IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第41話【至極贅沢な不満】

 

 待ちに待った学園祭。

 早朝の開会式を皮切りに生徒のテンションは正にとどまる事を知らず、

 ある生徒は自由に学園祭を堪能し、ある生徒は各々のクラスの出し物や模擬店等に忙しくも楽しい一時を過ごしている事だろう。

 大いに結構、存分に青春を謳歌するがいい。

 

 俺も謳歌したい。

 

「ほんとどうしてこうなった………?」

 

 周りに気付かれないように体に溜まった何かを吐き出すために思いっきり息を吐いた。

 執事たるものいつでも優雅たれ。疲れの表情など出してはならない。

 

 こうなってしまった原因は二つ。

 

 先ず一つ目。

 

「はーい! こちら二時間待ちとなっておりまーす!」

「ええ、大丈夫です。学園祭が終わるまでは開店してますから」

「織斑君ご指名です! 四番テーブル! 執事にご褒美セットで!」

「お待たせ致しました。湖畔に響くナイチンゲールのセットでございます」

 

 人、人、人! 

 

 テレビで何処かの穴場飲食店を紹介された後に並ぶ行列も真っ青な行列がご奉仕喫茶を経営している一年一組の前に並んでいる。

 どうやら前に学園新聞に乗った俺とセシリアの写真。そして後に撮った俺と一夏のダブル執事の写真が、ものの見事学園女子のはーとを撃ち抜いたらしい。

 

 見出しは【あの有名企業出身の御曹司とお嬢様が、貴方にご奉仕致します】【世界でただ二人の男性IS操縦者が貴方を夢の時間にご招待】

 長い長い見出しに引かれ、校内の女子達はこぞってこの一年一組のご奉仕喫茶に集まっているのだ。

 

 まあ予想は付いたさ、他とは違うオンリーワン。いやここはオンリーツー? オンリーじゃねーなおい。

 

 そして、二つ目。

 俺にとってこれが本命だ。

 

「レーデルハイト君! 一番テーブルお願いしまーす」

「かしこまりました」

「その次に六番テーブル! 執事がご褒美セット!」

「かしこまりましたぁー!」

「二番テーブル、レーデルハイト君指名入りました!」

「へいよろこんで! (かしこまりました!)」

「疾風! 逆、逆!」

 

 おかしいな。レーデルハイトって一人しかいないと思うんだけど。

 明らかに一人に対する注文量じゃない気がする。

 

「織斑君とレーデルハイト君が執事でご奉仕だって!」

「どっち指名する! 私はレーデルハイト君かな!」

 

 織斑もいるよ。織斑もいるから。

 あっちの方がイケメンだから! 

 

「だよね! 織斑君も凄く良いけど、あの新聞に写っていたレーデルハイト君はガチ執事って感じ!」

「あたしはあの写真でやられた、手袋直しの流し目とか、最高」

「眼鏡真面目系の執事とかアニメみたいじゃん!」

 

 そんなことないんじゃないかな。

 少なくとも俺の中の執事イメージはダンディーなおじさまなのだが。

 

 まあ、とりあえず言わせて貰おう。

 

「どうしてこうなった!?」

「レーデルハイト君! 七番テーブルお願いします!」

「はいただいま!(ド畜生!)」

 

 幻覚か幻聴か。いやこれは現実である。

 何故か、何故か一夏執事よりレーデルハイト執事のほうが指名率が高い気がするのですが。

 俺の理想は、一夏執事に客がより。俺はゆるりと物好きなお客様を相手に『ああ、やっぱ一夏はモテるんだなぁ』と、半ば高みの見物ばりに笑っていたのだが。現実は真逆であった。

 

 勿論一夏も人気だ。だが比率的には俺6の一夏4。数字は僅差ではあるものの、そんなこたぁないわけで! 

 逆にメイド勢が若干お暇する時間が作れるほどの始末。

 

 まさかあの流し目と手袋クイっ、がここまで効果を発揮してしまうとは。

 地味キャラ=真面目キャラが通ってしまったとは。

 

 そのお蔭でここはメイドと執事のご奉仕喫茶の筈なのに、完全に執事主体、メイドはおまけのご奉仕喫茶になってしまっている。

 

 俺にも遂にモテ期が? こんな忙しくて息のつまるモテ期いらぬわ! 

