IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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ナンバリング50達成しました。
中々感慨深いものを感じます

これからもスカイブルー・ティアーズを宜しくお願いします。


第50話【その楽しそうな顔が見たい】

 どうも皆さん疾風・レーデルハイトでございます。

 

 亡国機業が襲来した日の翌日。

 外部客無しの学園祭二日目が始まり、今日も我らが一年一組主催の【奉仕喫茶】は今日も繁盛しております。

 

 そんななか小休憩とバックヤードの後ろに居るのですが。

 

「………………」

「………………」

 

 絶賛気まずいワールドを展開されてます。

 タスケテクダサイ。

 

 

 

 

 

 遡ること三分前。

 

「ふあー! 今日も大盛況だな」

「あぁ………」

 

 執事組二人はバックヤードに逃げ込んだ。

 まだ朝の八時だというのにこの疲れよう。

 

「でももうすぐ楽できるな。ありがとな疾風、シフト制にしてくれて」

「なーに。可能性を考えれなかった俺にも落ち度あるしな」

 

 そう。今日は前日の反省を活かして俺と一夏の時間を大幅に短縮。

 一番最初の二時間と終わりの一時間限定となっている。

 つまり残りの時間を思う存分遊びに使えるのだ。

 じゃないととてもじゃないが学園祭は楽しめん。これでもかなり譲歩したんだ。

 

 総合売上げに関してはまったく問題ない。むしろ今日は開催しなくてもレース独走だと会長が言ってたし。

 その会長だが、また何かやるらしい。午後の時間開けといてねとのこと。

 

「あら」

「あ、セシリア」

「ヴェ」

 

 バックヤードにセシリアが入ってきた。

 俺と目を合わせるや直ぐに目線をそらし、一夏の隣の椅子に座った。

 

「………………」

 

 THE、沈黙。

 とたんになんとも知れない空気がバックヤードを埋め尽くす。

 

「あ、俺そろそろいかなきゃ。じゃあな疾風」

 

 オイィィ! この重苦しい空気のなか二人っきりにするな! 

 なんでこんな空気になったのか知ってるだろお前はってオーーーーイ!! 

 

 

 

 

 

 

 とまあ。昨日親睦を深めたはずの親友にあっさりと見捨てられた俺は現在セシリアと特に話すことなく、何かをすることなく大人しく座って下を見ていたのだった。

 休憩だというのに全然心が休まらないし今すぐにでも現場に行って女の子にキャーキャーされたい。

 そんなぐらいここの空気、重い。

 

 因みに今日俺とセシリアは一度も言葉を交わしていない。

 挨拶をしようと思ってもあっちがそそくさと離れていくのだ。

 なので俺達は同棲の話には一度たりとも触れてはいない。会話などしていないのだから当たり前である。

 

 だからといって先に出ていくのはなんとも負けた気がする。何にかわからんが。

 先に出たらあたかもそれに意識してるみたいじゃないか。

 

 ………べべべ別に気にしてないし? 

 裸(水着)エプロンの衝撃に比べれば別にセシリアとの同じ部屋だってぜーんぜん気にならないし? 

 ていうか普通に休憩終わったって言って出ればいいんじゃね? 

 やべーよ俺天才かよー! そうと決まればこんなところからオサラバだ! ヒャッホー!! 

 

「あの」

「なんだよ」

 

 なーーんで逃げようと思考したらドンピシャで止めるのかなーこの子は! 

