IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第七章【更識姉妹(クリスタル・シスターズ)
第85話【男だって着飾りたい】


「ほれセシリア」

「待ってください疾風。まだ心の準備が」

「時間は有限だぞ。それに俺も長引くと、少し恥ずかしい」

「で、ですが皆さん見てますし………」

「諦めろそこは」

「………はい、大丈夫です」

「よし、行くぞ」

 

 妙な緊迫感。それを醸し出しながらもセシリアは決心し。

 

「はい、あーん」

「あーー」

 

 口を出来るだけ大きく開いた。

 

 先日のエムとの決戦で受けた右腕の傷はまだ完治しておらず、利き腕を封じられたセシリアの代わりに俺の箸をかいして刺身を食した。

 

 パクり。

 醤油をつけた刺身を口に入れ。左手で口許を隠しながら租借した。

 

「どうよ」

「美味しいですわぁ」

 

 皆に見られるという状況に流石に照れを見せたが口に入れた瞬間うっとりと刺身を味わうセシリア。

 

「ほれ、次」

「は、疾風も自分の物を食べませんと」

「俺もちゃんと食べるから気にすんな。わさびつけるか?」

「お願いします」

 

 一度目を越えて続く二回目を食べるセシリアはまたも美味しそうに頬を緩ませる。

 

「いいなぁ。疾風くんの完全介護」

「腕の怪我にかこつけて甘えてるだけじゃないの?」

「わざわざ箸を使う刺身なんか」

「ぶっちゃけ羨ましい」

 

 そんな彼女を見ているギャラリーはこちらにギリギリ聞こえてしまうような声で喋り出す。

 バツが悪いのかセシリアは咳払いをした。

 

 セシリアの目の前に広がるメニューはカワハギの刺身定食(本わさび付き)。

 お味噌汁、白飯、きゅうりの漬物、だし巻き玉子と見事に箸オンリーの和食だった。

 

 フォークやスプーンのように利き手ではないほうでも食べられる料理を頼めば良いのにとギャラリーは思わずにはいられない。

 

 だが彼女の名誉の為に言っておくが。

 決してセシリアが俺に食べさせてほしいと画策するためにこのメニューを選んだ訳ではない。

 

 それもこれも『本日限定! 新鮮なカワハギの刺身定食、限定100食!』なる誘惑成分をこれでもかと仕込まれたサプライズメニューが突如として出現してしまったが悪い。

 

 実を言うとセシリア。臨海学校でカワハギの刺身を食べてから味を占めたのか学食でも刺身を注文するようになった。

 だがカワハギの刺身は学食で出ることはなく。一緒にいる時も度々カワハギの刺身が出てほしいと口にしていた。

 あの味をもう一度食べたいと休みの日に遠出して食べに行ってしまうレベルでカワハギの刺身はセシリアの好物となっていた。

 

 そんなセシリアが幸運にもメニュー画面にカワハギ定食が見つけたとなれば食べたいと思うなというのが土台無理な話である。

 普段なら迷わず買おうと思ったセシリアだったが。今は利き手を封じられているためそれを選択するのを躊躇った。

 

 利き手でしか箸を使えない。ならばフォークで刺身を食えば良いのでは? それは何か間違ってる気がすると考えるセシリア。

 そしてこの機会を逃せば次いつカワハギの刺身にありつけるかわからないという板挟みに頭を悩ませていた。

 

 そんな硬直状態を抜け出すために動いたのが俺こと疾風・レーデルハイトだった。

 

「なにセシリア、カワハギ食いたいの?」

「え、ええ。ですがこの腕では箸を使えませんわ。残念ですが、今回は諦めて」

「食えばいいじゃん」

「ですから箸を使えないと」

「俺が食わせてやる」

「え?」

 

 俺の顔を見て固まるセシリア。対して俺は特になんともない顔。

 

「え、それってつまり」

「俺が箸使って食わせてやる」

「ええ!?」

「だって食いたいんだろ?」

「でもそれでは疾風に迷惑」

「迷惑じゃないから。それともカワハギ食べたくなかった?」

「そんなことはありません! でも………」

 

