IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第46話【嗤う女郎蜘蛛】

 

 どうも、元シンダーラッドの疾風です。

 

 王冠が奪われました。

 所謂ゲームオーバーというやつです。

 畜生め。

 

 俺の王冠を奪ったシンデレラことセシリア・オルコットは喜ぶどころ悲鳴を上げながら走り去っていきました。そりゃもうこの世の終わりとばかりに。

 

 何ででしょうね? 私にはさっぱり分かりません。

 シンデレラとシンダーラッドの報酬は違うのだろうか。だとしても悲鳴上げるほど嫌なものってなに? 

 

「疾風君お疲れ様。今の気持ちを正直にどうぞ?」

「疑問しかないですね。会長、一体この王冠はなんなんですか?」

「ふふふふふ、内緒♪」

「後で教えてくださいよ」

 

 もう慣れっこになったのでこれ以上追求しないことにした。

 んー、ほんとなんなんだろうか。

 

「で、俺はこれからどうすれば?」

「疾風君はリタイアだから直ぐにアリーナから出て頂戴。こっからだと三番出口が近いかしら」

「三番出口………なんか塞がってるんですけど」

「大丈夫よ、今開けるから」

 

 三番出口を繋ぐ跳ね橋が音を立てて倒れた。

 

「これまた豪勢な……ん?」

 

 なんか地響きが……

 

『さあっ! ここからは! フリーエントリー組の参戦です! 王子様の王冠は残り一つだけになりましたが、皆さん、がんばってくださーーーい!!』

「「「織斑くぅぅぅん! おとなしくしなさぁぁぁい!!!」」」

「おっとぉ!?」

 

 跳ね橋の向こうから我等がIS学園の女子生徒が学年問わず大挙して向かってくるではないか。

 俺は全速力で右に走った。潰されると本能が叫んだのだ。

 

「あ、レーデルハイト君! なんで王冠とられちゃったの!?」

「私狙ってたのに!」

「こうなったら何としてでも織斑君の王冠狙ってやる!」

「代表候補生がなんぼのもんじゃぁぁ!!」

 

 何人かが俺の姿を見て止まったのも束の間、白い大波はしばらく俺の横を通りすぎていった。

 

「………わーお」

 

 ざっと百人、いやもっと居たな。

 

 あの人数相手に鬼ごっこか。一夏、御愁傷様。

 トラウマにならないといいね。

 

「しかし俺の王冠をか。ふむ」

 

 王冠の特典は未だに不明だが、およそ十数人は俺狙いだったらしい。

 

「んー、やはり俺も捨てたものじゃない? 男性操縦者補正? ハハッ、知ってる」

 

 役目を終えたシンダーラッドは自嘲気味に笑いながら三番出口の跳ね橋に向かって歩を進めた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

『さあっ! ここからは! フリーエントリー組の参戦です! 王子様の王冠は残り一つだけになりましたが、皆さん、がんばってくださーーーい!!』

 

 疾風の王冠がセシリアに取られたという楯無のアナウンスから間を置かず、一般生徒が群れをなして壇上に上がってきた。

 

「な、なんだフリーエントリーとは! そんなもの聞いてないぞ!?」

「フン、あの生徒会長が仕掛けた茶番だろう。だが何が来ようとも、私と嫁の未来の邪魔をするものは粉砕する」

「それは私も同じだ……おい、一夏は何処に行った?」

 

 側で箒とラウラを止めようとしていた一夏が忽然と姿を消していた。

 

「探せ!」

「言われなくても!」

 

 

 

 

 

「織斑君、おとなしくしなさい!」

「私と幸せになりましょう、王子様」

「そいつを寄越せぇぇぇぇ!」

(冗談じゃない!!)

