IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「一夏何処よ一!」
「見失いましたね」
「んがあぁ!」
「り、鈴様。そんな大声あげたら疾風様が来てしまいますよ?」
「あ、いけないいけない」
「まだ遠くには行ってないでしょうし、探しましょう」
「ええ」
菖蒲のおかげで平静を取り戻した鈴は見失った一夏を捜索すべく駆け出した。
二体一でも怪しいことだと考えた二人は先ずは一夏の王冠から刈り取る事に決めた。
疾風は、一夏の王冠を奪取した後に残りのシンデレラ全員で袋叩きにするということにした。まだ他の面子には話してないが、疾風の王冠を狙うのが現状菖蒲のみだから充分立案可能な作戦と判断した。
「鈴様、一夏様はどれぐらいお強いのですか?」
「んー。箒の話だと小学生まで剣道やってたみたいだけど。あたしと居たときはバイト三昧だったからねー」
「成る程」
「それにあいつISならいざ知らず女子相手に強く出れないわよ。男が女をうんたらって奴だから」
「では早々に奇襲をかけて強奪しましょう。狼狽えてるうちに叩き伏せるのです」
「……あんたって時々言動が物騒よね」
「え?」
ーーー◇ーーー
「……なんとか撒いた。ふー」
まるでフルマラソンを走りきったみたいに足に乳酸が溜まっている。
まったく休む暇もないとはこの事だ。
一夏は逃げながら考えていたことを吐露した。
「てゆーか、何時になったら終わるんだこの劇は………」
お恥ずかしながら一夏は学園祭のしおりは特に目を通してはなく。イベントの時間帯など皆目検討もつかないのだ。
此処に来たのも楯無に半ば無理くり連れてこられたせいもあり。
もしやどちらかの王冠、又はティアラが無くなるまで終われません! と思うと身震いを禁じ得ない
「やっぱり誰かに王冠渡そうかな。でもあの楯無さんの意味深な笑みが怖いし。だけどこれ以上続けるのも………ああ! どうしたらいいんだよ!!」
「簡単だよ、奪って奪って奪いまくればいいのさ」
「奪う? やっぱり戦うしか……え?」
今誰と話していた。振り向いた先には。
「ていやぁ!」
「いてっ!」
カツンと頭を叩かれて一夏は転がった。
「油断しすぎだぞ第一王子ワンサマー。こんな近くに居ても気付かないとか警戒心皆無か」
「は、疾風!?」
「どうも第二王子ゲイルです」
何時の間に居たのか、武器をクルクル回している疾風がいた。
「相変わらず平和ボケ噛ましてんな。俺が姫サイドだったらお前ジエンドだからな。良かったな。皆が皆、猪突猛シンデレラで」
「上手いこと言ったつもりか?」
目の前でケラケラと笑う疾風はなんというか。一夏と違って充実していた。
右手には飾り気のない西洋の剣。左にはついさっき見たものと瓜二つの青竜刀。腰のベルトにはハンドガン一丁と複数の飛刀が刺さっていた。
「なんだその姿は」
「奪った」
「なにから?」
「シンデレラから!」
ニカッと爽やかに笑っているにも関わらず、一夏はヒクッと口許をひきつらせた。
狙われていないのに狙われた。そんな獲物の心境を垣間見た。
「お前、楯無さんが始めたティアラゲット作戦を実行してんのか?」
「おうとも! 向こうから一向に狙ってくれないからさ。ならばこっちからハンティングしちまえってな! サーチ&デストロイよ! サーチ&デストロイ!」
「て、テンション高。てか声でけえよ!」
慌てて辺りを見回した後。小声でヒソヒソ喋る。
「ね、狙ってくれない? なんでお前だけ狙われないんだよ! 理不尽にも程がある!」
「じゃあ逆になんでお前が狙われるのか考えてみろよ」
「え、えー。えーと………俺の方が取りやすいからか?」
「それ自分で言ってて悲しくない?」
自分でも情けない事を言ってしまったのは分かっていた。だが改めて言われると杭を更に打たれるような精神的苦痛が襲い掛かって来た。
「情けないなぁ。本当に情けないなぁ」
「お前が勇まし過ぎるんだよ」
「ほれ。武器一個上げるから、これで頑張りな」
一夏は疾風に差し出された二つのうち、西洋剣の方を手に取った。
戦うか戦わないかは別にして、丸腰よりは幾分精神的な余裕も生まれる。
「それはそうと一夏、提案があるのだが」
「ん?」
疾風は先程の笑顔と違う、とても真剣な顔をしていた。
「お前と俺がいて初めて上手く行く計画なんだ、聞いてくれるか」
「お、おう。俺に出来ることなら何でもやるぞ」
「頼もしいな。じゃあ言うぞ」
(い、一体どんな作戦なんだ)
疾風の事だ、この状況を打開できる一手を出してくれるに違いない。福音戦の時も彼の士気は見事なものだったとラウラから太鼓判を貰っている。
期待に胸を膨らませ、一夏は疾風の次の言葉を今か今かと待った。
「お前、見晴らしの良い場所で大声出してくんね? それで群がってきたシンデレラを俺が」
「却下だっ!」
「チッ、引っ掛からなかったか」
「そこまで馬鹿じゃねえよ!」
仮に一斉に来た6人中の一人を疾風が相手するにしても。全員俺狙いなら残り5人と鬼ごっこじゃないか!!
