IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第42話【WELCOME IS学園】

 学園祭から一ヶ月前。とある民家の一室。

 

 疾風の中学時代からの友人である村上は。

 

「あばばばばば………」

 

 バグったように震え、スマホの画面を凝視していた。

 

 LINE画面に写された画像には『無事お付き合いすることになりました』という文面と。同じく中学からの友人である柴田が、隣ではにかむ彼女らしい女の子とツーショットを取っていた

 

 ピロンとLINEの通知が来た。

 

『村上のお陰で上手くいった。ほんとありかとな』

 

 善意100%のはずなのに村上は白目になった。

 「いえいえ良かったな。末長く爆発しろ」とお祝いの文面を送信した村上は。

 

「ちくしょうめぇー!」

 

 スマホをベッドに叩きつけた。

 叩きつけられたスマホはベッドを跳ねたあと、ポーンと放物線を描きフローリングにゴトッと鈍い音をたてて沈黙した。

 

「あいつっ!! うっうごぉぉぁぉおおお!!」

 

 ベッドにダイブして縦横無尽に転がりまくる姿は正に狂気そのもの。

 今の叫びは歓喜の叫びではない、いや、歓喜もほんの少しは混じってはいただろうが今は嫉妬の叫びという表現が適切であろう。

 

「おぉぉおおおお………お?」

 

 いつまで転がっていたのかは定かではないが、気付いたらスマホが鳴っていた。

 ブーと震えて僅かに動いているスマホを手に取ると画面には友人の名前が。

 

『お、もしもし』

「ゔぁやぁぁでぇぇえええ!!!」

 

 ブツッ………ツーツーツー………

 

「いや何で切れるんだよ!?」

 

 履歴から疾風の番号をタップして電話する。

 

「はい、もしもし」

「もしもし! 何で切った!」

「いや。間違って未確認動物(Unidentified Mysterious Animal)に繋がったのかと思って」

「あんでふぁ………なんだって?」

「すまん、お前の理解力を考慮してボケるべきだった。至らない俺を許してくれ」

「謝ってんのか、馬鹿にしてんのかどっちだ!」

「馬鹿にしてる」

「グハッ」

 

 相変わらず冴え渡るポイズン舌に村上の心は更に傷を負う。

 

「で、なに発狂してんだよ綺羅斗」

「ここぞとばかりに下の名前で呼ぶなこの野郎!」

 

 村上の名前である綺羅斗。文字通りキラキラネームというやつで。

 なんでも『お前の人生が綺羅綺羅と輝くように』と名付けられたらしい。因みに女の子だったら綺羅羅だったそうだ。

 この名前のせいで小中高ずっとからかわれっぱなし。なので親しい奴等(そうじゃない奴等にも)には名字呼びを徹底している。

 

「はいはい。どうした、一応聞いてやる」

「いやそれがさぁ!」

 

 カクカクシカジカシカクイムーブ。

 

「ほー。柴田の奴、彼女出来たんだ。前言ってた子か?」

「そうだよ」

「おめでたいじゃないか」

「おめでたいけど、おめでたくない!!」

「なんでや」

「俺達を差し置いて彼女作りやがってあの野郎! 俺達の結束はそんなものだったのか柴田ぁ!」

 

 男の友情は固いものだが。恋愛が絡めば容易く壊れやすいものなのだと村上は自負していた。

 

「はっ? お前応援してたじゃん」

「したとも!」

「色々助言したり、アドバイスとかもしたんだろう。役立ったかわからんけど」

「したよ! ちゃんと役立ったよ、多分!」

「なのになんでそんな」

「羨ましい!」

「素直だねぇ」

 

 疾風は半笑いしながら答えたが村上のボルテージは止まらない

 

「まさか本当に付き合うと思わなかったし? しかもその子可愛いし? 両想いっぽいし? これからデートとかしてイチャコラするんだろうな! そのままラブホに突入か? お盛んなこったな!」

「拗れてるなぁ」

「畜生! 柴田め。抜け駆けしやがって!」

「素直に祝福してやれよ」

「嫌だよ悔しいじゃん!」

「めんどくせぇ」

 

 男の嫉妬は理屈などではないのだ。

 女も以下同文。

 

「冷てえな疾風よぉ。なんでお前はそんなにクールなんだよ」

「言うてクールじゃないぞ、俺」

 

 少なくともISが絡むとホットだと言う疾風の言葉を聞くことなく村上は一つの疑念を抱いた。

 

「もしや」

「あん?」

「てめぇも彼女とか愛人とかハーレム王国とか築いてんじゃねぇだろぉなぁぁぁ!?」

「やめろ。どっから声だしてんだ。怖い、怖いからっ」

「だって女の園だろうがよぉぉぉぉ」

「そんなお気楽で楽しいもんじゃないぞ」

 