 

 迫り来る数多の女子の猛攻を掻い潜って、セットの上を走り回り、城内の一室に隠れる。

 

「本当に何を考えてるんだぁぁぁ!!」

 

 もう10回以上は行っている文句を叫んだ。居場所がばれるなど知ったことではない。

 

「これじゃ迂闊に外に出られない。どうすればいいんだよ」

「織斑さん」

「へ?」

 

 床の一部が開き、手招きしていた。

 

「こっちに逃げたのを見たわ!」

「さがせぇぇぇ! 草の根抉り出してでもさがせぇぇぇ!」

「こちらへ! 早く!」

「ああ、もう!」

 

 なりふり構わないと一夏はその穴に飛び込んだ。

 

 

 

 

「着きましたよ」

「はぁ、はぁ……ど、どうも」

 

 俺は誘導されるまま、セットの下を潜り抜けて更衣室にやって来た。

 

「えっと……あれ、巻紙さん?」

「誰か分からずに着いてきたのですか?」

 

 一夏を助けてくれたのは今日名刺をくれた巻紙礼子さんだった。相変わらずビジネススマイルを浮かべている。

 

「あの、どうしてここに?」

「はい、この機会に白式を頂きたいと思いまして」

「は? っ!」

 

 突然白式と言われて一夏はキョトンとした。

 だが直ぐに悪寒が体を走り、本能のままその場から飛び退いた。

 一夏が居た場所に足が滑る。その場にとどまっていたら今頃一夏の体はロッカーに叩きつけられていただろう。

 

「この距離で私の蹴りをかわすとは。ポワポワした平和ボケしたガキと思ってたけど、なんともまあ」

 

 先程の口調から一変して粗い話し方と表情に、悪寒が確かなものに変わり一夏の頭の中で弾けた。

 

 目の前の女は敵だ! 

 

「何だあんたは! ただの企業の人ってわけじゃないな!?」

「へえ? なかなか頭が回る。誰かに気を付けろとでも言われたかぁ?」

「答えろ!」

「キャンキャン騒ぐなよガキが。そうだな、企業の人間になりすました謎の美女ってとこだなっ!」

 

 女の体が光に包まれ黄色と黒の禍禍しい配色のISが現れた。

 上半身が女性で下半身が蜘蛛の異形のISに一夏は身構えた。

 

「おら、嬉しいか坊や? お姉さんが優しくレクチャーしてやるぜ?」

「ふざけんな! 白式!!」

 

 一夏が白式呼び出すと、巻上はISのバイザー越しに歪んだ笑みが覗かせた。

 

「待ってたぜぇ。そいつを使うのをよぉ!」

 

 八つの装甲脚の先が割れ、そこから銃口【ルーフワープ】が顔を見せる。

 

「やべっ!」

 

 足のスラスターを思いきり床に叩きつけ、それと同時に最大噴出を行い天井に逃げた。

 弾幕にさらされたロッカーがちぎれとんだ。

 

「やるじゃねーか、よっ!」

「はあぁぁっ!」

 

 弾幕を回避し雪羅をクローモードで起動。そのまま相手に叩きつけた。

 巻上はビームクロウによる斬撃を後ろ飛びでかわした。

 

「なんなんだよあんたは!」

「ああん? 悪の組織の一人だっての」

「ふざけんな!」

「ふざけてねえっつの! ガキが! 亡国機業(ファントム・タスク)が一人、オータム様って言えばわかるかぁ!?」

「亡国機業だと!? 楯無さんが言ってたテロ組織か」

「知ってたのかよ。まあだからなんだって話だけどな!」

 

 再び撃たれた射撃を躱し、雪片弐型を上段で斬りに行く。

 

「貰った!」

「甘ぇ!」

 

 装甲脚が雪片と交わりそのまま一夏は弾き飛ばされた。

 

「ぐあっ!」

「こっちこそ貰ったぁ!」

 

 巻上──オータムが装甲脚を突き出して迫る

 数秒で装甲脚の刃が白式に突き刺さらんとしたとき。更衣室の扉が吹き飛び、空色が飛び込んできた。

 

「ちょいさぁ!!」

「何!? ぐほっ!」

 

 高速の一撃が横っ腹に決まり、オータムはロッカーを薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。

 

「おっと。よぉ一夏、生きてる?」

「は、疾風!?」

 

 変わらぬ笑みを浮かべた疾風がISを纏って乗り込んできた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 シンデレラの第三劇、フリーエントリー組乱入から数分。城内が生徒で溢れ変えるなか、本家シンデレラたちはたたらを踏んでいた。

 

「くっ、逃げ足の早い奴だなあいつは!」

「ふん、貴様が私と嫁の邪魔をするからだ」

「邪魔をしないわけないだろう。一夏は私と住むのだ」

「やはり、貴様から先に仕留めておかねばならぬか」

「あれ? あんたたちも見失った口?」

 

