IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第60話【宣戦布告はインパクトが大事】

 

 

 

 全身の力が抜け膝から崩れた。

 

 頭が真っ白になって、ただただ目の前の土煙を網膜に焼き付けるだけの人形になっている。

 

 目をつぶりたいのに瞬きすることもなく土煙が晴れるのを待つ。

 

 見たくない見たくない見たくない。

 それでもそらすことなど出来ずに俺は………

 

「セーーフっ!」

「えっ!?」

 

 黄土色の煙から見知った白と聞きなれた声が聞こえてきた。

 

 白式・雪羅と一夏だった。

 

「菖蒲さん大丈夫か?」

「はい。それより疾風様は」

 

 白式を纏う一夏に覆い被されるように菖蒲が身を縮ましていた。側には先程落ちてきたフェンスがひしゃげて転がっていた。

 

「菖蒲………よかった………」

 

 菖蒲の元に行こうと立とうとしたが、バランスを崩して尻餅をついた。

 

 ふと、尻餅をついた勢いで上を見た。

 丁度落下防止用のフェンスが抜けている場所から。こちらを見下ろす人影が二つ………

 上を見る俺に気付くなり影は引っ込んだ。

 

「大丈夫か疾風」

「あ、ああ。でもなんで」

「寝坊して遅刻しそうになって。ここ近道だから通ろうとしたら二人がいて。挨拶しようと近づいたら上からフェンスが落ちてきたの見えてさ。後はガムシャラにな」

 

 間に合ってよかったと安堵の息を吐く一夏。

 

「しかし不運なんてもんじゃないな。錆びて劣化してたのかな」

「いや違う」

「え?」

「どういうことですか?」

 

 疑問に思う二人に俺はさっき見たことを話した。

 

「それって、人為的に起きたということですか?」

「おそらく。俺を狙ったものだと思う」

「なんだよそれ! そこまでいったらもうイタズラじゃ済まされないだろ!」

 

 一夏の言う通りだ。

 これが人為的だというなら殺人未遂に値する。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 呼鈴が鳴った。

 

「とりあえず教室に行こう。このことはとりあえず内密に。織斑先生と会長には俺から話しておく」

「わかった」

 

 俺達は現場の写真を取ってから、急いでホームルームに向かった。

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

「「………」」

 

 放課後の生徒会室は重苦しい空気で満たされていた。

 会長は不在のまま、俺と一夏は布仏姉妹にことの顛末を話した

 

 のほほんさんでさえショックで言葉も出なかった。

 無理もない。なにせ一歩間違えれば俺と菖蒲は死んでいた。

 いや、俺はISがあるから万が一なんとかなっただろうが。今ISを持ってない菖蒲は防ぎようがない。

 連中はそれを知っていてやったのだろうか。

 

「レーデルハイトくん。本当に人が居たの?」

「はい、二人です。逆光で顔は見れませんでしたが」

「野次馬という線は~?」

「それなら俺と目があった瞬間逃げるように引っ込むか? 野次馬ならそのまま見てるだろう」

「ですがそれでは故意か偶然か判別出来ません。断言するには証拠が少なすぎる」

 

 虚先輩の言うことはもっともだ。

 仮にしらばっくれられたら、追及しきれない。

 

「じゃあこのまま対処しないんですか? 疾風と菖蒲さんは死にかけたんですよ?」

「立証が出来ない以上。今の世の中で攻め立てるのは不可能だ」

「そんな………」

 

 コンコン。

 

「失礼致します」

「どうぞ」

 

 入ってきたのは十数人の女子、って多いな! 

 揃いも揃って俺と一夏を見るなり顔をしかめた。

 

「あなたたちは」

「生徒会長は?」

「今は留守ですよ」

「あなたには聞いてません」

 

 受け答えした一夏を一刀両断。

 

 なんとも偉そうだなこの女

 俺と同じ一年リボンの癖に。

 そういや前喋ってたやつもコイツだったな。一年がリーダー? 

 

「用があるなら俺から会長に伝えときますよ」

「あなたにも聞いてない」

「俺は曲がりなりにも副会長なので。会長がいない間は一応俺が取り仕切るのですが」

「私たちはあなたが副会長だなんて認めてはいません。そもそも何故まだこの学園にいるの」

「俺に言われても困るし。君たちがいくら言っても俺はここから離れるつもりはない」

「あなたたちの存在はこの学園の腫瘍! 現に今生徒たちがあなたたち二人のせいで不安を訴えかけているのが何故わからないの!?」

 

 お前が言うな! 

