IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第71話【高速機動プラクティス】

「!!」

「あ、起きた」

 

 目が覚めるとセシリアは学生寮の廊下で疾風におんぶされていた。

 

「あの、わたくし」

「お前マッサージの最中に寝落ちしたんだよ………まったくあんな無防備に………」

「寝ていた?」

 

 ボヤボヤする意識のなかセシリアは記憶を整理する。

 

(どこからが夢でしたの?)

 

 テニス部のトーナメントで優勝、身体を清めて一夏の部屋に行きマッサージを受けた。

 そして………

 

「疾風。あなたわたくしにマッサージしました?」

「は? してねえよ」

「本当に?」

「俺が寝てるやつに手を出すクソ野郎だって言いたいわけ?」

「ち、違いますわよ」

 

 ということは、夢は疾風がマッサージをすると言い出した時。

 途端にセシリアは顔を真っ赤にした。

 

(わ、わたくしはなんて淫らな夢を見て!!)

「おぅ、なんだよどうした?」

 

 思わず肩に顔をうずめたセシリアに疾風は動揺する。

 

(いい匂いが………)

 

 ずり落ちそうになったセシリアの足をもう一度上げなおし、また歩き出す。

 

「あの、疾風」

「なに?」

「怒ってます?」

「………………怒ってねえよ」

 

 と言いつつ声色は不機嫌を隠しておらず、むしろ隠す気すらないのではというぶっきらぼうっぷりである。

 

 疾風もあえて追求せず黙って歩き続けた。

 釈然としないと顔に書きながら。

 

(うぅ、今回は確実にわたくしの落ち度ですわ。ですが、ですが………………わたくし、欲求不満なのでしょうか)

 

 先程の夢がありありと残っているセシリアは黙って疾風の肩に顔を埋めるのだった。

 

 今日のことは、少なくとも夢のことは忘れよう。そう決意した。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 朝食時の学食。

 一日のエネルギーを補給する為の大事な時間。

 そんな憩いの場に乙女突風が吹き荒れる。

 

「セシリア! 昨日織斑くんのマッサージ受けたって本当!!?」

「んん!? ゲホッゲホ」

 

 決意した翌日にクラスメイトに掘り返されたセシリアは飲んでいた水でむせた。

 

「え、ええ」

「ま、まさか二人っきり!?」

「………………」

 

 思わず口ごもるセシリア。

 だがその程度でエンジンのかかった青春女子は止まらない。

 

「どうなの織斑くん!?」

「え? まあ、そうだけど」

「ちょ、一夏さん!?」

 

 なんのことなしに答える一夏。やましさの欠片のない美顔から放たれる純粋な瞳をセシリアは直視出来なかった。

 

 そして女子の一言に先程一夏と談笑していた一夏ラバーズのスイッチが押された。

 

「ええーー!?」

「い、一夏! あんたセシリアと二人っきりでマッサージ!?」

「せ、生徒会長は?」

「よ、用があるって出てった」

「一夏! お前セシリアに何をした!?」

「マッサージだよ!」

 

 思わぬとばっちりに一夏はギャーと悲鳴をあげた。

 

「で、その後どうなったのセシリア」

「え、どうなったとは」

「とばけるでねぇ! 男女二人っきりのマッサージ。なにも起きない訳がないでしょう!」

「え、ええ!? そ、そんな。そんなわけ………ないでしょう」

 

 なにも起きないはずもなく。

 実際なにも起きなかったがセシリアは昨日の夢を思い出して真っ赤に、声もしどろもどろになってそれがまた誤解を生んだ。

 

「一夏ぁ!!」

「誤解だよ! 濡れ衣過ぎるだろ!」

「うっさい! あたしが気に入らないのは生徒会長以外で女子と二人っきりになったことよ!」

「そっちかよ!」

 

 あながち見当外れではないが一夏は突っ込まずにいられなかった。

 相川を筆頭とするデバガメ女子は更にセシリアに追求する。

 

「ねえねえ、どうなったの? もしかしてそのまま泊まったとか?」

「な、なにもありませんわ」

「いやそうならそんな顔赤くならないでしょ」

「くぁー、一足先に大人の階段登ったかぁ………」

「ちょっと谷本さん!」

「セシリア、大胆」

「夜竹さんまで!?」

「さぁさぁ、洗いざらい話しちまいな?」

 

 ジリジリと包囲網を形成されていくセシリア。

 そして徐々に鮮明化される夢の中の疾風とのギリギリなマッサージ。

 

 見当違いな確信を元に尋問が始まろうとしていた───

 

 ベキンッ!! 

