IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
明けましておめでとうございます。
ついに、ついにキャノンボール・ファスト編に着手出来ました。長かった。本当は去年にやりたいという目標があったのにコノヤロウ。
皆さんのご期待に添えれるよう頑張るので応援よろしくお願いします。
第68話【雨が降っていた】
クラス対抗戦が終わって、IS学園もすっかり元の風景に戻っていた。
何処から漏れたのかは定かではないか、安城がVTシステムを使ったのでは? という噂がもっぱらの話題になっていた。
安城の腕に見合わない剣技は全校生徒が見たとおり。
疑心が確信に変わったなら人の認識という物はそこに定着し、噂という曖昧なVTシステムは明確に見える違法システムとして生徒の目の前に残った。
それと同時に。
「レーデルハイト君って結構強かったんだね」
「VTシステムのデータって織斑先生のやつらしいよ?」
「
「12対4の多人数戦の作戦はレーデルハイト君が全部考えたみたいだよ」
「よくよく見たら顔もカッコいいかも」
「いまのうちにツバつけとくのもあり?」
俺の評価も右肩上がりで良くなっていた。
顔がカッコいいというのはきっと幻覚だ。俺は精々中の中の眼鏡メンだからな。一夏と並べてみろ、直ぐに目が覚める。
演説での大胆不敵な啖呵。
数々の実績。
それが繋がって俺の評価となり、学園新聞にもデカデカと特集として載った。
俺の評価は置いとくとして、学園内での男性の評価は改善された。
これにて生徒会の一大作戦は見事に功を奏したのだ。
───まあ、恋する乙女にとってそんな話題よりも優先される物があったのだった、まる。
「えっ!? 一夏の誕生日って今月なの!?」
「お、おう」
「いつ!?」
「9月の27日」
「日曜だね!?」
「そうだって。ちょっと落ち着けよシャル」
そんな驚くことかなと一夏は引き気味だがそんなの知ったこっちゃねえ。
恋するラバーズには正に馬の耳に念仏かつ寝耳に水。
必死で脳内に叩き込むシャルロットの隣でハッシュドビーフを食べていたラウラがスプーンを置いた。
「一夏、そういうことはもっと早くに言え。戦場に置いて情報の遅れは即死に繋がるんだぞ」
「俺の誕生日で何故戦いが始まるんだ」
残念ですが既に牽制射撃が始まっています。
手遅れです。
「とにかく早く言え。こっちも準備があるんだ」
「わりぃ。別に大したことじゃないかなって」
「………まあいい。問題はこいつらだ。知っていたのに黙ってそのままやり過ごそうなんて思っていただろうからな」
「「ギクゥ!」」
口から効果音出てきた幼馴染みコンビ。
ほぅら一触即発。楽しくなってきました。
「べ、別に隠してたわけではない! 聞かれなかったから答えなかっただけだ」
目が泳ぎまくって渦巻き発生してるぞ武士道娘。
「そうよそうよ! 聞かれもしないのに喋るとKYになるじゃない!」
「この場合のKYは空気を読まないではなく、
「言い訳が小ズルさマキシマム」
「だまらっしゃいそこの英国コンビ!!」
英国コンビは忠告通り食事を再開した。
「では9月27日は一夏様の誕生日ということですね」
「予定開けときなさいよ一夏!」
「あ、ああ。その日は中学の友達が祝ってくれるから俺の家に集まる予定なんだけど。みんなもくるか?」
「もちろん! 何時集合?」
「四時くらいかな。ほら、当日ってアレだろ?」
「キャノンボール・ファスト! いやーマジで楽しみ」
キャノンボール・ファスト。
弾丸より速くという題名のもと、ISによる高速バトルレース。
一年に一度。IS学園の協力の元開催される市のイベントとして催されるこの競技は、IS学園で選ばれた生徒が参加する一大イベント。
「嬉しそうだな疾風」
「まあな。本来は参加できるのは二年生からだったんだけど、今年は俺たちが居るから仕様が変わって一年も参加できるからな」
