IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「というわけで私と戦って貰うわ!!」
「唐突っ!?」
「会長は一度『というわけで』という言葉をちゃんと調べてください」
第4アリーナの女子更衣室に集められた俺と一夏。
………とりあえず何故女子更衣室なんぞに入っているのかというのを弁明させて頂くと。
男子更衣室が木っ端微塵になっているのですよ。
オータムとの戦闘でロッカーは薙ぎ倒され、アラクネのアーマーが自爆したことにより男子更衣室は殆ど焦土と化し。
とどめに鈴が俺ごと撃ち抜いた限界火力の衝撃砲で男子更衣室と女子更衣室が繋がってしまった。
劇的ビフォーアフターである。
今はその場しのぎで壁は塞がってるが。数少ない男子更衣室の一角が潰され、俺と一夏は実技学習の度に走る回数が増えることに。
もうエネルギー消費覚悟で制服から直接変身しちまおうかなとさえ考えている。
話を戻そう。
俺と一夏は会長に生徒会のイベントのために第4更衣室に集められ「私と戦って貰うわ!!」と言われたのである。
説明終わり。
「会長と戦うことと生徒会の出し物って関係あるんですか?」
「具体的には生徒会の出し物ではないのよ。生徒会主催ではあるけど」
「え? えーと。それってどういう?」
「生徒会の出し物は飽くまでシンデレラであって、今回は単純に皆を楽しませる為にISバトルを開催しようってわけ」
成る程。ISバトルの観戦は観客にとっては至上の娯楽。
SFから飛び出したような現実離れした戦いをノーCGノンフィクションで見れる。ましてや無料で見れるのだから楽しみだと思う人もいるだろう。
「一夏くんと疾風くんがペアとなって、私とエキシビションマッチ。シンデレラ城ステージでやってもらうわ」
「俺たちと会長が、ですか」
国家代表、しかもオータムを完全に手玉に取った実力者とのバトル。
勝ち目はほぼなし、はっきりいって無謀。だけど………
「やろうぜ疾風。俺は楯無さんと戦ってみたい」
「やる気だな一夏」
「今の自分の実力でどれだけ楯無さんに食い下がれるか知りたい。手を貸してくれるか疾風?」
「わかった。会長、こちらからも宜しくお願いします」
「そういってくれて嬉しいわ。断られたら色々やるつもりだったけど無駄になって良かった」
相変わらず背筋が冷えそうなことを言ってくれる。
「二人とも親睦が深まったみたいね。なんていうの? 男の友情的な?」
「「そうですか?」」
「ほら仲良し」
会長は【絆】の文字がついた扇子を広げた。
元から俺と一夏はなかが良かったはずだけど、昨日お互いのアキレス腱を見せたことで会長の言うように親睦が深まったのだろう。
なんかむず痒いな。
会長は「先にピットに行ってるから」と更衣室を出ていった。
「じゃあ一夏、作戦会議でもするか」
「ああ。と言いたいところだけど。先ずは着替えてピットに行こうぜ。ここ一応女子更衣室だし」
「あ、そっか」
失敬失敬。
ーーー◇ーーー
「じゃあ行くか! お先に一夏!」
「おう」
電磁カタパルトが俺とイーグルをアリーナに放り出した。
一番最初に見えたのはシンデレラの舞台であるシンデレラ城。
ここで俺はセシリアに王冠を取られたんだよな。
………いや、今はISバトルに集中しよう。これが終わったら、改めてちゃんとセシリアと話をつけよう。
俺と反対側の空に装甲量の少なさをアクア・ヴェールで補った更識会長とそのIS、ミステリアス・レイディが待ち受けていた。
遅れて一夏と白式もアリーナに入ってくると、会長は頬を膨らませた。
「遅いわよー。レディを待たせるんじゃないの」
「ギリギリまで作戦考えてたんですよ。無策で勝てるとは思えませんし」