 

「ん?」

「え?」

 

 その時、何かが折れる音が聞こえた。

 

 一同は何事かと辺りを見回した。

 

「疾風様。疾風様」

「ん? なに?」

「あの。お箸が、折れています」

 

 視線を落とすと疾風の手に持っている箸がものの見事に真っ二つに折れていた。

 

「あ、ほんとだ」

「大丈夫ですか?」

「うん。変えてくるわ」

 

 折れた箸を持って立ち上がった疾風は学食のおばちゃんの方に向かう。

 

「あ、そうそう」

 

 その途中で一夏とセシリア、他クラスメイトが座るテーブルの横で立ち止まった。

 

「昨日セシリアは一夏のマッサージの最中に寝落ちして、その後連絡を受けた俺が回収に向かったんだ。だからセシリアが一夏の部屋に泊まったとかはないし。ちゃんと俺とセシリアの部屋で寝たよ」

「そ、そうなんだ」

「だからやましいことなんてない………そうだよな、二人とも」

「「も、もちろん!!」」

「ならいい」

 

 ふいっとそっぽを向いた疾風に一同は冷や汗を流し、その背中を見つめた。

 

「疾風のやつ、怒ってた?」

「え、なんでよ?」

「いやなんとなく………」

「もしかして私たちのせい?」

「セシリアのことからかったから?」

 

 その後箸を取り替えた疾風が席にもどって食事に戻った。

 

 一夏ラバーズは自分もマッサージしてもらおうかと頼もうとしたが、とてもそれを持ち出せる空気ではなかった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 はぁ………

 

 幾らなんでも大人げない。

 

 噂なんて尾ヒレはヒレもなんぼのもん。

 特に気にすることはないだろう。

 

 なんで赤くなってたんだよ、セシリア。

 

 決して二人を信じてないわけではない。むしろ信じている。二人が嘘をつくはずなどないと。

 

 だが相川さんたちの会話を聞いてどんどん嫌なイメージが沸いてきて。

 

 もしかしたら二人はみんなに隠れて付き合っているのではないかとか。

 二人の空気を読んで会長が部屋を出たのではないかとか。

 二人っきりの密室でことに及んだのではないのかとか。

 

 気づいたら箸が折れていた。

 

 向かいの席に座っていた菖蒲も引き気味だったし。そりゃ箸折れたまま微動だにしない男なんて怖いよ。

 

『疾風くんってセシリアちゃんのこと好きなの?』

 

 昨日会長に聞かれた時、俺は答えることが出来なかった。

 

 友人です、ライバルです、ただの同居人です。

 

 そう答えることが出来たのに答えられなかった。出たのはかすれた吐息だけで、答えること事態を拒否していた。

 

 都合よくそれが『恋』だなんて答えたくなかった。

 都合よくそれを『愛』だなんて形にしたくなかった。

 

 そんな俺を見て会長は特になにかする訳でもなく意味深な笑みを浮かべてこう言った。

 

「ズバリ恋かな?」

「わかりません」

 

 息詰まった癖に即答しやがった。

 違うとは言う暇すらなかった。

 答えなんてないくせに答えやがった。

 こんな時に限って一番無難な答えを出しやがった。

 

 そんな俺を見て会長は声を出して笑った。

 

 そして良いものが見れたと言って会長は部屋を出ていった。

 

 一人残された俺は寂しく自己嫌悪。

 

「フフッ」

「ん? どうした菖蒲」

「いーえ、なんにも」

「?」

 

 そんな情けない男に告白した女は笑みを浮かべながらご飯を食べた。

 奥底を見透かされたのだろうか。

 それはねえか。だって菖蒲は俺を見て楽しそうに笑ったのだから。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「はい、それでは皆さーん! 今日は高速機動についての授業をしますよー!」

 

 我らが副担任、山田先生の声が第六アリーナに響き渡る。

 相も変わらずその暴力的な身体をISスーツにギュッと納めるそのフォルムはやはり目の毒。

 入学当初は女子のISスーツ姿よりISに夢中だった俺も今や環境になれたせいでこの有り様よ。

 

 俺のIS愛は所詮この程度か。こういう時はセシリアのストライク・ガンナーを見て落ち着こう。美しい………。

 