 一触即発の雰囲気を破ったのは鈴だった。軽快な走りで二人に近づく。

 

「鈴か。菖蒲さんはどうした? さっき一緒だったろう?」

「菖蒲ー! ちんたら歩いてんじゃないわよー!」

 

 鈴とは対照的にとぼとばと歩く菖蒲。その表情は明らかに明るいとは言えなかった。

 

「鈴様、疾風様の王冠は取られる心配はないと言ったではありませんかぁ……」

「いや、だから私に言われてもねえ」

「言ったではありませんかー! セシリア様に取られてしまいましたよー!!」

 

 瞳から涙を流しながら飛びかかる菖蒲に鈴は為す術もなく地面に伏された。

 

「うわぁ!? ちょ。引っ付かないでよ! あ、この子意外と力強い! ちょっと助けてあんたたち!」

「やはりセシリアが疾風の王冠を手にいれたのは本当なのか」

「生徒会長の言葉通りならそうだろうな」

「ちょっと無視しないでよ!」

「鈴様ぁぁぁぁぁ!」

 

 妖怪と聞き間違いそうなオドロオドロした声を発しながら、鈴のドレスを破る勢いの菖蒲。

 

「あ、皆! 調度いいところに!」

「シャルロット?」

「ちょっとこっち来てくれる? 僕じゃどうにもならなくって」

「「ん?」」

「うぁぁぁぁん!」

「いい加減離れなさいよあんたはぁ!!」

 

 

 

 

 

「こっちこっち」

「なんだというのだ」

「早く一夏を探さねばならないと……ん?」

 

 シャルロットに案内された場所には、所謂体育座りで鎮座している見知った人物が。

 

「あれは……セシリア?」

「だと思う……が」

「いやいやどう見てもセシリア………よね?」

 

 何処か自信なく言うしかなかったのは、彼女の姿にあった。

 薄汚れており、所々破れているドレス。綺羅びやかな金糸の髪はボサボサで、何処か色褪せて見える。

 

 なにより普段の彼女を知っている箒達はセシリアが体育座りで踞っているという光景をどう見ればいいか分からなかった。

 普段から醸し出しているエレガントの欠片もない姿に。

 

「よし鈴。行け」

「な、なんでアタシ!?」

「切り込むのはお前の専売特許だろ」

「それはあんたもでしょうがこの剣道馬鹿!」

「じゃ、じゃあラウラ宜しく」

「私か? 別に構わないが、先に菖蒲が突貫したぞ?」

「「「え?」」」

 

 先程の暗い雰囲気とは正反対の力強い足取りで菖蒲はセシリアに近づいた。

 

「セシリア様」

「………」

「やはりセシリア様は疾風様の事を」

「違いますわよっ!!」

 

 ガバッと立ち上がったセシリア。

 目は赤くなり、ボロボロな外見が相まって恐ろしくも見える。

 

「なら何故王冠を取ったのですか!」

「取ってませんわ!」

「じゃあその手に持ってるのはなんなんです!?」

「うっ」

 

 論より証拠。

 その手に光る王冠は菖蒲が欲してやまない至上の宝物に他ならなかった。

 

「こ、これは事故です! 決して本意で取った訳ではありませんわ!」

「では疾風様との同棲を狙った訳ではないと?」

「ええ勿論」

「その言葉に偽りは」

「あ、ありませんわ」

「そうですか分かりました。では私が貰います」

 

 グワシッと菖蒲はセシリアの持つ王冠を掴んで引っ張った。

 何故引っ張ったという表現なのかと言うと、セシリアが王冠を手放さなかったからだ。

 

「お離しくださいセシリア様! 疾風様と同棲するのは私です!」

「だ、駄目ですわ。渡すわけには行きません!」

「何故ですか!」

「貴方を疾風の獣欲の餌食にするわけにはいきません!」

「むしろ望むところです! 私は何時でも準備は出来てますし! 既成事実を合法に入手出来るなど願ってもいない機会です!」

 

 互いの主張が相容れぬまま綱引き状態に。

 一夏ラバーズに至っては「何を見せられているんだ」と蚊帳の外に追いやられた。

 普段のお前たちの姿姿だぞ。

 

 ウーーー! ウーーー! 

