IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「なあ疾風」
「ん?」
「お前小学生の時、印象に残ってる役ってなんかある?」
会長に言われるままIS学園の数あるアリーナの一つ、ここ第4アリーナ男子更衣室で劇の衣装に着替える俺達。
サイズがピッタリなことに、どこからか個人情報の流出があったことは事実である、教えた覚えはないから。
そんな事を考えていると唐突に一夏が話題を振ってきた。
「印象に残ってるねえ。うーん」
小学生の劇言っても二つは演奏だったからなぁ。
一年は大きなカブやってたっけ。
「小学4年ぐらいかな。森の熊さんを題材にしたやつなんだけどな」
「うん」
「木の役だったんだよね」
「よりによってチョイスがそれ?」
一夏の言いたいことはわかる。
全身を茶色タイツにし、お世辞にも上手とも言えない葉っぱをもした飾り付けでステージのど真ん中後方に立つその姿は、はっきりいってシュールだ。
「実際居ても居なくても問題ない役だけど。当時純粋かつ真面目な俺は真面目に木を演じた」
「結果は?」
「一部の大人から居たことすら分からなかったという謎の評価を頂いた」
「なんだそりゃ」
暗転時にステージから降りた時は騒がれたなー。「おいあの木独りでに動かなかったか!?」って。
先生には凄い褒められたな。
家族? 言わずもがなですとも。
「一夏は? なんかねえの?」
「俺か? 俺は小学六年の頃に王子様の役やった。なんか凄い女子に推薦されてさ」
「へえ」
「次にお姫様の役を決めるときにさ、女子全員が立候補して、お姫様の役決めるだけで一時間目終わったんだよ。最終的には鈴がお姫様役に決まってさ」
「そ、そうなんだ。凄いな」
お姫様役をもぎ取った鈴が。
「ああ、やっぱり女子ってお姫様の役に憧れるもんなんだな。でもそのあと男子の顔がちょっと怖くてよ。なんか怒ってるのかと聞いても『何でもない』の一点ばりで。弾なんか溜め息ついてたぜ。なんでだろうな?」
「…なんでだろうねぇ」
こいつの女子攻略術と唐変木・オブ・唐変木は小学生の時から顕在だったというのか。
無知って罪だなぁ
「どうした疾風? 顔が引き攣ってるぞ?」
「な、何でもねえよ。気にするな」
「そうか?」
恐るべし、織斑一夏。
「ところで、この衣装なんだろうな?」
俺と一夏の服は青い上着に白のズボンという典型的な王子様スタイルだった。
「なにって王子様だろう? よかったな、人生で二回の王子様だぞ」
「実は中学でも王子様役やったんだ」
へー。姫役誰だったんだろうなー。
「シンデレラって二人も王子居たっけ?」
「さあ? オリジナリティーなんじゃね?」
「疾風はなにも聞いてないのか?」
「知らん」
なんかドデカイ事はするとは言ってたし、第四アリーナも少し前から使えなくなったからそこでなんかやるのかなとは思ってはいたけど。
「一夏君、疾風君、ちゃんと着たー? 開けるわよ」
「「開けてから言わないで下さいよ!」」
言い終わってから一秒も立たずに開けてきたミス非常識人更識楯無。
「なんだ、ちゃんと着てるじゃない。おねーさんがっかり」
「何を期待してたんですか、あなたは」
「会長は男の裸を前にヨダレを垂らす変態だった!?」
「こらそこ、わざとらしいわよ」
開幕早々、いや開幕前から楯無ワールドにげんなりする一夏と悪乗りする俺の事など露知らず。会長は俺達に金色に光る王冠を被せた。
「はい王冠。大事なものだからなくさないでね?」
「あの、楯無さん。俺達脚本とか台本とか一度も見てないんですけど」
「アドリぶれば良いんですか?」
「そうよ。基本的にこちらからアナウンスするから好き勝手動いて頂戴」
成立するのかそんな劇。
「因みに一夏君が第一王子、疾風君が第二王子ね」
「俺が第一王子?」
「で、俺が第二か。まあ一夏の方が王子役は映えるわな」
「ふふん、じゃあ二人とも、頑張ってねー」
ひしひしと感じる不安の中、第4アリーナに入っていく。
「わあ…」
「おおっ! スッゲえなこれ!」
目の前は正に壮観の一言だった。
アリーナの限界まで高くそびえ立った西洋風のお城、地面には芝が生え揃い、赤絨毯がそれぞれの色彩を際立たせた。
IS学園の中でも小さい部類に入る第4アリーナとはいえ、これ程のスケールとは。つくづくIS学園のクオリティの高さに驚かされる。
『さあ! 幕開けよ!!』
高らかに響いた会長の声と共にアリーナのドームが閉じ、辺り一面が闇に変わった。
ステージの中央らしき場所にライトが集中した、まるで俺達を誘うように。
誘われるがままライトの中心に立つと客席から歓声が巻き起こった。
「一夏、手を振っとけ。笑顔でな」
「お、おう」
一夏が手を降ると、客席からの更に歓声が沸き上がった。
「一夏ぁぁあ!! へますんなよぉぉおお!!」
「疾風えぇええ! 頑張れよぉぉおおお!!」
何処からか聞き覚えのある友人の声が耳に届いた。
どっかで見ているのか?
