IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第40話【嵐の前触れ】

 

 

「ねー似合ってるこれ?」

「うん、良い感じ良い感じ」

「うう、なんか下のサイズが」

「私は上のサイズが……」

「やめなさいあんた二組はこの隣なのよ!?」

 

 学園祭まで早いことあと3日。

 

 @クルーズから服装が届いたので接客担当は試着してサイズ合わせ。

 メイド喫茶というと大体は萌えやニャンニャン的なのを想像すると思うが@クルーズの服装は古きよきメイド文化である正統派なメイド服となっている。

 

 接客担当の前には、オルコット家のメイドであるチェルシー・ブランケットがオルコット邸から持ち出した最高品質の食器類や調度品に目を白黒させていた。

 

「このテーブルとか、椅子とか。うわっ、ティーセットまで」

「幾らすんのこれ」

「下手に触れない……」

「もう、皆さん大袈裟ですわよ」

 

 と言いつつ、既にメイド服に着替えているセシリアはご満悦のご様子だった。

 

「ほんとありがとねセシリア」

「構いませんわシャルロットさん。皆様に喜んで貰えて凄く嬉しく思いますし。わざわざイギリスから持ってきた甲斐もあったというものです」

「しかしセシリア。あのメイドは何者だ? 明らかにただ者ではない雰囲気だったぞ。あれが本場のメイドというものなのか?」

 

 ラウラはチェルシーの圧倒的メイド力に謎の闘志を燃やしていた。

 

「うぅ、なんとも落ち着かないな、こういうヒラヒラした服は」

 

 周りの騒がしさをよそに何処か居心地と着心地の悪さに箒は身をよじる。 

 

「やはり裏方に回った方が良かったのか。いやいや駄目だ駄目だ! それでは一夏と一緒に仕事できないではないか! 気合いを入れろ篠ノ之箒!!」

 

 パンっと自身の頬を頬を叩き、チェルシーから貰った英国メイドマニュアル(日本語訳)をチェックする。

 参考程度の物だが。読まないよりは何かとためになる。

 

(笑顔……笑顔……出来るか私に。中学の職業体験で接客業をしたとき、顔の筋肉が完全に硬直し、笑顔を見せたら小さい子が泣いてしまったのを覚えている。そんな私にメイドが勤まるのか?)

「大丈夫か箒? 顔が真っ青だ」

「あらベルトの絞めすぎですの? 細く見せたい気持ちは分かりますけど無理をしたら元も子もありませんよ?」

「ふ、太ってなどいない!」

「誰もそんなこと言ってないよ箒」

 

 箒の百面相に皆が笑う中、シュンと自動ドアの圧縮空気が抜ける音が聞こえた。それと同時に何時もより騒がしい廊下の声も聞こえ、出てきた相川が声を上げた

 

「お待たせー、大本命連れてきたよー」

「待ってました!!」

「早く早く!!」

「はいはい慌てない慌てない。どうぞバトラー諸君!!」

 

 と、大袈裟なポーズをする相川さんの後ろで一夏は少し小さくなっていた。

 

「うぅ、何だか恥ずかしいな」

「今のうち慣れないと駄目だって。ほら早く進め」

「お、押すなって!」

 

 一夏の背中を無理矢理押して前に出る。

 盾にしてるつもりはないからな? あしからず。

 そろそろとドアから入ってきた男子二人の格好は何時もの白基調の制服とは対称的だった。

 

 白のシャツの上に黒の燕尾服を纏い、首もとからはスカーフが覗き、ズボンは黒一色。靴も黒の革靴を履いていた。

 その二人の燕尾服姿に、先程まで盛り上がっていた教室がシーンと、静まり返った。

 

「ど、どうだ皆? 似合うか?」

「駄目なら言ってくれ、全力で降りるからな」

 

 サイレントスペースとなった教室にいたたまれなくなった一夏は不安げに訪ねる。

 俺はというと特に本心を隠すことなく端的に言う。

 執事として男子は強制的に接客担当だ。

 裏方になりたかったが、これも宿命として受け入れるしかないか。

 

 あ、セシリア発見。

 え、目線をそらされた。何故? 