 止まる俺も俺だけどさ。

 

「今日は残念でしたわね。ご家族が来る予定だったのでしょう?」

「まあ、そうなんだよね。親と兄は納得してくれたよ」

「楓さんは?」

「………」

 

 回想に突入。

 

 

 

 

 それは昨日会長からのカミングアウトに放心してしばらくのこと。

 

 側に置いていたスマホが振動した。

 

「誰だ? ………おぅぅおっ!」

「何て声出してんだよ疾風」

「もしかして女の子から?」

 

 大正解です。

 

 彼女が生まれたときには俺は側にいて。俺にとって掛け替えのない大切な人で、そして今もっとも話したくない相手だった。

 ぶっちゃけこのまま居留守を決め込みたかった。話の内容が予知できる分なおさらだった。

 

「出ないのか?」

「出たくない、でも出ないと駄目だわ、死ぬ」

 

 意を決して応答のボタンをタップし、恐る恐る耳に当てた。

 これ今日二回目だな。

 

「………もしもし」

「疾風兄学園祭中止ってどういうことっ!?」

 

 キーーンと左耳から右耳をダイレクトに通過したハスキーボイスが俺の鼓膜を揺さぶりに揺さぶった。

 レーデルハイト家長女にして妹。楓・レーデルハイト、お冠である。

 

「マイシスター楓、落ち着いてくれ。別に中止じゃなくて来客禁止だから」

「私にとっては中止に等しいの!!」

「ごもっともでございます」

「せっかく疾風兄に会えると思って服もメイクも奮発したのにぃ!!」

「おーけー、その代金はプレゼントとして俺が立て替えといてやる」

「お金の話じゃないの!!」

「ごもっともでございます!」

「でも疾風兄からのプレゼントも欲しいからお菓子を希望!」

「喜んで!!」

 

 話のノリと断りたくても断れない状態+妹が兄に強請るという的確に兄に報酬を分捕る算段を整えてしまうとは。流石一流企業CEOの娘、侮りがたし。

 

 側では一夏が大変そうだと同情し。片方は笑いを堪えていると思いきや、何やら深い顔で「分かる、分かるわよ疾風君」としきりに頷いている。

 そういや貴女、妹居ましたね。

 

 

 

 

 回想終了。

 

「大変だったとだけ言っておく」

「そうですか」

「うん。そろそろ休憩終わりだから戻るわ」

「あの、最後に一つ。今日このあと予定はありますか?」

「ああ、このあと菖蒲と学園祭まわる」

「………」

 

 分かりやすいぐらい機嫌悪くなったね。

 もう分かってしまったというか理解したというか。セシリアは菖蒲関連の話題になると機嫌が悪くなることが分かった。

 二人の仲は悪いわけではない。むしろ良い方だと思うのだが。

 といってもこれは飽くまで俺の予測に過ぎないし、わざわざ聞く勇気など俺にはない。

 

 話を戻すが、昨日ベッドで寝てたら菖蒲から電話が来て開口一番に一緒にまわりましょうだと。

 俺も菖蒲に聞きたいことがあるから了承した。

 

 それから特に何もなく俺は残り一時間の業務にいそしむのだった。

 接客中セシリアの視線をチラホラ感じた気がしたが、多分気のせいではないのだろう。

 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「ふーー」

 

 業務終了。

 結局セシリアと一言も話さずに終わってしまった。

 

 宣伝用としてまた執事服のまま二組に居るであろう菖蒲を迎えにいく。

 

「お邪魔しまーす」

「あ、レーデルハイト君。おーい菖蒲さーん。レーデルハイト君来たよー」

「い、今着替えてますので!!」

 

 やはりというかあのチャイナドレスを見られるのが恥ずかしいのかバックヤードから声がした。

 

 じゃあ待ってる間にもう一つの用事を片しておこう。

 

「ねえ、鈴っている?」

「鈴? 多分バックヤードだけど呼んでこようか?」

「頼むわ」

 

 青いチャイナの子がバックヤードの向こうに行くと、入れ違いで鈴が出てきた。

 特徴的なツインテールを団子に纏めた鈴は目が合っても特に変わることなく無表情で歩いてきた。

 

「なんか用?」

 

 鈴にしては珍しい淡々とした口調。

 いつも快活な人ほど無表情は怖いものはない。だけど引くことは許されないししたくない。

 

