IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
というね。
どうも皆さん、疾風・レーデルハイトです。
現在放課後。夕焼けが眩しい今日この頃。
そんななか俺は。
屋上に呼び出されています。
放課後のISを動かし終えた俺は待ち構えてたとばかりに箒、鈴、シャルロット、ラウラに仁王立ちされていたのです。
いや、シャルロットだけは仁王立ちせずアハハと困った笑いを浮かべていた。
良い子ちゃんめ。
呆然としている俺の手を掴みあれよあれよと屋上に連行され。何故かわからんが缶コーヒーを渡された。
俺コーヒー飲めないのに。
まあ呼び足された理由はおそらく一夏関連かなと予想している俺。
ていうかこの面子で一夏関連じゃなかったら逆に凄い。
先陣を切ったのはチャイナガール凰鈴音。
「疾風!」
「はい」
「あんたに折り入って頼みがあるわ」
「はあ」
さて、どんな無理難題が来るのかな。
もうすぐ来る一夏への誕生日かな?
「あたしたちに1日ずつコーチしなさい!」
「んんっ?」
あれ、一夏の話題じゃないだと?
こいつら本物か?
「なぜ俺?」
「あんた教えるの上手いじゃない」
「まあ」
箒と鈴よりは。
「今失礼なこと考えた?」
「いーえ」
なんで分かるんだよ。
ポーカーフェイス意識してたのに。
「最近一夏の成長が目覚ましいのは知ってるだろう」
「まあね」
零落白夜の使い方が最初とは雲泥の差となった。
今では自滅エンドも少なくなり、勝率が一気に上がったのだ。
「一夏自身の意識改革もあってね。貪欲に強さを吸収していくっていうか。なんていうか、言うようにもなったのよ」
「というと?」
「………」
聞き返すと鈴はバツの悪そうな顔で頬をかいた。
「その、あたしたちってさ。一夏の特訓絡みで喧嘩することがたまにあるじゃない?」
「しょっちゅうだろ」
「そ、そうとも言うわね!」
お、言い返して来なかった。珍しい。
「この前私と鈴がどちらが一夏に教えるかと喧嘩になったことがあってだな。その時見かねた一夏がこう言ったのだ。『すまん二人とも! 時間押してるから今日と明日で一人ずつ分けないか?』とな」
ほぉ。一夏は本当に言うようになったな。
以前なら持ち前の優しさと流され体質でなあなあになってしまうのに。
「そんな一夏を見て私は思った。これは嫁に負けてはならないと」
「いやお前の嫁じゃないだろ」
「つまり、私たちが仲違いしてる場合ではないということ」
「まあなんていうか。あたし達の都合を押し付けて一夏の練習邪魔するのは悪いなって」
「お前本当に鈴か?」
「ド失礼ねあんた!」
いや、あの鈴が相手の。というより一夏の都合を考えて動こうとするなんて。
唯我独尊リトルドラゴンの鈴が言うと偽物かと疑いたくなる。
「要するに。一夏も強くなろうと頑張ってるから僕たちも心機一転してISの練習頑張ろうって話」
「それで何故俺に教えをこうことに繋がるんだ?」
「簡単よ。ここ最近一夏の伸びが良いのはあんたがアドバイスしたからでしょ」
「一夏も言っていた。疾風のアドバイスは本当にためになると」
それはまあ、教えた側からしたら感無量だな。
「この前お前に教えて貰ったカーブのやり方をみんなに教えたら好評でな」
「そしたら僕たちも個人的にアドバイスを貰おうって」
「あんたは察しが良いし。あたしたちでも気づかない強化案があるんじゃないかって」
「ここ最近無人機や
なんだろう。最近まわりからの評価が目に見えて上がってきてなんだかむづ痒い。
「「ということで宜しくお願いします!」」
「お、おぅ」
四人一斉にお辞儀してきた。
正直面食らってるが。これに答えれなきゃ男じゃないな?
