IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「俺やっぱIS学園みたいな特殊な場所じゃなくて普通の高校で良かったわ」
観客席でシンデレラと男二人が闊歩する城を見ながら弾はぼやいた。
チューとジュースを飲み干した村上が意外そうな顔でぼやきを拾う
「意外。女の園だぁーって言ってた奴とは思えん台詞だな。 まあ俺もだけど」
「いやだってねえ? あんな爆発が起きるような場所に入りたくないし。ましてや凶器を持っている女の子に襲われたくもない」
先程一夏がラウラと対峙したときに何処からか迫撃砲が飛んできた。
しかも高台からはセシリアがスナイパーライフルで一夏の足元を狙い撃ちしている。
「まあ、あれだよな、ラノベや漫画の世界って見る側で充分だもんな」
「それなー」
弾に同意しつつも自分達が生きている世界も大概なのではと、ふと思ってしまった。
一歩間違えば戦争を起こしちまう兵器みたいな代物を学生でも扱え、学べてしまうインフィニット・ストラトス。通称IS。
SFの2次元アニメから出てきたようなそれは間違いなく異質だと思う。
確かに男としては空飛ぶパワードスーツはロマンだし、SF物は男の大好物だ。
ビームサーベルや巨大ロボットに憧れない方がおかしい。
けど現実にそれがあるとなると話が違ってくる。ましてや女にしか動かせないとか。文字通り世界バランスが変わった代物にはやはり引け目を感じちまう。
周りの歓声にハッと村上は我に返った。
難しいことなど、村上綺羅斗の柄ではない。
村上の意識はシンデレラの会場に移った。
「しかしよお、疾風の奴見えねえなぁ。一夏はあーんなに動いてるっつうのに」
「そういう役回りなんじゃないか?」
「貧乏神王子一夏」
「ぶふっ!」
口の中空で良かった、でなければ前の席に被害が出ていたであろう。
「はっ、呑気なもんだな」
「ん?」
後ろの気だるげな声に目を動かす。が、そこには誰も居なかった。
「どうした弾?」
「あ? いやなんでもねえ」
「そうか。おおーい疾風! もっと活躍しろぉぉ!!」
ーーー◇ーーー
「あーもう! あいつ逃げんの上手すぎ!」
お目当ての一夏を見つけては見逃し、また見つけては見逃しを繰り返した鈴はその場で地団太を踏む。
「騒ぎが起きればそこに一夏は居るだろうし。今度は飛び掛かって取っ組み合いに持ち込むか。あいつの事だもの、抵抗はするだろうけどそこまで強くは出れないでしょう」
何だかんだ言って女子に強くは行けないのが織斑一夏の弱点だった。
「しかし……菖蒲も見つからないわ。疾風が動かないみたいだから教えようと思ったのに」
【シンデレラ開幕から10分前】
「んー、どうしよっかな。とりあえず青竜刀は持って。予備でも一本持っとくか。あ、飛刀もあるじゃない。てか用意周到過ぎでしょ、生徒会」
生徒会長から一夏との同室同居の話を聞いたシンデレラ一行は各々が用意された武器を選んでいた。
IS以外なら何でもありの王冠争奪戦。
着たことのないドレスもバッチリと着こなし戦意は充分だ。
勝つべくして勝つ。鈴の戦意は既に点火していた。
「わぁ、鈴様のドレス可愛いですね」
一人闘志に燃える鈴に、同じくシンデレラ・ドレスに着替えた菖蒲が声をかけた。
「何言ってんのよ。みんな形は一緒でしょ?」
「そ、そうなんですけど! えと、鈴様は特に似合ってるような気がして」
何気なしに言ったつもりだったのだろう。狼狽えた菖蒲に対ししまったと反省する。
「ありがと、あんたも似合ってるわよ」
「そんな、私にはとても。なんだかふわふわしてて落ち着かなくて」
「まったくしっかりしなさいよ。今回は絶対に負けられないんだから。って言っても、あんたは一人勝ちかもね。疾風を狙うのは菖蒲だけだし」
