IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第48話【嘲笑う藍の蝶】

「クソが! なんでこんなことに!」

 

 IS学園の人気のない裏道を走りながらオータムは罵言を吐き出す。

 

 最初は上手くいっていた。

 待ち構えていた所に織斑一夏がやって来て、オータムの誘いにホイホイと付いてきたのだから。

 疾風・レーデルハイトが乱入してきたとはいえ、それは差ほど問題はなく。結果的に二人とも無力化出来た。

 だがその後に来た女によって全てが狂った。

 

 油断などしなかった、だが明らかにあちらのペースに終始乗せられ続けたのがオータムの敗因。

 そしてそれ以上の不確定要素が発生したのだ。

 

 リムーバーで奪取した白式のコアの遠隔コールだ。

 

「何がリムーバーだ! あんな遠隔でコールされたら奪っても意味ねえじゃねえかよ!!」

 

 とんだ食わせ物を掴まされたオータムの頭には、それを寄越した張本人であるMの顔を浮かんだ。

 

「…オイオイそれってつまり」

 

 Mはこうなることを最初から知っていたのではないか? 

 リムーバーを使えば所有者が一定の条件下に入れば遠隔コールを可能に出来ると。そしてリムーバーを使用したコアはそれに対して耐性が付く、すなわち使用したコアには二度とリムーバーは使えない。

 

 言葉にしてみれば織斑一夏にとってプラスになる事ばかりだ。

 何故こんなものを寄越したのか。だがオータムにとってそんな事はどうでもよかった。

 

「殺す殺す殺す! 殺してやる! よくも私の顔に泥を塗りやがったな! ゼッテー殺してやる! じっくりと嬲り尽くして、私という存在をその身に刻み込んでっ」

 

 怒りに歯止めのかからないオータムの言葉が目の前に突き刺さった飛来物によって止められた。

 

「矢、だと?」

 

 コンクリートの地面を穿ち、ひびを入れたのは一本の矢だった。

 オータムはその矢の前に立ち尽くし、今自分が狙われている事を認識した。

 マズイ! と思った時には既に遅く。目の前に異様な迫力を出しながら着地した黒の巨体に反応するようにオータムは下がろうとした。

 

ドイツの黒兎部隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)!?」

「良く知ってるじゃないか」

 

 バックステップを取ろうとしたオータムが空間に張り付けにされる

 AIC。ドイツが誇る第三世代技術により動きを固定化されたオータムはじわりと嫌な汗を流す。

 

「シャルロット、今侵入者を捕らえた」

「了解、すぐに行くよ」

「急げよ。さて、妙な真似はするなよ亡国機業。優秀な弓兵が今もお前の眉間を狙っている」

「弓兵? あの嬢ちゃんか?」

 

 オータムの視界の先には学生寮の上に陣取るISを着こんだ菖蒲の姿があった。

 日本の最大手企業、徳川財閥の一人娘である徳川菖蒲。

 彼女が操る打鉄の試作パッケージモデル、打鉄・稲美都の主兵装が弓だと言うことを思い出した。

 だがオータムはそれを解った上で鼻で笑った。

 

「おいおい、脅しにしては可愛すぎるんじゃねえの? あんな愛でに愛でられた箱入り娘がこのオータム様の眉間を狙っていると? はっ! 虚仮威しにもなりゃしねえ! 殺れるもんなら殺ってみやがれってん──」

 

 ビンっ! とオータムの眼前に現れたそれはオータムの口を止めた。

 

「………ぇ?」

 

 オータムは辛うじて声を縛り出す。ついでにラウラも息を溢す。

 無理もない、正に目と鼻の先には先程オータムの足を止めたのと同じISサイズの矢が存在していたのだから。

 地面に落ちずにオータムの眼前に止まっている。否、ラウラがAICによって止められた鉄の矢。

 もしラウラがAICを展開していなければオータムの顔面は真っ二つに割けていただろう。

 疑うことなく、徳川菖蒲の打鉄・稲美都が放った電磁弓射だと分かった。

 

「菖蒲、まだやらなくて良かったぞ?」

「今のは威嚇です。我々がどれだけ本気なのかをその醜女に教えなければならないでしょう?」

「私がAICを解除していたらどうなっていたんだ?」

「そのテロリストが死ぬだけです。情報を抜き出せないのは残念ですが、ここに無法を働いた以上生殺与奪の権はこちらにあると思いますが?」

「いや、まあ、確かにそうだが」

 