 

 サイレンが鳴り響いた。学園の至るところなら赤いホロウィンドウで火災と表示される。

 

『ただいまロッカールームにて火事が発生しました。お客様はホログラムガイドに従って避難をお願いします。繰り返します………』

「火事? どっかのクラスがやらかしたの?」

「ロッカールームでか?」

 

 唖然とするなか全員の待機形態から連絡が来た。

 

「全員、聞こえてるな?」

「織斑先生?」

「時間がないから手短に伝える。今発している火災警報はダミーだ。現在第四アリーナのロッカールームで未確認ISが織斑とレーデルハイトが交戦している」

「はぁっ!?」

「織斑先生、テロリストということですか?」

「そうだ。全員即時ISを展開。状況に備えろ」

「了解!」

 

 千冬の指令に各々はISを展開。綺羅びやかなシンデレラドレスは武骨で、それでいて優美な装甲に変化する。

 

「篠ノ之、オルコット、凰は哨戒につけ。デュノア、ボーデヴィッヒ、徳川は学園内を警戒。来場客と一般生徒の避難をフォローしろ!」

「あの、お二人の援護に向かわなくても宜しいのでしょうか?」

「そうです。一夏達だけで大丈夫なんですか?」

「心配するな。そっちには既に応援を向かわせている。お前達は各々の任務につけ」

「分かりました!」

「行くぞ!」

「ええ!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「疾風、なんでここに」

「なんでって着替えにこようとしたらドンパチ始めてんだもん。あー、ロッカーが悲惨なことに。制服無事かなこれ………」

 

 凄惨たる有り様を見てウゲーと顔をしかめた。

 瓦礫が動く音に振り向くと敵と見られる異形のISが立ち上がった。

 

「いってーなぁ。ドデカイの横っ腹に食らっちまった。って、誰かと思えば二人目か」

「そういうあんたは亡国機業でオケ?」

「へえ」

 

 自身の組織を言い当てられたオータムはニヒルに口角を上げた。

 

「お前も知ってるのか疾風?」

「ああ。こいつら最近各国でISの強奪事件が起こしてる一級テロリストだ。で、目の前の蜘蛛のISはアラクネ。亡国機業に奪われたアメリカの試作第二世代ISだ」

「ご名答。さっすが大企業のお坊っちゃまだ、そこらへんの情報は抜け目ねえなぁ」

「そりゃどうも、褒めてくれたついでに俺達を狙わないと約束してくれます?」

「はっ! それは無理な相談だ」

「うわぁ手厳しい」

 

 おどけた口調ながら警戒は崩さない。

 福音とはまた違ったスポーツとは違う修羅場。明確にこちらを狙うテロリストを見定めながら一夏にプラベを開く。

 

『一夏、聞いてくれ』

『疾風?』

『奴のアラクネは装甲脚に独自のPIC発生機構を有している。今までのISとは挙動が違う。それに相手は単騎で攻めてきたということは腕に自信があるんだろう』

『じゃあ、どうする?』

『客の避難が終わってない以上、こいつを外に出すわけには行かない。合図したら動いてくれ。パターンは………』

 

 即興で考えた作戦を伝えながら悟られないようにオータムと会話する。

 

「それで、あんたの目的は何かな? 出来たら教えてくれませんかねぇ?」

「ああん? そんなのお前らに決まってんだろうが!」

 

 アラクネの主腕にコールされた大型ビームキャノンが火を吹き、背後の壁が派手に爆ぜた。

 爆ぜた壁は瓦礫となり、先程俺が突き破った扉をふさいだ。

 

「ですよね! 行くぞ一夏!」

「おう!」

 

 一夏がオータムの周りを旋回し、少し遅れて疾風が続く。

 

「ちょこざいな!」

 

 両手にマシンガンを形成、装甲脚と合わせた10門の一斉射撃がロッカールームに入り乱れた。

 俺達はそれを遮蔽物とサークルロンドを利用して回避する。

 

 一夏がついてくるか不安だったが。毎日会長とこなしてきた特訓が確かに実を結んでいることを確信した。

 

「うおおおっ!」

「せいっ!」

「おっとぉ! 危ねえなっとぉ!」

 

 隙をついて斬りかかるが、オータムはそれを緩やかに躱していく。

 

 アラクネの装甲脚に搭載されている独立したPIC。今まで見たどのISよりもしなやかで生物的な動きをし、名前に違わず正しく蜘蛛のよう。

 