「この第六アリーナは中央タワーと繋がっており高速機動実習が可能であることは先週皆さんに話しましたね?」

「あ、あの先生」

「はいなんでしょう」

「どうして最適なんでしたっけ?」

 

 おずおずと手を上げた生徒に山田先生は優しい笑顔で答えた。

 

「それではレーデルハイトくん。おさらいとして説明してくれますか?」

「了解です。このアリーナは他のアリーナより横に長く、超加速による実験や練習に最適です。中央タワー事態がシールド発生装置としての役割を持っていてシールド発生範囲が縦にも長く、高速機動状態のIS間での事故防止にもなっています」

「レーデルハイトくん、ありがとうございました!」

 

 いえいえ、これぐらいなんてことないですとも。

 

「それでは始めに高速機動経験のあるレーデルハイトくんとオルコットさんに実演してもらいましょう」

「「はい」」

「まずは高機動パッケージ【ソニック・チェイサー】を装備したレーデルハイトくん!」

 

 通常の装甲に追加スラスターと尾羽根状のテールスラスターを装備し、シャープ感の増したイーグル

 前に出た俺にクラスメイトがオーと声を上げた。

 もっとだ。もっと褒めて俺のISを! 

 

「そして同じく高機動パッケージ【ストライク・ガンナー】を装備したオルコットさん!」

 

 ムフーとしてる俺の横に並んだセシリアはこれまた凛々しい顔。

 ビットの砲口を封じ、その全てを推進力に回した高速特化装備。

 相変わらずビットがスカートのようで、ブルー・ティアーズがドレスに見える。

 

「それでは二人とも、準備をお願いします」

 

 おっと、見惚れてる場合じゃなかったな。

 

『高速機動補助バイザー、起動』

 

 高機動モードに移行したイーグルのハイパーセンサーの影響で一瞬フラッシュがたかれた用に画面が光り、見慣れた景色が更に洗練されたものに変わった。

 

 分かりやすく言うなら、新しい眼鏡を変えた時に違和感を覚える感じ。

 いや、これは眼鏡人にしか分からないか。

 

『ホログラムコース、オン』

 

 アリーナのホログラム生成機がコースを形成する。

 お試しと言うこともあってか、それほどエグいコーナリングはなさそう。

 

「二人とも、準備は宜しいでしょうか」

「「はい!」」

「それでは。3・2・1・ゴー!」

 

 山田先生のフラッグで二機のスラスターに火が入った。

 加速につぐ加速。IS自体がレールガンの弾頭みたいに弾き出される。

 常時瞬時加速(イグニッション・ブースト)と見紛うほどの速力に、改めてISという代物のポテンシャルの高さを思い知らされる。

 

「お先に!」

「あ、マジか!」

 

 思考してる間にセシリアがギアを更に上げて前に出た。

 そのまま中央タワーをグルリと周回していく。

 

「ギアアップだイーグル!」

 

 慎重にチンタラやってたら追い付かない。

 大胆かつ繊細に、ぶつかることを恐れずに突っ込む! 

 

 マニピュレーター内の操縦桿を的確に操作し、マニュアルで最短に次ぐ最短でコーナリング、そして瞬時加速(イグニッション・ブースト)! 

 

 もはや二段瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)に匹敵する速度を持ってやっとブルー・ティアーズを射程に納めた。

 

「追い付いたぁ! 見えたぜセシリア!」

「あら? わたくしの魅力的なヒップが?」

「確かに魅力的だけど」

「ふぇっ!?」

 

 とっさに出てきた思わぬ返答にセシリアの顔が真っ赤になり、ISの挙動に揺らぎが見えた。

 

 そのまま並走状態で追い越し、IS1機分の差で先にゴールした。

 

「はいっ。お疲れ様でした! 流石経験者ですね、お見事です」

 

 山田先生が子供のようにピョンピョンと満面の笑顔で飛び上がって喜んだ。

 そのせいで豊満な胸部装甲が狂喜乱舞。

 

 相変わらず目のやり場に困る。

 またセシリアに養豚場の豚を見る目をされたくなくて目を反らしたら一夏がラウラにAICでロックをかけられていた。何してんだろあいつ。

 

「それでは。次に通常装備状態ですが。スラスターに出力調整を施し、仮想高速機動仕様にした織斑くんと篠ノ之さんに1周して貰いましょう」

「わかりました」

 

