IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第78話【ワルキューレ・オートマトン】

 突如レース場を襲撃したISの手により祭典は惨状になった。

 

 歓声は悲鳴へと変わった。

 応援は怒号へと変わった。

 狂喜は恐怖へと変わった。

 日常は非日常に変わった。

 

 自分は安全だ、そんな考えが吹き飛んだ瞬間。

 アリーナのシールドに守られてるなんてそんなことお構いなしに観客は出口へと駆け込んだ。

 

 落ち着いて避難してくださいと呼び掛けるスタッフの声は誰一人届くはずもなく、我先へと逃げていく。

 

「きゃっ!」

「蘭ちゃん大丈夫!?」

「う、うん」

 

 老若男女お構いなしに、そこには優劣など存在せず、まだ中学生の蘭はぶつかった衝撃でよろめき転びそうになった。

 

「少し脇に行こう!」

「ありがとう」

「今いくと潰れちゃうかも。隙を見て列に混ざろうね」

「楓ちゃん、落ち着いてるね」

「レーデルハイト工業心得『無闇に慌てるな』。こういう時こそ落ち着かないと下手すれば命を落とすからね」

 

 自分よりしっかりしている。こんな時でも目に光を失わない楓に蘭は確かな力強さを感じた

 

 ビシュン! とレーザーが発射された音に蘭はビクッと身体を震わせた。

 蘭は先程の襲撃者が一夏に向けて発砲したことを思い出した。

 

(一夏さん、大丈夫だよね?)

 

 不安に震える蘭。その手を楓が強く握った。

 

「大丈夫! あんなやつ、疾風兄があっという間に倒しちゃうんだから!」

「お兄さんのこと信頼してるんだ」

「勿論! 疾風兄は世界一のお兄ちゃんだもん!」

 

 非常事態にも関わらずニコリと笑顔を浮かべる楓を見て、蘭は身体の震えが収まって行くのを感じた。

 

「いこっ! 今はここから逃げよう!」

「うん!!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「襲撃者確認! レース中断! 亡国機業(ファントム・タスク)だ、各機事前に伝えた陣形で、おいセシリア!!」

「BT2号機! 今日こそここで!!」

 

 ゼフィルスを見るや突貫するセシリア。その目は闘志と使命感が宿っていた。

 

「各機セシリアをフォロー! 数で囲め! 奴のビット捌きに翻弄されるな!」

「「了解!」」

 

 即興で指示を出してサイレント・ゼフィルスを取り囲もうと動く。

 

 ブルー・ティアーズのスターライトMK-Ⅳと紅椿の空裂がゼフィルスに向かう。

 襲撃者は特に回避することなく不適な笑みを浮かべ、シールドビットのエネルギーバリアで射撃を弾いた。

 

 そしてゼフィルスの腰にマウントされたビット六基が射出、手持ち火器のスター・ブレイカーを合わせた射撃が光の雨となって降り注いだ。

 

「うわっ!」

「くっ! なんて正確な射撃だ」

 

 そして後方から攻撃しても的確にシールドを置かれるか回避される。

 ビット使いの利点は一対多を想定出来ること。そのなかでもこの使い手は相当のやり手だ。

 こちらにも同型機のセシリアがいるが、彼女は今通常のビットは使えず、今もアルペジオ二基を飛ばしているが。手数の差は歴然だった。

 

 更に。

 

「うあっ! 曲がる!?」

「これがフレキシブルか! ログでは見たけど、歪曲率が想像以上だ!」

 

 奴にはセシリアにはない特異技能、偏光制御射撃(フレキシブル)を使う。

 一度撃たれたレーザーのどれかが360度何処へでも曲がりくねり、なかなかゼフィルスに近づけないでいる。

 

 フレキシブルを相手取るのがここまでとは。

 

「一夏! 多少強引でも膠着状態を切り開け!」

「わかった!」

「援護する! シャルロット!」

「了解!」

 

 シャルロットがアサルトライフルで牽制、ラウラがレールカノンで進行ルートを構築する。

 

 弾幕が薄れたところを一夏が突っ込んだ。

 襲撃者ーーエムは直ぐにフレキシブルを一夏に向ける

 

「うおぉぉぉ!!」

 

