IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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 セシリア誕生日おめでとう!
 四日遅れ、俺は駄目な奴だ。

 至上主義(スクール・カースト)編、最終回。

 これが年内最後の投稿になります。
 コロナが今も猛威が振るうなか、コツコツと書いて行きました。

 皆さん、よいお年を。くれぐれもコロナにお気をつけて。


第67話【この世が理不尽で出来てても】

 

 

 紫の光が迫る。

 俺の首をシールドごと切り飛ばす勢いで振られる横薙ぎの刃が眼前に迫った。

 

 転べっ!! 

 

 瞬時に手足のデバイスを動かしズルッと氷の上で足を取られるようにISの体勢を倒した。

 目の前を通る紫の刃。ISの保護がなければ目をやられる光量を出す光刃。

 

 横向きにスラスターを出し独楽の勢いで足のプラズマブレードを振った。

 黒鉄の足に命中。黒鉄が崩れる隙をつかずにその場を離れた。

 

 当たった? 

 情けない話だが今まで紙一重で見切られていて、今のがこの試合で初めての明確なヒットだ。

 

「待てええええ!!」

 

 とにかく一度離れて状況を整えなければ。

 そう思ってもあっちの初速はイーグルに追い付いている。

 流石は白式と白鉄の姉妹機。褒めてやるよ、ISだけな! 

 

「死ね! 死ね! あの方のために死ねぇ!」

「誰だよ!!」

 

 がむしゃらな安城の声とは対極に繰り出される精錬された剣技。

 段々と目が慣れてきたというか。イーグルが解析してくれたおかげでなんとか致命傷は避けれてきた。

 

 ピピッ。

 

『ミステリアス・レイディから緊急通信』

「あん!? 緊急通信!?」

 

 本来試合中の通信は禁止。

 それを承知の上でかけてきたということは。

 

 バススロットにしまっていたラプターを眼前にコールし、それを切らせた。

 至近距離で爆発され、プラズマ球でお互い吹き飛んだ。

 

「繋げ!」

「疾風くん無事ね!?」

「見た通りです!!」

「落ち着いて聞くのは無理かもしれないけど聞いて。安城敬華はヴァルキリー・トレース・システム。VTシステムを使ってる可能性があるわ」

 

 VTシステム。

 記録映像でラウラが暴走したやつか! 

 

「彼女はそれで織斑千冬の動きをトレースしてるわ」

「だからこんな攻撃が出来るわけだ!!」

「おそらく彼女はVTシステムを理由に貴方を殺す気よ!」

 

 裏工作はやめて正攻法で殺しに来たという訳か! 

 亡国機業(ファントム・タスク)はなりふり構わず俺を消すことに必死らしい。

 

「それ違法なんですよね。分かってるならなんで試合中止にならないぃぃっ!!」

 

 いま胸かすった! これが零落白夜ならやられた。

 あと一発もろに食らったら間違いなくシールドがゼロになる。

 

「確定じゃないのよ。前回ラウラちゃんが使ったときは明確に異変があったけど。今回念入りにチェックしても異常はなかったのよ」

「だから踏み込めないっていう!」

「私だって歯痒いわよ! でも確証がなければこっちも迂闊に手が出せないのよ」

「ごもっとも!」

 

 あんときはレーゲンが泥人形みたいになってたから手を出せた。

 実際は一夏が解決したけど

 

 シャルロットのラファールからのエネルギーパイパスで限定権現した白式。ほぼ生身だった一夏がVTシステムの動きを見切ったとか。

 

「疾風くんがシールド切れになり、それでも襲いにいった瞬間に戦闘教員が取り押さえる手筈になっている。もしくは疾風くんがリザインするかだけど」

「それだけは駄目です! もし降参して奴がシステムを隠しでもしたら!」

 

 子供じみた理由だが。ここで自分から負けを差し出せば俺は一生後悔する。

 たとえ俺が負け、そのあとVTシステムの存在が露見したとしても。俺が安城に負けたという事実は消えはしない

 

 だがどうやって勝つ? 

 今の安城はモンド・グロッソで頂点にたった織斑先生の動き。

 このまま削り殺されるのは時間の問題。

 

 ───本当にそうか? 

 

 迫りくる光刃をブライトネスの衝撃で逸らし、その腹に蹴りを入れるが避けられる。

 

 先程から感じてる違和感。

 覚えのある動き。それを防いだ。

 

 何故防げる? 