 AICを解除された白式・雪羅と紅椿が並び立つ。

 片方が第二次形態移行(セカンド・シフト)、もう片方が前人未到の第四世代ISという面立ちに生徒から感嘆の声が上がる。

 

「これがセカンド・シフトかぁ。まじまじと見るには始めてかも」

「二人とも綺麗なISだよね。紅白で縁起もいいし」

「通常出力でも相当速いらしいよ」

 

 確かに二機の間には親和性がある。

 篠ノ之博士はこの二機でワンセットというコンセプトで作ったみたいだけど。

 

 しかし二人は福音戦で経験があるとはいえ、こういうレース系には慣れてないと思うけど設定とか大丈夫だろうか。

 

「一夏、わからないところはあるか?」

「いや、大丈夫だ。バイザーのモードをハイスピードにするのに苦戦したけど」

「私のは探そうと思ったら目の前に現れたぞ」

「流石束さん製だな」

「それはお前もだろうに」

「まあな」

 

 うん、大丈夫そうだな。

 

「あの、疾風」

「はい」

 

 振り替えるとまだ赤いセシリアが。

 なんかモジモジしてて可愛い………かもしれない。

 

「さ、さっきのは一体どういう」

「え?」

「み………」

「み?」

「魅力的だって」

 

 魅力的、魅力的………あっ。

 

「ああ、言ったな」

「や、やっぱり言いましたの!?」

「そりゃ、本当のことだし────ストライク・ガンナーのビットスカート」

「はっ?」

 

 セシリアから感情が消えた。

 

「いや、この流線型のフォルムと光沢が高機動時の視界とこう見事にマッチし、いっだぁっ!?」

 

 ゴツンっ! と鈍い音を立てて後頭部が殴打された。

 見ると分離したビットがフヨフヨと浮いていた。

 

「おい痛いじゃないか! いま首がグインってなったよ!? シールドも減ったし!」

「知りませんわ! 馬鹿っ!!」

 

 怒ってしまったセシリアはビットをスカートに戻し。ラウラとシャルロットの元に行ってしまった。

 あの様子から愚痴りに言ったのだろう。

 

「………あっぶねえ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「箒、大丈夫か」

「大丈夫だ、これ以上言わないでくれ」

「おっけー。俺も人のこと言えないからな」

 

 福音との高速機動の経験がある二人だが、ジャンルの違うレースとなると勝手が違ったのか曲がりきれなかったり、加減速が上手くいかない箇所があった。

 それでも充分及第点だと山田先生が褒めに褒めまくったことで事なきを得た。

 

「いいか。今年は異例の一年生参加だが、やる以上は結果を残すように。通常とは違うISの動かしかたは必ず生きてくる。3日後に練習機組の選抜メンバーを決めるため、各員努力を怠らないように」

「はい!」

「それでは各自割り振られた機体に乗り込め。時間は有限だ、ぼやぼやするなよ。では開始!」

 

 パンッと織斑先生の合図で生徒が散り散りにISに群がっていく。

 

「織斑くんたちに負けてられないわね!」

「お姉さまにいいところを見せ、勝ってデザート無料券をゲット!!」

「やるぞーー!」

「おーー!」

 

 生徒の気力も充分、動機が目先の欲に向けすぎなのはいつもの光景なので問題なし。

 

 さて俺はコースが空くまで専用機組の様子見兼敵情視察と行くかな。

 

「疾風ー」

「おう一夏どうした」

「スラスターのエネルギー分配について相談したいんだけど。俺が一人でやると目が点になって情報が入ってこない」

「成る程」

 

 一夏は要領は良いんだけど、相変わらずこういうメカニック系については苦手の域にある。

 だが一度理解すると爆発的に成長する、なんとも育てがいのある子なんです。

 

「俺が教えてもいいけど、先ずはみんなの様子を見て参考にしたらどうだ? そのあと一緒にやってこう。幸い一夏と同じ感じで悩んでる奴も居るだろうし」

「そうだな。箒あたりが苦戦してそうだ」

 

 

 

 

 

 

「箒」

「………」

「箒ー?」

「………」

 

 眉間に皺をよせて空中投影ディスプレイとにらめっこしてる箒。

 一夏の声が届かないほどの集中具合。

 

 こういう時の対処法は心得ている。

 

