んでいる為、回りに生徒は見当たらなかった。まあいたら遅刻確定だが。
そこまで待たずに、一週間前にお会いした織斑先生と山田先生に迎え入れられた。
「私がお前の担任の織斑千冬だ。そしてこっちが副担任の山田真耶だ」
「疾風・レーデルハイトです。改めて宜しくお願いします」
「うむ、では早速教室に向かう、ついてこい」
………どーしよ。今更ながら緊張してきた、否そんなレベルじゃない。
少し考えてみれば、此所はISを扱うための養成機関、つまり女子高だ。
せめて、女尊男卑コリッコリじゃないことを祈ろう。うん、贅沢なんか言わない。
ハーレム? いらんいらん、そんな余裕や贅沢など持ち合わせていないって。
「大丈夫ですかレーデルハイトくん?」
「大丈夫、です」
そうこうしてる間に目的の一年一組に到着、したのだが。何故か織斑先生が頭を抱えて溜め息をついた。
「そこで待ってろ」
「は、はい」
簡潔に俺に伝えると織斑先生と山田先生が教室に入っていった。
俺は大きく息をはいて廊下の壁に寄りかかると束の間の休息を……
スパァン!
「へ?」
行きなり教室内から何かで叩いたような衝撃音が鳴った。
スパァァン!
またでた!
一体この教室で何が行われているのだろうか? と思っていると。今度は教室から女の子がツインテールを盛大に振り乱しながら飛び出し、隣の教室に潜り込んだ。
「………」
転校は始めてではないが、ここまでエキセントリックな転校日和はなかった。
「それでは入ってきてください」
待ってくださいまだ心の準備が。とは言ってられないので俺はドアに手をかけた。
南無三、アーメン、ナンマイダァ。よしっ。
ゆっくりとドアを開けて入っていくと、案の定目線が集まった。
うっ、突き刺さる視線とは、良く言った物だな、この状況がそれではないか。
ふと、多国籍なクラスメイトの中でも一際目立つ金と青が目に入った。あいつ此処のクラスだったのか。
「レーデルハイトくん、自己紹介をお願いします」
「は、はい」
自己紹介、ぶっちゃけ予め考えていた物はさっきの出来事で吹っ飛んでしまった。
いや待て。そもそも、自己紹介とは初対面の人に自分を伝えること、うん、大丈夫だ、問題ない。ありのままの自分を伝えれば良いのだ。疾風くんならやれる、否、やってみせる!
目を閉じ深く深呼吸、カッと目を開き、声を吐き出した。
「疾風・レーデルハイトです。身長は175cm、体重は66㎏。誕生日は二週間前に終わり今は16歳。血液型はB型。好きなものは甘いもの、甘味系は何でも好きです。逆に苦手なものは辛いもので、自分でも子供か? と思うほど苦手です。趣味はISの設計図やISの情報や資料を見ること、後は数回しかありませんがISを動かすこと。好きな物はIS、三度の飯、いや四度五度の飯より好きです。此処に来る前は一般の公立高校に通っていました、女子高というのは勝手がわかりませんができるだけ早く馴染もうと思っております。皆さんどうぞ宜しくお願いします。あっ、今度レーデルハイト工業で新作のISスーツの発表があるので、そちらも是非とも宜しくお願いします。えーと………以上です」
よし! 結構早口だったが噛まずに言えた、上出来ではないか! 良くやったぞ俺! 誉めて使わす。
「「「………………」」」
クラスの皆は一斉に目をパチクリとさせていた。隣の山田先生もだ。織斑先生は…無表情。
つまり静まり返ったのである。あれえ?
これはもしや滑ったという奴だろうか? いやいやマテマテ、何処も可笑しいとこはなかった筈。いやむしろ可笑しかったら笑ってくれよ、ド静寂ってなんですか?