 贅沢を言うな? バカ野郎! この忙しさを見て言え! 

 現に教室の外は最後が見えないくらい並んでるから! 

 一夏にいけ! お願いしますから! あっちはイケボだから! 

 

「疾風!」

「はいなんでしょう、シャルロット執事」

「い、今はメイドだよ!? いや、これからも出きれば執事よりメイドが良いけど。じゃなくて、少し休憩いれたら?」

「きゅきゅきゅ休憩? なにそれ、美味しいの?」

「疾風、一旦深呼吸しよ。目が凄いよ」

「ヒッヒフー!」

 

 脳に酸素がいかなすぎてハイになった頭で受け答えしてしまった為か、受け答えが謎めいてしまった。

 

「………ふう」

「落ち着いた?」

「ああ、ありがとう。で、休憩? 今抜けて大丈夫か? 俺目当てのお客さんもいるんだろう?」

「そこは一夏に頑張ってもらうから。少しぐらいだったら大丈夫、その間に息整えておいて。じゃないと最後までもたないよ」

「じゃ、じゃあありがたく」

 

 正直息も絶え絶え、喉と唇も声を発しすぎてカラッカラだ。

 休憩入ると受付に伝えた後、燕尾服を脱いで、各クラスの休憩室兼備品倉庫に使われている空き教室に向かう。

 

「あれ、疾風じゃない。何処行くの?」

 

 聞き覚えのある声に顔を向けると鈴の姿が。最近ご奉仕喫茶の準備で会っていない気がするので酷く懐かしく感じたのは疲労が溜まっている事も関係しているに違いない。

 

「何処って、休憩だよ」

「早くない? まだ学園祭始まって一時間しかたってないわよ?」

「それならそっちもだろ? 二組は中華喫茶だったよな。忙しくないのか?」

「あんたのとこに客取られて暇なのよ、隣のクラスというお零れが無かったら完全に過疎状態なのよ。実際開店から30分ぐらいはそうだったわ。だから急遽ビラ配りして、今終わって休憩ってわけよ」

「さいですか」

 

 お前も休憩じゃないか、とは言わなかった。うちが繁盛したお陰でやらなくてもいいことをさせてしまったのだと思うと少し申し訳なく感じる。

 しかしこれは一等の金一封もかけている大勝負なので、敢えて謝らなかった。おそらく勝ち気な鈴もそれを望んではいないだろう。

 

「しっかしまぁ………」

「なによ?」

「露出面積すげえな………」

「あら、悩殺された?」

「答えに困るからやめて」

 

 目線より下にある鈴を下からゆっくりと品定めして言い放つ。

 鈴の服装は赤に金色の刺繍が入ったチャイナドレス、それもかなり大胆にスリット入っており、ジャンプしたら下着なんか丸見えになるであろう代物である。

 あと背中がほぼ丸見えなのがなんとも………。

 

 そして鈴のトレード・マークであるツインテールはお団子ヘアーに変わっていた。なんか布で纏まってるけど。名前なんだっけ。

 

 しかし流石は度胸があるというが、こんな一般客もちらほらと居るなかでも全く恥じらいというものが感じられない。

 

「なによ、服装なんて生徒会でも把握済でしょう?」

「いや、最終的な確認とかは全部会長がやるから。まあ、似合ってるから良いけどさ」

 

 多分面白半分に採用したんだろうなぁ。大丈夫かな、時折通る男性客がチラチラと鈴のチャイナドレスに目配せしているのだ。

 

 ………ん? 待てよ? 

 

「おい、まさか菖蒲も着てるんじゃないだろうな?」

「あら? 気になる?」

「別にそんなんじゃないって」

 

 あの和風で清楚なイメージである菖蒲が、こんな肌の見える服に着替えてご奉仕等するのであろうか? 