と思っていると。俺達を照らしていたライトが落ち、代わりに巨大なホログラフィック・スクリーンが現れた。
『むかしむかし、あるところに。シンデレラという少女がいました』
あれ、意外と普通………
『否、それはもはや名前ではない』
なわけなかった。
楯無さんのモノローグと共にスクリーンの泣いていた少女が剣や重火器を持つドレスのお姫様に変わった
「「は?」」
『幾多の舞踏会を潜り抜け、群がる兵士を薙ぎ倒し、灰塵を纏うことさえ厭わぬ地上最強の兵士達、彼女らを呼ぶに相応しい称号………それが
カッとステージ全体がライトアップされ、舞踏会エリアに立たされる俺達が浮かび上がった。
「は?」
「おっと?」
『今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちの夜が始まる。王冠に隠された軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女達が舞い踊る!!』
「はあ!?」
「えー?」
シンデレラってそんなむせるストーリーだっけ。
何がなんだかわからんと頭を抱える一夏の上から。
「貰ったぁぁぁ!!!」
雄叫びと共に何かが舞い降りてきた。
「危ねえ!!」
「うおっ!?」
先程まで一夏が居た場所に刃が降り下ろされる。そこには白地のシンデレラ・ドレスに銀のティアラを被り。中国の刀、青竜刀を手に持つ。
「「り、鈴!?」」
鈴の姿があった。
「王冠、寄越しなさいよ!」
柱を背に立つ一夏をキッと睨んでから、すぐさま中国の手裏剣である飛刀を投げてくる。
投げられた飛刀は真横の柱に見事突き刺さった。
「ヒィっ!? ば、馬鹿! 死んだらどうするんだよ!? うおおっ!?」
即座に投げられる飛刀を避けるなか、会長 の呑気なアナウンスが鳴った。
『大丈夫よー。ちゃんと安全な素材で出来てるから』
「ほんとかよ!?」
とりあえず当たっても死なないらしい。にしては柱に刺さった飛刀が微動だにしていないんだが。
慌てながらも一夏はその場にあった蝋燭台で飛刀を防ぐ。だが鈴は直ぐ様それを蹴り上げ、そのまま踵落としを決めてきた。
「わあ、馬鹿! パンツがっ」
「はあっ!」
ドゴォと床が陥没する様にドン引きしていると一夏はあることに気付いた。
「って、おい! ガラスの靴履いてんのかよ!?」
「大丈夫。強化ガラスらしいから!」
それに蹴り上げられる一夏の安否はどうなるんだ。
死ぬぞ下手したら。下手しなくても死ぬぞ。
「死なない程度に殺すわよ!!」
「意味が分からん!」
「一夏! とぉっ!?」
助けにいこうとしたら足元が破裂した。
否、何かが撃ち込まれたような弾痕がそこにあった。
「ナイスセシリア!」
「セシリア!? てことは狙撃か、やっば!」
ビスッビスッと立て続けに空いた弾痕から逃げ出すべくとりあえず射線をきった。
ーーー◇ーーー
「今回、一夏君と疾風君の王冠を手に入れたシンデレラには人との同室同居権を与えるわ」
専用機持ち達は更衣室にいた更識楯無の現実場馴れした言葉にきょとんとした。
「た、楯無様? そんなことが可能なのですか?」
「大丈夫、生徒会長権限で可能にするわ」
という更識会長の言葉に全員が奮い立った。
「ただし、手にいれる王冠は間違えないこと、じゃないとお目当てじゃない人と同居しちゃうことになるから、気を付けてね♪」