「えと、昨日のシンデレラの時はごめん。完璧悪意込めて言った。本当にごめんなさい」

 

 しっかり頭を下げて謝罪した。

 テンションが上がったなんて理由にはならない。俺は鈴に酷いことを言ったのだから。

 

 正直凄い胸が痛い。

 もしかしたら許してくれないかもしれないし、これからの鈴との関係が壊れるかと知れない。

 鈴とはとても話しやすく腹を割って話せる気のいい奴だ。

 一夏と絡む以上鈴との接触は避けられない。不仲のままというのは、友達としてとても耐えれるものではなかった。

 

「別にいいわよもう」

「え?」

「何よその顔」

「いや、ぶっ飛ばされるの覚悟で来たから」

 

 顔をあげると何処か呆れた顔をした鈴がいた。

 

「そんな本気で謝られたら怒るに怒れないっての」

「ほんとごめん」

「だから良いっての、次謝ったら殴るわよ」

「うん。ありがとう、鈴」

 

 お礼を言うと鈴は「よろしい」と言うようにフッと笑った。

 喧嘩別れにならずにすんだと胸に詰まった息をバレずに吐き出した。

 

「あたしって昔からアレ言われると見境なくなってさ。自分でも直そうと思ってるけどなかなか直らなくてね。一夏と再会してから言われた時なんか壁に穴空けちゃったし」

 

 それが俺の顔じゃなくて本当によかった。

 

「あたしもやり過ぎたわ。あんたこそ大丈夫なの?」

「ああ。ISの装甲が少しひしゃげたけど無事に直ったよ」

「そうじゃなくてあんたの体よ。我ながら至近距離でド派手にぶち抜いたからさ」

「骨にヒビは入ってないらしい」

 

 ほんとIS様々だね。

 

「まあ、更衣室の壁ぶっ壊したのと動けないあんたをぶち抜いたせいで千冬さんに説教されたわ」

「俺が悪いのに?」

「それでも限度があったってさ。あたしそん時まだ頭に血のぼってて思わず言い返したのよ。疾風は言ってはならないことを言ったって。そしたら千冬さんなんて言ったと思う?」

 

 え、わかんない。

 そんなの理由にならないとかかな? 

 

「『ありのままを言われたぐらいで一々癇癪を起こすな。処理するほうの身にもなれ。悔しかったら大きくしろ』………だって」

「………………うわぁ」

 

 完膚なきまでに叩き潰しにかかりやがったな元日本代表。

 相当お冠だったでしょうし言ってることはわかるけど。もう少しオブラートに包みましょうよ。

 

「流石に空いた口が塞がらなかったわ」

「だ、だろうね」

「怒るという感情より先に宇宙が見えたわ」

「頼むから外の神と繋がるなよ?」

 

 ふんぐるいふんぐるい。

 

「お待たせしました疾風様」

「いや、丁度終わったよ」

「何よあんた結局着替えたの? 根性ないわねー」

 

 チャイナドレスからいつもの着物制服に着替えた菖蒲はポポっと頬を赤らめて汗をかいた。

 

「流石にあのまま校内を歩くのは恥ずかしいですよぉ」

「着物ではいけるっていう思考がわからないわよ」

 

 まあ精々楽しんできなさいと鈴は後ろ手で手を振って教室に戻っていった。

 

「あ、鈴いいこと教えてやる」

「なによ?」

「一夏もこれから休憩なんだよ。今頃一夏巡って争奪戦起きてるかもよ」

「それ早く言いなさいよありがとね!」

 

 凰鈴音、風になった。

 これで二組だからとハブられることはないだろう。流石にフェアじゃないしね。

 お詫びとしては十二分の情報だろう。

 

「フフッ」

「なんだよ」

「疾風様は変わらずお優しいなと思いまして。他人の恋を応援できる人、私は好きですよ」

「それは、どーも」

 

 好きですよと言われた時に心なしか顔の体温が上がった気がした。

 なんか、そんな声色だった。

 

