IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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 いつも誤字報告ありがとうございます。


第65話【ノット・オーバー・ヤット】

 IS学園の地下区画。

 その更に奥にある地下特別区画の解析室。

 ホログラムの光に照らされた薄暗い部屋で山田真耶は木っ端微塵になった無人IS、もといゴーレムⅡの解析を行っていた。

 

 せわしなくコンソールを操作する横でマグカップが置かれた。

 

「織斑先生」

「一息入れろ。インスタントで悪いがな」

「いえいえ。頂きます」

 

 千冬はコーヒーを冷ます真耶の横でスクラップを越えて鉄屑となったゴーレムⅡを眺めながらコーヒーを一口飲んだ。

 

「派手に壊したな」

「ええ。清々しい程に」

「レーデルハイトのやつ。もしかしたらコアを壊したんじゃないかってあのあと顔面蒼白で詰め寄ってきたぞ」

「あらあら。アリーナでは凄くイキイキしていましたのに」

「ああ。昔のお前を思い出すな」

「な、ななななんのことでしょぉ。あーコーヒー美味しいアチチチ」

 

 普段以上の慌てっぷりを必死に隠すためにゴクゴクとコーヒーを飲み干した。アツアツのを。

 

「の、喉が熱暴走してます」

「フッ。で、解析は出来たのか?」

「ンフンッ。コアは破損していて断片的なデータしか取れませんでしたが。やはり未登録のコアでした」

「そうか」

 

 驚くこともなく千冬は黙ってモニターを見る。

 

「それ以外は」

「いえ、まだそこまでは」

「気にするな。コアが無事だろうが破損してようが。情報なんて抜き取れるもんじゃない。むしろ壊れていて良かった」

 

 そんな尻尾を出すような奴ではないしな、と千冬は頭の中で陽気に笑う兎女を追い出した。

 

「………」

「どうした?」

「織斑先生は今回の首謀者をご存知なのですか?」

「なぜそう思う」

「それは、その………織斑先生が現状を見ても落ち着いてるといいますか………落ち着きすぎてるといいますか………」

「私が焦れば他の奴らも焦るだろう」

「………もしかして。前回と今回の無人機を仕掛けたのは………」

「そこまでにしておけ真耶」

 

 真耶の見解を千冬が制した。叱るのでもなく、諭すように言ってきた千冬に摩耶も口をつぐんだ。

 

「私もな、確信はしても確証はないのさ。確証のないことは無闇に言うべきじゃない」

「すいません」

「いや、私こそすまない。色々苦労をかける」

「いいですよそんな。此処に赴任した時から覚悟はしてますから」

「ありがとう」

 

 この場所は限られた数名しか詳細を知らない。

 そんな限られた機密を共有するパートナーに千冬は真耶を選んだのだ。

 

「しかし。どうなるんでしょうね。学園の女尊男卑問題は」

「今回のことは生徒会に任せている。レーデルハイトのことだ。また何かしら策をたてるだろう」

「あの若さで策士ですか。凄いですね」

「ああ………一体何を持ってああなったのだろうな」

 

 千冬は少し温くなったコーヒーを飲み干した。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「無効試合よ」

「はぁ!?」

 

 場所は夕焼けのオレンジに染まった生徒会。

 女性の為の会リーダー安城敬華の言葉に思わず反感を隠せない一夏は困惑する。

 

「まあそうだね」

「疾風!?」

 

 対して安城とテーブルを挟んで対面してる俺はあっさりとそれを認め。一夏はまたも声をあげた。

 

「なっ」

「いやいやなんでそっちが驚いてるの」

「随分と素直に認めるのね」

「ぶっちゃけテンプレート過ぎて怒りも笑いもしないって感じ」

 

 こっちがどう言ったところで絶対に敗けを認めはしない。

 こっちが事後処理に忙しいところにわざわざ押し掛けてきたんだからなおのこと。

 

「まあ俺たちが勝敗論議したところで、他の生徒から見たらどっちが勝ったかなんて明白でしょ。サッカーでいうならこっちは11点とオウンゴール、そっちは無得点なんだから」

「だけど私たちは再戦を欲求するわ。このまま終わりなんて納得がいかない!」

「そうだよねー。勝手に乱入者を味方と勘違いしたあげく蜂の巣にされたら面目丸潰れだもんね」

「っ!!?」

 

 かぁーっと安城の顔が赤くなった。

 