にっこりと笑う会長の言葉に専用機持ちの目の色が燃え盛る火の色に変わった。
一人を除いて。
「あの、楯無さん」
「セシリアちゃんも頑張ってね!」
「頑張ってと言われても」
「やることないならあたし達の援護でもしなさいよ」
「はあ………」
「とは言ったものの」
高台の上からスナイパーライフルを構えるセシリアはため息を吐いた。
「別にわたくしは参加しなくてもよかったのでは。というより、王冠をその場でゲットするという状況だと遠距離向きなわたくしって不利じゃありません?」
ぼやきながらもセシリアはスコープを覗く。
ふと考えてしまった。
万が一の確率で自分の手に疾風の王冠が収まり。疾風と同棲することになったら。
「………何を考えてるのでしょうね、わたくしは」
隠れたのか、スコープの先に疾風の姿はない。
動かして物陰に隠れる一夏を捕らえる
このまま棒立ちというのも演出上良くはない。現に目立つとこにドレス姿で位置するセシリアは観客の目を引いていた。
「せめて皆さんのサポートをしましょう」
麗しの狙撃主はトリガーを引いた。
ーーー◇ーーー
「ふう、ここまでくれば安心」
隠れていた木製の大扉がバラバラに砕けた。
「じゃねえか!」
主役なのにも関わらず隠れてばっかの一夏なので時折観衆の前に躍り出ると歓声がなったが、当の一夏はいつ飛んでくる狙撃にそれどころではなく宛もなく走り続けた。
「なっ、行き止まり!?」
目の前と右は壁、左は高低差があるものの飛び降りれない高さではない。
だが、それでも躊躇はする高さに一夏の足は動かなかった。
「もしかして誘われた!?」
「一夏何処よーー!!」
「げっ!」
このままでは鈴に追い付かれる。だが不用意に飛び出せばセシリアの狙撃にさらされる。
万事休すと諦めたその時。
「一夏っ! こっちこっち!」
「シャルっ!?」
「早く来て!」
「お、おう!」
形振り構ってられない一夏は対弾シールドを持ったシャルロットの元に飛び降りた。
転がるようにシャルロットのシールドに隠れた一夏はシャルロットに連れられてその場を離脱した
「はぁ、はぁ………ふぅ」
セシリアの狙撃から逃れた二人は一先ず物陰に隠れた。
「シャル、助かったぜ」
「直ぐに追っ手がくると思う。さっきチラッと鈴の姿があったから。僕が食い止めるから、一夏は早く逃げて」
「助かるぜシャル!」
ここぞという時に頼りになるシャルロットに感謝を述べながら一夏は踵を返した。
「あ、ちょ。ちょっと待って!」
「どうした?」
「その、出来れば王冠を置いていってくれると嬉しいなぁって」
「別にいいけど」
一夏は王冠に手を伸ばした。
しかし、これこそシャルロットの策略!
今回のシンデレラのことを何も知らされていないと察したシャルロットは咄嗟に一芝居をうった。
それは力付くで奪うのではなく、一夏の信用を得てから譲渡してもらうこと!
後々一夏との確執を最小限に抑える為の、シャルロットの最善の策。
シャルロットに誘導されていることに気付かない一夏は王冠を外そうとした。
内心ガッツポーズのシャルロット。
そんな時、楯無のアナウンスが流れた
『王子様にとって国とは全て。国の未来を左右する重要機密が隠された王冠を失うと』
「「失うと?」」
『自責の念によって、電流が流れまぁーす!』
「はい?」
一夏は一瞬ポカンとしたが、いかんせん腕は無意識に動き王冠が外される。すると。
バリバリバリバリバリ!!