「………」

「どうかなさいました?」

「いや、なんでも。じゃあどっから行こうか」

「疾風様の行きたい場所が良いです」

「良いのか?」

「はい。疾風様昨日お友達の付き添いで行きたい場所に行けてなかったのではないかと思いまして。私がいなくなったあと一組の出し物に引き戻されたとも聞きましたし」

 

 見られてたのではないかというぐらいピタリと当たってる。

 再会してから思ってたけど、この子凄い気配りが上手。

 

「じゃあお言葉に甘えて」

 

 

 

「おおーー」

 

 目の前の光景に俺は目を輝かせていた。

 まるで憧れの特撮ヒーローショーを見る子供のように、動物園でライオンを見る子供のように。

 今の俺は完全に童心に戻っていた。

 

 場所は三年の整備化の教室。

 そこにはISの第一世代から第二世代に移る歴史が展示されていた。

 

 テーマは『始まりから次世代へ』

 

 皆が知ってるようなポピュラー知識は勿論のこと。これどっから調べたんだろうと言うぐらいのコアな物まで選り取りみどり。

 

 テンペスタの前身モデルの項目を見ていると案内役の三年生が話し掛けてきた。

 

「どうだいレーデルハイト君?」

「生きてて良かったです」

「アハハ! それはよかった!」

 

 回答に満足した先輩は豪快に笑った。

 

「これどっから調べたんですか? 俺結構ISの情報網羅してるつもりだったんですけど。テンペスタのプロトタイプモデルの詳細って公開されてなかったはずじゃ………」

「うちの親がテンペスタ初代開発チームやっててさ、もう利用価値のない情報だからって提供してくれた」

「プレミアの眉唾物じゃないですか!」

 

 どれぐらいレアかというと。もしこの情報が六年前ぐらいに公開されたらイタリアのIS開発は大幅に遅れるレベル。

 いやー、世界って狭いなぁ! 

 

「天下のレーデルハイト工業のご子息にそう言ってもらえたなら交渉したかいがあったもんだよ」

「いやそんな」

「でも連れの子ほっといてよかったのかい?」

「あっ」

 

 しまった。夢中になりすぎて完全に忘れてしまった。

 菖蒲は………いた。

 

「ごめん菖蒲」

「え? どうかしましたか?」

「展示に夢中になってて菖蒲放ったらかしにしちまった」

「私は全然構いませんよ? 疾風様が喜んでくださるだけで充分です」

 

 ほんっっとこの子良い子だわ! 

 世の女性が忘れてしまった善性のほとんどが菖蒲に行き着いたんじゃねーのかなって思うぐらい良い子だわ。

 

「菖蒲はなに見てたんだ?」

「日本の展示があったので」

「どれどれ?」

 

 展示項目には打鉄と、第一世代のフルスキンモデルの詳細が載っていた。

 

「そうそう。一番最初ってこんな鎧武者みたいな奴だったんだよな」

「はい、徳川財閥本社にもアーマーは置いてありますが。流石にそれ以外は残っていませんね」

「打鉄と比べるとどうしてもアーマーが可動域の邪魔をしちまうからなぁ。当時フルスキンってほんとガチガチの鉄の鎧だったし」

 

 しかし、それを見ると。

 隣にもう一つ日本の展示ポスターがあった。そこには誰もが知るあの人と、伝説と言われたISの写真が。

 

「暮桜は第一世代でありながらほんとスリムだよな」

 

 全身を覆うフルスキンであるにも関わらず装甲は極限まで磨り減らし、間接部分は肌が露出している。機動力と攻撃力のみに特化した第二世代の先駆け。

 

「暮桜、近接ブレードと零落白夜以外殆どデータのない。白騎士についで謎の多いIS」

「徳川も倉持も詳細を知りません。しかし数少ないデータから試験機が二機作られ、1号機が現国家代表である楠木麗の白鉄(しろがね)。2号機は……別途で試験中らしいです」