 着弾の瞬間一夏が霞衣を展開。

 向かってくるレーザーをかき消し、その身体に零落白夜を纏った雪片弐型をぶち当てた、がエムはスター・ブレイカーのバヨネットでガードした。

 

「くっ! 狙いはなんだ! 亡国機業(ファントム・タスク)!」

 

 一夏の質問を意に介さずバヨネットで弾いたのち回し蹴りを繰り出す。

 

「っ! なんのっ」

 

 それをすんでのとこで回避した一夏が回転の勢いで雪羅のクローで斬りつけるが紙一重で躱された。

 

 ライフルを向けられ一夏は霞衣を発動。

 だがスター・ブレイカーから出てきたのはレーザーではなく実弾だった。

 スター・ブレイカーはスターライトMK-Ⅳと同じく実弾とレーザーを使い分けれるタイプだった。

 

 霞衣を素通りする実弾に一夏は地に弾き飛ばされた。

 

「なに!? ぐあっ!」

「フン、茶番だな」

「乱入してその言い草はねえだろ!」

「っ!」

 

 一夏と入れ替わるように振るわれたイーグルのボルテックⅡをエムはスターブレイカーで受け止めた

 

「俺とも遊べよテロリスト!」

「………」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 観客席の一角、観客が避難したにも関わらずただ一人サングラスの奥から戦闘を眺める赤いスーツを着こなした女が居た。

 

「流石ね、エム。これだけの相手と渡り合えるとは。といってもいつもみたいに攻めきれてないわね。調子悪いのかしら、それとも」

 

 IS学園専用機の練度が数的有利に比例してしまっているのか。

 

 耳元のゴールドイヤリングを光らせるその女性はレース開始前に楓とぶつかった女性だった。

 

「しかしファーストとセカンドマンも良い動きをするわね。エムに接近出来るなんて………ん?」

 

 ポケットで震えるスマホを取り出し、画面を見て息を吐いたあと耳に当てた。

 

「ハーイ、クイーン。ごきげんよう」

「呑気に挨拶しないでスコール! これはどういうことなの!? 介入するのは専用機部門レースが終了した直後のはずでしょう!? それに、今回の襲撃は私たちブルー・ブラッド・ブルーと共同のはず! 何故先走ったの!?」

「はいはい。あまり一度に質問しないで、パンクしちゃうわ」

 

 クイーン──フランチェスカの怒声が全く応えてないのかスコールは悠長な声で応対した。

 

「ごめんなさいね? どうもうちの新参が我慢できなかったみたいで。これも若さかしらね?」

「そうよ! 何故サイレント・ゼフィルスを出したの!? あれは今回不参加のはずよ! 各国の重鎮が見てるなかであの存在を公にするなんて! 私を破滅させる気!?」

「あとでキツく言っておくわ。でもIS学園襲撃でもう姿現してるんだから今更じゃない?」

「くっ!」

 

 電話の先で苦虫を潰したのを思い浮かべながら、スコールは提案した。

 

「悪いとは思ってるわよ? お詫びにあなたのテストにエムを使ってもいいわよ。彼女のBT適正の高さはあなたも知ってるでしょう?」

「勿論よ」

 

 通話を切ると今度はISのプライベート・チャネルの回線を開き、サイレント・ゼフィルスに繋いだ。

 

「エム。クイーンがちょっと不機嫌なの。あなたにもワルキューレの接続テストをお願いするわ」

「お前の不始末を何故私が」

「あなたが我慢できなくて飛び込んだのも原因でしょう? それとも、出来ないのかしら?」

「フン」

 

 ブツっと切られたチャネルにスコールは満足そうな笑みを浮かべてアリーナの戦いを眺めた。

 

「しかし思ったより専用機持ちの動きがいいわね。先程のレースといい、ルーキー達も強くなってるのかしら」

「それはもう、私の自慢の後輩だもの」

「あら」

 

 肩にかかった髪を払いながら優雅に振り向いたスコールの先には、IS学園最強の生徒が居た。

 

「日本の更識家の若き当主にしてロシア国家代表。更識楯無」

「そういうあなたはモノクローム・アバターのリーダー、スコールね。亡国機業(ファントム・タスク)実働部隊の一つの」

「あら、そこまで掴んでるの? 拍手してあげる」

 