「ぎゃあああああっ!?」
退っ引きならない音を立てて一夏の全身に電流が流れた。痛いレベルじゃなく熱いレベルで。
「な、な、なんじゃこりゃあ!!?」
見ると王子衣装が所々焦げて煙が出てる。
『ああ! なんということでしょう! 王子様の国の思う心は、そうまでも重いのか。しかし、私達には見守ることしかできません。あぁ! なんということでしょう!!』
「二回も言わなくて良いですよ!」
『因みに今回の電撃王冠の製作には第二王子こと、疾風君の御実家レーデルハイト工業のご協力の元、制作されております』
「そんな情報どうでも良いですよ!」
再び電流を流されたらたまった物ではないと一夏は王冠を頭に乗せた。
「す、すまんシャル。そういうことだから」
「え、こ、困るよぉ!」
「だけどあの電撃ビリビリはもう。っ!」
一夏は本能のまま飛び退くと、その場に飛刀と突き刺さった。
「大人しく王冠を渡せ一夏ぁぁ!」
一夏とシャルロット二人っきりという状況に修羅の顔となった鈴が飛刀をやたらめったらに投げまくった
「あ、待ってよ一夏ぁ! うわっ!」
「悪いなシャル!」
成り行きでシャルロットを盾にしたことを詫びながら第一王子は逃げ出した。
ーーー◇ーーー
「何作ってんだうちの会社は………」
自分の王冠にも内蔵されてるであろう電撃装置に恐怖を抱きながら座り込んだ。
屋内に身を隠した俺は息を整え、今回の演劇について考察を纏めた。
まず、シンデレラの目的はこの王冠。大方、会長に利益になるようなことを言われたのだろう。
つまり、この演劇は武器ありの盛大なる鬼ごっこ。時間内までにシンデレラを撒き、王冠を死守すればいい。
そこで得策としては、隠れながら場所を転々とすること。だが………
「それじゃあ、面白くないよな」
観客に対してのパフォーマンスも必要だろう。
なにより脳の中で悪い癖が囁いているのだ。
盛り上げたいと、引っ掻き回したいと。
「まあ一夏はそんな余裕ないよね。ここは俺が躍り出て、一夏の負担を減らすのもありだな」
しかし問題はセシリアのスナイプだ。
あのライフルは恐らくサイレンサー装備、サバゲーのライフルだとしても性能は折り紙付きの高級品だろう。
レーザーサイトが付いているのはあれは狙っていますよというハンディキャップだろうか。
「まあそのハンディは俺にも適応されると……ではそろそろ行くかね!」
再び屋外の渡り通路に躍り出る。
不意に"カチッ"と何かを踏んだ。
トラップ!?
透かさずその場から飛ぶがなにも起こらず、代わりに先程出てきた出口にシャッターが降りた。
退路を塞がれた、そしてそれに合わせるかのように。
「ほ、箒!?」
「疾風っ!?」
渡り通路の向こうに、鈴と同じ肩出しのシンデレラドレスに身を包んだ箒の姿が。
その手にはドレスに見合わない刃引きされた模擬刀が握られていた。
まずいぞこの状況は。箒の剣の腕前は日本剣道のトップを誇る腕前。それに対してこちらは素手と分が悪い。
対ナイフの格闘戦を習った訓練はあれど、対日本刀の経験はない。
どうする、後ろは通行止め、前には日本刀持ちの凄腕シンデレラか……
相討ち覚悟で突っ切るかどうかを思案していた疾風に対し、箒は口を開いた。
「疾風。一夏は見たか?」
「え? さっき見たけど、何処行ったかは知らん」
「そうか」
と、箒は踵を返して走り去った………え?
