IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「皆、二日間お疲れ様!」
「お疲れ様ー!」
「二人もお疲れ!」
最後の執事接客時間を終えてIS学園祭一年一組ご奉仕喫茶もお開きとなった。
執事二人の見せ納めということもあって一時間にも関わらず大勢の客が来てお一人様三分という制約にも関わらず大盛況。
ご奉仕喫茶はIS学園史上最高の人気度になったことだろうというのは。疑うなというほうが無理だった。
その結果。
「えー、慣れない作業で大変だったと思いますが。その努力は無駄ではなかったでしょう。皆さんの働きにより純利益がとんでもないこととなっております」
「「うおおぉぉぉぉーー!!」」
『執事にご褒美セット』『執事からご褒美セット』が売り上げの大半だったが。メニューのイギリス料理が思いの外ヒットしていた。
見出しに『美味しいイギリス料理があります! (織斑一夏監修)』とも書いておいた。
イギリス料理に難色を示した人は多くいた。だが執事目当てで来た人が興味本位で注文したイギリス料理がウケ、それがたちまち口コミで広がり料理目当てで来た人も少なくはなかった。
結果的に学園内のイギリス料理に対する偏見も払拭されたと考えてもいいだろう。これにはセシリアもニッコリ。
しかし山分けしても大金な純利益。流石に全額は学生の領分を越えてるので半分は学園に寄付、もう半分を取得ということになった。
「これは一位頂きかな!」
「一位は学食の割引パスだよね!」
「大丈夫かな。流石に儲かり過ぎじゃない?」
儲かり過ぎ、なんとも幸せな悩みだなと苦笑すると相川さんと鷹月さんがお礼を言ってくれた。
「ほんと今回の業績は二人のお陰だね。一日目もそうだけど、お疲れ様」
「俺達だけじゃないよ。皆がサポートしてくれたから俺達もなんとか捌けたんだから」
「そうだぞ。じゃなかったら今頃俺と疾風ぶっ倒れてたと思うし」
「そう言って貰えると私たちの頑張りも報われるよ」
確かに売り上げの大半は執事だったが、それだけではここまで上手く行かなかった。
皆が必死に言葉遣いを学んだり、姿勢の調整はとにかく大変だった。
どれが欠けてもここまでの業績は叩き出せなかっただろう。
「よし、一時間後に閉会式だ。着替えた後に片付け! 時間はあるようでないから手早くいくよ!」
「はーい!」
ーーー◇ーーー
「それでは、生徒会長更識楯無さん。宜しくお願い致します」
かくして、閉会式。
体育館に集まった皆の様子は以外にも大人しめだった。
否、張り詰めてるといったほうがいいだろう。それはこの後発表される、一夏争奪戦の結果発表に他ならないのだから。
「皆さんこんにちは。もうこんばんはになるかしら。一日目にハプニングは起きちゃったけど、無事に終わらせられたのは皆のお陰よ。生徒会長として礼を言わせてもらうわ」
会長にしては静かなスタート。だがここから盛り上げていくのが更識楯無だ。
「はい、湿っぽいのは終わりよ! 皆が気になる部活投票の前にクラス投票の結果を発表するわ。ためる意味もないからスパッと言うとしましょう! 一位は一年一組の『ご奉仕喫茶』! おめでとう!!」
一年一組を中心に歓声が鳴り響いた。
他の皆も予想通りと思ったのかおもむろに拍手をしてくれた。
「さて二位は………はいはいわかってるわ。これ以上長引かせたら可哀想ね。それでは、織斑一夏争奪戦の結果を発表致します」
一夏争奪戦。投票一位の部活には一夏の部活入りの権利が与えられる。
皆が固唾を飲んで見守るなか、会長は迷いのない目で結果を読み上げた。
「一位は………」
「「ゴクリ………」」
「生徒会主催、観客参加型演劇『迫撃! シンデレラVSシンダーラッド』!」
「「「………………………へ?」」」
ぽかんと全校生徒の口が開いたまま立ち尽くした。
一夏も疑問符を浮かべ、隣に立つ俺は何処か納得したように呆れの表情。