 いつの日かチャイナ服を着てほしいかと聞かれたの。思い出した。

 常に着物姿というなの制服を着ている彼女のチャイナドレス姿を想像するのは、並大抵な事ではなかった。

 

「気になるなら中華喫茶に来なさいよ」

「か、考えとく」

「ふふん、じゃあねー」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かばせながら鈴は遠ざかっていった。多分うちのご奉仕喫茶であろう。

 

「あ、レーデルハイト君だ!」

 

 ヤバッ、逃げろ! 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 小休憩、飲み物。甘いものを取って戦線復帰した。

 やはり甘いものはいい、チョコレートはいい。明日への活力となる。

 

「戻りました」

「なにすんだよ!?」

「こっちの台詞よ!」

 

 はいはいなんだなんだ? 

 見ると尻餅ついてる一夏執事とフーフーと猫のように怒ってる鈴の姿が。

 

「なにがあったラウラ」

「鈴が一夏にビンタした」

 

 把握。 

 

「おいおい、なにした一夏。お嬢様、この唐変木うすら馬鹿が何か失礼を?」

「失礼だなお前」

「え、いやその」

「大変失礼致しました、こちらの執事には厳しく言っておきますので、どうかお納めください」

「う、うん」

 

 仲裁を加えられ暑くなった頭がクールダウンしていく鈴。

 あれ、思ったより手応えがないな。

 

「お嬢様、他にご注文は御座いますでしょうか?」

「い、いいわ、今回は帰る。中華喫茶に戻らないと」

 

 周りの空気もあり、鈴はこれ以上此処には居づらかった。

 

「かしこまりました、またのご来店をお待ちしております」

「お、お待ちしております」

「う、うん………えと、一夏」

「な、なんでしょうか?」

「………………楽しかったから、頑張りなさいよ。後、行きなり叩いて、ごめん……ね」

「………お、おう」

「なによ」

「いや、鈴から素直に謝ってもらうとは思わなかったから」

 

 お前は………今言うことじゃないだろう。

 言いたい気持ちはわかるけど。わかるけど! 

 

「大丈夫か、鈴? 顔赤いけど」

「う、うるさい! とにかくそれだけよ! っ~~! じゃ、じゃあね!」

 

 鈴はそそくさと入り口でお金を払って隣の一年二組に潜り込んだ。

 

「で、何をしたんだお前は?」

「いや、叩かれるような事はしてない気がするんだがな、ただ」

「ただ?」

「ポッキー食べてる時の鈴がリスみたいで可愛いなと、言ったら首に………」

「お前はまた、そうやって」

 

 眉間をおさえて溜め息吐く疾風。

 

「これだから無自覚ジゴロは………」

「え、なんだって?」

「お前ほんっと耳悪いよな、耳鼻科行け」

「突然の罵倒!?」

「耳鼻科行け」

「いや聞こえたからな?」

 

 あ? あんだってー? 

 

「織斑君、レーデルハイト君」

「ん? 鷹月さん、どうかした?」

「その………三番テーブルに使命入ったのよ、二人共」

「ダブルで? 接客はワンテーブルに一人だろ? ちゃんと事情説明しないと」

「そ、そうなんだけど………」

 

 鷹月さんは、ばつの悪そうな顔で三番テーブルに視線を移す。

 それにつられて俺と疾風は三番テーブルを見ると………

 

「やっほ~♪」

 

 そこには何故か、@クルーズのメイド服に着替えていた楯無さんの姿が。

 

「「………はぁ」」

 

 同時に溜め息を吐いたのは、もはや必然だった。

 

 

 

 

 

 

「はい、あーん」

「あーん」

「んー、良い食べっぷり。はい疾風君も、あーん」

「………あー」

「むぅ、こっちは勢い無いわね、はいもう一本と思わせて三本」

「もごぉ!?」

 

 一つのテーブルに陣どるメイドと執事二人、しかもメイドは仕切りに執事にポッキーをあげてる様は、何処か異様な雰囲気を放っていた。

 そして………

 

『………………』

 

 何故か鋭い視線が3本突き刺さってんだよなぁ。

 俺じゃない筈なのに圧が凄いなー、痛いなー。

 セシリアの方を見ると丁度目があった。反らされた。

 

「それで会長、何しに来たんですか?」

「暇だったから来ただけよ?」

「あの行列をですか?」

「買収したらするりと変わってくれたわ」

「さらりと言わないでくださいそういうこと」

「一体なにを使ったんですか?」

「知りたい?」

「「いやいいです」」

 