「あ、あそこに居るのは篠ノ之束!?」

「「なにっ!? 何処だ!?」」

「いやお前も引っ掛かるのかよ一夏」

 

 仲良しかお前ら。

 

「あれ、姉さんは?」

「いないよ」

「疾風! お前騙したな!」

「スマンスマン。でもお前顔ヤバイことになってたぞ」

「なにっ!? み、見たのか一夏!」

「いや、そんなにヤバイ顔してなかったぞ」

「見られてるということじゃないか………」

「いや大丈夫だ箒、ヤバイってのは結構オーバー気味だったからそんな落ち込むなって」

 

 ガックリと萎れる紅椿と箒。

 随分と苦戦してたみたいだ。 

 

「箒、俺も追加装備無し組だからさ。疾風を交えて一緒に考えてみないか」

「構わん。私一人だと辿り着けないからな」

 

 断言しちゃうんだ。

 まあ着地点を早めに見つけるのは良いことだ。

 

「じゃあまず一夏から聞くか。一夏はどんな感じでやろうと思ってる?」

「うーん。俺は高速機動に慣れてないし、射撃技能もまだ立派になったとは言えない。零落白夜はチャンスがあれば当てにいきたいけど、いまんとこ望み薄だ。だから」

「「だから?」」

「敢えて武器を出さずにスラスターに全振りした方が良いんじゃないかと」

「お、おぅ」

 

 思わず息を飲み込んだ。

 だが一夏の顔は真剣そのもので、冗談で言ってる訳じゃないことは確かだ。

 

「一夏、お前攻撃を受けたらどうするんだ?」

「かわす」

「お前から仕掛けるときは?」

「速度に物を言わせて体当たり。あとは漁夫の利を狙って全力で逃げ切る」

「「猪武者だな」」

「言うなよ! 俺も色々考えたけど速度に気を遣いながら雪片や雪羅を使って立ち回れるイメージがつかないんだよ!」

 

 拳を、マニピュレーターを握りしめて一夏は歯を食いしばった。

 

「ま、まあ。それも純粋に戦術の一つだと思うぞ。しかし、なぁ?」

「ああ、一夏は目立つからな。全力で逃げたら全員が全力で撃滅しに行く未来が見える」

「牽制でも荷電粒子砲撃つべきかなぁ」

「キャノンボール・ファストは他競技に比べてリミットダウンが起きにくいから、そこまで積極的に相手を倒すより妨害に徹するパターンもあるぞ」

 

 一発の被弾で機体が錐揉み回転ってのも珍しくないし。

 

「そういや千冬姉はどうだったんだ?」

「ああ。辻切りの如くすれ違いざまにバッサリバッサリ。命を懸けた鬼ごっこと言われても間違いではなかったな」

「やっぱ千冬姉すげえなぁ」

「格の違いとはこのことだな」

 

 高速機動部門ヴァルキリーの母さんも「切り合いに持ってかれたら私も落とされてたわね」って言う程だし。

 暮桜は白式と違ってパッケージつけてたから安定してたよなぁ。

 

「とりあえず雪羅はオンにしとけば? ハイスピードだと荷電粒子砲の威力は絞っても充分妨害になると思うし、霞衣で防御したビームは霧散するからスピードロスにならないだろ」

「問題はピンポイントに展開できるかだな。そこは慣れるまで練習か」

「一応お前にモンド・グロッソのキャノンボール・ファストの動画あげようか?」

「頼むわ」

 

 一夏のコンセプトは大体決まったようだ。

 

「次は箒だな。見てみると、展開装甲のエネルギー分配か」

「ああ、全部開けば他の追従を許さないぐらいの速度は出せるのだけどな」

 

 福音のファーストアタックの時のあの速量は目が飛び出そうになったな。

 しかもあれで瞬時加速(イグニッション・ブースト)なしなんだから恐れ入る。

 

「だけどそれじゃあ直ぐにエネルギーが空っけつだよな」

「そうなんだ。それに曲がることも出来ずに直進してしまう。全部が全部全力で行けば良いということではないのは先程体験済みだ」

 

 データを見るに、紅椿は背部と脚部だけで高機動モードになれる。

 

「紅椿って本当に汎用性の塊だよな。出来ないことがないぐらいに」

「だが燃費は劣悪だ。エネルギーが無ければISはただの鉄塊に過ぎん。まったく加減というものを知らないんだあの人は………」

 