「そうなのですか?」
「そうよ、皆一夏目当てなんだから」
約一名はアンノウンだが。
「そうですか。でも疾風様から王冠を奪うなど、そんなこと可能なのでしょうか………私、皆さんと違って戦い慣れしてませんし。出来ることと言ったら、弓を射る事と少し刀を握ったぐらいですし」
「あー」
確かに一夏と違って疾風はこういうのに慣れてそうだ。入院生活を通してきた菖蒲には今回の勝負は分が悪い、ということだ。
ISとは違って生身の戦闘は持ち前の運動神経に依存してしまう。いくら邪魔は無いにしても、むしろ一対一の状態で菖蒲が疾風に勝つことなど不可能だろう。
同じ二組で恋する乙女という共通点から一気に親睦を深めた二人。なんとかならないかと、鈴は普段考えない頭を働かせた。
「ねえ菖蒲、あたしと組まない?」
他の四人にばれないように小声で話す。幸い他のシンデレラは自身の武具選びと一夏の王冠の事で頭が一杯だ。
「組む? 同盟を組むという事ですか?」
「そうよ。まず一夏を見つける。そしたらあんたが援護して、あたしが王冠をふんだくる。そのあとあたしとあんたで疾風を追い詰めて菖蒲が疾風の王冠を取るの」
「で、でも。一夏様を追う間に疾風様の王冠が誰かに取られたら」
「さっきも言ったでしょ。疾風を狙うのは貴女だけだって。それに、さっきの生徒会長の口振りだと、誤って王冠を取ったら即相部屋よ。だから誰も、迂闊には手を出さない筈」
「成る程……」
「どう? お互いに良い考えだと思うんだけど」
短絡的な鈴と違って深慮な菖蒲は目を閉じて思考を整理する。
「そうですね。私も今回は願ってもいない好機ですし」
「決まりね。じゃあ二人で天下取るわよ!」
「はい!」
色んな意味で共通点のある二組コンビはガッシリと固く握手をまじ合わしたのだった。
「………居ないわね」
隠れるのも上手いのか、それとも悪運が強いのか。はたまたその両方か
「悪運が強い線あるわね。初めて無人機が襲来してきた時とかその他諸々含めて。ああもう! ほんと何処に居んのよあいつ!」
文句を言うもなにも変わらないと思っていると、突如アリーナの電源が一斉に落ちた。
「はっ? なに、停電? こんな時に」
観客席も何事かとどよめく中、生徒会長の放送が始まった。
『時は強き戦乙女が入り乱れる乱世。その時代のある王国には二人の王子が居ました。一人は王位継承権を持つ心優しき第一王子。もう一人は同じく継承権を持つ逞しき第二王子』
「え、何これ?」
『ある日、平和だった王国にも他国の刺客であるシンデレラの魔の手が迫る。慌てふためく城内。このままでは王国の最重要機密である王冠が奪われ、国が他国の手に渡ってしまう。それで良いのか? このまま逃げ続け、シンデレラに怯えてるだけで良いのか──否、断じて否!!』
生徒会長の熱演に呆気に取られる鈴。ふと静寂の暗闇の何処かからコツッ、コツッ、と足音が聞こえてきた。
いや、これはただの足音ではない。誰かが意図的に鳴らしている。
まるで自分は此処だと、此処に向かっているとでも言うように。
『王国は、シンデレラのティアラに王子の王冠を安全に奪取する仕掛けが施されているという情報を知る。ならばティアラを奪えば、シンデレラの侵攻を食い止める事が出来る!!』
「は? え? は?」
もはやなんのこっちゃと鈴は首をかしげるばかり。
足音が段々、段々大きくなる。
『第一王子は言った。出来るなら戦いは避けたい。第二王子は言った。私は戦う、守るべき国の為に!』
「え? 王子が戦う? しかも第二王子?」
迫り来る足音に、鈴はまさかと暗闇に向かって青竜刀を構える。
『迷える第一王子、戦わんとする第二王子。果たして、王国の運命や如何に! 王子よ! 否!