 言いよどむセシリア。

 是が非でも食べたいというのは火を見るより明らか。

 だがこれ以上ここで時間を食えば後ろに並んでいる人にも迷惑がかかる。

 

 なので。

 

「あー間違って二個のボタン押しちゃったぁー!」

「は、疾風!?」

「わっ、手が滑って決定ボタン押したぁっ!」

「疾風!?」

「すまんセシリア。勝手に選んだお詫びに奢るから」

「そういう問題ではないでしょう!?」

「おばちゃーん! カワハギ定食二つ!」

「あいよぉ!」

「ちょっと!?」

 

 とまあこんな事があったわけだよ。

 つまりアプローチをしかけたのはセシリアではなく俺だと言うことだ。

 受付のおばちゃんの景気の良い声とサムズアップは見ててとても気持ちの良いものだった。

 ありがとうおばちゃん。 

 

 しかしこれでセシリアがあらぬ疑いをかけられるのはこちらとしても宜しくはない。

 セシリアの腕を見ればそういう声も無いと思ったが浅慮だったか。

 

 でもセシリアに食べさせたい自分もいるのも確か。

 なんとか切り出せないものか。

 

「おいお前たちさっさと食え。時間は有限だ」

「は、はい!」

 

 そんななか現れたのは我らが織斑先生。

 ヒソヒソ話をする女子をたちまち食事に戻した。流石のカリスマスキルEXである。

 

「わざわざ食べづらいものを頼むか。そんなに食いたかったのかオルコット」

「いや違うんです織斑先生。確かにセシリアはカワハギを食いたかったのは確かですけど。俺が間違って二枚のを押しちゃって」

「そうか。まあお熱いのは結構だが時と場所を考えるように」

「「織斑先生!?」」

 

 違いますよティーチャー! 

 俺たちまだ付き合ってないです! 

 えっ、そういう風に見られてたの? これは喜ぶべき? それとも恥ずべき? 

 

「行きましょうか織斑先生」

「うむ。お前たちも早く食べろよ」

 

 満足したのか織斑先生は山田先生を連れて奥のテーブルに向かっていった。

 そして俺とセシリアは顔が熱いので氷水をグイッと飲んだ。

 

「疾風様。あとは私がセシリア様に食べさせますので」

「あー、じゃあ頼むわ。ごめんなセシリア」

「いえ。ありがとうございます疾風。本当は凄く食べたかったので」

 

 気づけば菖蒲の皿は既に無くなっていた。

 こうなることを予想して食べ終えたのだろうか。

 

 んー。アプローチというのもなかなか難しいな。

 ちゃんと考えないとなぁ。

 

「セシリア様、美味しかったですか?」

「ええそれは」

「ドキドキしました?」

「菖蒲さん!?」

「うわっどうしたセシリア」

「なんでもありません!あっつ」

「おいおいなにしてんだ」

 

 空いた左手で熱々の味噌汁の飲んで自滅したセシリアの為に水を差し出した。

 そんな俺たちを見て菖蒲はクスクスと笑ったのだった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 カワハギ定食を食べきった俺とセシリアはそのまま自室に戻った。

 一夏と一夏ラバーズの面々はそのまま部屋になだれ込んで行った。セシリアのアーンに触発されたのだろうか、みな口許が少し緩んでいた。

 

「そろそろ包帯変えるか」

「ええ」

 

 包帯交換のマニュアルをホロウィンドウで出しながら今ある包帯を解いていく。

 何重にも回された包帯を取っていくと、痛々しかった傷が露になった。

 

「凄いな。もう皮張ってる」

「ナノマシンが優秀みたいですわ」

「だなぁ。一昔前だと有り得ないよな」

 

 ISを解析する過程で生まれた現代の最先端医療技術である医療ナノマシンによる再生治療。

 現在は外科手術で大いに活躍しているスーパーテクノロジー。

 内科手術、例を挙げるなら癌や心臓病に対してはまだ確立していないらしいが。それも時間の問題なのではないかと議題に上がっているらしい。

 

 といってもセシリアに使われてるナノマシンは最新式中の最新式。値段も大層な代物らしい。

 会長に聞いた話、なんでもセシリアの叔母のルクナバルトさんが多額の寄付金と共に「幾らかかっても構わないから最短でセシリアを治せ」と言ってきたらしい。

 あの人やっぱ過保護の気あるよな。

 