 パチパチと子供の成功を喜ぶように手をたたくスコール。

 彼女を知っているというのに驚かないのは高い確率で自分と接触することを予見していたからだろう。

 

「レースに参加しないで警備一本だなんて、真面目さんね。若い子は適度に息抜きしないと駄目よ?」

「ご忠告ありがとう。おばさん」

「あら失礼しちゃう」

 

 スコールは虚空から出したナイフを数本楯無に向かって投げつけた。

 楯無は焦ることなく蛇腹剣、ラスティー・ネイルで残らず弾き飛ばした。

 

「『モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)』だったかしら? もう霧は晴れる季節じゃなくて?」

「それは前の名前、今はミステリアス・レイディって名前なの」

「へぇ、そういうこと」

 

 アリーナ内で大きな爆発が起きた。

 それに目もくれず一定の距離を保つ二人の目は鋭かった。

 

「助けにいかなくていいの?」

「生憎あっちには現場を任せられる頼もしい副会長がいるの」

「疾風・レーデルハイト。規則外な戦力差とVTシステムを打ち破った子ね」

「無駄話はここまでにしましょう亡国機業(ファントム・タスク)。わざわざこんなところまで来て何が目的なのかしら?」

「直ぐにわかるわ。だから私はそろそろお暇するわね」

「させると思うのスコール!!」

 

 ラスティー・ネイルがしなり、コールした蒼流旋からガトリングが火を吹いた。

 正確に捉えたが楯無の顔色は優れない。それは目の前で金色の繭を展開するゴールデン・ドーンに包まれたスコールの姿があったからだ。

 

「やめましょう? あなたのISは私とは相性が悪い。その機体で私のISを突破するのは至難の技よ?」

「勝てない、倒せない相手なら時には引くことも大事。だけど、必ずしもそれが引く理由にはならない。あの子たちが頑張ってるのに、生徒会長である私が尻尾巻いて逃げる訳にはいかないじゃない?」

 

 楯無も腕だけの状態から一瞬でフル装備に換装する。

 

 目の前にいるのはオータムとは比べ物にならないレベルの大物。

 意地でも逃がすわけにはいかなかった。

 

「柄にもなく怒ってるのかしら? 更識楯無」

「そうね、特にうちの副会長が楽しみにしてたし。だからね」

「?」

「私より凄く怒ってる人もいるの」

「なにを」

「スラァァァァァァァァーーー!!」

 

 ハイパーセンサーが警告するより先にスコールはその場から飛び退いた。

 

「シュッ!!!」

 

 頭上から双剣を携えたISが降ってきた。

 ズドンと強い衝撃に付近の席が宙を舞い、地面が揺れ、二本の剣が振り下ろされた先には軽いクレーターが出来ていた。

 

「また会えたわねぇ! スコール!」

「私は会いたくなかったわ。アリア・レーデルハイト!」

 

 ディバイン・エンプレスの得物を構えたアリアはこれまた好戦的な表情。

 いつかと同じようなやり取りをしながらアリアはフラッシュ・モーメントの切っ先を向けた。

 

「よくも、よくもまた息子の晴れ舞台をぶち壊してくれたわね! 今度は尻尾だけじゃなく全身微塵切りよ!!」

「アリアさん、中身は残しといてくださいね」

「大丈夫よ更識ちゃん。ISのシールドバリアは優秀だから中身までは傷付かない………まあその時の状況と私の機嫌にもよるけど」

(ああ、この人間違いなく疾風くんの母親ね)

 

 だがこの上なく頼れる助っ人ということに変わりはない。

 二人がかりならスコールを捕らえれる! 