「シクシク。俺を信じて活き餌になってくれると信じてたのに裏切られた」
「お前なぁっ」
「ハッハッハ、怒るな怒るな。じゃ、俺は行くわ。精々頑張んなよ第一王子。オラァァァ! 何処に居るシンデレラぁ! 俺は此処だぞーー!!」
疾風は叫びながら何処かに消えていった。
あんな大声出したら皆に気づかれるだろうに。
とりあえず、さっきの疾風の作戦じゃないが注意を引いてくれているうちに此処を離れなければ。
「あっ、シンデレラがいつ終わるか聞けば良かった」
今から疾風を追うのは無理だ。シンデレラと鉢合う可能性が高いし。なによりあいつは恐ろしく足が速い。
「ここら辺に一夏が居る気がするわ」
「どうして分かるんですか?」
「女の勘よ」
「信じましょう」
(ゲッ、今のは鈴と菖蒲さんの声)
気づかれないように声がした方向とは逆に足を動かす。
パキッ
「ヴァっ」
なんという不幸か。足元に目を向けるとポキリと折れている木の枝が……
「一夏ぁぁ!」
「お命頂戴!」
「うおおおぉぉぉ!?」
ーーー◇ーーー
「………はあ」
スコープを覗きながらセシリアはタメ息を吐いた。
その先には一夏を追う鈴と菖蒲の姿があったが。彼女は引き金を引くことはなかった。
「何がしたいのでしょうね、わたくしは」
先程の狙撃を思い出してまたタメ息を漏らす。
疾風が菖蒲のティアラを奪おうとした時に二発。
疾風がシャルロットを追おうと壁を登ろうとしたときに一発。
はっきり言って。あの三発は完全に意識的に撃った。
もしシンダーラッド側がティアラを奪った時、その報酬が自分たちシンデレラと同じだとしたら。
そう考えた瞬間頭が真っ白になって気付いたら疾風の行く手を遮っていた。
何故か。どうしてか。
考え付いた先の答えを見つけようとしたらなんとも言えないノイズが邪魔をした。
認めたくないのか。そうなるのが嫌だったのか。
「何を?」
自分に問いかけた。
何度考えたか、何度疑問にしたか。その度に頭のなかでグルグル回ってグチャグチャに絡まって終わる。
答えなんて。
セシリアは考えるのをやめた。
そろそろ場所を移そうとセシリアは後ろを向いた。
「えっ」
「あっ」
距離にして2~3m。
振り向いた先に王子服には身を包んだ疾風がセシリアに手を伸ばしていたまま固まっていた。
「「っ!」」
コンマ数秒の硬直から解かれた二人は速かった。
セシリアはライフルを腰だめで構え、撃つ。
だがそれより速く伸ばした手とは逆に握っていた青竜刀の刀身で弾をガード。
距離的にも分が悪いと判断したセシリアは持っていたライフルを投げつけ、即座に射程外へ退避。
ライフルを払った疾風にモデルガンを抜く。疾風も同様に腰からモデルガンを抜いて相対する。
束の間の沈黙が二人を覆った。
「感が良いな。それとも運が良いのかお前」
「運が良い? 貴方に出会ったという事だけで状況は最悪ですわ」
「さっき自分がやったことを承知で言ってるのかお前は」
引き金に指をかけたままのセシリアに疾風は独白する。
「最初。他のやつらにもことごとくスルーはされた。それはいいよ大体予想つくし。一夏はモテますねですんださ。けどさ、出会い頭にライフルぶっぱなすって酷くない!? あれほど俺の心を抉ったもんは無かったぞ! 思わず膝をついたわ!」
「そ、そんなに?」
「そんなに! 菖蒲は俺の王冠欲しいってさ! 優しいねあの子!」
菖蒲の名前が出てセシリアの機嫌が悪くなる。
ひくつく唇を必死に制止しながらセシリアは口を開く。
「あ、菖蒲さんに相手にされて良かったですわねぇ疾風」
「ああそうだな。だけどお前が邪魔したせいでティアラ取れなかったけどな!」
「や、やはり取ろうとしてましたの!?」
「当たり前だろう?(豪華賞品欲しいし)」
「あ、ああ当たり前!?(まさか疾風は菖蒲さんと一緒に!?)」
カタカタとセシリアのモデルガンが震えた。隙を見つけた疾風だが、何故か狼狽えてるセシリアを前に様子を見る選択をとった。