 

 これが本当に織斑千冬の剣だというなら何故俺は負けてない? 

 俺の戦闘能力がブリュンヒルデに対抗出来てるから? 

 違う。流石に自惚れが過ぎる。

 

 何故ISに乗って半年足らずの俺がブリュンヒルデ相手に生き残れている? 

 零落白夜ではないから? 

 違う、あれが零落白夜のデッドコピーだとしても。織斑千冬の剣を防げてる理由にはならない。

 

 何故俺は対応出来始めている? 

 

「会長」

「どうしたの?」

「織斑先生に繋いでください。今すぐ確認したいことがあります!」

「わかったわ………繋いだ」

「私だ」

「織斑先生。安城が使ってるVTシステムについて聞きたいことがあります!」

「言ってみろ」

 

 黒鉄の光刃の光が一瞬弱まり、また輝いた。シールドエネルギーを補充したんだ。 

 

「VTシステムに使われてるデータは第一、第二モンド・グロッソによるもので間違いないですか?」

「ああ、そうだ」

「それ以外のデータが使われてる可能性はありますか! 例えば練習時間だったり、日本代表決定戦や、フリーの対戦だったりとか!」

「可能性はゼロではないが、ほぼゼロだろう」

「うおっ! 何故そう思うのです!?」

「私はモンド・グロッソ以外で公の場に出なかった。練習は他人に見せてはいない。代表決定戦も他国に情報が漏れないように秘密裏に行われた」

 

 つまり、VTシステムに使われてるのは正真正銘モンド・グロッソでの戦闘データのみだということ。

 

「レーデルハイト。あのVTシステムはボーデヴィッヒより更に洗練されたものだ。今上層部に掛け合って、こちらから強硬手段に移ることを打診している」

「いいえ必要ありません。今の情報で勝ち筋は見えました!」

「考えがあるんだな?」

「絶対、ではないですけどね」

 

 一夏なら絶対勝つとか言えるんだろうな。

 だけど俺は変に捻くれてる。ことバトルに対しては100%とか中々言えない。

 

 だが織斑先生は口出しすることなく教え子である俺の背中を押した。

 

「いいだろう。やってみろ」

「はい!」

 

 今一度安城の、VTシステムの動きを見た。

 その動きは素人目から見ても驚異を覚える太刀筋だ。

 

 横からの攻撃をよける、下からくる、弾く。

 突き、耳元を通るが、当たらない。

 

「まぐれがぁ!」

 

 右、左、右上、下、上、左。

 

 その全ての斬撃を受けることなく避け続けた。

 

「何故当たらない!」

 

 安城が焦り始めても太刀筋はぶれることない。寸分の狂いもなく剣は振るわれる。

 動かしてるのはVTシステム。安城はシステムに身体を貸してるだけにすぎない。

 

 そこに血は通っていない。

 魂も信念も何一つ籠っていない。

 

 ブーストからの一閃を躱し、プラズマサーベルで斬り着けた。

 上下の二段斬りの間をぬってブライトネスを腹に打ち込んだ。

 フェイントを混ぜた必殺の一撃も逆に背後を取って蹴りを入れた。

 

 よく見たら本物に似せただけの真似事の剣じゃないかと思えてきた。

 俺はこんな攻撃に苦戦してたのか。

 

 なんかイライラしてきた。

 まるで見たい動画の画質が最低に設定されていて、変更できない仕様になってるものを延々と見せられてるみたい。

 

「当たらない! なんで!!?」

 

 これ以上当たるものか。当たってやるものか。

 

 その攻撃。動き、立ち回り。

 俺はそれを何十回、何百回も見たことがある。

 

「行くぞ、一方的だ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「疾風のやつ、見切り始めてる?」

 

 序盤劣性だった決勝戦。

 安城の猛攻の前に倒れると思っていた疾風はふいに攻撃を避け始める。

 

 避ける、とにかく避ける。

 そして動きを最小限に確立させると斬撃の合間をすり抜けて攻撃を当てていく。

 攻撃が当たるとわかれば更に攻撃の密度を上げて追い詰めていく。

 

 まるでパズルを組むように。

 レシピ本を参考に料理を作るように。

 手順を積み上げて結果を手繰り寄せていった。

 