 そこから疾風はプログラムを入力したビークビットを展開、ロッカーを隠れ蓑襲撃し、隠れては斬りかかるを繰り返す。

 

 手数を増やされ、更に狙いが分散された装甲脚。一夏はガラ空きとなった左側から一気に斬り込んだ。

 

「だから甘ぇって!」

 

 それを見越してオータムは装甲脚を操作、四本の装甲脚は再び雪片弐型を固定する。

 

「単調だなガキぃ!」

「それは」

「どうかなっ!」

 

 白式の背を飛び越え、両手に装備された固定プラズマサーベルで副腕を切り裂いた。しかしそれは浅く、切断までは至らなかった。

 

 だが拘束が緩んだそれを見逃さず一夏は固定している装甲脚を蹴りあげ、雪片弐型を回収。そのまま俺が斬り込んだ副腕をもう一度切り裂き副腕の一つが宙を舞った。

 

「何っ!?」

「良し! まず一本!」

「上出来上出来! 次行くぞ!」

 

 アラクネから離れ、再びサークルロンドで射撃からの斬撃を繰り返していく。

 

「やるじゃねえかよ、ガキ共! このアラクネ相手にちょこまかと!」

「うるせえ!」

「そりゃどうも!」

 

 撃っては斬りの攻防の中、アラクネがカタール【ルームシャトル】を展開して斬りかかるのを回避、そこからまた離れて撃ち、隙を見て斬りかかる

 バギャンと重くも軽い金属音と共に装甲脚がまた一本、主から離れた。

 

「ちぃっ!」

 

 これは偶然にもシャルロットが得意とする戦法、砂漠の呼び水(ミラージュ・デ・デザート)に似ていた。

 求めるほどに遠く諦めるには近く、その青色に呼ばれた足は疲労を忘れ、緩やかなる褐色の死へと進む

 

 本来なら高速切替(ラピッド・スイッチ)による近距離と遠距離の武器を変えながらの戦法だが、白式とイーグルには固定武器とモードチェンジにより極めて酷似したフォーメーションを行うことが出来た。

 

 だがオータムも単騎で突っ込んできただけあって中々の手練だ。先程の損傷からこちらの斬撃を無理に受け止めようとはせず、受け流すことを重点に置いてきた。

 射撃兵装はコールされたシールドを展開して防御。それ以外は回避と着々と対策を取られていく。

 

『疾風。このままじゃジリ貧だ。どうする?』

『応援を待っててもいいが、遠隔通信にノイズがかかって望みは薄い。ここは隙をついて瞬時加速からの零落白夜で仕留めにいく!』

『確かに敵の応援が来ないとも限らないからな。了解だ!』

 

 再びアラクネを軸にサークルロンドを展開、オータムの意識を散らしていく。

 よし、このままこいつ封殺して………

 

「ハハハ! ガキ相手と侮ってたが大したもんだな。楽しませてくれた礼に良いことを教えてやるよ、織斑一夏!」

 

 オータムの歪んだ笑みに何かを感じた。

 

「第二回モンド・グロッソで織斑千冬が優勝出来なかった理由は知ってるよな?」

「それがどうした」

「うちの組織なんだよ」

「なに?」

「分からねえのか? 第二回モンド・グロッソの最中にお前を拉致したのは、うちら亡国機業(ファントム・タスク)だって言ったんだよ!」

「ーー!!」

 

 その言葉に、一夏の頭の中が真っ白になった。

 

「お前、らが?」

「そうだ、感動の再開ってやつだな。嬉しいかオイ、ギャハハハハ!」

 

 下卑た笑い声に一夏の頭は一瞬にして沸点を越えた。

 

「一夏、戯言だ!耳を貸すな!」

(こいつが! こいつらのせいで千冬姉はっ!)