「みんなの気持ちは充分伝わった。こちらこそ宜しくお願いします」
「よしっ!」
「じゃあ明日から一人づつね、キャノンボール・ファストの練習をしつつやっていくということで」
「異議なし」
その後全員のスケジュールを確認し、部屋に戻った。
ていうかわざわざこんなところまで連れてく必要はなかったのではと聞いたところ。
「色々事情があるのよ」
便利な言葉である。
「ただいま」
返事がない。が、シャワーの音がする。
「………お前も素直に手を貸しなさいって感じで言やいいんだよ」
ーーー◇ーーー
【箒、紅椿】
「動きが単調だ箒! いくら早くても読みやすかったら」
「くあっ!?」
「弾置いただけで当たるぞ!」
一見展開装甲による超速移動に目を回しがちだが、良く見れば直線の動きが目立つ。
ビークを射出。四方から襲いかかるそれに対抗するように箒も展開装甲を分離させビットとして展開する。
「ワンオフ・アビリティーを意識しろ! 発動すれば一気に形成が逆転する!」
「わ、わかった!」
箒はグッと身体に力を入れ、イメージを練りだした。
「すえりゃああっ!!」
「ちょっ! 待て! こっちは今集中」
「戦闘中に都合良く敵が待ってくれる訳がないだろうがーー!」
「そうだったぁぁーー!!」
戦闘訓練後に反省会をかねてカフェテラス。
今回の俺に対する報酬としてスイーツ無料チケット一枚を贈呈してくれるという。
今日は和栗のモンブラン。
半分ほど食べたところで、纏めたデータをテーブルに広げた。
「近接は文句無し。射撃もある程度問題なし、なおこれは高度な照準補正制度の恩恵もあり。機動制御は紅椿に振り回され気味。ワンオフ・アビリティーは、要検討」
「的確な分析。感謝する」
言葉の割りに渋い顔。
厳しいかも知れないがこれが現実。
「やはり私は紅椿の性能に頼りきりだな」
「そうだな。性能を抑えれば操作しやすくなるだろうけどね。紅椿は白式とは逆の意味で玄人向けだな」
一つしか出来ない白式とは違い、紅椿は多種多様の戦い方が出来る。
ハイスペック、距離を選ばない戦い方、自立兵器装備。
選択肢が多い分咄嗟に何をすれば分からなくなるのが今の現状。
「受領してからもうすぐ3ヶ月。高度な操縦者補正、私のデータを元に開発されたからこそ今までやってこれたのだろうな」
「ほんと、紅椿を作り出した篠ノ之博士は規格外だな。世界中の技術者の泣き顔が目に浮かぶ」
「まったくだな」
姉の話題が出しても機嫌が悪くならない程気落ちしている。
最近のセシリアみたいだな。
………またセシリアのこと考えてるし。
「お前のイーグルも多才だな。何か動かすコツとかあるのか?」
「俺の場合は常にどう戦えば良いかイメージしまくって。それをそのまま行動に移してるんだよ。ISの動きはイメージ力と操縦技術が重ねあって初めて真価を発揮するから」
ISに乗らない時も良い動かしかたを閃いたら直ぐメモし、次動かす時に実践。
そうした積み重ねを実直にこなしていけば自ずと動かしかた、動きかたがわかるのだ。
「とりあえず先ずは全体の動きを調整だな。特に機動操作のところ。素人相手には脅威だが、代表候補生クラスになるとさっきみたいに動きを読まれる」
「やはり練度に差があるんだな」
俺は暇さえあれば動かしてるからな。
「だけど光る物もあったぞ。斬撃と見せかけて空裂のエネルギー刃を飛ばすというのは正直良いと思う。あれには結構驚かされた」