 とまあ、その恩恵もあってセシリアの腕の怪我は数日後に完治するそうだ。

 

「はい終わり。痛くない?」

「大丈夫ですわ」

「それは良かった」

 

 よしミッションコンプリート。

 事前に虚先輩と練習しておいてよかった。

 

「セシリア、お茶入れようか?」

「お願いします」

「茶葉は?」

「お任せします」

 

 本来ならセシリアが入れるが彼女は今満足に作業出来る身体ではない。ので、俺が入れることに。

 

 しかしお任せか。じゃあパッと目についたこれにしようか。

 お茶うけはこの前買った缶クッキーでいいか。まだあったかな。

 

 さて紅茶を入れよう。

 毎度のことながら紅茶を入れる時は緊張する。なんせ相手が相手だし。

 

「疾風」

「はいよ」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫ヨ」

 

 とりあえずガチガチでやっても仕方ない。リラックスして入れるとしよう。

 飽くまで美味しく入れることを前提に。

 

 水を入れて沸かす。前にポットとカップを温めておこう。

 

 沸騰直後になったら下ろす。早すぎても遅すぎても駄目。お湯の温度で味が変わると知った時は驚いた。

 さっきポットとカップを温めておいたのはその為。

 

 温めたポットに茶葉を投入。沸いたお湯を勢いよく入れる。勢いよく入れたら茶葉が舞うんだとか。

 そして直ぐに蓋をして蒸らす! 

 蒸らす時間はこの茶葉だと3、4分だな。茶葉大きいし。

 

「あ、やばっ、ティーコゼー出してねえ」

「はいどうぞ」

「あ、どうも」

 

 おろ。いつの間にか隣にセシリアさん。

 左腕しか動かせないのにお手数おかけします。

 

 ポットの上からティーコゼー、ポットを保温する為の布製のカバーを被せる。

 上手い紅茶を入れる時の便利アイテム。

 温度を下げないのがポイント。これをすると紅茶はより美味しくなる。らしい。

 

 ピピピピッ。

 

 タイマーがなった。

 蒸らしが終わったのでポットの中をスプーンで一混ぜ。これ以上はいけない。混ぜすぎると確か苦味が出るんだっけ? 

 

 茶漉しで茶葉を漉しながらカップに注ぐ。

 数回に分けて入れて………終わり。

 

 美味しい紅茶を入れるのは結構手間がかかる。慣れないと精神的疲労が来る。ISの操縦なんかより気を使う。

 

「どうぞお嬢様」

「ありがとう」

「ではっ」

 

 いただきます。

 カップを口許に持っていくと鼻腔をくすぐる良い香り。

 恐る恐る熱めの紅茶を飲む。

 

 美味い………けど。

 

「セシリア、どう?」

「まあ。及第点ですわね」

「だよなぁ」

 

 美味しい紅茶だと思う。だけどセシリアや虚さんが入れるのと比べるとやはり見劣りする。

 

「やっぱ簡単にあの味は出せないなぁ」

 

 実を言うと何回もトライしてはいる。

 最高に良い状態に仕上がったのはレモンドリズルケーキを作った時に入れたアレぐらいだ。

 

 生徒会のお茶汲みでも手伝うついでに学んでたりしたのだが。

 紅茶の道は一日にして成らず。まだまだ修行中の身でございます。

 

「お前と離れる前に美味い紅茶入れてやりたかったけどな」

「その気持ちだけで充分ですわ」

「優しいなあセシリアは」

 

 セシリアと離れる。

 

 学園祭のシンデレラで紆余曲折あった末の結果であるセシリアとの期間限定同居も、あと一週間に迫っていた。

 

 セシリアとISの理論談義は心が踊った。

 一緒に住んでいたからこそ初めて見つけたセシリアの知らないとこも少なくはない。

 一緒に過ごしていくうちに変化、自覚した俺のセシリアへの気持ち。

 

 とても居心地が良かった。

 願わくばまだ一緒に過ごして行きたいと思える程に。

 

「寂しいですか?」

「うん。寂しくなる。離れたくないな」

 

