IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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沢山のコメントありがとうございます。
一度にこんなにくるのは初めてで戸惑うと同時に凄く嬉しかったです。

ミサンドリー編も残り2話。頑張ります。


第66話【影法師の狂剣】

 一週間後。

 中期クラス対抗戦(リーグマッチ)当日。

 

 第三アリーナで準決勝第一試合が行われていた。

 

「わっ、ちょ! たんま!!」

「たんまなし!!」

 

 ミドルブレードを両手に持つ双剣スタイルの対戦相手に対し付かず離れずにイーグルのプラズマブレードで切り崩す。

 

 動きが止まった僅かな隙を逃さずミドルブレードに向けて近距離からクローアンカーが噛みつく。内臓ブースターで強引に手元から引き剥がし、至近距離からインパルスのプラズマ弾を当て体制を崩した。

 

「ちぇぇぇやぁ!!」

「ぐあっ!」

 

 射出したビークで四肢に衝撃を与え、体勢を崩したところがら空きの腹めがけてブースト。

 

 打鉄の腹にブライトネスを全弾ぶちあて、相手のシールドを枯らした。

 

『7組、シエラ・パーキンソン。リミット ダウン 勝者 1組、疾風・レーデルハイト!』

 

 勝者を知らせるアナウンスと共に会場が沸き上がった。一部残念がるエリアがあるが、勝負なのだから仕方ない。

 

「ナイスファイト」

「ありがとうレーデルハイトくん。やっぱり専用機なしだときついなぁ」

「なに。専用機なんか無くても強い人は強いよ。会長とか」

「あれと比べられてもね。よいっしょ」

 

 仰向けに倒れたパーキンソンさんを起こした。

 

「頑張ってね、応援してる」

「ありがとう。期待に添えれるよう頑張るよ」

 

 最後にマニピュレーター越しに握手して、試合が終了した。

 

 

 

 

 

 

「準決勝突破おめでとう疾風くん」

「ありがとうございます会長」

 

 ピットに戻ると会長が居た。

 扇子をヒラヒラしながらふにゃっと笑う会長を見ると、なんというか実家の安心感がある。

 一夏は会長と会うと「何かされるのではないか」と緊張で身構えるらしい。難儀なものだ。

 

 スカイブルー・イーグルをハンガーに預け、エネルギーを補給する。

 ISのエネルギーって電気をISコアがISエネルギーに変換してるらしい。

 プラズマでも代用できるかってレーデルハイト工業でも試したらしいが、変換効率が目を塞ぎたくなるような有り様だったらしい。

 

「学園に来た時と比べて武装が増えたわねぇ」

「そうですね」

 

 今のイーグルは近距離武装にインパルスとブライトネス。遠距離にボルトフレア、ビット兵器であるビーク。肩にはクローアンカーが装備され。手足にはプラズマブレード発生機。

 第三世代型としては破格のポテンシャルといえる。

 

「こんだけ多いと目移りしちゃうわね」

「そうでもないですよ。用途はキッチリ分かれてますし。どれを使えば効率的に相手の動きを潰して連続攻撃出来るかってのは自然に理解出来ちゃうんです」

「疾風くんって器用だもんね」

「ISオタクですから。あ、エネルギー効率も20%向上してるんです。今は更なる能力値向上を目指してるとか。まだまだ強くなりますよ、こいつは」

 

 今は近いうちに開催されるキャノンボール・ファストに向けて何かを作ってるらしい。

 

「しかしあざやかね、さっきといい第1回戦といい。最後の連撃コンボは鮮やかね」

「イーグルの勝ちパターンですから。零落白夜みたいな一撃必殺がない分、質と同時に量も求められますし。異種多人数戦が良い刺激になりました」

 

 名前をつけるなら、マルチプル・コンボ・アーツ。

 母さん、アリア・レーデルハイトが使うダンスマカブル・ブレードアーツを参考に。イーグルの観察特化センサーと、機動力、武装で模倣、考察した戦術パターン。

 このコンボが決まればシャルロットの戦術パターンである砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)をも強引に突き破ることすら出来る。

