IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第80話【強くなれた理由】

 

【三年前】

 

 

「しばらく会えなくなるわね、セシリアちゃん」

「はい」

 

 イギリスの空港。

 セシリアの両親の墓参りを終えたレーデルハイト一家はゲート前でセシリアとブランケット一家が話していた。

 

 まだ高校生にもなってない中学生のセシリア。だがそのいで立ちは子供のそれではなかった。

 

 無理して大人になろうとしているが、それでもそれを悟らせない気品と険しさを持っていた。

 

「フラン叔母さんは忙しいから来れなかったのかしら?」

「お母様から引き継いだティアーズ・コーポレーションを始め、傘下組織に対する対応に追われています」

「なにかあったら遠慮なく言ってね。力になるわ」

「ありがとうございます。ですが、極力手を借りることはないかと」

「………そう」

 

 セシリアの瞳の奥に宿る警戒の色に、母さんは寂しそうに笑った。

 葬式が終わり、数々の企業や人が助け船を出した。

 が、それはどれも泥舟。みながオルコット家の財産、そして現当主のセシリアに取り入ろうと、あるいは掌握しようと企んでいる金の亡者。

 

 その事実を目のあたりにし、セシリアは周りを信じることに恐怖を感じているのだ。

 

「ハロルド、グレース。そしてチェルシーちゃん。セシリアちゃんをお願いね」

「この命にかえましても」

「そちらも気をつけて」

「わかりました」

 

 オルコット家に仕える執事長、メイド長、そして二人の娘であり、セシリアの専属の使用人であるチェルシーが母さんに丁寧なお辞儀をする。

 

「………」

「なんて顔をしてるのですか疾風」

「俺、なんも力になれてない」

「当たり前でしょう。あなたはレーデルハイト工業CEOの息子ですが。単にそれだけなのです。あなたが火の粉を浴びる必要などないのです」

「……俺は」

 

 うつむいていた顔を上げ、俺は目の前のセシリアを真っ正面に見据えた。

 

「俺は、強くなる」

「え?」

「俺は強くなる。セシリアちゃんに負けないぐらいに、ううん」

 

 深呼吸をし、セシリアに決意をぶつけた。

 

「セシリアを守れるぐらい、強くなってみせる!!」

 

 大きな声に周りは何事かと目線を飛ばすが、そんなことお構い為しに、俺は今まで見たことのないぐらい強い眼差しでセシリアを見つめた。

 

 初めて呼び捨てにされたセシリアは一度目を丸くしたあと、笑みを浮かべた。

 

「なんとも大きく出ましたわね」

 

 そう言ってセシリアは鞄から一冊の古そうな本を取り出して渡した。

 

「これって、小さい頃呼んでたアーサー王伝説の?」

「お渡しします」

「でもこれセシリアの大切な宝物じゃ」

「これはお守り。今より強くあろうとするあなたへの。受け取ってくれますか?」

「…分かった。大切にするよ」

 

 もらった本を小脇に抱え、俺とセシリアは自然と手を差し出し、握手をした。

 

「お互いに」

「うん、頑張ろう」

 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 IS越しにセシリアの情報が流れてくる。

 

 右腕に刺し傷、血はISの保護機能で止血されている。

 バイタルサインは危険域ではないが、セシリアの顔色が著しくない。

 

 ISもシールドゼロ。何一つ武装もない。

 だがこちらを見上げるセシリアの目は今もなお強い光を宿していた。

 

「後は任せろ」

「お任せします」

 

 それを最後に彼女は意識を手放した。

 

 ここまで弱った彼女を見るのは初めてだ。

 

「………チッ」

 

 吹き飛ばされたサイレント・ゼフィルスが体勢を立て直した。

 バイザーには小さなヒビが入っているが、まだ奴は健在だ。

 

 そして、後方から高速で接近するIS反応。

 

「セシリア! 疾風!」

「一夏?」

 

 後方から追い付いた一夏と白式が俺たちとサイレント・ゼフィルスの間に入った。

 

 恐らく出ていった俺とセシリアを前に我慢出来ず、アリーナのシールドを零落白夜で抜けたのだろう。

 

「セシリアは?」

「右腕を刺された」

「なんだって!? あいつがやったのか!」

 

 怒りをあらわにした一夏はサイレント・ゼフィルスを睨み付ける。

 