 あーいい顔。たまんないね。

 おっとまたいけない笑顔になってる。

 自制自制。

 

「再戦ね。生憎もう異種多人数戦は出来ないぞ。今回は特例中の特例なんだから」

「それなら4体4で仕切り直しをすればいい」

「三倍の数で大敗したのに?」

「だ、黙れ! いいから再戦を受けなさい!」

「うん、お断り」

「なっ!?」

 

 いやなっ!? じゃなくてね。

 

「もう生徒会の目標は達せられた。これ以上やってもメリットはない」

「逃げるというの」

「うん、勝ち逃げするのも手かなーって」

「私たちは負けてない!!」

「今回の試合の作戦をたてた疾風・レーデルハイト。かつて織斑千冬が扱った零落白夜を見事使いこなし、敵の大半を落とした織斑一夏。更に突如襲来してきた正体不明のISを男性操縦者のみで倒した。結果はご覧の通り、さて生徒はどちらが勝ったと認識するだろうね?」

 

 あの試合が終わったあと生徒の間で生徒会、そして俺と一夏の評価は爆上がりした。明らかに無謀な戦いを見事制した。

 この活躍は学園の全てが目撃し、学園内の風潮は早くも変わりつつある

 

 まあこっちは結構ホーム的な策略で相手を四面楚歌状態にしたから素直に称賛受けるとむず痒くなるけど。

 

 現にそれに焦りを感じた安城が事後処理の真っ最中の生徒会に単独で来る始末だ。

 

「勝負は無効。並びに俺と一夏の自主退学の話も無しになった。俺たち生徒会はこれ以上続ける気はない」

「だから再戦するって言ってるでしょ!?」

「あ、因みにお前たちの告発は予定どおり行うから宜しくね?」

「はぁっ!? そんな横暴が通ると思ってるの!?」

 

 頼むからお前たちが「横暴」なんて言葉を使わないでくれよ。また笑っちまうだろうが。

 

「覚えてないのか? 緊急生徒集会でも言った通り、生徒会はお前たち女性の為の会を壊滅に追いやる証拠を持ってるがあえて異種多人数ISに持ち込んだ。こちらの目的が達せられた以上、わざわざ引き伸ばす道理なんかないだろ。こっちははなからお前たちの存在を認めてない。お前たちは境界線を踏み越えた。報いは受けるべき者に受けるべきだろう。ですよね会長?」

「ええ、その通りよ。フェンス落下実行犯の加藤百合子は退学ののちに警察に引き渡します」

 

 会長が出したホロスクリーンには加藤百合子がフェンスを外してる様子と彼女の顔がバッチリと写っていた。

 ここまで証拠があるなら言い逃れなど出来る訳がない

 

「そこからは芋づる式。生徒会は女性の為の会の解体に乗り出すわ」

「だそうだ」

「………………」

 

 安城はもう反論出来る気力はなかった。近いうちに来る未来にカタカタと身体を震わせ、顔を青くすることしか出来なかった。

 

「まあ俺も残念だよ。正直無効試合になったから不完全燃焼だし」

「……………」

「だから取引しないか?」

「え?」

「一週間後に中期クラス対抗戦がある。それにお前も出ろ。俺も一組代表として出る」

「クラス代表は一年間変えれないはずじゃ」

「学年責任者の織斑先生から特例として、クラス対抗戦のみ変更という許可は貰った。四組のクラス代表の更識簪も快諾してくれたよ」

 

 特例措置の書類を安城は隅々まで確認する。 

 

「1対1をするというの?」

「その通り。タイマンでやるなら実力のある方が勝つ。お前が俺みたいな男より優れてるっていうなら勝てる戦いだよな?」

「そ、それは」

「あれ、もしかして専用機がないから勝てるわけないなんて言うの? へー、優秀な女性は負ける理由を予め用意してるんだ」

「そんなわけないじゃない!!」

「それは良かった。なら出てくれるよな?」

「っ!」

 

 圧倒的営業スマイルを前に安城は自分の顔に「しまった!」と書いた。

 勿論ボイスレコーダーには記録済み。吐いた言葉は今さら戻らない。

 

「勝負の報酬はこちらが勝てばお前たちを強制的に解体、お前たちがしてきた事を明るみに晒す。あ、名前を出すのは今回の一連の事件に大きく関わってる奴らだけだから」

 