 と口に出しそうになるところを唇を噛み締めて堪えた。

 一夏なんかもう殴りかかる拳を抑えている。

 

「あなたたちがこの学園から居なくなれば。この騒動は直ぐにおさまる。他の生徒が不快になることを何故考えようとしないの!?」

「………」

「分からないなら私が実行犯の言葉を代弁して上げるわ。あなたが」

「フェンス」

 

 もう我慢の限界などとうに突破していた。

 

「はい?」

「今日、登校していたら頭上からフェンスが落ちてきた。奇跡的に怪我はしなかったけど。一歩間違えたら一緒に居た菖蒲が怪我どころじゃすまされなかった。俺と一夏を攻撃しているであろう女尊男卑主義者は、その守るべき女性が居たにもかかわらず、お構い無しに強行した」

「ふーん。それは気の毒ね───でも自業自得だと思うわ」

 

 ………は? 

 

「男に媚びへつらってるような女だもの。一緒に標的にされるなんて本当に哀れね」

「待ちなさい、言っていいことと悪いことが!」

「でも彼女にとっていい薬になったでしょう。これでその女も自分が間違っていたと目を覚ました筈ですし」

 

 なに言ってんだこいつ。

 

 隣で一夏が詰め寄ろうとしているところを虚先輩が必死に止めている。

 そして喋り続けるリーダー格。

 それに便乗して騒ぎ出す取り巻き。

 

 俺は周りのそれを感じとりながら、目の前のリーダー格に釘つけになった。

 

 フェンス落下には証拠はない。

 

 だからなんだ? 

 

 こいつだ。こいつがそう仕向けたんだ。

 何故かって? 

 そんなのわからないさ。

 

 だけどわかる。わかってしまった。

 目の前の人間の形をしたナニカがやったんだと。

 

 俺の中にある何かのスイッチが押された気がした。

 

「だから何度も言いますが」

「出ていけ」

「は?」

「出ていけと言った」

 

 話続けるリーダー格の女を見据え、静かに言いはなった。

 

「あなた、私の言ったことをわかった上で」

「全然わからない。だからこの問答は無意味だ。今日はここまでだ」

「そういうわけには」

「出ていけ」

「だから」

「何度も言わせるな。お前たちが自分を賢い女性だとうたうなら、今すぐここから出ていけ」

 

 取り巻きはいつの間にか黙っていた。

 その目は虚勢を張りつつ僅かに怯えが見え、俺と目線を合わせられた人は居なかった。

 

「いいでしょう、今回は引きます。先ほど私が言ったこと、その容量のない頭で覚えておきなさい」

 

 捨て台詞を吐いて女性至上一行は生徒会室を出ていった。

 

「………ふぅ」

 

 肺に淀み溜まっていた息を吐き、新鮮な空気を吸い込んだ。

 よくやった疾風・レーデルハイト。ここで手を出すのは得策ではない。

 

「レーちん」

「ん、どうした」

「凄い、怒ってる?」

「わかる?」

「顔見なくても。だって後ろにいても鳥肌立っちゃったもん」

 

 いつもの語尾を伸ばす口調がない。怯えているのだろうか? いや俺が怯えさせたのか。

 

 もう一度深呼吸をし、頬を一回叩いた。

 気持ちを落ち着かせた後、俺は笑顔で振り返った。

 

「ごめんのほほんさん。怖がらせるつもりはなかった」

「うん、大丈夫~」

「虚先輩もありがとうございます。一夏を止めてたでしょ」

「気にしないで」

「ごめん疾風。頭が熱くなって」

「いや、お前が声を荒げてくれたおかげで俺も殴らずにすんだ」

 

 実際声なんて聞こえなかったけどね。

 

「しかし、リーダー格はさっきの女子ですよね。一年でトップって、何者なんですか彼女」

「それは私が答えるわね」

「え、会長?」

 

 周りを見ても会長はいない。机の下? 生徒会長席の中を見てもいなかった。

 もしかしてここ? と一夏が衣装タンスの扉を開けると。

 

「よく見つけたわね」

「何してるんですか楯無さん」

「いつから居たんです」

「最初からよ。あの人たち来るって知ってたから私がいなかったらどんな反応するかなって思ったけど。あんま変わんなかったわね……」

 

 珍しいシリアス顔の会長だが、衣装タンスから出てきてるせいでなんか締まらない。

 会長も自覚してるのかばつの悪そうな顔で続けることにした。

 