「一夏、お前はセシリアをIS学園に運べ、近くの病院では受け入れてくれるかわからない」

「わかった、ってお前はどうするんだよ」

「サイレント・ゼフィルスを鹵獲する。あれはティアーズ・コーポレーション、セシリアの親元の物だ」

「一人でやるのか!? そんなの無茶だ!!」

「早く行け」

「っ!!」

 

 一夏は思わず息を飲み、後ずさった。

 

 目の前の親友が発した声は静かで、まるで地獄の底から響いてきたような低い声色だった。

 背中越しでも分かる親友の怒りに一夏の怒りは飲み込まれた。

 

「行け、セシリアに何かあったら。俺はお前を許さない」

「……わかった。ここは任せる。無理はするなよ!」

「ハハッ。お前が言うなっての」

 

 思わず笑ってしまった俺を後に、セシリアを抱えた一夏はIS学園に飛んでいった。

 

「わざわざ待ってくれたのか?」

「………」

 

 問いかけに答える気がないのか、文字通り沈黙するサイレント・ゼフィルス。

 だがそれは単に俺と話してるからではなかった。

 

『エム。あなたセシリア・オルコットを殺そうとしたわね? それはブルー・ブラッド・ブルーから禁止されていた筈よ』

『そんなもの、一々覚えていない』

『クイーンはおかんむりよ。流石に私も今回は擁護出来ないわ』

『クイーンのオーダーをこなす。丁度疾風・レーデルハイトが目の前に居る。オーバー』

 

 スコールとの通信を切ったエムは俺と向き合った。

 

「お前、名前は?」

「………エム」

 

 エム。恐らく本名ではないんだろう。

 

「お前も俺を殺せって言われてるのか?」

「話が早いな」

 

 エムはスター・ブレイカーをアクティブにする。

 だが俺がろくに構えもしないことに疑問を抱いたが、迷わず引き金に手を掛けた。

 

「お前には死んでもらう」

「無理だ」

「命乞いか、だがお前の確認など必要は」

「お前には無理だ」

「………なに?」

 

 エムは俺の物言いから無理=死にたくない、ではなく。無理=お前に俺は殺せないという意味だとわかった。

 エムが怪訝な顔をした。だが次の一言で豹変した。

 

「だってさ──お前弱いだろ」

「なっ」

 

 エムは俺の抑揚のない言葉を前にバイザー越しで目を見開き、息を飲んだ。

 一瞬幻聴かと迷ったところを、間髪いれずに言ってやった。

 

「もう一度言う。お前は弱い」

「虚言を」

「わからないなら、わかりやすく言ってやろうか。お前は雑魚だ」

「ふざけるな! それ以上口を開くな!! 私にそのような言葉を吐くな!!」

 

 度重なる侮辱に普段は澄ました顔をしているエムも声を荒げた。

 スター・ブレイカーの砲身を開き、エムのイラつきと同じように溜まる光を見ても、俺は動じることなく話し続けた。

 

 どうやら彼女にとって『弱い』という単語は禁止ワードらしい。

 

「何故お前が俺に勝てないと断言するのか。単純だ。それはお前がセシリアより弱いからだ」

「何をっ!」

 

 自分があの女より弱いだと? 

 エムは本気で耳を疑った。

 

 現に最後の不意打ちを除いて彼女の攻撃を一発食らっていない。逆に彼女を丸裸にした。

 それなのに目の前の少年はセシリア・オルコットの方が強いと言っているのだ。

 

「なに面食らった顔をしている? 俺の言っていることがそんなに信じられないのか?」

「当たり前だ! 私があの女より劣るとでも言うのか!」

「……驚いた。お前本気でセシリアに勝ったと思い込んでるのか」

「なにっ?」

 

 度重なる疑問にエムの頭はこんがらがる。

 そこに畳み掛けるように説明した。

 

「お前と戦ったセシリアは実力の半分も出せていない。もしセシリアが本気でお前を落としにかかったなら、ここまで消耗することはなかった。たとえフレキシブルを使えなかったとしてもだ」

 

 BTの遠隔操作は操縦者の精神状態がダイレクトに伝わる。

 本来のセシリアなら、あそこでアルペジオを二基同時に失うとは思えない。

 

 ここに来るまでの間。通常視界とは別に超望遠モードでセシリアとエムの戦いを見ていた。

 そして二機がしきりに高度を変えていたことも。セシリアが攻撃する時は相手と同じ高度を取っていた時だけだということを。

 そして、セシリアが敵の砲撃に身を挺して受けていたことも。

 それだけで俺は理解した。

 

