IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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 おまけと言いつつガッツリ書いてしまったのでおまけじゃなくなったでござるの巻。


第84話【強さ】

 

 

 

「なあ柴田よ」

「なんだい」

「俺が言った通りIS学園女子って可愛い子ばかりだったろ」

 

 村上と柴田は主役と友人が居ない誕生日パーティーの景色を見ながら皿に盛られたケーキを食べた。

 

「まあ、そうだね」

「あ、可愛いって言ったな! 彼女にチクってやる」

「もうお前にケーキ恵んでやらん」

「すいませんでしたぁ!」

 

 甘味を征する者が全てを征す。

 直角90度で謝罪した村上が良い例だった。

 

「まあ前座は置いといてさ。あのセシリア・オルコットが疾風の幼馴染みって知った時には驚いたよな」

「俺は夏休みには知ってたけど。握手した時に手を洗うか迷うぐらいに美人だよね」

 

 もし同じ学校に居れば彼女は間違いなく高嶺の花。自分なんか歯牙にかけない存在と成り果てる。

 常に世界は不公平だと思ってる村上は初めて知った時はハッキリ言って嫉妬した。

 

「人のこと言えねえけど。疾風って顔は平凡の部類じゃん?」

「そうかな。少なくともIS学園に行ってから顔つき変わった気がするけど」

「それでも織斑一夏に比べれば普通だろ?」

「比べる相手が悪いよ」

「だからよ。俺は初めて聞いた時は耳を疑ったわけよ」

 

 村上は残ったケーキを頬張り、しばし間を置いた。

 

「でもさ。不思議と疾風だったらああそうなんだなぁって受け入れたんだよな」

「というと?」

「家柄? じゃないよな。でもなんでか納得したんだよ」

「なんだそれ」

「あの」

「はい?」

 

 二人で話し込んでるといつの間に居たのかセシリアが目の前に立っていた。

 彼女の美貌に目が眩むと同時に痛々しさが前に出た包帯で現実に引き戻された。

 

「あの、俺ですか? それとも村上?」

「ちなみにこいつは彼女います。ですが俺はフリーです」

「違います」

「はい」

 

 1ミクロンの希望は全容を話す前に打ち砕かれた。

 軽く落ち込む素振りを見せたあと、直ぐに気を持ち直した。

 

「わたくしが用があるのはお二人です」

「俺ら、ですか?」

「はい。あなた方は中学から疾風と知り合いと聞きまして」

「ええ、一年からずっと一緒です」

 

 高校に上がっても一緒なぐらいの腐れ縁だった。

 疾風なら最上位の学校にも充分狙えたが「IS学園以外どれも大差なんかない」と言った

 結局三人は近く、そしてそれなりに高いランクの学校というだけで選んだ。

 

「中学の頃の疾風を知りたいのです」

「疾風から聞いてないんです?」

「当たり障りのないことぐらいしか」

「成る程わかりました。俺たちの話でよければ」

「ほんとですか。ありがとうございます」

「いえいえ!えっと、先ずは………」

「ちょいまち村上」

「な、なんだよ」

 

 軽く笑うセシリアに見惚れる村上に柴田は待ったをかけた。

 

「失礼ですが。中学の疾風についてはどこまで知ってます? 深いことはどこまで?」

「彼がイジメにあっていたということは知っています。とても酷い状況だったと」

「そうですか。それなら話せます」

 

 問題をクリアという顔をした柴田。柴田に促され、村上は話し始めた。

 

「あいつと出会った時は。まあ普通って感じでした。ハーフだから興味本位に聞いてみたら大企業の息子だって聞いた時は驚きました」

「頭も良くて運動神経抜群。なんでそんなに頑張れるのかって疾風に聞いたら『出来て困ることはないし。それに、いつか自分がISに乗れる日が来ても困らないように』って。初めて聞いた時はこいつなに言ってんだって思った」

「でもあいつガチの本気で思ってたからな。それが面白くて気づいたら友達になってました」

 

 今の疾風とは違うセシリアの知ってる疾風の人物像が出てきた。

 そして、あんなことは言いつつも、当時の彼も自分との約束を覚えていたのだと。セシリアは少し嬉しくなった。

 