 何度も針のむしろとか男の人口が少ないとぼやいてはいるが彼の返答は羨ましいばかり。

 疾風はそんな思考になれる村上が少し羨ましかった。

 

「お前な、そんな言うなら彼女作る努力をしろよ」

「やってるよ、一昨日も街に繰り出したよ」

「結果は?」

「ナンパで五連敗、最後の最後には鼻で笑われたよ」

「ごしゅうしょうさまでーす」

「感情がこもってない! なんて薄情な奴だ、ハニトラにかかって人生消滅してしまえ!」

「冗談にならないこと言うのやめろ」

 

 クスンと男泣きをする村上を無視して疾風は一気に切り出した。

 

「なあ、そろそろ本題に入って良いですかね?」

「やだ! もっと俺の愚痴聞いてくれ!」

「切るぞ」

「すみませんどうぞお話し下さいませ」

 

 ドスのきいた低い声に村上の背筋がピーンと延びた

 

「徳川菖蒲って覚えてるか? 中一の時、病弱だった俺の友達がいただろ?」

「ああ、病院で寝たきりだった」

 

 名字が徳川であの徳川家康の子孫だった聞いた村上は結構印象深かった。

 中一の終わりに海外に行ってから音沙汰無しで、それ以来交流はないのだが。

 

「で? その子がどうしたのさ。手術成功したのか?」

「ああ、無事に成功。後遺症無しの万々歳だ」

「おお! それはめでてえじゃねえか。はー、そうか。良かったなぁ、うん」

「それでな、今日その菖蒲が日本の代表候補生になってIS学園に転校してきたんだよ」

「ほ、ほう。それはまたダイナミックだな」

 

 何はともあれ昔馴染みの手術は成功し、IS学園にも転校。元気にやっているならそれに越したことはない

 

「徳川さんにおめでとうって言っといてくれ、覚えてないだろうけど」

「いいけど、直接言えば?」

「いや、関係者以外は立ち入り禁止だろ?」

「それがそうじゃないんだよなぁ」

 

 何処か勿体ぶった疾風の声色。こんな時は大抵何かを企んでいる。

 だがしかし村上と疾風も長い付き合いだ。彼がISを動かしたという天変地異レベルのニュースを体験した今、ちょっとやそっとじゃ驚かないという自信が村上にはあった。

 

「一ヶ月後にうちで学園祭をやるわけだよ」

「ほうほう」

「お前の言う通り、学園に入れるのはスポンサーや各国のお偉方と限られる。ただし、例外的に俺ら生徒は一般客を一人だけ招待出来る特別チケットがある」

「ほうほう………ほう?」

 

 今なんかとんでもないこと言ってなかったか。

 

「そして俺の手元にも勿論そのチケットがあるわけだ」

「そ、それってつまり!?」

「ふふふ、綺羅斗君。君にこのただひとつ学園祭招待チケットをプレゼントしてやろうではないか」

「お、おおぉぉぉ! お? おわぁ!?」

 

 また下の名前で呼ばれたにも関わらず村上は思わずスタンダップした。

 が、急に立ち上がったせいでベッドのスプリングによりバランスを崩してフローリングの床にドスンと落着した。

 

「いったぁっ」

「ちょっと綺羅斗!? あんたなにしてんの!?」

「なんでもねぇ母ちゃん! ベッドから落ちただけ!」

 

 背中をダイレクトに打った村上は。震える手でスマホを掴んだ

 

「大丈夫か村上。生きてる?」

「生きてる」

「そうか。それで、いるか? いらないか?」

「いる! ください! 恵んでください!!」

 

 こんな千載一遇な機会を捨て去る程村上綺羅斗は愚者ではなかった。

 夢の女子の花園への招待券ゲット! 生きてりゃ良いことあるもんだと万歳合唱する勢いで跳び跳ねた。

 

 ふと、喜びの感情で一杯だった脳ミソが唐突に冷やされた。

 

「あれ? そういえばお前楓ちゃんはどうしたよ。あの子だから欲しがるんじゃないか?」

「そこは大丈夫だ、楓は母さん達と一緒に二日目に来るから」

「なるほど、流石に抜かりないってわけね」

 

 これで嫉妬に狂った疾風妹が村上宅に突貫してくる未来はなくなった。

 

「近日に送付されると思う。チケットは現物だから、なくすんじゃねえぞ?」

「了解了解! サンキュー疾風! 持つべきものはIS動かせるダチだな!」

「言い方が俗っぽいぞ。じゃあ一ヶ月後な」

「おう!! っんんっしゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 電話が切れると同時に、村上は拳を高々に振り上げて雄叫びをあげた。