 現に今回の張り紙やら嫌がらせに関わっていない生徒も少数居るし。更識の間者への被害も最小限にしたいからな。

 

「逆に俺が負ければこれ以上事を荒立てない限り女性の為の会の解体には乗り出さないということを生徒会は約束しよう。その紙はそれに対する契約書だ。書けるよな? これ以上の譲歩案はないと思うけど」

「な、なんで」

「ん?」

「なんで態々」

「お情けだよ」

 

 安城の目が開かれて俺を見た。

 次第にその瞳は怒りの色を滲ませていった。

 

「意味、わかるよな。お前たちが下等生物と蔑む男がわざわざ上位存在であるお前ら女に救いの手を差し伸べる。お前のような女尊男卑主義者にとって、これ以上の屈辱はないだろう? 言わなくてもわかるだろうけど。クラス対抗戦までに妙な真似したら即解体に持ち込む。契約も破棄だ。わかったらさっさと契約書にサインしろ」

「くっ!」

 

 ギリリと歯ぎしりするほど歯を噛みしめる安城。

 俺が目の前で契約書にサインをすると、他に道はないと理解した彼女は自分の名前と学年を契約書に書き出した。

 

「なあ安城。今どんな気分だ?」

「え?」

「逃げ場のない八方塞がり。自分に降りかかるであろう罰。そして周りから非難の眼差しを受けながら生きていくという不安。全部お前たちの被害にあった男が感じたことだ」

 

 トーンの低い声にビクッと震えた安城の目を真っ直ぐ捉えた。

 その目には先程のおちゃらけた様子とは打って変わり、蔑むような冷酷な視線だった。

 

「その身にしかと感じろ。全部お前たちがやったことだ」

「………」

「契約書もらうね。会長、確認を」

「はい、確かに受理しました」

 

 生徒会長の判子が押される。後は織斑先生の判が押されれば契約成立だ。

 

「安城さん、もういいわよ。くれぐれも大人しくしていてね」

「…はい。失礼します」

 

 もはや否定する気力もなく、安城は生徒会室から退室した。

 

「…こんな感じで良かったですか」

「ええ、ばっちりよ。特に最後が良かったわ。これで彼女は更に追い詰められた筈」

「尻尾、出しますかね」

「異種多人数バトルの時は慢心して自分たちが負けるイメージなんてまったくなかったわ。でも今回は違う。いまの彼女は後のない負ければ終わりという崖っぷちの状況。必ずボロを出す、又は動いてくる」

「いよいよ締めって訳ですね」

 

 学園の根底改革は上手くいった。

 あとはもうひと押し。

 

「頼むわよ疾風くん。責任重大よ」

「ええ。万にひとつも油断はしませんよ」

 

 負けても失うものは無くなったが、それでも負ければせっかく構築した男性理解の波を崩すことになる。

 それを差し引いても、負けてやるつもりは更々ない。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「じゃあ俺たちこっちだから」

「一応だけど、道中気をつけてね」

「了解です。じゃあまた明日」

 

 会議の後に事後処理をしたが結構な量で外はもう暗くなってしまった。

 

「腹減った」

 

 セシリアには遅くなるって伝えてるからそっちはいいとして。俺はどうしようか。卵とベーコンあったからそれ焼いて食パンと合わせればいっか。

 

「ん?」

 

 部屋に戻ると、なんかリビングの方から良い匂いが。

 

「ただいまさーん」

「あ、おかえりなさい」

 

 キッチン(ここもセシリアが改造済み)を見ると、セシリアがエプロンをつけて料理をしていた。

 料理をしている!? 

 

「な、何をしてるのですかセシリアさん」

「夕御飯を作っていますが」

「一人でか? 大丈夫か? 味は」

「大丈夫ですわよ! ちゃんと味見をしていますから」

 

 ああ、そう。それなら安心か? 

 

「しかしなんでまた一人で?」

「疾風もお疲れでしょうし。そんな人に付きっきりで料理の手伝いを頼むなんて酷かなと」

「成る程」

「それに昼間のことのお詫びといいますか」

 

 昼間? 