「しかしまあ。金持ち、ハーフの男。更に男なのにISに乗りたいなんて変わった夢。良い意味でも悪い意味でも疾風は目立ちました」

「そしていじめに」

「酷いもんだった。教科書や靴を隠す、机に落書きや花瓶。ガタイの良い男の先輩を使ってカツアゲ。ドラマで出てくるようなイジメのオンパレードだったな」

「しかも主導してたのは、当時一年でヒエラルキーの高い女子でした。その子の親が女性権利団体に所属していて、しかも結構偉い役職らしく」

 

 この時の女性権利団体はまさにカーストの頂点。穏健派の女性保護団体という組織もあるが。前者に比べてそこまで発言力と影響力はない。

 

「あの、その人の名字って安城でした?」

「いいえ。貝塚って人でした」

「そうですか」

 

 安城とは別人。

 流石にそこまで来たら因縁レベルだとセシリアは安堵した。

 

「まあそんな奴らだから疾風がイジメを受けても教師を含めて周りは見てみぬふり」

「俺たちも似たようなものでした。情けない話です」

「言うなよ。あん時はマジで貝塚の恐怖政治だったんだ」

 

 女尊男卑社会においての女性によるスクールカーストは一度築かれてしまえば酷いもので。それが過激派であれば親の名を交渉材料にすれば充分脅迫のネタとなれる。

 

 同じクラスの生徒は貝塚に恐怖心を抱いていた。それは被害者、同姓異性問わず周りの生徒。

 みな彼女の機嫌を損ねないよう知らぬ存ぜぬを通した。

 

 イジメを容認していた周りも同罪とよく言われる。

 だがひとたびその矛先が自分に向けられたら? 疾風と同じことが自分の身に降りかかったら? 

 それは間違いなく恐怖そのものだ。

 

「あいつはただ耐えるだけだった。俺たちも疾風が孤立しないように貝塚から見えないところで仲良くするしかなかった」

「疾風も親にそのことを言わなかったから。入学から夏休みまでずっと続きました。聞いてみたら、小学校の時も時々そういうのあったみたいで」

「そうだったのですね」

 

 セシリアの両親の葬式の前に、一度イギリスに来てくれたことがあった。

 その時は疾風がイジメにあってることなど欠片も知らず。それでいて疾風もそれを悟らせることはなかった。

 

「ずっとそんな環境が続くと思ってた。でも、一年の夏休みの後から疾風は変わりました」

「三年前、ですね」

 

 間違いなく両親の葬式の後の事だ。

 

 そしてセシリアは理解してしまった。

 ここから今の疾風の人格が形成されたのだと。

 セシリアを守るために強くなる。

 その為には自分に来る火の粉ぐらい払えなくては駄目だと疾風は行き着いたのだろう。

 

 優しいままでは生きられないと。

 そんな彼を変えてしまった今の世界にセシリアは胸を痛めた。

 

「疾風は段々とイジメに対して怒りを見せてきたんです。いつも暗い顔で抵抗せずされるがままだったのに。『このままやられてばかりでいられるか』って」

「そしたら段々と疾風のイジメの頻度が減っていったんです。間接的なことはあれど直接的なイジメ、取り巻きを使ったカツアゲがなくなったんです」

「疾風に何かしたのか? って聞いたんですけど。疾風はなんもしてないって」

「嘘ですわね。疾風がなにもしないはずは」

「呼んだか」

「「「わっ!?」」」

 

 本当にいつの間にいたのかそこには話の中心の疾風が。

 遅れて入ってきた一夏がジュースを配っていく。

 

「なんの話してた?」

「え、えっとそれは」

「疾風の中学の時の話ですわ」

「オルコットさん!?」

「あー成る程。たくっ、お前ら」

「彼らは悪くありませんわ。わたくしがどうしてもと言ったのですから」

「そうかい。取りあえず飲み物置いてくるから待ってろ。あ、飲みたいのここにあったら取れ」

 

 残った飲み物をゴトリとパージ。

 疾風はオレンジジュースの缶を半分まで飲み干した。

 

「しかしお前らよくセシリアに話そうと思ったな。2年、3年に上がっても誰にも話さなかったろ」

「オルコットさんなら良いかなって」

「その心は?」

「だって疾風がオルコットさんのこと話す時いつも楽しそうだし。半ば女性不信な疾風がそこまで入れ込んでるなんて相当だなって思ったし」

「えっ、そうなのですか疾風?」

「あー、そうなん、じゃないの?」

 

 特に否定することなく頬をかく疾風はオレンジジュースを流し込んだ。

 

(は、疾風がわたくしに入れ込んでるとはどういう? もうっ、疾風がわかりませんわ!)