「名前は安城敬華(あんじょう けいか)、一年四組の生徒よ。彼女はね、日本女性権利団体の会長の娘なの」

「なるほど、合点が行きました」

 

 それなら一年で先輩がいるのにもかかわらず女尊男卑グループを牛耳っている理由がつく。

 

「女性の為の会を作り上げたのもあの娘なのよ」

「そうなんですか」

「それよりもなんなんだよあいつは! まるで自分たちは無関係ですって言っときながら私がやりましたって言ってるようなこと言いやがって!」

「罰せられないって自信があるんだ。今の世の中、決定的証拠がない限り女性は裁くことは難しい」

 

 そして、それに反して男性の冤罪率は高い。考えるだけで胸糞が悪い。

 

「それについてなんだけど。疾風くんと一夏くんに謝っておかなければならないことがあるの」

「なんです?」

「今回のフェンス落下事件。疾風くんの言う通り事故ではない。彼女たち女性の為の会が差し向けたものよ」

「えっ!?」

「会長、俺が言うのも何ですが。なんでそんなハッキリと」

「実はね。女性の為の会には更識の息がかかった者を忍ばせてるの。結成当初からね。だから今回起きることはわかっていたわ。私はそれをわかった上で黙認していたの」

「そんな」

「勿論対処はした。その為に一夏くんには私が、疾風くんにはラウラちゃんを近くに待機させていたわ」

 

 ラウラが近くに? 気づかなかった。

 流石はドイツが誇る黒兎隊の隊長というべきか。スニーキングもお手のものということか。

 

「そして、こんなものが生徒会宛に送られてきたわ」

 

 会長が取り出したのはA4サイズの紙。

 そこには今回の事件を仄めかす物。そしてこれ以上俺と一夏が学園に居続ければ、俺と仲良くしている誰かがまた犠牲になるということが書かれていた。

 紛れもなく脅迫文だ。

 

「どうしてそんな危険をおかしてまで放置したんですか。会長、女性の為の会には何があるんです? そこまでする何かがあるんですか?」

 

 そうでなければここまで会長が静観するということがわからない。

 俺達が知らない何かを、会長が知ってるとしか思えなかった。

 

「安城敬華は、亡国機業(ファントム・タスク)と繋がってる可能性があるの」

「なっ」

「マジか」

 

 あのリーダー格、安城が亡国機業と繋がっている。

 もしそれが本当なら、奴が亡国機業のテロのことを知っていることも説明がつく。

 

「決定的な証拠はまだだけど。巻紙礼子、亡国機業のオータムを学園祭に招待したのは彼女だと思う」

「つまり、彼女は亡国機業のスパイ?」

「の可能性がある」

「確定ではないと?」

「残念ながらね。彼女のIS技能は普通。構成員ではなく諜報員、もしくは組織との橋渡し役なのか」

 

 だがどれも確実ではない。

 亡国機業が絡む以上、この案件は思った以上にデリケートだ。

 日本を守護する家系の筆頭である更識楯無としては、たとえ証拠があろうと迂闊に切り込むことも出来ないのだろう。

 

 だが。

 

「会長、亡国機業の情報が不十分な以上、それを切り口に彼女を告発するのは出来ない。と言いましたね?」

「ええ」

「だけど、今先に解決すべきことは。亡国機業ではなく、IS学園の根底にある女尊男卑の見解です。亡国機業のことも大事です、無視できない案件です。だけどこうして停滞してる間に無関係の友達が傷つくのは。我慢出来ません!」

 

 奴らは本気だ。本気で俺達を排除しようとしている。

 あわよくば、俺達の命を奪う勢いで。

 

「じゃあ、今日のフェンス落下の情報を武器に女性の為の会を追い込むのか?」

「ああ。だけどそれだけじゃ駄目だ。今回のことで潰しても、また別のやり方で俺たちに危害を加えてくる。学園の流れがあっちに傾いている以上、あいつらは止まらない」

「ならどうすれば」

「疾風くん、何か考えがあるのね?」

 

 会長の質問に俺は頷いた。

 

「正直、ここまで大人しくしてました。だけどそれで連中が引き下がらないというのなら、少々乱暴に行きましょう。男らしく、ね」

 

 会長以外が息を飲んだ。

 ああ、また俺ヤバい顔になってんのかな………

 

 でももう止まらない、止める気もない。

 もう我慢する必要などないだろう? 