「そ、そうか? 当たらないと思ってやっつけで撃ってみたんだが」
「紅椿の空裂は近接モーションにそって撃たれるから予備動作が分かりやすいけど。今回の攻撃は相手を迷わせるし意外性が高い。雨月と空裂は外見が酷似してるから、相手の目を盗んで刀を持ち変えて、雨月かと思ったら空裂だったって攻撃も面白そう」
「ぬ、ぬぅ」
プスプスと箒の頭から煙が。
「あ、ごめん。そういう戦法もあるぞってだけだからな」
「す、すまん」
「いや、俺も少し興奮してしまった」
箒はとにかくこういうメカニズム文字や説明に弱い。
本人の説明の仕方(ズガーンやチュドーンなど)を見ると分かる。
「あとはまあ、絢爛舞踏だな」
「やはりそこに帰結するか」
「これがある無しだと本当に雲泥の差だからな」
今の高スペックを見ても断言できる程絢爛舞踏は零落白夜以上にオーバースペック、まごうことなきチート能力と言える。
もし絢爛舞踏を自在に、なおかつ持続的に発動させれたらとしたら。紅椿は無限のエネルギーによる超火力の応酬、連続の瞬時加速、常時展開装甲全開。
相手から見て、これほどのクソゲーエネミーは他にない。
「ワンオフ・アビリティーの発動は本人とISのディープ・シンクロ。というのが定番説明だけど。操縦者の強い感情、想いに反応して発動する。コツを掴めば一夏のように好きなタイミングで発動できる、のが理想」
「うむ」
「端的に聞くけど。ワンオフ・アビリティーを発動した時の心境って覚えてる?」
「も、勿論だ」
「教えてくれる?」
「なっ!?」
ん? どうしたのだろう。
段々箒の顔が赤くなっていく。
「い、言わないと駄目か?」
「言ってくれるとありがたい」
「………………一夏と」
「ん?」
「一夏と一緒にいたい。一夏の力になりたい……とか」
「オゥフ」
思わず俺も赤面してしまった。
箒の一夏に対する想いは知ってたけど、こいつ本当に一夏のことが好きだな!
「その気持ちをもう少し一夏に対して出したら良いんじゃないか?」
「よ、余計なお世話だ!」
「そうだな! ごめんね!」
思わずモンブランをパクり。
うわっ、クソあめぇ。
「………」
「………」
どうしよう。
恋愛童貞の俺にはこの議題を解決できる答えが見つからねえ。
一夏を想う気持ちがトリガーになる。
それで発動しないなら箒の一夏への想いが足りないんじゃないか
そんなわけないだろ。
それは俺も理解してる。
………………
「あのさ」
「な、なんだ?」
「恋をするってどんな感じなの?」
「え?」
箒はキョトンとした。
「なんだよその顔」
「いや、お前にそういう関心があるとは思わなくてな」
どうやら照れより驚きが強かったらしい。
「ホモだと言いたいのかテメェ」
「違う違う! なんというか。お前の場合「俺の嫁はISだ!」と言いそうな気がして」
「ラウラの変質バージョンじゃないか」
人並みに興味あるわ。
「しかし何故行きなりそんなことを」
「いや、俺って恋愛したことなかったからそういうの理解出来てなくて。箒はどういう経緯で一夏に好意を抱いたのかって純粋に気になるんだ」
「よりによって私にか?」
「ワンオフ・アビリティーのきっかけが一夏になるぐらい好きなんだろ。これ以上適役は居ないし」
それに、客観的に聞けば何か掴める気がする。気がする。
「話したくないなら話さなくていいよ。あんまり他人に好きに話せる内容じゃないし」
「いや、良いだろう」
「いいのか?」