「あれほど対応出来るのか? 紛い物と言えどあれは教官の動きだ」

「多分、疾風も気づいたんだと思う。あれが千冬姉の動きをしてるって」

「それが分かったところで直ぐに実践出来る筈が」

「疾風は出来るんだ。何故なら、VTシステムの千冬姉の動きは全てモンド・グロッソで実際にした動きだ」

「どういうことなのだ?」

「それは」

「見続けていたからですわ」

 

 一夏の言葉をセシリアが引き継いだ。

 

 以前疾風がパソコンでモンド・グロッソの試合を見たとき聞いたのだ。

 

 

 

「それ、織斑先生の試合ですの?」

「うん。もう何回見たかなぁ。ほぼ毎日見てるから」

 

 疾風が動画ファイルを閉じると、そこには編集されたファイルがズラッと並べられていた。

 ファイルの名前には疾風の母親やアリーシャ・ジョゼスターフ。その他にも代表の名前がズラッと並べられていた。

 

「まさか、一人一人の総集編を?」

「そうだよ。DVDだけじゃなくテレビの特集やネットにアップされた奴を切り貼りして」

「なんのためにこんなことを?」

「うーん。個人的に見やすくしたり、趣味ってのもある。あとは………」

 

 セシリアの方を向いた疾風は眼鏡を上げて笑ってこう言った。

 

「俺が代表になるための足掛かり、かな」

 

 

 

 

 

「疾風はモンド・グロッソが始まってから何回も繰り返し動画を見て育ったと言ってました。中学校に上がってからは次第に見るだけじゃなく分析をし始めたと。特に織斑先生の暮桜を徹底的に」

「あいつは本気だったんだな。いつかISに乗れることを信じて」

「ええ」

 

 徐々に戦況は疾風に傾いてきた。

 安城の動きがそれでも乱れないのは一重にVTシステムの恩恵。

 

「勝てますか、疾風様」

「勝ちますわ、必ず」

 

 菖蒲の問いにセシリアは力強く答えた。

 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

(読まれてる!? なんで、なんでなんでなんで!!)

 

 既に黒鉄の攻撃は掠りもしない。

 スカイブルー・イーグルの攻撃を避けることが出来ない。

 

「おいいつまでギリで避けようとしてんの? 少しずらせば当たるぞ? いやすまない。自分で動かしてる訳じゃないもんな」

「っ!?」

「早く解除した方がいい。その方が俺に勝てる確立は高い」

「そんなわけあるかぁ!!」

 

 疾風が軽口を取り戻してることに安城は激しく動揺する。

 一瞬VTシステムを解除するか迷うほどに。

 

「ある意味賢いよお前。自分の実力で勝てないとわかって策を講じてきたんだから。でも」

 

 距離を話そうとする黒鉄にインパルスとブライトネスを同時に放った。

 

「それは悪手だ」

 

 バランスを崩しながらもVTシステムは即座に機体を立て直す。

 気持ち悪いぐらい綺麗にスラスターを小刻みに動かし斬撃の体勢を整える。

 

「負ける筈がない! この力は最強なんだからっ!!」

 

 だが、暮桜はそんな動きはしなかった。

 暮桜は、織斑千冬は。母さん相手にそんな小綺麗な足掻きなんかしなかった。

 

 本人の感情を置き去りにした無機質な刃を握りしめながら、暮桜の皮を被った黒鉄が一直線に向かってくる。

 

 そんなあべこべにぐちゃぐちゃな姿についに堪忍袋の緒がブチ切れた。

 

「いい加減にしろ!!」

 

 それはVTシステムを使い続ける安城に対してか、暮桜の模倣をするVTシステムに対してか。はたまた両方か。

 

 上段から襲ってくる黒鉄の光刃をプラズマを纏わせた手で挟んだ。

 

「これ以上俺たちの憧れに泥を塗るんじゃねえっ!!」

 

 右キックスラスター全開。イーグルの渾身の膝装甲を思いっきり刀にぶち当てた。

 

「ISのブレードを」

「白刃取りだとっ!?」

「すげぇ………」

 

 観客席が一気にざわついた。

 ISでの白刃取りなど、早々お目にかかれる物じゃない。

 たとえ相手の動きを完全に掌握していたとしても、並大抵の技術ではない。

 

 衝撃で黒鉄の手から抜け出した光刃を掴み取って一撃を見舞った。

 

「ぐ、っつあ!!」

 