 

「まさかあなたが更識と手を組むとはね、レーデルハイト」

「縁を結んでくれたのは息子よ。ほんと自慢の息子過ぎてどうにかなりそう。だからこそ斬るわ、あなたを」

 

 全12本のフラッシュ・モーメントを抜刀。

 ダンスマカブル・ブレードアーツ。死ぬまで踊る剣の舞。その恐怖をスコールは骨身で理解している。

 

「今度は逃がさない。さあ、爆死か斬死があなたのゴールよ」

「念を押しますけど殺さないでくださいね? 気持ちは十二分理解できますが」

「更識の娘はともかく、正直あなたとはやりあいたくないわ。単純に相性悪いし」

「じれったいからもうやるわ」

「だから私も援軍を呼ぶわね」

「!!」

 

 スコールが屈むのと同時に大口径弾丸が飛来。浮かばせたモーメントを交差してガードするやいなや二人は横に飛び退き、その間を瞬時加速(イグニッション・ブースト)のISとド級の衝撃が走った。

 

 冗談抜きで地面が揺れ、範囲内の観客席がひしゃげて吹き飛んだ。

 

 ロワイヤル(単式パイルバンカー)とフルフェイスヘッドのノーマルカラーのラファール・リヴァイヴだった。

 

「学園祭で現れた、亡国機業(ファントム・タスク)のラファール・リヴァイヴ!!」

「任せるわ。今日の私は飽くまで観客だから」

「待ちなさい!」

 

 ラファール使いにこの場を任せ、スコールはアリーナから撤退。それを追う楯無の前に立ち塞ぐラファール使いをアリアが抑え込んだ。

 

「行きなさい更識さん! 私はここ以外でISを使用出来ない!」

「任せます!」

 

 脇をすり抜けるミステリアス・レイディと楯無に見向きもせず、ラファール使いはアリアと距離を取った。

 

「成る程。あなたの役目は私の足止めか。なかなか年期の入ったラファール・リヴァイヴのようだけど」

 

 ラファール・リヴァイヴを品定めしていると。その両手にはいつの間にかショットガンが握られていた。

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)持ちか。あなた誰? 私の知ってる人?」

「………」

「答える気なし。実直にミッションこなすタイプ? いいわ」

 

 アリアのテンションに呼応してフラッシュ・モーメントに紫電を纏った。

 

「力付くも大好きよ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「エム。クイーンがちょっと不機嫌なの。あなたにもワルキューレの接続テストをお願いするわ」

「お前の不始末を何故私が」

「あなたが我慢できなくて飛び込んだのが原因でしょう? それとも、出来ないのかしら?」

「フン」

 

 スコールとの通信を切ると今度はクイーンからコールが来た。

 しばらく無視しても切られる様子がないので、エムは仕方なしに通話に応じた。

 

「スコールから聞いてるわね。独断行動を不問にする代わりに、あなたにワルキューレ5機を担当してもらうわ」

「それだけでいいのか?」

「構わないわ。盾にするなりなんなり、やり方はあなたに任せる。サイレント・ゼフィルスに乗ってる以上、多少こちらにも協力してもらうわ」

「10機よこせ。スコールになめられればオータムが鬱陶しくなる」

「気持ちはわかるけど。これはテストだから5機にとどめて頂戴」

「了解」

「彼女には私から口添えしておくわ」

「必要ない。やるからには結果を残す」

「期待してるわ」

 

 通信を切ったエムはアリーナを飛び回りながらフレキシブルをばらまいていく。

 本来なら各自各個撃破で蹂躙しようと思った。だが迂闊に攻めすぎるとエムの方が包囲撃滅させられる恐れがあった。

 俊敏なビットとフレキシブルがなければ、彼女はもっと不利になっていた可能性を考えてしまったエムは舌を打った。

 

「雑魚の分際で………」

「聞こえてるよぉ!!」

「クッ!」

 

 特にスカイブルー・イーグルを駆る疾風がエムの苛立ちを増長させていった。

 イーグルのプラズマがフレキシブルのレーザーを持ってしても仕留めきることが出来ない。そしてこちらが攻撃しようとする絶妙のタイミングで妨害をかけてくる。

 

 更に。

 

「いい加減当たれっての!」

「追い込むよ!」

 

 相手の攻撃が必ず次に繋がっていて思うように運ばない。

 不可視の弾丸と実弾の応酬にシールドビット【エネルギー・アンブレラ】で防御するも防ぎきれず回避を余儀なくされる。

 

 最大火力の一夏は時折味方の防御をする以外無闇に突っ込んでこない。

 

 それもこれも疾風の的確な状況把握指揮によるものだということが尚更エムの機嫌を損ねた。

 