今年は生徒の専用機の数が例年の比にならない数なので、練習機枠と専用機枠として分かれ。これにより専用機枠は強制参加。
国の看板を背負う以上、過去最大の盛り上がりを見せること間違いなしという。
「それに高速機動部門競技と聞いたら個人的に負けられないからな」
「そういえば疾風の母親は高速機動部門のヴァルキリーだったな」
「うん。流石レーデルハイトさんの子供だなって言われるように頑張らねえと」
正直プレッシャーはあるがそこまで重荷になっていない。
前回の一件から難しく考えすぎないことを心情としてる分、精神的に余裕が生まれている。
「キャノンボール・ファスト用に高機動調整が始まるんだよな。具体的に何するんだ?」
「基本的には高機動パッケージのインストールだが。お前と箒には無いから駆動エネルギーの分配調整とかスラスター出力の調整。紅椿に至っては展開装甲の調整だな」
「今から頭が痛くなってきた」
「高機動パッケージっていうと、疾風と………セシリアみたいなやつか」
「ええ。わたくし、ブルー・ティアーズには高機動戦闘を想定したオートクチュールが用意されておりますわ」
ストライク・ガンナー。通常出力なら白式・雪羅や紅椿にも匹敵するスピードを出せる特注品。
「フフフ、実は今のわたくし向けに改良が施されてるらしいのです。楽しみですわ」
「なにそれなにそれ。すげー興味あるんだけど!」
「残念ながら当日までのお楽しみということで」
くぅ、焦らしてくれるじゃん。
BT適正値が上昇したからそれ関連の奴なのだろうか。
「ということは、セシリアはこの中で一番高機動戦闘に慣れてるってことだよな。今度超音速機動について教えてくれよ」
マズい! 一夏ラバーズは自分が教えようと思っていたばかりにたらりと汗を流した。
だが一夏の言うとおりことそれに関しては一日の長がある。ラバーズ各員はセシリアの出方を伺った。
「………申し訳ありませんが、一夏さんの要望にはお応え出来ません」
「そうか。なら仕方ないな。じゃあ疾風に教えて貰おうかな」
「俺か………」
別にいい、と言いたいところだが。
如何せんラバーズからの視線が鋭い。
「一夏、僕のリヴァイヴは高機動パッケージはないけど、増設ブースターで対応するんだ。一夏が良ければ僕が教えるよ」
「お、そうなのか。じゃあシャルロットに」
「ちょいまち! 一夏! 今度あたしのとこも高機動専用オートクチュールがくるのよ! だからあたしとやりましょ!」
「それなら私も姉妹機である『シュヴァルツェア・ツヴァイク』の高機動パッケージを調整して出してくれることになっている。本国に長く居る分、開発も進んでいる」
「待て!白式がパッケージを装備できないなら同じく装備できない私が一緒に練習した方が身になるのではないか?」
口々に自身の利点をPRする。
律儀に考える一夏は置いとくとして。
「シュヴァルツェア・ツヴァイク! 噂で聞いたレーゲンシリーズの2号機か!? てか鈴も新型オートクチュール!?」
俺的にはそっちの方が気になりますねぇ!
「すまん! そこんとこ詳しく聞かせてくれ二人とも!」
「「少し黙って(ろ)疾風!!」」
「殺生な!!」
シイタケ目強制シャットアウトされた、泣きそう。
いやしかしどっちにしろ国家機密とやらで教えてはくれなさそうだなぁ。
鈴のは分からないけど。ツヴァイクもAICを使った第三世代技術を積んでいるのだろうか。
「あれ? そういえば菖蒲は? 打鉄・稲美都戻ってきたの?」
「残念ですが私は練習機の部門で出場します」
「え、そうなのか?」
「はい。実は打鉄・稲美都をベースに私の専用機を再設計するみたいで、それまで私は専用機持ちの任から外されます」
「打鉄・稲美都とはまったく別物の専用機が宛がわれるってことなのか?」
「はい、そのとおりでございます」
おいおいなんだなんだ? そこらかしこからISオタクセンサーがビンビンなってるぞ?
