IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第5話【VSファーストマン】

 IS学園の食堂のメニューは豊富の一言である。定番メニューは鉄板どころを抑えられ、女子高故にヘルシーメニュー等も充実。そして、この世界に一つしかないという特殊柄、世界各国から多彩な女子が集まるここの週代わりのワールドメニューの気合いの入れっぷりはもはや異常。

 今週の週代わりワールドワイドメニューはオーストリアのシュニッツェル。韓国のプルコギ。エジプトのシャクシューカ。アルゼンチンのチョリパン等、まるでフードフェスタである。後半の二つに至ってはもはや初耳。

 そしてなにより学食そのものの値段が安いのである。下手に外に繰り出すより安価で済み、なおかつ出るまでが早い。

 このとおり旨い・安い・早いに+αで物珍しいが付与されたこの食堂は生徒に大変好評で、自炊派の方が少ないのでは? という噂。そしてこの人数を捌き、なおかつ、多彩なメニューを作り出す食堂のおばちゃんに乾杯。

 

 これは余談なのだが。たまにスキンヘッドで凄みのあるおっちゃんが時々紛れてることがあるらしい。

 たまにメニュー表にない料理を言った女子生徒に『あるよ』の一言で出し、ある日その料理がメニューに加えられてることがあるとか、ないとか。真相は定かではないため、都市伝説、IS学園七不思議と化している。

 

 そんなこんなで、今日も食堂は大盛況。しかし今日に至ってはそれだけが理由ではない。

 いつも一緒にいる織斑、そして篠ノ之と専用機持ち代表候補生グループに新たなプラスワン、世界で二番目にISを動かした正真正銘の男が居るからだ。

 一夏には負けるものの、ヴァルキリーかつ一流企業のCEOの息子という結構なネームバリューの元に生まれた持ち主。それを一目見ようと食堂は何時もより人でごった返している。

 

 が、彼を一目見ようとした野次馬達は揃いも揃って首を傾げる。

 対象の彼は他の面々と同じくご飯を口に運んでいる、そこは別に間違ってはないし、食堂はご飯を食べるとこなのだからむしろ正解なのだ。

 食べている彼の表情が虚ろな事を除けばだが。

 

 

 

 

「ねえちょっと、こいつ大丈夫なの? 今こいつ何を見ているの? 目に虚無を宿しててヤバイんだけど」

「誰かと電話した後にこうなっていたが。そうだな一夏?」

「ああ。さっきまで普通に話してたぜ」

「私の軍で尋問を受けた後の捕虜に似ているな。情報を吐いてしまい、組織に戻っても処刑されると絶望していた奴にこんなのが居たぞ」

「ラウラのそれは置いておくとして、大丈夫、レーデルハイト君?」

「……………ゴハンウマイ」

 

 虚ろな目、機械的な腕の動き、そしてそれを咀嚼。その繰り返しでカレーライスをパクつく俺はさぞ異常と見えただろう。正直味が分からない、味覚が麻痺しているのか、脳がそれを認識出来ていない。唯一分かるのはこのカレーは辛口ではないということ。だって辛いの苦手だもん。

 

「疾風、一体何がありましたの? 良かったら話して下さらない?」

 

 ピタっと、セシリアの声に反応した俺を一同は共に安心する。

 そのまま静かにスプーンを置き、俺はポツリポツリと話した。

 

「実はな」

 

 

 ーーーーー

 

 

「疾風、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよ、どういうことよ?」

 

 昨日の夕飯前にグレイ兄からの電話。内容は俺の専用機に不具合、厳密に言うと俺の専用機になるはずの機体に組み込む第三世代技術とISコアがマッチングエラーを起こしてしまい、コアの適正率が上がらないらしい。

 

 そのコアはと言うと、俺が二ヶ月間共にあった打鉄のコアである。これは俺と父さんの要望であり、政府を納得させるためにかなりの時間を要した。そしてやっとこさ認可が降りてさあ組み込むぞとなったらエラーである。

 

「試しに工業で預かっている他のコアで代替しようと考えているんだがな」

「父さんが譲らなかったのね」

 

 どんなコアにせよ初期化処理をしてしまえば全部同じ、なら他のコアを使えば良いのではないかと普通はそういう答えに行き着く。

 しかしそれを俺の父親、剣司・レーデルハイトが反対した。ISのコアには限りがあるという理由もあるが父さんの考えは別にあった。

 

 ISのコアというのはただのシステムではない、操縦者にとっては友人でありかけがえのないパートナー。それは初期化しようが関係ない、記憶を失ってもそれまでの時間がなかったことにはならない。技術者にしてはとんだロマンチストだが、それが父さんの持論だった。そこに息子の要望というのが絡めば尚更だ。

 

 そしてコアを取り替えないで作業をやり直して完成するには10日はかかるという話になった。

 

「俺は反対だ。ハッキリ言ってこれは父さんの我が儘、受領主のお前には関係はない。他のコアを組み込んで作業をやり直して、予定通りお前に届けさせる事が可能かもしれない。俺はそうした方が良いと思うから反対した」

「母さんは?」

「現場に任せるだと、こういうときに権限使ってほしいものだよまったく。だがお前の意見なら通るだろう、だから連絡した」

「そっか」

 

 グレイ兄は良くも悪くもリアリストだ、それ故に父さんとは仕事で度々口論になることはある、だがそれは何時でも工業のため、そして今回は俺の為に言ってくれている。

 だけど、

 

「俺は、そのコアでやって欲しい」

「良いのか? 10日後と言ったが、それは飽くまで予定という曖昧な物、もしかしたらもっと遅くなるかもしれないんだぞ? それでも良いのか?」

「うん」

 

 返事はしたものの、勿論良くはない。一週間後に設定したセシリアとのバトル、彼女との初陣は是非とも代わりのない自分自身のオンリーワンで勝負をしたい。

 

