IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「………ふーーーーーー」
誰もいない屋上で顔を手で覆いながら長く息を吐いた。
夏の暑さが幾分か抜けた生ぬるい風が執事服を揺らす。
「あーーーーーー」
今度はそのまま上を向いて呻いた。
顔は覆われているが。隠せていない耳は真っ赤だった。
ーーー◇ーーー
「疾風様………私」
「………」
今の俺は全神経を菖蒲の声に傾ける為に使っていた。
それゆえに周りの雑音は一気にクリアになった。
菖蒲は頬を赤くしながらも目は真剣そのものだった。
意を決したように菖蒲は口を開いた。
思わず身体に力が入った、が。
菖蒲がチラッと俺の後ろを見た気がした。
釣られて俺も後ろを見てしまった。あるのは屋上の入り口しかなく、誰かいるようには見えない。
「疾風様」
「わっはい! なんだ?」
「疾風様にお願いがあるのですが」
「お願い………お願い?」
ん、あれ?
「学園祭の終わりにキャンプファイヤーがありますよね」
「うん、あるけど」
えっと?
「そこでフォークダンスがあるのですが。良かったら一緒に踊りませんか?」
「俺でいいなら別に………」
「ありがとうございます!」
菖蒲はパアッと花が咲くように笑った。
対照的に呆然とする俺に、菖蒲は疑問符を浮かべた。
思わず俺は聞いてしまった。
「菖蒲、言いたいことって、それだけ?」
「え?」
「いや、なんでもないでございます!」
「なんか言葉遣いが変ですよ?」
「………」
「大丈夫ですか疾風様?」
その後はというと。菖蒲は徳川財閥本社の人から電話が来て屋上を出た。
なんでも昨日損傷した打鉄・稲美都を受け取りに来たんだとか。
そして屋上で一人残された俺はというと。
「………死にてぇ」
ベンチに横になって悶えていた。
いやかなり死にたい………マジでほんと人生で一番恥ずかしい。今なら姫騎士も真っ青の「くっ、殺せ!」が言えるだろう。
だってさ、だってさ。
「告白かと思ったじゃん」
口にした途端がーー! っと胸の辺りが熱くなりムズムズした。
これ以上ないぐらいというか平静を保てないレベルでそれはもうガチで時を戻したいレベルでの羞恥。
「俺の馬鹿、マジ馬鹿、身の程をしれ、この、地味眼鏡!」
なーーにが告白だと思ったじゃんだよ!
ばっかじゃねーの!?
あーもうなに身構えてたの死ぬほど恥ずかしいわ!
恥ずっ! 恥ずっ! 恥ずっ! 恥ずっ!
ほんと自惚れてんじゃねえよ俺は! 天然女性落とし織斑一夏君じゃねーんだぞ!
俺はただのISギーク地味眼鏡の疾風・レーデルハイトだっつの!
「あーーもう、マジでほんと。あーー」
ベンチの上で悶え狂う執事というドン引きな光景を晒してる。誰も見ていないのが幸いだろうか。
奉仕喫茶の人気No.1執事。二人しかいないとはいえ一夏より人気だというのは個人的に嬉しくないと言ったら嘘だった。
忙しさで倒れそうだったけど。なんの打算も無しに女子から人気があるというのは嬉しかった。
村上みたいに女子にモテたい! とは思わないけど、それでも嬉しいもん。だって男の子だし。
それで俺にも男として自信がついたのは確かだった。
自分でいうのはアレだが。俺は勘が良い。
そばにいる一夏に比べたら雲泥の差で勘が良いと自負してるし、他人からもそう思われてる。
疾風の爪の垢を煎じて飲んでほしいというのが一夏ラバーズの談である。
だから菖蒲の行動を見て、もしかしたら俺は菖蒲に好かれてるのかもしれない。そんな幻想を抱いたのは仕方ない………と思いたい。
再開して行きなり感極まってハグしてきたこともあった。
俺のためと言って重箱弁当を作ってくれたし。
ところどころ赤くなってしどももどろになってた。
そして極めつけが。
『貴方の王冠と交換ならいくらでも』