 空中を滑るように後ずさる黒鉄。

 シールドを減らして威力に上乗せする仕様。動きをよんでチクチク攻撃していった。そして今黒鉄の最大火力を奪ってぶちこんだ。

 それでも奴は倒れず、二本目の光刃を抜刀した。

 

「競技試合でアンリミテッド仕様。そしてそれを検知させないジャミング装置。どんだけこすい手を使えば気が済む」

「この世は弱肉強食。弱い男は強い女に食われる。それがこの世界なのよっ!! お前が死ねば。私はあの方の元へ行けるの!!」

 

 光刃が放つ紫の輝きが一際強くなった。

 限界までシールドエネルギーを注ぎ込んだ最高出力の光刃。

 あれを食らえば残ったシールドごと俺に傷を負わせる可能性あり。

 最悪死ぬ。

 

「インパルス。バーストモード」

『ready』

 

 だが一つも怖くなんかない。

 銀の福音やゴーレムⅡに比べればこんな相手。

 イージー過ぎる。

 

「死ぃぃぃぃいいいねええええええ!!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で迫る黒鉄に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で迎え撃つ。

 

 振るわれる紫の軌跡。

 稲妻を纏う空の軌跡。

 

 すれ違う二機は互いの刃を振るった。

 

「せえあぁっ!!」

「かっ!?」

 

 黒鉄の刀は届かず。

 スカイブルー・イーグルの稲妻はブリュンヒルデの影を切り裂いた。

 

「馬鹿な………私は……最強の力を……」

「最後まで影を手放さなかったか。馬鹿なやつ、自分からチャンスを捨てやがって」

 

 ゆっくりと空中で倒れ、落ちる黒鉄と安城を見下ろした。

 

「俺の勝ちだ。クソビッチ」

 

『4組、安城敬華 リミットダウン。勝者 1組、疾風・レーデルハイト!』

 

 試合終了のアナウンス。

 

 歓声が降り注ぐ中、俺はインパルスを頭上に掲げた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ティアーズ・コーポレーションの社長室。

 紅茶を飲んでいたフランチェスカはカップから紅茶を溢した。

 

「失敗した?」

「ええ、レインからの報告だと疾風・レーデルハイトの勝利。あれはVTシステムもバレてるわね」

「そんな馬鹿な! ありえないわ!」

「とりあえず伝えたわ。じゃーねー」

 

 ♪がつきそうな軽い口調のまま切られた通話。そしてその後送られた試合の動画ファイルを見て、フランチェスカ・ルクナバルトは震えに震えた。

 

「しゃ、社長?」

「大丈夫、私は大丈夫よ。それより日本女性権利団体会長の安城さんの逃亡補助を。それと、娘さんの弁護士を至急手配!!」

「は、はい!」

 

 足早に退室する秘書。

 じっとしてられない憤りを感じ、フランチェスカは爪を噛んだ

 

「ふぅーふぅー。大丈夫。VTシステムとブルー・ブラッド・ナノマシンの親和性は取れた。安城敬華は立派に勤めを果たした」

 

 スマホの画面に映る疾風を睨んだ。

 精度を上げたVTシステムの幻影を切り裂いたその姿を見て血管が破裂しそうになる。

 

「またしても、またしても思いどおりに………ああっ!!」

 

 超高級品のアンティーク・ティーセットが宙を舞い。最高級の紅茶がカーペットを濡らした。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 試合が終わった日の翌日に俺と会長は織斑先生に召集された。

 内容は勿論、安城と黒鉄について。

 

「安城が使用していた黒鉄だが。お前たちの予測通りVTシステムが搭載されていた。ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていた物より小型で、かつより高度な模倣を可能にする代物。更にIS適正を強制的に引き上げるナノマシンを服用した痕跡も見つかった」

 

 違法システムだけじゃなくナノマシン。

 一介の組織で運用できるもんじゃない代物がゴロゴロ出てくるな。

 

「会長から聞いたんですけど、ラウラのVTシステムの開発元は行きなり消滅したと。そことは別の勢力なのでしょうか」

「そこに関しては調査中。だけどラウラちゃんが使っていたVTシステムと今回のVTシステムには共通点が多く見られたから、もしかしたら同じ勢力の可能性。もとい亡国機業(ファントム・タスク)の可能性はありよりのあり」

 