「そ、そうですわ! あなた菖蒲さんのティアラを狙っておきながら鈴さんとシャルロットさんのティアラも狙いましたわね!?」
「え、そうだけど。だからなに? どのティアラから取ろうが俺の勝手じゃん(どれ取っても賞品ゲット出来るし)」
「だ、だからなに!? あ、貴方いつからそんな節操なしになったのですか!?」
「節操なし言われても」
そういうゲームだしと、疾風は心底わからないと首を捻るなかセシリアは頭を抱えて悶えていた。
「まさか貴方。他の皆さんのティアラも狙ってますの?」
「ああ、可能ならコンプリート目指したいな」
「こ、こここコンプリートぅぉ!?」
「大丈夫かお前」
グラッとセシリアはふらつきながらも貴族精神を支えに踏みとどまった。
(こ、コンプリート………それって、それってすなわち)
セシリアの脳内に白いバスローブを着た疾風が皆を侍らせてハーレムしてる光景がありありと浮かんだ。
「とりあえずコンプ目指すにはお前の狙撃は邪魔だからな。先ずはお前のティアラを頂いてリタイアさせてやる!」
「わ、わたくしのティアラもっ!!?」
バスローブ疾風のお膝の上にセシリアが追加された。何故かベビードール姿で。
「あ、あぁ………」
「おいどうした。マジで大丈夫かお前」
「なんということ………なんということですの………」
「もしもし。聞こえてる? セシリアさーん?」
疾風の声など聞く余裕もなくセシリアはプルプルと小刻みに震え続けた。
(どうしよ。もうなんかこれに乗じてティアラ奪っちまうか)
「……ゆ」
「?」
「許しませんわ」
「は?」
セシリアは右手に持っていたモデルガンをしまい。腰からレイピアを抜き取った。
「わたくしの知らぬ間に。疾風が節操なしに」
「はあ?」
「わたくしが何か色々考えてる間に。よくもまあそんなふしだらになられましたわね!」
「ちょっ、なんの話!?」
シュっとレイピアをしならせ切っ先を疾風の顔面に向けた。
「オルコット家当主。セシリア・オルコット! 今こそ友の不義を正します!!」
「行きなりやる気出しすぎだろお前!」
「問答無用! セェアァァッ!!」
今まで出したことないぐらい気合いの入った声を発しながらセシリアは疾風に突っ込んだ。
対する疾風も一先ず思考を捨てて戦いに乗り出した。
ーーー◇ーーー
「あー、足いてー」
ドカッと腰を落とした一夏はたまらず息を吐き、体の力を抜ききってリラックスする。
演劇が開始してから約20分、一夏はずっと走りっぱなしだったのだ。体力にはある程度自信のあると思っていたが。やはり中学時代に帰宅部だったせいか身体は確実に衰えていた。
「このままだと、何処の分からない部活に入んなきゃいけないんだよな。こんなことになるなら、もっと真剣に考えるべきだったな」
一夏が部活を決めないせいで女子達が苦情を言ってきたのがことの発端な訳だが。
それでこんな騒動になるとは、巻き込まれる側の一夏にとって溜まったものではなかった。
「はあ。でも一ヶ所にとどまるのは危険だな。演劇終了まで逃げ延びねえと。うおっ」
何処かでカンッ!と乾いた音が鳴り、一夏は急いで周囲を見渡した。
「な、なんだ?」
「一夏、こっちだ」
「え、箒? どこだ?」
「こっちだこっち」
物陰を覗いてみると此方に手招きする箒の姿があった。
「早くしろ。こっちだ!」
「お、おう!」
箒も王冠を狙っているのかと一瞬勘ぐった一夏だが。箒は騙し討ちなどしないだろうと迷わず近づいた。
「一夏、大丈夫か」
「はあ、ふう……大丈夫だ」
「これしきのことで息も絶え絶えとは。鍛え方がなってないのではないか」
「ぐうの音も出ない」
自分より動いているであろう疾風を思い浮かべながら一夏は肯定した。
「とにかく今地上は危険だ。この先に梯子がある、それで上に行こう」
「わかった。助けてくれてありがとう」
「いやその………ここで奪いにいっても誰かに邪魔されるだろうし、やるなら正々堂々と………」