 

 セシリアも釣られてミルクティーを飲むことで誤魔化した。

 

「まあ、セシリアにはいつか話すつもりだったからいいか。んで、どこまで話したんだ」

「疾風が夏休みの後から変わったよなって話と、そっからイジメの規模が小さくなったなって」

「疾風がなんかしたのか?」

「ああ、あれは危害加えてくる奴らとの会話を逐一ボイスレコーダーで録音してから一対一で交渉して止めさせたの。『これを親やその他諸々に流されたくなかったら金輪際俺に関わるな』って定番の脅し文句でな。交換条件が不可侵だから大抵の相手は大人しく引き下がってくれたよ」

「えっ、お前をカツアゲしてたゴリラ野郎も?」

「ああ、あいつらは力付くでボイスレコーダー奪おうとしたよ。させなかったけど」

「まさかボコられたのか?」

「いや、相手が疲れるまでいなしたり転ばしたりしてそのあとまた話し合ったよ。流石に学校で喧嘩沙汰になったら校内の印象悪くなるしな」

 

 その気になれば一方的に叩きのめすことも出来たのでは? とセシリアは思わず邪推した。

 

「結果、貝塚の勢力は大幅に縮小した。ああいうのは群れて力を発揮するからな。取り巻き減らせば沈静化するって思ったんたんだが。そう簡単には行かなかった」

 

 対照的に間接的、そして貝塚本人からのイジメが激化した。毎日毎日机や下駄箱にイタズラ。酷いときには机と椅子がなくなったことすらあった。

 

「流石に教師も見てみぬふりが出来ないと対応した。けど長く続かないで、結局イジメアンケートで当たり障りのないこと書かされてはいおしまい」

「流石にこれで終わりかと思った俺たちは教師を問いただしたんですよ。そしたらビックリ、貝塚の親がちょっかいかけて来たって分かったんですよ」

「圧力ですか」

「ええ、子も子なら親も親。流石に呆れ果てましたよ」

 

 まるで政治家に圧力をかけられる刑事ドラマだと思った。

 

「そして最悪なことに。俺と一緒にいた村上と柴田にも被害がおよんだ」

「そんな」

「疾風と縁を切れとか。そういう紙が張られたりな。画鋲入れられたこともあったよなぁ」

「流石に我慢できなくなって俺は貝塚と直接話をした。これ以上俺たちに危害を加えるなら覚悟しろって」

 

 結果は変わらず。

 このままでは村上と柴田までエスカレートするイジメの渦に巻き込まれる。

 そう考えた疾風は遂に最終手段を発動した。

 

「裁判を起こした。内容は俺に対するイジメとして。自分に被害が来るわけないと思ったんだろうな。ペラペラと自分には女性権利団体の後ろ楯があるとか、お前は私の奴隷なんだから楯突くなとか。証拠材料をポンポン出してくれて助かったよ」

「それで結果は?」

「こっちの勝ち。証拠は沢山あったし、目撃証言も素直に話すようにクラスメイトや先生にも交渉した。初めて裁判起こしたから色々大変だったけど、うち専属の弁護士が色々助けてくれた」

 

 結果。貝塚からのイジメはパッタリなくなった。

 裁判結果で負けた。それは再犯を起こせば更に自分の立場が悪くなるということに繋がる。

 

「ほどなくして貝塚は学校を転校したよ。未成年だから世間に顔は知れてないけど。男側、しかもイジメの裁判に勝利したことで世間の注目を浴びた。何処からかマスコミにも名前がバレて親も仕事やめたらしいよ」

「まさか貴方がリークしたのではないですよね?」

「いやいや流石にそこまではしてないよ。多分俺以外にも貝塚の被害にあってた奴が話したんじゃないか? 知らないけど」

 

 これにて貝塚の恐怖政治は幕を下ろした。

 

 そこから先の学園生活は至極平穏なものだった。

 疾風に手を出せば社会的に殺される。誰が流したかわからない噂が流れてしばらくは人が寄り付かなくなったけど。

 

「こんなところだ」

「なんというか。想像していた通りでしたわね」

「想像出来たのオルコットさん!?」

「うへー。流石疾風の幼馴染み」

「穏便に済ませていますし。まだ可愛らしさもありますわね」

「疾風、お前IS学園でなにした?」

「法には触れてねえよ」

「「当たり前だ!」」

 