しばしの沈黙の後、織斑先生に促されて最前列の席につく。
さて、隣はなんとあの織斑一夏だ、俺以外のただ一人の男。険悪な関係になるのは避けたい。ファーストコンタクトは重要だ、さてどう切り出すべきか。
「織斑一夏だ。同じ男同士宜しくな」
と思ったらこっちから切り込んで来やがった。遠慮無しか、良い性格だなオイ。
しかしこれは予想外、も少し警戒されるかと思いきやこれである。織斑は善意百パーの笑顔でこっちに握手を求めてきた。
「疾風・レーデルハイトだ、改めて宜しく」
とりあえず断る理由が見つからなかったので快く握手を交わした。
セシリアの方を向くと軽く手を振ってきたので、こちらも応えてあげた。
「では、授業を始める」
ーーー
待ちに待ってやっと訪れたIS学園ライフはとくに問題なく終えられた。
……すいません嘘です、あの後学年問わず一年一組に雪崩れ込んできた女子生徒からの質問攻めと野次馬的な視線攻めに耐えきった等間隔の10分休み、休みとは何だったのかと思いたい。そのおかげでセシリアはおろか織斑ともまともに話せずじまいに。
それでも豊潤な時間は一気に進み、もう放課後になっていた。初夏ということもあり、相応に空がオレンジに染まる様は、ゲートではなく屋上という場所は違えど、俺とセシリアは二週間前のあの日を思い出していた。
しかし屋上が自由解放とは、一般の高校じゃ考えられんな。流石IS学園、略してさすがく。
「連絡出来なくて悪い、あれからバッタバタしてたし」
「気にしないで下さい、忙しいのは重々承知ですから」
「そもそも連絡先が分からんかった」
「あ、確かにそうでしたわ。何故あの時交換しなかったのでしょうね」
「あれよ、雰囲気的な奴じゃないか?」
あの時はクールに去って再開を楽しむ的な、何かがあったんだろう。
「そういえば昼休みは何処に行ってたのです? 一夏さんが探していましたわよ」
「あー、先生に呼ばれて実技試験をやってたから。なんでも力量を知りたいとかで」
入学したのに試験ってなんだ? って思ったけど、飽くまで形式的な物らしく、今後の生活にはとくに絡んではこないと言っていた。
「ふむ。それで、結果は?」
「ふふん。なんと勝ちました、イエーイ」
「なっ、良く勝てましたわね。お相手は山田先生でしたの?」
「いや、二年担任の榊原先生っていってた。でもなんで山田先生?」
「一夏さんのお相手も山田先生でしたのよ」
「勝ったの?」
「ええ、あの時の驚きましたわ、てっきりわたくしだけかと思ってましたので」
そこでしっかり自分も勝っている辺り流石である。
試験スタイルは一定のダメージを与えたら勝ちというライフ戦。
この機密だらけの学園の教師が相手、技量も相当だろうし動かして二週間のペーがまともにやれば勝ち目は薄めと見た。
ならば先手必勝! と瞬時加速といかないまでもシールドを構え被弾覚悟で真正面ハイブースト、虚を突かれた先生に身体ごとぶつかり「その綺麗な顔吹っ飛ばしてやるぜ!」とばりにアサルトライフルを顔面にしこたま撃ち込んでwinner。
俗に言う不意討ちである。
「でだ。勝ったは良いけど、何故かいきなり未婚の男知らない? って言われたんだよね。あれは何だったんだろう?」
「さぁ、わたくしに言われましても」
知りませんと答えると榊原先生は青い顔で「お見合い………破綻………うぁぁぁ」と呻いていた、本当に何だったんだ。
「ふふっ」
「なに?」
「いえ、あの約束が果たされる日が、こうも早く訪れると思わなかったので。まさか昨日今日で動かして見せるとは思いませんでしたわ。正直言いますと、一夏さんがISを動かしたと聞いた時以上に驚きましたわ」
危うくモーニングティーを吹き出しそうになりました、どこか虚ろな目でセシリアは言った。俺は悪くないだろうが、申し訳ない。