 

 何故か背後で自動ドアが閉まった音が鮮明に聞こえた次の瞬間。

 

「「「きゃああああぁぁぁぁ!!」」」

「「うおっ!?」」

 

 突如暴発したボイスボムが俺達の耳を壊しにかかった。

 

「あぁ! 駄目!! 目が蕩ける!!」

「優しそうな甘い顔の織斑執事!!」

「正統派な眼鏡装備のレーデルハイト執事!!」

「「「ああっ生きてて良かった!!!」」」

「そこまで言うのか!?」

「えーと、似合ってるって事でいいのか?」

「「「勿論ですとも!!」」」

「「お、おう……」」

 

 入学当初に織斑先生が教室に来たときに勝るとも劣らないアグレッシブな熱気に執事二人は完全に圧倒されていた。

 

 なんだ。一夏の影に隠れてしまうかと思ったけど。俺も案外捨てたものじゃないじゃないか。

 素直に、嬉しい。

 

「五月蝿いぞ小娘ども。廊下に響きまくりだ」

「あ、織斑先生!」

「すいません、二人の執事姿がなんとも凄くて」

「んん?」

 

 何時ものスーツに身を包んだ織斑先生が日誌を片手に俺と一夏を品定めした。

 

「ふむ、まだ服に着られてる感はあるが、悪くはないんじゃないか?」

「あ、ありがとう千冬ね」

 

 カツンっ! 

 相変わらず伝家の宝刀は良い音が出ますね。

 

「織斑先生だ。織斑、スカーフはもう少し出せ」

 

 織斑先生は日誌を脇に持ち、一夏のスカーフを直した。

 

「レーデルハイトは特に問題はないな。身嗜みはしっかりとな二人とも。じゃあ頑張れよ、恥かかない程度にな」

 

 ドアの向こうに颯爽と消えたクール教師こと織斑先生に男二人は呆然としていた。

 

「あの人に燕尾服着られたら、男として負ける気がする」

「姉だよな? 兄ではないよな、俺の姉は」

 

 原因不明の敗北感にうちひしがれる。

 あの人がもし男だったら、この学園はあの人を称える宗教国家になってたんじゃないか? 

 

「ま、まあ! 織斑先生がかっこいいのは万国共通としてだけだし。結構似合ってるよ」

「これは本番頑張るしかないでしょ!」

「舞台は整った! 後は失敗しないように練習だよ!」

 

 おーー! とクラス中が再び熱気に包まれた。

 

「い、一夏」

「おう箒。お前もメイド服に着替えたんだな」

「ま、まあな。私も接客担当だからな」

「大丈夫か? 顔ガッチガチだぞ?」

「う、五月蝿い……この仕事は投げ出すわけにはいかんのだ……」

「ん? なんか言ったか?」

「な、なんでもない!!」

 

 フンっときびすを返して皆との輪を離れ、メイドマニュアルを再び開いた。

 

「一夏さん、お似合いですよ。サイズも宜しいようですわね」

「ああ、ピッタリだよ。ありがとうなセシリア。セシリアはお嬢様だけど、メイド服も似合うんだな」

「あら、それは私が召し使いのほうが相応しいということかしら?」

「え!? いや、そういうわけでは!」

「うふふ、冗談ですわ。ありがとうございます一夏さん」

「な、なんだよ。たち悪いぞその冗談は」

「あらごめんなさい」

 

 優雅に笑うセシリアに対して、最近楯無にからかわれ三昧だった一夏はホッと溜飲が下った。

 

「俺にはなんかないのかよお嬢様」

「え? あーそうですわね。良いんじゃないでしょうか」

「何故目線をそらす?」

 

 俺が入ってからセシリアにずっと目線をそらされている。

 回り込んで視線に入ろうとするが俺が回るのに合わせて顔と体の向きを変えてくる。

 

 もしかしてこいつ素直に褒めるのが恥ずかしいのでは? これは面白いではないか。

 

「セシリアさん。お顔を見せてくださいよ。感想を聞きたいのですが」

「……」

「やあっ」

「ひぅ!」

 

 動きを予測して正面に回り込み肩を掴んで動けなくする。これで逃げられまい。

 

「どうですかお嬢様? わたくしめの姿はお眼鏡にかなっておいでですかな?」

「え、えーっと……」

 

 さあ言うがいい。今の俺は予想と違ってベタ褒めしてくれた皆の影響で気分が良い。

 しかし何故こいつは赤くなっているのか。まさか俺の執事服姿が予想以上に似合っているのか?