言うて五分前だし。
「あら、私の予測を覆せるかしら?」
「やってみせますよ。こっちも貴女に対して一個だけ実績あるんですから」
「え、マジで?」
マジである。
今回はマガジン花火なんて手は使えないが。うん、懐かしいな。
あの時は1ダメージも与えられなかった雪辱を晴らす意味でも負けられない。
『さーて始まりました生徒会主催エキシビションマッチ! 実況はいつでも部長の座を狙っています! 下克上目論む新聞部副部長、黛薫子がお送りいたします!』
あ、黛先輩だ。
眼鏡が光で反射してることから相当やる気なのだろう。
『本来なら解説に織斑先生をお呼びしたかったのですが。事務作業が大変で解説してる場合ではないとか! お疲れ様です!』
これには観客からもブーイングが鳴る。致し方ないと理解しつつもブーイングせずにいられない。
いや、ほんと申し訳御座いませぬ。一応心から謝らせていただきます。
『対戦カードは織斑一夏くんと疾風・レーデルハイトくんの男子ペアというミラクルタッグ!』
アリーナ中央のホロスクリーンにデカデカと俺と一夏の顔写真が写し出され、観客席から拍手と歓声が鳴り響いた
『対するは我らが生徒会長。学園最強の名は伊達ではない! ロシア国家代表、更識楯無だぁ!』
変わって会長の顔写真。
俺たちに負けないぐらいの拍手喝采を起こった。
『現在観客席でどちらが勝つかという投票を行い………結果が出ました! こちらでございます!』
ホロスクリーンに出された投票結果。
男子ペア、31%
更識楯無、69%
「………意外と多かったな」
「ああ」
ほとんど一年票な気もする。
それでも倍の差が開いた。
自然と武器を持つ手に力が入った。
同じく自身の得物である蒼流旋を持つ会長は、いつものおどけたような笑みではなく、挑戦的な笑みをこちらに向けていた。
俺たちの口元も自然と上がっていた。
『さてお待たせ致しました。男子ペアVS生徒会長! まもなく試合開始です!』
ホロスクリーンに10カウントが置かれる。同時にプライベートチャネルで一夏に回線を開いた。
「一夏、先ずは手はず通りパターンAだ」
「わかった」
3、2、1、0!
チャージしていたインパルスのプラズマを飛ばす。会長はアクア・ヴェールを前にかざす。
プラズマの塊はアクア・ヴェールにぶつかり、流れることなく電撃は弾かれた。
二人同時に瞬時加速を使用。インパルスを叩き込むもそれもアクア・ヴェールで防がれ、一秒遅れで一夏が肉薄する。
正面から切りかかる一夏の前にアクア・ヴェール滑らした。
アクア・ヴェールに雪片弐型が衝突する。
しかし一夏は当たる瞬間、瞬時加速中に急制動をかけ、無理やり機体を横に滑らし。会長の右後ろを取った。
その手の雪片弐型は零落白夜のビームブレードが展開されていた。
だが読んだのか、はたまた対応したのか。会長は零落白夜を螺旋する水を纏った蒼流旋で受け止めた。
「くっ!」
「フェイントだなんて、いつの間に覚えたのかしら?」
「っ! 離れろ一夏!」
指示で即座に一夏、そして俺が離れると同時に先程俺たちが居た場所に水蒸気爆発が発生した。
突っ込んでくると想定して水蒸気を配置していたのだろう。
イーグル・アイであらかじめ湿度を測定していなければ巻き込まれていた。
「それとも疾風くんの入れ知恵かしら! ってあれ?」
蒼流旋のガトリングをアクティブにして狙う。だが男子ペアは即座に撤退し城の影に隠れてしまった。
「んー。策士キャラが居ると即殺は無理か」
ハイパーセンサーから二機の反応が消失した。
「さてどうしようかしらね?」
ーーー◇ーーー
『男子ペアの初撃は失敗に終わり、一先ず距離を取ってステルスモードに。ここから体制を立て直す算段でしょうか?』
