IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第五章【至上主義(スクール・カースト)
第55話【一つの終戦】


「てめえどういうことだエムぅっ!!」

 

 高層マンションの最上階。

 綺羅びやかで豪華な装飾のその部屋に似つかわしくない声をあげるオータムにサイレント・ゼフィルスの操縦者、コードネーム・Mが鬱陶しそう振り返る。

 

「なんの話だ」

「お前が寄越したあのリムーバー! とんだパチモンじゃねーか!」

「知るか。私は上層部から渡された物をそのまま渡しただけだ」

「しらばっくれんじゃねえ!」

 

 オータムはエムの胸ぐらを掴み、そのままソファに叩き付け、ナイフを向けた。

 

「お前知ってたんだろ! 織斑一夏に使ったら奴が遠隔コール出来ることを!」

「何を証拠に」

「その顔が何よりの証拠だろうが!」

「やめなさいオータム」

 

 オータムを止めたのはバスルームから出てきた金髪の女性だった。

 妖艶という言葉をそのまま人の形にしたような彼女はバスローブ姿でエムが組み敷かれているソファに座った。

 

「スコール……」

「まず落ち着きなさい? このソファ気に入ってるんだから、血で汚れるのは嫌よ?」

「………」

 

 オータムは苦い顔でナイフをホルスターにしまい、エムを解放した。

 

「良い子ね。ほら、隣に来なさい」

「おう。いやまてまて、そんなんで私を絆そうったってそうは………」

「来てくれないの?」

「………あーもう」

 

 仕方ねえなという体で来てるが、隣に座りたいのはオータムも同じだというのは頬を見れば一目瞭然だった。

 

「エム、サイレント・ゼフィルスの整備をしてきなさい。まだ完全に慣れてる訳じゃないんだから。ちゃんと物にしときなさい」

「わかった」

 

 エムは短く返事をしドアを閉じた。

 

「オータム。髪を拭いてくれる?」

「ああ」

 

 渡されたタオルで彼女の髪を傷つけないように優しく拭いていく。

 心地良さそうに目を閉じるスコールは次第に鼻唄を歌う。

 

「~~♪」

「なんの歌だ?」

「貴女が生まれる前にヒットした曲」

「年齢バレるぞ」

「今更ね」

 

 他愛のない会話を交わす二人のそれは仕事の同僚のようで、テロリストの会話とは思えない。

 

 亡国機業(ファントム・タスク)の実行部隊の一つ、モノクローム・アバター。現在の任務は、各国のISの強奪だった。

 

「お前は知ってたのかよ」

「リムーバーのこと? 遠隔コールは、まあ予想は出来たかしらね」

「なんで教えてくれなかった」

「予想は出来ただけで確証はなかったから」

「本当かよ」

「本当よ、だからそんな悲しそうな顔しないで?」

「見てねえのになんでわかるんだよ」

「わかるわよ。貴女は私の唯一無二、大切な恋人なんだから」

 

 そう言ってスコールは振り返った。

 オータムの顔は一見悲しそうには見えないが、スコールから見たらまるで玩具を取り上げられた子供のようで、余計可愛く見えた。

 そんなオータムの目蓋に口づけを落とすと、スコールは目を細めて笑った。

 

「先に部屋に行ってて。私も直ぐに行くから」

「まだ私は納得してねえぞ」

「たっぷり説明してあげるから」

 

 オータムはため息を吐いた後、部屋から出ていった。

 

 入れ違いで金髪の女性が入ってきた。

 オータムとエムを援護した、ラファールの操縦者である。

 

「今日はありがとう。お礼を言わせてもらうわ」

「別にいい、クイーンに命令されただけだから」

「あの女、もしかして借りを作ろうって魂胆かしら? 図々しいわね」

「知らないわよ」

 

 ラファール乗りは退屈そうに背を向けた。

 

「あら、もう帰っちゃうの?」

「これからお楽しみでしょ? 私は戻らせてもらう。クイーンに伝言があるなら伝えるけど?」

「なにもないわ」

「そっ」

 