 ああ、あれか。

 

「別に気にしてない。あれのお陰で勝てたんだから」

「でもその。思い返すと疾風の言う通りちょっと情緒不安定だったかなって」

「しおらしいお前なんて珍しい」

「ううっ」

「いやなんか言い返してくれよ」

 

 張り合いがなくて調子狂う。

 

「お前って男に対して理想抱きがちだよな」

「男も強くあれ、男こそ強くあれと思ってますから」

 

 セシリアの父さんが妻に対して萎縮してるのを側で見ているセシリアは軟弱、臆病な男に嫌悪感を持っている。

 あの時負け腰だった俺を見てそれを思い出したのだろう。

 

「それと。負けたら疾風がIS学園から居なくなると思ってしまって」

「あのゴーレムは女性の為の会とは無関係だぞ」

「ええ、だから気が動転していました。らしくありませんでしたわ」

 

 ふむ、不意にそう考えてしまうほど俺が居なくなるのは嫌だったという解釈で良いのだろうか。

 指摘したら凄い誤魔化しそうだから言わんけど。

 

 とりあえずセシリアの叱責のお陰で大勝したといっても言い。

 結局セシリアに背中を押される形になったんだな。うーん、最後の最後でセシリア離れが出来てない気がする。

 

「まあこれからはお前のお眼鏡に合うような強い男になれるように頑張りますよ」

「ええ、そうして下さいな」

「ん。もう出来たか? 皿運ぶわ」

 

 今日の献立はスコッチエッグとコンソメスープにサラダ。あと何故か赤キムチ。

 

「見た目は美味しそう」

「味も美味しいですっ。いただきます」

「いただきまーす」

 

 スコッチエッグにトマトソースをかけてパクリ。

 

「んんっ? こぼれる!」

「あらあら大丈夫ですの?」

 

 すんでのところでご飯の上に避難した。

 噛んだ瞬間中から濃厚な黄身がジュワっと溢れだした。とっさのことだったので反応できなかった。

 肉もちゃんと火が通っていて、スパイスが入っているがしつこくなくちょうど良い案配だった。

 要するに、凄い美味しい。

 

「学園祭の時のレシピを一夏さんから貰って。半熟のスコッチエッグの作り方もそこから」

「……すまんティッシュ取って」

「はいどうぞ………何故泣くのです?」

「成長したなぁって。俺の教育の賜物だな」

「その通りですけど。改めて言われるとムカつきますね」

 

 そこは弁明出来んよ。

 まあ成長したからといって極力一人での料理はしばらく控えて貰うとありがたい。どんな化学反応が起きるかわからんから。

 

「あ、そうだ。明日噂になるだろうから今言うけど。俺と一夏の退学は取り消しになったから」

「本当ですの!?」

「うん。安城が色々言ってきたけど結局無効試合ってことになった」

「そうですか。良かった」

 

 胸に手を当てて安堵するセシリアの姿に思わず胸がじわっとなった。

 ん? なぜこんな感情に? 

 いや、心配してくれたの嬉しかったからでしょ素直に。

 

「それで、女性の為の会はどうなりますの?」

「こっちが負けてないから手出ししないって話も無効になったから予定どおり動きますって話になってな」

「まあそうですわね」

「だけどあえて蹴って次に繋いだ」

「次?」

「中期クラス対抗戦で女性の為の会の待遇をかけて俺とバトルすることになった」

「え、ですがクラス代表は一年の任期では?」

「今回だけ特例として許可された。因みにブリュンヒルデ印の特注品」

 

 ブリュンヒルデってすげーわ。

 この名前出せばあいつら大抵のことは止まってくれるもん。

 

「何故そんな回りくどいことをするのです? 物証があるのなら早急に解体すれば宜しいのではなくて?」

「うーん。その事についてはあまり詳しく言えないんだよね。生徒会の考え的に」

「そうですか」

「でも俺と一夏の退学は関係ないから幾分か気楽だよ」

 

 あ、後でクラスと専用機LINEに退学の話なくなったこと伝えとかなきゃ。一夏あたりがやってくれてたら助けるけど。

 

「しかし彼女も不運ですわね。疾風との1対1の対戦なんて。勝算があると思ってるのでしょうか」

「そんなの関係なしにゴリ押しで契約書に判を押させたからなぁ、そこは知らん。あいつ震えながら書いてたよ」

「うわ」

「引くなよ。これも必要なことなんだから」

「本音は」

「至極の愉悦」

「うわぁ」

 

 引かないで。

 いや抑えるなんて無理だよ。待ちに待ちわびた待望の瞬間だぜ? 