しかしだな、それについては俺が一番驚いている。
セシリアの言葉を借りるが、決意を誓いあった昨日今日で動かして見せるなど、アニメもラノベも真っ青な超展開だ。
「わたくしとしては明日にでも行いたいところてすが。まだ操作に慣れていないでしょう。それに疾風は男性適合者ですし、専用機が支給されるのでしょう?」
「ああ、支給つってもウチで出るんだけどさ。ホラ、前の打鉄のコア。あれを初期化して作るんだってさ」
「企業の。それはいつ頃ですの?」
「予定では三日後」
「では、諸々の準備を含めて、一週間後に
執り行うというのはどうでしょう」
「いいよ、流石に乗りなれてない機体で一発本番ってのは博打過ぎるわな」
「あら、一夏さんはその博打で初陣に挑んで、勝ち一歩手前まで行きましたわよ」
マジ? 流石ブリュンヒルデの弟。基本スペックも折り紙つきですか。
全くなんだよ、顔も良くてISもお手の物って。天は二物を与えないと言うが、あれは絶対に嘘だと断言するよ俺は。
「そこで一つ提案があります。小さい頃に良くやった賭け事、覚えていまして?」
「賭け事って、あれか? 負けた方が勝った方の言うことを聞くってやつ」
「ええ、あの頃は楽しかったですわね」
「ソウデスネー」
そうだな、楽しかったろうな、お前は。
一つ言うと、(幼少の)セシリアとの勝負で、俺は勝ったことがない。
こいつは小さいときからの才女、かつ底無しの努力家気質故にポテンシャルが大層お高い。何処か気弱だった当初の俺は度々(強引に)勝負を引っかけられては負け、言うことを聞く、そして負けて言うことを聞くの繰り返しだった。無限ループって怖いね。
「セシリア、この歳であんまそう言うこと言わない方が良いぜ?」
「何故ですの?」
「そりゃお前。俺だって一応青少年ですし?」
「知ってますわよ」
「いや、そうじゃなくて………ああもう良いよ。分かった、受ける。受けますよその勝負」
お嬢様キャラなだけに一歩間違えたらウス=異本案件だというのを気づいてないのか、それとも無知なのか。
俺は一瞬でもそんな事を考えた自身の思考を強制的に排除する。排除出来るとは言っていない。
「決まりですわね。勝ったら何をお願いしようかしら」
「おいおい、初っ端から勝ちムードとは余裕じゃないか。こっちも負ける気はないし、窮鼠猫を噛むにならないように気を付けろよ」
「望むところです、代表候補生の名が伊達ではないことを思い知らせてやりますわ」
その後は適当に雑談を広げ、暗くなってきたので屋上を後にする。
一週間後か、うん負けられない。アリーナの申請は通ったから明日からISの特訓、そして情報収集に勤しむとしよう。
もう負けっぱなしの俺ではないという事を、目の前のお嬢様に分からせなければならないからな。
あ、そういえば。
「此処に来る前に筆記テストをしたのだが。入学テストと同じ内容らしくて、結果は三位だったのよ。一位と二位って誰だか知ってる?」
「二位は四組の日本代表候補生と聞いていますわ」
「一位は?」
「わたくしです」
「お前かよ!」
ーーーーー
「1020…1023…1026、ここか」
途中ですれ違う同級生に軽く挨拶をしながらたどり着いた学生寮の一室。全寮制が義務付けられたIS学園、今日から此処が俺のねぐらになる。
放課後に織斑先生から渡された鍵は間違いなくこの部屋だ。セオリーから考えて同居人は同じ男である織斑一夏なのだろうけど、違ったら俺は女子と同棲生活をしなければならない。
「………………」
うん、覚悟はしていた。男女比1:99のこのIS学園だ、そうなる事は頭では理解している。