 

 もとのDMBAに比べれば手数も足りない劣化版だけど。使ってみると結構楽しい

 

「ていうか会長。なんで一回戦から安城と組ませなかったんですか。早期決着出来たのに」

「そんなこと言われてもねー。契約書書く前からトーナメント表決まってたんだししょうがないでしょ」

「だからって決勝戦まで引き伸ばさなくても………」

 

 クラス代表が一時的に特例で変更された翌日の朝に張り出されたトーナメント表。それはまあ酷いもので。

 安城は決勝戦に行くまでかち合うことはなく。しかも安城の準決勝の相手がまさかの鈴という。安城が決勝行く前に終わっちまうんじゃねえかって少し不安になる。

 

 そうなった時はどうするか決めなかったなぁ。

 鈴なんか「悪いわね疾風。菖蒲を怖がらせたあいつはあたしがぶちのめすから」と、戦意充分の様子で。

 

 まあその時は改めて放課後にタイマンを持ち込むとするか。鈴が負けるなんてイメージつかないし。

 

「安城敬華は二回戦を突破したみたいよ。二回戦の相手はあっちサイドの人だから八百長ね」

「そうっすか」

 

 答える俺の声は低かった。

 あいつが勝ち上がることに喜んでる訳ではないが。原因はそれじゃなかった。

 

「会長の予想通り、動いてきましたね」

「ええ。まさか代表候補生になって専用機を持ってくるなんてね」

 

 そう。まさかのまさか。安城はこの一週間の間で日本の代表候補生になった。

 安城は随分前から代表候補生の適正試験を受けていたらしく、晴れて適正が通って代表候補生になったという。それに付属する形で専用機も受領したらしい。

 

 というのが公的な資料による情報だが。

 更識サーチによるとブラックよりのグレーらしく。この申請には女性権利団体、つまり安城の母親が納める組織が見え隠れしてるという。

 

「使用してるISの名前は黒鉄(くろがね)。暮桜の第三世代試験モデルの一つよ」

「このフォルム。日本代表が使う白鉄の姉妹機ですか」

 

 黒鉄の外見は打鉄と白式を足して割ったようなフォルム。少々小ぶりになった盾と、大型スラスターがついており。外見は黒と赤のツートンでISだけ見たら素直にカッコいい。

 

「うん、あと白式の姉妹機でもあるわ」

「あ、やっぱそうなんですね」

「あれ? 一夏くんから聞いてなかった?」

「あいつが知ってると思います?」

「あらいけない私ったら。じゃあオフレコでね?」

「軽いなぁ。了解です」

 

 こっちも推測の粋だったけども。

 

 白鉄、黒鉄が使う第三世代技術ははっきり言って暮桜のデッドコピーと呼ぶことすら叶わないほどの劣化品。

 シールドを消費して攻撃に転化するというのは同じだが。エネルギーを霧散させることは出来ず、シールドを素通りして絶対防御を発動させることも出来ない。

 

 利点があるとするならば。発動するとシールドを一定値消費して既存ビーム刃を形成して攻撃するのでエネルギー消費の目安を管理しやすいこと。

 専用のビーム発振器内蔵型実体剣【光刃】から繰り出す斬撃の威力は。既存兵器の枠組みで最上位の破壊力を持つ。

 

 現日本代表の楠木麗は日本代表決定戦でこれを使用して代表に登り詰めたという。

 

「まあ、あいつにそれを扱えるだけの技量があるとは思えないですけどね。一回戦も隠れ派閥でしょうに」

「まあね。でも次は鈴ちゃんよ。もう八百長は通じないはず。いま戦ってるけど、見に行く?」

「もう終わってる頃でしょう。鈴が負けるとは思えないですけど。あ、ちょっと失礼」

 

 スマホの着信。菖蒲からだ。

 