 

「こっ」 

「こっ?」

「コスプレみたいですわっ! まるでなってませんわね!」

「ごふぉ!」

 

 吐き捨てられた評価に俺の心は深々と抉れた。

 眼鏡執事、膝から崩れ落ちる。

 やべえ、ヤベーヤベー。胸が痛い、倦怠感が半端ない、目眩もする、頭がクラクラする。

 まずい、立てない。四つん這いから崩れないようにするのが精一杯だ。

 

 思ったより期待してた分ダメージが、エグい! 

 

「うぐっ、コスプレかぁ……」

「え、あの。疾風今のは」

「みなまで言うな。むしろ好都合だ。これで本番は一夏に客が集まるだろう。俺は楽できるってことさ、ハハッ……」

 

 笑おうとしたら空笑いが口から漏れた。

 大丈夫か、虹彩に光あるかい俺? 

 

「疾風、そんなに落ち込まなくても」

「そうだぞ疾風、セシリアの評価など気にするな。良く似合っている。メイドとしてはセシリアより先輩な私が言うんだ。間違いない」

「ありがとうシャルロット、ラウラ」

「一夏には負けるがな」

「デスヨネー」

「もう落ち込ませちゃ駄目でしょラウラ……た、確かに一夏のほうがカッコいいかもだけど……」

「オレハショセンコスプレバトラーサ、キラッ」

「うえっ!? 聞こえてた!? 疾風も! 疾風もちゃんとカッコいいからね!? ね!?」

 

 一夏には聞こえないであろう小声も俺のイヤーはしっかり捕獲していた。今だけ難聴になりたい。

 弱冠のキャラ崩壊にシャルロットは慌ててフォロー入れるも時既に遅し。燕尾服が白く見えるほど俺のテンションはロー状態だった。

 

「ちわーっす! 新聞部でーす! 取材に来ましたぁ!!」

 

 騒がしくも姦しくも入ってきたのは新聞部の副部長である黛薫子だった。今日もご自慢の一眼レフカメラの手入れは万全だ。

 

「準備期間の様子を撮ろうかなと思って、宜しいですか? ってうおぉ!? 所かしこもメイドだらけ! うひょー!」

 

 興奮冷めやらないながらもシャッターを切る事を忘れないあたり、流石新聞部のエースといったところだろうか。

 

「およよ? レーデルハイト君元気ないね? どしたのどしたの、お姉さんに話してみ? ん?」

 

 テシテシと肘で真っ白な俺をこずく黛先輩。

 IS学園きっての男子と言うことで良く写真を撮られている一夏と疾風にとって、今ではすっかり顔馴染みである。

 特に俺の場合学園の内情を知るということもあって、結構交流を深めているのだ。

 

「イエ、マア。ゲンジツトイウモノヲ、サイニンシキシタマデデス」

「わっかりやすいぐらい片言だね。何時もの得意の話術はどうしたのさ。ほらほら、元気出しなって! 私的には織斑執事よりレーデルハイト執事の方が良いと思うぞ?」

「お世辞はいいですヨ」

「お世辞じゃないってば。写真で宣伝したら絶対人気出るって! ササッ、早速宣伝用に取るからさ。ピシッとして!」

 

 宣伝用?と一同に首をかしげる。

 

「そうよー。学年唯一の男子がやる事となって学園内でもご奉仕喫茶は話題に上がってるからね」

「広告塔なら一夏のほうが良いでしょ」

「イヤー織斑君は日頃から撮りまくってるからインパクトが無いんだよね」

「そういうことなら」

 

 広告塔。クラスの為ならと、曲がっていた背筋をピシッと伸ばし、ずれかけた眼鏡を定位置に戻す。

 よし、活力が沸いてきた、辛うじて! 

 

「お、何時ものレーデルハイト君だ」

「クラスの為ですから。似合わない執事服だって頑張って着こなしてみせますよ」

「よーしじゃあメイドは誰にしようかなぁ。一組は写真の撮り甲斐があるからなぁ」

 

 いつでも全力をモットーにする黛先輩はカメラ片手にメイドの輪に入って一人一人物色していく。

 

「疾風、結構似合ってると思うぜ? なんか真面目だし、ドラマとかにも出てきそうだ」

「今ほどお前の優しさに泣きそうにならないことはない」

 

 だけど一夏が写真を撮るだったら何時ものメンツが我こそはと出刃っていただろうな。

 まあお前に言われてもって話でもあるけど。って、卑屈過ぎるぞ俺。直ぐにそんな考えを頭から取り払う。

 

 せっかく誉めてくれたのに、こんなことを考えてしまうとは。

 嫉妬? ひがんでいるというのだろうか。

 仕方ないじゃーん。一夏イケメンで俺はフツメンだもーん。

 