「そっか」

 

 恐らく2号機は篠ノ之束が手を加え、一夏の専用機となった白式の可能性が大。

 恐らく白式の出所についてはあまり公に出来ないのだろう。おもに篠ノ之束関連で。

 

 菖蒲は詳細を知ってるのかわからないし、場所が場所だから聞くのはやめておこう。

 

「白騎士についての項目は、まあ予想通りというか」

「こればかりは本当に詳細がなくて。篠ノ之博士が作ったと自ら公表しましたけど、実物は誰も見たことがありませんし。本当に白騎士は一機だけだったのかとさえ怪しい言われてる始末ですからね」

「そして、今公的に束製と言われてる紅椿の国籍を巡って政治的泥試合が行われてる………と」

 

 朝箒に聞いた話だが、昨日は一夏以上に勧誘や装備提供の話がこぞって来たらしい。

 余りにもしつこくて織斑先生が助けてくれたとか。

 

 絢爛舞踏。

 ワンオフ・アビリティーと定義してもチートにも程がある一を無限にするエネルギー増幅機構。

 下手すればISコアを経由して都市国家の電力を賄えるのではないかとも噂されてる力。

 この能力一つがあれば一国家の戦闘継続能力は飛躍し、他国に対して強力なアドを取れる。

 

 肝心の箒と紅椿を手に入れる為に、政府は水面下で暗躍している。というのが社会の裏の裏までも把握している会長の談だった。

 一個人、篠ノ之箒がその人間性を無視され国の道具にされる。それは箒や周りの皆が思う一番最悪のケースだ。

 IS学園に在学してるうちに、なんとかしたいのが学園上層部の意思らしい………

 

「疾風様。こちらにレーデルハイト工業の名前が載ってますよ? 見てみませんか?」

「ん? ああ、見てみよっか」

 

 まあ今は難しいことを考えずに学園祭を楽しむことにしよう。

 今日だけは平和に過ごしたい、そう信じて。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「いやー、回った回った。ていっても意外とIS関連だしてるクラス少なかったな」

「24クラスあるなかで4つですからね」

「でも満足した」

 

 一つ一つがしっかり確実性のある情報で構築され。それぞれの本気度が見て取れた。

 今まで知ってたものが多かったが、新たに知った知識が見つかったことが何よりも嬉しかった。

 特にプロトタイプテンペスタはマジでヤバかった。まじ卍とはこのことである。

 

「疾風様は本当にISが好きなんですね」

「自他共に認めております」

「ええ。教室に入る度にはしゃぐのを我慢する子供のようでしたよ?」

 

 まったく間違っちゃいないな。

 

「まだ昼には早いですね。次は何処に行きましょうか?」

「俺はまだ時間あるけど。菖蒲大丈夫?」

「まだ大丈夫ですよ」

「そっか」

 

 じゃあ、何処に行こうかな………うーん。

 

「あ、じゃあさ。ちょっと寄りたいとこあるんだけど」

 

 

 

 

 

 

「こんにちわー」

「はいはいようこそ弓道部に、ってレーデルハイト君だ! と徳川さんも?」

「こんにちわ朝倉部長」

「なになに? 二人ともデートかい?」

「そんなところです」

「こらこらー。平然と誤解を招くこと言わないの」

「私は一向に構いませんっ」

「何処の中国拳法の使い手だい君?」

 

 時々変なノリが来るよなこの娘は。

 

 というわけで菖蒲が所属する弓道部に来ました。

 中には少数だが弓を射ってる人がチラホラと。

 

「しかしここで良かったのですか?」

「この前弓道部に勧誘しようとして断っただろ? せめて学園祭の出し物ぐらいはと思ってさ」

「疾風様、この徳川菖蒲。感謝の思いで一杯です!」

「そんな大袈裟な」

 

 感極まった菖蒲を一先ず置いといて弓道部部長が説明してくれた。

 