 矢面に立たされたオータムは勿論、それを止めたラウラは揃って口を噤んだ。

 尋問にはリアリティも必要だ。だがもし、本当にもしAICが解除していたらと。ラウラは思わずに居られなかった。

 ラウラは軍人だ、時に対象を殺傷しなければならないだろう。だが菖蒲は違う、少し前まで病院で篭の鳥となっていた彼女は違う。

 だというのに今の矢には本気度が感じられたのだ。

 それをわかったのか、オータムの顔はひきつったままだった。 

 

「ということだ。私でも今の奴が何をするか分からん。大人しくした方が身のためだぞ? 奴に殺されたくなければな」

「くぅっ」

「では質問だ、そのコアはアメリカの第二世代だな? 何処で手に入れた?」

「だ、誰が教えるかっ」

「ふん。いいだろう、私も尋問の心得がある。お前の組織について、洗いざらい吐いてもらう。安心しろ、そう長くはかかるまいよ。我がシュヴァルツェ・ハーゼの尋問術の前ではな。まあその前にお前の命があればの話だが」

 

 目の前の女はISパイロット。ISの絶対数に限りがある以上、それを与えられた人物は間違いなく重要人物。

 ましてや愛しの男に襲いかかった痴れ者、長くはかからないと言ったが、出来るだけじっくりと絞り上げていきたいという黒くドロッとした感情が腹の奥から沸き上がってくる。

 

 先ずは足を折る、再生医療が急速に発達したこのご時世だ、テロリストに対してなら、なんの問題もない。

 そんな黒い思考はオープン・チャネルに遮られた。

 

「皆さん、聞こえますか! 誰か応答を!」

「セシリア? どうした?」

「所属不明の一機を逃しました! 間も無く学園に到着する頃かと」

「なんだ──」

 

 言葉を綴ろうとしたラウラの右肩がレーザーで撃ち抜かれた。

 

 衝撃が肩に走り、次に痛みが走る。集中力によって作用するAICの拘束が解けかかる。

 すかさずラウラは自身の左目の眼帯を量子化、ハイパーセンサー補助システムインプラント【越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)】を発動。

 オータムを拘束するAICを補強し右肩に着弾したレーザーから弾道計算、ハイパーセンサーにより襲撃者であるサイレント・ゼフィルスを視認する。

 

「速い!」

 

 サイレント・ゼフィルスはビットを射出、近くにオータムが居るのにも関わらずライフルと合わせた弾幕射撃をラウラに撃ち込む。

 

 対IS戦闘には破格の性能を及ぼす慣性停止結界も光学兵器の前には梅雨ほども役に立たない。それでもラウラは強化された感覚と六本のワイヤーブレードをもって降りかかるレーザーの半分を防いで見せた。

 

「ほう、紛い物の玩具にしてはなかなか良い眼をしている。ん?」

 

 ゼフィルスのすぐ横を稲妻が通りすぎた。続けて二発、高速で飛来する鉄の矢を最小限の動きで避けた。

 

「ラウラ様の所には行かせません!」

「箱入り娘が調子に乗るかっ」

 

 標的をラウラから菖蒲に変え、飛翔するゼフィルスを矢継ぎ早に放たれる鉄の矢が飛ぶ。

 高速コールで呼び出される鉄矢の合間に変動軌道矢【曲】が混じりゼフィルスに襲いかかる。

 だがゼフィルスの操縦者は鉄矢に混じった【曲】を難なく撃ち落とした。

 お返しと言わんばかりにゼフィルスのレーザーが菖蒲に襲いかかる。

 

「箱入り娘と侮らないで!」

 

 稲美都の増設された四基の物理電磁シールドユニットが全面に構えられ、ゼフィルスの光の雨を全て掻き消した。

 電磁強化パッケージ稲美都は総合的出力の向上に成功しているが、その真価は堅牢な防御力にある。

 唯でさえ第二世代最高と言われる打鉄の防御の数を二倍にし、電磁皮膜で覆った防御力は元になった打鉄や技術元のスカイブルー・イーグルを凌駕している。

 

 菖蒲は降り注ぐレーザーを弾きながら、盾の合間から次段射撃を立て続けに放つ。

 

「鬱陶しい」

 

 ゼフィルスはビットを戻し、エネルギーアンブレラを呼びだした。それに向かってレーザーを放ち、押し出されたシールドビットはその威力により加速した。

 突出されたシールドビッドは電磁シールドにぶつかり内部の高性能爆薬を起爆、爆炎が打鉄・稲美都を包んだ。

 

「きゃあっ!!」

 