 どうせろくでもない物に決まっている。

 

「てか、そのメイド服どうしたんですか? ………もしかして」

「やあねえ、別に盗んだ訳じゃないからね? ちょっと借りただけよ」

「買収でですか?」

「ニパッ☆」

「はぁ………」

 

 ほんと、何を出汁に使ったんだろうか、もはや背筋が冷える。

 盗撮写真じゃねーだろうなぁ。そういや一夏争奪戦の発表の時も何気に盗撮ぽかったような。

 

「しっかし、大盛況ねぇ。流石校内に二人しかいない男を独り占めしてるだけはあるわね」

「学園外からのお客様も多いんですよ」

「それはそうよ、二人は今のこの世界ではトップクラスの有名人なんだから。よ、人気者!」

「止めてくださいよ。最近、自覚はしてきてるんですけど。どうにも実感が沸かなくて」

「沸かないと駄目だろ、お前は只でさえ警戒心無いんだから。ましては今日は外部の人も来てる、平和ボケし過ぎんなよ」

「わ、わかってるよ」

 

 ばつの悪そうに目線をそらす一夏を尻目にメイド達に接客されているお客さんを見た。

 

 男性でありながらISを動かした存在が此処に居る。どうしても警備が緩んでしまうこの日は敵にしては絶好の好機に他ならない。

 もしかしたら、このお客の中にテロリストがいる可能性も

 

 ゾッと背中に氷水を流し込まれかのような虚脱感が襲った。

 それと同時に、居るかも分からないテロリストに蹂躙される学園のビジョンが浮かんだ。

 

「どうもー! 新聞部でーす! 話題のダブル執事の取材に来ましたぁ!」

 

 突如教室に飛び込んできたハイテンションの黛先輩の声に、深層に落ちていた意識が一気に浮上した。

 

「あ、薫子ちゃんだ。やっほー」

「わお! たっちゃんじゃん! メイド服も似合うわねー。てか何よ、一人で執事二人を総嘗め? もう罪な女ね、たっちゃんは!」

 

 言いながら既にシャッターを切り始めている。楯無さんに至っては「いえいっ!」とピースまでしている。俺も流れでピースサインを出してバッチリと撮影体制を取り、一夏も遅れながらもぎこちなくピースする。

 

「あれ、二人ともなんか元気ない?」

「え、いや、その」

「会長の無茶振りに疲弊してるところです」

「言うじゃない疾風君」

「あはは、まあ今に始まったことじゃないね! さて執事の写真を撮ろうかな。でもやっぱり女の子も写らないと駄目ね」

「私写ってるわよ?」

「たっちゃんはオーラ有りすぎて駄目だよー。ということで、他の子にも来てもらおうかな。専用機持ちあたりに」

「それいいわね。その間に私がお店のお手伝いするわ」

 

 完全に俺達の意見ガン無視なのですが、そこんとこ似てる気がするな、この二年生コンビは。

 

「はーい、専用機持ちのメイドさーん。執事と写真取るからこっち来てー」

 

(一夏と!?)

(写真!?)

(ツーショット!?)

 

 ギランと目を光らせたラバーズ3人は、驚くほど速やかに接客を済ませ、お客の迷惑にならない程度に、これまた驚くほど速やかに集合した。

 

「一夏! 私と写真取るぞ!」

「ぼ、僕も一夏とツーショット撮りたいな」

「馬鹿者、夫婦は何時でもセットというものだろう? ならば私とだ!」

「そんないっぺんに来ても無理だって、これじゃ集合撮影だよ」

 

 一気に詰め寄ってきた三人に一夏は慌てている。まるで誘蛾灯みたいだなお前。

 奉仕喫茶でもルックスがズバ抜けている三人が一人の男に群がったことで心なしか男性客の顔が下を向いた気がするのは気のせいだよな? 