数泊の間。宙に漂った魂が戻った全校生徒から一斉にブーイングが起きた。
「なんで生徒会なの!?」
「私たちこの日の為に頑張ったのよ!? 三徹したのよっ!?」
「一体どんな手を使った更識楯無ぃぃ!!」
「ロシアの陰謀か! ボルシチで釣ったのか!!」
それだとポルシチパワー強すぎだろ。
正に非難囂囂のなか会長は相変わらず涼しい顔でまあまあと生徒を宥めていく。
「なにも卑怯な手は使ってないわよ。皆がこぞって参加したシンデレラの参加条件は『生徒会に投票すること』よ」
うわっ、エグッ………
会長がしたのは水不足で悩む砂漠の民にタンク一杯の水を差し出すということに他ならない。
この場合代金が法外すぎて詐欺一歩手前だが。
「私たち生徒会は決して参加を強制したわけではないし、CMのちっこい注意書きみたいじゃなく、ちゃんと皆に見える文字の大きさで書いたわ」
会長が指を鳴らすと背後のスクリーンに参加条件のポスターが映し出される。
そこには確かに『一般生徒参加可。参加条件は投票用紙を生徒会の投票箱に入れること』と書かれている。
そしてその下には更にでかく『王冠を手に入れた生徒は王子と同棲出来る! 集え若きシンデレラ達!!』
正直下のインパクトがでかすぎる気がするが、嘘は言っていない。
「つまり、これは立派な民意であり正攻法。不正などしていない紛れもない結果なのです!」
不正がないとは、よくもまあ………
俺は半眼で壇上の上の会長を見た。
会長の顔。なんとも悪役だ。
しかし結果的にこれは正に最適手段といえるだろう。
喉から手が出るほどの男性操縦者との同棲権利。
皆が告知を見た瞬間理性を手放せるを得なかっただろう。もたもたすれば他の女子に同棲権を取られてしまう。
そんな焦りと目の前の豪華商品をチラつかせたら、大半の女子は落ちるだろう。
そして何より、部活勢の人気は全体的に下方気味だった。
その原因はご奉仕喫茶にほとんどの客を吸われたからに他ならない。
ご奉仕喫茶とシンデレラの壮絶なダブルインパクトが、生徒会の圧倒的勝利条件を構築したのだ。
会長の言葉は正論だ。なにも間違ってはいない。参加条件は満たし、投票に不正はない。
だがいつの世も、正論は必ず受けいられるとは限らない。
「そんなんで納得できるわけないでしょ!」
「つーかあんな城なんか出されて勝てるわけないじゃない!」
「予算どうなってんだコラー!!」
女子生徒からのブーイングは悪化の一途を辿り後一歩で暴動が起こりそうだ。
とりあえずお前は落ち着け一夏。情報量大くてパンクするのはわかるけど落ち着け。
「はい静粛に! 私だって鬼ではないわ!! 皆が納得できる譲歩作を用意してある!!」
皆のブーイングに負けないよう高らかに宣言した会長を前に生徒一同はとりあえず鞘に納めた。
「生徒会メンバーになった織斑一夏くんですが。希望した部活にのみ、適宜派遣することを決定します!」
「え、それってつまり?」
「そう! 投票のランキング関係なしに織斑一夏くんを数日間に限り入部させることを。生徒会長の名において宣言します!!」
これは、凄いな。
つまり一夏は希望者。事実上学園のほとんどの部活に駆り出されることが決定したということだ。
一夏、今すぐ出てきた魂を口に戻しなさい。
「やった! 織斑くんが部活に来る!」
「私のとこ勝ち目薄すぎたし。正にひょうたんから駒ね!」
「水泳部! 水泳部に来てください!!」
「ぜひ漫画部に! そしてその瑞々しい裸体を………ウヘヘヘヘヘヘ」
直ぐ様各部活動のアピール合戦が開始された。
みんな先程のブーイングなどすっかり忘れていることだろう。
流石は生徒会長。人心掌握にかけては右に出る者はいないな。見習わなければ。
「更におまけとして。元から生徒会に所属していた副会長の疾風・レーデルハイトくんには希望部活のなかから抽選で織斑一夏くんと一緒に貸し出す権利を与えましょう!」
おっとぉ!? 油断してたら突然爆弾が投げ込まれたんだが!