 母さんが説得して政府を納得させ、何時までも動かない打鉄に焦燥を感じさえもした。焦って、嘆いて、変えられない現実に絶望し、それを思い知らせれた奴。

 

 だけどあのコアがなければ俺はセシリアに再会出来なかったし、新しく踏ん切りをつけることも出来なかった。あの無駄と思えた二ヶ月感も、もしかしたらあの時に動かす為の切っ掛けだったかもしれないのだ。

 そして、そのコアのお陰で、俺は今此処に居る。

 

「もう一度言う、疾風はそれで良いんだな?」

「ああ、俺はそいつと空を飛びたい」

「………わかった、社長と技術主任にはそう言っておく」

「悪いね」

「良いさ、たった一人の弟が言うなら、俺は何も言えないよ」

 

 自嘲ぎみに呟くグレイ兄だが、賢い彼のことだ、内心はこうなることを予測していたのだろう。

 

「あー、だけど一つ我が儘言うわ」

「何?」

「出来たら一週間後に宜しくって伝えといて」

「ハッ。なんとも、鬼畜なオーダーだな。了解した、確かに伝えておく」

 

 電話を切り、俺は壁に背を向けて脱力した。

 

 

 ーーーーー

 

「とまあ、思わぬ落とし穴でごぜえました。いや無理だよ、誰がこんな展開予測できるよ? IS動かせたんだから少しぐらい待っとけという神様のご意志かこのやろう」

「コア云々は自業自得じゃないそれ?」

「うごぉ」

 

 チャイナ娘の言葉が体に突き刺さった、深々と。

 

「でもどうするんだ? セシリアと戦うのは一週間後なんだろう?」

「え、セシリア。レーデルハイト君とバトルするの?」

「ええ、今日取り付けましたわ。ですが疾風、専用機が届かないなら日を改めても」

「それは駄目」

「どうして?」

「男が一度言ったことをそう簡単に覆してたまるか。それに、俺も早くお前と戦いたいんだよ」

 

 一週間後のバトルは俺にとって始めの一歩。あのモンドグロッソからの叶わぬはずだった約束の果て、そしてその約束を律儀に守り通してくれたセシリアの為、改めてこの学園からスタートし、何れ世界一へ至る為の第一歩。専用機の納品が間に合わなかったとのは言い訳にならない。

 

「別にわたくしは気にしませんのに」

「嘘、お前約束破るの人一倍嫌うじゃん」

「それとこれとは」

「いいのいいの。第二世代でも第三世代に勝てるってことを見せつけてやるぜー! って勢いで行くから、大丈夫大丈夫」

 

 実際ISにおける世代というのは装備体制を差すのであって字面上の性能差という訳ではない。事実大部分の第三世代技術は第一、第二世代ISのワンオフ・アビリティーを技術化することを目標にしている。それを無しにしても、戦い方次第では世代差等は大抵意味をなさないのだ。

 

「むぅ。疾風がそう言うなら良いですけど、精々後悔しないように立ち回りなさいな」

「うん、今日一日の自分の言動行動を思い返して既に後悔してるような気もするが頑張らせて頂きます」

「軟弱だなお前」

 

 言うな、ISを動かして晴れて専用機デビュー! と思ったらこれだよ、ナーバスにもなるさ。

 

「あー、なんか良い知らせないかなー良いこと起きないかなぁ」

 

 今現在女の子に囲まれてるこの現状で何を言ってるんだと世界中な男子諸君から突っ込まれそうだが、俺の場合ISを動かせるなら此処が共学だろうが構わないのである。むしろ周りの視線が痛いので余韻に浸れる余裕がない

 俺の第一はISを動かすこと、それ以外は二の次なのだ。

 

「そんな疾風に朗報があります」

「……なんだよお嬢様」

「明日ISの実技授業がありますわよ」

「いやいやセシリア、そんなんで元気になるわけ」

「ほんとかっ!?」

 

 なるのかよ! 、セシリア以外(野次馬含む)が心中でツッコミを入れるなか、当の本人は俗にいうコロンビアなポーズで悦に浸っていた。

 

「ええ、明日の一時限と二時限がISの実技授業です。後、アリーナと訓練機の申請は門限までとなっています、していないのなら急いだ方が宜しいですわよ?」

「ヤバいやってない、何処でやるんだ?」

「此処からだと寮のロビーが近いぞ」

「ありがとう篠ノ之さん! 織斑、悪いが俺は先に帰る、ごちそうさん!」

 

 並み居る野次馬をモーセの如く退け、ロビーまでダダダダーッシュ! しようと思ったが織斑先生の姿がチラッと見えたので早歩きで食堂を後にした。

 疾風目当てに群がっていた野次馬は一部は離れ、残りは一夏を見ようと更に野次馬が補充された。

 

「あいつ、一夏とは違う人種よね」

「まあ、そうだね。自己紹介でもISに対する熱意が凄かったよ」

「一夏の短絡的なやつとは大違いだったな」

「箒、あの時針のむしろに立たされてた俺になんてこと言うんだ。てかお前も大した変わらなかったろうに」

「まあ何にせよ。奴の戦意は本物だ。仮に訓練機であったにせよ、油断すれば食われるぞ、セシリア」

「勿論。油断する気はありませんわ」

 

 皆が皆世界で二人目の男のギャップに困惑するなか、セシリアだけは満足したように笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 ロビー前のコンソールにジャンピングタッチで申請を出した、門限終了まで一時間だったからか、空いている訓練機の枠が一番遠いアリーナになってしまうも、なんとか申し込むことが出来た。

 

 安堵のうちに慣れない超高級ベッドに体を沈めてなんとか就寝からの起床。今日は待ちに待ったISの実技授業がある。入学して二日目で待ちに待ったという表現は可笑しいかもしれないが、こちとら年単位でこの瞬間を待っていたのだからご容赦頂きたい。