カッっ!
一際大きい足音、暗がりの向こうに何かが居た。
『これより語るわシンデレラの第二幕。『シンデレラVSシンダーラッド』! さあっ! 幕は切って落とされた!!』
カッと! アリーナに消えた光が戻り、目が眩みながら眼前に居る誰かに目を向けた。
「なっ!?」
「「うおー!!」」
見晴らしの良い渡り廊下。そこには居なかったはず第二王子、疾風の登場に。会場は沸き上がった。
静かに、俯いていた疾風がゆっくりと顔を上げる。
あらわになった表情は、薄ら笑いを浮かべ、目は獣の用にギラつき手にもつ西洋の刃をクルンと遊ばれていた。
何時もと違う、見たことのない彼の表情に一瞬足がすくむ。
「っ!」
その瞬間を逃さず、疾風はその名通り風となって疾走った。
一瞬で詰められた間合い、振るわれた剣を既のところで払う。すれ違うシンダーラッド、剣を払った腕が痺れる。
(なんっつー衝撃)
考えるも束の間、疾風が再び距離を積めて剣戟を振るう。
「やあっ東洋のシンデレラ! 気分は、どうだい!?」
「ぐぅっ!」
力が籠った連撃。一発一発が青竜刀を伝わり鈴の細腕が震える。なんとか振り払って距離を取り飛刀を投げつけるも、彼は容易く避けた。
「さあ、ティアラを寄越しな!」
「はぁっ! なによそれ!? あたし達が王冠を取る劇でしょこれはっ!」
「会長が言ってたろ? 俺達シンダーラッドは、シンデレラのティアラを奪うことで王冠の簒奪を阻止する。第二幕は開かれた。さあ楽しもうぜシンデレラぁ! この灰燼舞う舞踏会を!!」
ハイになった疾風が芝居がかった口調と共に刃を振るう。鈴は彼の急激な変化についていけず。防戦一方だった。
(なによこいつ! ISに乗ってるときと同じ、いやそれ以上にテンション高いじゃない! てか白兵であたしに迫ってる!?)
鈴も代表候補生としてある程度の護身術は身に付けている。それも大の大人相手にも負けないぐらいに。
しかし疾風は中学の頃から己を鍛え上げ、自信の才能と能力を伸ばし続けてきた。
いつの日か、憧れのインフィニット・ストラトスに乗れる日を信じて。
「おいおい! 代表候補生ってそんな程度か!?」
「くっ、何をっ!」
負けじと武器を振るうも呆気なく流される。
「見た目どおりひ弱ちゃんなのか? ほれほれ、かかってこいよ。猪突猛進が売りじゃなかったのかチャイニーズ」
「は、はあ? あ、あたしがそんな安い挑発に乗ると、おもってんのぉ?」
疾風の手招きにほぼほぼ落ち欠けてる鈴だがすんでのとこで堪えた。
菖蒲がいない以上、無理に相手する必要などない。
冷静を保った鈴は立派だったろう。
だがイレギュラーがあるとすれば。
「来いよ幼児体型」
「………は?」
今日の疾風は、色々ぶっ壊れていた。
「来なよド貧乳」
「ぶっっっ殺すっ!!」
殺気を剥き出しに地を蹴った。
沸点最高度、全細胞が一気に発火した。
「王冠なんか知るか! 死ねオラァ!!」
「ハッハー!」
満身の怒りを込めた攻撃を、疾風は嬉々として受け止める。
「ぜらあぁぁっ!」
「おっと、荒いなっ!」
さっきの剣戟とは違い、疾風は踊るように鈴の攻撃を受け流す。
「舐めやがってっ!」