『是が非でも欲しいです』
シンデレラの時、菖蒲は俺の王冠を欲した。
シンデレラの王冠の報酬はその王冠の主との強制同棲権。
他に報酬があるのかと会長に聞いたけどそれはないと言っていたから間違いはない。
もし菖蒲の目的が一夏ラバーズのものと同じだったら。
これまでの行動にも納得が言ったと思った。だから機会を見てどうして俺の王冠を狙ったのかと聞いたつもりだった。
結果はこうだったが。
「第一、告られたとしてどうしたんだよ俺………」
俺にとって菖蒲は大切な友達であって、恋愛対象としては見ていない。
菖蒲が魅力的じゃないという訳ではない、むしろ菖蒲は世の男が望む理想的な女性像だろう。
それでも恋愛として見るのは話は別だ。
告白されたからといって、それに流されて交際に同意することは相手にとって失礼だと俺は思ってる。
なーに偉そうに語ってんだか。
「………一夏のこと鈍いって言えねえわ………あー、ほんと馬鹿だよ俺は」
「さっきから何をブツブツ言ってますの?」
「おおっ!?」
突如声が上から降りてきた。
突然のこと過ぎて起き上がろうと身体をよじったが、幅の狭いベンチの上で行きなり身体を起こし、ましてや異様に動揺してる状態でそんなことをしたらどうなるか。
「いっ、ぐへっ!!」
結果は明白である。
「大丈夫ですの、疾風?」
「………………頼むからそっとして」
そこにいるであろうセシリア・オルコットに向け。俺はか細すぎる声でそう言った。
よりによって一番見られたくない奴に見られた………
さっきより恥ずか死にたい状況になった。
それから時間にして数分無言の時間、というより俺の精神メンテナンスの時間が費やされた。
ある程度回復した俺はこればかりはハッキリさせなければと、メイド服に身を包んだセシリアに聞いてみた。
「セシリア、いつから居た」
「えと、その、ついさっきですわ」
信じるぞその言葉。じゃないと俺は羞恥で体内から爆発四散しかねない。
「とりあえず起き上がりなさいな。執事が床に寝そべるなどあってはなりません」
「この状況でよくもまあ………いやなんでもねえ」
動くのを半ば拒否してる身体を無理やり動かし、ベンチに戻った。
ようやく目を開けてみると。隣にはメイド服のセシリアが。
相変わらずの似合いよう。流石奉仕喫茶No.1メイドだ。
「で、なんでお前ここに来たのさ」
「………噂を聞いて」
「噂とな」
「その、疾風が菖浦さんに告白されるとか、なんとか」
「ないです」
即答してやった。
胸に穴空いてないかなってぐらい痛みが走ったけどもう気にしねえ。
「ないです、ありません、そんな事実は何処にも存在致しません」
「な、何故そんな否定しますの」
「聞くな………」
頼むからこれ以上俺の傷に粗塩をぶちこんですりおろさないでくれ。
チラッとセシリアを見てやると。
「そうですか、違いましたか。そうでしたか………」
「なんで嬉しそうなんだお前は」
「べ、別にそんなことありませんわよ!」
なんかニマッとしていた。
直ぐに引き締めたけど間違いなくニマッとしてた。
ま、まさかこいつ。菖蒲が告白してくるんじゃと勘違いしていた俺を察してそんな顔を!?
あ、悪魔め………
幼馴染みの思わぬ悪趣味っぷりに衝撃を受けた俺は更に凹んでしまった。
青い線出てねえかな………
「コホン。それで疾風、結局菖浦さんに何を言われたのですか」
「とことん追い討ちをかけてくるね。そんなに俺を傷つけて楽しいか。あれか? 今までの仕返しという奴か? おん?」
「なんの話ですか。じゃあ何も言われてないのですね」
「いや、夜のフォークダンスに誘われただけだけど」
「え!?」
セシリアが驚きの声を上げた。
そんな驚くことか? あれか? 俺みたいな勘違いイキリ野郎なんか誰からもフォークダンスに誘われないだろうから驚いたって奴か?