 ああ。箒の機嫌がストップ安に。

 未だに姉のこととなると顔に出てしまう。

 他人事だけど、あの姉だからなぁ。

 

「でも絢爛舞踏あれば解決だよな」

「あ、あれは。まだ使えない。臨海学校の時に使ってからまだ二回しか発動していない」

「え、そうなのか?」

 

 一夏の零落白夜で麻痺しそうだけどワンオフ・アビリティー発動のメカニズムってまだ黒箱状態な部分あるんだよな。

 というのも、そもそもワンオフ・アビリティーを発動できることが世界でも数えれる程度しかいない。

 

 箒みたいに上手く発動できないっていうのは特段珍しいことではない。のだが。

 

「俺から見て思うんだけど。紅椿って絢爛舞踏発動を前提に出来てる気がするんだよな」

「一夏の言うとおりだな。発動すれば使いきったエネルギーも回復。スペックで言うとマジで魔王マシンだ」

「疾風、それ褒めてるのか?」

「超褒めてる」

 

 超高速で飛び回るうえ、高威力の射撃と実力に裏打ちされた剣術に加えて1でも残ったら全回復されるとか相手からしたら恐怖でしかない。

 

「まあ不確定な物を何時までも論議していても仕方ない。レース中は一発の被弾が致命傷になりかねないからシールドモードはセミオートで。直線になれば私に分があるが。急カーブはどうにも慣れん、直角はやろうと思えば出来るがそれだとコースアウトになるし」

「曲がるときに片側だけ展開って出来ないのか? 俺のイーグルは曲がるとき片側だけ出力高めとかにしてるけど」

「………やってみるか」

 

 やってみた。

 

「出来たぞ!」

「はえーなオイ」

「気持ちいいぐらい上手く回れたなぁ」

 

 いやはや、やっぱ箒も掴み取ったらガッツリ上がるタイプかもしれん。

 間違いなく箒は理論より感覚よりだし。

 

「とりあえず分かったことはある。つべこべ言わず鍛練あるのみ! 行くぞ一夏! 疾風もありがとう!!」

「お、おう! じゃあな疾風!」

「はい行ってらーい」

 

 白式の肩アーマーを掴んでレース場に行く箒。

 骨の髄まで武道少女の箒。一夏もその気質あるし。IS関係なく良いコンビだよな。

 

 さて俺はシャルロットかラウラあたりに行こうかねぇ。

 キョロキョロと辺りを見回す俺にISを装備した山田先生がスイーっとよってきた

 

「あれ。レーデルハイトくんもしかして持て余してます?」

「いえいえそんなことありませんよ山田先生。今も一夏と箒にアドバイスしていた程です」

「レーデルハイトくんって教え上手ですよね。どうです? 将来IS学園に就職するとか」

「ハハっ、考えておきます」

 

 そうか。IS学園に就職すれば就職してもIS動かし放題か。

 考えておきますと当たり障りの無い返答をしてしまったが、候補に入れとくのも悪くないな。

 

「そうだ。せっかくだから私と模擬レースしませんか? キャノンボール・ファスト想定の高速機動戦闘です」

「良いんですか!? 是非お願いします!」

 

 山田先生とバトルしたことって実はないんだよな。

 セシリアが言うには鈴とタッグで組んでも勝てなかったというし。これはまたとない好機! 

 

「おおっ。山田先生なかなかゴツいの積んでますね。うわっ、シールドユニットにもスラスターついてる」

「これは主にサイドスラスターとして使用してます。あとは背部に三基ほど」

「これ、デュノア社規格じゃないですよね。さっきチラッと見たシャルロットのカスタムはもうちょっとコンパクトでしたし。あっ、これ国際宇宙開発のロゴですよね?」

「良く気づきましたね。これは元々大気圏離脱用のものを転用してるんです。ロケット燃料を使う分、大型化してるんですよ」

 

 つまり、スペースシャトルのロケットブースターのような物か。

 

「こういうのを見ると。ISが元々外宇宙活動用パワードスーツとして製造されてたっていう篠ノ之博士のファーストプランを思い出しますね」

「本当はそれを主導にISは運用される筈だったんですけどね」

「白騎士事件の影響大きすぎましたからね」

 

 いまや女性優遇社会の象徴もしても祭り上げられている。

 あの篠ノ之束が白騎士事件を起こしたのだとしたら。

 こうなるということを予測できなかったのだろうか………。

 