「お前のお陰で今の私がある。他ならぬお前の頼みだしな」
箒は紅椿の待機形態に手を当てて目をつぶった。
「一夏と初めて会ったのはまだ私が小学生に成り立ての頃だ。姉さんの紹介で千冬さんと一夏が家の道場に入門してきたんだ」
「箒の家って道場持ってたの?」
「ああ。篠ノ之柳韻を知っているか? 私の父だ」
「すまん、後で調べて見る」
調べてみたら篠ノ之柳韻は篠ノ之道場の師範であり、篠ノ之神社の神主だそうだ。
当時彼は剣道に置いては伝説ともされる人で「剣聖」と呼ばれる程の剛の人だったそう。
箒のお母さんに当たる人も剣道界では名うての人物らしい。
「当時の私は今よりも気難しい性格でな。その時の一夏とはどうにも馬が合わなかった。やけに勝負を挑んできては負かして、それでも懲りずに挑んでくる変な奴だと」
「一夏らしい」
「そうだな。それから一年たって二年生になった時だ。当時から今のような喋り方、竹刀を持つのがお似合いで可愛げのない私は周囲から『男女』と呼ばれて弄られるようになった」
男女ねぇ。
確かに箒は並みの男より男らしいけども。
「放課後の掃除だったかな、掃除そっちのけで私をいびる男子が男女の癖に女の格好をするなんて笑っちまうと嘲笑ってきてな」
「幼稚くせぇ」
「その時一夏はどうしたと思う?」
「パンチ」
「フフッ、正解だ。良くわかったな」
なんとなく予想がつく。
一夏は今も昔も芯の通った性格だったろう。
「男子三人相手に大立ち回りをした一夏はこう言った。「お洒落をしてる篠ノ之はただの可愛い女の子だろ」とな。可愛いなんて家族ぐらいにしか言われたことない私はそれはもう目を見開いたさ」
「無意識に言ったんだろうなぁ」
「だな。その時からだな、私があいつを好きになったのは」
箒は少し照れながらも嬉しそうだ。
一夏は昔からヒーロー気質だった。
その真っ直ぐさに箒は救われたのか。
「それから少したって白騎士事件が起きた。ISの第一人者である姉さんとその家族は重要人物保護プログラムの影響で各地を転々とし、一夏とはそれっきり、もう会えないとさえ思った───此処に来るまでは」
一夏が男性IS操縦者第1号としてIS学園に編入。二人は感動の再会をした。
「全然変わってなかった。鈍いところも、変に真っ直ぐなところも」
「セシリアと決闘するぐらいだもんな」
「そして………はぁ」
「どうした」
行きなり箒が深いタメ息を吐いた。
顔を手で覆い項垂れるその姿からは酷く哀愁が漂っていた。
「行きなりで悪いが愚痴っていいか」
「どうぞ」
「すまん。実は疾風が来る少し前に学年別タッグマッチトーナメントなるものがあってな」
「はい」
「始まる前に私は一夏にこう言ったのだ『私が優勝したら、付き合って貰う!』とな」
あっ(察し)。
「トーナメント事態はラウラのVTシステム暴走事件で中止になり。約束も無しになり、私はさも魂のない脱け殻になった」
「うん」
「そしたら一夏がこう言ったんだ「付き合ってもいいぞ」と」
俺は目頭を抑えた。
「私は正に寝耳に水。喜びに沸き立ち頭の中で拍手喝采をあげた。動転しながらも一夏に理由を聞いた。そしたらあいつ、何て答えたと思う?」
「続けなさい」
「『そりゃ幼馴染みの頼みだからな。付き合うさ────買い物ぐらい』」
「ごめん泣きそうになったんだけど泣いていい?」
お前、お前。一夏お前。
そんなドテンプレートなことしでかしたの?
馬鹿なの? 死ぬの?