こりゃあひと波乱起きそうだぜ。
あ、波乱と言えば………
「そうだ。一夏は会長から聞いてると思うけど。みんなに伝えておくことがある」
「なに」
「今回のイベントはスポンサーの他にも一般客が大勢くる。それと平行して、思わぬ妨害工作が来る可能性もある」
「まさか、
「勿論確証はないし、杞憂に終わればそれに越したことはない。だけど可能性はゼロではないってことだけ覚えてほしい」
「わかった」
今回
警戒しとくに越したことではない。
「じゃあ俺は部屋に戻るわ」
「待て、誰が指南役になるか決めてないぞ」
「そうよ! 逃げようたってそうはいかないわよ!」
「構わず逃げるぜ!」
「「あ、待てっ!」」
一夏は振り払うことを覚えたらしい。
一夏も一夏で成長しております。
ーーー◇ーーー
「疾風は強くなりましたわね」
「へぇ?」
部屋でIS関連のニュースを見ているとセシリアが唐突に聞いてきた。
余りにも唐突すぎて変な声が出た。
「そうかな」
「ええ。学園に入ってから見違えるように」
「お前の目から見てそう思ってくれたなら。嬉しいよ」
「わたくしだけではありませんわ。異種多人数戦。誰もが無謀かと思われたあの戦いを見事制した。誰にでも出来ることではありませんわ」
「それに関しては手放しで褒められると少し困るな」
外方の技を使いまくったし。
「フフ、なにかよからぬ手でも使いました?」
「ノーコメントで」
「別に咎めてる訳ではありませんよ。目には目を、歯には歯を。無法には無法を使うのも、時には必要でしょうし」
わたくしには出来ませんわね、とセシリアも本を取り出して開いた。
「もし俺が卑怯な手を使ってあの勝負に勝ったとしたら、軽蔑する?」
「………いい思いはしませんわね」
「だろうな」
「ですが………疾風は彼女らとは違って、己の欲の為にそんなことはしないでしょう?」
「俺、そんな小綺麗な奴に見えるかな」
自分でもひねくれてると思うけど。
「いい思いはしませんが、軽蔑はしません。疾風には疾風の考えがありますし」
「そうかい」
「ですがVTシステムにも打ち勝った決勝戦。あれには感服致しましたわ。もしあの場所に居たのがわたくしだったら負けていたかもしれません」
………その発言はセシリアらしくなかった。
「上手くいってないのか」
「え?」
「フレキシブル」
さっき一夏の誘いを断った時。
あれは「自分の訓練に時間を使いたい」と言ってるように見えた。
「最近セシリアが的を外しているってことを小耳に挟んでさ。レーザーを歪曲させて当てようとわざと射線ずらしてるんだろ」
「そういう風に見られますわよね」
「大丈夫か」
「大丈夫ですわ」
「大丈夫じゃないな」
大丈夫なはずがない。セシリアは悟られないようにしているが、思わず弱気なことを溢してしまうぐらい精神的に疲弊してるのではなかろうか。
その原因が。
「サイレント・ゼフィルスか」
「!」
「すまん、いつか聞こうとは思ってたんだけど。学園祭終わってからそれどころじゃなかったし、時間も置くべきかなって」
学園祭でオータムの増援として来た
その乗機がセシリアの乗るブルー・ティアーズ・シリーズの2号機、サイレント・ゼフィルス。
実弾・レーザー両立のバヨネット付きライフルにレーザービット六基、シールドビット二基。BTシリーズの戦闘仕様機がこの2号機。
更に驚くべきところはレーザーの歪曲という机上の空論とされたオーバースキル、
それは公的記録で一番適正値の高いセシリアをゆうに乗り越えたBT適正値ということを証明し、セシリアたちはそのフレキシブルの前に破れた。