「んー、やっぱ並ぶなら金髪が映えるかな?」

 

 黛先輩はセシリアとシャルロットを並べて見定める。

 

「セシリア、一緒に写ってみたら?」

「え?」

「僕より似合ってるし、広告としてなら似合ってる人の方が良いでしょう? 疾風も良いよね?」

「まあ、セシリアが嫌じゃなければ」

「じゃあオルコットさんに決まりね、ササッ、二人とも並んで並んで」

 

 黛先輩に促されるまま二人は檀上に上がった。

 新聞部副部長としてはグリーンバックを使いたいところだが、それでは流石に他のクラスに不公平だし、アポなしということもあいまって電子ボードの前で収まった。

 

「よう、一夏じゃなくてコスプレ執事がきてやったゾ」

「悪かったですから」

 

 これ以上腐ったれてもセシリアが嫌な顔しちゃうのが目に見えるので首をふって気持ちを切り替える

 お互いの服装を入念にチェックする。先程の軽いいざこざなどは関係なしに行う。

 

「お前はさまになってるな。メイド服がドレスに見える」

「それ。前チェルシーに言ったことと同じですわよ?」

「そうだっけ?」

 

 これはミスったな。まあ別に嘘言ってないからいいでしょ。 

 

「ポーズどうしようか」

「ただ立つだけではワンパターン過ぎますしね」

 

 あれこれ模索し、クラスの意見を取り込みながら着々と撮影準備に入る。

 

「準備オッケー?」

「はい」

「いつでも」

「はい撮るよー。ハイ、マーガリン!」

 

 ウケ狙いですか? とクラス中の頭に浮かんだと同時にシャッターが切られる。

 

「どんな感じですか?」

「ばっちしオッケーよ! ほら見てみなって」

 

 カメラの液晶にはポーズを取った二人が写っていた。

 セシリアの方は胸に手を当て、柔らかい笑みを浮かべた優しそうなメイドという感じに。

 対して俺の方は手袋を直す仕草に、流し目という挑発的かつクールな執事をコンセプトに撮られていた。

 うわっ、我ながら格好つけてる。

 

「セシリアは思ったより良いな。お嬢様っぽさが表に出るかと思ったけど、可愛らしい感じになって」

「か、かわっ。ま、まあ疾風も存外悪くないのではなくて? 写真の中だけですけども」

「そうかぁ? 俺はやっぱ一夏のほうが良かったじゃないかって早速後悔してる」

「もう卑屈ですわね。もっと自信持っても良いでしょうに」

「ついさっきコスプレってバッサリ切ったやつの台詞とは思えんな」

「だからそれは」

 

 取り終えた途端に雰囲気が戻る俺達。

 我ながら大人げないと思うが、頭では分かっても胸の辺りがムカムカする。

 

「いやー! 御曹司とお嬢様のご奉仕スタイル良いわね! これは良い見出しになりそう! ご協力ありがとうございました! 近々乗るからIS学園新聞宜しくね! 二人には今度写真現像しとくから! それではサラダバー!!」

 

 険悪な雰囲気を感じ取ったのか、黛は自棄に元気のある声を出した後に足早に教室から出ていった。

 

「よ、よし! じゃあ接客の練習をしよう! 裏方と厨房係はお客様役で。後四日だし、出来るだけ形にしていこう!」

「おおー!」

 

 服装も変わって心機一転、この日はテンションの上がりようもあって空がオレンジから紫に変わるまでつづいていった。

 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「疾風様、ぴゃっ!?」

「うわビックリした。って菖蒲か、どうした」

「いえ、その。疾風様が凛々しすぎて」

 

 宣伝として部屋まで執事服のままで! とクラスの皆に言われたので言われた通りクラスから出たら菖蒲と鉢合わせた。

 ついでに言うと一夏の方は早速黄色い歓声+ラバーズ包囲網に見舞われている。

 

「どうかな?」

「どうかなって。似合ってるに決まってるじゃないですか!」

「そ、そう」

「ええ。理性抑えてないとお屋敷に連行してしまうぐらいに」

 

 べた褒めしてくれてるけど。なんかここまでくると喜びづらい反応だな。

 菖蒲なんか呪われし右腕がぁ! ってばりに自分の腕抑えてるし。

 

「ところで二組は中華喫茶だったな」

「はい。接客ではチャイナ服を着るのですよ」

「菖蒲も着るのか?」

「え?」

 

 あ、やべ。これセクハラ判定入るんじゃね? 