 飽くまで仕事上の関係。

 名残惜しさの欠片も見せずに立ち去ろうとする彼女の背中にスコールは言葉を投げた。

 

「一つ聞いていいかしら。アニエス・ドルージュ」

「………………なに?」

 

 アニエスと呼ばれた女性は振り返ることなく聞き返した。

 

「何故あの女の下に居るの? フランス代表である貴女が曲がりにもイギリス代表の下に付くなんて」

「別に代表とか気にしてないし、あの女の考えることに賛同したつもりはない。私は女性至上主義に興味などない。単に利害が一致してるだけだから」

「利害?」

 

 正直。スコールはあの女、フランチェスカ・ルクナバルトと反りが合うのは女尊男卑主義者だけだと思っている。

 現にスコールは彼女に魅力を感じていない。

 だからこそ目の前の女性が不思議に思えたのだ。

 

「貴女の目的はなんなの?」

「決まっている」

 

 アニエスは最後までスコールに振り返ることなく、目の前を見据えたまま、確固たる決意を込めて答えた。

 

「アルベール・デュノアを潰すことよ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「うわー………」

「入って早々失礼ではなくて?」

 

 心外、というように頬を膨らませるセシリアだが。俺としてはそれどころではない。

 

 学園祭の次の日の振り替え休日。

 菖蒲に告白され、考えに考えて迷走したまま考え疲れて寝てしまった。

 

 寝ぼけ目のまま動く気力もなく、朝のランニングも中止。

 虚さんに促されるまま、荷造りした俺は同棲先のセシリアの部屋に訪問した。

 

 途中で菖蒲に出会わなかったが、少しだけホッとした。

 

 で、セシリアの部屋に入ったのだが………なんともまあ。

 

 ここだけの話。セシリアのオルコット家もIS学園に多額の寄付をしている。

 故に他の学生には出来ない部屋の大規模改装も可能なのだ。

 だとしても。

 

 これはやりすぎだろう………。

 

 入った瞬間まず壁紙の高級感に目をやられた。

 壁紙がセシリアの家の壁に似ていて、寮室じゃなくてオルコット邸に入ってしまったのかと錯覚してしまった。

 

「お邪魔します」

「はいどうぞ。ってもう貴方の部屋でもあるのですからね」

「へいへい」

 

 取り敢えず近場から攻めよう。

 玄関の近くのトイレを見てみよう。普通はトイレのはずなんだけど。改装したらしい………

 

 オープン、クローズ。

 

 ………トイレの種類から違う。

 あと良い香りがフワッじゃなくブワッときました。どんな芳香剤置いてやがんだ。

 しかし決してキツいわけではなく普通に安らぐフレグランスでした。

 

 次に風呂場だ。もう大体予想付くぞ

 てか廊下が既に高級絨毯がしかれているぅ。

 

 浴室のドアから変わっている。

 

 オープン。

 

「………」

 

 クローズ。

 

「何故先程から開けた途端閉めにいきますの?」

「………俺ここ使わない、というか使えねえわ。高級という言葉に殺される」

「? 疾風の家も似たようなものでしょう?」

「ちげーよ! 普通のユニットバスだわ!」

 

 そりゃあ、他の家よりは少し広めだけども。

 このバスルームはなんつーか。完全にセシリア・オルコット専用と化している。

 バスルームやシャワー、小物、棚、休憩用の椅子に至るまで高級仕様

 同居人はこれに入って落ち着いて身体を休められていたのだろうか。

 

 まあ俺はシャワー派だから浴槽は使わないからいいか。気を使いそうだが。

 シャワーだけ一夏のとこ行こうかな………

 

 さぁて………

 既にHPが四割ほど削られているが。ここから先が魔境の中心地【リビング】

 

 果たしてどんな感じになってるのかは想像は出来るが出来ない。

 もう気を張るのも馬鹿らしくなってきたので俺は躊躇いなくドアを開けた。

 

「………んー?」

 

 開けた先には、まあ家具は変われどレイアウトにそこまで違いはなかった。

 トイレとバスルームを見たせいもあってそこまで衝撃は来なかったが、まだなんとか耐えれるものがあった。

 

 取り敢えず住むにはなんとかなりそうだなとベッドの方に目を向けた。

 

 うわっでかいベッドある。天蓋までついてるし、これ一人用で使うようなもんじゃないよな。

 しかしこれの隣で寝るのか………あれ? 