「え?」
「な、なんでもない! 行くぞ」
「お、おう」
ーーー◇ーーー
俺の青竜刀とセシリアのレイピアがかち合った。
手が少し痺れた。というか突きの威力が細腕に見合わないぐらい強い。
このまま打ち合いになるかと思ったらセシリアが腰からモデルガンを抜いて撃ってきた。
俺は連射される弾を紙一重でよけながら距離を取った。
こっちもシャルロットから奪ったモデルガンで応戦したいところだが、予備弾倉がないために無駄撃ちが出来ない。
対してセシリアは弾が尽きると、マガジンを交換して即座に撃ちはなってくる。なんとかリロードの合間に仕掛けようにも距離の取り方とリロードの早さで、なかなか付け入る隙を与えてくれない。
ていうか顔がマジすぎるんですけどこのお嬢様。
軽口を叩く暇すらねえ。
あの射撃を掻い潜って攻撃をするのは難易度は馬鹿にならない。
この射撃の正確さだ。ISでの射撃能力の高さも頷ける程の精密射撃。
距離離したらそれはそれで駄目だ。かといって近づくか?
長期戦は不利だろう。というかその前に取られる。
うん、ならやることは一つだ。シンプルで良いじゃないか。
こっちの装弾数は5発。
あっちも同じ型なら後3発……2…よし今っ!
残り一発が撃った瞬間、全速力で駆け出し残りの弾をぶっ放して接近する。
走りながらで当たりもしない弾をセシリアは焦らずに躱しながらマガジンを再装填する。
だが撃たれてることで先程の手際の良さは鈍り、残り1mの時点で射撃体勢に入らせることが出来た。
姿勢を低くして敵の喉元に食らい付く。対するセシリアも至近距離から躊躇いもなく弾丸を撃つ。
「いっ! っらぁ!!」
肩に弾がめり込んで痛みが走る。奥歯を噛み締め、右手に持ち直した青竜刀をそのモデルガンに向けて力の限り振り上げた。
青竜刀に弾かれたモデルガンは回転しながら物見台の下へ落ちていった。
「くっ!」
セシリアは腰に差していたレイピアを一閃。大振りにより隙だらけの俺に切っ先を打ち込む。
それを見越し直ぐ様振った方向とは逆に青竜刀を戻してレイピアを弾き、距離を取った。
体勢を戻そうとするも、それをさせまいとセシリアは踏み込んで連撃を加える。
軽やかな動きとは裏腹に鋭く重い刺突に自身の重心がぶれる。
刺突かと思えば横薙ぎ。多彩かつ素早い攻撃に防戦一方を強いられた。
接近戦不得意って絶対嘘だろこいつ。
IS初戦の時も特訓の末に身に付けたというが。単に接近戦サボってただけじゃね? と思わずにいられない。
ギリギリでよけるもレイピアの薄い刀身がしなり、服をこすって裂く。
負けじと青竜刀を振るってセシリアのドレスが破れる。
強引に距離を離し、腰に差していた残りの飛刀を向かってくる彼女に投げ付ける。
だがセシリアは止まらない。向かってくる飛刀を叩き落としてきた。
「いやお前ほんとっマジ!」
「人のこと言えないでしょう!」
飛刀を投げた俺の青竜刀はこちらの獲物とは逆方向。どうあがいても青竜刀でレイピアを払うのは不可能だった。
がら空きとなっている左手に今正にそれは突き刺さらんとする。
だがセシリアにとって予想打にしない方法でそれを防いだ。
向かってくるレイピアを直接腕で振り払ったのである。
「えっ!?」
本来なら痛みと共に鮮血が飛び散るはずだが。今回の武器は模擬刀であるが為に白刃が存在しない。
更に力が横にかかっていないのでそれを振り払うのに余計な力もダメージも軽くすんだ。
だが本人は分かっていたとしても通常のレイピアと同様に意識して振るっていたため、その行為に目を疑い驚愕の表情を浮かべていた。
その隙を逃さずにその細く白い腕に青竜刀を当てる。
「くっ!」
右腕から走る痛みにセシリアは鈴と同様にレイピアを持つ手が緩み、その手から離れた。
俺は青竜刀を逆手に持ち替え、その切っ先を白銀のティアラに向ける。
誰もが
ただ一人。痛みに体が麻痺し、それでもなお信念の火を絶やさない。シンデレラを除いて。
カンッ!