「何故セシリアが本来の力量を出せなかったか。それはお前が街を、下の人間を盾にしていたからだ。じゃないとセシリアに勝てないと思ったんだろ」

「違う!!」

 

 エムは全力で否定した。何故なら、本当にそういうことではなかったからだ。

 

 エムはセシリア相手に遊んでいた。セシリアの生真面目な性格を読み取り。こちらが背にしていれば撃ってこない、自分が上を取ったら慌てて高度を上げてくると分かっていた。

 

 決して自分がセシリアを恐れていたからではない。エムはそれを言いたかった。

 

 実際、エムの言い分は正しいのだろう。

 どんな理由にしろ、戦場にあいて負けた側の理由など通りはしない。世間一般的な見解ではセシリアの敗北と見られるだろう。

 

「それでも俺は言わせてもらう。セシリアはお前より強い。お前とは見えている物が違うんだ」

 

 だけど俺はそうは思わない。

 

 現にセシリアは眼下の街に被害を出さなかった。

 

 ノブレス・オブリージュ。

 貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならない。

 国は違えど、セシリアは守るべき者を守りきった。

 

 それが強さでなければなんというのか。

 

「故意だろうが無意識だろうが。お前が街を盾にした時点でお前の敗けは決まったんだよ。この臆病者」

「貴様っ……」

 

 俺が喋る度にエムは青筋をピクピクと痙攣させていた。

 あと少しで血管がぶち切れるところだったが。エムはなんとか癇癪を抑え込んだ。

 

「仮にそうだとしても。お前が私より優れているという理由にはならない。それとことはまったく関係のないことだろう!」

「ああ、まあそうだな。それに関してはもっとシンプルで特に深い理由じゃないんだ」

 

 ライフルを向けたエムはまたも疑問符を浮かべた。

 

「俺はセシリアより二勝多く勝ってるんだ。数値上で俺はセシリアより強いことになってる。つまりセシリアより弱いお前が俺に勝てるわけない」

「………は?」

「あとあれだ。お前を見て、ぶっちゃけオータムの方が強そうに見えた」

「………」

 

 もうここまで来たらエムは目の前の男が何を言ってるのか分からず思考が停止した。

 それだけで相手は自分より強いと吠えてるのかと。何故そんな結論に至るのか理解出来なかった。

 

「長話させたな、ご清聴どうも。じゃあそろそろ始めようか」

 

 スカイブルー・イーグルのスラスターとアクセル・フォーミュラの増加スラスターに火を入れた。

 出力を順戦闘出力から戦闘出力へ。

 

 それと同時にエムも身構えた。

 

「といってもまた街を盾にされたらたまったもんじゃない。場所を変えよう」

「なんだと」

「このまま逃げてもいいぞ。恥ずかしいことじゃない、お前は俺を恐れて尻尾を巻いて逃げた。その結果が残るだけだ」

 

 あからさまな挑発を後に、俺はサイレント・ゼフィルスを置き去りに一気に上昇した。

 そのまま雲に穴を空けて遥か上空に飛んでいった。

 

「来るなら来いよ。誰にも邪魔されない場所で勝負しよう。お前が本当に強いなら、セコい手使わなくても俺ごときに負けるはずないよな?」

「………上等だ」

 

 もはや任務など関係ない。

 ここまで自分を侮辱してくれた男を殺す。

 

 どんな風に嬲り殺そうか。それだけを胸にエムは飛翔した。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 アリーナ観客席Gブロックの有り様は酷いものだった。

 ある椅子には夥しい数の弾痕が、ある椅子は熱により焼けただれ、ある椅子は真っ二つに切り裂かれていた。

 もはや観客席としての機能など欠片すら残されていない。

 

 アリーナ内のワルキューレと専用機持ちの激闘に引けを取らず、こちらも苛烈な戦いを繰り広げていた。

 

 元イギリス代表のアリア・レーデルハイトのディバイン・エンプレスと亡国機業(ファントム・タスク)のIS乗りのラファール・リヴァイヴ。

 

 アリアが斬りつければ一歩引き。アリアがプラズマ弾を撃てばシールドで防御。

 顔全体をすっぽり隠したフルフェイスのラファール乗りは決してアリアの間合いに踏み込まず、引きすぎず。高速切替(ラピッド・スイッチ)を駆使した多種多様な銃撃戦を展開していた。

 