「はいもしもし」

「疾風様。大変です」

「どうした? こっちは無事勝てたけど。そっち今どうなってる?」

「鈴様が………敗退しました」

「は?」

 

『準決勝、第2試合終了。勝者、安城敬華。決勝進出です』

 

 ピットのモニターのトーナメント表が動いた。

 凰鈴音のネームが暗くなり、安城敬華のネームが線にそって上に上がった。

 

 

 

 

 

 

「鈴!」

「あ、疾風。と生徒会長」

 

 第4アリーナのピットに行くと、いつもの面子と。憔悴してる鈴の姿があった。

 

「何があった?」

「何って負けたのよ。完膚なきまでに」

 

 ぐっと唇を噛む鈴。拳も爪が食い込むほど握られ、鈴の心情が痛いほど伝わってきた。

 

「菖蒲。鈴をここまでやるなんて。安城の奴そんな強かったのか?」

「最初の中距離戦は鈴様の衝撃砲で優位に取れました。ですが、近距離に持ち込んだ途端。鈴様が一方的に」

「ますます不可解ね。幾ら専用機が近距離戦仕様とはいえ、一夏くんと対等にやりあえる鈴ちゃんがそんな……」

 

 会長の言うとおり。鈴のインファイト能力は専用機持ちでもトップクラス。

 一体どんなカラクリを………

 

『まもなく、第一アリーナで決勝戦を開始します。出場者は準備をお願い致します』

「行かなきゃ」

「気を付けて」

「ああっ。ぶっ潰してくる」

 

 一足先にピットを出た。

 落ち込む鈴の側にいた菖蒲がみんなに目配せをして先に行かせた。

 

「ごめん菖蒲」

「何がです?」

「仇、取れなかった」

 

 鈴と菖蒲の二人だけとなったピットで鈴がポツリとこぼした。

 

「絶対ぶっ潰してやるつもりだった。菖蒲に酷いことさせたあいつらに。指示を出したアイツに。だけど結果は惨敗。あたし、すごく惨めだわ………」

「鈴様は立派です。それに、決して無駄ではありませんよ。鈴様から聞いた情報はきっと疾風様の助けとなります」

 

 菖蒲は目頭にたまった涙をハンカチでそっとぬぐった。

 

「さ、いきましょう。早くしないと見逃しますよ!」

「ちょっ、待って! 先に着替えさして!?」

「あ、ごめんなさい」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「疾風!」

 

 イーグルに搭乗しようとしたらセシリアが走ってきた。

 

「どうしたセシリア? なんか用?」

「えっ? よ、用なんかありませんわよ。悪かったですわね」

「いや別に悪いなんて言ってないが」

「見送ろうと思っただけです。決勝戦ですし」

 

 なんかセシリアがマゴマゴしてる。

  トイレ、な訳ないよな。やばい、今のは一夏と同じ思考回路だった。

 

 とりあえず言葉の渡し船を出すことにした

 

「それだけじゃないだろ? どうした?」

「………あの黒鉄というIS。なんか嫌な感じがして」

「根拠は?」

「ありませんわ。ですが安城が鈴さんを一方的というのはどうにも信じれなくて」

「わかってる。油断も慢心もする気はない」

「ええ………」

 

 不安を拭いきれない。そんな顔をしてる。

 まったく。こんな直ぐに顔を出て当主なんかやっていけてるんだろうか。

 

「セシリア」

「はい?」

「俺を見ててくれ」

「! ええ、勝ってきなさい!」

「ああ!」

 

 その言葉に意気揚々と答え、ピット・ゲートのカタパルトに乗り込む。

 セシリアの応援に胸が熱くなる。不思議と力も沸いてくる気がした。

 

「行くぞ」

 

 ゲート解放、カタパルト起動。

 瞬間的に身体にかかるGに心地よさすら感じながら戦場に馳せ参じた。

 

 視界が開ける。

 目の前には黒鉄に身を包み。黒いラインバイザーで顔の上半分を隠した安城の姿があった。

 