 明日は実行犯の加藤を警察に受け渡すところに付き添うけど。それはそれ、これはこれ。

 

「俺の退学がかかってなくても本気でボッコボコにしてやるさ。全校生徒の前で恥をかかせた上で学園から追い出してやる」

「因果応報とはいえ散々ですわね。同情はしませんが」

「まあ一週間後までお待ちをってな」

 

 そういえばフェンス落下事件の前まで一番怒り心頭だったのはセシリアだったな。

 彼女の心情を鑑みるに今すぐにでも現況を潰したいんだろうけど。

 

 それまでは我慢して貰おう。

 

「話変わるけど。俺の情報レベル制限がCまで解除されたって会長が言ってた」

「あ、やっとですか」

「今回無人機が襲撃して俺が対応に回ったから、前回の無人機戦のこと見とけって。あともう一つ事件あったからそれも見といてくれと」

 

 一夏が言ってた一番最初のゴーレムの事件と。学年別トーナメントでの事件。

 やっぱ俺が来る前から波乱の連続だったらしい。

 イベントごとに事件起きてるとか、IS学園ってマジで呪われてるんじゃないか。

 しかも今年からだ。うーん認めたくないけど、俺と一夏の疫病神疑惑出てきてる? 

 

「専用機の待機形態と接続すればパソコンからも見れますよ。後でやり方教えますね」

「助かる……んんっ!? このキムチかっれ!!」

「ああ、それ如月さんの新しいルームメイトが作った物のお裾分けですって。韓国の方だとか」

「お前大丈夫なの?」

「少し辛いですけど美味しいですわよ」

「もしかして料理オンチなのってお前の味覚も……」

「疾風が子供舌なだけですっ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 女性の為の会リーダーの安城は自室に戻った後でもショックを隠しきれなかった。

 

 ルームメイトは空気を読んだのかいつの間にか部屋から居なくなっており、ぶつぶつと呟く安城を止める者は居なかった。

 

「まずいまずいまずいまずい」

 

 異種多人数ISバトル。

 結果的には大敗だ。安城も底無しの馬鹿ではないから結果は無効になったとはいえ理解だけはしていた。

 だけど決して納得するわけにはいかない。

 

「まずいまずいまずいまずいまずい」

 

 女が男に敗北した。

 そんなことがあってはならない、絶対にあってはならない。それだけは認めるわけにはいかない。それを認めるのは女の矜持に関わるから。

 

 負けたのは男ではなく生徒会だという考えも浮かんだが。戦力の8割をおとしたのは紛れもなく二人の男だった。

 

 試合は無効になった代わりに結果はクラス対抗戦に持ち越しになった。

 女性の為の会は首の皮一枚繋がった。 

 

「いやそんなことない。全部生徒会の策略に乗せられてる」

 

 最大の目的である疾風・レーデルハイト並びに織斑一夏を学園から排除する算段が完全に霧散した。

 逃げ場を完全に無くされてなし崩し的に自分たちにデメリットしかない契約をさせられた。

 

 無意識のうちに彼女らは虎の尾を踏んだ。

 その報復は見事その中核を打ち砕いた。

 

 自分たちは正しい、間違ってなどいない、自分は女性としてのあるべき姿。

 延々とそれを頭の中で呪詛のように繰り返した。そうでなければ安城は平静を保つことさえ出来なかった。

 それほど今回の結果は安城にとって受け入れがたい現実になったのだ。

 

「も、もしかしたら。学園祭のチケットのこともバレてるんじゃ………」

 

 呟いた途端身体が震え出す。

 

 チケットを横流しして亡国機業(ファントム・タスク)のメンバーを学園に入れた。

 母親から亡国機業(ファントム・タスク)の橋渡し役として出された安城。

 上手く行けば男性IS操縦者を葬れるということを聞いて喜んで協力した。

 

 オータムが失敗した後は再び母親経由で男性操縦者両名の排除の指令が出た。

 入学してから着々と勢力を増やした女性の為の会を使い、初めて認知した瞬間から目障りで虫酸が走る男性IS操縦者を陥れる。

 

 見事成功した暁には女性権利団体を支援している亡国機業の組織、ブルー・ブラッド・ブルーの参入も有り得た重要な案件。

 こんな大役に関われることを光栄に思いながら直ぐに行動に移した。

 この世は女性の味方、自分たちの味方。そう疑うことを知らずに猛進した。

 

 その結果がこの有り様だ。

 

(どうしてこうなった。勝てたはずなのに、数では圧倒的に勝っていたはず。なのに何故こうなったの!?)