てかその日のISの時間は確保されるよな? 俺はそこさえクリアするなら妥協出来るぞ。そこさえクリアすれば。
「それでは、織斑一夏くんは生徒会長補佐として生徒会に所属。以降は私の指示に従ってもらいます」
そういって会長は一夏に向けてウィンクをした。
一夏に至っては顔を真っ青にして俺の肩をグワングワン揺らしていた。
「疾風! どういうことだ!?」
「そういうことだ」
「俺の意思がまるで無視されてるんだが!」
「今更だろう。受け入れろ。俺は受け入れた」
「お前順応力の高さ異常過ぎないか!?」
順応ではない。諦めの極地だ。
人生諦めも肝心だぞ一夏よ。
じゃないとあの人の下でなんか生きられない。
しかし生徒会長補佐か………頑張れよ一夏。
そろそろ気持ち悪くなってきたので、引き続き肩を揺らしてくる一夏を宥めにかかった。
ーーー◇ーーー
場所は生徒会室。
「一夏くん生徒会入りおめでとー!!」
「おめでとう、これから宜しくね」
「ど、どうも」
パパーンと盛大に鳴らされたクラッカー。
鼻にツンとする火薬の匂いと中に仕込まれたリボンと紙吹雪が一夏の上に降りかかった。
生徒会入りおめでとうと書かれたタスキをかけられた一夏は未だ状況を飲み込めないでいた。
「「おめでとう! おめでとう! おめでとう! おめでとう! おめでとう!」」
「なんで疾風とのほほんさんは張り付いたような笑顔で拍手してるんだ!? やめろ! なんか逃げ場無さすぎるだろう!」
逃げちゃ駄目だからな。
ほら、笑えよ一夏。
「てかなんなんですか部活派遣って」
「最適案でしょ? 仮に一夏君がそうね、生徒会権限で剣道部に入ったとしましょう。そしたらどうなると思う?」
「………?」
「他の部活から『うちの部活に入れて』と苦情が殺到するわ」
「え、生徒会権限なのに?」
「女は理屈じゃないのよ」
説得力抜群な言葉に一夏は言葉を詰めざるえなかった。
「ことごとく俺の意思というものが潰されてるような」
「あら、こんな美少女三人が居るのに不満?」
「確かに皆さん可愛いし綺麗でしょうけど」
「臆面もなくそんなこと言えるのが一夏君の凄いところよね。ちょっと照れる」
これで数多の女を落としてきたんですよ。
天然ジゴロの名は伊達ではない。
「疾風は何処まで知ってたんだよ」
「なんも。会長には必勝策があるって聞いただけでまさかここまで大人げないものだとは思わなかった」
これは本当。シンデレラの内容物など知らなかったのが何よりの証拠である。
じゃなきゃ今の今まで悶々としていない。
「というか会長。ハッキリ言って今回の出来レースですよね?」
「違うわよ? 皆進んで票を入れたんだし八百長なんてこれっぽっちもないわよ?」
「よくもまあそんな」
こちらも臆面もなくさも当然のように言ってくる。こっちは確信犯だというのが一夏との違いだろうけど。
「でも一夏くんが生徒会に入ったのはプラスでしょ?」
「ISに時間割けるからですか?」
「そう。今回で痛感したでしょ。自分の技量がどれほどなのか」
「はい」
オータムと会長とのバトル。
どちらも完膚なきまで惨敗という結果を残した一夏はその事実をすんなりと受け入れた。
「これからも一夏くんのコーチを引き続き続けていくわ。疾風くんと三人で頑張りましょう」
「疾風も一緒に?」
「閉会式終わってすぐに頭下げられてね」
「一緒に強くなろうって言っただろ。俺もまだまだ未熟だから」
「わかった。宜しくな疾風」
「おう」