「ちょ、ちょっと待て!?」
「なんだ、私は急いでるんだ!」
「王冠狙わないのか? こっちは素手だからチャンスじゃないかと思うのですが?」
少なくとも俺なら即座に襲いに行く。危機回避のチャンスだが、聞かずにはいられなかった。
「お前の王冠などいらん!!」
「はいっ?」
用無しとばかりに箒は去っていった。
「あれぇ?」
信じられない出来事にやる気に満ち満ちていた俺は呆然と立ち尽くしてしまった。
「………」
トコトコトコ………
「………」
トコトコトコ………
「………追われない」
遠くで一夏の叫び声が聞こえるなか、俺は当てもなく歩いていた。
余りにも暇なのでわざわざ見晴らしの良い場所で、周囲警戒しつつスナイピングをよけて観客を湧かそうとするも、全然狙われてる気配なし。
「何故だ……ん?」
なにやら、前方から銀髪眼帯のシンデレラが。両手にはサバイバルナイフが握られている。
そして明らかに戦意が無い感じで訪ねてきた。
「む、疾風か。一夏は見たか」
「あっちで見たけど」
「感謝する」
「おーい」
「なんだ?」
「俺の王冠は狙わないんですか?」
「お前の王冠に戦略的価値はない」
速答で言い残して銀髪シンデレラは横をすり抜いて走り去っていった………
「素通りってオイ」
哀愁を漂わせた第二王子の姿が、そこにはあった。
数分後、一夏の悲鳴が耳に届いた。
ーーー◇ーーー
「ふふっ、逃げ回ってる逃げ回ってる。ほんと一夏くんは予想通りに慌てふためいてて、お姉さん楽しい♪」
悪魔、正しく悪魔の顔である。
高みの見物をしてる楯無は動き回るペットを見るかのように眼下を覗き込む。
「んーーだけどこっちも予想通りというか。疾風君全然動かないわ。ていうか相手にされてない? あぁ、なんて悲しいの疾風君。お姉さん、泣いちゃうわ!」
うっうっと誰も見ていないのに嘘泣きを流す学園最強生徒会長。目薬まで指す徹底ぶりである。誰も見ていないのに。
「肝心の菖蒲ちゃんも、疾風君見つけれてないみたいだし……あら」
眼下で疾風とセシリアがエンカウントした。
何かしら話した後に走り去るセシリアに手を伸ばした疾風は、その場でガックシと項垂れた。
「疾風君をからかうアナウンス掛けようかと思ったけど、流石に躊躇うわ。泣きっ面に蜂レベルじゃないもの」
しかしここまで疾風側に盛り上がりがないと観客も疾風も盛り下がる。どうしようかと頭を捻る楯無はピコンと名案を閃いた。
「そうだ。良いこと思い付いちゃった! ふふふ」
急いで一夏と疾風の王冠に内蔵されたスピーカーに繋げる準備をする。
「ふふん、感謝しなさい疾風君。貴方向けのプレゼント、特別にお姉さんが拵えてあ・げ・る」
ーーー◇ーーー
会長が何かを企んでいる間、俺は壁にはまっている西洋剣を取ろうと奮戦していた。
「ふんぐぐぐ、ぐっ、ぐぬぅ……んだぁ! 取れたっ!」
第二王子疾風は 剣 を 手に入れた!
「これで丸腰は避けれたか………はぁ」
急に脱力感が起き、壁を背に座り込んだ。
それもこれも先程の出来事が起因している。
part3。凰鈴音の場合。
「疾風! 一夏見なかった!?」
「見てない」
目線の上の塀から鈴が話しかけてきた、だが先程のように飛び降りる気配はない
ほんとは物見台を登っている一夏を見たのだが、なんか言いたくなかった。
「ちぃっ! あいつ何処行ったのよ! もう!」
「なあ」
「なによ!」
「何故皆、俺の王冠は狙わないんだろうね? お前含めて」
「し、知らないわよ。菖蒲あたりは狙ってくれんじゃないの? じゃあね! 急がないと他の奴に先越されるから!」
part4、シャルロット・デュノアの場合。
「おぅ、シャルロット」
「疾風! なんとか逃げ切れてるみたいだね」
「逃げ切れてる………ていうか」
避けられてるというか。
「一夏は見た?」
「見てない」
「そっか、じゃあ僕行くね」
「なあ」
「どうしたの?」
「これを手に入れると、シンデレラにはどんな特典がついてくるの?」
王冠をトントンつつきながらシャルロットに問う、その声色は何処か暗めだった。
「そ、それは……」
シャルロットがばつの悪そうな顔で目線を反らすも、疾風の虚ろな視線に耐えきれず言葉を絞り出す。
「ごめん、それを言うと特典が貰えないんだ」
「シンデレラが手に入れると、取られた王子様と取ったシンデレラで何かあるんだな?」
「ご、ごめんね疾風! 僕急ぐから!」
文字通り逃げたシャルロットに死んだ魚のような視線を送り続けた。
この時のシャルロットは冷や汗が止まらなかったという。
part5、セシリア・オルコットの場合。
「あっ」
「あっ」
次のエンカウントは灰被りの狙撃手こと、セシリア・オルコット嬢。流石は生粋のお嬢様というか、メイド服より遥かに似合ってる感がある。手に持ってるスナイパーライフルさえなかったら完璧だった。
いや、これはこれで味があるか?