「ハイ! 湿っぽくなりましたが。早速始めましょう。レーデルハイトくん、準備は良いですか?」

「いつでもどうぞ!」

「では始めましょう。カウントスタート!」

 

 山田先生の掛け声でホログラムがカウントを表示する。

 

『3・2・1』

 

「「ゴー!!」」

 

 スカイブルー・イーグルの電子スラスターの鋭い音が、ラファール・リヴァイヴのロケットブースターの爆音に掻き消された。

 

 それでもスタートダッシュを決めたのはイーグル。開幕から行きなり瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い山田先生を後ろに置いた。

 

 八基のフレキシブルスラスターと追加スラスター、テールブースターを器用に使いインコースをひたすら攻めていく。

 

「やりますねレーデルハイトくん。流石はアリアさんの子供ということですか」

「どうでしょうね!」

「では先生も手を出さざるおえません」

 

 山田先生が速度をあげ、手にアンチマテリアルライフルを構えてきた。

 

 スドン! と重い音をたてて特殊徹甲弾が放たれる。

 それをイーグルのプラズマフィールドを使って斜め上に弾き飛ばした。少し機体が揺れたが、問題ない。

 

 負けじと後ろ手にプラズマバルカンをばらまいて山田先生の注意を削ぐ。

 

『警告! コース上に爆発物』

 

 見ると山田先生がコース越しにグレネードランチャーで置き攻めをしていた。

 進路上に置かれた複数のグレネードは警告された時には既に目と鼻の先。ドンピシャのタイミングで起爆した。

 

 だがそんなのは予測済み。爆発の影響でコースアウトしないようプラズマフィールドの形を変えて爆風の流れを受け流し、PICブレーキで踏みとどまった。

 

 そして後方にビーク六基をパージ。すれ違いざまに山田先生のラファールを傷つけて時間稼ぎをする。

 

 普段見せない好戦的な笑みを浮かべた山田先生は再度ロケットブースターを再点火、爆発的な加速でイーグルの後ろについた。

 

 撃たれるマシンガンを掠めながら。俺とイーグルはゴールテープホログラムを切り裂いた。

 コンマ数秒で山田先生がゴール。

 観戦していた生徒から歓声が鳴り、演習は終了した。

 まさにあっという間の攻防。普段のバトルとは違う緊張感に思わず溜まった息を吐き出した。

 

「フーー」

「お疲れ様でしたレーデルハイトくん。お見事でした」

 

 そう言う山田先生はケロリとしていた全然平気そう。

 なんでそんな平気そうなんですか。技量ゆえですかね。

 

「いやぁ。負けるつもりは無かったんですけどね。最初の瞬時加速(イグニッション・ブースト)で引き離されて抜けなかったのが痛かったですね」

「抜かれたらもう追い越せないって予感はしてたんで」

 

 相手は学園で戦闘教員に抜擢される程の腕前。不意をつかないとあっという間に引き離されると思った。

 

「プラズマフィールドがここまで厄介だとは思いませんでした。途中のグレネードも対策済みでしたし。予感はしてたんですか?」

「ええまあ。進路上のグレネードはフランス代表が良く使う手だったので、何回も見直した甲斐がありました」

 

 ぶっちゃけ予習してなかったら確実にコースアウトしてた。

 もし俺が山田先生の後ろについてたら、的確な射撃とグレネードで追い抜くことは困難だっただろう。

 

「それじゃあ先生は他の生徒を見てきますね」

「ご指導ありがとうございました」

「いえいえ、私も楽しかったです」

 

 笑顔でお辞儀をした山田先生は悪戦苦闘している訓練機組に向かって行った。

 

 しかし正にバッチリのタイミングで打ち出したグレネード。直撃ではなく爆風と爆炎でコース外しを狙うとは。

 

 山田元日本代表候補生。侮りがたし。

 

「疾風ー!」

「あい、どうしたシャルロット」

「いまパッケージのインストール終わったんだ。僕とラウラでレースの練習しない? あ、エネルギーまだ残ってる?」

「ええと。大丈夫だ、行こう」

 

 俺はエネルギー残量を確認した後、ラウラの待つスタート地点に向かった。

 

 レースは一週間後。

 うかうかしてたら直ぐに追い付かれてしまうな。

 もっと頑張らないと。

 

「そういえばさっきセシリア怒ってたけどどうしたの?」

「忘れてくれ」

 

 

 

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