だがこの彼女いない歴=年齢のDT野郎が初対面女子との生活なぞ出来るのだろうか、前の高校ではそれなりに交流のある女子は居たが同棲となると話が違う。
「いや、うだうだ言ってても仕様がない。とりあえず入ろう」
考えたら即実行、ドア横のインターホンを押す。鍵は持っているが、行きなり開けてキャーサノバビッチーってなったら裁判問題待ったなし。
ガチャりと鍵が開く音、心拍数を引き上げながら開けられるドアを凝視する。
「よう、いらっしゃい」
出てきたのは間違いなく男の織斑だった。織斑先生の男装ではない。
「お、織斑? が、同居人?」
「おう、千冬姉から話は聞いてる。荷物も届いてるぞ」
「………………ふーーー!」
よし、第一関門突破。俺の平穏なる学園生活はとりあえず約束された。
「ど、どうした?」
「いや、同居人が男で良かったと思ってな」
「ああー、分かるぞその気持ち。とりあえず入れよ、此処に居たら目立つから」
「目立つ」
チラッと横目で見ると、何時からなのか、ドアを開けてヒョコっと顔を覗かせる女子がズラーーっと、ナズェミテルンディス。
「織斑くんのとこにレーデルハイトくんが」
「これは妄想が捗りますな」
「夏コミはこれで行くか」
「腐腐腐」
「腐腐腐」
「………………」
誰かナウシカさん呼んできてくれ。
「お邪魔致しま、うわすっご何これ」
学生寮にまでお金かけてるのかと思われる程の内装の良さに目がしばしばする。この学園の生徒は他国から来る人も大勢いるから、文句言われないようにって感じだと思うけども、こんな高級ホテルの一室ばりに金をかけるのかIS学園よ。
税金か? 民から搾取した税金かコノヤロー。
「パネエな」
「ん?」
「いやなんでも。うおっ、パソコン標準装備かよ、豪華仕様過ぎる」
少し進むとベットがあり、横には送られた荷物であるスーツケースと段ボールが置かれていた。
「棚はこっち使って良いからな。シャワーとかはどうする? 決めとくか?」
「任せるよ、てか男同士だからそこまで気使わなくて大丈夫だろ」
「ああ、そっか。今までルームメイトが箒とシャルロットだったから」
「それって篠ノ之箒とフランス代表候補生?」
「よく知ってるな」
「まあね。てかお前女子と同居してたのかよ、スゲーな」
「そうか? まあ確かに気を使うとこもあったけど、馴れた」
織斑はぼふっとベッドに座り込む。
こいつは俺が来るまで女子と相部屋だったのか、スゲーなおい。
「間違いは犯さなかったんだな。ラッキースケベの一つや二つはあると思ったが。例えば風呂場でほぼ裸の同居人見たとか」
「そ、そんなことねえよ!?」
訂正、ラキスケ現場には遭遇した模様。よくもまあ、この女尊男卑の世の中で裁判にならなかったもんだ。示談か、あるいはよほど仲が良かったか。
早速荷解きをしていく、ISの資料集、お気に入りの雑誌、服やetcetc………後は。
「なんだそれ? 本?」
「うん、アーサー王伝説。知ってるよな?」
「確か結構有名なイギリスの王様の話だよな」
「間違っちゃいないな」
取り出した本の中で異彩を放つ英字の本。側の一部が削れてるのを見ると、結構古い代物だ。
アーサー王伝説、別名円卓物語。
英国生まれの子なら誰でも知っている有名著作品だ。イギリス在住時にある人物からこれを貰い、変わらず読見続けている愛読書である。
最近のゲームでは女性だったり増えたりコスモ! とかなっている王様。よく英国に怒られねえな。
「読むか」
「いや、遠慮しとく。それ全部英語だろ? 読める気がしねえ」
「それは残念」
荷解きも特に時間は掛からず、隣のベッドにぼふっと身を預ける。あ、これ油断したら寝ちゃう奴だ。
「そういや、セシリアとどっかに行ったみたいだけど。何しに行ったんだ?」
「なに、セシリアの事が気になるのか?」