「セシリ、うおっ!」
スコープを覗くことなく俺の足元に銃痕を刻むセシリア。
「おいお前」
「こ、来ないでくださいまし!」
「おい待てっ! うおとっとっ!?」
連撃で此方を狙った銃弾を即座に屈んでやり過ごす。
「一夏についてなんかないのかお前は!」
「知りませんわ!!」
「お、おーい!」
虚しく伸ばされた手の延長線上にある彼女の姿が見えなくなると俺は膝から崩れ落ちてしまった。
少し頬が赤く見えたのは、絶対見間違いだろう。もうわけわからん。
まあそんなこんなで並みいるシンデレラは俺に見向きもせずに何処かへ消えていったのだった。
「はははっ、何で俺狙われないんだろー。俺も王子なのになぁー、王冠持ってるのになぁー、どうせルックス平均眼鏡ポンチだよっ!!」
八つ当りに壁に斬りかかるが模造刀故に傷などつくはずがなく。
「くっ! これほど一夏を羨ましく思ったことはねえ。全然面白くもないわ! やってらんねえよ畜生めぇ! はぁ……」
一頻り怒った後に再び踞る俺。あぁ、なんとも憐れな存在か………
なまじ頭が働く分何故自分が狙われないのか理解してしまっている。しかし女子五人から続け様相手にされないのは、分かっていても応える物があるのだ。
せめてセシリアには反応してほしかったと信じたい。
もしかしてあいつも一夏のことが好きだったりして………
「やべー、なんだか分かんないけど凄い落ち込む………フヘヘヘへ」
可笑しいな? 笑みが溢れてくるぞ? 悲しい筈なのに、笑みが溢れてくるゾ? ナンデカナァ?
ピリリリリ、ピリリリリ。
虚無感増々の王子様の王冠が震え、陽気な声が流れてきた。
『はいはーい、王子様の諸君? 生徒会主催の【灰塵被りし戦姫】楽しんでくれてるかな?』
「ご覧通り全然楽しくないっすよ、怒りますよ?」
シナリオを考えた張本人に八つ当り混じりの呪詛を投げ掛ける。
だが此方の声が届いてないのか、会長は構わず進めた。
『それでね? お姉さんはこのままでも充分楽しめてるんだけど、なんかまだ刺激が足りないなぁと思ってね?』
こちとら刺激感じなさすぎてテンションメルトダウンなのですが。
俺は消沈しながらも楯無会長の声に耳を傾ける。
『そこで、王子様側からも何かしてもらおうと思うの。で、その内容と言うのが────と、言うことなの。実行するのは本人の自由よ? じゃ、頑張ってねえ~』
プツンと、通信終了を知らせ。レーデルハイト工業製電撃王冠は沈黙した。
「……ふふふっ」
踞りながら俺は再び笑った、だがその声色は、先程とは違い何処か明るめだった。
ゆっくりと、笑みを溢しながら、向日葵が太陽に向かうようにゆっくりと状態を起こす第二王子。
「ふふふっ、ふふっ。ハハハハハっ!!」
突然狂ったように笑う。
瞬間、城内を走る王子とシンデレラ。そして観客席の人々にゾクッと寒気が走った。
「ハハハ………ふぅ、楯無会長。あんた最高だわ」
クルンと西洋剣を手で遊び、眼前に目を向ける。
死んだ魚の目は水を得た魚のように光り、その笑みは何処か猟奇的な雰囲気を匂わせる程鋭角に上がっていた。
駆ける。城内を闊歩し、辺りを爛々と見渡すそれは正に肉食獣の如く。
宴は終わらない、灰塵舞う舞踏会はまだ終わらない。
「フフーフ♪」
シナリオ創作者の鶴の一声により。
今ここに獣は放たれた。