一瞬リズムをずらして横凪ぎに払う、受けのタイミングを逃した疾風の体が左にぶれた。
「貰ったぁっ!」
「それはフラグでしょっ!」
崩れた胴に突きを打つ。だが体制を崩していたと思っていた疾風がそれをステップで避け、渾身の突きが空ぶった
(誘われたっ)
「ほら正面!」
「ぬぅっ!」
繰り出される蹴りを青龍刀で防御。
だが小柄ゆえに吹っ飛んだその体躯。問題なく着地したが腕がまだ痺れていた。
蹴られた衝撃で取りこぼした青竜刀。
腰につけていた予備を取ろうとするも、腕が思うように動かない。
「いっつー。あんた今の腹で受けたら危なかったわよ」
「ガードしただろ?それに少しは力抜いてたし」
「少しってどんだけよ」
駄弁りながら青竜刀を拾い上げ二刀流になった疾風。今にも鈴に向かってきそうだ。
「さて邪魔が入らないうちにさっさと回収、おっと」
後ろに飛び退く疾風に矢が降り注がれる。
疾風は慌てる様子もなく襲撃者に顔を向けた。
「鈴様! 一度お逃げください!」
「菖蒲っ!?」
「お早く!」
「くっ!」
その場を後にする鈴を追う疾風に、菖蒲の矢がそれを阻んだ。
「ふーー」
なんとか疾風から逃げ仰せた鈴は菖蒲と合流し、物陰に身を潜める。
追っ手がいないとわかると緊張の糸が切れ、肺にたまっていた空気を一気に吐き出される。
「大丈夫ですか鈴様」
「なんとかね……しっかし油断したわ」
打たれた手首をさすりながら鈴は苦言を漏らす。
「先程の疾風様、いつもと違っていましたね。なんというのでしょう……野性的といいますか」
「言えてる。あいつインドアかと思ったらアウトドアだったのね」
「そういうものでしょうか」
「あいつ凄かったわよ。バトッてる最中ずっと笑ってたから。ふざけてるようで全く隙なんてなかったし、何者よあいつ」
容赦など無くただただ獲物を追い詰めて喰らい尽くす。
あんなのが王子なものか、もはや獣か猛禽類じゃないか。
「このままだと追い付かれるでしょう。わたくしが足止めしますから。鈴様は休んでいてください」
「あんたを見捨てれるかっつの」
「違います。痛みが引いたら加勢に来てください。その間はなんとかしのぎますので」
頼みますねと菖蒲は来るであろう第二王子の元に走った。
ーーー◇ーーー
『お姉さんはこのままでも充分楽しめてるんだけど、なんかまだ刺激が足りないなぁと思ってね?』
突如王冠から聞こえる楯無の声に一夏はまたもげんなりしてしまう。
これ以上何を求めるんだこの人は、と。
(こちとらさっきから箒たちに追われまくってへとへとだというのに)
『そこで、王子様側からも何かしてもらおうと思うの。で、その内容と言うのがシンデレラのティアラゲットイベントよ』
「……はぁ?」
本当に、ほんとーに何度目かの疑問符が浮かび上がる。
『実はね。貴方達が被っている電撃を放つ王冠はシンデレラのティアラがあって初めて安全に手に取れるのよ。だからティアラを失ったシンデレラは王子様の王冠を取ることが出来ないの。つまりシンデレラのティアラを奪えば、追われることはないという訳」
どっちにしても無茶苦茶だと本日何度目かの(以下略)
(待てよ? ということは、誰かに王冠を取ってもらえたら、俺はこの劇から脱出できるのでは?)