 

「すまん。今のは自然と出たというか意図して言ったわけでは」

「菖蒲に着て欲しいのですか?」

「え、いや。そのへんは菖蒲に任せるよ」

「分かりました!」

 

 言うが早し菖蒲は二組の教室に戻っていった。

 

「鈴様、折り入って相談が!」

「うおっとぉ! ちょ、勢い、勢いが凄いんだけどこの子!」

「徳川さんってたまにアグレッシブになるよね」

「振り幅極端で草」

 

 ……俺の責任ではないよな。

 俺は全力で現実から目をそらした。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

「ふいー」

 

 クローゼットに執事服をしまった俺は自室のベッドに身を預けてボーッとしていた。

 この後ISに乗ろうと思ったけど疲労からの倦怠感が半端なくてこのままベッドと同化しそうだからやめた。

 午前授業でたっぷり乗ったから発作は起きないだろう。

 

 スマホのフォルダを開くとメイド服を着たセシリアの写真が表示された。

 

 ドレスに見えた。嘘偽りない感想だ。チェルシーさんと被ったのは失敗だったが。

 だがメイドさんだと見たらキッチリメイドさんなのだ。

 

「コスプレ執事とは格が違うのですよー」

 

 自虐的に呟きながらスライドして写真をずらしていく。

 

「あ」

 

 何気なく動かしてると、夏休みにイギリスのパーティーで着飾ったセシリアが画面一杯に広がる。

 

 画面に写る彼女に思わず見惚れた。

 スパンコールを散りばめた煌めく黒のドレスに、彼女のブロンドが際立ち、大きく開かれた胸元は年不相応の妖艶な魅力を引き立てている。

 

「……あー」

 

 何故か顔に熱が差し、画面から目を離す。

 最近の俺は何処かおかしい。

 ふと気づくとセシリアが視界にいる……気がする。

 

 夏休み明けになってから皆に『セシリアとなんかあったか?』『セシリアに優しくなったね』と言われる。

『セシリアと付き合っているのか?』と聞かれたときは度肝を抜かれた。

 

 全くの誤解である。彼女とはそういう関係ではないと2学期から何回言われただろうか、黛先輩からも出会い頭に聞かれたので丁重に否定したのだ。

 

 セシリアにとっても迷惑だろう。こんな俺と並ばれるなんて。

 あいつはそんなの気にしないなんて言ってたけど。意味は違えど。

 ……まただ、胸がチリチリと疼く。

 

 セシリアが一夏と親しげにしているのを見た時もチリチリと疼いたことがあった。

 

 何故? 

 もっとも有力で仮説を立てようとした俺が居たが即座に切り捨ててやった。

 しかし他の仮説を立ててもこれではないと頭が拒絶してしまう。

 俺はあいつをどう思ってるんだろう。

 

 ピンポーン。

 

 ぼんやりとしていた頭がインターホンの音によって覚醒する。

 カメラの画面を見ると噂をすればセシリアだった。

 ドアを開けてやるとセシリアはピクっとした。

 

「どうした?」

「あの、今布仏先輩は」

「いないけど」

「そうですか……」

 

 顔をうつむかせて黙ってしまったセシリアを辛抱強く待っていると。

 

「放課後のこと謝ろうと思いまして。ごめんなさい」

「ああー別にいいよ。俺もガキだった」

 

 謝ってくれたセシリアに対して自然と言葉が出た。

 さっきふて腐れてた癖にこの有り様である。現金だな俺も。

 

「話はそれだけか? わざわざすまんな」

「いえ、あの」

「じゃ、また明日」

「ま、待って!」

 

 セシリアの白魚のような手が俺の手を掴んだ。

 俺より体温の低い手は冷たさを感じたが一瞬で体が暑くなった気がした。

 

「な、なに?」

「その……」

「うん」

「……似合ってましたから」

「へ?」

「執事の格好、似合ってましたから!」

「へ!?」

 

 すっとんきょうな声が出た。俺の腕を掴んでいたセシリアの手も顔も熱を帯びてきていて……

 

「~~~っ! また明日!!」

 

 振り払った手をバタつかせながらセシリアは優雅さが少し欠けた状態で走り去っていった。

 

「……あーー」

 

 目を抑えた。

 

「それは反則だよお前」

 

 ポツリと呟いた。

 頬が熱い。やっぱ現金すぎる俺。

 

「セシリアちゃん、やるわね」

「そうですね」

「うぇい!?」

 

 ドアの後ろから声がした。

 覗いてみるとちんまりと隠れていた会長と虚先輩がそこにいた。

 

「いつから」

「私も薫子ちゃんに見せて貰ったけどなかなか様になってるじゃない?」

「大変お似合いですよ」

 

 グハァ! 