 

 朝のホームルームも簡潔に終わり、織斑に引っ張られて教室を後にし、男子更衣室に向かった。

 当然と言えば当然なのだが、此処は女性にしか動かせないISを学ぶための要請学校。教員も女性が占めるこの施設に男性用の施設など常設される訳もなく、織斑が来てから要所々々に立てられた専用の部屋が設置されたという。しかしその場所というのが少ないというか遠い。

 なので俺達は授業に間に合わせる為に更衣室に向かって走っていた。

 

「急げレーデルハイト! 遅刻したら出席簿だ!」

「は、はい? なにそれ?」

 

 廊下は走っては行けませんという常識はあるが、生徒手帳には明記されてないので校則違反にはならない。見つかったら注意されるが、あの織斑先生ですら「バレない程度に走れ」というのだから、それだけ施設が少ない証拠である。

 だから事情があれば全力疾走でも見逃してくれるはずだ。きっとそうだとも、許してくれる筈だ。

 

「「追ってこないで下さい!」」

「「「お断りだぁぁぁぁ!!」」」

 

 許してくれる筈だ。

 ええ全力で、これ以上ないくらい走っています。大勢の女子に追われながら。

 校則に明記してほしい『数少ない男子を大勢で追いかけては行けませんと』

 

 いやー、不思議なこともあるもんですね。俺達が教室を出てから数分も立っていないのに何処から湧いたのか大量の女子生徒が来た。目をギンギラギンにして。

 

「さあ大人しく捕まりなさい!!」

「お姉さんが着替えさしてあげるから!!」

「願わくば触らして!!」

「夏コミの材料にさせて!!」

「私にときめきを!!」

「はぁはぁ、うら若きティーンの肉体」

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

 

 ギンギラギンになるのは良いが然り気無くやってほしい。

 もうワケわからん、ただひとつ分かっていることは捕まる=遅刻確定ということ。否、遅刻ならまだいい方だ、あの波に呑まれれば身ぐるみを剥がされて確実にお婿に行けなくなる。

 IS学園に転校して二日目、出てくるのは女子校ってスゲーというユニークさの無い感想。ほんと何処のラノベだ此処は? 

 因みに、我が妹はそれはまあ由緒正しきお嬢様学校なのだが。そこに男を放り込んだらこんな感じになるのかな? 怖いね女の子。

 

「というか、もう授業時間になっちゃいますよ!?」

「そうです、なので速やかに撤退することを進言します!」

「「「知ったことか!!!」」」

 

 更にギアを上げる女子の波、学生としてそこはどうなのか? 。いったい何が彼女達を駆り立てているのか、そのリビドーは何処から涌き出てくるのか。

 しかし不味い、此のままではたとえ男子更衣室にたどりついてもドアを理性蒸発EXの彼女達に破られそうだ。

 待ちに待った初の実技授業を遅刻スタートにしたくない。なんとかならないものかと、俺は居るかどうかも分からない神様に祈りを捧げる。

 

「お前達、何をしている」

 

 静かにそして身体の中心に深く浸透する声に、俺達のみならず後ろの女子軍団も急ブレーキ。それにともない後ろではドミノ倒しが発生した、前の人は無事だろうか。

 俺の祈りは北欧の方に届いたのだろう。北欧神話が誇る最強の戦乙女、ブリュンヒルデ降臨である。

 

「織斑先生!」

「千冬姉! ごっ!」

 

 スパァンと一夏の頭に出席簿が爽やかかつ爽快にヒットする。

 遅刻したら出席簿なんて当たり前だろうと聞いていたが、思っていたのとは違っていたようだ。叩かれた頭から煙が出ており、凄く痛そうです。

 

「二度あることは三度あると思って来てみたら案の定だったな。さっさと行け、時間は限られている」

「や、ヤバッ! 行くぞレーデルハイト!」

「お、おう! 先生ありがとうございました」

 

 

 

 

 

「お前らも早く戻れ!」

「「「は、はい!!」」」

「顔は覚えたからな」

「「「ひぃぃぃ!!」」」

 

 放課後、俺達を追い回していたIS学園生徒十数名が次の朝かなり疲弊した状態でいたことが、あったりなかったり。

 

 ーーーーー

 

 だだっ広いロッカールームで着替えを済ませた俺達はアリーナで女子生徒と合流し、俺は初めてのIS実践練習に心踊らせていた。

 

「では今日はISでの実践演習を行う」

「はい!」

「まず初めに近接戦闘の打ち合いをしてもらう」

「はいっ!」

「全員出席番号順に持ちのグループについて始めろ」

「はぁいっ!」

「……少しは落ち着いたらどうだ、レーデルハイト」

「あっ。す、すいません」

 

 ピッカピカの一年生並のエネルギー溢れた挨拶にジャージ姿の織斑先生は呆れ、ISスーツ姿の山田先生は「元気ですねぇ」と微笑んでいた。

 

 余談だが、ISスーツはボディにフィットする、ダイバースーツを薄くしたような、分かりやすく言えば、スクール水着とかウェットスーツに近い。

 そのことから女子は大なり小なり体型が浮き出てしまい、目のやり場に困るという状態。

 

「………」

「大丈夫かレーデルハイト?」

「だ、大丈夫だ」

 

 織斑も、目の前にいる山田先生が少しでも動く度にその低身長に似合わない抜群かつ暴力的なボディをこれでもかとアピールされ? 何処か気まずそうに、必死に目線と首が向かないよう抑制していた。

 入学して二ヶ月余りの織斑は未だに慣れていない。プルプル震えている俺を見て、入学当初の自分を思いだし、そういう心境なんだな、と内心同情していた。

 俺は周りの女子の際どい格好にドギマギーーー

 

「織斑、凄いな」

「そうだな」

「コアが搭載されている打鉄が6機も並んでいるぞ」

「おう………はい?」

 