 

 大丈夫、あの時(・・・)と同じだ。

 

「任せていいのかしら?」

「ええ、最高に楽しくやってみせますよ」

「疾風」

「一夏、お前にも頑張ってもらうぞ」

「ああ、なんだって言ってくれ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 フェンス事件の翌日。

 SHRで伝えられた緊急の全校集会に集められた女子の話し声は小さくも響き、途切れることを知らなかった。

 

「いきなりどうしたんだろうね」

「やっぱり最近学園で出回ってるやつじゃない?」

「いつまでやるのかな」

「あの2人がいなくなったら収まるんじゃない?」

「ちょっと、そんなハッキリ言わなくても」

「だってそうじゃん、もしかしたら私たちも巻き添えくらうかもしれないんだよ?」

 

 所々から一夏と疾風を非難し始めていく。

 それは生徒の不安に入り込み、水に足らされた絵の具の用に広がっていく。

 

 人は目の前の噂に飛び付く。

 文面でしか理解せず、その裏側や奥を見ようともしない。

 人は不安になると何かにすがり付かずにいられなくなる。何かを掴めば、それを安息の地として収まるからだ。

 

(地盤は固まりつつあるわね)

 

 ざわめく女子の中で、女性の為の会リーダーである安城敬華はほくそ笑んだ。

 

(昨日の牽制と脅迫文は見事効果を為した。私たち女性がどれだけ本気だったのかようやく理解してもらえたようね)

 

 様々な陰湿なイジメ、フェイクニュース。色々手段を講じても彼らに対したダメージを与えることは出来なかった。

 

 偽告白は完全に悪手だったと思っている。

 まさか疾風に告白した女が軽く男性恐怖症になり、翌日一夏を通して謝りに行こうとした時は此方の差し金だと気付かれることを阻止するために本気のカウンセリングをしなければならないとは思わなかったが。

 

 埒が明かないと考えた敬華たちは、ついに直接危害を加えるということにシフト。

 勿論最初は寸止めのつもりだったが、フェンスを外すのに手間取って直撃コースになってしまったのは予想外。だが結果的に状況は大きく動いた。

 

 敬華たちの言い分を歯牙にもかけなかった楯無がついに動いた。

 ようやく重い腰を上げた。良くて男子2人の退学、悪くても男子に対して何かしらの制約がかかることだろうと。

 

 脅しの文は本気だ。

 もしも一夏と疾風がこの学園から去らなければ、その周りに危害を加える。

 敬華ら女尊男卑主義者(ミサンドリー)からすれば、彼らと仲の良い女子は男に平気で媚びをうる尻軽に過ぎない。

 そんなの今の女性の正しい在り方ではない、それに気付かせることも女性の為の会の使命なのだと考えている。

 

(愚かな考えをただし、今の社会に胸を張れる女性に矯正する。これは救済なのだから)

 

 その為にこの神聖なる学園から追い出す。

 その思いが今、実ろうとしている。

 敬華たち女性の為の会メンバーはそれを疑わずにいまかいまかと全校集会の始まりを待ちわびていた。

 

「それでは生徒会長、よろしくお願いします」

 

 生徒会会計である虚に促され、更識楯無が壇上に上がった。

 

「みんな、おはよう。今日は集まってくれてありがとう」

 

 楯無はいつもと変わらない笑みを浮かべてみんなに挨拶するが。生徒の反応はいつもより収めだった。

 

「さて、今回の議題はみんなが予想してる通り校内で起こっている反男子運動よ。それについて生徒会からお知らせがあります」

(来たっ!)

 

 敬華は顔に出ないように下唇を噛んで耐えた。だが目は水を得た魚、鯉の滝登りで竜になったかのように輝いていた。

 

「それでは副会長、宜しくね?」

「は?」

 

 そして呆気に取られた。 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 壇上に上がると、色んな視線を感じた。

 

 困惑、期待、疑問、そして嫌悪、侮蔑。

 

 誰がどんな視線をしてるか、一人一人注意して見ればわかるが。始めてこの場所にたった時よりは格段に居心地は悪いということは明白。

 

 だが不思議と悪い気はしなかった。

 

 ふと、一人の生徒と目があった。

 金髪のブロンドに青のヘッドドレス。宝石のように蒼い瞳は俺を捕らえて離さなかった。

 

 あいつどんな顔するかなー。なんかやらかすんじゃって思ってるのかなー。

 