「まあ、そんなとこよね。てか今の疾風の作戦?」
「だろうな、一夏なら一度引いたとしても再び向かう筈だ」
観客席のいつもの面子が先程の二人の行動に意見をかわしていた。
幼馴染み組は一夏の性格を見て納得する。
「更識楯無のISは防御力、そして見えない水蒸気爆発。加えて国家代表という実力だ。疾風は最初から実力の違いを理解した上で行動した」
「では、一夏様のフェイントも疾風様の案なので?」
「真偽のほどは分からんが、恐らくな」
「だけど一夏、なんか昨日と少しだけ雰囲気違ったよね。よく言えないし、そこまで変わってるって訳じゃないけど」
「確かに。確証はないが」
一夏と学園祭を回った四人は一夏の些細な変化について、乙女の勘的なものが発動していた。
理由はやはり。
「昨日の
「十中八九そうじゃない? 聞いた話かなりピンチだったみたいだし。疾風はああだったし」
「今の世界の闇を見たのだ。多少認識が、特にISに対する見方も変わってくる」
この中でただ一人軍属であるラウラは一夏たちが隠れてたであろう城を見つめる。
目の前の相手から一度引く。今までの一夏なら考え付かないような戦い方。
たとえ疾風が指示したとしても、あそこまであっさりと引くのは皆の目から見ても驚きだった。
それほどあのオータムの戦いは一夏の中の何かを変えたのだ。
「菖蒲はどうなのよ? 疾風、なんか変わったこととかあった?」
「私は特に。あ、でも」
「でも?」
「整備科のクラスが出していたISの出し物には凄く目を輝かせていました。童心に変えるとはあのようなことを言うのでしょうね。なんだか可愛らしかったです」
ポッと照れたように惚気る菖蒲を生暖かい目で見る一夏ラバーズの面々。
自身よりも相手の楽しみを優先し、なおかつそこに幸せを感じている菖蒲。
その献身さに何処か心を打たれた一夏ラバーズは間違っても「そういうことじゃないよ」とは言えなかった。
「もしかしてずっとIS巡りに付き合ってた訳?」
「いえ、弓道部にもよってくれましたよ」
「ほうほう」
「てことはハプニング的なのはなかったと」
「え、えーと。その時に密着してしまったときは、少しドキドキしました」
「密着っ!?」
「なんであんたがいの一番に反応すんのよ」
思わず滑った口にセシリアが信じられないものを見るような顔で菖蒲を見た。鈴がすかさず突っ込んだ。
「弓道部でくっつく要素なんかあるのか?」
「菖蒲、大人しい外見に似合わず大胆だな」
「ち、違いますよ!? 弓のフォームを調整するために自然と密着してしまっただけで邪な考えなどありませんから。図らずとも密着して棚から牡丹餅程度にしか思ってませんから!」
「し、自然的に………」
打算をたてて空回り率高めな一夏ラバーズの面々はそのスタイルを見習うべく詳しく聞くことにした。
部が悪いと判断した菖蒲は戦略的撤退、もとい囮を使った。
「せ、セシリア様はなにかありました?」
「わたくしですか。物思いにふけっていたことが度々ありまして」
菖蒲の時にはそんなことはなかった。なのに何故自分だけとセシリアは悪い方向に考えてしまう。
「それはまあ。仕方がないのではないか?」
「え?」
「問題の渦中だからな」
「一夏はあの生徒会長とでしょ? はっきり言ってズルよズル」
「頑張ってねセシリア」
「皆さん? なんか話の方向性が変わった気がしませんこと?」
「セシリア様、今からでも遅くなりません。私に同棲の権利をお譲り下さいませ」
「やっぱり変わってますわね!」
いつの間にか
先程の真面目な雰囲気は何処にいったのか。
「え、もしかしてセシリア。まだ疾風と話ついてないの?」
「ヴッ」