「鈴を倒したようだな。上手くなったんじゃないか」

「………」

「随分露出の少ないISスーツだな。新調したのか?」

 

 安城のISスーツは前回と違い足首から首もとをスッポリ覆う飾り気のないダイバースーツタイプだった。

 こういうのは軍関係とかそういうのが使用するから、学園の女子では着てる人は少ない。

 

「フフフ」

「あん?」

「この試合であなたは終わる、文字通りね」

「なにを言ってる?」

 

 仮にだ。この試合で俺が負けても俺はIS学園から立ち去ることはない。

 言うなればこれはエクストラゲーム。この試合、そしてそのあとの結果を足掛かりに安城と亡国機業の繋がりを掴む。

 

 なのに、あの不適な笑みはなんだ? 

 何故こいつは鈴に勝てたんだ? 

 

 不気味だ。こいつ、本当にあの時震えながら契約書書いてた安城敬華なのか? 

 

 何はともあれ。あいつが見てる前だ。

 負けてやるつもりなんかない。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 勝てる。

 

 安城は口に出さずに呟く。

 

 必ず勝てる。

 

 力が欲しかった。疾風・レーデルハイトを完膚なきまで叩きのめす力が。

 

(あの方が。私の望む物を全て与えてくれた。あの方が、クイーンが私に期待している)

 

『システム構築。ISスーツとの同調確認。機体各部のポイント更新』

 

(ならば殺す。あの方が望むなら殺す。私が望むから殺す。この力があれば殺せる。私に屈辱を与えたあの男を殺す)

 

『血中のブルー・ブラッド・ナノマシン起動。IS適正値、BからAに上昇、確認。最終安全装置解除』

 

 黒鉄の装甲が鳴動する。

 黒鉄の情報サーキットが塗り変わる。

 

 黒鉄と呼ばれたISに別のISが覆い被さる。

 

『模倣対象、暮桜。織斑千冬に設定。完了』

 

 気分が高揚する。数分後に血塗れのバラバラ死体となっている疾風を想像し、笑みが止まらない。

 これ程愉快な気分は初めてだ。

 

「覚悟しろ疾風・レーデルハイト」

 

 3、2、1。

 

「最強の力。特と味わえぇっ!!」

 

 安城の眼の虹彩が蒼に染まった。

 

『ヴァルキリー・トレース・システム。起動』

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 

『試合開始』

 

「はあああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 雄叫びを上げた安城はブースト。獲物である光刃でこちらに斬りかかる。

 俺は受け止めて返す刀でインパルスで斬り、まずは勝負のマウントを取ろうとした。

 

「死ねっ!」

「!?」

 

 その時。安城の笑みを見て背筋が冷えた。そして、黒鉄のラインバイザーが怪しく光る。

 迎撃ではなく防御を。だがその剣筋は構えていたインパルスをすり抜け、胴体を切り裂いた。

 直前で剣の起動が変わったのだ。

 剣自体が曲がったのではなく、操縦者の手さばきでだ。

 

「なっ!?」

 

 削られるシールドの値が通常より多い。黒鉄の第三世代能力であるシールドエネルギーでブーストされた威力。

 だが驚いたのはシールドの減りではなく、安城の剣だった。

 

 明らかに剣の動きが素人じゃなかったぞ!? 

 

 長年の経験に裏打ちされた熟練者の用な剣。だがその剣筋は一夏と箒よりも鋭かった。

 

 鈴の言うとおり。今の安城は一週間前と段違い。

 こっちは油断なんて一ミリもしていない、最初から全力でタタキ潰して即ゲームエンドのつもりだった。

 

 背にまわった安城にインパルスを撃つが紙一重で避けられた。また、強化された斬撃が来る! 