 四連シールドとSEのお陰で本体へのダメージは押さえられたが、爆発の衝撃と光に菖蒲は思わず悲鳴をあげた。

 

「ううっ! あれ? 敵は何処に?」

「菖蒲、後ろだ!」

「っ!? ああっ!」

 

 ラウラの声も空しく、無防備な背中に紫光のビームが突き刺さり爆ぜる。

 

「ぐっ。うぅぅぅあぁっ!!」

 

 倒れかかる足を踏みしめ腹から声を絞りだし、晴れる爆煙の中から一際大きい矢【桜花】をつがえる。狙うは自分より上に位置する藍の蝶。

 

 未拘束の相手による射撃、装填から発射までのラグ、ハイリスク・ハイリターンを地で行く稲美都の最大火力。

 搭乗してまだ日が浅い菖蒲では当てるのでさえ至難の技だった。

 

 だが幸いにも敵は微動だにせず菖蒲を見下ろして笑っている。

 慢心か、それとも直ぐにでも避けれるという自信の現れか。

 それでもと菖蒲は弦を引き絞り、桜花を放った。

 放たれた巨大弾頭矢は爆発し、周囲に衝撃と爆炎を放った。

 

「え?」

 

 菖蒲の目の前で。

 

 ゼフィルスとは反対方向、菖蒲の背後に置かれていたビットから飛んできた紫色のBTレーザーが、放たれた瞬間の桜花を突き抜けたのだ。

 至近距離からの大爆発により打鉄・稲美都は地面に叩きつけられ、学生寮に当たって止まった。

 

 菖蒲を撃破したサイレント・ゼフィルスはラウラに拘束されているオータムの傍に降り立ち、スターブレイカーのバヨネットを展開。ピンク色に発光したブレードでAICを切るように動かすと、AICによる感性停止結界が消し去られた。

 

「なにっ!? ぐっ!」

 

 呆気に取られるラウラのレールカノンにゼフィルスのレーザーによって爆ぜた。体制が崩されたラウラは即座にワイヤーブレードを展開するも、展開したワイヤーはゼフィルスのビットにより溶断される。

 AICを再展開する余裕もなく、ラウラはゼフィルスに組み敷かれ。眼前にスターブレイカーの銃口が向けられた。

 

「ふん、この程度の干渉でAICが解けるとは。ドイツのアドヴァンスド、所詮は猿真似の出来損ないか」

「き、貴様! 何故そのことを!?」

「答えるとでも? これから死ぬ奴に」

 

 バカッとスターブレイカーが高出力モードに変化し、銃身内部で光が圧縮され、至近距離にあるラウラの顔が光に照らされる。

 殺られる、ラウラは次に来る衝撃に歯を食い縛った。

 

「ラウラを離せぇぇぇ!!」

 

 が、その銃撃は瞬時加速で肉薄した一夏に遮れた。

 ラウラから離れたゼフィルスはチャージしたエネルギーを割り込んだ一夏に発射するも、雪羅の霞衣によって霧散した。

 

「一夏!」

「無事かラウラ!」

「あ、ああ。だが武装の殆どを持ってかれた」

「大丈夫だ、後は俺が」

 

 ラウラとゼフィルスの間に立った一夏は雪片弐型を構え直してゼフィルスを睨む。だが直ぐにギクリとする。

 冷ややか、かつ鋭利で鋭い眼差し。まるでナイフを首筋に当てられたのような、冷酷無慙なサイレント・ゼフィルスの視線に一夏の体が硬直した。

 

(なんだこの感じ。こいつ、只者じゃない!)

 

 オータムとは違うその威圧感になんとか抗おうと一夏はゼフィルスを睨み付ける

 

「織斑、一夏」

 

 相対する相手の名を口にし、ライフルを構えたその腕は再び妨げられた。

 

「あら、一夏君に先を越されちゃったわ」

「これ以上はさせないよ!」

 

 一夏とは別方向に向かっていた楯無、学園の反対側を巡回していたシャルロットが戻ってきた。

 これで4対1となった。

 

「間も無く教員の応援、そして貴方が置いてきた哨戒組も戻ってくる。降伏なさい亡国機業のテロリストさん。逃げ場はないわ」

「チッ、姦しい」

 

 このまま、自身だけ逃げる事なら可能だ。むしろサイレント・ゼフィルスの操縦者、Mは今すぐにでもそうしたかった。

 だが上官からはオータムを回収しろとの命令が来ている。あの女は優秀ではあるが、オータムが絡むと私情が見え隠れする。

 遊びすぎたかとMは内心毒づいていると、上空から新しいISの反応が出てきた。

 