「セシリア。私たちは一夏と住めないのだぞ。なのに目の前でそうハッキリしないのは。なにかと応えるぞ」
「やはり私に同棲権を」
「軟弱者め、いい加減腹を決めろ。一緒に同棲するだけで何故そこまで悩む。むしろ喜べ」
「それは貴女たちとわたくしとでは根本的な違いがありますから」
「モタモタしてると菖蒲にぶんどられるわよ」
「セシリア様。お金の用意は出来ております。先ずは1000万からどうでしょう」
「小切手を出さないで下さい菖蒲さん!」
「ご安心を、ポケットマネーですので」
「そういう問題ではありませんし、わたくしこれでもイギリスでも高名な貴族なのですよ!?」
そんな上流階級出身に躊躇わず金銭賄賂で攻めてくる菖蒲は色んな意味で積極的というか突貫的だった。
「すいませんセシリア様」
「まったく」
「やはり1億から始めなきゃ話になりませんでしたね。徳川菖蒲の本気をお見せしましょう」
「菖蒲さん。先ず落ち着きましょうお願いしますから」
もはや止まることを知らない菖蒲にセシリアは本気でストップをかけた。
ーーー◇ーーー
「疾風、こんなんで隠れられてるのか? ステルスモードなんて初めて使ったけど」
「結構中側に入ったからな。覗き込まれでもしない限り通常ISの索敵だったら大丈夫」
今俺たちはステルスモードを最高レベルで発動している。
この近い距離だと戦闘出力はおろかスラスターを少しふかすだけでバレる。
音声でもバレる可能性があるため、今俺たちが出来るのはシールドバリアとPIC、そしてプライベートチャネルのみだ。
「予想通りとはいえ、やっぱ防がれたな」
「やっぱ付け焼き刃のフェイントじゃ駄目だったか」
一夏の攻撃は直線的だ。それ故に射撃戦だと被弾率が高く、近づく前にやられるのが一夏の負けパターンだった。
それは皆にも注意されていたし。そのためのサークル・ロンドだったのだから。
だから今回は初撃からフェイントを噛ましてみた。
「一夏の性格を知ってる相手で、代表候補生レベルなら一発ぐらい刺さりそうだったけどな。今回は相手が悪かった」
「やっぱ凄いんだな、あの人」
「代表だからな」
俺の目標の一つ、国家代表。それを俺と同じ僅か16歳の時にもぎ取った会長は、やはり俺たちとは一線を越えた存在だ。
「しかし疾風のプラズマ全然通んなかったな?」
「ん?」
「水って電気を通すだろ? でもアクア・ヴェールの上を滑るだけで効いてる感じしなかった。やっぱISのエネルギーが通ってるからなのか?」
「それもあるだろうけど。多分会長はイーグル対策で純水を作ってる」
「ジュンスイ?」
「不純物が極端に少ない水のこと。電気は混じり気のある液体じゃないと通りにくいからな」
逆に不純物である塩を多く含む海水は異様なほど電気を通す。
ミステリアス・レイディのアクア・ヴェールはアクア・クリスタルを通して精製される。純水を作るなどお手のものだろう。
「遠距離で一番威力の高いインパルスが防がれたとなると、手持ち火器だけで貫通は難しいな」
「俺の荷電粒子砲は?」
「可能性はあるけど当てれる?」
「多分駄目」
目に見えて一夏は落ち込んだ。
「とにかく気を見て奇襲をかける。そこから連撃でどうにか体制を崩して零落白夜だ。長くなれば成る程勝ちの目がなくなるから」
「わかった」
さて、同じ場所に長くとどまるのは流石にリスクがあるし会長も馬鹿ではない。
もし出会い頭に見つかったらその時は一気に攻勢に出る。
「移動しよう、音を立てずにな」
一夏は頷いた。
移動しようとしたその時。
頭上から破裂音が聞こえた。同時にパラパラと破片が降ってきた。
「な、なんだ?」
「爆発音………水蒸気爆発?」
クリア・パッションで城を攻撃してるのだろうか?