 ーーーなんてことは全然なかったのである。

 俺の目線は周りの女子など目もくれず、先生方の後ろに鎮座している鈍色のIS達だ。

 知っての通り、ISはコアの絶対数が世界問題を考えてみると圧倒的に足りない。

 一般的な駐屯地でも、3、4機配備が一般的である。レーデルハイト工業にもISコアが配布されているし、IS学園からメンテが来ることはあっても此処まで揃うことなんてなかった。

 IS学園は世界でただひとつのIS専用教育機関。短期間の実技授業の円滑化を図るためにも世界でトップクラスのコアの保有数を誇る、目の前の光景がそれを嫌でも実感させてくれた。

 

「ああ、俺は今………感動している! あぁっ! 生きてて良かったっ!」

「お、おう、そうか。良かったな」

 

 目を輝かせる俺を前に織斑は少し引き気味だ。おかしいな、男ならこのシチュエーションに誰しも心が踊るはずなのだがな。慣れというものだろうか、うーむ。

 

 授業の監督は織斑、フランスのデュノアさん、そしてドイツのボーデヴィッヒさんが担当、残りは別枠で対戦相手をすることになった。専用機持ちは訓練機に乗らない分授業の補助、又は別枠のメニューを当てられるらしい。

 因みに俺は織斑の班、周囲から浮かないよう走り出さないよう気を付けながら早歩きで織斑の元に向かった。

 

「じゃあ誰からやる? ってレーデルハイト、ヤル気満々だな」

「ああ、今の俺はISに飢えている、乗せなかったら自分でも何をするか分からない」

「わかったわかった。じゃあ箒、頼めるか?」

「な、なんで私が!?」

「このグループの中で一番実践経験あるじゃないか。学年別トーナメントの時も良い動きしてたし」

「よ、よく見てるじゃないか」

「当たり前だろ?」

 

 箒さんの頬が蒸気し、なにやらモジモジしだした。

 

「そうか、当たり前か……よし良いだろう。レーデルハイト、私が相手になってやる! 覚悟しろ!」

「お、おう。お願いします」

 

 な、なんだ。この迫り来るような燃える覇気は? これは、負けられん。

 異様に闘志を燃やす篠ノ之さんからの視線を受けながら、打鉄に乗り込んだ。流石に触り続けた機種なだけあって、スムーズに装着することが出来た。

 うん、この乗った時にISと一体になるような感覚は癖になるな。さて武装は。

 バススロットのウィンドウには日本製IS用近接ブレード【葵】、同じく日本製IS用十文字槍【(にしき)】。剣よりも槍派なので迷わず錦を選択、右手に展開光が集まり、身の丈程の十文字槍が顕現した。

 

「おっ、武器出すの早いじゃないか」

「いやまだまだだ。せめて0,5秒で出せるようにしないと」

「織斑先生みたいなこと言うのな」

 

 ISでの戦闘はとにかく早い、ハイパーセンサーによる感覚超過やその機動性もあってとにかく早いのだ。即時展開やその場の状況は目まぐるしく変わる、武器展開を如何に早くするかで勝敗が別れるのは珍しいことではない。中にはラピッドスイッチという特異技能まであるのだから。

 

「箒、大丈夫か?」

「だ、大丈夫だっ! むぅぅぅぅぅ、ふん!!」

 

「来い! 葵!」と聞こえんばかりに唸る篠ノ之さん、の手に集まっていた光の粒子がようやく近接ブレードの形に固定された。

 

「じゃあ一度でもシールドが発動したら終了な。ではーーー始め!」

「おぉぉぉぉ!!」

 

 開幕と同時に力強い剣が雄叫び共に振られる、無理して防ごうとせずにISを小刻みに動かして回避する。それに追従するように大太刀をブンブン振るうその姿は正に力強いの一言。

 

「せぇいやっ!」

「あぶね!?」

 

 右、左、上と、空気を割く音が鳴る精錬された鉄の塊をハイパーセンサーを上手く使って避け続けていく。

 

「このっ! 逃げるな!!」

「逃げてない!」

 

 本当だ。何せIS同士での戦闘はこれが二回目、近接戦闘に関してはこれが初めてである。ISの防御機能が優秀なのは分かってはいても、こうも勢いよく刃物を振り回されたら迂闊に手を出しづらいというか多祥なりとも恐怖感はあるわけで。

 そしてさっきの織斑の口振りだと、篠ノ之さんは接近戦が得意だ、そういえばどっかで篠ノ之束の妹が剣道大会で優勝したという記事を、見たことがある気がする。

 そんな相手に真っ正面からぶつかりに行くほど度胸が有るわけではないで隙を見つけるまで避けに徹する。結局逃げてると言ってはいけない。

 

 一度距離をあけた俺に対して篠ノ之さんはブースト、上段の構えで斬りかかるのを既のところバックステップで躱す。

 だが今回はそこで終わらなかった、篠ノ之さんは降り下ろした葵を失速、返す刀で袈裟斬りを繰りだし、槍の柄に当ててきた。

 槍から伝わる衝撃と思わぬ奇襲に俺の打鉄はバランスを崩した。

 

「貰ったぁっ!!」

 

 体制が逸れた相手に篠ノ之さんの突きが出される、強い踏みこみから放たれる一刀は真っ直ぐと無防備な胴体に進んでいった。

 

 やられる! と思う間もなしに俺は打鉄の操縦をセミオートからマニュアルに切り替えた。無我夢中でスラスターもPICを操作、自身の体を無理な体勢のまま右に吹き飛ばし篠ノ之さんの渾身の突きを避ける。

 急ブレーキ、休む間もなく自身の打鉄のシールドを前に出し、篠ノ之さんの打鉄にブースト全開で突っ込ませた。躱されたとみるや此方にブレードを構え直す篠ノ之さんをブレードごと肩のシールドで迫り上げて逆に体制を崩し、錦をその土手っ腹にぶちこんだ。