「一瞬なにが起きたか分からなくなった」
「そうだろうよ」
「それはな。あいつが鈍いのは知ってたさ。肝心なワードが抜けてたかも知れないさ。でも………これはあんまりじゃないか!?」
「そうだなあんまりだ! 箒、ケーキ食うか! 自費で払う!」
ショートケーキを購入。
「私なりにストレートに言ったんだぞ。なにか? 『私と恋人になってくれ』と言ったら通用したのか!?」
「わからねぇ」
「あの時私は思わず殴ったよ、鳩尾に蹴りも入れた。カッとなって相手を殺す殺人者の気持ちを理解できた気がする」
「お前は何も悪くねえよ」
「ケーキ! 食わずにいられない!!」
ケーキをやけ食いする箒のまた哀愁が漂うこと。
あまりにも不憫に思った俺は当初の目的を置いといて時間が許す限り箒の愚痴に付き合った。
酒を飲んでもいないのに呑まれてる箒を見て俺はまた涙を流した。
ーーー◇ーーー
【鈴、甲龍】
「くぅ! あんた攻めが強くなったわね!」
「そりゃどうも!」
といいつつ足ブレードで双天牙月を受け止め、至近距離からインパルスを撃つ。
「こんのっ!」
鈴は龍砲を展開。チャージの時間を稼ぐ為に腕部の崩拳で牽制する。
イーグル・アイで衝撃砲の弾幕を予測、可視化して回避するが近づけない。
「くらえっ!」
チャージを完了した龍砲。
だが射線予測と空間の歪みが崩拳より強い龍砲は情報を集積したイーグル相手には当たらなかった。
ISのエネルギー補給の為に小休憩を挟みながら先程のデータを見る。
楊麗々の指導の元、一年で代表候補生に至った彼女の素質はやはり凄い。
一見強引で無鉄砲に見える戦闘スタイルだが、それは類まれなるインファイト能力と戦闘センスに裏打ちされたもの。一手一手がまるで舞踊のように繋がる青龍刀捌きは無策で突っ込めばたちまち噛み砕かれる。
「流石は代表候補生ってとこだな」
「当然。遊びで甲龍与えられてる訳じゃないっての」
褒めてやると鈴は得意気に胸を張った。
鈴はいつも自信に満ち溢れている。たまにそれが過信に繋がることもあれど、それは間違いなく彼女の強さだ。
「あとは龍砲だな。ここんとこ命中率が著しくないみたいじゃないか?」
「そうなのよねー。最初は結構当てれたのに段々見切られてきてさ。最近は腕の崩拳を使うのが増えたのよね。あれって龍砲に比べて速く撃てるから」
「実際透明な弾丸がバシバシ飛んでくるのは結構プレッシャーかかる」
「ヒラリヒラリ躱してる奴がよく言うわ」
「一重にイーグル・アイのお陰だよ」
衝撃砲のデータ学習、集めたお陰で対衝撃砲サーチの空間の僅かな歪み、光の屈折をデータ状で可視化することで回避を比較的容易に行うことが可能になった。
因みにこれはAICも同様の手段で可視化出来つつある。
「ちょっと試したいことがあるんだよな。鈴」
「なに?」
「衝撃砲使わせてくんね?」
「はい?」
「ホログラムの当たり判定で龍砲を再現するのね」
「本当ならお前の龍砲を手っ取り早くイーグルにドッキングするのが理想だけど。それは物理的に無理だからな」
「でもなんの為に?」
「まあやってみたらわかると思う」
イーグルと甲龍の視界データを弄り、俺の両肩に甲龍と同等の衝撃砲発生装置を仮想配置する。
勿論空間の歪み、光の僅かな屈折も再現してだ。
「データありがとう。終わったら記録しないで破棄するから」
「私は別に良いんだけどね。お国的にグレーすれすれにタブーだから」
「本当は記録したい」
「やめなさい」
はい。
「データ更新、仮想龍砲設置」
イーグルの両肩にクリアカラーの龍砲が現れた。
近い目で見るとなおのことゴツいな。
「行くわよ!」
「よしこい!」
早速龍砲(ホログラム)を起動。
チャージまで2秒ほど。インパルスと同じぐらいだな。
「発射!」
ホログラムによって模倣された不可視の弾丸が甲龍の肩をかすった。
「ぬっ! 我ながら厄介ね衝撃砲!」
ビークを射出、ボルトフレアとインパルスで射撃戦を開始する。
鈴も衝撃砲で応戦するも、距離が空きすぎてるせいかなかなか当たらず。
しばらく付かず離れずの距離感での射撃の応酬。着実と当たる弾道を引く俺に対して鈴の衝撃砲の狙いが段々散漫になってきた。
(疾風のやつ、最初の一発からぜんぜん衝撃砲撃ってこないじゃない!)