「散開!!」

 

 アラートと同時にシャルロットは離れ、楯無は動けない菖蒲を、ラウラは出遅れた一夏の首根っこを掴んで離脱。

 残されたMとオータムがいる場所に無数のミサイルが降り注いだ。

 

「どあぁぁぁああ!!?」

 

 爆風に煽られたオータムはすっとんきょうな声を上げた。

 Mは面倒と思いながらオータムを破片から防御する

 

 炎と土煙が上がる広場の空から現れたのは標準色であるグリーンカラーのラファール・リヴァイヴ。

 機体各所には先程撃ったと思われるマイクロミサイルコンテナ、顔はフルフェイスガードによりどんな人物かは分からなかった。

 

「なんのつもりだ」

「───」

「クイーンからだと? チッ、余計なことを」

「───」

「わかっている。オータムを回収する」

 

 Mはラファールのパイロットとプライベート・チャネルで会話をし、オータムの横に降り立つ。

 

「行くぞオータム」

「おまっ! 様つけろ様を! 新入りだろお前!」

「………」

「なんだよ」

「いや、無様だなと思ってな」

「てんめぇ! うおぉ!?」

 

 Mはオータムを小脇に抱えて飛翔する。

 逃すまいと手すきのシャルロットが追う。

 

「駄目よシャルロットちゃん!」

「時間を稼ぐだけでも!」

 

 シャルロットは両手にガルムをコールしゼフィルスに向かう、だがその行く手をラファールが遮った。

 シャルロットはガルムを発射しラファールはシールドを展開し防御、同じく右手にガルムを展開してシャルロットのガルムを一丁弾き飛ばした。

 

 左手にシールドを保持したままガルムをグレネードランチャーに切り換え、発射。

 それを瞬間的に入れ換えられたガルムでグレネードを撃ち、空中で破裂させる。

 

「ぐぅっ! 今のはラピッド・スイッチ? はっ!?」

 

 爆煙を勢いよく突き抜けたラファール、その手には巨大なパイルバンカーが瞬間展開されていた。怯んだシャルロットは為す術もなく腹に単式大型パイルバンカー【ロワイヤル】を叩き込まれる。

 リコイル制御を犠牲にした巨大な衝撃は絶対防御に達し、殺しきれない衝撃がシャルロットを襲い嗚咽を漏らす。

 オレンジの機体は燃える大地に叩きつけられた。

 

「シャルー!!」

 

 クレーターの中心に位置するシャルロットに駆け寄る一夏、腕の中のシャルロットはぐったりと力なく倒れていた。

 

 それを見届けたラファールはIS学園から立ち去り、入れ違いで哨戒班が戻ってきた。

 

「今のは!?」

「敵の増援よ」

「なら、追わないと!」

「ああ! このまま黙ってられるかよ!」

「駄目よ二人とも! 今行ってもまともに戦えるとは思えないわ」

 

 飛び出しそうになる一夏と箒を宥める楯無。学園最強である彼女にそこまで言わせる、その強い言葉に未だ未熟な二人は納得せざるおえなかった。

 

「箒ちゃん、鈴ちゃん。第四アリーナの更衣室で疾風君が身動き取れなくなってるわ。助けに行ってあげて」

「わ、わかりました」

「あいつ何やってんのよ」

 

 二人は楯無の指示通り疾風のもとに向かっていく。

 セシリアは楯無の腕の中にいる菖蒲に近づいた。

 

「菖蒲さん、大丈夫ですか?」

「は、はい。稲美都が私を守ってくれました」

「流石ISってところかしらね。機体の損傷は酷いけど、大怪我はないみたい」

「そうですか」

 

 笑顔を向ける菖蒲にほっと胸を撫で下ろすセシリア。

 シャルロットの元に駆け寄った一夏とラウラからも通信が入った。

 

「シャルロットが目を覚ました」

「ご、ごめん。情けないとこ見せちゃった。うー、なんだかお腹痛い」

「大丈夫か!? さっきの一撃で骨が折れたんじゃ!」

「大丈夫大丈夫。いたた」

「無理すんなって。シャル、IS解除出来るか?」

「うん」

「よし。よい、しょっと!」

 

 言われた通りラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを待機形態に戻したシャルを抱き抱えるように持ち上げた。

 所謂お姫様抱っこである。

 