『今の話を聞いて一夏くんは王冠を誰かにあげれるって考えたと思うけど。その後は………どうなってもお姉さん知らないからね? フフン』
(バレてる………)
楯無の不適な笑声に、背中に氷を入れられたみたいに一夏の背筋に冷えが走った。
「もうなんなんですか! この王冠ゲットしたら何かあるんですかっ!?」
『ああん残念、一夏くん慌ててるみたいだけど、お姉さんには貴方達の声が届いていないのよ、残念。因みにティアラを無事ゲットしたら、お姉さんから豪華特典をプレゼント! と言うことなの。実行するのは本人の自由よ? じゃ、頑張ってねえ~』
「あ、あの楯無さん!? もしもし楯無さん!?」
「って言ってたけど。だったらどうしろっていうんだ………」
第二幕が始まってからしばらく立ったが、辺りの戦々恐々とした雰囲気は収まっていない。警戒しながら気が重い足をせっせと動かす。
見た感じシンデレラは各々武器を持っている。対してこちらは素手。
相手の攻撃を掻い潜りながらシンデレラの頭からティアラを奪い去る。そんなことは可能なのか。
「いや、無理だろ」
頭に浮かんだ疑問に即決する。
相手は代表候補生。候補生になるために訓練も受けているはずだ。そのなかでもラウラは現役軍人で、代表候補生ではない箒は女子剣道日本一の腕前。
素手と武器で只でさえ不利なのに本人の実力を加えれば最悪太刀打ちは出来えどティアラまでは無理だ。
ふと自分と同じ境遇の王子を思い出した。
疾風は無事なのだろうか。
まさか楯無の言葉に乗せられてティアラを奪いに行ってるのではなかろうか。
「………」
何故かわからないが、ありえないという選択肢が浮かばない一夏は首を捻ったのだった。
ーーー◇ーーー
「あれ? そっちから来てくれたの」
「ええ。嬉しいですか?」
「とても」
鈴を追っていたら向こうからシンデレラ姿の菖蒲が立ち塞がった。
といっても結構な距離を保ち、弓矢をこちらに構えている。
和服のイメージが強かったが、その姿もなかなかどうして。
「態々高台の利点を潰してまで同じ土俵に来るとは思わなかったけども」
「色々事情がありまして」
「なるほど、それは仕方ないね」
腰のベルトに差し込んでいた西洋剣と鈴から奪った青竜刀を抜き取る。
「疾風様、ですよね? 私達の知らない二重人格とかそういうのではなく」
「いやそれはそうでしょ。まあ確かに何時もの俺じゃないみたいに見えるけども」
「何故そんな攻撃的なのか聞いても?」
「うーん、まあ色々現実を見せられた後に予想だにしなかった一撃を喰らった上に誘導されたといいますか。まあ深く聞かないでくれ」
鬱憤はこの後会った時にぶちまけるつもりだから。
「言っとくけど見解どおり今の俺は容赦ないぞ。と言いつつもお前にはあまり乱暴なことはしたくないんだよな。ということでティアラ頂戴」
「貴方の王冠と交換ならいくらでも」
「あれ、お前は俺の王冠を狙うわけ?」
「是が非でも欲しいです」
他のみんなが見向きもしなかったから心底意外だった。
相対する菖蒲の今までより強気な姿勢を見るに本気なのだろう。
「そっちも何時もより覇気があるじゃないか」
「これでも将軍の血筋ですので」
「成る程納得」
「ただ」
「ん?」
「この場合だと、魔法がかかってるからでしょうかね?」
「アハハ! 好きだねそういうの!」
二刀を構えて走りだす、瞬間菖蒲は弓を射った。
人の意識で図れない速度の矢は右耳の耳たぶを擦った。
矢筒から放つ矢が2、3射たれる。
かわす、かわす。最後の矢はかわせなかったので。
「見事っ」
下段からの青竜刀で弾いた。
距離三メートル、踏み込んで間合いを詰めれる距離になって菖蒲は弓をしまって腰から刀を引き抜いた。
西洋剣と刀がぶつかる、僅かな拮抗の後菖蒲の体が後ろにのけぞった。
畳み掛ける。両の手の連撃に菖蒲は受け太刀で対応する。
菖蒲の剣はこれ以上ないぐらい捻りがなく真っ直ぐだった。
素人から見たらやるほうだが。先程の鈴と比べるとまだ拙かった。