 

「セシリアさん」

「はい」

 

 通常の倍のサイズであるセシリア専用天蓋付きキングベッド。

 元からあった衝立を外してまで置いた、それはまだいい。セシリアだし、これを置く権利もあるわけだし。

 でもさ………

 

「ベッド一つしかないんだけど」

 

 もう一つのベッドどこ行った? 

 

「………あっ」

「あ、じゃねーよ! さっきまで見たのはまだ許容出来たけどベッドないことに関しては流石に文句言うぞ!? そんなに俺と暮らすの嫌か!? 昨日そこらでこんなベッド仕込むぐらい嫌か!? そういう意思表示か!?」

「違います! これはわたくしが此処に来た当初からあるものですわ」

「はぁ?」

 

 最初からあった? 

 え、それってつまり………

 

「お前、同居人のベッドを削除してまで自分のベッドを、置いたの? お前、なんて横暴で惨いことを………」

「ちょっ、違いますわよ! そんなドン引きしないでくれます!?」

 

 気がつくと俺の足は自動的に後ろに移動していた。

 か、考える前に俺の身体が逃げろと告げている。

 

「いや、引きざるをえない………驚いた、お前自分のパーソナルスペースでこんな独裁政治を引いていたなんて」

「だから違いますってば! 同居人の如月さんがキャンプ同好会の出で、わたくしが困ったときに自分は寝袋のほうがいいと言ってくれましたの!」

「えーー」

「何ですのその顔は!」

 

 そんな上手い話があるかね。

 いや、そうじゃないと今まで同居してはいないか。

 

 色んなとこを見てきて一先ず部屋の構造は理解できた。

 それを踏まえて言わせてもらおう。

 

「魔改造しすぎだろう。原型がない………」

「わたくしに相応しい装いと言ってくださいまし」

 

 相応しすぎるわ。

 セシリアが入れてくれた紅茶を呆れた顔ですすりながら胸中でツッコミを入れる。

 

「つーかさっき言ってた如月さんは良かったとして、俺はどこで寝たらいいんだ?」

「今から実家にワンサイズ小さいベッドを頼みます。近日中に届くと思いますから、そしたら今あるベットを解体して二つに戻します」

「それっていつ?」

「早くて二日」

「マジで俺どこで寝たらいいの?」

 

 一夏の部屋は会長が陣どってて満員。

 俺が前いた部屋は既に引き払われている。

 

「床に布団敷いて寝るしかないか。お前を床に寝させる訳にいかねえもん」

「あの、ベッド大きいから二人で寝るという案は」

「お前それ本気で言ってる? 襲うぞ」

「襲っ! 勿論冗談ですし言ってみただけですから!」

「だろうな。これから一緒に済むんだからそうやって無自覚に煽るようなことすんなよ。俺は一夏みたいに鈍くないし男の子なんだから」

「一夏さんも男の子ですわよ?」

「あいつは自動的に悟りか振り回されルートに行くから除外だ除外」

「ん? 疾風が何を仰りたいのかわかりません」

「サンオイル事変、あの時言った三つの言葉を思い出せ」

「………………!!」

 

 しばし目を閉じた後たちまちトマト色になった。俺も頬が熱いぜ。

 

「じゃあ、そろそろ決めに行くか」

「え、ええ」

 

 頬の熱が冷めぬまま、同居関係となった今、大まかとはいえルールを設定しなければならない。

 

 ここで最近知った豆知識だが、同棲とは婚姻関係のない恋仲の男女が一緒に住むことを言うらしい。

 会長が敢えて同棲と称したのは、恐らく一夏ラバーズに対する発破かけ、もしくは面白がったということだろう。

 つまり俺とセシリアは同居というのが正しい。

 

 閑話休題。

 

「さて、先ずはトイレは必ず鍵をかけること」

「そんな当たり前のことから始めますの?」

「何事も小さいことからだ」

 