 ラファール乗りもアリアにダメージを与えれていなかった。

 小口径の銃弾はプラズマ・フィールド。大口径のマテリアルライフル級は躱すか両手の剣で切り裂いた。

 

 未だにどちらもダメージというダメージは与えられない。

 文字通りの一進一退。

 だがラファール乗りの目論見がアリアの足止めというのなら、これ以上ない戦果だ。

 

「っ!!」

 

 次の瞬間ラファール乗りは大型パイルバンカー、ロワイヤルを右手に出した。

 アリアは大袈裟と見える程ラファールから距離を離し、ラファール乗りはロワイヤルのトリガーを引いた。

 

 空振りなのに関わらず風圧が飛ぶ威力にアリアは冷や汗を垂らした。

 

「あーもう。こいつばっか相手にしてられないのに」

 

 さっさと目の前の敵を叩き潰して専用機持ちの加勢に行きたいアリア。

 今からスコールを追っても追い付けないし、追い付けたとしても邪魔になるからこその選択だった。

 

 そして、それよりも心配なのがアリーナの外に飛び立っていった若きISパイロット三人。

 

(一か八かで強引にコールブランドで薙ぎ払うか。でも外したらロワイヤル(パイルバンカー)が待ってるのよね)

 

 ロワイヤルを構えたまま動かないラファール乗り。

 あのドでかい杭打ち機を前には防御が得意なディバイン・エンプレスといえど一溜りもない。

 

(この私が攻めきれない。ここまで制度の高い砂漠の呼び水(ミラージュ・デ・デザート)の使い手なんてそうはいない)

 

 砂漠の呼び水(ミラージュ・デ・デザート)高速切替(ラピッド・スイッチ)を元に組み上げる戦術プラン。

 それは対近接戦闘において最高のパフォーマンスを発揮する。

 

 だが高速切替(ラピッド・スイッチ)自体が特異技能ゆえ、使える人間は限られる。

 

 アリアの脳裏に浮かんだのはかつてモンド・グロッソで猛威を振るい。今もなお現役として君臨しているフランス代表、アニエス・ドルージュ。

 アリアは彼女以上にラファール・リヴァイヴを操れる人物を知らない。

 

 目の前の乗り手はアニエスと同等の実力の持ち主。

 それとも………

 

 あり得ない筈の仮説が浮かんだ一瞬の気の緩みをラファール乗りは見逃さなかった

 踏み込んで接近しようと地上を滑空し、ロワイヤルを突き出した。

 

「ヤバッ!」

 

 一瞬判断が遅れたアリアは半歩後ろに下がり、即座に迎撃の構えをとる。

 しかしラファールが繰り出した攻撃はロワイヤルではなかった。

 ラファール乗りは一瞬でロワイヤルをしまい、両翼のウェポンラックにマイクロミサイルランチャーをコールしてアリアに撃つ。

 

「ブラフ!!」

 

 計24発のミサイルを複数のフラッシュ・モーメントで撃ち落とし。残りのミサイルをフィールドで受け止めた。

 

「………はぁ」

 

 目の前の光景にアリアのタメ息が出た。

 

 ラファール乗りはミサイルに紛れて忽然と姿を消した。

 広域索敵でそれらしい反応はあったが、直ぐに消失した。

 おそらくISを解除したのだろう。

 

「逃がしたのはしょうがない。ということにして、今は子供たちの加勢を──」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「くっ! 一発一発の威力は低いが、この弾幕!!」

「あのドローンを操ってるのサイレント・ゼフィルスじゃなかったのかな!」

「分かりませんが。このドローンたち、動きが良すぎます。もしAI制御だとしたら誉めるべきですね!」

「でぇい! みんな、残りエネルギーどんぐらい!? あたしはまだ行けるけど!!」

「強がるな鈴。だがこのままでは決着がつかんな!」

 

 一夏が2人を追った後。

 3人減り、菖蒲が入ったことで戦力差はマイナス2になった戦場は膠着状態に陥っていた。

 

 数は先程増加した分も数えて20機以上。

 この人型ドローン兵器は決して攻め過ぎず引き気味に戦っている。一機一機の回避率も高く、弾が当たらない。

 これらを操ってる敵はこちらの武装を完全に把握しているように動いていた。

 

 ワルキューレのレーザーガンの嵐を前に専用機持ちは防戦一方。

 突撃からの近接戦にて中央突破を試ようとしたが。

 

「んわあっ!」

「自爆した!?」

 