 

 未だに原因を紐解けない安城は思考の渦に囚われていた。

 

 女性の為の会のメンバーも、あの試合を皮切りに半分以上が退会した。

 残ったメンバーも保守的な姿勢を見せて、もはや女性の為の会は砂上の城だ。

 

(どうしたらいいの。私が亡国機業と繋がってることを感づかれたら、あの方に迷惑がかかる)

 

 もはや打つ手はない。

 今さら引き下がることなど出来ない。

 

 自分の思想に従う者はついてきた、思想に従わない者も自分を恐れて不必要に触れようとしなかった。

 今まで日本女性権利団体の娘という肩書きだけで生きていた安城敬華にとって権力が通じないことなどなかった。

 

 だけどこれから戦う相手にそんなのは通用しない。

 ISの成績はごく普通の安城。三倍の戦力差でも勝てなかった相手に勝てるのか。

 

 疾風・レーデルハイトに勝てるのか。

 

「勝てるわけ、ない」

 

 絞り出すように出た声は苦痛に満ちていた。

 

 一年の専用機の中でも疾風はラウラ・ボーデヴィッヒに次ぐ実力者。そして今回の試合でまた一つ殻を破った彼の戦闘力は図りし得ない。

 現にシールドがほぼ満タンだった加藤がなす術もなく一方的に削り殺された。

 一夏のような一撃必殺を持たずにだ。

 

 それ以前に他の対戦相手は? 自分と相反する相手に勝てるのか? 二組の専用機持ちの凰鈴音に勝てるのか? 

 

『今どんな気分だ?』

「!?!?」

『その身にしかと感じろ。全部お前たちがやったことだ』

「黙れ! 黙れ! 黙れ黙れ黙れぇっ!!」

 

 突如聞こえてきた幻聴を振り払う。

 だが疾風の声はエンドレステープのように脳内で反響した。

 

 精神が磨耗しきった彼女を助けるものはいない。

 安城敬華は孤独に幻聴を振り払うべく叫び声を………

 

 プルルルルルルルッ。

 

「ヒッ!?」

 

 スマホから着信が鳴ると同時に幻聴が消えた。

 鳴り続ける着信音、スマホの画面には非通知と出ていた。

 

「も、もしもし?」

 

 すがるような思いで電話に出た。

 

「こんばんわ。安城敬華さんでいいかしら?」

 

 聞こえてきたのは変声加工が施された高い声だった。

 本の少し恐怖を覚えるも、安城は恐る恐る応じた。

 

「だ、誰?」

「諸事情により声を変えてるのは許してね。私はクイーン。あなたのお母様から名前だけは聞いてるわよね?」

「く、クイーン!?」

 

 クイーン。それはブルー・ブラッド・ブルー総帥のコードネーム。

 安城があの方と呼ぶ人だった。

 

「ど、どうして私のスマホに」

「いまあなたがどんな状況なのかは分かっているわ。それをふまえてあなたを手助けしようと思って」

「な、なんで?」

「?」

「だって私は失敗して」

「あなたは何も悪くはないわ。悪いのは全て汚ならしい蟲。あなたは立派に勤めを果たそうとした。攻める謂れはないわ。それに困った女性に手を差し伸べるのは当然の事でしょう?」

 

 慈愛に満ちた声に安城の心拍数が段々と落ち着いていった。

 

「手を貸してあげる。今を打開出来る最善の手を。私の言う通りにすれば、全て上手く行くわ」

「ほ、本当に?」

「ええ、だけど代わりにお願いを聞いてくれるかしら?」

「な、なんでもします! だから助けて!」

 

 例え自分の死を命じられても従うつもりだった。

 相手がクイーンなら大丈夫。そういう絶対的かつ妄信的な信頼があった。

 

「疾風・レーデルハイトを殺しなさい」

 

 突然耳に届いた言葉に安城は一瞬息をすることを忘れた。

 

「こ、殺す?」

「そうよ。でも大丈夫、あなたが罪に囚われる事はない。疾風・レーデルハイトは事故で死ぬの」

「事故………」

「それが私が心から望むこと。協力してくれる? 安城敬華さん」

「はいっ!!」

 

 常識を逸した申し出。

 それでも安城は快諾した。

 月明かりに照らされた口元を歪ませながら。悪魔(女神)の手を取ったのだ。

 

 災禍はまだ終わらない。

 

 

 

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