 そこから各々の生活スタイルについても話し合った。

 同居するにあたって必要以上に互いのプライベートに干渉し過ぎないこと。

 どうせ短い間の同棲期間なのだ、今後に遺恨を残さないためにもこういうのは大事だ。

 自分にとって些細なことでも相手には重要なことだってあるのだから。

 

「ここ重要だけど。部屋に一人だとはいえラフ過ぎる格好でいないこと。タオルを巻いて歩くなどは論外な。一夏と箒はこれでハプニングった」

「噂だとシャルロットさんともですわ」

「お前だって見たくないだろ、俺のパン一姿」

「疾風はどうですの?」

「お前は俺の答えの何を期待してるんだ?」

 

 さっきからなかなか際どい質問してることに気付いてないのかこいつは。

 

「洗濯は個人で、掃除は交代制」

「それでいいですわ」

「そしてここが一番の重要ポイントだけど………」

 

 ゴクリと溜まった唾を飲み込んだ。

 ここからが勝負だ、ここをクリアしなければ。俺はマジで死に至る! 

 

「自炊は全部俺がやるから、お前はやるなよ」

「むっ、何故ですの。わたくしだって料理は出来ますわ」

「駄目、台所に一人で近づくことも禁ずる」

「さ、流石に横暴ですわよ!」

「これでも譲歩したんだ」

「これでも!?」

 

 これでも。

 

「お前は自分の料理の腕はどうだと思っているんだ?」

「絶品だと太鼓判を押されましたわ!」

 

 F言葉が出そう。

 胸をはって得意気に言ってのけるセシリアを相手にポーカーフェイスを保てている俺、凄い。

 

 いろんな所から聞いたところセシリアのクッキングハザードは留まることを知らない。

 チェルシーさんに聞いたが、オルコット邸の執事とメイドはセシリアクッキングで退職せざるおえない者もいたというのだ。

 もう少しハロルドさんには頑張って欲しかった。どんだけ溺愛してんだって思った。

 

 だがこの負の連鎖は止めねばならない。

 今後のセシリアの為にも、オルコット家当主でありイギリス代表候補生がテロ級の料理音痴だと世間に知られないためにも。セシリアには現実を知ってもらわねばならない。

 

 誰もやらぬなら俺がやってみせる。

 勝手知ったる俺がやらずに誰がやるのか。今こそセシリアの幼馴染みという称号を掲げる時だ。

 

「そこまで言うなら、今日の夕飯はお前が作れ」

「いいでしょう! わたくしの手料理で貴方の舌を唸らせてみせましょう!」

「期待してる」

 

 本当に。

 

 これにて第一回同居会議が終了した。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「出来ました! ローストビーフですわ!」

 

 置かれたのはイギリスの代表的な肉料理、ローストビーフ。

 赤身が残った薄切りの牛肉に、グレービーソースが輝く。

 付け合わせのポテトフライに焼かれたロールパン、そして俺が付け合わせたリーフサラダが今日の夕食だった。

 

 思わず喉が鳴った。鳴ってしまった。

 それほど見た目が完璧だった。

 

「久しぶりに夕食を作りました。如月さんは最初の一回以降自分が作ると聞かなかったので」

 

 でしょうね。

 

「では、召し上がって下さいな」

「お前は食べないのか?」

「料理を作ったものが先に食べるわけにはいきませんわ」

 

 もしかしたら正しいのかもしれないけどセシリアが言うと謎理論に聞こえるな。

 

 如月さんもこう言われて先に食したのだろう。他のものも同文。

 

 だが。

 

「いや、セシリアから食べてくれ」

「でもそういうわけには」

「これからは俺とお前は対等だ。お前のその精神は美徳だが、変に遠慮しあうことはない。ということでお前から食べてみてくれ」

「はぁ、まあそこまで言うならば」

 

 セシリアは慣れた手付きでフォークを動かす。

 その仕草はフォークでローストビーフを刺すという行為にも関わらず精錬された物を感じ取れた。

 

 良い感じに赤身が残る肉、滴るグレービーソース。

 見るものを魅了する極上のA5肉。

 セシリアは口を開き。

 