………駄目だ。超ネガティブになってる。
「あの、それで。お受けしたのですか」
「したよ」
「な、何故?」
「別に断る理由ないし」
「断る理由が、ない?」
なんかショックを受けたような顔をしてる。忙しいなお前。
………あー、成る程。
「そういやお前さ。シンデレラで俺のこと不埒野郎って罵ってたよな」
「そ、それがなんですか。事実でしょう、ハーレム結成なんて目論んで」
「豪華商品でどうやってハーレム作れるんだろうね」
「そうです豪華商品で………え?」
今度はキョトンとした顔をした。目をパチクリとさせている。
今日だけで何個表情見れるんだろうか。
「え、え? シンデレラとの同棲権ではないのですか?」
「会長からは豪華商品としか知られてないよ」
まあその豪華商品=女性の同棲権っていう爆弾の可能性もなきにしもあらずだがな。
相手があの会長だし。
勘違いで俺に切ってかかったことに気づいたセシリアは目に見えて落ち込んだ。
そうなるのも無理はない。セシリアは根っからの貴族精神で高潔、責任感というのが人一倍強い奴だ。
無実な俺を勘違いで罰しようとしたと分かれば間違いなく自分を攻める。セシリア・オルコットという女はそういう奴なのだ。
「ご、ごめんなさい疾風。とんだ思い違いを」
「ぶっちゃけ会長はその勘違い狙ってた説もあるよな。なんせTHE愉快犯な生徒会長だもの。まんまと乗せられたな」
「うぅ………」
ということでここでフォローしとかないと後々面倒臭くなるのは明白。
………うん、良い機会だからここらへんでぶっ混んどくか。図らずとも二人っきりな訳だし。
「そんなことよりどうすんだよ」
「何がです」
「同棲、俺とお前の」
「!!」
そう、散々引っ張ったけど一番重要な問題がまだ解決していないのだ。
なんかどっかの記事で誰かが言っていた。
『時間のいいところを教えてあげよう。必ず過ぎていくことだ』
『時間の悪いところを教えてあげよう。必ず訪れることだ』
まっことそのとおりで今ほど当てはまるものはないだろう。
会長が言うには早くて明日、遅くても明後日には同棲するのだ。俺と、セシリアが。
「お前なんで俺の王冠持って逃げたんだよ」
「き、気が動転してしまって」
「てかそもそも何故参加したし」
「強制的にあれよあれよとドレスを着替えさせられてですね。疾風に会うまでは皆さんのサポートをしていましたわ」
強制的って。マジで巻き込み大好きだなロシア国家代表。
正直、虚先輩と会長一緒に住むのと何が違うんだって思うことだろう。
全然違う。
虚先輩とは適度に距離感をもって過ごしていられた。互いに必要以上に干渉せずに飽くまで同居人としてやりくりしていた。
会長の場合は1日だけだったし、対応を誤らなければ一夏のようにはならない。もし同棲が長引いてたとしても、ああ見えて会長は一線は弁える人………な、気がする。
対してセシリアはどうか。
お互いある意味勝手知ったる仲。お互いの弱みも理解しあい、二度とはいえ死線を切り抜けた頼れる親友。
いつものメンツの中で特に距離感が違うのは間違いなくセシリアだ。
なによりセシリアは美人と呼ぶにふさわしい。上記二人が美人なのではないということは決してないが、セシリアのそれは………なんというか、言葉に出来ないが他の人とは違うのだ。
そんな彼女と同じ屋根の下でしばらく暮らす。それは字面以上に高難易度なシチュエーション。
………最大の懸念は、何かしらトラブルが起きて関係が拗れること。
それが一番怖いのだ。
セシリアのことを考えても、やはり得策ではない。
彼女の出自も考えると、恋人関係でもない男と同棲なんて心底嫌だろうし………。
「あっ」
「なんです?」
「同棲しなくてもいい方法を思い付いた」
「どんな?」
思ったより食いぎみじゃないことは置いといて俺は人差し指をたてた。
「お前が全力で拒否すればいいんだよ」
「拒否?」
「そうそう。いくら会長が強制とか言ったとしても、お前が強く反対しまくれば会長も折れるだろ」
生徒会長権限といっても最終的に対象がどうしてもやりたくないと言えば流石に渋る筈。