「なにっ!?」
姿勢を低くしたままの体勢でセシリアは腕を思いきり振り上げた。振り上げられた腕は青竜刀を弾いた。
セシリアからは疾風の上半身は目に入っていなかった。だが疾風なら必ずこうすると、チャンスを逃さないはずだという確信があった。
先程セシリアにしたことをそのまんま返された俺の胸倉を掴みあげ、なんとそのまま自分の頭に引き寄せて頭突きをかましてきやがった。
「ぐっ!」
「~!」
その清廉な容姿から似つかないプライドガン無視の泥臭い攻撃に会場は驚きに沸き上がった。
だが一番衝撃を受けていたのは頭突きを受けた俺自身だった。
頭がチカチカする。目眩も来てる。とにかく相手に目線を向けることに集中する。
身体的なショックもあるが、精神的にも来たものがある。
まさかあんな野蛮な攻撃を目の前の由緒正しい貴族様が噛ましてくるとは。
目の前のシンデレラ様は頭を振りながら、痺れている利き手である右手とは逆の左手でレイピアを構えた。
「いってーな。随分とワイルドに決めてくれたもんだな。取れると思ったのに」
「友の不義を正すためですもの。なりふり構っていられませんわ」
「お前、俺相手だとなりふり構わなさ過ぎじゃない? てかなんだよ不義って」
「不義は不義ですわ! ハーレムなど作らせるものですか!」
「もう何度目かわかんないけどマジでなんの話!?」
明らかに俺を地に伏せる敵意を宿したその目と立ち振舞いに思わず身震いする。
てかハーレムってなんぞ? 生まれてこのかた考えたことないんですが。
誤解を解こうにも相手は聞き入れて貰えそうにない。
俺は心当たりのない敵対心と向き合うことにした。
ーーー◇ーーー
「はあ……やっとついたぁー」
箒に手招きされ、案内された梯子を登って上階にたどり着いた一夏と箒はその場に座り込んだ。
一息ついた後。一夏はジロリと箒を横目に見た
「なぁ箒。助けてくれたのは感謝してる上で。一つ言いたいのだが」
「な、なんだ」
「俺が悪いのは重々承知してるけどさ、それでも言わせてくれ。先に登っておいて上を見るなは酷いと思う。そして更に蹴りを入れるって……」
「悪かったな! 私だって必死なんだ!」
そう、梯子を登るときに一夏はレディファーストの精神で先に行かせたのはよかったが。上記の通りである
自分にも非があると思っているのでそこまで強く出れない一夏だが。
「まあいいや。とりあえずありがとう、ほう……き?」
振り替えると。箒がそそくさと距離を取っていた。
「箒? なんで離れる? なんで武器に手をかけるんだ!?」
「お、お前だって武器を持ってるだろう。さっきの楯無さんの話も聞いているはずだ。現に疾風が暴れまわってるのを見ているからな」
「まてまて! 俺は奪い取るとかそんなつもりねえって!」
「だが、それなら私達は遠慮なく襲い掛かるぞ」
「だとしても。無闇矢鱈に女子に手をあげるわけには行かないだろ」
仮にそういうルールだとしても、一夏は極力戦いたくない派である。
男が女に手を挙げるのは最低なことだというのが一夏の根っ子として深く根付いているからだ。
「まったく。お前は本当に甘い奴だな。まあそこがお前の長所でもあるのだが………」
箒は武器から手を外し。今度は何処か居心地が悪そうにもじもじとしだした。
あ、これは………
「と、ところで一夏……」
「王冠を渡してくれないか、だろ?」
「なぁっ!?」
「流石に何度も言われたら分かるよ」
「な、なに! お前本当に一夏かっ!?」
「お前俺をなんだと思ってるんだ!」
「鈍感! 耳腐れ! 唐変木!!」
「ぐはっ!」
即座に吐き出された三連発は確実に一夏にの体に突き刺さってた。致命傷である
「なあ、なんでこれを狙うんだよ。それがハッキリしないとこっちも渡しようがないんだよ」
「そ、それはだな………その、えっと」
「?」
「………言えない」
「だろうな」
一夏は10回目を越えたタメ息を吐いた。
ガッコン!