「あぁ、むっ」

 

 ローストビーフを食した。

 

「………………」

 

 さほど時間が立つことはなく、カランと金属音をたててフォークが皿の上に落ちた。

 

「!! 、!? 、!?!!!?」

 

 形容しがたい表情で口を抑えたセシリア。

 まるで毒物を飲み込んで悶え苦しむサスペンス被害者のようではないか。

 

「ほう、そんなになるほど絶品なのか。じゃあ俺も」

「!? だ、めっ、疾風………っ!」

 

 ローストビーフを一つ刺して躊躇いもなく口に放り込んだ。

 

 ガタタッ!! 

 

 思わず机の端を砕ける勢いで掴んだ。

 全身から脂汗が滲み出る。

 とても人の文字では表現できないようなカオスでデストロイにエクスティンクションな味覚が全身を駆け巡った。

 

 クラッと意識が揺れた。

 このままでは意識を失うと分かった。

 

 だがそれでは駄目だ、まだ俺は………

 倒れるわけには行かない! 

 

 イーグルを準起動。ISの生体保護機能をフルに使って意識の混濁を防ぎ、気絶を回避した。

 

「あなた………んん!!?」

 

 ダッとセシリアが駆け出した。

 トイレの方に向かい、乱雑にドアを閉めた。

 

 俺も耐えきれなくなり、予め用意しておいたビニール袋を………

 

 

 

 

 

 

 

 川のせせらぎのようなBGMが流れたことだろう。

 

 回復まで約一時間を有した俺とセシリアはすっかり冷めてしまった夕食を前に鎮座していた。

 俺の頬はゲッソリと痩けていたが、セシリアはその様子はない。というのも、先程化粧ケースを持って洗面台に行ったのを見かけたが。

 

 席に座ってからもずっと無言で、セシリアは目の前のローストビーフを見つめていた。

 

 正直、今回の料理は賭けだった。

 

 万が一セシリアが味見をして軌道修正をする。億が一余計なアレンジをせずに超絶品の料理を作り上げる。

 そうなればセシリアは自信を増し、これからもわたくしが料理を作りますわという、ディストピアスペースが出来上がってしまう。

 

 だが喜ばしいことにセシリアは裏切ってくれた。

 

 俺はセシリアがローストビーフを作っているところを遠目から見ていた。

 手際も良く、プロ顔負けの効率。夏休みのハッシュドビーフと同じく途中までは良かった。そう、途中まで。

 

 その後がヤバかった。

 照りを出すためにローストビーフには間違っても絶対に入れないような物を多数加え、グレービーソースも以下同文。

 とどめに超高級と称された一振一万の香水、レリエルのナンバーシックスを吹き掛けるという暴挙を行った。

 セシリア本人は、何も疑うことなく。本当に美味しい料理を作ろうとする姿が。なおのことこの料理の悲惨さを物語っていた。

 途中で何度止めに入ろうと思ったことか。

 呪われた右手を持った厨二病患者の気持ちが理解できた。

 

 料理を作っている間。俺はセシリアの同居人である如月キサラさんに電話をしていた。

 如月さんが言うには、彼女も初日にセシリアの手料理を食べたとか。

 見た目が天国級の料理に目を輝かせて食べた途端地獄に落とされてるとは夢にも思わず。

 セシリアには自分が作ったアウトドア飯を食べてもらったお陰で、セシリアは自身の料理について何も知らないで通ったらしい。

 その後はお察しの通り、最もらしい理由をつけて如月さんが自炊を引き受けたそうな。

 

 こうして皆の善意によってセシリアは自分の料理の事実を知ることなく、度々皆に料理を振る舞うという地獄スパイラルがIS学園で形成されたのだった。

 

 誰が悪いとかそういうものではい。

 セシリアの周りが優しさに満ちていた。その優しさゆえ、このような悲劇が起こったのだった。

 

 ふとポケットのスマホが鳴った。

 見てみると一夏からだった。

 つくづく良いタイミングで鳴ると、俺は電話に出た。

 

「もしもし」

「あー疾風。元気か? セシリアと同居だけど、大丈夫か?」

 