 

 ギュオン!! 一夏の怒りに応えんと白式・雪羅の四枚のウィングスラスターが唸り声をあげた。

 既に俺の声は一夏の頭に入っていなかった。

 

「だったら!」

「駄目だ一夏! 早まるなっ!」

「あの時の借りを返してやらぁ!!」

 

 俺の制止を聞かず目の前の化け蜘蛛を斬り伏せんと零落白夜の黄金色の光と共にオータムに斬りかかった。

 

「この距離は白式の距離だ!」

「ククッ、馬鹿が。こんな真っ正面から突っ込んで来やがってよぉ!!」

 

 バシュっと副腕から白い何かが放出された。

 

「そんなもの!!」

 

 射出された糸のような物ごとオータムを斬り伏せようとしたが、それは目の前でぱんっと弾けて巨大な網へと変化した。

 

「なにっ!?」

 

 エネルギー体のワイヤーで拘束された白式はアラクネの手によって宙吊りにされる。

 

「一夏! ちぃっ!」

 

 残った装甲脚の射撃がイーグルの接近を許さない。

 

「ハハハ! やっぱガキだなぁてめぇ。少し挑発すればこの通り。まったく楽勝だぜ」

「てめぇっ!」

「やらせるかっての!」

 

 副腕から再び放たれた糸塊が雪羅に命中、粘性のあるそれは雪羅の変形機構を阻害した。

 

「なっ!?」

「危ねえ危ねえ、そのワンオフは俺のと相性悪いからな」

「一夏を離しやがれ蜘蛛野郎!」

「おぉ怖い怖い!」

 

 俺は右手にインパルス、左手にエクレールを構えて撃とうとする。だがオータムはサッとワイヤーに吊り上げられた俺を盾にし射撃を躊躇わせた。

 直ぐに射撃を中止、ビークを飛ばしオールレンジからアラクネを狙いに行く。

 

「はははっ! ほら狙ってみろ! 鬼さんこちらっとぉ!」

 

 固定射撃、カタール、装甲脚による斬撃に、ビークビットは蜘蛛の巣にかかった獲物の如く補食された。

 

 しまった! 今のはオータムを狙わずに一夏を拘束しているワイヤーを斬りかかれば! 

 

 残ったビークビットに使令を与えるも、プログラム特有のラグをオータムが見逃すことはなかった。

 たちまち両断されたビークビットの爆煙がオータムを一瞬隠した。

 

「おやおや、可愛い小鳥さんは悪い蜘蛛に食べられてしまいましたとさぁ。はっはっはっ!」

 

 ちょこまかと避けながら着実に距離詰めてくる上機嫌なオータム相手にこちらも後退を余儀なくされる。

 

「どうしたどうした御曹子様! 所詮一人じゃ何も出来ないお坊ちゃんかぁ!?」

「嘗めるな!!」

 

 インパルスとエクレールをしまい、小回りの効く固定プラズマサーベルと脚部プラズマブレードでオータムの多腕をさばかんとするも、アラクネの多手多様の攻撃に押されていく。

 

「一夏、動けるか!」

「駄目だ、全然動けねえ!」

「余所見する余裕あんのかぁ!?」

「ぐあっ!」

 

 吹き飛ばされ壁に激突し。殺しきれなかった衝撃が背中に走った。

 

「さーて、お前もねんねしな!」

 

 副腕から再びエネルギーワイヤーが放たれ、疾風を捕らえんとする。

 

「疾風!!」

「はっはぁー!」

 

 ワイヤーが網へと変化し、イーグルに覆い被さる。

 

「フィールドマキシマムっ!」

 

 バチチと俺の声と共にプラズマジェネレーターが唸りをあげ、イーグルを中心に球状の蒼いプラズマ力場が展開した。

 覆い被さらんとしたエネルギーワイヤーが高電圧の壁を前に消しとんだ。

 

「なんだと!?」

 

 これにはオータムも虚を突かれたのか、狼狽して後ろに下がった。

 

「インパルス! リミッター解除! 落とし前ツケさせてもらう!!」

 

 インパルスの穂先が通常より更に展開される。

 プラズマエネルギーが溢れ変えり、やがてそれは巨大な雷槍へと固定されていく。

 

 エネルギー消費が多い代わりに発動するフルパワーアタック。白式の零落白夜をヒントに発案した新機能。

 先程ロッカールームのドアをぶち抜きアラクネを吹き飛ばしたのはこの機能だ。

 

 再びインパルスを最大出力で展開、そのまま突貫する。

 させじと装甲脚の射撃が襲いかかるも、殆どがプラズマフィールドに弾かれる。

 

「覚悟しろ、亡国機業(ファントム・タスク)!」

 

 巨大な雷槍がオータムを串刺しにせんと、襲いかかる。

 

「糞がぁぁ!! なぁんてな」

「なっ? ぐっ!!?」

 