「「ヘ?」」
音のした方向に向くと。壁だと思ってた所が観音開きで開かれ、中から巨大なボールが転がってきた。
「ええ!?」
「やっば!! 逃げるぞ箒!!」
「ふ、ええ!?」
箒の手を取り、一夏は迫り来る大玉から走る。
だが大玉は確実にこっちとの距離を詰めてきていた。
「まずい、まずいぞこれは!」
「わわわわ」
「あ、あそこに!」
「え? きゃっ!」
通路の途中にあった窪みに箒ごと自分の体を放り込んだ。
間一髪、大玉は一夏達を通りすぎて下まで転がっていった。
「ふぅっ。助かった」
しかしこんな仕掛けが来るとは。先程食らった迫撃砲といいこれ本当に安全が保証されてるのだろうか。
制作者側に言いたい文句が増える一方の一夏の腕の中で箒は身動ぎした。
「い、一夏。その、手をどけてもらえないだろうか」
「え? あ、すまん」
思いのほか密着してしまってお互いに気不味い雰囲気が漂った。
「箒、さっきの続きだけど、なんで皆この王冠を欲しがるんだ?」
「そ、それはだな………」
「王冠は私が頂く!!」
振り替えると先程別れたばかりのラウラがナイフを手に飛びかかってきた。
それをさせじと箒が日本刀でそれを受け止めた。
「どういうつもりだ!」
「知れたこと! お前に一夏は渡さん!」
「こちらの台詞だ!!」
「お、おい! お前ら!!」
二人は屋根づたいに移動し、再び切り結んだ。
「先ずは貴様から排除してくれる!」
「ふん、やれるものならな!」
刀とナイフによる甲高い音がに響く。
ラウラの縦横無尽な攻撃を、箒は刀一本で捌いていく。
(こ、ここは混乱に乗じて逃げるべきか? いや、先ずは二人を止めないと)
お人好し一夏君が発動した。
しかしそれは生肉スーツでライオンとトラの間に行くのと同義である。
「おい! お前らやめろって!」
「「はぁぁぁあああっ!!」」
だが二人は止まるどころか益々ヒートアップ
どうしたらいいかとオロつく一夏。
その時。
ズガァァァン!!
「こ、今度はなんだ!?」
一際大きい音が向こうの方から。一夏は勿論、剣劇を繰り広げていた二人もたちまち向こうを向いた。
そこには。先程の大玉がぶち当たり、轟音を立てながら傾く物見台の姿があった。
ーーー◇ーーー
「せいっ!」
「はぁっ!」
箒とラウラが切り結ぶのと同時刻、物見台の決闘は佳境に迫っていた。
お互い一歩も譲らない剣捌きを繰り広げ、会場の観客もその試合にのめり込んでいた。
「そこだっ! やっちまえ!」
「今だ! 突け! 突け!」
一番目立つ場所にあり。戦いが長引いているせいかいつの間にかシンデレラの主役はこの二人になっていた。
斬っては引き、突いては薙ぎ。変幻自在の攻撃を放つ英国血統のシンダーラッドとシンデレラは大勢の歓声を浴びながら、剣戟の舞を踊り続けた。
あと一歩で届く、だがその一歩が余りにも遠い。
互いに一歩も揺るがず、この剣舞がいつまでも続くものだと思われていた。
先に疲れを見せ始めたのは俺の方だ。
それも当然だ、なんせこの戦いを含めて4人も相手をしているのだ。
でも不思議と体は高揚していた。
セシリアが何故こうまで迫力を醸し出してるのかわからないが、俺はこの戦いを楽しんでいた。
男だとか女だとかそんな下らない枠組みなどなくただ純粋に心が踊っていた。
だが疲労が溜まっているのはセシリアも同じだろう。
セシリアは慣れない左手を酷使しているせいもあり、いつも以上に体に力が入っている。そして疾風とは圧倒的にスタミナの差がある。
疲労により判断力が鈍りかける。右手は未だに痛みが残り、左手も痺れてきた。だがそれでもと諦めない理由はただ一つ。
(親友の爛れた野望を阻止する為!)