 

「くぅっ!?」

「よく受けたわ! でも無駄ぁ!!」

 

 当たったと思ったら第二撃、三撃、四撃と連なるように剣が襲ってくる。

 たまらずバックブーストしながらインパルスとボルトフレアで撃ちまくるが掠りもせず、全て紙一重で避けられた。

 

 機体性能で片付けるには安城の腕前は拙い。だけどそれで片付けれる程イーグルと俺の射撃は甘くはない。なのに全て紙一重で避けられる。

 

 あのバイザーが俺の攻撃を予測してるのか? いやそれでも、この動きの無駄の無さはなんだ!? 

 

 機械的と見るには有機的、有機的と見るには機械的な動き。

 この前戦った無人機も無駄はなかったが。目の前の動きは洗練され過ぎている。

 本当に目の前で戦ってるのは安城敬華なのかと、そう思うぐらい別物! 

 

 接近した安城にボルトフレアの銃身が斬り飛ばされた。

 

 攻撃の予測はついても、対応して攻勢に移れるビジョンが見えない。

 今の安城の立ち回りはまさしく熟練者の動きだった。

 

 インパルスをリコール。腕のプラズマサーベルで応戦するが。黒鉄の光刃の方が剣速は上だ。

 

「この力に勝てるわけないでしょ! とっと死ねぇ!」

「くそっ!」

 

 苦し紛れに飛ばしたビーク六基が一瞬でスライスされた。

 

 あっという間に防戦一方。

 おかしい、何かがおかしい。

 何かは分からないけど。俺はこの試合に今まで感じたことのない異質さを感じていた。

 

 対戦相手と戦ってるのに対戦相手と戦ってる気がしない。

 

「ぐっ!」

 

 右肩のアーマーがクローアンカーごと吹き飛んだ。絶対防御も発動し、シールドが早くも5割まで迫った。

 

「どうしたのよ一方的ね! でも恥じることなんてない! これは必然なのよ!!」

 

 安城の狂喜じみた声。超ハイテンションだなクソッタレ!!

 

 だけど分かることもある。こいつの剣は一夏のそれと似た、剣術に関連してること。

 俺は安城がどんな戦い方をするのかはデータで見た。だが奴が剣術に精通したという記録も経験はない、どっちかというと中距離タイプだった。

 なのにこれだけの近接格闘能力。

 

 この一週間でここまで変われるものか?

 

 そしてこの剣の動き、俺には見覚えがあった。

 

「ん?」

 

 あれ? 

 なんで俺、見覚えがあるなんて思ったんだ? 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「なっ!?」

「あの、すいません」

「あ、こちらこそ」

 

 観客席で観戦する一夏は思わず立ち上がった。直ぐに後ろの邪魔になると気づいて座り直した。

 

「どうした一夏」

「箒、安城の剣を見ておかしいと思わないか?」

「それは私もわかる。奴が疾風を防戦一方にさせるほどの剣を使えるとは思えない。だがあれは」

「千冬姉の剣だ」

「どういうことだ?」

「一夏の言う通りかもしれん」

 

 一夏の変わりに肯定したラウラは眼帯を外していた。

 眼帯に隠された金色の瞳、境界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の疑似ハイパーセンサー・インターフェースが安城の動きを捕らえていた。

 

「あの太刀筋、身体の動き。モンド・グロッソに出ていた教官の動きと酷似している」

「でもそんなことが可能なのですか? 幾ら何でも一週間で織斑先生の動きを真似できるなんて」

「一日も必要ない。一つだけあるだろう。熟練の動きを可能にする代物が」

「VTシステムか!?」

 

 ヴァルキリー・トレース・システム。

 VTシステムと呼ばれるそれは文字通りモンド・グロッソ武門優勝者のヴァルキリーの動きを模倣、再現させるシステム。

 これを使えばIS初心者でもヴァルキリーと同じ戦い方が出来る。

 

 かつてラウラも研究機関の陰謀で無断で搭載されたVTシステムで暴走したことがあった。

 