 まあするんですけどね。

 

「皆さんおはようございます。行きなりですが今回の一連の犯人は女性の為の会という女尊男卑思考の女子グループによる犯行です」

 

 あまりにも、あまりにもサラッと言った内容に体育館はシーンと静まり返った。

 うわ、静寂。

 

「もう一度言います。今回の一連の犯行は女尊男卑を掲げる女性の為の会の犯行です」

「え、それ本当に?」

「ちょっと! 何をでたらめなことを!」

「私まえからあそこ胡散臭いとことは思ってたんだけどねー」

「嘘だっ!」

 

 口々に言ってくれる生徒たち。

 とても良い反応をくれるもんだから口許が緩みかける。

 

「今から一週間前に始まった反男子運動。俺と織斑一夏はこれに関して当初はスルーしたり上手く受け流したりして居ましたが。彼女らは業を煮やしたのでしょう。昨日の朝の登校で、俺と一年二組の徳川菖蒲さんの上からフェンスが落下してきました」

「え!?」

「それって……」

「今から見せるのは、この時間一髪で助けてくれた。織斑くんの白式のログから取り出したものです」

 

 ホロコンソールを操作し、後ろのスクリーンに動画が流れる。

 そこにはその時の惨状と臨場感が伝わる良くできたログだった。

 

 本当に間一髪だったんだな。

 近くにラウラが居たみたいだけど………この一瞬じゃわからないな。

 

 動画を落ちてきたフェンスの画像に変えてマイクを手に取った。

 

「そして放課後。差出人不明の脅迫状が届きました。内容を読み上げます──神聖な学園にこびりつく蛆虫、疾風・レーデルハイトと織斑一夏に勧告する。今朝のフェンスは警告だ。即刻IS学園から退去せよ、さもなくばお前たちの周りで媚を売る友人に危害を加える。これは最後通告である。足りない頭でよーく考えることだ──だそうです。ハハ、酷い言われようですね………ほんとうふざけてる」

 

 ビリッ! 

 

 唐突に、俺は脅迫文を二つに裂いた。

 生徒が困惑するなか、脅迫文を四つ、八つと、紙を裂き続ける音がマイクを通してASMRのように流れる。

 

「滑稽過ぎて笑っちまいそうです」

 

 それを眼前に放り投げた。

 紙吹雪とかした脅迫文がヒラヒラと床に降り積もっていく。

 

「俺たちは我慢しました。過剰に反応すれば相手を喜ばせるだけだと。再発防止のために色々頑張って、収まるのを待つのが得策だと信じて来ましたが。ええ、ええ、甘かったと自覚していますよ、本当に甘過ぎた」

 

 目元を抑えた。視界の裏には昨日の喪失感と無力感、絶望感が鮮明に写し出される。

 いっそのことこの映像を現像できればと思うほど。

 

 深呼吸をし、目に確かな意思を持ち。この場にいる全員に言葉で殴り付けた。

 

「いまここに生徒会は宣言します! 生徒会はあらゆる手段を持って! この学園に根付く女尊男卑の弊害、女性の為の会の解体、打倒を宣言する!」

 

 俺の宣言に一気に生徒はどよめいた。

 一部教師も驚きを隠せず織斑先生でさえ腕をくむ手を強めた。

 

「全生徒に問います! 今この世に男性が2人、ISに乗れるという現状に関わらず女性がまだ強いという風習が消えない。その要因は操縦者の絶対数に他ならない。数の利では圧倒的に男は不利だ。俺たちがいくら叫んだところで、世界は愚か、この学園の誰も見向きはしない! 今の学園の根底を覆すことなど出来はしないでしょう。ならば覆す! その固定概念を俺たち生徒会が踏破する!」

 

 バックスクリーンの画面が代わる。

 

「そこで生徒会は女性の為の会に、異種多人数チームIS戦の挑戦を申し付ける!!」

 

 スクリーンには俺と一夏、布仏姉妹の四名の写真。そしてその下にVSと区切られて、女性の為の会、12人と書かれていた。

 

「こちらは更識楯無を覗いた4人! 対する女性チームは12人。戦力比3倍という異色のISバトルです!」

「4対12って、そんな戦力差」

「いくら専用機があるからってそんな無茶を」

「本気で言ってるの?」

 

 端から見たらあまりにも、無茶が過ぎる発言に生徒は困惑を隠せない。

 