そのあと立て続けに小規模な爆発音が立て続けに続いた。
「こ、これ大丈夫か疾風?」
「………」
手当たり次第に爆発。目的は俺たちの炙り出し? 焦って飛び出てくるのを待ってるのだろうか。
ふと俺は昨日、会長との雑談を思い出した。
「会長。いつの間にうちとパイプ持ったんですか? こんなけったいな王冠作っちゃって」
「王冠だけじゃないわよ? 今回の城ステージの建設にも一枚噛んでるんだから」
「そういや建設関連企業もあったなー」
「フフッ。今回の城の設計は私が考案したの。ギミック満載で盛り上げたくてね。満足したわー」
心底楽しそうな会長の顔が浮かんで消えた。
なんで今さら思い出した?
なにに引っ掛かった?
「てかこの城。結構早く作った割にしっかりしてたよな。アリーナ封鎖したのって十日前だっけ?」
「ああ、内装とか手抜いてるけど。僅か短時間でここまで作り上げるのは………ん?」
そも、この城の建築はどれだけの人が知っていた?
少なくとも、俺と一夏意外の生徒会メンバーは知っていた。
そしてそれを指揮していたのは?
『今回の城の設計は私が考案したの』
………あっ!?
「ヤバイ一夏! ここから出るぞ!!」
「え、なん」
俺たちより遥か頭上。大きめの爆発音が鳴り響いた。
ミシミシと嫌な音がなり、あちこちで崩落の轟音が鳴る。
そして俺たちの部屋の天井が派手に砕け散った。
「うそっ!?」
「チィッ!」
ーーー◇ーーー
『な、なんということでしょう。優美にそびえ立っていたシンデレラ城が………』
楯無の破壊工作により、鈍い音と共に瓦礫の山となったシンデレラ城。
流石の黛薫子も目の前の光景にドン引きしていた。
観客席の生徒も同様、いや動揺していた。
箒たちも開いた口が塞がらず。菖蒲は思わず口を抑えてしまった。
更識楯無は一向に出てこない男二人の様子を周回しながら探していた。
だが下手に近づけば奇襲に合いかねない。
だから楯無は閃いた。
「そうだ、更地にしよう」
城の設計に携わった楯無は城の支柱となる場所を熟知していた。
城の周りを周回しながらアクア・ナノマシンの霧を仕込み、支柱を根こそぎ爆破。
自重により瓦解した城は中に隠れていた二人ごとぺしゃんこにしてみせたのだ。
木の葉を隠すなら森のなか。
ならば隠れてる森ごと焼き払えばいい。
楯無が行ったのは正にそれだった。
見るも無惨な形となった城の上で浮かぶ楯無の顔は正に悪役そのものだったと、観客は後に語っていたという。
誰もが無事ではすまないだろうと思った。
だが試合終了のアナウンスはならない。
何故ならまだ試合は続いているから。
つまれた一ヶ所の瓦礫から一筋の光が上がり、瓦礫が吹き飛んだ。
そこから飛び出したのは白と水色の体躯。
白式・雪羅とスカイブルー・イーグルだった。
ーーー◇ーーー
「脱! 出!」
「ま、マジで死んだかと思った………」
まったくだ。本当に。
咄嗟にプラズマフィールドで瓦礫をせき止め、一夏の荷電粒子砲の最大出力を持って間一髪で脱出出来たのだ。
「あら、おかえりなさい」
「はいただいま。じゃないですよ楯無さん! 幾らなんでもやりすぎですよ!」
「この後もまだバトルあるのに障害物軒並みぶち壊すって。ほんと無茶苦茶」
ISがあるから死なないと分かっていてもあんなもの早々経験できるものではなく、普通に恐怖体験だった。
元凶は相も変わらずニッコニコしてやがる。殴りたいその笑顔。
ということで。
「行くぞ疾風! 流石に頭きた!」
「同感、だけど熱くなりすぎるなよ。からめとられるから」
「っ! 分かった!」