 

「一夏君って人気ね」

「そうですね。会長、案の定予想通り俺が蚊帳の外です。慰めてください」

「大丈夫大丈夫、貴方にはセシリアちゃんがいるわ」

「来てないんですけど」

「呼んでくるわね」

 

 スターっとセシリアのもとに行く会長はセシリアと少し話したあと接客を変わった。

 

「おう来たな」

「ごめんなさい。聞こえなかったもので」

「いや、あいつらのハイパーセンサー(耳)がやばいだけだから」

 

 渦中の一夏は雛鳥のようなラバーズの相手に四苦八苦している。

 

「お前ら、話進まないからそのへんにしとけ。どうせ一人ずつ撮るんだから」

「違うぞ疾風。あの新聞部はお前と一夏二枚ずつで撮りたいというらしい」

「なんでまた」

「疾風だけ一枚なのは格差だって」

 

 ………いらん気遣いだ。

 

 なんやかんや話は続き、俺が気にしないということでラバーズ三人は一夏と撮ることになった。

 

 

 

 

 ラウラが倒れた。

 

 一夏がラウラの顔が赤いから風邪かと思っておでこをコツンとしたら少佐どののキャパがオーバーしたらしい。

 やはり罪な男である。織斑一夏。

 

 シャルロットと箒は特に問題なくツーショットを撮り終えた。

 現在黛先輩に値段交渉している。 

 

 最後は俺とセシリアのペアだ。

 

「疾風、もっと笑顔をですね」

「してるだろ。みよ、この笑顔」

「仮面みたいですわよ………」

 

 笑顔がぎこちなくなってます。助けて。

 さっき表情筋フルで笑顔に費やしたからここで弊害が出てやがる。

 

「レーデルハイト君表情固いよー。営業スマイル見せて営業スマイルー」

「す、すいません」

「頼むよー。一応執事とメイドの人気ナンバーワンコンビなんだから。あ、そうだ腕絡ませてみようか、思いきって!」

「「はあっ!?」」

 

 黛先輩の突拍子もない提案に顔が更に引きつった。

 え、セシリアと密着するの? 

 マ? 

 

「行きなり何を言い出すんですか黛先輩! 執事とメイドですよ?」

「良いじゃない。執事とメイドの禁断の恋的なコンセプトで!」

「き、禁断の恋!?」

「あれ? 出来ない?」

「あ、あ、当たり前ですわ!」

 

 そうだぞ、言ってやれセシリア。あと使用人同士はそんな禁断でもないですよ。ブランケットご夫婦とか。

 そもそも広報なんだからみだりに接近する必要などないんだよ。

 一夏? あいつは別。

 

「そっかー、出来ないか。期待してたんだけどなー。ガッカリ」

「な、なんですの? その挑発的な流し目は………」

「まあ、出来ないなら仕様がないよね。はぁ~、出来ないなら~仕様がないね~」

「………」

 

 ギュム。

 

「………セシリアさん」

「なんですの?」

「何故腕を絡めてるんでしょうか?」

「……気紛れですわ」

「チョロすぎ」

「お黙り!」

 

 怒らないでください。いや怒ってもいいけど力入れないで。

 あたってるのよ? 

 

「良いね! ほれほれ、もっと笑顔笑顔!」

「ふふん、わたくしにかかればこれぐらい余裕ですわ」

「レーデルハイト君も」

「ニコッ!」

「怖いな笑顔が!」

「レーデルハイト君。もう真顔でいっちゃおう。執事的にはそれもいいかもしれないし」

「スンっ」

「真顔っ」

「ハイチーズ!」

 

 パシャリ。

 

 

 

 

「はい、皆ありがとうね。それにしても一組の子は写真映えしていいわ。撮る方としても楽しいわね」

「薫子ちゃん、あとで生徒会の方も宜しくね」

「もっちろん! この黛薫子にお任せあれ! じゃあ他の撮影もあるからもう行くね、サラダバー!」

 

 正に嵐の如く、エネルギーの固まりとも言える新聞部副部長はご奉仕喫茶から姿を消したのであった。

 

「セシリアさん」

「………」

「なんか言ってください」

「業務に戻ります」

 

 セシリアはお客様にスマイルを提供しにいった。

 頬が赤いのを待たずに行ったので男性客も釣られて赤くなった。

 照れるぐらいならくっつかなきゃ良かったのに。

 