「まあ見ての通り此処では弓を射つ体験が出来るよ」

「結構人気だと聞きましたけど」

「うむ、特に外部客が多かったかな。でも今日は外部から来れないから客足は少ないけどね」

「逆に空いててラッキーでしたよ」

「ありがと。徳川、貸し出し用の胴着と弓矢持ってきてくれたまえ」

「わかりました」

 

 着物制服のまま奥の方に歩いてく菖蒲。弓道部の雰囲気と相まって凄く溶け込んでるというか、本人の出自もあって正に武家の娘って感じ。

 

「ところで君はうちの徳川とはどういう関係なんだい?」

「友達ですよ」

「無難な答えだねー。最近君がオルコット嬢と徳川のどちらが本命なのかというのがうちのもっぱらの話題の種さ」

「またその話ですか」

 

 もう何回も聞いた話に内心うんざりする。

 恋に恋する少女の性と分かってるものの、少し親密なだけで付き合ってるのではと言われるのはどうにもむず痒い。

 

「実際どうなんだい?」

「俺は今ISに夢中ですので」

「だが君の王冠はオルコット嬢に渡ったね?」

「………あまり思い出させないでください」

「それは無理な相談だ。いまや君とオルコット嬢の同棲はIS学園のホットニュースなんだから」

 

 分かっているから嫌なんだが。

 ニヤニヤまでいかなくても試すように笑いかける弓道部部長の目線に耐えられなくなっていると菖蒲が胴着に着替えて戻ってきた。

 

 数分後。

 胴着に着替えた俺は怪我防止用に弓道用の手袋をつけて貰っている。

 

「本当は弦を調整したりするのですが。ある程度調整されてるので大丈夫ですよ」

「おう、しかし結構厚いな手袋」

 

 菖蒲が言うにはこれでも軽装らしいが。

 

「先ずは巻き藁に射ってみましょうか」

「巻き藁、あれか」

 

 そこには木の台に乗った、牧草ロールの小さいバージョンのものが数個並んでいた。

 

「最初からあの遠い奴ではないんだな」

「感覚をつかんだり、引き方を調整するのに使うんですよ」

「まあ、いちいち遠くまで取りに行くわけにもいけないよな」

 

 危ないし、歩くのに時間割くものね。

 

「じゃあ宜しくお願いします先生」

「はい、任されました」

 

 弓を持つ菖蒲の姿は凄く完成していた。

 打鉄・稲美都に乗ってる時の姿もいいが、こちらはより精練されている気がした。

 自然と背筋が伸びた。

 

「先ずは足を開きます、はいそのくらい。的の方を見て、矢を構えます」

「こんな感じ」

「少し上ですね。もう少し下でいいです」

「真ん中じゃないんだな」

 

 弓の中心に矢を置いて引くものだと思ってたけど。こうして経験してみると今まで弓道というものを浅く見ていたのだと実感する。

 

 弓が結構大きいし、上の部分が大きいから少しバランスが揺れる。

 

「そこからゆっくりと引いて。力みすぎるとぶれますので落ち着いて」

「はい………」

「自分でここだというタイミングで」

「ふぅ………………っ」

 

 引いてた弦を離すと、飛ばされた矢は2メートル程先の藁に刺さった。

 

「おおー」

「どうですか?」

「一回射っただけなのに凄い神経使う気がする」

 

 狩猟用のライフルを撃ったことはあるが。こっちは反動はないのに胸辺りに疲労感が来た。

 なんつーか。力じゃなく心で射ってるような。よく分からないけどそんな感じ。

 

 そこから三発ほど巻き藁に射った後本番の的に向かうが。

 

「遠っ」

 

 弓道は一般的に遠的競技と近的競技の二つに分けられる。

 

 遠的の的は60メートル。近的は28メートルに定められている。

 今俺の目の前にあるのは近的競技。それでもこの距離から矢当てるというのは。

 

「当てれる気がしない」

「まあ、駄目でもともとです。先ずは射って見ましょう」

「むぅ」

 

 とりあえず先程巻き藁に射ってみたときと同じフォームを取る。

 銃と違って矢は早く落下しそうだから………

 

 ここらへん? 