 

「そこまで! 勝者、レーデルハイト」

「よしっ! たぁっ!?」

「おい大丈夫か!?」

 

 勝利の喜びの余りガッツポーズをしようとしたところ操縦桿越しに持っていた錦の長さを忘れて柄が顔にぶつかってシールドが発生した。とても格好悪い。

 

「俺は大丈夫。あ、篠ノ之さん大丈夫か、ちょっと強くやり過ぎた?」

「いや、問題ない。一人で立てるから大丈夫だ」

 

 俺の一撃で尻餅を付いた篠ノ之さんに手を差しのべるも本人が制止、ISのPICを使って上体を起こした。

 

「ふー、私の敗けだな、私はまだまだ未熟だったということか。しかし良い動きだったな、本当に二週間前に動かしたのか?」

「そうだよ、基本動作を少し、あとイメトレだけは気が遠くなるほどやってた。後はそれを元に知識と体で動かしてみせたらなんとかなったって感じかな? ほら、ISってイメージ・インターフェースが優秀だし。今のだって思い付いた事を即実行って感じだから、もしフルでバトッたらどうなってたか」

 

 俺はそれでもいいし、むしろやりたい。

 

「レーデルハイト、次の人に変わってくれないか? 時間押しちゃうし」

「ヴェっ、もう終わり? 勝ち抜き戦的な感じで一つお願いできない? 駄目?」

「どんだけ乗りたいんだよ。俺はいいけど、先生が何て言うか分からんぞ」

「よし降りる、今すぐ降りるよ」

 

 先程見た出席簿チョップは見るからに痛そうだった、あれは受けたくはない。

 手順をしっかり守って、次の人が乗りやすいようにしゃがみ、名残惜しげに打鉄と自身の接続を解除した。

 

「あ、しゃがんじゃった」

「あーお姫様チャンスが」

「ぐぬぬぬぬ」

 

 何故か周りの女子から落胆の声が、何処か間違っては、いない。完璧な待機姿勢だ。それとも篠ノ之さんに勝てるとは思わなくて当てが外れたからだろうか。

 まだ二日目だ、最後は少し締まらなかったが、徐々にこの女子だらけのクラスに馴染んでいくとしよう。

 

 このあと。後の女子が何故か立て続けにしゃがまないでISを降りてしまい、織斑がお姫様抱っこで運ぶ、またしゃがまないで降りる、お姫様抱っこのループが続くという怪現象が発生した。皆より遅れた織斑班のリーダーは見事織斑先生のお叱りを受けたそうな。

 因みに俺は待っていられる訳もなく、他の班にお邪魔してISに乗せてもらって、一人美味しい思いをしていたのだった。

 

 ーーーーー

 

 

 

「レーちん、準備終わったよ~」

「ん。ありがとうのほほんさん、打鉄のパッケージ取り付けるの手伝ってくれて」

「いいよいいよ~、暇だったし」

 

 俺は今学園の第3アリーナの格納庫に来ている。クラスメイトであるのほほんさん。本名、布仏本音。

 何処から聞いたのか、俺が打鉄と共に打鉄専用高機動パッケージ【鉄風】を申請をしたのを耳にし、取り付け作業を手伝うと言ってくれたのだ。特に断る理由もなかったのでお言葉に甘えさせて貰ったところ……

 まあ手際は良いこと良いこと、俺も少しかじってはいるが、所詮はかじっただけだということを思い知らされた。

 因みにこの愛称だが、出会い頭に行きなりつけられた。本人も、のほほんさんと呼んでと言うのであやかっているのだが、ニックネームで呼ばれる事など今まで無かったから、なんとも。

 

「レーちんの専用機ってさ~高機動型なの~?」

「ノーコメントで」

「初日から高機動パッケージを使うなんて無茶してる時点でそれ言っちゃう~?」

「ブラフかもよ。それになんか怪しいし」

「あーヒドーイ。私の事スパイかなんかだと思ってる~?」

「美人局じゃないことは願っている」

「尚更ヒドイ~」

 

 パタパタと明らかに丈があっていない萌え袖をプラプラさせる彼女は言葉とは裏腹にニコニコしている。

 

「で。セッシーには勝てそう?」

「セッシーってセシリアのこと? そうだな………3割くらい?」

「あれ? 結構弱気?」

「言うなよ。相手は代表候補生だぞ? それに俺にとって初めての本格的なフルバトルだし稼動時間もあっちのほうが遥かに上だ」

「でもおりむーは勝ち一歩手前だったよ?」

「織斑はブリュンヒルデの弟補正とかなかった?」

「それは自分で確かめてみて~。というか、レーちんも人の事言えないんじゃないの~? お母さんは高機動部門のヴァルキリー、織斑先生と打ち合えた数少ない実力者でしょ~? れーちんも補正あるじゃ~ん」

「それを言われると耳が痛いんだが」

 

 母さんの異名である剣撃女帝。並みいる実力者を圧倒的手数で切り刻み地に落としたことからその名が付いた。が、最大の理由は第一回モンドグロッソの中でただ一人、織斑千冬と接近戦で切り結び続けた(他の代表は隙を突かれてからの一撃必殺で退場)からである。

 

「まあ稼働時間とかは飽くまで表面上の問題だ、気持ちで負けるつもりは無いし、当然勝ちに行かせて貰うさ」

「男の子だね~」

 

 男の子ですから。

 

「あ、電話だ~もしも~し………うんわかった~。ごめんね~生徒会から直ぐに来いって呼び出し貰っちゃった~」

「呼び出しって、何かやらかしたの?」

「しらなぁい。とりあえず行ってくるね、ばいば~い」

 