自然に俺と一夏は拳を付き合わせた。
会長が隣で我が物顔になってるのはこの際無視しといた。
「とりあえず放課後に生徒会室にくればいいんですか?」
「当面はそうしてもらって、派遣先のくじ引きを纏め次第そちらに行く形に」
「わかりました」
「俺ってどんだけ派遣されるんですか?」
「レーデルハイトくんは10件担当してもらいます」
「10件も………」
「そういうなよ疾風。俺なんてそんな数じゃ済まされないかもしれないんだぞ」
確かにそうだけれども。
約30日もIS使用時間を削られるのか。
発狂しないといいな………
「さっ! 今日は新規生徒会メンバーが揃った記念にケーキ焼いてきたから皆で食べましょ!」
「わーいケーキ~!」
「ではお茶入れてきましょう」
「お皿持ってくるね~」
一緒に連れ添っていた三人の連携プレーにより着々と準備が進められていく。
「それでは。これからの生徒会と二人の活躍に、乾杯!」
「乾杯」
「かんぱ~い!」
「「乾杯」」
こうして一夏の生徒会入りが決まった。
生徒会室補佐という本人には不穏しかない役職だが、これも人生経験だ。頑張れよ一夏。
会長が作ってきたショートケーキは思わず喉を鳴らすような美味しさだった。もう一個貰えるだろうか。
「あの、織斑くん。ひとつ聞きたいことが」
「なんですか?」
「学園祭で来たお友達、なんという名前なのですか? 赤い髪の」
「弾のことですか? 五反田弾です。今は藍越学園に通ってます」
「歳は織斑くんと?」
「ええ。同い年で、中学からの仲なんです」
「そう、ですか………やっぱり年下………」
「弾がどうかしたんですか?」
「ううん。なんでもないの。教えてくれてありがとう」
丁寧にお辞儀した虚さんの顔は何処か赤かった。
ふむ。
「なあ一夏、弾って彼女いないんだよな?」
「ああ、だけど今日気になる人いたって言ってたな」
「!」
「ああ、眼鏡をかけた可愛くて美人な人って言ってたよな」
「!?」
「そういえば帰り際に虚先輩の名前叫んでたな。なんでだろ?」
「!!?」
おー、みるみるうちに虚先輩の頬の赤みが濃くなっていく。
「虚ちゃん。扇子いる? 今日暑いわよねー」
「い、いただきます」
パタパタと顔の熱を出そうと強めに扇子を扇いだ。
だが一度生まれた熱を冷ますには扇子の冷却力では足りないように見えた。
よかったな弾、お前の未来は明るいぞ。
「疾風、今日ってそんなに暑いか? むしろ寒いほう」
「朴念神は黙ってようねー」
こいつは通常運転過ぎて逆に安心するわ。うん。
ーーー◇ーーー
一夏の歓迎会を終えた楯無は学園長室に向かっていった。
「失礼します」
「どうぞ」
中から聞こえたのは初老の男性の声。
楯無はその重そうなドアを開いた。
「お疲れ様、楯無くん」
「ありがとうございます」
学園長の席にはホームページに乗っている女性ではなく。先程応対した初老の男性が座っていた。
轡木十蔵。普段は『学園内の良心』と言われる用務員だが。その正体はこのIS学園のトップであり、最高責任者である。
普段は妻である女性が表舞台に立っている。
その理由はISを扱う学園のトップが男性では難色を示される、女尊男卑という世界に対してのカウンターだった。
「それでは報告をお願いします」
「はい。当初の予定どおり織斑一夏、疾風・レーデルハイトの生徒会入りは成功。織斑一夏のIS訓練は順調に進んでおります」
「彼の学習能力には目を見張るものがありますね。流石は織斑先生の弟さんということかな?」