 

「うっし! 待ってろよIS学園!! さぁて先ずは服新調しねえと! なに着よっかなー」

「綺羅斗! 五月蝿い!」

「すいませんお母様!!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「ハー、ハー」

「そんな逃げることないだろー?」

「だって疾風の目が怖かったから」

「ハンターかよ」

「ハンターの目だったよ………」

 

 一夏と全力ランしたせいでかなり目立ちながら校舎を出る。

 途中織斑先生に捕まらなくてよかったなと思いながら奴を探してみた。

 

「おーい、疾風ー! こっちこっち!」

 

 居た。そんな手をブンブン振るんじゃないよ恥ずかしい。

 なんか服が真新しい。今回の為に勝負服を買い込んだのだろうか。

 そして近づくなり吹かれた。

 

「ブハッ! お前何そのコスプレ! 写真取っていい?」

「コスプレ言うな。これでも一部女子に黄色い声出されるぐらいのスペックはあるんだぞ」

「なんか無性に嫉妬心沸いてきたぞコノヤロー。大人しく取られることを許可しろ」

「言いがかりが過ぎるぞ。許可する」

 

 バシャシャシャシャ! 

 

「やべ、連写で撮っちまった」

「なにしてんのお前」

「これ売ったら金になるかな」

「もうSNSに晒されてるから意味ないぞ」

「著作権とかないのな」

 

 それなー。

 

「とりあえずチケットを確認致しますのでご提示願いますよ」

「なんだよ、お前が確認取るのかよ。お姉さんがいい」

「残念、俺は生徒会副会長だから確認出来る権利があるんだな」

「マジかよ、万年帰宅部だったお前が?」

 

 悲しいけど強制入部なんだ、これがな。

 

「はい確認致しました。ようこそ綺羅斗君。IS学園へ」

「おう、ってだぁかぁらぁ! 下で呼ぶなって!」

「はっはっは!」

「笑うな!」

 

 さて一夏と合流しようかな。

 と思ったら一夏の連れっぽい赤茶毛の男が分かりやすいぐらい落ち込んでるんだけど。

 何があった。

 

「………俺にはセンスがない」

「なんだそんなことか」

「そんなことはってお前っ!」

「どうしたどうした」

「あ、疾風」

 

 一夏に釣られて赤茶毛の男もこちらを向くと目を丸くした。

 

「おっ? あんた二番目の男性IS操縦者の」

「どうも、疾風・レーデルハイトです。好きに呼んでいいですよ」

「これはご丁寧にどうも。五反田弾だ。気軽に弾でいいぜ。宜しくな疾風」

 

 フレンドリーながら何処か苦労性な好青年に見えた。一夏の友達なだけある。

 村上が俺の肘を小突いてくる、俺も紹介しろとね、はいはい。

 

「こいつは中学からの友達の村上。下の名前は綺羅斗と呼びます」

「あからさまに下の名前を強調するな! わざとやってるだろお前! すまん、出来たら下の名前で呼ばないでほしい、あんま好きじゃねえんだ」

「そうなのか? 俺的には超イカしてると思うけど。な、一夏」

「あぁ、格好いいと思うぞ。俺は織斑一夏、宜しく」

「ありがとう。何て優しいんだ。隣の毒舌眼鏡も見習ってほしい」

 

 失礼なことを。チケット燃やすぞ。

 

「なあ、せっかくだから四人で回らないか?」

「いいなそれ、最初は二組に行くか?」

「徳川さんそこにいんのか?」

「いるよ。あと中国の代表候補生もいる」

「鈴のとこか、でもすぐじゃなくても良いだろ。せっかくのIS学園だ。色々見ていきたいし」

「じゃあ二組を目標に道中よってく感じで」

 

 ルートが決まったので男子四人組は揃って歩き出す。

 私服二人、というより燕尾服二人というのがやはり目立つらしく道中声をかけられまくった。

 

「あ、織斑君だ。やっほー!」

「レーデルハイト君、後で絶対お店行くからねー」

「やった、執事姿の織斑君とレーデルハイト君を激写! 超エキサイティン!」

 

 周りの黄色い声に思わず半眼になるお客組。

 

「お前、無茶苦茶人気あるじゃねえか」

「今回は執事補正あるんだよ。普段はこんなんじゃない」

「おい一夏何がモテねえだよ、爆発四散しろコラァ」

「珍獣扱いされてるだけだって」

 

 間違ってないがお前は間違いなくモテの領域だからな。

 

「珍獣扱いでも羨ましいぞ。なぁ、入れ替わろうぜ」

「そうだそうだ、俺と交換しろ」

「替われるなら替わってやるぜ」

「断る」

 