 

 誤魔化そうとISに乗りに行こうとしたが会長がわざわざ来たということは逃れるという選択肢自体が消えたということを意味するので早々に諦めることにした。

 

「虚ちゃん、紅茶お願い」

「かしこまりました」

 

 席につくなり会長は黒い箱のような物を取り出し、箱についてるスイッチを押した。

 

「うん、大丈夫そうね。何時仕掛けられてるのかも分からないし。こういうのはたまに持ち歩くと便利よね」

「それ盗聴機探知機ってやつですか? 穏やかじゃないですね」

「まあね、お姉さんにしては珍しくシリアスな話をしようと思ってね」

 

 コミカルな自覚あったんですね。

 会長が持ってきた市松模様のクッキーをつまんで頬張る。

 

「【亡国機業(ファントム・タスク)】。名前くらいは知ってるわよね?」

 

 突発的に出たワードに思わず掴んでいたクッキーを落としそうになった。

 

「知ってますけど。何故その名前が?」

「家の家系って色々顔が聞くのよ。それでね、IS学園周辺の街で亡国機業の構成員らしき人物をマークしたの」

「え、つまりテロリストがこの近くに」

「いる可能性もあるわね」

 

 ブルっと体が震えた。世界の裏で騒がれ、各国のISを強奪せんとしているテロ組織が自分達の近辺にいるのだ。

 

「奴等は此処を?」

「分からない。だけど可能性は十二分にあるわ。此処には大量のISのコアが保管されている。軍事基地に比べてここは隙が多いし正に宝島なのよね。国際IS委員会の後ろ楯と初代ブリュンヒルデという者があるとはいえ絶対に安全というわけではないもの」

「でも今まで此処を襲撃されたことなんてないでしょう?」

「これは箝口令がしかれたことなんだけど。IS学園は四月のクラス対抗戦の時にISの襲撃を受けてるの」

「マジすか?」

「マジよ」

 

 会長の言った通りここは絶対ではないということか。

 

「そして近いうちに学園祭がある」

「外部からの一般客を装った構成員が出入りする可能性が高いと」

「その通りよ。それに今回は貴方と一夏くん。男性IS操縦者という最高峰の獲物がいる。訓練機や警備機体のISのコアをISから引き抜くよりも貴方達をISごと強奪する方が利点も大きい。だから学園祭中は生徒会、風紀委員、教師の方々には学園の警備と不審者に対する注意を呼び掛けておくわ。勿論貴方にも動いてもらう。いざという時はISの使用も許可します」

 

 IS使用。それはテロリスト共がISを使用する可能性があるということ。あんな人が集まるところでそんなものが使われたらと思うと心臓が鷲掴みされたような圧迫感が襲ってくる。

 

「一夏にこのことは?」

「話したわ。亡国企業の名前を出してもピンと来てなかったみたいだけど」

「それはそうでしょう。一夏は企業所属じゃないから俺みたいに注意勧告は受けてないでしょうし」

「そうね。本当ならこんな厄介事は侵入されるという可能性すらも排除しなきゃいけないのにね。我ながら情けないわ」

 

 会長は一瞬悲しげな笑みを浮かべた後、キリッと強い意思を持った目をした。

 

「だけど貴方と一夏くん。そしてこの学園の生徒達は必ず守って見せるわ。IS学園生徒会長、そして更識楯無の名に懸けてね」

 

 覚悟と責務。普段の道化師のような人とは同一人物とは思えない風格か楯無会長の表情を見て感じ取れた。

 強い人だ、改めてそう思う程に。

 

「俺も微力ながら手伝います。こいつはその為に使うべきだと思っています」

 

 俺は胸元につけているイーグルのバッジを撫でた。

 

「ありがとう。心強いわね」

 

 楯無会長は安心したかのように虚先輩が入れてくれた紅茶を飲んだ。

 

 何も起きずただ平凡に過ごす。それは万人が望むことであり。それが日常というもの。

 しかしこの激動の時代、それを望まぬ者がいる。

 

 嵐は、すぐそこに。

 

 

 

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