だがいつ撃ってくるか分からない以上警戒しない訳にはいかない。
そんなジリジリして状況に沸点の低い鈴は早くも限界突破した。
「ああしゃらくさい!」
双天牙月を両手にコールし
対するイーグルはインパルスのバーストモードを発動。
撹乱しつつ肥大化したプラズマスピアで迎え撃つ。
だがそこは鈴、激情の中でも咄嗟の機転が効く。
「おあいにく様! そんな大技態々当たるつもりは!」
直前で崩拳で牽制、インパルスでガードした隙をつき。ビークの包囲網が薄い俺の背後にまわった。
「ないっての!!」
無防備な背後に双天牙月を振り下ろした。
決まったと確信した鈴。だがその挙動は振り下ろされることなくブレーキが聞いたように硬直した。
「なっ!?」
『龍砲、ヒット。シールド-160減少』
「はぁ!?」
イーグルのホログラム龍砲の当たり判定が発動。
一瞬硬直した鈴の首もとにインパルスの穂先がそっと当てられた。
「まあ、俺がやりたかったのはこういうことだ」
「………参った」
鈴が白旗を当て、再びエネルギー補給のためにピットに戻った。
「あんた最後の龍砲の時こっち見てた?」
「見てた」
「こっち向いてなかったじゃない」
「ハイパーセンサーの全方位視界で見たからな」
ハイパーセンサーは理論上死角はない。
元々宇宙空間で操縦者の知覚補佐を目的に作られたISの基礎機能は、やろうと思えば視野外の後方や斜め後ろも知覚出来る。
「龍砲って基本的に射角がないって知ってたんだ。だけど鈴って大抵正面から扇状に撃つことが多いだろ? 俺が対戦するとき背後に回ったら弾幕が薄くなるのが少し不思議だったんだ」
「それはまあ、後ろに撃つのって結構面倒だし。それなら振り返って撃った方が早いかなって」
鈴の言ってることは正しい。
よほどのことがない限り背面撃ちなんて曲芸をする必要はないし、衝撃砲は発射にラグがあるから相手の動きを予測して準備しなければ当てるのは難しい。
衝撃砲は第三世代技術。操縦者のイメージを形にして機能する武装。
衝撃砲は射角に制限はないが、一度砲身を形成した後はそこまで射角をずらすことは難しい。なお砲身はISの動きにあわせてずらすことも可能なのでそこはなんとかなる。
今回もビークの包囲網をわざと自身の後方に抜け道を作って鈴を誘い出したからぶち当てる事が出来た。
「鈴。最初の一発から最後のやつ来るまでどんな気持ちだった?」
「え? なんつーか。いつ来るか分かんなくて気が気じゃなかった」
「さっきも言ったけど。不可視の弾丸はその性質上、目に見えない分他の武装よりプレッシャーがかかる」
俺が知ってるなかで。撃っても厄介、撃たなくても厄介な武器なんて衝撃砲ぐらいだ。
「でもこれじゃ私が衝撃砲当てれない理由にならないんじゃない?」
「鈴は衝撃砲撃つぞって時分かりやすいんだ。今から撃つぞって目が凄い言ってるから。一夏も鈴の衝撃砲は透明だけど視線を見ればある程度射線が分かるって言ってた」
「うわっ。一夏にまで見抜かれてたとか、最悪」
セシリアがビットを動かす時、自身が動けなかったり。ゴーレムⅠを無人機と短時間で見抜くなど。
普段の朴念仁でとぼけた感じの彼だが。戦闘時の洞察力は普通より抜きん出ている。
「そこまで分かってるなら、わざわざ時間かけなくても普通に言えばいいのに」
「鈴って習うより慣れろだろ。代表候補生の研修でも戦術授業は苦手だけど実技授業の成績は良かったらしいし」
「ちょ、それ誰から聞いたの!? 一夏にすら喋ってないのよ!?」
「楊候補生管理官」
「ヴぇっ! なんで連絡先知ってんのよぉっ!」
「この前名刺交換した」
ブイサインを出す俺に対し鈴は空いた口が塞がらなかった。
「鈴の課題は全方位視界に少しでも慣れること。いつでも縦横斜め360度どこにでも衝撃砲を展開して撃つことかな」
「うげぇ、大変そう」