 

 弦がしなる音が鳴り矢が少し山なりに飛んでいく。

 そのまま真っ直ぐ的に向かい。

 ーーー的のかなり前に刺さった。

 

「知ってた」

「まあ、ビギナーズラックなんて早々起きるものじゃありませんから。さあっ! 当たるまで射ってみましょう!」

「菖蒲さん? なんかスイッチ入ってない?」

 

 そこから28メートル先の丸い的にひたすら弓を引いた。

 力の加減を変えながら、微調整しながら射つこと10本目。

 

「………ああっ。惜しい!」

 

 的の数センチ横に突き刺さった。

 的の壁には届くようになったが、やっぱり当たるもんじゃないのかな。

 

「ねえ、弓道部って1日何本ぐらい射つの?」

「大体20本から40本ほどですね」

 

 すげー。

 恐らく俺の弓の引き方に問題があるんだろうけど。女子の力でそれだけ射てるって素直にすげえ。

 

「大丈夫ですか疾風様」

「ああ。情けないけど手痺れてきた」

「無理なさらない方が」

「そうだな。いやーど真ん中とは言わなくても一発は当てたかったな」

 

 こればっかりは仕方ないか。

 貴重な体験が出来たことは変わらないから良しとしよう。

 

「疾風様、もう一回だけ射ってみませんか?」

「いいけど。流石に当たらんと思うぞ?」

 

 渡された矢を弓につがえる。

 

「弓はまだ引かないで下さいね」

「おう。って菖蒲?」

「少し身体触りますから」

 

 そう言うと菖蒲は俺の背中に密着してきた。

 

「ちょ、何して」

「フォームを調整します。もう少し狙いを下に、肩はこのくらい、足はもうちょっとだけ開いて」

 

 淡々と話す菖蒲の指示通りに身体のあちこちを微調整する。

 

「はい、引いてみて下さい。まだ射たないで下さいね」

「了解」

「………もう少し右」

「こうか」

「………はい」

 

 菖蒲が俺から離れたことを確認し。俺は弦を持った指を離した。

 

 11回目の矢が飛んでいく。先程と同じく真っ直ぐ飛んでいく矢は的の方に向かっていく。

 

「あっ」

 

 息が漏れた。

 当たる。

 唐突にそんな予感がした。

 

 飛んだ矢は直径100センチの丸い的、ド真ん中よりすこし上に突き刺さった。

 

「あ、当たった………」

 

 弓を構えた

 

「お見事です疾風様!」

「あ、ありがとう。おおー当たった。なんか達成感とは違う何かを感じてるよ今」

 

 まるで自分のことのように喜ぶ菖蒲を前に正体不明の感情を浮かべる俺。

 良く分からないけど、負じゃなく喜の感情なのは確かだからとりあえず喜んどくべきなのだろうか? 

 

「ていうか当てたの実質菖蒲じゃん。菖蒲の微調整なかったら当たんなかっただし」

「いえいえ! 確かに調整はしましたが最後に弓を射ったのは疾風様です! 誇っていいのですよ!」

「そう? じゃあそうする」

 

 自覚したらなんだか腹の奥からムズッとしたのが上がってきた。

 的の方を見ると俺が射った矢がちゃんも突き立っていた。

 写真、とったら怒られるかな? 