 一夏は冗談を飛ばしたが俺はガチ回答。

 見事に正反対な意見だが、俺にとって此処は(IS的な意味で)楽園なのだ。

 そうこうしているうちに美術室のなんとも個性的で弾けている看板が目に入った。

 

【芸術は爆発だ!!】

 

「何時からIS学園に岩隠れの抜け忍が忍び込んだんだろうな」

「いやどっちかと言うと派手柱じゃね?」

「IS学園の壁なら持つかな?」

「マジで? どんな強素材なの此処の壁」

 

 入室。すると電子音で表現された爆発音が響いた。

 

「あ、織斑君とレーデルハイト君だ! どう? 我が美術部の爆弾解体ゲームの餌食になるかい?」

 

 フフンと眼鏡を上げながら迫ってきたのは部長という腕章をつけた女子だった。

 何故美術で爆弾解体ゲームなのか。どんな関連性があるんだ? でもなんか面白そう。

 そんな自信げな美術部部長に対向するかのように俺は眼鏡をクイッとあげた。

 

 用意された椅子に座った一夏の前にはトンと箱状の爆弾(偽)が。

 

「疾風君にはこちらを、ドン!」

 

 俺の机にドカッと重そうな音と共に現れたのは………なんか凄そうな奴。

 

「部長の私がみずから作り上げた最高傑作よ! IS学園ハイスペ男子枠の疾風君でもこれは無理でしょう! アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 なんか世紀末的な高笑い決め込んできたぞこの美術部部長。

 というより大丈夫かこの学園。見てみろよ、完全にマッドな顔して爆弾(偽物)作ったって豪語してるぞこの部長。

 

「前にお試しにどうぞとやらされた爆弾を解体出来たのが相当効いてるみたい。逆鱗に触れたかな、これ」

「おいおい大丈夫かよ疾風」

「死ぬ訳じゃないし。気楽にやってみるよ」

「はい、これ設計図ね。制限時間は15分! よぉーーーい………スタート!!」

 

 ピピッと爆弾(偽物)のタイマーが15:00から14:59に変わり、ゲームがスタート。

 なかなかシビアな時間。

 

 言うやいなや、爆弾につけられたボルトを素早く外し、カバーを上げると、『やあこんにちは』と言わんばかりの色とりどりの配線が姿を現す。

 設計図をバッと広げ、配線を調べ、隙間からニッパーを差し込んで………切った。

 

「衝撃………よし。次」

 

 パチン………またパチンと設計図とにらめっこしながら爆弾を解体していく。

 

「ん、これは難所だな………ふむ」

 

 トラブルなく作業を進める俺を覗き込む村上さっぱりわからんという顔をしている。

 隣を見ると、一夏も問題なくニッパーを差し込んでいた。

 

「なあ疾風」

「なに」

「IS学園は爆処理も学ぶ訳?」

「まさか。爆弾を見つけた時の対処法は教わるけど、解体は教わってないよ」

「だけどお前も織斑もなんかプロってるぞ動きが」

 

 ビィィーー!! 

 

 隣のコーナーからけたたましいアラーム音が鳴り響き、強制的に意識をそちらに向き直された。

 

「一夏! なんで行きなり青を切るんだよ!!」

「いや、ブルー・ティアーズだから」

「意味がわからん!!」

 

 ギャーギャー騒ぐ弾をいさめるように、美術部員が参加賞の飴ちゃんを二人に渡す。

 一夏はどうやらプロになりきれなかったようだ。

 

「む、もうそんなとこまで………設計図あるからって、なんか手慣れすぎてない?」

 

(マッド)美術部長が解体されていく最高傑作を覗いて怪訝な表情を浮かべる。

 

「お前何処で習ったのそんなの」

「ドイツの代表候補生が軍隊の隊長さんでな。その人に習った」

「お前の人脈どうなってんの?」

 

 どっちかと言うと一夏の人脈だけどな。

 

「ISに関係する立場となれば、いつかそういう場面に立ち合わざるおえない可能性もあるから覚えておけって」

「あるのかよそんなの」

「さーね。でもこんなこともあろうかとってのは、持ってて損はないだろ?」

「はーー」

 

 だからといって、爆弾処理に対面せざるおえない状況は御免こうむる。

 たとえISがあったとしてもだ。

 

 始まってからあっという間に残り5分半。気付けば周りにはギャラリーが集まって凄いことに。

 

「結構進んだか?」

「うん、あと少しだよ」

「やっぱ疾風はすげー、俺にはさっぱりだ」

「訳わかんねえ理由でバチリと切るやつとは違うってこった」

「五月蝿い」

 