だが彼女の気迫、本気度は見て取れてわかった。
隙あらばこちらの王冠を当てて落とそうという気概が伝わってくる。
だがそこに意識を割きすぎて胴が些か疎かになっていた。
当てようと思えば二刀の手数で叩き込める。
だが今の俺が異様に高ぶって攻撃的な気質を剥き出しになっていたとしても菖蒲の横っ腹を殴打することは。なにかと躊躇いが生まれてしまっていた。
なので。振り下ろされる刀を二刀で受け止めたのち、体ごと彼女の体にぶつかった。
「あっ!」
カランカランと乾いた音が落ちた刀から鳴った。
「あたっ。あっ」
「王手」
拾い上げた日本刀の切っ先が菖蒲の目の前に向けられる。
あまり取っ組み合いとかしたくないから、大人しく譲ってくれるとありがたいが。
「………」
彼女の強い目は諦めを持ってなかった。
また諦めてなるものかと言っていた。
でもこれは勝負だ。俺が勝ったなら褒美がなければならない。
だから俺は刀で菖蒲のティアラに切っ先を伸ばした。
その時だった。刀が赤く光り、俺の眼鏡に赤い光が散った。
カン! 刀に衝撃が走った。
衝撃が伝わる手前で俺は刀から手を放し、後ろに飛びのきながら左上に視線を移した。
ここからかなり高い高台。
そこに居たのは。
「セシリアかっ」
なんとあの細い刀にピンポイントで狙撃したのだ。いやなにそれ本職かお前!
構える銃口が僅かに下がった。ヤバイと思う前に更に後ろ足に地面を蹴った。
案の定いまいた場所に銃痕が穿たれた。
「あーくそ躊躇うんじゃなかった!」
振り返って射線が通らない場所まで無我夢中で走った。
「菖蒲、無事!? あれ、疾風は?」
「逃げられました」
「え? まさか撃退したの?」
「いえ、私ではありません」
「じゃ誰よ」
地面に転がった刀を拾い上げた。
刀身を見ると、小さく丸い跡がうっすらと残っていた。
セシリアが居た高台。そこにはもう彼女の姿はなかった。
それでも菖蒲はまだそこにセシリアが居るのではないかと錯覚した。
「助けた、訳ではないですよね?」
出来るならばプライベートチャネルを使ってでも言ってやりたかった。
菖蒲は少し恨めしく思いながら呟いた。
「は?」
「なんでもありません。行きましょう。先程一夏様の悲鳴が聞こえました」
「ちょ、それ早く言いなさいよ! 行くわよ!」
「はいっ」
ーーー◇ーーー
「んー」
対弾シールドを片手に、辺りを見渡すシャルロットは、目当てのシンダーラッド探しに明け暮れていた。
男装をすれば、紛うことなき美少年にクラスチェンジするシャルロット・デュノアであったが。そのドレス姿は正にお姫様のそれで見るものを魅了し男共から黄色い声援を浴びていた。
「いないなぁ一夏。さっきの第二幕? から歓声が上がるのが多くなってるけど。近くにそんな気配はないし。もしかして反対側に居るとか? うわっ、それなら最悪だな」
さっき強引にでも奪えばよかったかなと一人タメ息を漏らした。
「ん。ダメダメ弱気になっちゃ。これは争奪戦なんだから。先ずは見晴らしの良い場所に向かって一夏を」
フッ。自身に影が指した。明かりが消えたのではなく何かが横切るような。
それと同時に並々ならぬ予感めいたものが背筋を走り去った。
一瞬の思考の後影が指した場所に視線を向けると………
「おぉはよぉうございまぁす!!」
視線の先には満面の笑顔を浮かべ、剣を手に斬りかかってくる疾風の姿が。
「ちょっ!?」
地面を転がって降り下ろされた刃を躱すも、かすった刃がドレスを裂く。
「は、疾風!?」
「今の俺はシンダーラッドさ!」
対弾シールドを割らんばかりに打ち下ろされる剣戟を受けながら、特殊警棒を取り出して応戦する。
「ちょ、ちょっと!? 今どっから来たの!? まさかよじ登ってきたの?」
「隣からピョーンと兎の如くね」
「隣って結構な高さだけど………」
一瞬目を横に動かして再度応戦する。
数回斬り結び、ふとシャルロットは疾風が左手で振るう得物に気づく。
「それ、鈴が持ってた武器だよね」
「シンデレラから武器を奪っちゃ行けないなんてルールは無いだろう?」