素晴らしき友情である(棒)
「はあぁぁ!!」
前に足を着き渾身の一突きを放つ。突きだされたレイピアは青竜刀を弾き、深々と俺の腹にめり込んだ。
セシリアの笑みを浮かべた、だがそれは直ぐに崩れた。
ガシリと。俺は右手でレイピアを直で握りしめた。遅れて青竜刀が落ちる乾いた音がなった。
驚愕が現れているセシリアと目を合わせ、痛みを忘れて言ってやった笑ってやった。
「肉を切らせて骨を断つべしってな!」
「誘われっ」
時既に遅し。空いた左腕がセシリアの顎を打ち抜いた。
揺さぶられた脳が平衡感覚を失い、たちまちノーガード状態になる。
「うおらっ!」
「ぐぅ!」
しっかり腰を落とし、セシリアの腹に一発打ち込んだ。
容赦のない渾身の一撃が見事入り、セシリアの体は地面に投げ出された。
先程放ったレイピアの痛みが疲労によって押されたのか、俺も思わず膝をついた。
お互い肩で息をし、だがそれでも相手に目を向け。なんとか立ち上がろうと身体を動かす。
まだ戦いは終わっていない、
体は傷ついてもまだ心は折れず。
両者は立ち上り、力強く一歩を踏み出す。
「セシリアぁっ!」
「疾風っ!」
泥臭くもお互いに拳を振り上げた。次の瞬間。
轟音と共に地面が冗談抜きで飛び上がった。
「「!?」」
一体何が起こったのか?
徐々に傾き始めた物見台に俺達は困惑を隠せない。
ミシミシと嫌な音がなり、地面にヒビが走る。
とにかくこの場を離れなければ。だが一体どうやって? 思考を迷い、判断が遅れる。
「きゃあっ!?」
「え!?」
俺はなんとか踏みとどまったが。ふらついて力が入らなかったセシリアは足を踏み外して物見台から飛び出した。
自身の体重が消え、下向きに重力が向かれる。
この時、自分でも何を思ったのか分からなかった。
轟音と共に足場が揺れたから、とにかく踏み留まることだけを考えていた。
だけどあいつの悲鳴が聞こえ、白色のドレスと綺羅びやかなブロンドが徐々にフェードアウトしていくのを見て、思考が止まったのだ。
観客は悲鳴を上げたが耳に届くことがなく。視界がやけにスローモーションに写った。
気づいたら俺は物見台から身を投げ出していた。
落下していくなか下にはドレスと髪を揺らめかせながら落下していくセシリアの姿が。俺を見るなり彼女は目を見開いて呆然としていた。
当然だ。俺が逆の立場だったら同じ顔をする。
身体を真っ直ぐにしセシリアより速く落下する。そのままぶつかるように彼女を抱き止め、イーグルに命令を下す。
ウィングスラスター緊急展開。
ISを構築する特有の白い粒子が合わさり、空色の大翼を展開、即座にスラスターを吹かし、落下速度を軽減する。
よし、これなら……
ビビー!!
赤いウィンドウと共に警告音が木霊する。
どうやら完全にスラスターを構築する前に最大出力でブーストしたせいで一部不具合が発生したようだ。
直ぐにスラスターの出力を修正するためにブーストが一時停止し再点火される。
僅か一秒の間だったが、これでは落下の衝撃が完全に封殺出来ない。
対衝撃機構を持ってして、良くてIS悪くて骨にヒビだな。
割かし冷静だった俺はセシリアだけは守らんと彼女を上に位置させるように身体を動かした。
「疾風!?」
セシリアの声が聞こえた気がした。来るべき衝撃に備え、目と奥歯をぎゅっと閉じた。
ブニョン。
「「え?」」
襲ってきたのは固く強い衝撃ではなく、柔らかく弾力性のあるものだった。
「きゃっ!」
「ぐへ!」
そのまま一度バウンドしたあと、ボヨーンと音が聞こえそうな反動と共に俺達は地面に投げ出された。
な、何が起こった?