 思わず大きな声を出した二人に流石の疾風も両手を上げて笑った。

 疾風はやる時はとにかく容赦ないが必ずルールは守る。

 ルールを破れば自分の正当性は失われる。だがルールを守っていれば周りが難色を示してもまかり通れる。

 それが疾風・レーデルハイトだ。

 

 だけど村上と柴田は知っている。

 

 天狗の鼻をへし折ることに快感を覚えるという困った悪癖を持つ疾風だが。

 それと同時に確かな優しさと気のよさを兼ね備えた人物だということを。

 

 だが。

 

「オルコットさん。こいつのこと頼みます。道徳はあるけど的確にルールの穴を抜けるやつなんで」

「決して悪い奴ではないんですけど悪いやつ以上に悪いことしそうなので要注意です」

「お前ら褒めてるようで貶してるな?」

「「そんなことねえよ?」」

「まあ白々しい」

 

 それはそれこれはこれ。

 彼が危なっかしい人物であることに変わりはない。

 

「ご安心を。疾風の手綱はわたくしがしっかり引かせて頂きますわ」

「「宜しくお願いします」」

「ククク。果たしてお前に俺を御すことは出来るかな?」

「あなたは少し自重なさい」

「あいた」

 

 セシリアのチョップに疾風はクールダウン。それを見て二人はこの人なら安心だと直感した。

 

 そんななか、リビングのドアからガチャリと音がした。

 

 もうパーティーメンバーは全員リビングにいる。

 そんななかで入ってこられる人物は一人しかいない。

 

「ちふっ、織斑先生!?」

 

 この家の家主にして一夏の姉である千冬である。

 いつもの黒いスーツ姿の彼女を前に一夏は思わず名前で呼びそうになった。

 

「普通でいい。今の私は教師ではなくお前の姉だ」

「お、おう分かった千冬姉。でもなんでここに?」

「何故? 弟の誕生日を祝うのに理由などいらないだろう」

「え?」

「誕生日おめでとう、一夏」

 

 そう言って千冬が出したのは本日何回目かわからない黒い長方形の箱。

 一夏が開けるとそこには艶消しの黒と金メッキ色の如何にも上等なボールペンだった。

 

「ボールペン?」

「ああ。生徒会や関係資料でペンを使うことが増えてきただろう。それは私がいつも仕事で使っているものと同じ物でな。書きやすく長持ちする代物だ」

「持っただけで分かるよ。これは良いペンだ」

「ほう、そんなことが分かる歳になったのか?」

「一個歳くったからな。ありがとう千冬姉」

「喜んでくれて何よりだ。これから書くものも増えるからな。目一杯使うといい」

「どういうこと?」

「………本来ならここで言うことではないが、明日には公になるからな」

 

 コホンと一つ咳払いをし。千冬は一時的に教師としての立場に戻った。

 

「織斑一夏」

「は、はい」

「疾風・レーデルハイト」

「はい」

 

 二人の名前が呼ばれた。ということは先ほどの市街地戦についてのことか。

 と思ったがそれならセシリアも呼ばれるはず。

 小首を傾げるなか。千冬は鞄から書類を取り出した。

 

「先ほどIS国際委員会より正式な申し付けがあった。本日付で織斑一夏、疾風・レーデルハイトの両名は日本代表候補生としての任につくこととする」

「えっ!?」

「俺と一夏が、代表候補生?」

 

 一夏の白式は日本の倉持技研からの出。

 そして疾風は日本とイギリスのハーフではあるものの、国籍は日本だ。

 

「表面上は決まっていたらしいが、今回の襲撃事件で後押しされたようだ。以後、二人は国の看板を背負うことになる。わかったな」

「「はい」」

 

 疾風はともかく、一夏は専用機持ちでありながら無所属だ。

 長らく議論されていたが、収まるところに収まったというところか。

 

 そして、それはもう一人にも適用される。

 

「そして篠ノ之箒」

「はい」

「お前も暫定的だが日本代表候補生となる。お前のISの出自は特殊だからな。仮止めという形で所属することになる。異論はあるか」

「いいえ」

「よし」

 

 三人は千冬から書類を受け取った。

 