「ちょ、いい一夏!? 行きなり何を!?」

「無理に動いて悪化したら困るだろ? このまま医務室に運んでいくからな」

「だけどこれはちょっと。顔が…近いというか」

「遠慮すんなって。友達だろ?」

「……そうだね。友達なら、いいよね?」

 

 顔を赤らめ、にやけを必死に隠そうとするシャルロット。この場に一夏幼馴染組が居たら間違いなく食い付きかねん状態だろう。

 

「どうしたラウラ? 凄い難しい顔してるぞ?」

「な、なんでもない。そうだな、シャルロットに何かあったら大変だからな、仕方ない………仕方ないのだ」

「?」

 

 現にラウラも状況と自身の葛藤の板挟みに顔をしかめている。

 一夏も表情は見えても、その内面はさっぱりと理解が出来なかった。朴念神の名は伊達ではない。

 

「ラウラちゃん」

「なんだ。ってラウラちゃんって呼ぶな!」

「まあまあ、それは置いといて。菖蒲ちゃんも医務室に連れてってくれない? 私は事後処理で忙しくなるから。お願い、ラウラちゃん」

「だからちゃんと呼ぶなと……わかりました。一夏とシャルロットと一緒に! 医務室に行ってくる」

 

 一緒という言葉を強調したラウラは打鉄・稲美都を解除した菖蒲を抱え。一夏と一緒に医務室に向かっていった。

 

 

 

 

 

 あの後。教員、代表候補生らは事後処理に追われていた。

 亡国機業によるIS学園襲撃事件。表向きには亡国機業の名前は出さずに火災として処理された。

 幸いにも、更衣室と学生寮と一部区画の破壊にだけ収まり。戦場が限定されただけあって、一般生徒と来客には怪我人は無かったそうだ。

 

 シャルロットと菖蒲さんもISのダメージは大きいが、身体には以上はなし。

 しかし菖蒲の稲美都はシャルロットのリヴァイヴよりダメージが深刻で、一度本社に預けられる事になったらしい。

 

 ………で、肝心の学園祭がどうなったかというと。

 

「「一夏! 明日来客禁止って本当か!!?」」

「ああ、学園祭は通常通りやるみたいだけど」

「「俺達のIS学園ライフーーーー!!」」

 

 そう、二日目は来客禁止の生徒のみの学園祭となった、オータムが来客に紛れてことを犯したのが原因だ。

 二日目には各国の重役の人々も控えていたみたいで、現在教員はその対応に追われている。

 火事だけでは決め手にかけるから色々でっち上げるらしいが。そのでっち上げが凄く大変とのこと。

 

 世間知らずと言われている一夏でも千冬や先生方が大変なのは分かるし、原因が自分にあるから尚の事申し訳無い気持ちになる。

 

 勿論不満の声があるのはお偉いさんだけではない。現に目の前で弾と村上がものの見事にシンクロしている。それほど二人にはショッキングな報告だったのだ。

 

「な、なんということだぁ、まだ回ってない場所がしこたまあったのに」

「うおおぉぉぉ虚さぁぁぁん!」

「すまん」

「いや、一夏のせいじゃないだろ? ほら、弾も立ち直れって」

「くぅ、そうだよな。仕方ねえ………」

 

 なんとか納得してくれたようだ。が、ぷるぷると震えているあたり、内から溢れそうなものを必死で押さえ付けているようにも見える。

 ついでだが、弾の気になる人が虚と聞いた一夏は意外だと思った。

 彼の好みを知っているからというのもある。鈴や弾の妹である蘭が聞いたらどんな顔をするだろう。

 

「ところで疾風は? もしかして怪我とか」

「あぁ、保健室に行ったみたいだけど」

「え、なんかあったのか!?」

「火災の対処の時にトラブルがあったらしい。大きな怪我はないから安心しろって。村上に宜しくって言ってた」

「そうか、そりゃあ良かった」

 

 高校の同期の安否を確認できて村上はホッとする。

 本当はまだベットで寝てるのを知ってる一夏にとって心苦しかった。

 

「しっかし、お前らいつの間にそんな仲良くなってるんだ?」

「ふっ、モテ男には分かるまい」

「男の友情という奴よ!」

「「ハッハッハッハッハッハッ!!」」

「そ、そうか」

 

 よく分からないが、仲が良いのは良いことだと無理やり納得する。

 

「おっと、そろそろモノレールの時間じゃね?」

「やべっ、じゃあな一夏! また連絡するわ。虚さんに宜しくって伝えといてくれ!」

「ああ、気を付けてな」

「おう!」

 