温厚な一夏も流石に余裕綽々の楯無さんに堪忍袋の緒切れたよう。それは同棲してからの精神的ストレスも後押ししてることは本人さえもわからない。
それを分かってるから俺も止めなかった。どのみち隠れる場所がなくなった以上予め用意していたプランの大半は消失した。
だけどちゃんと忠告を入れることも忘れずに。今の一夏なら耳に入れてくれると信じたから。
「来なさい二人とも」
「「言われなくとも!!」」
高機動スラスターに火をいれる。
イーグル・アイの情報に会長の周りに霧が対流してることが分かっていた。
「霧を飛ばす!」
チャージしたインパルスのプラズマ弾を撃つ。
アクア・ヴェールに阻まれる、それが純水なのは折り込み済み。ぶつかった瞬間プラズマは拡散して会長の周りに広がった。
最初から拡散する目的で収束率をまばらにしていた。シールドや計器類にダメージは与えられないが、俺の狙いは別にある。
「やるわねっ」
狙いは会長の周りに対流していたクリア・パッション用の霧。
高電圧には煙や霧を晴らす効果がある。電撃が通らなくても、気体爆弾の元は拡散出来る。
そして。
突き出したインパルスがアクア・ヴェールに突き刺さる。
そのまま強引に穂先を展開、銃口が開かれて撃たれたプラズマは初めて明確にミステリアス・レイディに通る。
だが会長はもう一つのアクア・ヴェールでプラズマをギリギリで防いだ。
だがインパルスは一枚目のアクア・ヴェールに突き刺さったまま。
穂先が閉じたその切っ先は二枚目のアクア・ヴェールに届いている。
ワンテンポずらして一夏が横から斬りかかり、会長は蒼流旋で受け止める
会長のアクア・クリスタルの数は6、アクアヴェール展開に必要な数は3。
つまり会長が展開できるヴェールは二個が限度。
そして今、意識が散らされた。
スカイブルー・イーグルの全身に配備されたプラズマジェネレーターの稼働率が上昇。
生成されたプラズマをボディを通してインパルスの切っ先に集中、一気にぶちまける!
「純水は電気を通さない。けど、この距離なら形を維持してるナノマシンには届きますよね!」
「!?」
最大出力で拡散されたプラズマがISのエネルギーを伝たちしてるナノマシンを焼き潰した。
支えがなくなったアクア・ヴェールはパシャンっと元の液体に形状崩壊しインパルスを止めていた盾がなくなる。
会長は左手にラスティー・ネイルをコールしガードするが。
そんなのは関係ない。
同時進行でエネルギーをためていたスラスターで瞬時加速! 体ごとぶつかり。
「ちょっ、疾風くん!?」
渾身の力をこめてその細い体を。
抱き締めた。
HAG、抱擁、ギュー。
色んな言葉はあれど俺は戦闘の真っ只中。現在進行形で対戦相手であり敵である会長をミステリアス・レイディごと正面から抱き締めたのだ。
余談だけどスカイブルー・イーグルとミステリアス・レイディの装甲色ってどっちも水色なんだよね。
俺のは厳密にいうと空色だから若干こっちのほうが色薄いんだけど。
そのまま瓦礫の城がそびえる地面に突っ込む。地面にぶつかる瞬間、会長を守るように方向展開してから。
背中にくる衝撃は昨日のゴムボールの非ではなく。対衝撃を持っても衝撃が背中から突き抜けた。
「ぐふぅっ!」
「あ、貴方一体何を!?」
会長からしてまったくの想定外だったのだろう。
いくら国家代表といえども一人の人間だ。予想外のことが立て続けに起きれば慌てもするし動揺もする。
いまだ全身を使って会長の体に絡み付く俺とイーグル。
観客の動揺の声も聞こえるし、多分黛先輩も困惑してるかテンション上がってるだろう。