 長袖をブンブンぶん回しながらのほほんさんはゆ~っくりと去っていった。ほんとゆっくりだな、呼び出されてるにも関わらずあの姿勢、彼女はもしかしたら大物なのかもしれない

 

 しかし先程の確かめてとは何だったのか、疑問符を浮かべつつパッケージ付きの打鉄に乗り込み、カタパルトに乗り込む。

 

「疾風、行きまーす! ………なーんてうぉぉぉ!?」

 

 言ってて恥ずかしくなりながらもカタパルトを起動した時の加速に目を見張ってしまった。アリーナ内に放り出されながらもなんとか体勢を立て直し、浮遊姿勢を取った。人性初カタパルトがこれとは……なんでこうも締まらないの俺は。

 

「ださっ、何が行きまーすだ」

 

 首を降って眼下を見下ろすと、アリーナの全景が見てとれた。この第5アリーナは一番小さいアリーナ、それでもかなりの広さで、充分に飛び回れるスペースを持っている。

 

【IS反応検知、白式を確認】

 

「おおっ? もう居たのか、早いなレーデルハイト」

 

 出てきたのは織斑だった、その身を包むのは純白のIS、無駄のないスラッとしたアーマー、腰には獲物である近接ブレードがささり、大型の羽のようなウィングスラスターは高機動型であることを物語っていた。

 あれが篝火さんの言ってた白式、男性IS適合者が纏う専用機か。何処と無く正統派主人公機感がある。なかなかどうして格好いいではないか。

 

「織斑も練習か?」

「まあそれもあるけど、今日は別件なんだ。レーデルハイト、俺と勝負してくれないか?」

「いいよ」

「即答かよ!?」

「おう。俺もお前と戦ってみたかったんだ、学園での初陣がブリュンヒルデの弟のファーストマンだというのは面白いしな」

 

 手を伸ばして錦を出現させ、構える。織斑も腰にさしていたブレード、雪片弐型を抜いた。

 

「行くぞ」

「いつでも」

 

 合図もなく、両者共にスラスターを最大にして突進し、刀と槍がぶつかって火花が舞った。合わさった刃が擦れあい赤熱しながら、鍔迫り合いが起こった。

 

「ぐぅっ、らぁ!」

「おぉっ!」

 

 鍔迫り合いを制したのは白式だった、仰け反ったその身に二撃目を当てんとする所を肩部シールドで防御、ノックバックを利用して白式から離れた。

 と思うのも束の間、織斑は直ぐに距離を積めてきた。何度も打ち付けられる刀を槍とシールドでいなし続けるも、織斑は喰らいついてきて離れない。

 

 何度も離れようもしても静電気で引っ付いたビニール袋の如く纏わりついてくる。

 

 このIS、パワーだけじゃなくスピードも高い。此方も高機動装備だが、調整はマイルドなので超高速機動ではない。マシンポテンシャルはあっちの方が上、こっちは仮フィッティングなのに対し、あちらはフィッティングを十全に済ませている分反応速度は僅かながらも差が出ている。

 ISの稼働時間もあちらの方が断然上、突然の勝負なので充分な種類の装備は入っていない。勝率は彼方に傾いている、だが。

 

 雪片弐型がシールドに当たり、再びノックバックを利用して離れる、と見せかけて俺は白式に突進、シールドチャージを噛ます、ように見せた。

 織斑が受け止める構えを見た瞬間に、PICをカット、白式の下に落ちるように潜り、再起動。織斑の足に狙いを定め、槍を当てにいった。

 体勢が崩れた隙を逃さず、バススロットに常設されていたアサルトライフル【焔備】を呼び出してぶっぱなす。

 

 ISの反動制御とハイパーセンサーによる正確な弾道は白式の白いアーマーに面白いように命中する。

 そのまま距離を保ち、白式の進路を妨害するように連射、止まることなく弾丸が白式のSEを叩いた。

 

 そのまま距離を起きつつ焔備で射撃、近づいてきた所を雪片弐型より射程の長い錦で捌いていく。

 

 噂通り、織斑の専用機白式の武装は近接ブレードのみか。噂によれば、後付けのイコライザを入れるための容量がないらしい。

 だが油断は出来ない、彼は自身の姉と同じ相手のエネルギーを無視して絶対防御を切り裂くワンオフ・アビリティー【零落白夜】を持っている。

 白式の原型が暮桜の再現だとすれば、機体コンセプトにも納得が行く。

 

 思案にくれながら撃ちまくる、が途中で弾が出なくなった。好機と見るや織斑は雪片弐型を横に突進、持ち前の機動力を唸らせ、結構な距離を一気に縮めてきた。

 

 手動でのリロードが間に合わないと判断し、咄嗟にイチバチで行動した。空のマガジンを排出、排出された瞬間にバススロットから直接マガジンをイメージし、そのまま装填状態まで移行ーーー成功。トリガーを引き、正面の織斑の顔面に撃ち込んだ。

 

 怯んだ織斑の横っぱらに蹴りを入れ白式を吹っ飛ばした。

 空になった筈のライフルからの射撃に驚き、錐揉みで落ちた織斑はなんとか体勢を保ちながらも、次段で撃たれる射撃から逃げる。

 

「うおおっ!? な、なんだ今の、弾切れじゃなかったのかよ!?」

「弾切れではあったよ」

 

 バススロットリロード。手動でのマガジン交換ではなく、操縦者からISへのイメージインターフェイスのコールのみでリロードを行う。

 基本は大型砲塔やミサイルランチャー等の固定兵装、手の届かない場所へのリロードに使われ、この場合はISから専用の高速展開処理調整が行われる。

 だが高速処理されていない手持ちのライフルとなると、マガジンと差し込み口にズレが生じるとコールが失敗して再量子化してしまう。ISがある程度補正するにしても成功率は低い、技術よりもイメージ力を求める高度技術の一つである。

 ぶっつけ本番で試した俺も「よっしゃ出来た!」の始末である。

 