 性急な話となったが。IS学園に在住するレアケース三人は瞬く間に日本所属となった。

 

「すまないな。せっかくの祝い事に水をさすような真似をして」

「いや、これは必要なことなんだろ」

「ありがとう一夏」

 

 目の前の重大発表に空気が張りつめるなか、その空気をぶち破ったのは学園が誇る生徒会長だった。

 

「はいはい! 湿っぽい空気は終わり! こっからは一夏くんの誕生日に加えて三人の代表候補生就任祝勝会よ! さあ騒ぎなさい若人!」

「そ、そうですね! おめでとう!」

「おめでとう!!」

 

 場を盛り上げることに関して彼女の右に出るものはいない。緊張が解れてざわめき、各々が料理やスイーツに手を出した。

 

「箒、これで同じ土俵ね。負けないんだから!」

「ああ、望むところだ」

「疾風、おめでとうございます」

「なんだかまだ実感がないけど。とりあえず足掛かりは掴めたかな」

 

 ここにいる大半がISを持っている。

 そんな異様な環境など忘れてるかのように。みな年相応に騒ぎあった。

 

「千冬姉。今日はもう仕事ないんだろ? ケーキあるから食べようぜ」

「ああ、いただこう」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「ええ、今回は完全にこっちの落ち度よ。わかってる、リードはしっかり握るわ。ええ、それじゃ」

 

 スコールは一呼吸置いて電話を切った。

 

 電話の相手は亡国機業(ファントム・タスク)の別動隊ブルー・ブラッド・ブルーのリーダー、フランチェスカ・ルクナバルト。

 

 内容は勿論、自分の部下であるエムが彼女のお気に入りであるセシリア・オルコットに重傷を追わせたこと。

 

 エムをセシリアにぶつける。

 これ事態は数多の計画ルートのうちの一つに入ってはいた。

 

 優れたBT適性を持つもの同士をぶつけ、セシリア・オルコットの偏光制御射撃(フレキシブル)を誘発させる。

 結果は大成功だが。ここでエムの悪い癖が出てしまった。

 

 フランチェスカの計画にはセシリア・オルコットの偏光制御射撃(フレキシブル)データが必要なのだという。

 エムのデータでは駄目なのか? そう聞いたこともあったが、エムのデータは特殊過ぎてそれ単体では計画に必要なピースにはなり得ないのだという。

 

 それでもエムのBT能力はあちらの助けになるのだろう。

 お気に入りを傷つけられても、エムはこれからも彼女の計画を手助けする手筈となっている。

 

 サイレント・ゼフィルスを取り上げられなかったのは。ひとえにエムの能力の高さ、そしてサイレント・ゼフィルスとの相性の良さ故だった。

 

「なにを考えているのかしらね………」

 

 計画。人型BT兵器ワルキューレもその一つなのだという。

 あの兵器は単純に戦力を補充できるが、欠点としてBT適正者なしでは少し動くだけの鉄の案山子。

 

 そんなものを用意してフランチェスカ・ルクナバルトが何を計画してるのかはスコールも知らない。

 自分が言えたことではないが、よからぬことを考えているというぐらいしか。

 

 スコールはふと、彼女が一番目の敵にするセカンドマンの顔を思い出した。

 

 初めて写真越しではなく、面と向かって話した。

 

 そして思った。

 似ていると。

 かつての知人に。

 

「──!!」

「──! ──!!」

 

 別室から怒鳴り声が聞こえた。

 スコールは髪をかきあげ、閉め出されたドアを開けた。

 

「離せオータム!!」

「あーもう! いつも以上にじゃじゃ馬だな! ナノマシン打つって言ってんだから大人しくしやがれ!!」

「必要ない! 殺す! 奴を殺す!! 私は負けてなどいない!!」

 

 ベッドに押さえ付けられてるエムとそれを押さえ付けるオータム。

 アラクネは修復中、サイレント・ゼフィルスは今スコールが持っているため二人ともISがない。

 もしあればこの部屋は見るも無惨な姿に変わっていたことだろう。

 

「エム」

「スコール! ISを返せ!! 今すぐ疾風・レーデルハイトを殺す! 私は弱くなど」

「スレイブコード・バインド。アクティブ」

「っ!!?」

 

 スコールがISの待機形態であるイヤリングに手を当て、キーワードをコールした。

 

「があああぁぁぁっ!! ああっ! うぐっ、うわぁーーー!!!」

 