さて先程の質問に答えようか。
我武者羅にこんな奇行に走ったのは他でもない。
「やれぇー!! 一夏ぁぁ!!」
「応!!」
ハッと見上げた空。
そこには一夏と白式・雪羅の姿。
俺たちは会長に比べたら弱い。それは抗いようのない事実であり。正攻法で攻めたとして、例え2体1だとしても負ける可能性は充分にあるし、それは全生徒も周知のこと。
だからとにかく即実速攻の強襲攻撃。時間をかけずに一瞬の間に叩き込む短期決戦仕様。
零落白夜を当てれば俺たちの勝ち。ならば。
「死なばもろともですよ会長!」
「冗談じゃない!」
この後の展開を読んだ会長は形振り構わずクリア・パッションを自機周囲に展開、自爆覚悟でこの拘束を抜け出す。
「プラズマ・フィールドォォォッ!!」
会長ごと包むように電磁バリアを展開。霧は霧散し、新たな霧も生成出来なくなった。
「零落白夜! 全、開!!」
白式・雪羅が金色の光を纏った。
あと数瞬もすれば零落白夜の刃が俺ごと会長を切り裂くだろう。
一夏に躊躇いはない。当然だ、これは予め考案していた最終プランに他ならないのだから。
「やってくれるわね疾風くん! だけど私は生徒会長なのよ!」
突如、会長の体が爆発した。
「な、にぃぃ!?」
「えっ?」
気付けば俺は会長から離れ、一夏の斬撃射線上に投げ出されていた。
背後から切り裂かれる感覚と音がなった。
『おっとぉ!? ここでスカイブルー・イーグルのシールドエネルギーがエンプティ!! えっ、たっちゃんの間違いじゃなくて!?』
「え、疾風!?」
俺ごと会長を斬るつもりでいた一夏。だが切ったのが会長ではなく俺だけだという事実に一夏は困惑し、隙が生まれた。
「うわっ」
白煙の中から薙ぎ払われたラスティー・ネイルの鞭が一夏の体を縛り付けた。
「はー、正に間一髪だったわ。もう、ボロボロになっちゃったじゃない」
白煙の中から現れた会長のミステリアス・レイディ。
四肢に備え付けられていた丸いパーツが弾け飛んでおり、ただでさえ少ない装甲が更に少なくなっていた。
「まさか。装甲内部のウォーターサーバーを爆弾変わりにしたのか!?」
「ええそうよ。捨て身過ぎるから出力は抑えたけどね。おかげで私のシールドも減ったけど、零落白夜を食らうよりはマシよね」
俺も無茶苦茶やった自覚は大有りだが。会長も負けず劣らず無茶苦茶だ!
「私も勝つためなら手段選ばないのよ。さて、そろそろいいかしらね!」
何も持たない会長の右腕にいつの間にか集まった三つのアクア・クリスタル。
そこから飛び出した大量の水が形をなし、蒼流旋と同サイズの水の槍を生み出した。
「最大出力は無理だけど。今の一夏くんならこれで充分!」
「うわっ!」
巻き付いたラスティー・ネイルで一夏を引き寄せる。
最大の二段階瞬時加速を使用したばかりの白式にそれを振りほどける力はなかった。
「ここまで私を追い詰めたご褒美に見せてあげる! ミストルテインの槍! バージョン・クォーター!!」
一夏に突き立てられた水の槍。
純水なエネルギーが込められた水の塊。それが意味するのは勿論、爆発だ。
一夏と白式は爆炎に呑み込まれ、派手に吹き飛んで地面を転がった。
「白式・雪羅! エネルギーエンプティ!! 勝者! 更識楯無!! 流石生徒会長! 強烈なパフォーマンスだぁぁ!!」
息をつかぬどんでん返しにアリーナ観客席のテンションは最高潮。
「イエーーイ!!」
そのアリーナのど真ん中。
ボロボロのミステリアス・レイディの中で生徒会長・更識楯無は勝利のVサインを掲げていたのだった。