 先程貰った飴玉を転がしながら一夏はむくれる。

 まあまあ。こういうのは分からないぐらいが丁度いいのかもしれないよ。

 

「うぐっ、流石疾風君だね、次で最終ラインだよ」

「おおっ、遂にか、頑張れよ疾風!」

「………」

「疾風?」

「美術部長さん」

「はいよ」

「最後の二本が設計図に描かれていないのですが?」

 

 凝視する爆弾の奥にはまだ切られていない赤と青のコードがとてつもない存在感を放っていた。

 

「ふっふっふ、気付いてしまったか! そう! 最後の二本は運任せなのさ!」

「マジですか」

「俺のとこもそうだったな」

「スリルあるでしょ?」

 

 そういう問題ですか。

 

「最後の最後に運ゲーかよ」

「おいおいどうすんだ疾風」

「まだ一分半あるから、もう少し調べてみる」

 

 しかし無情にもタイマーは進んでいく。

 残り一分。

 

「………」

「もう切っちまおうぜ? どうせゲームだしさ」

 

 勿論そのつもりだ。なにもしないで爆破はなんか悔しい

 ………赤と青。どっちだ? 

 

「なあ疾風、少年探偵の映画で似たようなのあったぜ」

「それだとどうだったんだ?」

「青だった。赤は運命の赤い糸だからって」

 

 えらくロマンチストな爆破テロだな。

 他に案がなかったので俺はペンチを青のコードに滑らした。

 持ち手に力を込めて青のコードを………………

 

「どうした疾風」

「………」

「もう時間がないぞ」

 

 残り10秒。

 俺はコードを、切った。

 

 ビーーーーーー!! 

 

 赤のほうを。

 

「はい、ゲームオーバー! いやー、見てるこっちもヒヤヒヤしたわ。はい、これ参加賞の飴ちゃんね」

 

 ポンと渡されたのはミルクキャンディー。

 ハッと我に返った村上が迫ってきた。

 

「お、おい疾風! なんで赤のほう切った!?」

「………わからん」

「はっ?」

「なんというか。青を切りたくはなかったんだ」

「へえ?」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 大層ご満悦だった部長のいる美術室をあとにした俺達は寄り道をしながら二組を目指した

 

「一夏、あそこは何やってんだ?」

 

 と弾が指を指したのは二組、ではなく。一組の【ご奉仕喫茶】に並んでいる行列だった。

 

「ご奉仕喫茶、俺達のクラスの催し物」

「マジかよ、半端ねえな」

「あれでも少ない方だぞ。ほら、最後尾の看板が見える。さっきは見えなかった」

「「はーー」」

 

 村上と弾は何度目かとわからない呆気に取られながら二組の中華喫茶に入った。

 

「いらっしゃいませ~」

「うおー!」

「ぶはっ!? り、鈴、おま、お前っ………なにしてんの」

 

 生チャイナドレスに感激に隠しきれない村上とは対照的に吹き出す弾。

 

「なぁっ!? どうして弾が此処にいんのよ!?」

「チャ、チャイナドレス。似合わねー! 大体なんでふごっ!?」

 

 弾の言葉が強制的に遮られる。それも鈴の投げたお盆で、アーメン。

 

「おいおい、客に暴力は生徒会としては見過ごせないぞ?」

「うっ。今のは見逃してくんない?」

「いいよ、今回は弾に非があるから」

 

 酷くね? と聞こえたが。

 ここは空気を読むとしよう。

 

「鈴。こいつは村上綺羅斗。俺の中学からのダチ」

「隙あらば下の名前を呼ぶな。どうも村上です。チャイナドレス似合ってますよ」

「ありがと、あたしは凰鈴音。あんたは弾とは違ってお世辞は言えるのね、弾とは違って」

「強調すんなよ! あーさっき会った可愛くて美人な人と大違いだ」

「はぁ? 誰それ?」

「ふっ、ふっ、ふっ………教えてやらん」

「一夏、アホが壊れたわよ」

「元からだろ」

「否定してくれよ一夏!」

 

 親友二人にバッサリ切られた弾は涙を流しながら崩れた。

 とりあえず入り口で固まるのは迷惑だから移動。

 

「なあ、菖蒲は居ないのか?」

「ほんとだ、徳川さんどこ?」

「あれ? さっきまで接客してたと思うけど」

 

 辺りを見回す鈴が何かに気づいたのか、簡易バックヤードの裏に走っていく。

 

「ちょっとあんた! なに隠れてんのよ!」

「無理です! 無理です! やはり無理です!」

「疾風に見せるためって張り切ってたでしょうが!」

「でもやっぱり駄目ですよ、こんな破廉恥な格好! 疾風様に嫌われてしまいます!!」

「破廉恥!? あんた中国(うち)の伝統的かつ歴史的な衣服に文句つけんの!?」

 