 オータムから違う方向、横から無数の黒い何かがイーグルに命中した。

 

 連続で放たれた黒い塊はプラズマフィールドを異に返さずイーグルの空色と白のツートンカラーの装甲に当たり、バシャっと弾けた。

 

 横っ腹から射撃を受けてインパルスを取り落とし、俺は壁に激突した。

 そして弾けた黒い何かはイーグルと壁を縫い付け、動きを封じ込めた。

 黒い粘着物を引き剥がそうとプラズマジェネレーターを最大出力で展開するも、少し表面が焼け異臭を放つだけだった。

 

「この焼けた臭い。ゴムかっ!?」

「せいかーいわ。お前の為に用意された特性粘性ゴム弾だよ!」

「くっ、いったい何処から……」

 

 イーグルのイーグルアイが瞬時に射線を計算した。

 視線の先には先程俺達が斬り落とした副腕が落ちていた。その銃口はこちらを向いていた

 

「知ってるか? 虫ってのは手足ちょん切られても暫くは動くんだってよ」

「わざと、斬らせたのか」

「いんや、それは偶然ってやつだ。お前たちは良くやったぜ? このオータム様に冷や汗をかかせたんだからよ。さーて、待たせたなファーストマン。お楽しみタイムと行こうぜ」

 

 もったい付けながら再び一夏の眼前に迫るオータムの手には見たことのない四本足の機械が握られていた。

 大きさは40センチほど。君の悪い駆動音を響かせるそれを一夏の胸部に取り付けた。

 取り付けられた装置は更に足を伸ばし、白式の装甲にまとわりついた

 

「お別れの挨拶は済んだか?」

「な、なんのだよ」

「決まってんだろうが、てめーのISとだよ!」

「なに?」

 

 刹那、一夏の体に電流が流れる。

 

「がああああっ!!」

「一夏!!」

 

 一夏が苦しんでいる間もオータムは楽しそうに哄笑していた。

 それが余計に一夏の神経を逆撫でし、その怒りがなんとか意識を保てていた。

 

 やがて電流は収まり、体の自由は解けた。

 だがそこには先程纏っていたものはなかった。

 

「な、なんだこれ? 白式!? どうしたんだよオイ!」

 

 腕を見ると白式の白色の装甲どころか待機状態のブレスレットまで無くなっていた。

 今の一夏の身を包むのはISスーツのみだった

 

「お前の大事なISならここにあるぜ」

「なにっ!? グアッ!!」

 

 一夏を蹴りあげたオータムが手にしているのは菱形立体のクリスタルだった。

 それは紛れもなく白式のコア。第二形態に発展したそれは通常の球型コアよりも強い輝きを有していた。

 

「さっきの装置はなぁ! 解離剤(リムーバー)っつうんだよ! ISを強制解除し奪い取れる画期的な秘密兵器だぜ? 生きているうちに見れて良かったなぁ!」

「なんだよそれ。そんな装置聞いたこともない」

「だから秘密兵器っつってんだろうが。安心しな、お前の分もちゃんと用意してっからよ」

 

 オータムの手には別のリムーバーが握られていた。

 それを見て自分の顔が引きつったのを感じた。

 

「ハハッ、青ざめたなジャリガキ。そうだよなぁ、お前はISに異常な執着をしてるみたいだな。お前にとってスカイブルー・イーグルは自身の全てであり掛け替えのないもの。それを奪われたらそこに転がっているガキよりもショックがでけえもんなぁ」

「ちぃっ!」

 

 疾風は再びプラズマを最大出力出力で放出すると、へばりついた特殊ゴムは微かに焼かれるだけにとどまった。

 内蔵火器を展開しようにもゴムで塞がれ。俺は文字通り壁に磔にされていた。

 

「無駄無駄。さぁて、とっとと二機目回収して」

「かえ……せ……」

「あん?」

「返せ! てめぇ、ふざけんな!」

 

 ようやく体が動かせるようになった一夏は無謀にも白式のコア目掛けて手を伸ばした。

 

「だから遅えってんだよ!」

 

 オータムは飛び掛かる一夏を装甲脚で吹き飛ばす。

 ISに保護されていない一夏を守っているのはISスーツのみ、対刃性には優れるが衝撃は殺してくれない。

 

「ゴハッ、っぐぅ。くっそぉぉ!!」

「オラァッ!」

「ガァッ!」

 

 蹴られては吹っ飛び。また立ち上がって向かうもまた吹き飛ばされるのを繰り返し、一夏は動かなくなった。

 その場で踞る一夏を無視してオータムは再び俺の方に歩いてきた。

 目の前の蜘蛛は機械だ。伝承に聞くような化け物ではない、ISだ。

 それなのに。

 

 震えが止まらない………! 