「うおっ!? 今朝の実技授業もそうだったけど、お前本当に初心者か!?」

「二週間のペーです。宜しく!」

「ちょちょちょ!!」

 

 加減をしているのか、思っていたよりは弾が当たっている。しかし伊達に刀1本でこの学園を生き延びただけはあるのか、決定打となれる一撃、近接戦では競り負けている。

 

 このまま、遠距離で削っていきたいが、焔備は今撃ち尽くした、予備マガジンも零。調子こいてばらまきすぎたか。

 ここまで来たのだから、なんとか白星に持ち込みたい。武器ウィンドウを確認し、織斑を睨み付けた。

 

「そろそろ終わらせる。行くぞ!」

「望むところだ!」

 

 銃口を織斑に向けたまま鉄風の増加スラスターを吹かす。撃つ、と見せかけて空の焔備を投げつけて視界を遮り、織斑は雪片弐型でそれを弾かせ、弾いた刀は体の外によけさせた。銅はガラ空き、右腕に持った錦を力の限り突きだす。だが織斑は読んでいたのか、両手に握られた雪片弐型でそれを受け止めた。

 

 読み通りだ! 

 空いていた左手に急激に収束される光の粒、焔備を投げた次にイメージを待機させていた光がほぼ一瞬で形をなし、近接ブレードの葵へと変貌する。

 

 焔備と錦の二段ブラフ、本命は今まで一度も使わなかった葵による奇襲攻撃。

 織斑の両の手は雪片弐型でふさがれ、葵を見る顔がひきつっていたのがわかる。

 相手の頭上に掲げる左手の一撃が正に、白式に喰らい付かんとしていた。

 だがそこで一夏は予測外の行動をとった。

 

「おおおっ!!」

「はっ!?」

 

 白式のウィングからスラスター光がバッと輝いた。なんと織斑は振り下ろした葵に自分からぶつかってきたのだ。

 だが白式のSEに当たったブレードは降り下ろしきる前に当たった為に勢いはなく威力がそこまで乗っていなかった。結果、白式のSEはそこまで減らなかった。

 

 

 俺から見たら織斑は自ら葵に当りにいったようにしか見えなかった。

 織斑の体当たりにより俺の手から葵が離れる。体勢が崩されたが、理解する前に最大出力でバックブーストをかけ白式と距離をとった。

 

 突如目の前の景色がスローになった気がした。

 コンマ数秒前、織斑は遥か向こうにいたはずだった。だが今はほぼ目の前にいる。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 一度吐き出すはずだったスラスターエネルギーをもう一度取り込み、二回目のスラスターエネルギーに上乗せして加速する高等技術である。

 

 一夏の手にある雪片弐型の刀身が変形、白色のビームブレードが伸び、白式の体が金色に包まれた。

 それが何なのかは知っていた、理解していた。だが体はそれに追い付けなかった。

 一瞬とも言える加速、金色白色の剣が打鉄の胴に打ち放たれた。

 

『試合終了。勝者、織斑一夏』

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

「疾風、俺の敗けだ!」

「………は?」

 

 開口一番に疑問符を浮かべてしまった。

 試合を終え、俺達がISから降りると同時に謝ってきた。

 

 織斑が言うに、今日は俺にとって初めての摸擬戦、なれない戦闘だから一夏はワンオフ・アビリティーと瞬時加速を使うなと、凰代表候補生に言われたそうだ。まあ、分かりやすく言うとハンデをつけてくれたということらしい。

 が、結局土壇場で二つとも使って俺を一刀両断してしまってハンデ違反したから自分の敗け、というのが織斑の見解らしい

 

「本当にすまん、俺男として情けねえ!」

「そんな大袈裟な。言わなきゃ分からなかったのに態々言いにくるとは、律儀だねぇ」

「いや、こういうのを隠すのは男じゃない気がして」

「ハンデは許容範囲なんだ」

「うっ! それもそうだな。ごめん」

 

 ガックシと肩を落とす織斑。

 しかしハンデは本人の意思ではなく、凰代表候補生の強い希望があったのだろう。

 耳に届いた話では、彼女は織斑がIS学園に入ったと同時に中国IS機関に殴り込んで直談判した、という破天荒な噂がある。

 見るからに勝ち気な性格だ、織斑も彼女の気に当てられてしまったのだろう。

 

「大丈夫だ、俺は気にしてないし。そもそもワンオフあったの知ってたから」

「え、そうなのか?」

「うん。てか有名だぜ白式のワンオフ、まさか姉と同じワンオフを発現するとはってIS界隈じゃ話題の種なんだから」

「そ、そうだったのか。知らんかった」

「それに。最後の最後にワンオフを使ったってことは、本気だったってことだろ?」

「そうかもしれないけど。あれはとっさというか、やられるって防衛本能が働いたというか」

「じゃあ俺は初陣なのにそこまでやれたってことだよな。うん、そう考えると初陣にして大戦果じゃないか。だから気にすんな、俺は気にしないぞ織斑」

「そ、そうか。そう言って貰えると助かる」

 

 織斑はホッと胸を撫で下ろした。表情も昨日見たような朗らか人畜無害な明るい顔に戻っていた。くっそー、姉に似て顔良いなこいつ。

 

「なあ、レーデルハイト。俺のこと名字じゃなくて名前で読んでくれないか? ほら、名字だと千冬姉と被るし」

「別に良いけど、別に間違えたりなんかしないぜ?」

「名字で呼ばれるより名前で呼びあった方が友達感あるだろ? 俺も疾風って呼ぶからさ!」

「お、おう。お前が良いなら構わないよ」

「決まりだな! これからも宜しくな疾風!」

 