会長は他人で遊ぶ人だが、本人が絶対にやりたくないということはしない。
飽くまでほどよい加減で他人を巻き込んで楽しむ、それが更識楯無という人だ。
「わたくし一人の発言など容易く飲み込まれてしまうのでは?」
「そんときは学園内にセシリアが俺と同棲したくないって噂を流すさ。なんなら黛先輩に頼んで新聞で広めてもらうよ」
学生の新聞と侮ってはいかない。IS学園新聞の浸透率の高さは奉仕喫茶の宣伝用写真が証明している。
おかけで俺とセシリアはどちらもNo.1指名率だ。
「黛先輩は楯無先輩側の人間だと思うのですが」
「断られたときは………まあこの身を生け贄にしてでも頼むさ」
1日密着取材とかされそうだ。
いや、その程度ですめばの話だな。
だが校内新聞として生徒の全員が認知し、それでも同棲を強硬すれば生徒会長の権威に響く。
我ながらえげつない策だと思いながらセシリアの顔を見ると。予想とは裏腹にセシリアの表情は優れなかった。
「セシリア?」
「わたくしは反対です」
「なんでさ」
「だって、そんなことをすれば疾風の評判が悪くなるでしょう」
「それは、まあ」
この作戦のデメリットはセシリアが言った通り俺の評判が低下することだ。
校内でも数少ない専用機持ちであり代表候補生。文部両道、眉目秀麗を地でいくセシリア。彼女がそこまでのことをしてまで疾風・レーデルハイトと同棲したくない。
そうなればどうなるか。
答えは簡単、疾風・レーデルハイトはそれに同棲するに値しない、もしくは同棲したくないと言われるほど低俗な男なのではないかと。
「じゃ、じゃあ俺も一緒に言えばお互いの印象もそう悪くは………」
「………疾風は、そんなにわたくしと同棲したくないのですか?」
「はぁ?」
何を言ってんだコイツは。
突拍子もないことを言い出したセシリアに俺は思いっきり首を傾げた。
「だって、さっきから否定的なことばかり言って。そんなにわたくしのこと」
「おまっ。俺は、お前が俺なんかと同棲なんかしたくないって思ったから言っただけで」
「誰もそんなこと言ってませんわ」
「はぁ!? じゃあ何? お前俺と同棲したいわけ?」
「そ、そうは言ってないでしょう!」
「じゃあなんなんだよ!」
いつまでも煮え切らないセシリアに思わず大きな声を出してしまった。
「………」
「お前菖蒲となんかあったのかよ」
「い、今関係ないでしょうそんなこと」
「ほんとにねえのかよ。それを差し引いても最近のお前の様子がおかしいのは菖蒲が関係してるんじゃねえのか」
「………答えたくありません」
唇を噛んで目を伏せるセシリアを見て胸の辺りが痛くなった。
「菖蒲がお前に嫌がらせしてるって訳じゃないよな?」
「それはありません! ただ、その………ごめんなさい」
「謝んなよ」
別にそういう顔してほしい訳じゃないんだよ………
それからセシリアは顔を伏せたまま黙り込んだ。
いつもキリッと自信満々で荘厳な彼女を知ってる俺としては今のセシリアは酷くくたびれてるように見えた。
「セシリア」
「はい」
「一緒に学園祭回らない?」
「え?」
セシリアが顔を上げると、いつ見ても宝石のように綺麗に光る蒼い瞳と目があった。
ほんと整った顔してると思いながら戸惑うセシリアを誘ってみる。
「まだ俺時間あるし、このまま一人で回るのも味気ないだろ。それに二人で回ったら宣伝効果にもなるし」
「それはそうですけど」
「とりあえず今は難しいこと忘れて楽しまないか? お前が良ければだけど」
正直落ち込んだ女の子の慰めかたなんてそこまで熟知してないし、話を振っておいて凄く虫のいい言い分なのも自覚してる。
こういう時決まって一夏ならもっと上手くやれたかなと思う。鈍感云々置いといても、あいつのコミュ力は凄いから。
「疾風は、いいんですか?」
「ん?」
「わたくしと一緒に回っても」
「少なくとも俺はお前と学園祭回りたいと思っている」
だから直球で勝負するしかない。
いや一夏も直球一直線か? じゃああいつと俺の何が違うんだろう。
にじみ出るジゴロ力? あと顔と声?