 なんかバックヤードの裏が騒がしいな。

 

「そんなんで嫌うような奴じゃないでしょあいつは! ほら行くわよ!!」

「ちょっ!! 鈴様!!?」

 

 鈴が誰かを強引にバックヤードからフロントに引っ張り出した。

 そこから出てきたのは。

 

「え?」

「へ?」

「おぉ!?」

「んんっ!?」

「ひわあっ! やっぱり駄目ですよぉ!」

 

 涙目+真っ赤な顔で羞恥を訴えたのは。

 チャイナドレスを来た菖蒲だった。

 

「はいよっ!」

「ひゃあぁ!」

 

 鈴に背中を押され、俺の前に躍り出た菖蒲。

 

「あ、あわわ」

「お、おお」

「す、すいません疾風様、せっかく来てくれたのにこんな格好で………うぅぅ」

「くはっ………」

「お、おい!?」

 

 ふらっと後ろに倒れ混む村上を弾が慌ててキャッチする。

 

「大丈夫か村上!」

「駄目だ………尊い、恥じらい美女………尊い」

「しっかりしろ村上! ああっ、鼻血出てる! おい! 一夏! ティッシュぶちこめ!」

「お、おう! 任せろ!」

 

 おいおい、何がどうなってんだ。

 大丈夫か綺羅斗。

 

「は、疾風様」

「お、おう。なんだ?」

「えと、その………あぅ」

 

 俺と菖蒲がたじろいでいると、鈴がプラチャで通信してきた。

 

『何か言ってやりなさい!』

『な、なんだって?』

『だ、か、らぁ! 褒めてやりなさいっての!』

 

 褒めろ? 褒めればいいの? りょ、了解。

 早速菖蒲のチャイナドレスを見てみる。

 

 特徴的な長い緑の黒髪は、鈴と同じく団子上に纏められ、身に纏うチャイナドレスは乗機である打鉄・稲美都をイメージした黄緑色だった。

 鈴と同じく露出の激しいチャイナドレス、鈴とは違って恥じらいがあるせいか、それがかえって魅力的に見える。せめてもの抵抗で手で所々を隠そうとするも焼け石に水で。

 

 これはなんというか………

 

「菖蒲」

「は、はひっ!?」

「その………えと」

「??」

「す、凄いな、色々と」

 

 いや語彙力ゼロか俺は! 

 ここぞというときのボキャブラリーが欠落してる俺が頭を抱えていると。

 

「………………い」

「い?」

「いやぁぁーーー!!」

 

 体を深紅に染めた菖蒲は全力疾走で二組を抜け出して何処かへ消えていった。

 絶叫は暫くなりやまず、やがて掠れて消えていった。

 

 呆けていると、ゴスッと背中を叩かれた

 

「いて! なんだよ鈴」

「あんた、いつもここぞと言うときは決めるやつなのに、なんでなのよ」

「え。もしかして、まずった?」

 

 コクリと鈴は頷いた。

 

「追いかけ」

「ないほうが良いに決まってるでしょ」

「ですよね………はぁ」

 

 俺って奴は………

 

 

 

 

「はぁ………」

「疾風、大丈夫だって。徳川さんもなんか理由があったんだよ」

「ぐっ、お前に女子関連で慰められる日がこようとは。一生の汚点だ」

「あーわかる。疾風、強く生きろよ?」

「いやいや、なんでだよ!?」

 

 なんでもだよ朴念神。

 一夏から今年最大の精神ダメージを喰らうなか、鼻血ブー太郎が息を吹き返した。

 

「はっ!? あれ、徳川さんは?」

「諸事情により退出した」

「マジかよ! 俺全然話出来なかった。あれ、なんか鼻に異物感」

 

 取るなよ、ブー太郎再発するぞ。

 

「はい、胡麻団子でーす」

「はやいな」

「席スッキスキだからねー、誰かさんらのせいで」

「言うなよ、そのかわり地獄の忙しさだぞ」

「ド暇よりましでしょうが」

 

 とりあえずごゆっくりー、と鈴はきびすを返す。

 

「しかしよぉ。さっきの徳川さんや凰さんといいさ、ここの女子は美人揃いだな! 羨ましいぞ疾風」

「まてまて、鈴を美人に位置づけすんのか? あのちんちくりんを? 流石に冗談キツ………あだぁ!?」

 

 スコーン、とトレイが弾の後頭部にヒットする。投げたのは勿論鈴だ。

 

「誰が貧乳じゃゴラァ!」

「言ってねえよ! ちんちくりんっつったんだよ!」

「おんなじじゃボケェ!」

「ギャン!!」

 