「そんなんじゃねえよ、ただの興味本位」
ふむ、気はないのか。あいつルックスはトップクラスだからな、他にも可愛い子は居るって感じか? 世界各国から来てるからな。
「まあ積もる話をしたっていうか、後は約束の再確認かな。俺がISを動かせたら戦おうって」
「そうなのか。いつやるんだ?」
「一週間後、四日後に専用機が届くんだよ」
「セシリアは強いぞ」
「だろうな、あいつが弱いわけがねえ」
代表候補生になったのは最近だが、専用機を与えられてこのIS学園に来たのだ。半端な覚悟では瞬殺だろう。
「なあ、レーデルハイト。セシリアって決闘好きなのかな」
「んー?」
「俺、入学早々決闘申し込まれた」
「ぶはっ。マジで? なに言ったのお前」
「イギリスのこと馬鹿にしちまった」
「ああ、そりゃ駄目だ。シールドエネルギーゼロだわ、絶対防御も消し飛んだ」
「そ、そこまで?」
「あいつは根っこからの愛国者だからな。あいつにとってイギリスという国は自分やオルコット家と同等の物だ。それでどっちが勝ったのさ?」
「セシリア」
「頑張れよ男の子」
「しょうがないだろ、実質あれが初めての戦闘だったし、白式が送られてきたのも決闘の日だったんだぜ? 試合途中でファーストシフトしたぐらいだし」
そういいながら織斑は右腕につけている白い腕輪をつつく。
白式というのは専用機のことだろう、そしてその腕輪が待機形態ということか。
いつ見てもあの身の丈よりでかいアーマーがこんなちっこいアクセサリーに早変わりとは、量子変換様々と言ったところか。
しかし、目の前の男。まったく俺を警戒してないな。いや結構心配になるレベルだ、今すぐ白式を奪い取って対象を無力化しろってミッションがあったら実行できるぜ。
いや、仮にもあのブリュンヒルデの弟だ。能ある鷹は爪を隠す、こっちから仕掛けたら逆に無力化されましたってのもあるかも知れない。
「っと、もうこんな時間だ。飯食いに行こうぜ」
織斑につられて時計を見るともうすぐ食堂が開く時間になっていた。
「結構評判良いみたいだから、楽しみにしてたんだよね、実は」
「ああ、此処の学食は一味違うぜ?」
「お前が作った訳じゃないだろうに」
笑いながら部屋を出ていくとばったりと篠ノ之さんに出くわした。
「うおっ! 一夏!? と、レーデルハイトか」
「よう箒、お前も学食か?」
「ま、まあな」
「良かったら一緒に行こうぜ、疾風も良いだろ?」
「俺は構わないけど」
「そうか、そこまで言うなら一緒に行ってやろうじゃないか」
一夏の顔をチラチラと見る篠ノ之さんの頬が赤くなった。そんなに嬉しいのだろうか?
「じゃあ行こう、おっ?」
ポケットに入れていたスマホが揺れだした。相手はグレイ兄だった。
「悪い先行ってて、電話だ」
「おう、じゃあ後で」
「んーー」
「はい、もしもし」
「よう疾風、登校初日はどうだった?」
「モテ期が来ました」
「良かったじゃないか」
「なお直ぐに波は引くと予想」
織斑と俺では顔の偏差値が違う。
「ところでどうした? グレイ兄がかけてくるなんて珍しいじゃん」
「あー、まあそうか。えっとだな……専用機のことなんだけど」
ヒュッと背中に冷たいものを放り込まれた感覚が。心なしか指先が冷えてきた。
「な、なんかあったの?」
「そのだな、予定では四日後にそっちに送れるはずだったんだがな」
「………はい」
「遅れそうなんだ」
「ヴェ?」
イマナント?
「早く出来て10日後になるかもしれない」
「ほ?」
10日後、一週間は七日なので、実に三日遅れでございます、お疲れ様でした。
「へえそう。遅れそうなのねフーン………………………はぁぁああ!?」
特にトラブルもなしと思ったらそんなことはなかったぜ。