「くらいなさい!」

 

 セシリアの一斉掃射をバックロールで躱すエムはお返しに発射していたレーザーを曲げてブルー・ティアーズに向かわせる。

 

「セシリア、先走り過ぎだ!」

「これ以上! その機体を悪行に荷担させる訳には!」

 

 唯一穴があるとすればセシリア。

 いつもより好戦的かつ、動きに余裕がなく。焦りが見て取れた。

 

「そろそろか」

「なんだと?」

「面白いものを見せてやる」

「世迷い言を!」

「来るぞ」

 

 エムが言ったことの意味を理解しようとした時、ISのアラートが鳴った。

 

「え、これって」

「アリーナのシールドが解ける!?」

 

 上を見ると、シールドの天辺が徐々に穴が広がり始めた。

 

 更に新たなアラート表示が。

 

「今度はなに!?」

「5時方向から飛翔体接近! 数6!」

「ミサイル? それとも敵の援軍?」

「来るぞ!」

 

 IS学園の7機がエムから距離を取る。エムの周囲に、ISより一回り大きいサイズ白いコンテナが6つ降り立った。

 

 ガチッ、プシュー。

 

 圧縮空気が排出される音と共にコンテナが開き、中から何かが出ていた。

 

 出てきたのは白い人型。

 

「人?」

「いや違う」

 

 サイズは2メートルとISより一回り小さく。女性的なシルエットで、手はダガーと一体になった銃口になっている。目はラインバイザーで覆われ、鎖骨から肩にかけてブレードアンテナが伸びていた。

 背中にはバックパックと思われるランドセルユニットが備わっている。

 

 一つのコンテナから5体×6、計30体の人型ロボットが現れた。

 

 なんだあれは? と一様に思った。

 わかることはあれは人ではないということだけだった。

 

『ワルキューレ、No.10からNo.15。BTネットワーク確立。サイレント・ゼフィルスと同期、完了』

「始めようか、人形劇を」

「っ! 散開!」

 

 人型ロボットが頭上の疾風たちにレーザーガンを撃ってきた。

 単発ではあるが、30機からの一斉射撃はそれだけで脅威となった。

 

 7対1が一瞬で7対31に化けた。

 

 逃げる敵を追うようにロボットはフロート移動で、半分はランドセルユニットのスラスターを吹かし疾風たちを追従した。

 

「こいつら! 数に物を言わせて!」

「変だよ! こいつらからIS反応がない!」

「ということは純粋にロボット兵器だって!? そんな馬鹿な!」

 

 各機がロボット群に射撃を試みた。

 だが相手は深く切り込もうとせず直ぐに回避運動を優先して引き気味に戦っている。

 

「ちょっと! 今のロボット工学ってここまで進化してんの!?」

「違う。こいつらから電波が飛んでる。遠隔操縦で動かされてるんだ!」

「まさか、これ全部サイレント・ゼフィルスが操ってるというの!?」

「そんなっ………」

「全員落ち着け! 今現実に起きてることを受け入れろ!」

 

 セシリアたちの士気が下がりかけたところを疾風の激が飛んだ。

 

「とにかく迎撃だ! コアがないってことはシールドバリアもない! ということは!」

 

 疾風が強引に射線を突っ切り、ボルテックのプラズマ弾をロボット群にぶちこみ、ロボット群の一機が爆発四散した。

 

「当たれば壊れる! 怯むな! 戦力的優位はまだこっちに」

「きゃあっ!」

「シャル!」

 

 エムのフレキシブルがシャルロットのパッケージに直撃した。

 一夏がフォローに入り、箒がその補助に当たった。

 

「疾風! さっきレースで使ったEMPは撃てないの!?」

「出来ない! あれは取り付け式のカートリッジのプラズマを放出して撃てた! 素のイーグルじゃ無理だ!」

「撃墜! ようやく3機目!」

「敵は小さい上に小回りがきく! 点より面で攻撃しろ! セシリア! ラウラ!」

「は、はい!」

「了解!」

 

 ティアーズがアルペジオ、レーゲンがワイヤーブレード、イーグルがビークを射出した。

 

(これだけの数をあいつ1機で? 本当にそうなのか? くそっ! 今は確かめる術がない!)