「た、確かに言われてみれば安城の動きは千冬さんに似ているようにも見える」

「千冬さんを良く知ってる三人がそういうなら間違いないでしょうね」

「でもVTシステムなんて誰でも使えるような代物じゃないよ!? ラウラはともかく安城さんは普通の学生。到底負荷に耐えれるとは思えない!」

「ああ、だが奴はもう3分も動かしている。薬物投与か、或いはあの黒鉄というISに何か細工があるのか」

「とにかく織斑先生に連絡を」

「ああ」

 

 シャルロットの言う通りVTシステムはヴァルキリーと同等の戦力を得る変わりに致命的なデメリットがある。

 それは操縦者本人にシステムによる動きを強要させること。システム発動中は本人の思考と身体の動きはシステムに支配される。

 無理やり戦い方と動かし方をロードされ、実行するには精神と肉体に甚大な不可がかかる。

 下手すればシステムを発動して直ぐに廃人になってしまう。

 

 当然ながら違法なシステムとして国際条約でも厳しく制限されている。

 

「っ!」

「一夏、気持ちはわかるが」

「………大丈夫だよ箒。俺は冷静だ」

 

 そう言う一夏の眼差しは普段の彼から想像できないぐらい厳しく、怒りを込めたものだった。

 千冬の剣は千冬自身の物。それを我が物顔で使っている安城に一夏は怒りを感じていた。

 

「早く試合を止めませんと! このままでは疾風様に危険が!」

「ですが。彼女がVTシステムを使っているという証拠がありませんわ」

「セシリア様! そんなこと言ってる場合ですか!?」

「いや、セシリアの言う通り。ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンと違って機体が変質していない」

 

 レーゲンがVTシステムを発動した時。レーゲンの装甲が融解し、暮桜の形に再構成された。その時は現場の異常性に気付き、直ぐに緊急避難対応がなされた。

 

 だが安城の黒鉄は変質せずにVTシステムを発動している。

 VTシステムを発動すれば装甲変質を行うかどうかは定かではないが。今の安城は端から見たら専用機の力で戦うだけに見える。ギャラリーの誰もが戸惑うことはあれど、VTシステムを使っているとは夢にも思わないのだ。

 

「安城さん。ラウラの時と違って暴走してるように見えない」

「ああ、あの時のラウラは暗闇の中で何も出来ない感覚だったらしい」

 

 操縦者ではなくシステムがISと操縦者を動かす。

 それがVTシステムというもの。

 だが安城の様子から意識が消失してる様子はない。

 

「あいつが自分からVTシステムを任意で発動したってことか? そんなことが」

「もしかして、あいつ疾風を殺す気で」

「は!? こんな公衆の面前でそんなことしたら誤魔化しようが」

「そんなもの。VTシステムが暴走したということにすれば逃れられますわ。少なくとも、法廷ではそれが武器になりえる」

 

 故意ではなく不可抗力。

 安城の母親が法廷にも顔が効くのだとしたら、その可能性は十二分にある。

 安城の目的は、VTシステムという異常性を盾に疾風を殺すこと

 

「いま教官に試合を止めてくれるよう連絡を送った。だが、果たして応じてくれるかどうか」

「そんな」

「大丈夫よ。千冬さん、織斑先生も馬鹿じゃないんだし。きっと動いてくれるわ」

「………歯痒いですわ」

 

 出来るなら自分が今すぐ飛び出したいと。セシリアはそう思っていた。

 

 ゴーレムⅡの時も、本当は自分がいの一番に助けに行きたかった。

 だがあの時と違っていま疾風に通信を送れない。疾風と通信すれば疾風の方が大会規定に違反し、失格となる。

 

 確たる証拠がない。それだけの理由でまた男が追い詰められている。

 

「あっ!!」

 

 イーグルのもう片方のクローアンカーユニットが破壊された。

 疾風も一度距離を離そうとするが。高機動仕様にシフトされている黒鉄が猛追する。

 

「疾風!!」

 

 セシリアの悲鳴が木霊するなか。

 安城が持つ光刃から放たれる紫の光が疾風の首に襲いかかった。

 

 

 

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