 

「疾風君」

「はい。あ、部長。すいません長丁場になってしまって」

「いやいや全然大丈夫だよ。当ててくれてこっちも感無量さ。そこで一つ提案があるのだが」

「なんでしょう」

「弓道部に入りたまえ。君はなかなか筋が良さそうだ」

 

 唐突に勧誘されたんですけど。

 

「すいません俺生徒会に所属してまして」

「掛け持ちすれば良いじゃないか!」

「ISの時間も作りたいので」

「週一でもいいから! その時はこの我が部の美少女徳川菖蒲ちゃんが付いてくるぞ!」

「手取り足取り!」

「時には腰取りも!」

 

 ん? なんか部長とは違う声も聞こえるぞと思ったらいつの間にか包囲網が構成されてる!? 

 

「菖蒲ちゃんはいいぞ」

「容姿は申し分なし何より気配り力が半端じゃない」

「ご飯も馬鹿上手い」

「お嫁にいかが?」

「なんか違う方向性に持ってきてません!?」

「さあさあ」

「さあさあ」

「皆さん疾風様を困らせないでくださーい!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「圧が凄かったな」

「そ、そうですね」

 

 なんとか弓道部包囲網を脱した俺と菖蒲は。

 

「ん、この黒糖きなこわらび餅クレープ上手いな」

「はい、とっても」

「口の中の水分ギュンギュン持ってかれてるけどな」

 

 屋上でクレープを食べていた。

 弓を射つのに夢中で気付かなかったが時間帯はお昼時になっていて、道すがら露店でピックされてた黒糖きなこわらび餅クレープをゲットしたのだった。

 

「お水買えば良かったですね」

「イーグルのバススロットに水入ってるけどいる? 未開封のやつ」

「宜しいのですか?」

「うん。はいどうぞ」

 

 虚空からポンとミニサイズのミネラルウォーターを二つ取り出して一つを菖蒲に渡した。

 喉をならしながら飲む菖蒲。半分なくなったところを見るとやっぱやられたか水分。

 グイッと飲んでみると乾いた細胞の隅々に水分が行き渡った。うーん、オアシス。

 

 ………しかし菖蒲はどうしたんだろうか。

 

「疾風様」

「んー?」

「………いえ、なんでも」

 

 屋上についてから頬を赤くして俺の名前を読んでは口ごもる。

 その後にキョロキョロと辺りを確認しているように目を動かす。

 とにかく落ち着きがなかった。

 

 因みに最初のほうはチラホラ人がいた屋上はいつの間にか無人になっていた。

 

 クレープの最後を放り込んだ。ん、尻のほうにもわらび餅が入ってる。これは当たりだな。

 

 ふいに菖蒲の方を見るとバッチリと目があってしまった。

 ポッと更に赤くなった菖蒲は残りのクレープを押し込んで水で流し込んだ。

 

「菖蒲。なんか俺に言いたいことあったりする?」

「………はい」

 

 頬に手を当ててうつ向く菖蒲。

 根気強く待って上げると。意を決したのか菖蒲はベンチから立ち上がった。

 

「疾風様」

「はいはい」

「その………私と学園祭回れて楽しかったですか?」

「勿論。ていっても半分以上IS関連ばっかだったな」

「それは私も楽しかったですし。疾風様の好きな物を共有できたのは嬉しかったです」

「そう言って貰えると助かる」

 

 結構ISにのめり込んだ自覚はあったから。

 IS好きだからって理由にはならないよな。これからは少し気を付けないと。

 

「疾風様」

「うん」

「………私」

 

 風が鳴った気がした。

 それ以外の音がシャットアウトされ。菖蒲の声がやけにクリアに聞こえた。

 

 予感めいた物を感じた。

 考えないようにしてたもの。

 弓道部での最後の一射のときに感じたのと同じような物を。

 

 菖蒲は思いっきり息を吸い込んで吐いた。

 

 俺は菖蒲が次に話すことを聞き逃さないように集中した。

 

 何故かはわからない。だけど

 この言葉は絶対に聞き逃してはならない。

 そう思ったからだ。

 




 鈴は二組だけど居ます(断言)
 鈴と一夏だったらどの部活に言ってたでしょうね。
 興味がつきません。
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