「ということは、僕より前に鈴とやり合った訳」
「菖蒲ともな」
あっけらかんと語りながらも疾風の動きは苛烈で、尚且つ活き活きとしていた。
このままでは押しきられると感じ、盾を突き出して間合いを取る。逃げる為ではなく体制を整える為だ。
逃げようとすれば、忽ち間合いを詰めに来る。
だからあえて一定の距離で睨み合うのだ。
「納得した。今の第二幕ってのは疾風向きの劇って訳だ。なかなか暴れちゃってるみたいだね」
「まあね、もう溜め込んだ何かを全開放してる感じでもう爽快感バリバリよ」
「うん、分かるよ。だって疾風の目凄いキラキラしてるもん」
正直水を得た魚を越えていた。
理性蒸発してるんじゃなかろうか。そう思えるほど今の疾風には戦闘狂という言葉が似合っていた。
「てかここまで豹変するって何があったの」
「うん。箒とラウラは『邪魔だどけ』って感じ、鈴とお前には誤魔化され。挙げ句の果てにはセシリアに銃弾ぶちこまれたし………あれはつらかった」
「もしかして、今の状態ってその反動もきてる?」
「否定はしないね!」
子供みたいな満面の笑みとは裏腹に纏っている物は悔しさと悲しさが滲み出ていた。
蹴りをひらりと避けて距離を取った。
「知ってたけど相手にされないってこんなに悲しいのね! やっぱ執事verは幻想だったな! まあ菖蒲は相手してくれたけども」
「疾風ってモテたいの?」
「いや別に」
「じゃあなんで」
「知らないよ」
「あ、わかった! セシリアに拒否されたのが」
「よし。先ずはその盾砕くか」
(やばい、地雷踏んだ)
普段の何オクターブも下げられた低音ボイス
身の危険を感じたシャルロットは脇目もふらずに走り出した。
シャルロットも運動神経はいいが、如何せんかさ張る防弾シールドを持ったままで逃げれる筈もなく。
疾風の剣はすぐそこだった
(やっぱり逃げれないか。仕方ない)
思考が完了するより早く反転、地面を蹴って防弾シールドを前にせり出す。
不意を突かれた疾風は即座にブレーキをかけるも、勢いを前に出しすぎてそのままシールドに体当たりをかます。
「とっ!?」
中途半端に止められた勢いで両者に空間が開く、振り替える間に空いた手でモデルガンを引き抜いてそのまま撃ち放った。
狙いも定まらずに三発、一発は床と宙に向き、二発目は疾風の青竜刀に、三発目は彼の頬をかすった。
体制を崩されたたらを踏みながらも。その場で踏み止まって次弾に備えて武器を構えなおす。
(右肩と右胸、貰う!)
今度は狙いを定めての二発、距離感も近い。
当たると確信し、身を翻してその場を脱しようと足を動かす。一夏を早く見つけなければという焦りもあってその行動は早かった。
バチンっ!
視界の隅に写った疾風にシャルロットは思わず目を見開いた。
それもそのはず、完全に当たると思っていた二つの銃弾。
右肩を狙ったそれは僅かにかするだけに留まり。右胸にめり込むはずの銃弾はあろうことか彼が振るった剣で弾き飛ばされたのだ。
「嘘でしょっ!?」
銃弾を剣で弾く。それは言うよりも遥かに難しいもの。
色々条件はあるものの敢えて要素を出すならば、飛んでくる小さな銃弾に正確に当てる動体視力。
疾風は日頃から身体トレーニングの他に動体視力のトレーニングを欠かさずに行っている。
ISには全体視界機能がある。目まぐるしい空中戦闘が主なISでの戦闘はとにかく情報量が多い
見るものを理解すればおのずと戦闘に有利となる材料を拾えるということに他ならない。
近距離故に弾道がぶれなかったこと、モデルガン故の威力というのもあるが。
銃弾を弾いたという事実はシャルロットを揺さぶるには充分過ぎた。
思いっきり地を蹴り出し、目を見開いているシャルロットに二刀の重撃を叩き付ける。
硝子製の防弾シールドはそれに耐えきれず粉々に砕け散り、衝撃でシャルロットの表情が歪む。
「取るぞティアラっ!!」
足を踏みしめ、ブロンドヘアーの上に鎮座するティアラに手を伸ばさんとする。
(と、取られる!)