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「ワルキューレNo.12、20が撃墜。残り27機です」

「エムの素質の高さでこれだけ動かせれば充分だわ」

「クイーン、気分は宜しいですか?」

「ありがとうアイビス。問題ないわ」

 

 心配する秘書にフランチェスカは笑いかけた。

 

 アリーナから少し離れた高層ホテルの一室。

 中ではティアーズ・コーポレーション社長にして亡国機業(ファントム・タスク)のフランチェスカ・ルクナバルトがISのヘッドギアを部分展開させていた。

 

 ISの望遠越しのアリーナ内では8機のISと無数の無人兵器の戦闘が見えた。

 

 IS対応人型BT兵器【ワルキューレ】。

 通常のビット兵器を人型汎用タイプに変えた代物。

 自由自在に動かすとなればビット型より困難だが、単純な命令コードを打ち込めば後は半自動的にAIユニットで動いてくれる。

 

 つまり、ティアーズ・コーポレーションとレーデルハイト工業の技術のハイブリットだった。

 

「流石ですクイーン。この距離から25機ものワルキューレをオペレートするとは」

「これぐらいの数。私のワンオフ・アビリティーをもってすれば容易いわ」

 

 エムは半ば使い捨てのように5機操っているが。フランチェスカは25機のワルキューレを同時操作している。

 しかも操作性はエムに比べて格段に上だ。

 

 元は彼女のISから生まれたワンオフ・アビリティーを元に第三世代兵器として作られたのがブルー・ティアーズシリーズの能力。

 すなわちフランチェスカ・ルクナバルトとそのISはBT兵器の祖なのである。

 

 彼女の視界に写る二番目の男性IS操縦者にその美しい顔が歪む。

 

「悪いけど。今回は飽くまで実験よ。私の寛大な心に感謝しなさい。疾風・レーデルハイト」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「死ねっ!!」

 

 強引に段幕を突っ切った俺のボルテックがワルキューレの頭蓋を叩き割った。

 

 これで7機目だ。

 

 くそ! こいつら明らかに雑魚フォルムなのに弾を避けるわ躱すわで鬱陶しい。

 レーザーガン一発当たりの威力は低いが、そこに意識を散らされると本命のBTレーザーが飛んでくる! 

 

 そして………

 

「セシリア! もっと動け! 狙い撃ちにされるぞ!」

「い、言われなくても」

 

 セシリアの動きが目に見えて悪い。

 射出されたアルペジオにもキレがなく。使用時のセシリアの動きも何処かたどたどしかった。

 

(わたくしだってやれる! テロリストがあれだけ動かせる。わたくしだって!!)

 

 実際エムが動かしているのは5機だということをセシリアは知るよしもない。

 だからこそ、これだけの数のワルキューレの制御をエムが一手に担っているとセシリアは思い込んだ。

 

 更にエムは先程と変わらずビットと自機の射撃を行っており、フレキシブルすらこなしている。

 セシリアは自分と相手の実力差を前に打ちのめされつつあった。

 

 彼女の眼にいつもの力強さはなく、目の前の現実全てを受け入れようと必死だった。

 彼女風に言うなら、エレガントではなかった。

 

「うぅっ!!」

 

 スターライトMK-Ⅳの出力最大をサイレント・ゼフィルスに放つが、エムが動かしたワルキューレが盾になった。

 

「まずはお前だ」

「!!」

 

 爆炎が晴れた先にはバーストモードのスターブレイカーをセシリアに構えたエムの姿だった。

 

「回避を、うあっ!」

 

 回避機動をとろうとしたセシリアをワルキューレ1機が組み付いた。

 直ぐにインターセプターをコールし、ワルキューレに突き刺して無力化するが。エムにとってそれだけで充分だった。

 

「沈め」

「っ!!」

「させるかぁっ!!」

 

 エムとセシリアの間にたった鈴が双天牙月を交差してゼフィルスの大出力レーザーとかち合った。

 だが拮抗は一瞬で鈴はレーザーの余波で吹き飛ばされ、弾けたレーザーが(フェン)の増加スラスターに当たって爆ぜた。

 

「鈴さん!」

 

 思わず鈴に駆け寄るセシリアが甲龍を抱き起こした。

 