「ええ、今まで見てきた女子と比べてもその差は歴然です」
「レーデルハイトくんのほうは?」
「過去の資料と合わせて、彼の状況構築力の高さには驚きました。想像以上ですが、まだまだ研鑽の余地はあるかと」
それでも渡された資料から二人の潜在能力が如何に高いかが見て取れた。
ここから育て上げればどれほどの逸材になるのか。それは少なくとも世界の未来に大きく関わっていくことを案じていた。
「次に
「今回は、完全にしてやられましたな」
「申し訳ございません」
「いえ、楯無くんだけの落ち度ではないでしょう。侵入ルートは?」
「大胆にもチケットを持って正面から。現在そのチケットの出所を調査中です」
更識の調べから『みつるぎ』に巻上礼子という名前はあれど、全くの別人だったという。
「報告は以上です」
「ありがとう。君にはいつも苦労をかける」
「轡木さんには負けますよ。また詰め寄られたんじゃないですか?」
「ええ。やれコアを渡せだの、警備体勢がなってないだの。好き放題言われておりますよ」
世界の枠を見てもコアの最高保有量を誇るIS学園。
教育機関としてこれでも足りないぐらいだというのを分かっていながら言ってくるのだから始末に終えない。
警備体勢に対しても、世界最大とも言えるセキュリティを突破され。
挙げ句の果てに送り込まれた代表候補生に本人さえ知らされていない違法システムが組み込まれていた。
逆にそちらで対処出来るもんならしてみろという言ってやりたい。
「まだ可愛いほうではありますがね」
「やはり最近活発化してますか。女性権利団体が」
「ええ、IS委員会でも発言力が増してきています。政界でも同様に」
「………」
思わず苦い表情を浮かべる楯無。
ISが生まれて10年余り。多少緩和されたとはいえ男性軽視の環境は続けている。
それはIS学園でも例外はなかった。
「学園の状況は」
「やはりレーデルハイトくんが生徒会に入ったことに納得が言ってない声が。少数ながら苦情が生徒会に寄せられています」
「織斑くんも入ったことから、更に勢いが増しそうですね」
学園外の驚異の対処は勿論だが。楯無と轡木の懸念は学園内の不協和音にあった。
「こちらも本腰を入れて対処していきます。彼らを引き入れた私の責任として」
「宜しく頼みます。
「はい、十蔵
そういってお互いにこりと微笑んだ。
先程張り詰めた息苦しい空気は今ので一気にほぐれていった。
「さて、お茶にしましょうか」
「しましょう。虚ちゃんが入れてくれた最高級の玉露がありますよ」
「おおっ。こちらも群林堂の豆大福を用意した甲斐がありました」
「やたっ! 私本当に大好きなんですよその豆大福!」
まるで少女のようにはしゃぐ日本暗部の長更識楯無と、喜びをなんとか隠そうとするIS学園の影のドン。
そんな二人が年甲斐もなくはしゃぐ姿など。世界の重鎮は知るよしもなかったのである。
ーーー◇ーーー
「一夏はあたしと踊るのよ!」
「一番手は譲らん!」
「一夏、僕は最後でいいからね」
「私も最後を希望する。シャルロットが最後を要求するということに意味があるはずだ」
「時間あるんだから皆で踊ろうぜ………」
いつもの風景いつもの光景が一夏の周りで起きている。
なんでもキャンプファイヤーのフォークダンスで踊ったペアは永遠に幸せになれるという噂。
ぜってーーーー嘘。
男子入学したの今年だぞ。なのにそんなアルアル青春ジンクスがIS学園にあるわけないだろうがい!