割りとどうでもいいことを考えていると。セシリアはフッと笑った。
「しょうがないですわね。疾風がそこまで言うのでしたら付き合ってあげようではありませんか」
「なんか引っ掛かりのある言い方だな」
「あら、疾風はわたくしとどうしても一緒に回りたいのですよね?」
そこまでは言ってないんだが。
確かに一緒に回ろうとは思って誘いましたけども。
しかしここで否定するとまたややこしくなるのは分かりきってることだし。
「ええ、どーしてもセシリアと回りたいです」
「よろしい、では行きましょうか」
「畏まりました、お嬢様」
「あら、今のわたくしはメイドですわよ?」
意外とはまってるのかいセシリアさん。
ということでセシリアと学園祭に回ることになった。デートではないぞ、もう自惚れん。
正直言うとイギリスの2号機のことも聞きたかったが。今のセシリアにこれ以上深く行くのは酷だろう。
今はセシリアの機嫌が直ったからよしとする。
ーーー◇ーーー
何処を回ろうかと吟味し、俺達は部活関連の出し物に行くことにした。
弓道部のやつを見るに普通に部活体験的なことが出来ると分かった。
美術部のような例外はあるだろうが。
時間はあるが有り余ってるわけではないので、比較的空いてるところを中心に回ることにした。
「唐突ですが腹が減りました」
「何も食べてませんの?」
「クレープは食った」
「それだけじゃ膨れないでしょう。丁度あそこにおあつらえ向きなのがありますわよ」
セシリアが指を指したところは調理室、つまり。
「ようこそ料理部へ! ってレーデルハイト君とオルコットさんじゃない!」
料理部に来てみた。初っぱなから料理部部長に捕まった。
大分アグレッシブなお方らしい。
「なになに? メイドと執事の逢い引きって流行ってるの?」
「どういうことです?」
「さっき織斑君とデュノアさんも来てたんだよ」
ほう、シャルロットは料理関連で攻めたのか。
男は胃袋掴んでなんぼってのは熟知してるのだろう。現に調理室の黒板にデカデカと「男の胃袋を鷲掴め!!」と書かれている。
女子高だから未来の花嫁修行の一環もになってるのだろうか。
シャルロットの場合。相手は織斑家の家事を一手に引き受けるTHE主夫なのが難題だ。あいつの飯マジで美味いから、ほんとに。
「和食の惣菜がメインなんですね?」
「食べてくかい? 特別にお代はタダにしてあげるよ?」
「マジすか?」
「対価は?」
すかさず条件があると踏んだセシリアがサッと突き込んでいく。
「二人の写真撮らして! そしてここに票を入れて頂戴!」
「まがりにも生徒会副会長の前に堂々と賄賂ですか」
「だって織斑君料理上手って評判だし、男子であるという点を除いてでも欲しい人材なんだよ!」
成る程、単に物珍しい目的ではないということか。
「駄目ですよ、ちゃんとお金払いますからね。今のは聞かなかったことにします」
「えーー、じゃあせめて写真だけでも。割り引くからさ」
「どうする?」
「良いではないですか。もう撮られてるわけですし、減るものではないでしょう。お代はきっちり払わせて頂きますが」
「クッ、流石にリッチコンビ相手に値切りは愚策だったか」
愚策と知りつつも突き進むその気概、嫌いじゃないですよ。
テーブルの上にズラッと並ぶ惣菜。どれも彩りがよく、例外なく美味そうだ。
肉じゃがに豚汁、秋刀魚の塩焼き、お寿司まである。
なかなか豪勢なラインナップのなか、一際目を引いたのは。
「部長さん、唐揚げいただいても」
「はいはい。どうぞー」
「「頂きます」」
揚げ物の王道の一つ、鳥の唐揚げ。
茶色という色の脇役と言えるのにこれ程食欲をそそるのは揚げ物の特権だな。
小皿の上で存在感を放つ一口大の唐揚げをつまんでパクリ。
「ん、あふあふ。んー、これは」
「んふ、肉の旨味がこれほど」
火傷しかけながらほう張る唐揚げのこれまた美味しいこと。
ちゃんと火は通ってるのに肉が全然固くなく、ジューシーな肉汁が口内に容赦なく襲いかかる。
「んふー。美味しいでしょ? 料理部の唐揚げは一味違うぞ。ここでは一回で上げずに何回にも分けて揚げてるのさ」
「一度で一気にじゃないんですか?」
「何回かに分けることで肉の旨味と水分を閉じ込めるのさ。詳しく聞きたければ入部したまえレーデルハイト君!」
やはり勧誘が来たか。この味は魅力的だが、やはりISには勝てぬ。
本当に美味しいのだが。
三個ぐらいあった唐揚げをペロリと平らげる。
ふとセシリアは残り一個の唐揚げをジーーっと見つめていた。
「………」
「どうしたセシリア」
「料理部、入ってみようかしら」
ピシッ! 調理室に戦慄が走った。
他の生徒に料理の案内をしていた料理部部員も一斉にこちら、というよりセシリアを見て青ざめた。
全員がセシリアが部活入りした時のイメージを構築したのだろう。
間違いなくカタストロフィ的な飯テロが起こる。
飯テロ、意味は真逆なのがこんなのにも悲しいとは。
「オルコットさん」
「はい?」
「悪いが諦めてくれ」
「な、何故です!?」
「必然だな」
「何故ですか!?」
このあと料理部部長の悲壮に満ちた説得により、セシリアの料理部入りは無事阻止されたのだった。
ふと、根本的に解決しなければ俺の命も危ういのではと気づいた。
気づきたくなかったよ、こんな同棲リスク。
「納得いきませんわ!」
「してくれ頼むから」
じゃないと俺が死ぬ。
そう願いながら俺は追加の肉じゃがをモグモグしていたのだった。美味しかったです。