「これが出来たら後ろの隙もなくなって衝撃砲の驚異度も格段に飛躍する。残り時間は俺が作ったホログラムターゲットプログラムを元にトレーニングしよう」
「わかった。教えてって頼んだのはあたしだし従うわよ」
スポドリを飲み干した鈴は甲龍に乗り込んだ。
「あ、因みにこのプログラムは楊さんと相談して作り上げた代物でターゲットの出現時間が5秒しかないっていうスパルタ使用だから心してかかるように。高得点取ったらスイーツ奢ってやるぞ」
「………」
「鈴?」
「あんたって指導官の才能あるわ………」
ーーー◇ーーー
「一夏を好きになったきっかけ?」
鈴は俺が買ったフルーツゼリーを口に運んだ。
「なんでそんなこと」
「気になるなって。人って何をきっかけに他人を好きになるのかって」
「哲学?」
「ううん。もっと漠然とした感じ」
俺はミルフィーユを倒してフォークを突き刺した。口のなかでサクッと解れるミルフィーユ生地とカスタードが舌の上を滑った。
「あたしと一夏が会ったのは小学校四年の時にこっちに転校したの。箒とは入れ違いで転校したから箒のことは知らなかった」
そうなんだ。
そしてその二人が一夏のもとに集うってなんというか運命力を感じる。
「まあなんていうの。外国人ってだけで標的になるっていうか、男子から『リンリン』ってパンダみたいに弄られてさ。一夏とも仲良かったから一部女子からも目の敵にされてさ」
「当時から一夏の人気は凄かったわけだ」
「本人は気づいてないけど」
だろうね。
「まあ鈍くても敏感なとこはあったのよ。私を弄った男子と取っ組み合いになったり。女子には話し合いに持ち込んだりとか」
「凄いな」
「ほんとに。普通関わりたくなくて自分は無関係ですって感じが普通なのにね」
助けたら今度は自分が標的にされる。
しかも女尊男卑の世の中で男が目立った行動をすればそれこそ目の敵にされる。
だが当時の一夏はそんなの知ったことかの精神だったんだろう。あいつは誰かのために動ける人間だ。
「それが惚れたきっかけ?」
「そうね。直ぐに好きになるとかそういうのじゃなかったけど。一緒にバカ騒ぎしてるうちに弾や他の奴らと違う感情が浮かんで。ああ、あたしは一夏が好きなんだ。ってなった」
「成る程」
箒と似てるようで微妙に違うパターン。
二人は一夏に救われたんだな。
「んで、中二の終わりに親の都合で中国に帰って離れ離れ。あたしは適正があったから代表候補生の研修を受けたの」
「それでIS学園で一夏に再会と」
「最初は行く気なくて断ったのよ。でも一夏がIS学園に行くって聞いて急遽IS学園に行こうって」
「上の人締め上げたって噂は聞いたことあるけどその真偽のほどは」
「そ、そんな話どうでもいいのよ」
「ハイハイ」
真の方だったらしい。
「でさ。一夏と再会してもあいつはなーんも変わってなくて。ほんとなんも変わってなくてね。………本当に」
「ん?」
この空気は。
「ぬぅ………」
「愚痴なら乗るぞ」
箒と同じ空気だ。
「うちって中華料理店やっててさ。あたしそんなに料理出来なかったの。それで中学で別れる前に約束したのよ」
「はい」
「あたしの料理の腕が上達したら………毎日酢豚を食べてくれる? って」
「………ん?」
えっと。なんかどっかで聞いたようなニュアンスだな。
えーっと………。
「ああ、口説き文句か」
「そう! そうなのよ! でもあいつ私が約束のこと持ち出したら何て言ったと思う!?」
「なんて言ったのさ」
「『毎日酢豚を奢ってくれるってやつか?』って曲解したのよ!? 酷すぎない!?」
「う、うーん」
えっと。その。
「鈴の怒りはもっともではある」
「でしょ!! あいつは本当に乙女心を知らないっていうか」
「でも鈴にも原因があるっていうか」
「はぁ!? あたしが悪いって言うの! むぐっ」
「落ち着いて聞いておくれ。ミルフィーユ上げるから」