礼節を吐き捨てたテロリストに出来て自分に出来ない。
セシリアにとって何よりも心を抉るものであり、屈辱的な現実だったに違いない。
「上手くいってないのか」
「ほっといてください。これは自分の問題ですわ」
「だけどさお前」
「ほっといて」
「………わかった。だけど俺にやれることあるなら手を貸すからな」
それしか言えない、それしか言えないのがなんか悔しかった。
セシリアの力になれないことに、自分の力のなさを痛感させられたような気がして。
この同居期間もあと少し。キャノンボール・ファストが終わる翌日に解消される。
この生活ももう長くはないんだ。
「疾風は私とここで再開した日を覚えてます?」
「不審者と間違われた日だろ」
「ええ。わたくし、あの時本気で疾風だとわかりませんでしたわ。何故だかわかりますか?」
「うーん眼鏡かけてたから?」
「間違ってはいませんわね」
というと。
「外見的変化もあったでしょう。身長も顔つきも、あの時かけてなかった眼鏡も。私の知ってる疾風とは違った。だけどそれ以上に、昔のあなたとは違う雰囲気、オーラを感じました。正直言うと、あの時疾風だとわかってもあなたのお父様に会うまでは少し疑っていたんですよ。本当に自分の知る疾風なのかって」
パッと窓の外が光り、雷音が遅れてやってきた。
「激しくなりそうだな」
「ええ。あの時もこんな雨でしたわね」
「葬式の日?」
「ええ………」
後ろで雨が窓を叩いた。
そう、あの時もこんな土砂降りだった。
ーーー◇ーーー
3年前。俺は13歳になりたて。
雨が降っていた。
その日は土砂降りで、遠くの景色が灰色に濁って見える程の土砂降りだった。
墓石が並ぶ墓場には黒い傘と黒い喪服で彩りの欠片のない光景で。
皆が涙を流していた。
列車事故。
イギリスの歴史に残る大規模な脱線事故は多くの犠牲者を出し、そのなかにはセシリアの両親が居た。
「まさかこんな形でなくなるなんて」
「まだセシリアお嬢様はハイスクールにも入っていないというのに」
「これからオルコット家はどうなるんだ」
「彼女が当主につくそうよ」
「可哀想に、余りにも荷が重いのではないのかね」
皆が墓石の前にたつセシリアを見ていた。
メイド長のさす傘の下でセシリアは黙って墓石を見つめていた。
「「「可哀想に」」」
その回りで一様に彼女を見て可哀想と言っている集団がいて。
「ねえ」
「え?」
声をかけられた大人は下を見ると、自分たちを見上げる少年を見つけた。
「あら、あなたは」
「どうしてセシリアちゃんのことを可哀想って言うの?」
「え、なんでって。ご両親がなくなったのよ。気の毒じゃない」
「気の毒って?」
「みんなセシリアちゃんのことを心配してるのさ」
「そうなんだ………」
見上げていた少年は大人たちから目をそらし、しばし考えたあと。
少年は………俺は再度大人たちにたずねた。
「ねえ、なんでみんな笑ってるの?」
「!!?」
年端もいかない少年の質問に大人たちの顔がひきつった。
まるで仮面が剥がれ落ちたかのように、隠していた眼は動揺し、震えた。
「お母さんが言ってた。葬式は悲しい物だって。なのにみんな笑いながら可哀想って言ってる」
剥いでいく。
「そ、それは」
「どうして? 可哀想って楽しいものじゃないでしょ? なんでみんなセシリアを見て笑いながら可哀想なんて言うの?」
剥いでいく。
子供の純粋な目と言葉が大人の鎧を剥ぎ取る刃となって、その奥を見ようとする。
「ち、違うんだ。おじさんたちは本当に」