 つまり鋭意捜査中ということ。

 

「あの、試合はどうなるのでしょうか」

 

 相手が違法装置を使った、となれば試合は無効試合になる。

 これまでもゴーレム、そしてラウラのVTシステムで大会事態が無効になった。

 

「無効にはならない。というのも、今回は表向きは異常はなく、大会が実行されたということになる」

「安城がVTシステムを使ったことは公開されないと?」

「それに対しては審議中だ。なにぶん、VTシステムというワードは慎重に扱わなければならない。良くて、条約違反のシステムと明記されるだろうな」

 

 マスコミが喜びそうなネタだな………

 

「黒鉄自体については倉持技研第一研究所の物でしたが、女性権利団体とIS委員会から圧力をかけられた痕跡がありました」

「安城の母親か」

「その母親ですが。こちらが捜査に踏み込んだ時には不在でした。無断欠勤だそうですが、恐らくは亡国機業(ファントム・タスク)の元に行った可能性が」

亡国機業(ファントム・タスク)の詳細は知ってましたけど。ただのテロ組織に見えなくなってきましたね」

 

 会長に見せてもらったレーデルハイト工業研究施設襲撃の供述を見るに、亡国機業も一枚岩ではないらしく。オータムの派閥と安城ら女尊男卑社会の派閥は別物の可能性が高いらしい。

 

「話を進めよう。今回生徒会と女性の為の会の契約内容は達成された。女性の為の会のこれまでの行動の暴露、及びグループの解体を実行する。更識、それで間違いないな?」

「はい、間違いありません」

「分かった。ではそのように進めよう」

 

 これで奴らとの因縁も終わりか。

 やっと肩の荷も降りるもんだなぁ。

 

「レーデルハイト」

「はい」

「ご苦労だった。お前には迷惑をかけたな」

「規則って面倒ですね」

「それに関しては立場上コメントしないでおく」

 

 ごもっとも。

 

「一つ聞きたいことがある」

「なんでしょう」

「お前と戦った暮桜を模倣したVTシステムだが。強かったか?」

「どうでしょう。種が分かったら動きの予測はカンペしてるみたいに楽に対処出来ましたし。でも知る前は素直に安城の腕前と違いすぎて違和感が凄く感じられました。強い弱いでいえば、間違いなく強かったと思います」

「そうか」

「ですが」

「ん?」

「織斑先生とは比べるまでもなく弱いと思いました。まだまだ強くならないとと改めて感じさせられました」

「そうか。褒め言葉として受け取っておこう」

 

 つくづく思うけど、本当にこのお姉さんは素直じゃない。

 一夏とここまで違うと戸惑っちゃうな。

 まあVTシステムなんて粗悪品と比べられたら素直に受け取りづらいか。

 

「すまない、電話だ。私だ………そうか分かった」

「誰からですか?」

「学園長だ。警察がまもなく到着するということだ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 立ち会いを認められた俺は安城が居る受け渡し場所に出向いた。

 そこには警備員の間に縮こまっている安城と。

 

「あれ、菖蒲?」

「ごきげんよう疾風様」

「おう、なんでここに?」

「今回は徳川財閥の立ち会いです。黒鉄は倉持技研、つまり徳川財閥の系列ですから」

 

 倉持技研と徳川財閥からしたら自分とこの商品を強引に取られたあげくヘンテコなシステムを入れられたからな。

 

「織斑先生、少し彼女と話しても?」

「五分やろう」

「ありがとうございます」

 

 制服姿のまま手錠に繋がれた安城。

 安城は自尊心丸出しの傲慢さを残しつつも憔悴した顔をしていた。

 

「よお」

「………」

「気分はいかほど」

「最悪よ」

「自業自得だな。俺は五体満足、気分は晴れやか。まあこれ以上煽るのは可哀想だから聞きたいことを聞くことにする。お前、一夏を殺せと言われたか?」

「………」

 

 何故一夏は殺害対象から外れてるのか。

 オータムはこう言っていた。

 

『その勇敢さに免じてお前は殺さないでやるよ。まあお坊ちゃんの命は保証できねえけどな。可能ならセカンドを殺せってブルーの奴にオーダーされてるからな』

 

 亡国機業は俺を殺すことに積極的、でも何故か一夏は見逃されてる。

 一夏も男性IS操縦者。ミサンドリーからすれば俺だけを始末しても男性IS操縦者という要素が残る。

 それを指揮し、オータムとこいつにオーダーを出した人物。

 