 変に誤魔化すことなくストレートに答えてやるとセシリアは紅茶を飲んで頬の赤らみを誤魔化した。

 

 やっと気づけた恋心。

 これからどうアプローチし、彼女の真意を見極めようかと思ったのだが。

 如何せん時間が無さすぎる。だからといってこうを急いでは元も子もない。

 強引に迫るなんて事をしたらいつぞやのハーシェルみたいなエセ金持ち野郎と大差変わらない。

 別に学園でいつでも会えるのだから焦りは禁物だ。

 

 菖蒲が俺にしたように思いきって告白し、自分の想いを気づかせて更にアプローチをしようか。と考えたこともあったが。

 

 無理だ。

 

 もしそれで拗れるなんてことがあったら、正直言って死ねる。

 菖蒲は凄い。ほんと凄い。ほんとリスペクトする。あいつは本当に凄い奴だ。

 

 異性へのアプローチ。一夏ラバーズや菖蒲を見てある程度分かったつもりでいたが。

 女性から男性。男性から女性となるとやり方が異なる。

 

 どうしたもんか。せめてあと一週間の間でなにか変化をつけたいが………

 そもそもセシリアの好みの男って。

 

「疾風、どうかしましたの? 凄い難しい顔してますけど」

「ああ。セシリアの好みの男について考えてた」

「はい?」

「はい?」

 

 ん? あれ? 

 あれっ!? なんか凄まじいこと口走らなかったか俺。

 

「えっと疾風」

「いやその………セシリアは男らしい人が好みって聞いたのを思い出してさ。それの基準とかなんかあるのかなぁって。だって縁談とかパーティーとかでそういう申し付けとかあるのに全部断ってるだろ? ていうことはそこら辺の価値観というか、そういうのあるのかなぁって」

「成る程。そういうことですか」

「うん、そういうこと」

 

 あっぶねー! 

 ナイス機転! ナイス俺! 

 今ほど自身の頭の回転力に感謝したことないぜ! サンキューマイブレイン!! 

 

「そうですわね」

「うん」

「わたくしとしては情けない男性とは絶対にお付き合いしませんわね。どんな逆境にも挫けず、そして志の高いお方が理想かしら」

「逆境に負けず、志の高い」

 

 ………果たして俺ってそのジャンルに当てはまってるだろうか。

 逆境には負けない的なのはあると思う。

 けど志が高いとなると………セシリアみたいな貴族系だとハードルやばい気がするぞ。

 

 大丈夫か俺。セシリアの守備範囲に入れてるかな。

 

「そうだ。容姿とかって気にする?」

「特には。人並みであれば」

 

 よしっ! イケメンの方が良いと言われたら俺死んでた!! 

 

 俺は机の下で小さくガッツポーズをする。

 

「そうですわ。わたくしが言ったのですから次は疾風の番ですわ」

「ほあ?」

「まさかわたくしに言わせて終わりという訳ではないでしょう? 次は疾風の好みの女性について話してくださいまし」

 

 お前だよ!! 

 と言えたらどんだけ楽かな。

 

 まさか俺がこんなラブコメ定番ワンフレーズを叫ぶとは思わなかったぜ。

 

「えーっとまず。俺のIS好きに理解がある人」

「大前提ですわよね。あなたの場合」

「まあなぁ。あとIS関連の高度な会話が出来るとなおよしだな」

 

 因みにこの二つはセシリアはバッチリクリアしている。

 アリーナの練習中に論理議論をしていたところ一夏と箒に「お前たちが話してるの日本語?」と聞かれたことがある。

 

「性格が良いのは大前提。ほんと今時の女性の半分は性悪ばっかで。内面の醜さが外見にも出ると最悪」

「要するに女尊男卑思考の人でしょう?」

「それだ」

 

 ほんと内面で損してる奴がこの世には多すぎてゲンナリする。

 前回の大掃除でIS学園も居心地が良くなった。

 

「外見は」

「ぶっちゃけると。外見より中身を重視するから俺も人並みかそれ以上。美人ならなおいいけど、贅沢は言わないかな」

「成る程」

 

 お前はそこら辺が裸足で逃げ出すレベルの絶世の美女だがな。

 だがそれをそのまま言ったら「理想高すぎて引きますわ」と言われかねん。

 