 その大丈夫は俺の予想する今の現状を心配してのことだろうか。

 そうだとしたら大正解だ。

 

「丁度良かった、セシリアがお前に用があるから変わるぞ」

 

 ビクッ! とセシリアの肩が跳ねた。

 

「え、なんでセシリア?」

「頼む。これは他の誰でもないセシリアの為なんだ」

「なんだかわからんが。わかった」

「任せたぞ」

 

 セシリアの前にスマホを置いた

 沈んだ表情で画面を見るセシリア。

 

「もしもし? あれもう変わってるのか」

 

 チラッとこっちを見てきた。

 俺は促すように頷いてあげた。

 スマホを手に取り恐る恐る耳にあてた。

 

「………もしもし」

「あ、セシリア。用ってなんだ?」

「その、一つ聞きたいことがありまして」

「おう、なんだ?」

 

 セシリアが自分の唇を噛んだ。

 わかる、今のお前の気持ちわかるぞ。

 ばつの悪いことを親に告白するような気持ちだよな。

 でも言ってみたら案外楽だったってのもあるぞ。

 

「シャルロットさんとラウラさんが転入した時、皆さんで屋上に昼食を食べに行きましたわよね。その時わたくし一夏さんにサンドイッチを出しましたわ」

「あ、ああ。そうですね………」

「どうでした?」

「美味かったぞ!!」

 

 肝心のフレーズでどもらなかった一夏は正しく勇者だった。

 だが料理に関してお花畑だったセシリアはもういない。

 

「一夏さん、ありがとうございます。わたくしの料理を美味しいと言ってくれて。ですが」

「セシリア?」

「正直に申してくださいな。わたくしが作ったサンドイッチ。いいえ、今まで食べてくださったわたくしの料理。如何でしたか」

 

 いつも聞かない暗い声色に流石の一夏も何か気付いたようだ。

 電話越しに生唾を飲んだ一夏は恐る恐るセシリアに聞き返した。

 

「本当にいいんだな?」

「はい、情け容赦なく」

「わかった。セシリア」

「はい」

 

 一夏は今までズルズル引きずった自身の優しさ故に伝えなかったことを伝える為、意を決して言葉を紡ぎ合わせた。

 

「正直言うとな」

「はい」

「この世の物とは思えない代物がチラホラと」

「んんっ!」

「それ以外にも味が予測不能で、それなのに見た目だけは凄いからある種の才能なんじゃないかって思えた」

「ぐっ」

「ぶっちゃけると。料理を冒涜してるって思う時は何回かあった」

「ああっ!!」

 

 セシリアが椅子から崩れ落ちた。

 スマホを落とさずにいたことは彼女の屈強な精神力の賜物だろう。

 

「本当に、申し訳御座いません。今までのわたくしはさぞ滑稽に映ったでしょうね………」

「いや、俺も言おう言おうと思って結局言えなかったのも悪いから」

「良いのです。それが一夏さんの長所であり誇るべきものです。正直に言ってくれてありがとう御座いました………」

「お、おう。まあ頑張れよ。料理を作ってきてくれたこと事態は嬉しかったからな」

「はい」

「じゃあな」

 

 通話、終了。

 床にうちひしがれているセシリアは悲壮感が前面に出されており、正に悲劇のヒロインと言うべき姿だった。

 悲劇のベクトルが少し違うと思うが。

 

「疾風」

「おう」

「一夏さんが私の料理を冒涜だと言ってくださいましたわ」

「だろうな」

 

 一夏も良くそんな言葉をひり出してくれたよ。今頃罪悪感沸いてんじゃないかな。

 そこらへんは会長に任せよう。

 

「なあ。何でお前ってば一回も味見しなかったんだ? 料理作る上での基本だろ?」

「わたくしは国の代表候補生でありファッションモデルも兼任しております。無駄なカロリー摂取しないために味見(間食)はもっての他だと」

「味見程度が間食に含まれる訳ないだろ。バカ」

「あう………」

 

 なんともセシリアらしい理由だった。

 完璧思考もここまで来るとなると逆に欠点だな。

 