「もうあげてるじゃない。モグモグ」
大口を空けた鈴の口にミルフィーユを放り込むとクールダウンしてくれた。
やはりスイーツは偉大だ。
「まず鈴の口説き文句だけど。ああいうのって世間的には男性から女性に言う口説き文句なのよね」
「別に女が言っても良いじゃない」
「もうひとつ。味噌汁を酢豚に置き換えたところ」
「私の得意料理の予定だったし」
「最後に。一夏の鈍感と朴念仁は天元突破レベルだということ」
「つまり?」
「アレンジが効きすぎて一夏が気づくのは至難の技」
「なによそれー!!」
うん、ほんとそれ。
普通なら俺みたいに少し疑問に覚えつつも理解は出来る。
だが相手はあの一夏。正攻法で言っても神回避を行う最強のフラグブレイカー。
相手が悪かった。
「時間もたったら料理上達したからその時は私の料理を食べて。って一夏の見解もまあ少しは理解できるかな。お怒りはわかるけど一夏の鈍感相手には変化球過ぎたかな」
「だ、だってストレートに言うなんて恥ずかしいじゃない!」
「ままならないな」
乙女心というものは。
「でもその後仲直りはしたんだろ? 誤解は解けてはないんだろうけど」
誤解解けてたらそのまんまの意味だって思うだろうし。
すると鈴の怒りの炎は酸素が無くなったかのように鎮火していった。
「………」
「どうした鈴。行きなり黙りこくって」
「その、ね」
「ん?」
「誤解は解けたのよ。もしかしたら違う意味だったのかって」
「え、マジ?」
あの一夏が正常に意味を理解したのか。
凄くね?
「良かったじゃん。あれ、でも」
「あたしはそん時大ぺけしちゃったのよ。直前になってタダ飯であってる! って誤魔化しちゃって」
「………」
「一夏は深読みしすぎたなって………」
「………鈴。これだけ言わせてくれない?」
「なによ」
「お前馬鹿だねぇ」
「五月蝿いわよ!!」
いや馬鹿だよ大馬鹿だよ。
「なぁに前代未聞空前絶後のチャンスを自ら不意にするわけ? 一夏が自分から気づくなんて天文学的確率だろうがよ! それをおじゃんにしたってお前マジか!」
「し、仕方ないじゃない! 行きなり不意をつかれて動転しちゃったんだもん!」
「今からでも遅くない。訂正しに行け」
「嫌よ恥ずかしいじゃない!!」
「ツンデレも大概にしろお前! 頑張れよこれから!」
乙女心は本当にままならない。
俺は今日それを理解しました。
「ねえ疾風」
「はい?」
「さっきの話題って菖蒲と関係ある?」
寮で別れる時、鈴が訪ねてきた。
言われるだろうなと思って結局言われなかったかと思ったらこれである。
「別に隠さなくてもいいわよ。キャンプファイアーのジンクス教えたのアタシだし」
「そうなの?」
ということは。菖蒲と俺のこともほぼ知ってるということか。
「ありかなしで言ったら。あり」
「あんた菖蒲になんて答えたのよ」
「菖蒲から聞いてくれ」
「あいつはただ待つって言ってた。断ったの? 別に答えたくないなら答えなくていいわよ。そこまで出歯亀するつもりないし」
鈴はそう言いつつも本心では知りたいのだと思った。
自分と同じく想い人を追ってIS学園に来た者として。
「俺は、大切な友達と言った」
「残酷な言葉ね」
我ながらそう思うよ。
「でもハッキリと断ってない。ただの友達ってだけじゃ納得はしないって。だから俺が答えを出すまで待ち続けるって」
「あいつもあたしに負けず劣らず不器用ね」
鈴の部屋につき、鍵を開けた。
「まあ、なんであんたがあたしに聞いたのかってのは分かった」
「そうかい」
「だから恋愛の先輩として一つアドバイスしてあげるわ」
部屋の前で鈴は振り返った。
その顔はどこか悟ったようで、そして笑っていた。
「恋なんて理屈じゃないのよ」
「理屈じゃない」
「そっ。じゃあね、精々苦しみなさいな」
鈴はそれだけ言って部屋に戻っていった。