 恋は駆け引き、惚れた方が負けとは良く言ったもんだ。

 一時の展開で総崩れなんてシャレにならん。

 

「因みに」

「はい」

「セシリアから見て俺の容姿はどの辺りでしょうか」

「えっ?」

「いや客観的な知っておきたいというか。顔は変えようがないから身だしなみとか変えれるとこを変えたいなとか」

「わたくしはそのままの疾風で良いと思いますが」

「そう? ありがとうセシリア」

 

 そう言ってくれるのはありがたいが。それでもカッコよくなりたいのが男のさが。

 我ながら漠然としてるな。どうしたもんか。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「で? 疾風はイメチェンがしたいと」

「んむ」

 

 後日休日の昼下がり。

 鈴とシャルロットを誘ってカフェに。

 

「でもどうしたの? 僕から見た疾風はそこまでオシャレに気を使ってる風には見えなかったけど」

「思いの外ガッツリ言うのね。まあその通りなんだけどさ」

「どんな心境の変化よ」

「俺も晴れて代表候補生だからな。少し見直してみようかなと」

 

 嘘である。

 代表候補生だけなら今まで通り通そうと思っていたが。

 なんというか。カッコいい男として周りから見られたい。モテたいとかそういうのじゃなくて、純粋に。

 いや出来ればセシリアにカッコいいと思われたい。

 

「俺は一夏と違って顔が平凡だから少しでも個性をつけたくてさ………フッ」

「自分で言って自分で傷ついてんじゃないわよ」

 

 だって俺の容姿平凡中の平凡だもん。

 デフォルトっぽい外見にオプションで眼鏡つけたような感じなんだもん。

 

「でも学園祭の時にプチブレイクしたのを鑑みるに。俺ももしかしたら磨けばそれなりに輝けるんじゃないかって思ったのよ」

 

 飽くまで希望的観測だけど。

 

 ということなので。俺的にファッションに詳しいと思った2人に白羽の矢かたったということだ。

 鈴は代表候補生としてファッションモデルの経験があり。シャルロットは素でセンスが良い。

 

「手っ取り早いのは眼鏡を外すとか」

「無理、絶対無理。コンタクトレンズなんて無理よ無理」

 

 一度やろうとしたことがあったが、目にレンズをいれようとする段階で恐怖で身体が拒絶し、断念した中学中期の青き記憶。

 

「あと服かな」

「ISの制服改造すべき?」

「いや私服よ私服。外用の服なんか持ってないの?」

「上はシャツかパーカー。下はジーンズ」

 

 とにかく無難で機能性と着心地を優先していた。

 柄も無地かチェック柄。色は灰色か青。

 今時の若者が来てるような特徴的なもの(ドクロとかそういうの)とかダメージジーンズなんて持ち合わせていない。

 

「もっとこう。なんか特徴的なもの買った方がいいのかな」

「特徴的なものって?」

「わからん」

「疾風的にはどういう観点で行くつもり?」

「観点?」

「オシャレって一口に言っても色んな種類があるし。疾風はどういう方向性でコーディネートしたいのかが重要だと思うな」

「あんた風に言えばISのコンセプトみたいなもんよ。高機動型ならこれ、砲撃型ならこれとか」

 

 理解した。

 服と一口に言っても様々なジャンルがある。

 軽く出掛けるようとかデート用とか。

 

 俺のコンセプトは。

 

「セシリアの隣に立っててもお似合いと言われるぐらいのクオリティ」

 

 ここは包み隠さずに言った。

 

 セシリアの横に居るにも関わらず連れと認識されないことが多いのは服装があまりにも普通過ぎるからだと思う。

 顔もあるだろうけど。

 

 それでもセシリアと一緒に居ても雰囲気があってるような。そんな感じのが良い。

 

「セシリアの隣か」

「ハードル上げすぎかな」

「そんなことないよ。それだとこういう落ち着いた色味とかが良いかな?」

「アウターってのもあるのよ。知ってる?」

「アウターとな?」

 

 そこから時間は恐ろしいぐらい早く進み、ファッション談義は気づいたら1、2時間の長丁場となっていた。

 

「くふっ」

 