「ちょっとチェルシーに電話しますわ」

「おいおい、流石に明日でいいんじゃね」

「いいえ、後回しなど許されませんわ」

 

 セシリアはチェルシーさんに電話をかけた。

 

 10分後。

 

「くはっ」

「セシリア!?」

 

 セシリアは受け身を取らずにバタンとぶっ倒れた。

 

「いやいやおいおい、チェルシーさんは何て言ったんだ」

「………………わたくしの料理は料理ではなく生体兵器だと」

「おおーう」

 

 先程食べた味を思い出して言い得て妙だと納得してしまった………。

 流石チェルシーさん。飛び出る言葉のナイフはレーザーカッターレベルだぜ。

 

「まあ今回でわかったろう。現実というものを」

「ええ、文字通り身に沁みましたわ………」

 

 椅子越しに見下ろす形になったorz状態のセシリアをこの先どうしようかと考えてみる。

 

「まあ最悪のパターンであるお前の味覚障害じゃなかったということだけわかって良かったよ俺は」

「これでも舌は肥えてる方でしてよ」

「そうだね。なのにこれだよ」

「うぅ………」

 

 当たり障りのない言葉で慰めようかと思ったけど更に落ち込ませてしまった。

 いっそのこと徹底的に落ち込ませてみるか。いや幾ら反骨心のあるセシリアでも流石に可哀想だな。

 

「一つ疑問があるのですが」

「なにさ、お前の料理の腕が異次元レベルというのは紛れもない事実だぞ」

「違いますわよ、いえ違いませんけど。そこじゃありませんわよ」

 

 ネガティブモードから回復したセシリアは椅子に座り直した。

 

「何故ローストビーフを食べましたの?」

「何故とはなに?」

「疾風はずっとわたくしが料理してるとこを見てたのでしょう? ならこの料理が劇物レベルだというのは分かっていたでしょう。わたくしに分からせるだけなら貴方が食べる必要などなかったでしょう?」

 

 至極真っ当な意見だ。

 俺がやったことは敢えて無策に死地に飛び込んだようなものだろう。

 たとえセシリアじゃなくても疑問に思うことだ。

 

「そりゃ、お前が食べたんだから俺も食べないと。説得力がないだろ」

「え?」

「俺はまだお前の手料理を食ったことないんだ。それなのにお前の料理がテロ物だっていっても憶測でしかないだろう」

「それならまだ疾風が食べなければならないという説明にはならないでしょう」

 

 確かにそうだ。

 どっちみちセシリアに気付かせるだけならそれで充分だ。

 

「まあなんというか、こうなるって分かったのにお前に食わせてしまった責任というか」

「そんなことを」

「あとあれだ。これから教える立場として現状を知っとかないとね」

「え?」

「ん?」

「教えてくれますの?」

 

 ………あ。

 なんか当たり前に教える気でいてた。

 

「いや、あの。お前だってこのままじゃ嫌だろ? 苦手なものを苦手なままにするのなんて我慢出来ないだろうし」

「も、勿論ですわ!」

 

 セシリアがわたくしはやる気ですというポーズをする。

 その姿がなんだか子供っぽくてなんか可愛かった。

 

「現状がこれだから後は上げていくだけだから。頑張ろう。とりあえずレシピ本片手に俺も教えてやるから」

「は、はい」

 

 これからのセシリアのため。

 そしてなにより俺の見の安全のために。

 

「てことでまあ。今日から宜しく」

 

 手を差し出すと、セシリアは迷いなくその手を取った。

 

「ええ、宜しく」

 

 こうして俺とセシリアの同居生活が始まったのだった。

 

 




 新章突入でございます。
 原作ではチェルシーとの料理を食べ比べての改善でしたが。そんな悠長に構えないのがうちの疾風くんです。
 他の登場人物にくらべて彼は優しくないので(笑)

 今回の章ではISという作品の裏側にメスを入れて行こうと思っております。
 IS二次でもあまり触れずらい場所(勝手に思ってる)に挑戦しようと思ってますので。
 応援宜しくお願いします(o´∀`)oファイト
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