 突然エムが頭を抱えて苦しみだした。

 エムの体内には監視用ナノマシンが注入されており。スコールの認証によって行動を制限できる。

 いまは無力化用の低出力モードだが、やろうと思えば数秒で脳中枢を焼き切ることが出来る危険な代物だ。

 

「カット」

「ああっ! ぐぅ、ふぅ、ふぅ………」

「す、スコール………」

 

 だがスコールは今までエムにそれを使ったことはなかった。

 スコール自身こういうやり方は好みではないためだ。それをわかっているからオータムもスコールを見て驚いている。

 

 普段穏和な笑み浮かべるスコールも、今回ばかりは許容出来ることではなかった。

 

「エム、あなたはやり過ぎたわ。今後、私の許可なしに行動すれば、今度はキルモードで使わせてもらう」

「ぐっ、か、は………」

「エム。あなたが織斑マドカであろうとそうでなかろうと、私には関係ないの。でもここにいる間は亡国機業(ファントム・タスク)のエムとしていて頂戴」

 

 織斑マドカ。それが織斑千冬と酷似してる彼女の本当の名前だった。

 

「でないと、織斑千冬との決着なんて夢のまた夢よ。今のあなたは彼女の足元にも及ばない」

「貴様が姉さんを語るな」

「はいはい。私にも立場はあるの、賢いあなたなら理解できると信じてるわ」

 

 スコールが出ていくのと同時にオータムも部屋を後にした。

 一人ベッドの上に倒れるエムは胸元のロケットを震える手で開いた。

 そのなかには、織斑千冬の顔写真が納められていた。

 

織斑千冬(ねえさん)………」

 

 ギュっとロケットを握りしめながら彼女を姉と呼んで目蓋を閉じる。

 

「ねえさん、すまないがねえさんは後回しだ」

 

 しばらく握りしめたあと。エムは再び目蓋を開いた。

 その瞳には憎悪の炎が灯っていた。

 

「疾風・レーデルハイト………この借りは忘れない………」

 

 憎しみ。

 敗北を肌で感じた今のエムにとって。それだけが自身を支える糧だった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 一夏の誕生日パーティーが終わり、華やかとなったリビングはすっかり元に戻っていた。

 いまリビングにいるのは一夏と、着替えを済ませた千冬の二人。

 

「お疲れ千冬姉」

「それはお前もだろう。現場にいたのだからな」

 

 入れてきた紅茶を千冬の前に置き、一夏も椅子に座って紅茶をすすった。

 

「……飲んだことない味だ。それにこんなカップうちにあったか?」

「セシリアのプレゼントだよ。イギリスのいいとこなんだってさ」

「そうか」

 

 普段コーヒー派の千冬でもこれは美味しい物だと感じた。

 

「最近はどうなんだ。一人は気になる女でも出来たか」

「またその話? いないってば」

「部活の助っ人でいく先々で人気らしいじゃないか。モテモテだな」

「だから違うって」

 

 久方ぶりの家族として時間を過ごす二人。

 中学時代も千冬の仕事や一夏のバイトですれ違いがあり、IS学園に入ってからは完全に離れた二人。

 わざわざお互いの部屋に行くこともなく過ごした二人にとって今の時間は何物にも変えがたい物だった。

 

 ゆっくりと話が出来る。

 そんな状況の中で、一夏は普段聞けないことを聞いてみることにした。

 

「千冬姉」

「ん?」

「なんで俺ってIS動かせるんだ?」

 

 一夏が偶然動かしてしまったIS。

 疑問に思ったのは最初の頃で、途中からはそれどころではなくなった。

 疾風という二人目の存在が出たとはいえ、それ以上に出たという情報はない。

 

 そして自分の存在が世界にどれだけ重要視されてるか、そして自分の存在を目の敵にしてる者もいるということを知った。

 

「何故動かせるかについては。私から話せることはない」

「知らないってことで良いのか?」

「そうだ」

「本当に?」

「二度も言わせるな」

 

 若干引っ掛かりのある言い方に聞こえた一夏は怯まず聞いてみるが結果は得られなかった。

 

「束さんは知ってるのか?」

「どうだろうな。それに聞いたところで素直に答えると思うか?」

 

 誰に聞いても満場一致でノーだ。

 