「ブルーってなんだ?」

「っ………」

「組織か? 個人か? こんなことを平気で言うやつだ。性根が腐ってて自分が超越者気取りの頭が痛いブスなんだろうけど」

「黙れ!! あの人を貶すな! 殺すぞレーデルハイト!!」

 

 はいヒット。

 

「これは失礼した。で、何処を訂正してほしい? 詳細に言ってくれれば土下座して謝ってやるぞ?」

「全部だ! あの人は女性の為に誠心誠意尽くしてくれる高貴なお方だ!」

「ていっても下っ端の下っ端のお前なんか歯牙にかけないだろ。ぶっちゃけお前捨て駒だぞ」

「わかってない、わかってないな。あの人はどんな時でさえ私たち女性を見捨てない。クイーンは私たち女性にとって真の救世主だ!!」

 

 更にヒット。

 ブルーは組織、または組織名の通称。それを取り仕切ってるのがクイーンということか。

 

「死ね! 死んでしまえ! この世界の為に死ね!! 生きていく価値すらない汚物がぁっ!」

「じゃあその汚物に負けたお前は汚物以下だな。クサイクサイ」

「キスァマァーーー!!!」

「じゃあな。精々臭い飯食ってろ」

 

 聞きたいことは聞けたから満足です。

 澄ました化けの皮も剥がれて吠え面も拝めたし。

 

「待てレーデルハイト! 殺す! 殺してやる!!」

「落ち着きなさい!」

「うるさい! 私は選ばれた人間だ! 離せ! 男に媚び売って恥ずかしくないのかぁ!!」

 

 パシンッ! 

 

「う?」

「少し黙ったらどうです。気品ある女性を吟うならそうあれと振る舞いなさい」

 

 菖蒲が安城をひっぱたいた。

 

 叩かれた安城は勿論、俺や会長と警備員。果ては織斑先生も目を丸くした。

 

「あなたは言いましたね。私が男に媚びへつらうだけの女だって」

「だから何よ」

「言い方に語弊はありますが。概ねその通りです。私は疾風様に良く見られたいですし、良く思われたいです。私は別に何を言われても構いませんし、言いたいなら言いたいだけ言えば良いです。でも疾風様への暴言は許せません」

「いったい何を」

「こういうことです」

 

 菖蒲の着物がひるがえった。

 

 足を踏みしめ、腰を回し、体重の乗った菖蒲の拳が安城の頬を打ち抜いた。

 

 ボゴォッ! 

 

「わおっ」

「ヒャッ」

 

 鈍い音と一緒に安城が警備員の拘束を抜けて吹き飛んだ。

 同時に俺と会長も変な声が出た。

 

「私、あなたが想像するよりずっと過酷な生き方してますので。夢忘れぬよう。では失礼」

 

 丁寧にお辞儀をして菖蒲は立ち去った。

 殴られた頬にジンジンと痛みが走り、混乱がなくなると同時に騒ぎだした。

 

「な、殴ったわね私を! 警備員さん! 暴行! あいつを暴行罪で捕まえて!」

「はい、立って。行きますよ」

「離しなさいよ! あいつを! この私を殴ったのよ! 訴えてやるっ! 私を誰だと思ってるのよぉぉぉぉぉ!!」

 

 さて帰ろう。急いで振り返ろう。はやく、フリカエンナキャ………

 

「だ、駄目よ疾風くん、笑っちゃ駄目よ」

「わかってます。プスッ、わかってますよ」

 

 じゃないと顔面崩壊しちまう。

 真面目なシーンなんだから笑っちゃ駄目だって。

 顔を引き締めて前を向くと菖蒲の背中が見えた。

 

「殴ってしまった………どうしよう。疾風様に乱暴者だと思われたら………」

「菖蒲ちゃーん!」

「ひゃあっ!? な、なんですか更識様」

「菖蒲! カフェ行くぞカフェ!!」

「え、え、疾風様? なんか変な顔してますよ?」

「クフッフ! 気にするな! よし行くぞ! 奢ってやる!」

「ゴーゴー!!」

「え、えーーー?」

 

 しばらくした後、関係者専用の通路に笑い声が盛大に響いた。

 この時ばかりは、織斑先生の怒号は飛んでくることはなかった。

 

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