展開していたイーグルのスラスターをしまい。状況を確認する。どうやら自分は五体満足、目立った外傷も無いようだ。
落下した俺達を出迎えたのはオレンジ色の巨大なゴムクッションだった。
セシリアの方も、尻をさするだけでなんとも無さそうだった。
『シンデレラを救わんと飛び出したシンダーラッド。そのまま地面に激突するかと思いきや! なんと調度そこを通りがかった魔女の魔法によって無事生還! 正に危機一髪。シンダーラッドの壮大な勇気に、皆さん拍手をお願いしまーす!』
直後、会長の芝居がかった実況に呼応するように呆然としていた観客席から拍手喝采が上がった。
「御二人とも、怪我はありませんか?」
呆気に取られている俺達は声をかけられた方向に顔を向けると、又も呆気に取られる。
「本当に申し訳ございません、本来なら大玉は指定した場所に止まるはずだったのですが、トラブルが発生してしまって」
「あ、ああ、そうなのですか。ところで虚さん。その格好は?」
声をかけてきた虚さんはラファールに身を包んでいた。
だがそのラファールには紫の布がかけられ。手には先程のゴムボールを射出したと思われる銃器、頭には紫色の三角帽子が。
この格好はまるで。
「魔女です」
「魔女……」
「はい、お嬢様が緊急事態に備えて私達を配置していました。この格好もお嬢様が用意してくれて」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「こちらの監督不行き届きですのでお気になさらず。それでは失礼致します」
ホバー移動で立ち去ろうとする虚さんは、何かを思いだしたかのように此方を振り替えった。
「あ、オルコットさん」
「はい」
「王冠獲得、おめでとうございます」
「「へ?」」
ぺこりと一礼して虚さんは去っていく中、俺は頭に乗っていた異物感が無いことに気付いた。
あ、あれ? 私の王冠は何処に? あれ?
「あっ、あぁぁぁぁ……」
「おう?」
か細い震え声がセシリアの方から零れる。見ると手には金色の王冠があり、顔面蒼白でそれをガタガタ震えながら見ていた。
『パンパカパーン! セシリア・オルコット! シンダーラッド・疾風・レーデルハイトから見事王冠を奪い取ったぁぁ! コングラッチュレーション!!』
会長の陽気な声と共にジオラマ周辺から無数のクラッカー音が鳴り響いた。
『これにより! 疾風王子はリタイアとなります。皆様、壮絶なる戦いを繰り広げたお二人に、今一度大きな拍手をお願いしまーす!』
再び客席から割れんばかりの拍手を上がった。
負け? マジで? うわぁ。
会場が割れんばかりの音のなか、俺はどっかりと腰を下ろした。
「あぁぁ負けちまったぁっ!」
「………」
「まあ、最後にお前と思いっきりやりあえたしいっか。ああだけど、負けるのはやっぱ悔しいな」
「………」
「おい、さっきから何黙ってんのさ? 王冠ゲットしたんだからもっと喜べよ」
それでも反応のないセシリア。俺は近づいてその顔を覗きこんだ。
「こんなはずでは」
「は?」
「こんなはずでは、こんなはずでは、こんなはずでは、こんなはずでは、こんなはずでは………」
「おい大丈夫かお前」
「ヒゥッ!?」
ポンと肩に手を置くと、セシリアの中にある何かのスイッチが押ささった。
「違いますから」
「なにが」
「違いますからぁぁぁーー!!!」
「うわったっ!?」
行きなり発狂したセシリアは俺を思いっきり突き飛ばし、王冠を手にしたまま彼方に走り去っていった。
「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おーい!?」
優雅さなんか微塵もない爆走っぷりでセシリアが見えなくなった。
段々と叫び声が遠ざかるなか、王冠を奪われた第二王子こと疾風レーデルハイトは。
ただ立ち尽くすしかなかった。