 客が俺らだけで良かった、じゃなければ閉店沙汰だ。

 とりあえずスルーしよう。飛び火したらいけない。

 

「いてて。ところでよ一夏、お前鈴とはどうなった? 教えろよ?」

「はぁ? なんの話だよ。それよりお前、さっき誰かとあったのか?」

「ああ、すっげえ可愛くて美人な人がいた」

「ここの女子は軒並みルックス高いよな。顔審査でもあんのかってレベル」

 

 つくづく羨ましいという視線が村上から飛んできた。

 やめろ。そんな目で見るな。

 

「その人を見たら胸にぐっときた。多分年上だと思う。一夏お前、あの人のこと知らない?」

「誰だよ」

「だから………俺も分かんねえよ。初対面だぜ?」

「なんか特徴は?」

「んー、眼鏡かけてた」

 

 情報量が少ない。

 眼鏡かけた美人ねえ?

 誰だろうと考えているとスマホが震えた。

 

「うぇ」

「どうした?」

「出たくねぇ」

「誰から? セシリアじゃん。あれ、俺も電話だ」

 

 しばらく画面とにらめっこした後通話ボタンをタップした。

 

「…モシモシ」

「なんで直ぐ出ないんですの!」

 

 キーンと、ハスキーボイスが俺の鼓膜にひびをいれかける。

 

「うぐぉ………よ、用件は?」

「直ぐに戻ってきて下さいな! 疾風は居ないのかってクレームがひっきりなしに来てて困ってますの!」

「会長は?」

「いつの間にか居なくなっていましたわ」

 

 職務放棄反対! 

 

「わかった、今二組に居るから直ぐに行く」

「頼みましたわよ」

 

 ブツッ………無機質な音と同時に、数メートル間の無線通話が終わった。

 

「一夏、誰から?」

「シャルから、戻ってくれだって」

「おっけ、すまねえ村上、弾」

「いいっていいって、さっさと行けって」

「俺は村上と学祭回るから」

「ん、行くぞ一夏。鈴、会計頼む」

「はいはい、しっかり働きなさいよ執事」

 

 了解チャイナガール。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「………ふぅ」

 

 あれからまた右へ左へ大立ち回りをし、やっと小休憩として簡易バックヤードに逃げ込んだ。

 

「流石の疾風も、今回は参ってるようですわね」

「ぜってー明日のシフト調整する。なにがなんでも」

 

 紅茶を注ぐ為に戻ったセシリアが話しかけてきた。

 その姿はまさしくメイドさんだが。その出生を知っているだけあって、なんだか不思議な気分だ。

 しかし、日頃から間近でメイドを見ていたのか接客の対応もよく。その美貌で男女問わず人気を博しメイドで1位、総合で3位を獲得していた。

 

「一夏より人気が出たのは…完全に予想外」

「ふーん、女子にチヤホヤされて良かったですわね」

「うっせ。嫌みか」

「そんなことありませんわ」

 

 ならその含み入れたような喋り方やめい。

 

「お前さ。ここ最近俺と話すと不機嫌になるよな。そんなに俺と噂されるの嫌なのか?」

「噂?」

「最近出回ってるだろ、お前と俺が出来てるって」

「そんな噂が出回ってますの?」

「勿論否定してるぞ? 新聞部にも根回しはしてるし、直ぐに収まるだろ」

「そうですか」

 

 紅茶を用意する手を止めずに聞くセシリアに更に言葉を連ねていった。

 

「お前もこんな噂たつの嫌だろ? クラスの皆にも言ってあるから。女子のコミュニケーション・ネットワークは侮れないし、こういうとこで有効活用していかないと」

「……」

「セシリア?」

「…疾風はどう思いますの?」

「何がよ」

「わたくしと、噂になるというのは」

 

 コトンもポットを置いたセシリアの表情は、店の明るい雰囲気とは対照的に、何処か暗かった。

 

「俺は、嫌だな、ないことをあるようにされるのは」

「そうですか………」

「どうしたし。お前ほんと調子悪そうだな」

「そんなことありませんわ」

 

 紅茶をトレイに乗せて待っているお客様に持っていくセシリアは簡易バックヤードの前で止まった。

 

「疾風は、わたくしと噂になるのは嫌だと言いましたわね」

「あー、うん」

「………菖蒲さんと噂になるのもお嫌ですの?」

「は?」

「な、なんでもありませんわっ! 紅茶お届けいたしませんと。ああ、忙しい忙しい」

 

 セシリアはこっちに振り返ることなく立ち去った。

 マジでどうしたんだあいつ。

 セシリアと入れ替わりで今度はラウラが顔を出した。

 

「疾風、三番テーブルからオーダー来たぞ」

「今行く」

 

 おっとまずい、小休憩がサボりになってしまう。

 えーと、三番テーブルは………

 

「じゃじゃん! 楯無おねーさんの登場です」

「………」

 

 思わず目からハイライトが消えた。

 そこには侮蔑と呆れが含まれ、口はへの字に歪んだ。

 一足先に覚めた一夏は直ぐに行動に移った。

 

 職場放棄人間 が あらわれた! 