あれか? 百合か? 百合ップルか? そこまでは管轄外だよこのやろう。
とまぁ、まんまと乗せられた一夏ラバーズは藁にもすがる思いで一夏とのフォークダンスペアを取り合っている。
それのおかげで専用機持ち以外が遠巻きで羨ましがったり。「うほっハーレムやん」と出歯亀丸出しで写真を取っていた。
「疾風」
「よっ、セシリア」
そんな姿を遠巻きに観察してると、セシリアが声をかけてきた。
服装もいつものアレンジ制服に戻っており、二日間メイドの姿だったので何処か新鮮だった。
「菖蒲さんは?」
「後で来るってさ」
「そう。それにしても随分声をかけられたのではなくて?」
「見てたのかよ」
男子一人がポツンと立っていると物珍しさに近寄ってくる女子が結構居た。
時にはダンスの誘いも来たが、先約がいると丁重にお断りをしておいた。
「疾風。同棲の件ですが」
「おおぅ、いきなりぶっこむなぁ」
「散々引き伸ばしてしまいましたので」
そうだけど。
俺から話すつもりだったから助かるといえば助かる。
「疾風は、わたくしと同棲に関しては。お嫌ですか?」
「えっと、嫌っていうか。別になんていうか。嫌ではない、けどお前は良いのかっていう」
「ならわたくしが良いと言ったら一緒に住んでくれますの?」
「………………まあ」
一応そういうことにしておく。
いやだってさ。ここで俺がセシリアと同棲したいなんて言ったら、まるで俺が女子と同棲したくてしたくてたまらない性欲野郎って思われるじゃん。
考えすぎ? そんなことないよ。
「わかりました。なら同棲しましょう」
「い、いいのか?」
「わたくしが断ったら。どのみち疾風に風評被害が飛んできますし」
「はぁ」
「それに………別に悪くはないとも思いますし」
「へぇっ!?」
凄い変な声出た。
セシリアの言ってることは合ってるけど。
ええっ?
「お前はそれでいいのかよ」
「いいです。腹をくくりました」
「ハロルドさんがなんていうか」
「もう話しました」
「なにっ!? なんて言ってた」
「手を出したら処す。と」
わかりました! 絶対に手を出しません!!
ええ絶対に!!
「来ましたわよ」
「疾風様ー!」
「菖蒲」
「では」
軽く会釈をしてセシリアが人の波に消えていった。
随分と事務的だったな。どっちみち俺と暮らすのに難色を示していたのはお家的な事情でしかなかったということかな。
………なんか胸がいずいな。
「ふぅーー。お待たせ致しました」
「まだ始まってないよ。そんな走ってこなくても」
「いえ、疾風様は人気者ですから。私がいない間に誰かに取られるのではないかと」
「菖蒲と踊るって約束したのにそんなことするわけないだろ」
「ありがとうございます」
ホッと安心したように笑う菖蒲を見て俺は一つの推測が浮かんだ。
菖蒲はフォークダンスの意味を知っているのかと。
そんな考えを抱くと同時に俺は直ぐ様その推測を蹴り飛ばした。
この青少年青春脳めっ! 懲りろいい加減に!
脳内の不純物質を排除するなか、周りから歓声が。
「疾風様、火が着きましたよ」
俺たちの身長より詰まれた
火は段々と櫓をかけ上っていき、盛大なキャンプファイヤーが灯された。
同時に音楽が炎に負けないぐらいの大音量で流れてきた。
「踊りましょう疾風様」
「おう」
皆が櫓を囲んで踊り始めた。
ペアになって踊るもの。
ぺアなんか知らねえぜ! とばかりにダイナミックにブレイクダンスをする集団。
フォークダンスがわからずに取り敢えずその場のノリで踊り出すもの。
キャンプファイヤーを囲ったダンスはたちまちフォークダンスの名を借りた自由系ダンスパーティーになった。
「これも多国籍故ってやつだな」
「疾風様。あそこ、一夏様のところ」
「ん? ブハッ、なにあれ?」
菖蒲に釣られて見てみると。
なんとも不思議空間が構築されていた。
「一夏、次はこっち!」
「さあ、夫の胸に飛び込め嫁よ!」
「ちょっとラウラ! 次は私のとこでしょうが!」
「さあ来い一夏! 私が受け止めてやる!」
「待て箒! それは受けの構えじゃ、おわー!」
なんていうか。四人が一夏の四方に立っており。一人が少し踊ったと思えば他の奴にパスされて一夏がたらい回しになってるという。
俺ああいうの見たことある。サッカーの鳥籠っていうパス練習の奴や。
いいのか一夏ラバーズたち。
お前たちはそれをダンスとして満足出来ているのか?