 二人はゲートに向かって歩いていったーーと、思ったら村上が戻ってきた。

 

「すまん、一夏。最後に聞きたいことがあるんだが」

「なんだ?」

「えと。そのだな?」

「ん?」

「えっとな」

「なんだよ?」

「………女の子にモテる秘訣ってなんですか!」

「はい?」

 

 鬼気迫るような表情の村上に思わず圧倒される。

 

「俺もな、別に自分に自信がないって訳じゃぁないんだ。だけどそれだけじゃモテないのが現実なのよ。このご時世にそれだけモテる一夏なら何か知ってるんじゃないかと思ってだな?」

「お、おう?」

「というわけで教えてください! お願いします!!」

 

 村上はこれまた綺麗なお手本のようなお辞儀をしてみせた。営業とかなら有力株間違いなしの見事なお辞儀である。

 

「待て待て。別に俺モテてないぞ?」

「そんなご謙遜なさるなって! 水臭いぞ一夏氏」

「だって俺なんかがモテモテって……なんかの冗談だろ?」

「おいおい冗談って……」

「いやいや、どっちかって言うと疾風の方がモテると思うぜ? 現に執事喫茶だと疾風の方が人気だったし」

「いや、でも。もしかしたらこの子気があるかもって思わない?」

「なんで? ありえないありえない」

「………」

「それに、俺にモテる要素なんかないだろ?」

「………………」

 

 村上は思った。友人、疾風が言ったことは本当だったと。

 電話越しで疾風が言うに、一夏は鈍感だとは聞いていた。ラノベ主人公レベルを凝縮して煮詰め、更に煮詰めまくっても足りないレベルだと。

 

 聞いたときは、そんな馬鹿なと思った。村上も鋭い方ではないが、女の子と話が盛り上がるともしや? と思ってしまう。

 だが目の前の織斑一夏は、そのもしや? という考えから全否定されちゃってる訳だ。

 

「因みに彼女が欲しいなぁと思ったことは?」

「いや、ないけど」

「……………………」

 

 開いた口が塞がらない。その肩にポンと手を置いたのは出来て間もない親友の手。

 

「ま、そういうことだ」

「え? え? え? え? つまりなにか? こいつは無自覚無意識に女の子を絆しまくってるラノベ主人公も真っ青な奴ということ?」

「ああ。うちの妹も、な」

「ウソダドンドコドーン!!」

 

 ガックシ、という表現が適切過ぎる崩れ方をした村上。気のせいか、彼の回りに青黒い線が大量に見える。

 

「やっぱり……やっぱりよぉ」

「お、おい?」

「世の中理不尽だぁぁぁーーー!!」

「村上ぃぃぃぃ!!」

 

 悲痛な悲鳴を上げながら村上は脱兎の如く走り去っていった。振り替えるときキラッと光る物を見た気がする。

 弾も一夏に振り向くことなく村上の後を追っていった。

 

「………なんだったんだ、一体?」

 

 諸悪の根源は何一つ理解せず、只々疑問符を浮かべていた。

 

 特に気にせず、さて戻るかと思った時。

 

「お命頂戴!」

「ひゃぁっ!!?」

 

 突如脇腹を突かれた衝撃に一夏は飛び上がる。振り向くとそこにはやはりというか更識楯無その人がいた。

 

「こぉら! さっきあんなことあったのに、危機管理が無いんじゃないの?」

「すいません」

「全く、疾風君を見習いなさい。あの子、私が本気で忍び寄ったのに気付きかけた事あったんだから」

 

 気付きかけた、ということは最終的には気付いていないということだろう。流石学園最強である。

 

「だから私が近づいても気付けるようにしなさい。わかった?」

「いやいや、楯無さん相手にそれは……」

「あら、私より強い人なんて世界にごまんと居るわよ? 織斑先生とか、篠ノ之博士とか。勿論、テロリストにもね?」

「っ!」

 

 楯無の言葉で一夏が頭に出たのは、サイレント・ゼフィルスの操縦者

 仮面に隠されてもなお突き刺さるような冷たい視線。一夏は15年生きたなかで経験したことない寒気。

 今でも思い出せば残るあの瞬間の硬直、一夏は無意識に震える腕を押さえていた。

 

「ところで一夏くん今暇かしら?」

「暇ですけど」

「そっか、じゃあ一つ頼まれてくれない?」

「頼む、何を?」

 

 一夏の問いに楯無は扇子で答えた。

 扇子には補助の文字が。

 

「疾風君のことお願い出来る?」

「え?」

 

 

 

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