「そうだ。一夏君、疾風君。私もうしばらくお手伝いするから、校内を見てきたら?」

「え? 良いんですか?」

「うん、良いわよ。おねーさんの優しさサービス」

「いや、でも。俺達二人がいなくなると」

「売上にも影響しますし」

「大丈夫よ。人も疎らになってきたし、私からもフォローしとくわ。ぶっちゃけ、少しくらい貴方達がいなくなっても。もうここの一位独走は揺るがないわよ、さっき校内をズラッと見てきたけど、もはや出来レースレベルよ」

 

 ズルいわね、男の子。と会長は何時もの笑顔で言う。

 

「それに、折角の学園祭よ? 仕事ばかりで終わるなんて勿体ないわ。だから、ここはお姉さんに任せて楽しんでらっしゃい」

 

 まあ、会長なら十分に人気もあるだろうし、お客さんも怒らないかな。美人だし

 

 現に周囲の老若男女が会長に熱い視線を送っている。

 

「じゃあちょっとお願いします」 

「うん。じゃあ行ってらっしゃーい」

 

 ヒラヒラと手を振る会長を最後に教室を出た。勿論燕尾服を着たままだ。

 これ笑われるかねー、あいつに。

 

「お?」

 

 ドンピシャのタイミングでポケットに入っていたスマホが着信が。表示すると『着いたぞ!』と学園ゲートの写真付きのメッセージが。

 

「ん? そいつは?」

「高校の友達。招待状だしたんだ」

「ふーん。あ、俺からも来てるわ。一緒に行くか?」

「俺ここらへん少し片付けてから行くから先に行っててくれ」

「わかった」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「さて、早く行かないとな」

 

 階段を一段飛ばしで降りていく。執事としてはお世辞にも行儀がいいとは言えないが、今は周りに人がいないから………

 

「ちょっといいですか?」

「おっとと?」

 

 と思ったら声をかけられた。それも階段の踊り場で。

 声をかけてきたのはスーツ姿の長髪の女性。しっかりとノリの付いたスーツはパリッと決まっている。

 

「何かご用でしょうか?」

「失礼しました。私、こういうものです」

 

 スーツの女性は手早く名刺を取り出して渡してくる。

 

「えっと、IS装備開発企業『みつるぎ』渉外(しょうがい)担当。巻紙礼子さん?」

「はい。織斑さんに是非わが社の装備を使って頂けないかと思いまして」

「はあ」

 

 またこういう話しか、と一夏は内心タメ息をついた。

 

 一夏がISを動かしてからというもの。国色問わず白式に装備提供を名乗り出てくる企業は後を絶たない。夏休みも半分以上をそういう人たちに会うのに費やしてしまったぐらいだ。

 断れば良いのだが。断りきれない企業は世界でも名を馳せている大企業の数々。

 会合の時は姉であり担任の千冬が同伴してくれたので、事なきを得ていたのだが。

 

 こうもこぞって群がるのは、世界でも希少な男性IS適合者の一夏が駆る白式に装備を使ってもらうのは予想以上に広告効果が高いらしい。

 特に白式の開発室である倉持技研が後付装備を開発できてないという事で各国企業は躍起になってアプローチしてくる。

 

 これには二人目の男性IS操縦者の疾風、第四世代型のISを持ち、篠ノ之束の妹である箒にも適用されるのだが。

 

 疾風は実家のレーデルハイト工業という世界的IS企業というこれ以上ないというぐらいの後ろ楯。

 箒に至っては、『紅椿は全領域に対応できる万能型なので、余計な物はいらん!』と束さんが絡んでいる性もあって断固拒否の体勢だ。

 一夏自身。断れる強い理由が欲しいものだが。

 

「あー、えっと。こういうのはちょっと。とりあえず学園側から許可を取ってからお願いします」

「そう言わずに! こちらの追加装甲や補助スラスターなどいかがでしょう? さらに今なら、脚部ブレードもついてきます!」

「いや、あの、結構で…」

「そこをなんとか!!」

 

 見た目とは裏腹にぐいぐいとアグレッシブに迫ってくる巻紙さん。どうしたものかと頭の中で考えるも、良い案が思い付かない。

 