 気づけば俺は机に突っ伏していた。

 ファッション、オシャレと口にするには簡単だがいざ突き詰めるとなかなか奥が深い。

 

 とにかく普段使わない脳領域をガッツリ使ったような。そんな疲労感が全身に回っていた。

 

「いやー話したわねぇ」

「大丈夫疾風?」

「糖分が欲しい」

「大丈夫そうね」

 

 俺とは対照的に心なしか鈴とシャルロットの肌がツヤツヤしてる気がする。

 途中俺のファッション談義から鈴とシャルロットの対一夏ファッションについて話した気がするけど。ぶっちゃけそこら辺はよく覚えていない。

 

「とりあえず重要なとこはメモした。ありがとう2人とも、とても勉強になった。あとはネットの画像とか、実際に行ってみて漁ることにするよ」

「店員さんに聞いてみるのも手だよ」

「その店員がミサンドリーじゃないことを祈る」

「身も蓋もないわね」

 

 身も蓋もないね。

 

 さて、少し休んだらIS動かそう。

 まだ今日動かしてないから。

 

「そうだ疾風。服の他にも出来るオシャレもあるんだよ。直ぐには出来ないけど」

「んー?」

 

 シャルロットの端末に写された写真を見てみると………

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「髪を伸ばす?」

「うん、イメチェンしようかなって」

 

 シャルロットに見せてもらったのはメンズのヘアーカタログだった。

 色々見ていくうちに目に止まったのが。

 

「少しだけ伸ばしてポニテとか1本結びとか。俺顔がド平凡だから髪型とかで個性出そうかと」

「………成る程」

 

 あれ、なんか反応悪い。

 分相応なオシャレは愚の骨頂とかそういう感じ?

 

 我ながら思いきったと思ったのだが。 

 

「やっぱやめようかな」

「え、どうして?」

「いや。お前が似合わないと思う格好になりたくないし。身の程を知れって感じだな。反省」

「そんなことありませんわよ」

「お世辞はいいぞ」

「本当です!」

「本当に?」

「ええ! 新しいことにチャレンジすることは素晴らしいことですわ!」

 

 おお今度は凄い押すね。

 セシリアの感情スイッチがわからん。

 

「しかし意外ですわ」

「なにがよ」

「疾風ってそういうとこ無頓着な部類だと思ってたので」

 

 うぼぁ。

 シャルロットに言われる前にもわかってはいたが、セシリアから改めて言われると刺さるものがあるな。

 実際服なんて着れればどうでも良いみたいに思ってたし。

 ついこないだまではそう思ってたさ。

 

「この前、ウォーターワールドでお前が言ってくれたよな『周りがなんと言おうと、自分が誰と一緒に居るかは自分が決める』って」

「ええ」

「でもね。俺だってお前の隣に立って遜色ないような男になりたいんだよ」

「………」

 

 ………我ながらくさいこと言った。

 うわっ、なんか一気に恥ずかしくなってきた。

 割りと告白まがいにとらわれかねないんじゃないか。

 

 攻めすぎだな俺。

 

「そうですか。そういうことなら応援しますわ」

「ありがとう」

「よろしければ今度一緒に服を買いに行きましょう?わたくしにも心得がありますので」

「マジで?」

 

 セシリアと一緒にか。

 てことは否応なしにセシリア好みのコーディネートが出来るということでは? 

 

 てか擬似的にショッピングデート気分にもなれる? 

 

 なんたる僥倖。

 

「じゃあ頼みますセシリアさん」

「お任せを」

 

 よしっ、幸先良いスタートじゃないか。

 

 髪は直ぐには伸びないから、今のうちにロングの手入れについて情報収集しとくか。

 

(疾風は今でも充分カッコいいのにこれ以上? ………うっ、自分でも恥ずかしいこと考えちゃってますわ) 

 

 セシリアは疾風のイメチェンした姿を想像して一人顔を火照らせた。

 

 そんな彼女に気づくことなく俺はスマホで髪の手入れについて調べたのだった。

 

 





 文にもあるとおり疾風の生殺与奪の権利はセシリアが握ってる説。
 書いてみると押せ押せなのかそうじゃないのかわからないアプローチをする疾風くんになった。
 あまずっぱい。
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