「怖いよ。なんでみんな笑ってるの? ハーリーおじさんが居なくなって嬉しかったの? ソフィアおばさんが居なくなってよかったの? ねえ、なんでみんな笑ってるの?」
「君いい加減に!」
「疾風なにしてるの?」
怒鳴り声に気付いた母さんが駆け寄ってきた。
「お母さん」
「あの、うちの子がなにか失礼なことを?」
「レーデルハイトさん。あなた自分の子供にどういう躾をなさっているのですか?」
「というと」
「この子が私たちに向かってオルコット夫妻の死を喜んでるんだとホラを吹いてきたんだぞ」
「そうでしたか。息子が失礼致しました。ほら、疾風も謝って」
「………ごめんなさい」
頭を下げると大人たちはブツブツ言いながら立ち去っていった。
俺は母さんの手に引かれ父さんの元に連れてかれた。
母さんは特に何を言うわけではなく無言だった。
自分から聞いても後でって言うだけだった。
一人の女性がセシリアをかばうように大勢の大人に向かって怒りを交えながら口論していったのを最後に、葬儀に参列した人たちは散り散りに帰っていった。
ただ一人、傘をさして墓前の前に立ち続けているセシリアを見て、胸がうずいた。
親に断りをいれて一人佇むセシリアの隣に向かった。
「セシリアちゃん」
「疾風………」
「大丈夫?」
「大丈夫ですわ」
「ほんとうに?」
「大丈夫ですわっ」
「ご、ごめん………」
この頃から勝ち気な性格だったセシリアに俺は縮こまった。
今の俺とは違って当時の俺は結構弱虫だった。
「ねえ、さっき怒ってた女の人って誰?」
「わたくしの叔母ですわ。わたくしを保護するなんて言ってきた親戚に対して自分が身元引受人になるって」
「そうなの?」
「ええ。どうせ言い寄ってきた人たちはオルコット家の地位と富が欲しいだけだって怒っていましたわ」
「富って?」
「お金のこと」
ギュッとセシリアの傘を握る手が強くなった。
「遺言書のとおり、わたくしはオルコット家の当主になりますわ。飽くまで仮ですけど」
「凄いね」
「これから財産を守るために戦わなければいけない。オルコット家のお金に手をだそうとする金の亡者から家を守らないといけない。わたくしは、これから戦わなければならない」
豪雨の中でもセシリアの声は力強く耳に届いていた。
自分とは違う。やっぱりセシリアちゃんは凄い子だと俺は頭ではなく心で理解した。
だけど見てしまった。
彼女の目尻に雫が浮かんでいるのを。
必死に押し留め、流してなるものかと目に力を居れて。
大丈夫なわけがない。
悲しくないわけがない。
母を尊敬し、父は距離を開いていても。セシリアは二人のことが大好きで仕方ないんだ。
だけどもう会えない。二人は目の前の墓に埋まっていて、もう出てくることはない。
もう、二人には会えない。
「うぅ」
二人に二度と会えないとわかった途端急に涙腺が壊れた。
止めたいと思うことなく俺は泣き出した。
セシリアは急に泣き出した俺に驚き、泣くのを止めようと詰めよった。
「な、なんで泣きますの!? やめなさい疾風! 泣くのをやめなさい!!」
「うわぁぁぁん! うぁ、ぁああぁぁぁーー!!」
声の限り泣いた。
泣いて泣いて泣き続けて。雨の音に負けないぐらい泣き叫んだ。
「わたくしも我慢してますのよ! だけど泣いちゃだめなの! わたくしはオルコット家の当主になるの!! 泣いてる暇なんて、泣いてるなんて………ひぐっ、ぅぅ、うぅぅぅ………」
ポロポロとセシリアの目からも涙の筋が出来はじめた。
幼い俺とセシリアはセシリアの両親の前で泣き続けた。
張り裂けそうな思いを吐き出すように。
出てほしくないのに出てくる涙を止めようと目を擦って。