 その瞬間ワルキューレ数機による自爆特攻をしかけてられてシールドが減る始末。

 全ドローンに自爆機能をついてるのかついていないのかが不確定である以上迂闊に接近するわけにもいかない。

 

 それが祟ってなかなかIS学園勢が攻めこまずにいる。

 更に追い討ちをかけるように、全員のシールドとエネルギーがそろそろ危ないところまで来ている。

 

 レースがデッドヒートしてるところの乱入とサイレント・ゼフィルスに削られたシールドが後を引いている。

 

 このままではジリ貧だと、この場に居る全員が理解していた。

 手があるとすれば。

 

「箒! 絢爛舞踏は使えるか! あれがあれば戦局を覆せる!」

「あれは、そんな都合良く使えるものでは………」

 

 箒のワンオフ・アビリティーのトリガー。

 それは一夏を強く思うこと、彼の力になりたい。一夏の側で戦うことを強く願うこと。

 これまで数回発動した時には必ず一夏が側にいた。それでも発動しない時があった。

 一夏がこの場に居ない状況で発動できる自信が箒にはなかった。

 

 箒の言う通り、そう都合のいいものではないということは尋ねたラウラ自身も理解していた

 

「みんな、ここは私が敵陣に穴を空ける。AICならば敵の自爆のダメージも防げる」

「馬鹿! そしたらレーザーで蜂の巣になるだけでしょうが!」

「だがこのままでは全滅だ! 敵ドローンを分散した後各個撃破。それが一番堅実的だ!」

 

 ラウラの言うことは一理あるが、友人をそんな危険な目に合わせる訳にはいかないと承諾出来ずにいた。

 だが膠着状態が続いても危険なことには変わらない。

 隙をつかれて全ドローンで特攻自爆された暁には凄惨たる未来が確定する。

 

(私はなんて役立たずなんだ!)

 

 空裂のエネルギー斬撃を振るいながら自分を叱りつけた。

 

(肝心な場面で使えない! 味方の窮地を救える力がありながら私は!!)

 

 自分の絢爛舞踏は一夏への想いの強さで発動してきた。

 だから絢爛舞踏を発動できない度に、箒は不安になったのだ

 自分の一夏への想いが足りないのではないかと。

 

 接近するワルキューレ1機に雨月の刺突を繰り出すも躱され、接近を許した。

 バイザーアイが赤く点滅している。それは自爆モードのサインだった。

 

「しまっ」

「どっっせいっ!!」

 

 真横から飛んできた鈴の連結双天牙月のブーメランに二枚下ろしにされたワルキューレが箒の目の前で爆散する。

 

「箒、あんたって見掛けによらず豆腐メンタルよね!」

「な、なんだ行きなり!!」

「ワンオフ・アビリティーのトリガーがなんだか知らないけど。どうせ一夏絡みなんでしょ」

「んなっ! 何故それを!?」

「あ、ホントにそうなんだ。ごめん」

「鈴!!」

 

 箒は心中で不覚を取ったと嘆いた。

 

「まあ予想通りだったから言わせて貰うけど。発動できないからって自分が本当は一夏のこと好きじゃないんじゃないかって考えてるなら殴るからね」

「そ、そこまで考えてはない!」

「あっそ。だったらシャンとしなさいよ」

「言われなくとも」

「あっ、もう一個言うわ」

「今度はなんだ」

 

 これ以上何を言われているのかとうんざりし始めた箒に鈴は特に抑揚もなく言った。

 

「あたしがなんで強くなりたいか、知ってる?」

「一夏だろう」

 

 それ以外に何があるのかと、眼差しを向けられた鈴はニッと笑った。

 

「も一つあんのよ」

「なんだ」

「強くなりたい。ただそれだけよ」

「……!」

「あー、我ながらガラにないこと言ったわ。行くぞオラァ!」

 

 ムズッとした鈴は拡散衝撃砲をぶっぱなしたのちに再び斬りかかった。

 

 短い言葉だった。

 だがその言葉は何よりも力強い言葉だった。

 

 その言葉に箒は疾風の個人指導の終わり際に言われたことを思い出した

 

『箒はもう少し柔らかく考えてみたらどうだ? 箒ってなんでも固く考えすぎるとこあるし。ワンオフ・アビリティー発動にも、縛りはいってるんじゃないか?』

『一夏への想いを捨てろというのか』

『そうなったらますます発動できなくなるわな』

 

 箒の買い言葉をケラケラと笑いながら躱す疾風。

 