咄嗟に腕を交差してティアラを守ろうとしるも、それも空しく、疾風の手が早いことは明確だった。
が、何故か踏みしめようとした疾風の足が不意に沈みこんだ
「いぃっ?」
ティアラを手にいらんとしたその手は代わりにシャルロットの持つ黒光りしたモデルガンを奪い去った。
次の瞬間、シャルロットの居た場所から疾風の頭ひとつ分の壁が迫り上がり。彼女を塀の上に押しやった。
「うわあっ!」
「はぁっ!?」
突然のギミックに困惑しながらもシャルロットは疾風とは逆サイドに降りたって必死にその場から離れた。
「ちょ、逃がすか!」
このていどの高さなど登れない疾風ではない。
少し助走をつけて壁の上に這い上がろうとすると。
ビスッ!
「わたっ!?」
目の前の地面が弾けた。
驚きのあまり後ろに落ちて尻餅をついた。
「いったー! なに今の」
左右を見ると。先程疾風が飛び降りた場所にライフルを持ったセシリアが走り去って行くのが見えていた。
「あいつなんなんだよマジで!」
苛立ちを隠すことなく吠えても空しく響くだけで。
今から飛び越えても間に合わないと判断した疾風は即座に次の獲物を求めて駆け出した。
ーーー◇ーーー
歓声で震える第四アリーナの振動が伝わる何処かの暗がりに、一人の女性が佇んでいた。
一夏に声をかけていた、IS装備開発企業『みつるぎ』の巻紙礼子女史だった。
一夏に向けていた愛想など微塵もなく、何処か苛立ちを感じながらしきりに舌を打ち続けていた。
ポケットの端末が震え、連絡先の名前に。思わず喜の感情が沸き上がった。
一度沸き上がった感情を咳払いで制止、電話口に出向く。
「………私だ」
「御機嫌よう、巻上玲子さん」
「お前にその名前で呼ばれるのは嫌だな」
「あら、ごめんなさいオータム」
鈴の鳴るような声色が耳を撫でた。
電話の向こうで、彼女が口許に手を当ててクスクスと笑っているのが容易に想像が出来た。
「それで、首尾はどうなってるのかしら?」
「一度目のアプローチは失敗。今あのガキ共は学園のイベントとやらで走り回っている。一応網ははっているが、余程のラッキーパンチが無きゃ引っ掛からねえだろうよ」
「まあ場所が場所だものね」
「いざとなりゃ穴から飛び出して標的ごと拐うさ」
「あら、蜘蛛から蟻地獄にクラスチェンジ?」
「ハハッ、おもしれぇ。」
ジョークを笑い飛ばすオータム。
だが次の言葉でその笑いは止まった。
「先程Mから連絡が来たわ。『手子摺るようなら私が行く』って」
「はっ!? あいつを連れてきたのか!? 私だけで充分だと言っただろう!?」
「落ち着いて。別に貴方の力を信じていない訳じゃないわ。だけど念には念を入れておいた方が良いでしょう?」
「だけどよー」
あの新顔が近くに居るとわかると、無性に腹が立ってくる。
オータムは声に出さないように憤りを隠した。
「あいつに伝えといてくれ。お前は帰ってミルクでも啜ってろってな」
「はいはい、それじゃ頑張って頂戴ね」
「ああ」
電話が終わると、また歓声が耳に届いた。
「チッ」
平和ボケしたIS学園に嫌気がさすかのように巻上、もといオータムは一際大きく舌を打った。