「あの、本当にそういうのは…」

「お? 一夏? どうしたどうしたー?」

 

 やたらと間延びした声を発しながら、疾風が階段を下りて踊り場に降り立った。

 

「疾風」

「また勧誘か? 人気者だな一夏は」

 

 巻紙さんが突然現れた疾風に戸惑うなか、俺の手に持っていた名刺を疾風が奪い取った。

 

「ふむ。『みつるぎ』さんね。あれ? 今の『みつるぎ』さんに白式の追加装備発注できる余裕なんてありましたっけ? この前カナダのダブルアクションシステムの開発で切られましたよね?」

「貴方は」

「申し遅れました。自分、『レーデルハイト工業』専属テストパイロットの疾風・レーデルハイトと申します」

 

 取り出した名刺を巻紙さんに渡す疾風。一夏は何故かその一連の動作が巻紙さんより様になっているように見えた

 

「申し訳ございませんね。えっと、巻紙さん? こっちの一夏の白式の追加装備の案ですが。私のほうが先に相談に乗られてまして。今契約を結ぼうかと思いまして」

「なっ。そんな話、聞いたことは」

「まだ検討中ですけどね」

(え、え? そんな話してたっけ?)

 

 突然の展開に一夏の思考が重体した。

 

『合わせてくれ。悪いようにはしない』

『お、おう』

「そうだよな、一夏?」

「え、あ。まあ、そうなん、です」

「で、ですが。我が社の装備も」

「大変申し訳ないですが、そういう話は今後ご遠慮下さいませ。行くぞ一夏」

 

 なおも食い下がる巻紙さんをバッサリと切り捨てた疾風は俺の手を取って階段を下り走った。

 

「お、おお!? 手を引っ張るな! あぶねって! し、失礼しました!」

 

 一夏はチラッと後ろを見やると、巻紙礼子女史が忌々しそうにこちらを睨み付けていた。

 まるで、こちらを敵として見るかのように。

 

「ここまで来れば大丈夫だろ」

「ふぅ、ふぅ」

「どうした一夏。へばってんのか? 情けない」

「お前な………」

 

 そりゃ階段走り抜けたらこうもなる、踏み外しそうになりながらついてこれた事を褒めてほしい。

 

「ていうか、俺、レーデルハイト工業とそんな話してないよな?」

「しただろ?」

「いつ?」

「さっき」

「そういうことじゃないだろ」

「えーー」

 

 不満げにジト目で一夏を見る疾風。 

 

「あんな大々的に言って、噂になったらどうするんだよ」

「ん? なんか困ることあるか?」

 

 はて? と首をかしげる疾風に呆れる一夏はの前で彼はスラスラと続ける。

 

「もし噂になったら、それをほんとにしたらいいじゃん」

「はぁ?」

「一夏が受け入れれば、今まで以上に装備の幅も広がるかもしれないし、非常時にも色々手助け出来る、レーデルハイト工業というバックがあれば、今みたいな広告目的の奴らもぐっと少なくなるしな」

「疾風………」

 

 自分を守る為にホラを吹いてくれるとは。一夏は疾風の中に男気を感じた。

 

「それに、お前が入ればうちの評判爆上がりだしな!」

「おい!!」

 

 男気というなの幻影は直ぐに崩れ去った。

 清清しいくらいにこやかな笑顔をする疾風の前に一夏は体勢を崩した。

 

「結局お前もそれなのかよ!」

「当たり前! 男性IS操縦者二人を総ナメとかこれ以上無いほどの広告効果だろ。活かさない手はない!」

 

 目を輝かせながら拳を握り締める疾風は、さっきの巻紙以上の気迫を放っていた。

 

(企業の人間だ、ここに企業の人間がいる!)

 

 一夏は輝きを放つ疾風を前に思わず後ずさった。

 

「ということでいかがかな? わが社との契約を前向きに考えてくれるだろうか織斑一夏君!」

「か、勘弁してくれぇ!!」

「悪いようにはしないから!」

「信用ならん!!」

 

 企業戦士スイッチが入った疾風から逃げるように一夏は親友との待ち合わせ場所まで走った。

 

 

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