 ニカッと気持ちの良い笑顔と共に手を差し出してきた。

 ああ、成る程。こいつは良い奴だ。此処まで裏表のない奴は中々居ないだろう。

 転校初日に早速声を掛けてくれたのは同じ男が来てくれた喜びと、慣れない俺を気遣ってくれたからなのだろうな。

 

「ああ、宜しく一夏」

 

 差し出された腕を固く握り返した。なんか青春漫画みたいだな、となんか恥ずかしいような気分になった。

 

「一夏ぁ!! あんた零落白夜と瞬時加速使うなって言ったのに、なーにちゃっかり使って勝っちゃってるのよ!!」

「り、鈴!?」

 

 ドアを開けてズカズカとツインテール揺らしながら迫り来る凰さんが一夏に迫った。後ろからは篠ノ之さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんが続く。

 

「あんたね! 負けそうになるからって使うとか情けないと思わないの!?」

「あの、凰さん。俺は別に」

「そうだぞ一夏! 男が一度契った約束を反故にするとは何事か!」

 

 おおう、なんということだ入る隙間がないぞ。

 

「まあまあ二人とも、一夏も悪気があったわけじゃないみたいだし」

「甘いぞシャルロット、規律を破ったものには相応な罰を与えねばならないのは世界の一般常識だ。ということで一夏、明日私の用事に付き合ってもらうぞ。二人きりでな」

「くぉうら! 何どさくさにデートの約束取り付けようとしてんのよアンタわぁ!!」

 

 うわー凄い。一瞬にして織斑………一夏が揉みくちゃになってしまった。………あ、補給終わった。 

 

「は、疾風助けてくれ!!」

「すまん一夏、打鉄のエネルギー溜まったから行くわ。さーて練習練習」

「薄情者ぉぉぉ!!」

 

 失礼な、俺達は友達だろ? 無粋な真似はせずにクールに去るぜ。

 この学園で唯一の男友達に別れを告げ、俺は再びアリーナに舞い戻った。

 

 

 

「と、ところで! セシリアが居ないけどどうしたんだ?」

「セシリア? 試合終わった後別のアリーナに行くって言ってたぞ」

「いつも以上にやる気充分って感じだったよね」

「一夏の初陣の時と比べるとまるで別人だな。一夏の時のようには行かないかもしれんな」

「そうか………じゃあ俺も疾風の助けになるように練習を」

「おっとまだ話終わってないわよ」

「うおおお!?」

 

 

 ーーーーー

 

 一夏に一刀両断された日の翌日

 セシリアとの決闘の日まで後5日。

 

 

 今日も俺はアリーナに来ていた。

 周辺には工業がプログラムした対オールレンジ用のホログラムビットが複数展開されていた。

 

 セシリアの機体、ブルー・ティアーズの特徴はビット兵器。あれを初見で躱すのは困難だと判断した俺は通常の特訓に加えこのプログラムを取り入れていた。

 

「ホログラムアタックの被弾率は34%。あれのハイパーセンサーならもう少し……出来るか?」

 

 問題はあいつのBT適正がどれくらいかによるな、ログとか情報を見るに、まだ最高稼働状態の技術を使った形跡はないが、使えるとしたら正直ヤバイし、勝率は雲泥の差になるだろう。

 

【アリーナ内にIS一機が侵入】

 

 思案にくれているとアリーナのカタパルトから打鉄が一機飛び出してきた。

 その打鉄の乗り手が拍手をしながら俺の側にひらりと舞い降りた。

 

「さっきの練習プログラム、中々の出来ね。貴方が作ったの?」

「いえ、うちの会社が作ったものに少しばかり手を加えただけです」

「ふーん、じゃあ私もやってみて良い?」

「良いですけど」

 

 ふわっとPICを操作して浮かび上がる、ホロコンソールを操作して対オールレンジ攻撃教習プログラムを起動した

 

 

 

「いやー、危なかったわ。この攻撃アルゴリズム結構やるわね。良く言えば作り込まれてる、悪く言えば意地悪いって感じね」

 

 な、なんだこの人は。

 モーショントレーニングを終えて女子はすたっと降り立った。結果を言うとパーフェクト、被弾率0だった。

 この人がこのプログラムを受けたのは初めての筈だし、プログラムを学園で起動したのは今日が初めて。なのにこの人は被弾率0で終えたのだ。しかも余裕をまだ残してるかのような佇まい、何者だこの人は。

 

「ていうか、途中からモーション変わってたわね。貴方プログラム組み直したでしょ」

「うっ」

 

 そうなのだ、あまりにも当たらなくて本の少し意地悪な心が働き、途中からパターンを変更したのだ。が、結果は見てのとおりである。

 

「それじゃ今度は対射撃の相手をしてあげる。セシリアちゃんのISは射撃メインだからね、やっておいて損はないでしょ?」

「ちょ、ちょっと待ってください。行きなり何を」

「あら、お姉さんと練習するのお嫌かしら?」

「いや、そういう訳では」

「じゃあこうしましょ。私にどんな手段でも一撃を当てたら貴方の勝ち、私が貴方のシールドエネルギーを0にしたら私の勝ちということで」

 

 なんか着々と摸擬戦を申し込まれ、あまつさえ圧倒的こちらに有利なハンデを与えてきた。こっちがIS初心者だから嘗めているのだろうか。

 いや、この人はそんな気がしない。それを思わせる風格がこの人には確かにあったように見えたのだ。というか、どっかで見覚えがあるんだよな、誰だっけ? 

 

「あの、すいません。貴方は一体?」

「ん、私? 貴方に興味を持った、通りすがりのお姉さんよ♪」

 

 そう言って水色の髪をした女性は林檎のような赤い目を細めた。

 その目の奥に、確かな好奇心を宿して。




 初の本格戦闘回、いやリメイクだから初ではないか。でもハーメルン初戦闘だしいいよね。

 此処からはリメイクだけに専念しようと思います。執筆速度は御達しですが、首を長くしてお待ちくださいませ。


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