『発想の転換だ。一夏の側にいなくてもお前は一夏が好きだろう?』

『当たり前だ』

『なら側にいなくても箒は絢爛舞踏を発動出来ることになる』

『意味がわからん』

『え、これ以上ないくらい分かりやすく言ったつもりだったんだけど………』

 

 困惑する彼。

 あの時はそこまで気に留めなかった。

 

 だが鈴の叱責が疾風の言葉を繋いでくれた。

 

(そうだ。離れていても一夏への想いは変わらない。なにせ私は四六時中一夏のことを考えているといっても過言ではないからだ)

 

 我ながら恥ずかしいことを考えているが、今の箒に羞恥心などない。

 むしろそんなの邪魔だったのだ。

 

(一夏は二人を追った。自分がすべきことを為すために。なら私も、今自分に出来ること為す!!)

 

 一夏は格段に強くなった。

 その姿を見て鈴は強くなりたいと思った。それは自分も同じだと箒と紅椿は正面を向いた。

 

「私は強くなりたい。誰にも負けないぐらい強く! 力を貸せ紅椿! みなと共にこの状況を打開するために!!」

 

 ギュイィン! 

 紅椿の装甲。否、紅椿の展開装甲の内部が鳴動した。

 短く唸った後、箒の呼び掛けに答えるように紅椿の全展開装甲が花開いた。

 

『絢爛舞踏、発動。エネルギーバイパス接続。オールクリア』

 

 薄桃色のエネルギーウィングと紅の装甲が黄金に輝き、紅椿のエネルギーがレッドゾーンからフルに変わった。

 

 絢爛舞踏、発動成功。

 

 だがそれだけではなかった。

 

 突如紅椿の肩部ユニットがジャキンと音を立てて変形していく。

 変形が終わったその姿はテールスタビライザーを携えたクロスボウのようなものだった。

 

無段階移行(シームレス・シフト)、蓄積経験値の規定値をクリア。最適化開始。出力可変型ブラスターライフル【穿千(うがち)】、スタンバイ』

「な、無段階移行(シームレス・シフト)だと?」

 

 一瞬困惑するが、姉が密かに組み込んだ機能だろうと無理やり納得した。

 

 視界に穿千の詳細が書かれるが、今はそんなものを見てる余裕などないし見たところで箒は理解できないとパネルをどけた。

 

 射撃兵装という文字が見えた。

 それだけわかれば充分。

 

「みんな! ドローンを出来るだけ中央に集めてくれ!」

「え、それって」

「細かいことは聞くな! 説明など出来ん!!」

「了解!!」

 

 箒が絢爛舞踏、そして見知らぬ装備を展開してるのを見た専用機持ちは箒の言うとおりワルキューレを取り囲むように動いた。

 

 紅椿の黄金の輝きはまだ収まらない。

 その無限のエネルギーを両肩の穿千に収束していく。

 

『フルチャージ完了。PICブレーキ、最大』

「ぶちぬけ!! 穿千ぃぃ!!」

 

 2門の穿千から閃光が爆ぜ。極太のビームがアリーナの地面を焼いた。

 

 僚機のおかげで中央に集まったワルキューレの大半は光の本流に呑み込まれ、掠った物は吸い込まれるように流されて爆散した。

 

 20機以上残っていたワルキューレが、一瞬で半分の10機にまで減った。

 

「覆るとは言ったが、ここまでとはな!」

「ほんと規格外だね紅椿は!」

 

 紅椿は穿千を収納したのち再び展開装甲を全て開いた。

 金色の光を放ったままの紅椿を纏った箒は両の刀を構え直す

 

「みんな、私が飛び回る! すれ違いざまにエネルギーを受け取ってくれ!!」

「わかった! みんな、もう一息だ!」

 

 大輪の華が展開装甲に物を言わせてアリーナ内のワルキューレに斬りかかり、近くにいた甲龍とハイタッチした。

 

 三分の一ほど回復した自身のエネルギーパラメーターを見て、鈴は軽くタメ息を吐いた。

 

「まったく、どんだけ好きなんだっつの」

 

 鈴は双天牙月を構え直して加速し近くにいたワルキューレを真っ二つにした。

 愚痴るようにこぼすが、鈴の顔はライバルに対する戦意に満ち溢れていた。

 

 






 思ったより紅椿の覚醒パートが長引いて分けることに。

 次回、おまちかねの疾風VSエムとなります。
 お楽しみに
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