「菖蒲、あれって」
「楽しそうだから良いのではないですか?」
「楽しそうなんだ。そっか、菖蒲にはそう見えるんだな」
ならもうなにも言うまいよ。
一夏が目を回してるように見えるけど、楽しんでるなら良いよね。
「今日はありがとうございました疾風様。とても楽しかったです」
「こちらこそ。弓道体験楽しかった」
なかなか体験出来ないよなあれは。
最後は当たってくれて嬉しかった。
「そういえば、先程セシリア様と何か話されてましたね?」
「ああ」
「同棲のことですか?」
「鋭いね、菖蒲は」
「で、どうなったのですか?」
「まあ。収まるところに収まった。明日は引っ越し作業だ」
「そうですか………」
顔をうつ向かせる菖蒲。
どうしたのか彼女の名前を呼ぼうとしたとき。
「………残念です」
彼女の呟きを拾ってしまった。
思わず躍りの足を止めてしまった。
か細くて掠れたような声だったが。普通なら聞き逃し、気のせいだと思うような声量だったが、俺の耳は拾ってしまった。
何故残念ですなんて言ったんだ?
その疑問が俺の頭でグルグルと回りだして。回りに回って、言葉の引き出しを開けてしまった。
「菖蒲」
「はい」
「なんで俺の王冠を欲しがったの?」
屋上で聞こうと思って聞けなかったこと。
王冠を手に入れる。それは俺との同棲を意味する。
セシリアは取る気はなかった。箒たちは勿論一夏との同棲の為にそれを欲した。
じゃあ菖蒲は?
菖蒲はどうして俺の王冠を。
俺より頭一つ小さい菖蒲。
俯いていた菖蒲の顔が上がり、至近距離で俺たちは目を合わせた。
「好きだから、です」
「えっ」
その言葉に捕まった。
思考が止まる、何てことはなく。
俺は菖蒲の言葉を一字一句逃さず聞き取り、理解しようとした。
「私は疾風様が好きです。好きだから同棲したいと思って王冠を取りに行きました。疾風様がIS学園に入学したから、私は代表候補生の資格を手にここに来たのです」
「菖蒲………」
「私、徳川菖蒲は。疾風・レーデルハイトを愛しております」
疑いようのない言葉。
真剣そのものの眼。
勘違いしようのない、菖蒲からの告白だった。
「菖蒲、俺は」
「わかっています。疾風様は私のことを友達としか見てないということを。それでも良いんです。今私は、私が貴方のことを好いているということを知ってほしかった。だからダンスに誘ったのですよ」
IS学園の、でっちあげのジンクス。
それにすがったのはあいつらだけじゃなかった。
「だから私は待ちます」
「待つ?」
「貴方が答えを見つけるその日まで。たとえどんな結果になろうとも。私は受け止めます。ですが」
菖蒲が俺から離れた。
その瞳は変わらず真っ直ぐ、俺の目を捕らえていた。
「私を受け入れてくれることを、願っています」
「菖蒲………」
「今日はこの辺で。また明日、疾風様」
そう言って菖蒲は校舎の方に戻っていった。
残された俺は周りが踊るなか、ただその姿を見送っていた。
「いてっ」
「ちょっと、そんなとこで突っ立てんじゃないわよ!」
「す、すいません」
すぐにその場を抜けようと輪の外に出た。
キャンプファイヤーに背を向ける。
俺はただただ、先程の菖蒲の告白を思い出していた。
「疾風!」
「セシリア?」
「こんなとこで何をしてますの? 菖蒲さんは?」
「えと、用事があるからって校舎に」
とっさに嘘を着いた。小さい嘘なのに、セシリアについた嘘が俺の胸に針となって刺さった。
「もしよかったらですけど。相手がいないなら一緒に踊りませんか?」
「悪い、俺も疲れたから帰るわ」
「疾風?」
「ごめん、また明日」
セシリアの顔を見ることなく逃げるようにその場を後にした。
なんでかセシリアと目を合わせられなかった。
部屋に戻って制服のままベットに横になった。
幸い虚先輩は居なかった。
仰向けになって薄暗い天井を見上げた。
そのまま目を閉じた。
今は何も考えれなかった。
だけど、俺の頭は冴えていて。菖蒲のあの言葉がずっと頭に残っていた。
『私を受け入れてくれることを、願っています』
寝たくても寝られなかった。
寝れるわけがなかった………