「なんでわたくしを」

「あんたがノロイから、でしょうが」

「鈴さん………」

「いつもムカつくくらい自身家なあんたが、らしくないってのよ!」

 

 鈴はセシリアを押し退けて立ち上がる。

 先程の爆発でスクラップとかした増加スラスターと衝撃砲一門をパージ。

 

「ぐだぐだ考えてる暇あったら動け! あいつはあんたと関係あんでしょ!」

 

 言い捨てた鈴は目の前のワルキューレに飛びかかった。

 腕を切り裂いたその後ろを襲いかかるワルキューレの一機をノールック衝撃砲で吹き飛ばした。

 

「わたくしは、何をして!」

 

 大勢のワルキューレ、偏光制御射撃(フレキシブル)。それに戸惑っている自分自身を一度排斥し、キッとサイレント・ゼフィルスを睨みつける。

 

「今わたくしが出来ることを!」

 

 アサルト・ガンナーの増加スラスターを目一杯吹かした体当たりを噛ました。

 

「こいつ!」

「あなたの相手はわたくしですわ!」

「いいだろう。望み通り相手をしてやる!」

 

 サイレント・ゼフィルスは解けたシールドの一部から市街地に向かって飛翔した。

 まるでセシリアを誘うように。

 

「逃がしませんわ!」

「セシリア何を!?」

「ドローンを動かしてるのがあのISなら、無力化するべきです!なにより、サイレント・ゼフィルスはわたくしの相手です!!」

「待てセシリア!!」

 

 俺の静止を聞かず、セシリアは飛び去ったサイレント・ゼフィルスを追いかけていった。

 高機動パッケージを纏ったセシリアはあっという間にアリーナを離れていった。

 

 放ってはおけない! 

 だが追いかけようとする俺とイーグルを阻むようにワルキューレが徒党を組んで立ちふさがった。

 

「こいつらっ!!」

 

 がむしゃらに突撃をかまし、セシリアの後を追おうとするが。先程と打って変わってワルキューレは俺に狙いを集中させた。

 

「鉄屑どもが! どけよっっ!!!」

 

 思わず口調が荒くなりながら、ワルキューレの軍勢を弾き飛ばす。

 だがそれでもしつこく絡み付く軍勢に俺の心は焦りを募らせた。

 

「また飛翔体、いやコンテナ!?」

 

 追い討ちとばかりに頭上から追加で二機のコンテナ。空中から五体ずつ出撃したワルキューレが行く手を阻んだ

 

「っ! アリーナのバリアが!」

 

 ワルキューレが通り抜けた途端、解けていた天辺のバリアが修復されていく。

 このままではセシリアを追うことが出来なくなる。

 

 心臓が一気に冷え、それを振り払うよう遮二無二にワルキューレを蹴散らせそうと動いた。

 

「疾風様! 防御を!」

「!?」

 

 突撃を噛まそうとした俺を、通信越しの声が引き戻した。

 咄嗟にプラズマ・フィールドを張ると、同時に俺を包囲していたワルキューレが爆炎と共にスクラップとなった。

 

 撃たれた方向を見ると、練習機の打鉄に乗り込んだ菖蒲の姿があった。

 

「菖蒲!?」

「疾風様はセシリア様を! お早く!!」

「すまん!!」

 

 スラスターを最大で稼働し、閉じる穴をギリギリですり抜けた。

 

「今いく、セシリアっ!!」

 

 流行る気持ちを抑えることはせず、遠くで戦っているセシリアの名を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、ですか。そこはありがとうで良いのですよ、疾風様」

 

 言葉を選ぶ余裕などなかったのだろう。

 飛行機雲を伸ばすスカイブルー・イーグルを眺めながら、菖蒲は小さく呟いた。

 

 その周りを白い躯体の人形、ワルキューレが取り囲んだ。

 

「あなたたちに疾風様の邪魔はさせません」

 

 菖蒲は打鉄のブレードを取り出し、その切っ先をワルキューレに向けた。

 

「かかってきなさい!!」

 

 レーザーガンの弾幕をシールドで突っ切り、菖蒲と打鉄はワルキューレに斬りかかった。

 

 

 

 

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