 この話は終わりとばかりに千冬は紅茶を口にする。

 ある意味予想できた答えだったためにそこまで落胆していない一夏もティーカップを持ち上げた。

 

「すまんな」

「ん、なにが?」

「お前をISから遠ざけたことだ」

 

 第二回モンド・グロッソの事件から。一夏にはISに関する一切を断つようにと千冬に言われた。

 ニュースにISの内容が出ると番組を変えるぐらいの徹底振り。

 一夏自身もネットで調べることもせず、やるとしたら弾や数馬の家でISVSをやるぐらいだった。

 

「なんでそんなことを」

「お前がISに関われば束が動く。そうなればお前に危険が迫ると思った。そんな私の言いつけをお前は素直に守ってくれた」

「それは」

「そのせいでお前に恥をかかせてしまった。オルコットとのいさかい、ボーデヴィッヒとの確執。元を辿れば全て私の責任だ」

 

 当時の一夏は自分に置ける状況もわからず。とにかくISに関しては無知だった。

 代表候補生とはなに? と聞いたときのみんなのリアクションの意味を今では痛いほどわかる。

 

「俺がISに近づいたら動かせるって。千冬姉はわかってたのか? だからISから遠ざけた?」

「確証はなかったが。お前は束のお気に入りだ。実の妹だからという理由で第四世代を渡す女だぞ。しかも新造されたコアをつけてだ」

「それはまあ」

 

 自分と疾風は日本代表候補生になった。

 だが箒は一時保留という扱いで暫定日本代表候補生。

 それほど紅椿と紅椿のコアは扱いに困る代物なのだ。

 

「私はお前を可能な限りISから遠ざけて守ろうとした。だが今となってはそれは間違いだった。私がお前にしたのは守護ではなく隔離だ。お前は私の弟。遅かれ早かれ巻き込まれることはわかっていたはずなのに」

「千冬姉」

「すまない一夏」

 

 千冬は対面に座る一夏に頭を下げた。

 一夏はこんな千冬を見たことはなかった。いつも傍若無人で、それでいて強い人。

 IS学園でも鬼教師、人の心がないなんて冗談交じりに思ったことはあったが、こんな姉の姿は見たことがなかった。

 

「謝ることじゃないだろ千冬姉」

 

 そんな姉から目を離さず、一夏は言葉を投げ掛けた。

 

「千冬姉がやってたことは全部俺を思ってのことだろ? 俺は別にそれで嫌な気持ちになったことはないし。現に俺いまはなんとかなってるだろ。だから千冬姉が謝ることなんて一つもねえよ」

「………ありがとう一夏」

 

 一夏は確かに優しい。だがそれでも人の子だ。こればかりは不平不満を言われることを千冬は覚悟していた。

 

 それでも一夏は千冬を許した。いや、許すもなにも一夏は最初から不満などなかった。

 千冬にとって一夏はたった一人の家族。

 家族を守るということは至極当たり前のことなのだと一夏は自分にも言い聞かせているからだ。

 

 顔を上げた千冬はしばし押し黙った。

 なにかを言いたげな、だが迷ってるようなふうに。

 そして意を決したのか。千冬の目は一夏の目を真っ直ぐとらえた。

 

「一夏」

「ん?」

「強くなったな」

「………え?」

 

 しばらくして出された千冬の言葉に一夏は耳を疑った。

 

 いま自分の姉はなんと言ったのか。

 もう一度ちゃんと聞きたかった。だが普段突発性難聴だと言われてる自分の耳には確かに強く残っていた。

 

 強くなったな、と。

 

「千冬姉」

「勘違いするな」

「え?」

「確かにお前は強くなった。だが私から見ればまだ殻を破った雛鳥に過ぎん。これからも自分の腕を過信せずに精進しろ」

 

 言い終わった千冬は立ち上がってリビングを後にした。

 

「ち、千冬姉どこに」

「トイレ」

 

 パタン。なんとも味気のない音と共にリビングから千冬がいなくなった。

 

 呆気に取られる一夏だったが。次第に腹の下から沸き上がる情動に身体が震えた。

 

「………よっっしっ」

 

 そして満面の笑顔で小さくガッツポーズをするのだった。





 これにて本当に第六章終了です。

 5000文字ぐらいで終わるかと思ったら倍になった。相変わらず上手く纏めれない私です。

 このあとはそろそろ出そうかと思った設定ページでも出そうかなと思います。
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