「もしこちらが勝利すれば、女性の為の会は解体する。我々もただ黙っていたわけではない。今日のような日に備えて。女性の為の会を失墜させれるだけの証拠が此方にはある!」

「なっ!?」

「だが俺たちは敢えて公表はしない。仮に女性の為の会を正攻法で解体したからと言って、また第二第三の組織が生まれ、また繰り返すでしょう。その為の異種多人数チームIS戦! この圧倒的戦力差に勝利し、女性の為の会の優位性をことごとく粉砕する!」

「「おおーーー!!」」

 

 生徒の熱声が体育館を震わす。

 生徒は怒涛の展開に見事飲み込まれた。

 校内に漂っていた男性に否定的だった流れが、たちまち生徒会(ヒーロー)女性の為の会(ヴィラン)という流れに傾いていった。

 

「さて。何か言いたいことはありますか? 女性の為の会リーダー、一年四組の安城敬華さん」

 

 熱狂が静まり一人の生徒、安城敬華が壇上に誘導された。

 彼女は動揺を隠し、冷静を装って俺と対峙した。

 俺は笑顔でどうぞと発言を促すと、昨日と変わらない丁寧語で話し始める。

 

「随分と妄言を並べられたものですね」

 

 妄言か。よくもまあこの空気で折れずに居てくれたものだな。

 そうじゃないと張り合いがなさすぎるけど。

 

「妄言かどうかはあなたたちが一番知ってるでしょうに」

「ええだからこういうわ。全て生徒会の空想よ」

「敢えて言ってないんだけど」

「口ではなんとでも言えるわ。我々はいたってクリーンな集まり。世の女性をより正しく導く為に日々努力を」

「アハハハハハハハ!!」

 

 突然声を上げて笑いだした俺に流石の安城もビクっと後退りした。

 

「な、なに!?」

「いやいや失礼。余りにも的外れな発言をさも当然のように言うものですから」

「なんですって? 我々の崇高な理想を」

「崇高な理想? 馬鹿も休み休みに言え。お前たちの理想に正しさがあると? ふざけるな。なんの罪のない男性をことごとく冤罪に持ち込み、ISを動かしてもいないにも関わらず暴君のように振る舞うミサンドリーの、何処に正しさがある!!」

 

 こいつらは紛れもなく異常者だ

 間違った倫理をさも当然のように振りかざす、理不尽に糾弾する。罪悪の欠片すら持たない女尊男卑(ミサンドリー)の権化。

 

「もう一度言う。俺たち生徒会の申し出を受ける気はあるか」

「断る。こんな遊びに付き合うほど暇じゃない」

「この戦力差で負ける自信があると?」

「愚問ね。そんなことは万にひとつもあり得ない。わからないなら言って上げるわ。ハッキリ言って、これを受けるメリットがない」

 

 確かにこれでは一方的に条件を提示しただけだ。安城の言うように、メリットはこちらしかない。

 今現在では。

 

「ならそちらが一番に望む報酬提示しよう」

「報酬?」

「ああ、お前たち、いやお前が一番に望むものだ」

「………っ! お前まさか」

 

 気づいた彼女の言葉を遮るように、再び眼下の生徒に向き合い高らかに宣言した。

 

「この勝負に生徒会が敗北した場合。疾風・レーデルハイトと織斑一夏は、IS学園から自主退学することを、この場にいる全ての人に宣言します!」

 

 笑顔で言い放つには衝撃過ぎる宣言に。全生徒は余すことなく絶句した。

 

「勿論一夏も了承済みだ。俺たちが負けた場合はお前たちに対する発言を全て撤回する。俺と一夏がいなくなれば、お前たちはこれ以上行動を起こす意味もなくなるからな」

「本気なの?」

「ああ、これが俺たちの覚悟だ」

「………」

「覚悟しろ」

 

 俺はマイクの電源を一時的に落とした。

 

「化けの皮を剥がしてやる。テロリストめ」

「っ!!」

 

 安城の顔が少し老けた。

 良い顔。これを見れただけでも成果はあったな。

 

「勝負は一週間後! 放課後の第一アリーナにて執り行います! 女性の為の会メンバーは明日までにエントリーする人物をピックアップして生徒会に提出してください。練習機を他のアリーナから運ぶのにも手続きがいりますからお早めに。生徒会からは以上です。皆さん、ご清聴ありがとうございました」

 

 演説が終わり。壇上から降りた。

 

 10年続くIS学園の歴史に。間違いなく刻まれた瞬間だった。

 

 

 

 

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