 

 コマンド(一夏)

 ・逃げる

 ・逃げる

 ・逃げる⬅

 

「だが、逃げられない!」

「だあっ! 進路妨害するのやめてくださいよ!」

「まあまあ、そう言わずに。むっ?」

 

 妖怪職場放棄 が あらわれた! 

 

 コマンド(疾風)

 ・戦う

 ・逃げる

 ・チョップ⬅

 

「せいっ!」

「甘い!」

「ちっ!」

 

 心の底から舌を打ってやった。

 

「何しに来たんですか。いや何してたんですか。俺達戻るまで何とかするんじゃなかったんすか」

「やん、そんな怒っちゃやーよ。どうしても外せない用事が出たの」

「なら誰かに一報入れてください」

「神出鬼没が座右の銘なの」

「捨てちまえそんなもん」

 

 思わず敬語がシャットダウンしたがこれぐらいで怒るたまじゃないだろこの人は。

 案の定ニコニコと会長は笑いながら戯れ言を吐いた。

 

「ところでお二人さん。君達の教室手伝ってあげたんだから、生徒会の出し物にも協力しなさい」

「この人。無断で途中放棄しといて、よくもいけしゃあしゃあとっ!」

「てか疑問系じゃない!」

「うん、決定だもの」

「なんの権限があって」

「生徒会長権限」

「フ○ック」

「疾風、顔怖い。視線で人殺せるレベルで」

 

 むっ。いかんいかん、回りにもお客さんがいるというのに。

 ん? なんか顔を赤くして熱っぽい視線を感じるのは何故だろう。

 

「で、俺達は何をすれば?」

「あら、無抵抗?」

「お望みなら全力で抵抗してやりましょうか?」

「落ち着け疾風、多分無駄だから」

 

 止めるな、今の俺は忙しさで優しさ回路が渋滞してんだ。

 

「あはっ。これ以上ふざけると怖い目に合いそうなので、単刀直入に言いましょう。二人とも。生徒会の出し物、観客型参加演劇に協力しなさい!」

「は?」

「は!?」

「とにかく行くわよ! ゴーゴー!!」

「ちょ、まっ!」

 

 引っ張られる。この人やっぱ力強っ! 

 有無を言わさないも座右の銘に入れたらいいんじゃないかなこの人は。

 

「あのー、先輩? 一夏と疾風を連れていかれると、ちょっと困るんですけど」

「シャルロットちゃん貴女も来なさい、ていうか、代表候補生! 全員カモン!」

「はっ?」

「全員、綺麗なドレスを着せて上げるから。隣の鈴ちゃん菖蒲ちゃん含めて」

「はっ!?」

 

 俺と一夏、というより一夏と会長の話を盗み聞きしていた3人は同時に驚きの声を上げる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください楯無さん」

「何よ、あの娘達のドレス姿を想像しなさい。見てみたくない?」

「それは………」

「見たい? 見たくない?」

 

 後ろを見やると凄い期待してる目が。

 

「見たいですけども」

「行きます楯無さん!」

「ちょ、ちょっとだけ興味あります!」

「嫁が言うのだ、仕方なくだぞ!」

「あれ!? 皆なんで行きなりやる気に!?」

 

 それはそうだろ阿呆め。本人は知らんから罪が無いといえば………いや、やっぱあるわ、罪。

 

「ではわたくしは残りますね」

「なに言ってるの、貴女も来るのよセシリアちゃん」

「あの、流石にこれ以上。というより五人抜けた時点でダメージが」

「大丈夫、私の知り合いに手伝わせるから」

「ですが」

「菖蒲ちゃんも出るけどいいの?」

「………行きます」

 

 最後の砦、滑落。

 これでご奉仕喫茶は更識楯無の手に落ちた。

 てかなんで菖蒲で落ちたんだあいつ。

 

「それで会長、なんの劇やるんです?」

「んっふっふ、それはね」

 

 バッと扇子を開く会長。そこには『迫撃』の二文字。

 

「シンデレラよ!」

「待ってください、迫撃との関連性は!?」

 

 一夏のツッコミと共に俺、否その場に居た全員は確信した。

 

 絶対ろくなことではないと………

 

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