 これからあの機械で白式と同じようにコアだけにされて奪われる。

 そう考えるだけで息が荒くなった。

 叫び声を上げたかった。だけど喉が詰まったように声がでなく震えた空気が出るだけだった。

 

 やめろ、くるな。来ないでくれ………!

 だ、誰か……助け……

 

「うぐっ! おおおぉぉぉぉ!!!」

 

 全身の力を振り絞って放たれた咆哮、大地を踏みしめ蹴りあげる。

 一夏は闘志を目に宿し、果敢にアラクネの下に潜り込んだ。

 

「何度来たって同じだ!」

 

 襲いかかる6本の装甲脚、横凪ぎに振られたそれを姿勢を低くして擦り抜けた。

 目の前には白式のISコア、あれに触れさえすれば。

 

「届けっ!」

 

 心の底から願った、地を飛び立ち、一直線に飛ぶ。

 触れる、もう少しでその証に触れ──

 

 ドゴッ! 

 

「っ!!」

 

 奮闘も虚しく、アラクネの蹴りがISスーツに覆われた一夏の腹にめり込む。

 

「こはっ………」

「これが現実だ。所詮お前たちはISには勝てねえのさ。わかったら黙ってそこで見てな」

「ふざ、けるな」

「まだわかんねえのか? 今のお前は無力以外のなんでもねえ。やる気だけでやってけるほどこの世界はイージーじゃねえんだよ」

「うるせえ。例え無力でも、ISが無くても。それで俺が諦める理由にはならない! あああぁぁーっ!!」

 

 最後の力で掴みかかった一夏の腕はオータムに軽く振るわれるだけで離れた。

 

「はっ、いい啖呵切るじゃねえか。その勇敢さに免じてお前は殺さないでやるよ。まあお坊ちゃんの命は保証できねえけどな。可能ならセカンドを殺せってブルーの奴にオーダーされてるからな」

「ブルー?」

「口が滑ったな。お前は知らなくていいことだ」

 

 手に持つリムーバーのスイッチを入れ、こっちに歩いてくる。

 もう視点が覚束ない、抵抗したくても出来ない現状に苦しさが込み上げて目が熱くなった。

 

「安心しな。ISを奪ったら悲しむ間もなくても殺してやるよ」

 

 殺す? 死ぬのか俺は? 

 なにもなせないまま、ただ理不尽に殺されるのか? 

 俺は何のためにこの世界に。

 

 後数メートルでリムーバーが取り付けられる。

 

 その時………

 

「あら、そういうのは困るわ。一夏君と疾風君、私のお気に入りだから」

「誰だ!? グッ!」

 

 リムーバーの持つ手が衝撃で弾き、リムーバーが乾いた音をたてながらすべった。

 

「うん。二人ともまだ生きてるわね。重畳重畳♪」

 

 場に削ぐ和ぬ楽しげな声にその場にいた三人は見た。

 そこに居たのはISスーツ姿の会長。

 その手にいつもと変わらぬ扇子をはためかせながら。

 

「良くやったわ二人とも。お姉さん、先輩として鼻が高いわ。ちょっと無鉄砲過ぎる気もするけどね?」

 

 場違いな満面の笑み。

 だがそれは俺達に確かな安心感を感じさせてくれた。

 

「てめえ、どこから入った? 今ここは全システムをロックしてんだぞ………まあいい、見られたからにはお前から殺す!!」

「楯無さん!」

「会長!」

 

 身を翻し会長に襲いかかるオータム。

 装甲脚の刃が迫る。だが会長は変わらぬ笑みを浮かべながら回避の素振りすら取らなかった。

 

「私はこの学園の生徒達の長。ゆえに、そのように振る舞うのよ」

「なに言ってやがんだてめぇ!」

「可愛い後輩を苛めた貴方を許さないと言ったの」

「抜かせ!!」

 

 数秒後。

 肉と生地を貫く音が耳に入った。

 

 

 

 

 

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