少年少女はなにも考えずにただただ泣き続けた。
泣いても帰ってこないのに。来るわけないのに泣き続けた。
泣くことしか、俺たちには出来っこなかったんだ。
ーーー◇ーーー
「泣いて泣いて、どれくらいたったかわからないくらい泣きましたわね」
あんな大声で泣いた時もあったな。
「あのあと疾風は日本に行くことになって。わたくしは空港まで見送りにいって」
「そっから音信不通になったな。お前はすぐに代表候補生になっちまって」
「疾風は空港で別れる時わたくしに大っきな声でこう言いましたわね。『セシリアちゃんに負けないぐらい強くなる!』って、思わず笑ってしまいましたわ」
「記憶にねーなー」
嘘です、ばっちり覚えています。
でもそんな大声で言ったっけ。
………言ったな。
「でも疾風は逞しくなりましたね。再開したらあんな逞しくなって。その後すぐに弱虫の顔覗かせましたけど」
「出来ればその部分だけ忘れて欲しいな」
「してあげません」
いたずらっぽく笑うセシリア。
少しホッとするのもつかの間、また目尻が下がった。
「疾風はどうしてあそこまで強くなれましたの」
「それは、あいつらが許せなかったから。手段なんか選んでられないっていうか」
「違いますわ」
「え?」
「言い方を変えますわ。あなたは何故今の自分に変われたのですか? あの時泣きじゃくっていた疾風が、どうしてここまで強くなれたのですか?」
「なんでって」
なんか調子狂うな。
それを聞いたところでなにになるのかと思ったけど。
それが結果的にフレキシブル成功に繋がるのなら。セシリアの気分が少しでも晴れるなら。
「強くないと生きられないだろ。今のご時世」
「そうですわね」
「とにかく強くなりたかった。勉強も運動も、心理戦とか、どうやったら相手の鼻をへし折れるのかとか。ずっと考えてひたすら努力したらこうなった」
「なるほど」
「あとはやっぱISに乗れるようになった時に向けてかな。じゃないとアラスカ条約加盟国の言語覚えるなんて出来ないし」
やろうとも思わないだろうし。
IS動かせなかったらバイリンガルって道もあったな。
絶対嫌だけど。
「満足したか」
「ええ、変なこと聞きましたね」
「まったくだ」
「汗を流してきますわ。お先によろしくて?」
「いってらーい」
セシリアが衣装タンスを開くと同時に俺はスマホをいじって気を反らした。
セシリアがシャワーを浴び始めて、俺はベッドに背中を落として身を任せた。
「強くなれた理由か」
確かに強くなれたと自分でも思う。
昔の面影がないなんて言われたら正にその通りだし。
暗いとこで本読みまくって眼鏡かけ始めたし。
背も伸びたし筋肉もついた。
相手の出方を見て対応する力もついた。
慣れない戦場でも的確に指示を出して味方を導いて、現国家代表である会長からも一目を置かれた。
偽物の贋作劣化品とはいえブリュンヒルデのアバターにも勝つことが出来た。
「なんで強くなろうなんて言ったんだっけ」
誰に聞こえることなくそれは雨の音に消された。
何故そんなに強くなれたのか。
今のこの世界に対する反骨心。
いつかISに乗るためのスキルアップ。
どちらも確かな理由だ。
だけどまだ中学になりたての俺がそんな深く考えて「セシリアに負けないぐらい強くなる」なんて言ったんだろうか。
もっと簡単で、それでいて重要な理由があったはず………なんて思い始めてモヤモヤし始めた。
考えても思い出せなかった。解くに難しく考えてなかったのかな。
雨はやむことなく降り続けている。雷も鳴ってくる始末。
明日晴れるかなと思いながら俺はISのウィンドウを開いた。